2008/03/08 15:40
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑧・・・こちらは戯言創作の部屋。

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長い間、不在だった夫が帰宅して、その荷物を解きながら、妻は聞くだろう。

「あら・・・このセーターどうしたの?」

半ば、自慢げに女性からのプレゼントだと答える夫。

事の成り行きを詳細に説明して、仕事仲間にもらったのだと言う夫。

自分で買ったのだと嘘をつく夫。

何も答えない夫。

返答の仕方は、その男の心持ちと、贈り主との関係により違う。

彼は、どう答えるだろうか・・・。

広げたセーターを丁寧にたたんで、箱に戻している彼を見ながら思った。

 

しかし、どの姿も思い浮かべることができなかった。

入院すると決まった時、「家族に連絡しますか?」と私は聞いた。

その時の「いいえ・・・」と言った彼の顔。

O氏の「晩飯は、コンビニの弁当の時もあるようで・・・」の言葉。

わずかな素材が邪魔をして、円満な夫婦の様子が思い描けないでいるからだ。

夫が持ち帰った荷物を解く妻に代わって、汚れ物を洗濯機に放り込む彼の姿が浮かんだ。

しかし、そんな思いは、無関係な他人の勝手な想像でしかなく、もっと深いところで、信頼し合ってる夫婦なのかもしれない。

               

セーターの入った箱をしまう為に立ち上がった彼に、「明日のチケットは大丈夫ですよね?」と、念を押すように私は聞いた。

彼は、それには答えず、「コーヒーを飲みに行きませんか?」と私を誘った。

一階の食堂は、患者とその家族で、ほぼ席は埋まっていた。

私は、彼が病室を出る時に、タバコを掴んだことに気が付いていたので、「外に出ましょうか?」と言った。

紙コップに入ったコーヒーを持って外に出ると、病院に来る時に吹いていた冷たい風は止んでいた。

陽だまりの中のベンチに腰を下ろすと、彼は、「タバコを吸ってもいいですか?」と言った。

私は「ええ・・」と答えながら、先程と同じことをもう一度、彼に尋ねた。

「帰国便は何時ですか?それによって、病院を出る時間を決めないと・・・退院の手続きもあるし・・・」

おそらく、退院の手続きなどは、お金の清算をしてサインをすれば済む程度のことで、さほどの時間は、かからないだろう。

それでも、出発時間を確認しておかないと、明日の朝、何時に病院に来たら良いのか解らない。

 

「出発時刻は・・・12時です。ユキさん、一緒に行ってくれますか・・・?」と、彼は言った。

福島空港まで彼を送り、無事に帰国させることは、O氏とも約束したことだ。

「もちろん、一緒に行きます」と私は答え、明日の道程を考えた。

宇都宮から、新幹線に乗って・・・と。

ところが彼は意外なことを言った。

               

「明日の朝、9時に駅に迎えの車が来ます」

福島空港は、特定のタクシー会社と契約を結んでおり、新幹線の各駅から、空港まで、「乗り合いタクシー」で行くことができた。

所要時間は、約一時間半。料金は、新幹線と変わらないと彼は、言った。

私はその様なシステムがあることをまったく知らなかった。

「福島空港までの一番楽な方法は・・・?と聞いたら、空港の人が親切に教えてくれました」と言って、彼は笑った。

笑った彼の横顔は明るかった。

 

今日、病室で、若いナースに韓国語を教えてあげたこと。

病院の浴室のすべての表示が日本語で、慌ててしまったこと。

明日のお天気のこと。

私たちはとりとめのない話しをして、小一時間をそこで過した。

今日の彼は、いつになくよく話した。

やはり、明日、帰国と決まるとうれしいのだろうと私には思えた。

病室まで、彼を送る途中、ナースセンターに立ち寄って、明日の予定を話すと、「それでは、朝、一番で会計処理をしましょう」と言うことになった。

そのことを彼に話し、「明日の朝、8時半までに必ず来ますから、それまでに荷物をまとめておいて下さい」と、言って、私は病室をあとにした。

               

外は薄暗くなりかけていた。

帰り道のコンビニで、サンドイッチとサラダとお茶を買い、万が一のことを考えてATMコーナーで、現金を引き出した。

万が一とは、入院に要した費用のことだった。

「持ち合わせはありますか?」

入院費について、彼にそう聞くことはとても失礼なことに思えて聞けなかった。

O氏から、預かったお金は、昨日、彼のために下着を買っただけだったので、封筒の中には10万円近いお金が残っていた。

これを今日、彼に渡すべきだったと、私は思った。

 

ゆうべと同じ様に、ホテルの自室で簡単に夕食を済ませ、シャワーを浴びてテレビを見ていた。

彼と一緒にいる時は忘れていたが、今朝、感じた気だるさを、わずかだが私は再び感じていた。

ゆうべ、ベッドにも入らずうたた寝をしたことが悪かったのだと思い、今夜は早めにベッドに入ろうと思った時、携帯の着信音が鳴った。

「ユキさん・・・」

聞こえてきた声は、昨夜と同じものだった。

「今日は、セーターをありがとう。お礼の言葉が上手く言えなくてすみませんでした」と、彼は言った。

大げさに喜んで見せる風でもなく、気のきいた台詞が言えるわけでもない。

そんな自分自身の性格を彼は解っていて、気にして電話をかけてきたのだと思った。

「そんなこと、気にしないで下さい」と私は言った。

「明日は・・・ヨロシクオネガイシマス」

最後の言葉を彼は日本語で言った。

「どこで覚えたんですか?」と私が聞くと、彼は「今日、病院で教わりました」と答えた。

どうやら、あの中年のナースに「挨拶の言葉くらい覚えなさい」と、言われたようだ。

携帯を握りながら、はにかむ彼の顔が浮かんだ。

今日、私が病室の前で聞いた笑い声は、そんなやり取りの中でのものだったのだ。

               

「遅刻しないように行きますから・・・おやすみなさい」と言って、電話を切ろうとしたら、再び彼が「ユキさん・・・」と言った。

「ユキさん・・・アイヅ・・・」

彼は何か言いかけたが、「おやすみなさい」と言って、電話はそれっきりになった。

アイズ・・・合図?彼は、そう言ったような気がする。

韓国語にそんな言葉があっただろうか・・・と思ったが、解らなかった。

翌日、彼の病室に行って、私はその言葉の意味にやっと気が付いた。

 

 


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