2009/09/22 09:46
テーマ:創作の部屋
カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)
創作の部屋~朝月夜~<43話>
なぜ、ひと言・・・声をかけてやることができなかったのだろう。
乱暴なことをして悪かった・・・と。
まるで武勇伝を語るように、女たちとの情事を話す奴等をいつも冷めた目で見ていたじゃないか。
力づくで女と関係を持った男たちを軽蔑していたはずじゃなかったのか。
女々しいと罵られ、「日本人」と言う言葉にうろたえて我を失った。
いや・・・そんなことは言い訳に過ぎない。
男の勝手な言い分でしかない。
僕は何かに衝き動かされるように、拒絶の言葉を叫び続けるマリーを力づくで押さえ込んだ。
そして、愛情のない卑劣な行為に及んだ。
最低の男だ・・・。
二の腕と肩に残された爪痕。
熱い湯が刃となって、突き刺さる。
シャワーの飛沫を浴びながら、自分の犯した罪の深さを思った。

シャワー室を出ると、携帯電話が鳴っていた。
「キム監督ですか?オフの日に電話してすみません」
電話の相手は、後輩のジェウォンだった。
「申し訳ないんですが・・・。今からこちらに来ていただけません
か?」
ジェウォンは、本当に申し訳なさそうに言った。
「現場か?トラブったのか?」
「いえ・・・そうじゃなくて・・・。生まれそうなんです・・・」
「生まれそう・・・って?子供か・・・?」
ジェウォンには、臨月の妻がいたことを思い出した。
「はい・・・もうすぐ・・・」
「早く行けよ!今すぐそっちに向かうから」
「すみません、よろしくお願いします」
「元気な子が生まれるように祈ってるよ」
すみません・・・と、電話の向こうで何度も頭を下げるジェウォ
ンの姿が浮かんだ。
子供か・・・。
あの時の子が順調に育っていたら、自分も今頃、父親になっ
ていたはずだ。
ユキは、どうしているだろうか・・・?
今もひとりでいるだろうか・・・。
それとも、最後の電話で語っていた「父の側で、一緒に畑を守
ってくれる人」とめぐり会っているだろうか。
日本中を死に物狂いで探せば、再び会えたかもしれないの
に。
拒まれることが怖くて・・・探すこともしなかった。
だからと言って、忘れたわけではない。
僕以外の男と幸せを築いて・・・と、願う余裕もなく、今も変わら
ず、心はユキを求めて彷徨っている。
女々しいと言われて当然の男なのだ・・・。

3日後、僕はマリーの店に行った。
どうしてもひと言、謝りたいと思ったからだ。
しかし、店の中を見回してもマリーの姿はどこにもなかった。
「あんた、あの晩の人・・・だよね?」
カウンター越しに中年の男に話しかけられた。
「マリーはいないよ。もう3日も来てない。こんなことは初めて
だ」
男は、僕の反応を窺う口ぶりで言った。
「心が風邪をひいたんだとさ・・・何を言ってるんだか」
男はグラスを磨く手を止め、「あの晩、何かあったのかい?」
と、僕に聞いた。
男の問いかけには答えず、僕は店を出た。
「謝りたい」という思いは、「謝らねば」と言う思いに変わってい
た。
マリーは部屋にいるだろうか・・・。
恐る恐るチャイムを鳴らすと、化粧っ気のないマリーが顔を出
した。
「何?何の用?もう二度と会いたくないって言ったはずよ」
「ひと言謝りたくて・・・」
僕は、マリーが閉めようとしたドアを押さえた。
「何の真似?大声出すわよ!」
「申し訳ないことをした・・・」
「申し訳ない・・・?一応、自覚はあるんだ?」
「だから、こうして謝りに来た」
「誰のために?」
「誰の・・・って・・・」
「自分のためでしょ?自分を慰めるために・・・最低!」
「すまなかった・・・悪いことをしたと思っている」
「許すと言ったら、気が済む?なら・・・言ってあげる。何もなか
った・・・これでいい?」
僕は返す言葉がなかった。
マリーは勢いよくドアを閉めると鍵を降ろした。
閉ざされたドアを見つめたまま、僕はその場にしばらくの間、
立ち尽くしていた。

謝罪することで、罪の意識が少しでも軽くなることを望んでい
た・・・?
確かにそうかもしれない。
謝罪の言葉を口にして、己を満足させたかったのだ・・・と、マ
リーに指摘されて気付いた。
僕がマリーにしたことは、許されるはずのないことなのだ。
それなのに、わずかな期待を抱いてここに来たことが、恥ずか
しい。
階段を下りたところで、天を仰いだ。
数個の星が冬の夜空で、静かに瞬いていた。
コンクリートの廊下を走る細いヒールの靴音。
その音が階段を下り、僕の背後で止まった。
誰だ・・・?
振り返る間もなく、音の主は僕を背後から抱きしめた。
「忘れると言って・・・。終わった恋は、もう忘れると約束し
て・・・」
腰に回されたマリーの腕は、さらに強く僕を抱き寄せ、高鳴る
胸の鼓動が、僕の背中で響いていた。
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