2008/02/28 20:26
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑦・・・こちらは戯言創作の部屋。

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昨夜、電話で聞いた彼の声は、かつての恋人Kにそっくりだった。

そのせいか、ここ数年、忘れようとしていたKのことが思い出されて、ゆうべは眠れなかった。

洗面所の鏡の前に立つと顔色のよくない私が映った。

トイレで用を足し再びベッドに潜り込んだ。

7:30・・・彼はもう起きているだろうか。

なんとなく体がだるい・・・。

熱いコーヒーが飲みたい・・・。

そう思いながら、またうとうとと眠ってしまった。

                                  

目覚めた時には、昼に近くになっていた。

病院の面会時間は、原則として15:00~20:00と決まっていた。

諸事情を考慮して、病院側もうるさくは言わなかったが、特に介護を必要としない患者の家族は面会時間を守るようにと入院の際に、一応の注意は受けていた。

それは患者の静養を第一に考える病院の方針でもあった。

どこかで、昼食を済ませて、それから病院に行こう。

彼は私がついていなくても何でも自分でできるんだし・・・と、言い訳染みたことを思った。

ホテル内のカフェで、熱いコーヒーを飲んでやっと目覚めた気がした。

サラリーマンらしき男性と、若い女性が入ってきて、私の斜め向かい側に席を取った。

昼休みのランチタイムなんだろうか。

女性は、コートの下に若草色のセーターを着ていた。

その鮮やかな色を見て、セーターとブラウスを買おうと思っていたことを思い出した。

彼にも何か買っていこうか・・・昨日はケーキだったから、今日は果物でも・・・。

そう思いながら、カフェを出ると、外は冷たい北風が吹いていた。

               

婦人服売り場には、気に入ったものが見つからず、私は、東側の専門店街に行ってみることにした。

昨日の洋菓子店と同様、どの店も、もうすぐ訪れるバレンタインデーの雰囲気に包まれていた。

おそろいのジーンズと色違いのセーターを着たカップルが、ポスターの中で、いかにも幸せそうに笑っていた。

店内には色とりどりのセーターがディスプレイされていて、私は、薄黄色のセーターを買うことに決めた。

デザイン的には胸にワンポイントがあるだけの地味なものであったが、黄色いバラ・・・レモンシャーベットを連想させてとても気に入った。

胸のマークは、このお店のブランドを表しているものなのだろうか。隣の紳士コーナーにも、同じマークのセーターが並んでいた。

彼は、どんな色が好きなんだろう・・・。

雪まじりの冷たい風が吹いている福島空港の様子が浮かんだ。

              

病室の前まで来ると、賑やかな笑い声が聞こえてきた。

ノックをして中に入ると、あの中年のナースと、若いナースが、笑顔で彼のベッドの脇に立っていた。

私の姿を見た中年のナースが「お待ちかねの人がやっと来たわね」と、彼の肩をたたいた。

中年のナースは、「今日のお土産はなに?」と、私が右手に下げていた紙袋を見て言った。

紙袋をとっさに後に隠した私に、「秘密なの?」と言って明るく笑うと、「さあ、仕事!仕事!」と、若いナースを促して出て行った。

急に静かになった病室で、間が持てなくなった私は、「お風呂に入りましたか?」とつまらないことを聞いた。

彼は、「はい」と返事をしただけで、また沈黙が続いてしまった。

話す言葉も見つからず、彼のために買ったセーターを差し出すきっかけも逸してしまった。

私は、窓辺に寄ると、「冷たい風が吹いています」と言った。

彼が、ベッドから降りる気配がした。

彼は私の傍らに立つと、やはり外を眺めながら、「空港周辺は雪が降っているでしょうか?」と聞いた。

「多分・・・」と私は答えただけで、窓ガラスに映った背の高い彼を見ていた。

カフェで見かけた女性のセーターの色が鮮やかだったこと。

街は、バレンタイン一色になっていること。

セーターを2枚買ったこと。

話すことはたくさんあるはずなのに、今は何も言わず、このまま眼下を行きかう人たちを黙って見ていたいと思った。

               

「今日は、ここに来るのが遅かったけど、何かありましたか?」

彼は、窓辺から離れて、ベッドに腰掛けながら言った。

寝坊しました・・・とも言えず、「買い物をしていました」と私は答えた。

そして、彼のセーターが入った紙袋を差し出した。

彼は一瞬、えっ・・・?と言う表情を見せたが、「開けてもいいですか?」と私に聞いた。

私は、「ええ・・・」と答えながら、彼が紙袋から出した箱を見て、「あっ・・・!」と思わず声をあげてしまった。

「いえ・・・なんでもありません」と言いながら、私は顔が赤くなるのを感じていた。

セーターの入った箱を包んでいた包装紙は、いかにもバレンタインのプレゼント、といった感じの派手な模様のものだった。

おまけに、「Love you。。。」なんて文字がハート型のシールの中で光っていた。

あの時・・・会計の際、レジの女性は、私にプレゼントですか?と聞いた。

確かに私は「はい」と答えたが・・・。

手渡された紙袋の中身がこんなことになっているなんて・・・。

             

彼は、ワンポイントがついただけのシンプルな紺色のセーターを手に取って、「ありがとう。気に入りました」と言った。

気に入ってもらえたんだ・・・という安堵感よりも私の頭の中には、さっきの「Love you。。」の文字がひたすら揺れていた。

彼が妙な誤解をしたらどうしよう。

「福島空港の辺りは、寒いと思って・・・」

言い訳が口を突いて出た。

「奥さんには、私からもらったこと・・・内緒にして下さい」

言った直後にものすごく後悔した。

そういう台詞こそが、もっとも誤解を招く台詞なのだと気がついたからだ。

 


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