2008/02/01 08:11
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)④・・・こちらは戯言創作の部屋。

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「キムさん・・・キムさん・・・」

キムさん~!と、肩を叩かれて振り向いた。

「考え事でもしてましたぁ~?何度も呼んだんですよ~」

O氏と別れて、ナースステーションの前を通りがかった時だった。

肩を叩いたのは、若いナースだった。

そうだった・・・彼は、キム・インスと言う名前だったんだ。

その彼に付き添っているから、彼女は、私を「キムさん」と呼んだのだ。

「ちょっと、いいですか?」と、若いナースは私をナースステーションのカウンターへと導いた。

「退院は明後日でいいですね?先生が、あと、二晩、病院のベッドでゆっくりしたら、体力も回復するだろうって。入院費の清算は・・・」

ちょっと待ってください・・・と、私はナースの言葉を制した。

私は、単なる付添い人であって、彼の身内ではない。

彼の体力だの、入院費だのは、私の踏み込む範疇ではないと思った。

事の成り行きをこのナースに話しても意味がないように思えて、「彼と直接話してください」とだけ私は言った。

                                     

病室に戻ると、窓辺に立って外を見ていた彼が振り返って、「朝ごはん、おいしかったですか?」と聞いた。

「ええ・・」と私は答えながら、彼の手の中に携帯電話があることに気が付いた。

きっと、奥さんに連絡したんだわ・・・私は当然のことだと思った。

「ユキさん・・・」と。彼が初めて私の名前を呼んだ。

仕事中も、「通訳さん」とか「あの・・・」とか、名前を呼ばれた記憶はなかった。

知っていることが意外で、私は、つい、どうして私の名前を知っているのかと、不躾な質問をしてしまった。

「Oさんに、あなたのことを何と呼んだらいいのか、尋ねたら、ユキさん・・・と、教えてくれました」

初対面の時の自己紹介で名乗った名前を、彼が憶えていてくれたのではなかったことに私は、少しがっかりした。

「ユキさんは、ここにいて大丈夫なんですか?」

彼は、私が家に帰らず、ここにいることをやはり気にしていたのだ。

「私は、ひとり暮らしだから、待っている人はいないの。それより、早く元気になって、帰らないと・・・。あなたには待ってる人がいるでしょう?私のことは気にしなくていいから。こういうのを日本では《乗りかかった船》と言うのよ」

私は、冗談めかしてそう言った。

「乗りかかった船」と言う日本での古くからの言い回しが、通じたかどうか解らないが、彼は、「すみません・・・」と、本当に申し訳なさそうに呟いた。

私より年長の彼が、その時は年下のように思えた。

                                     

朝の回診の時に、先程、ナースステーションで私に尋ねたことと同じことを担当のナースが彼に聞いた。

私は、それを通訳して彼に伝えた。

病院では、予約をすればシャワー室を利用することができた。

午前中は、自力で入浴可能な患者。

午後は、介護を必要とする患者、と決まっていた。

今朝の回診の時に、どうしますか?とナースに尋ねられて、彼は、明日の10時を希望した。

終了したコンサートのことや、他愛もない話しをしているうちに時刻は正午になろうとしていた。

旅先での入院と言うこともあって、彼は、病院から、貸与されたパジャマを着ていた。

しかし、下着類はそういうわけにも行かない。

O氏が持って来てくれたバッグの中に数枚の下着は入っているだろう。

だが、せっかくO氏から自由に使ってくださいと預かったものがあるのだから、彼に新しい下着を買ってこようと私は思い立った。

そのことを彼に話し、ついでに昼食を済ませてくると言って、私は病室を出た。

                                        

外はすっきりと晴れていた。

駅前の大型スーパーの下着売り場に着いて初めて、私は彼の下着のサイズが解らないことに気が付いた。

サイズだけではなく、紳士用下着も様々なものがあり、彼がどのタイプの下着を愛用しているのか、それも解らなかった。

売り場の店員に尋ねると、「Lサイズ」が、無難であると言うことと、彼の年齢から言って、最近の若者が好むタイプのものを薦めてくれた。

店員は最初、「プレゼントですか?」と私に聞いたが、プレゼントの品として男性用の下着を選ぶ女性がいるのだろうか?

父の下着さえ買ったことのない私には、想像もつかないことだった。

スーパーの最上階の喫茶店で昼食を済ませると、先程、駅前を通りかかった時に目に留まったホテルに向かった。

玄関を入ると、黒いスーツを着た従業員がにこやかに迎えてくれた。

私は、正面の受付カウンターで、シングルルーム、2泊の予約をした。

ふた晩くらい、病室のソファで寝ることは構わなかったが、付きっきりでいるほど彼は重病ではない。

無造作に詰め込まれたバッグの中を片付けたかったし、ゆっくりとシャワーの湯を浴びて眠りたいと思った。

それにも増して、彼が気兼ねするだろうと言うことが何より気になった。

何をしても「すみません・・・」と、申し訳なさそうに言う、彼の顔が浮かんだからだった。

 

 

 

 

 


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