2008/12/12 13:23
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)№24・・・こちらは戯言創作の部屋

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もうそろそろ起こさないと・・・。

着替えをし、化粧を済ませて、私は、まだ眠っているインスを起こすために寝室に入った。

気持ちよさそうに寝息を立てているインスを起こすのは、気の毒なような気がしたが、そんなことは言っていられない。


「起きて・・・」

私は遠慮がちに声をかけた。

素肌の肩にそっと手を伸ばして揺すりながら、もう一度、声をかけた。

インスがゆっくりと目を開けた。


「起きて・・・飛行機に乗り遅れたら大変よ・・・」

毛布から伸びた手が私の手首を掴んだ。

私は静かにその手を振り解くと、「したくをしてください」と言った。


誘われるままにインスの横に滑り込んだら、きっと韓国に帰したくなくなる。

インスも同じ気持ちでいるだろうと私は思った。

「時が止まればいいのに・・・」

ゆうべ、私を抱きしめながら言ったインスの言葉が甦った。


インスが着替えを終えるのを待って、私たちはレストランに行き朝食を済ませ、宿泊代の清算をした。

別れの時間が近づくにつれて、無口になっていくインス。

私は、ソウルの天気のことや、今、食べた朝食のメニューのことなど、どうでもいいことをひとりで話し続けた。


                                     

忘れ物がないか確認し、私たちは4日間を過ごした部屋を出た。

インスは、空港までは来なくていいと言ったが、私はどうしても見送りたかった。


空港行きのバスが来るまで、私たちはラウンジでコーヒーを飲んで待つことにした。

私は、ふと思い立って名刺を取り出すと、裏面に自宅の電話番号を書いてインスに差し出した。

「表に印刷してあるのが、私のオフィスの電話番号・・・。裏に、書いたのが、自宅の電話番号です」

インスは、差し出した名刺を手に取ると、声に出して私の名前を読んだ。

インスは、日本語は読めないが、ローマ字で振り仮名がふってあるので、私の名前が読めたのだった。


「ユキの苗字を初めて知った・・・」

自己紹介の時、名乗ったはずだが、インスの記憶には残っていなかったようだ。

「神の門と書いてミカド・・・。ミカドユキ・・・。ちゃんと憶えておいてね」と、私は言った。


インスも、持っていた自分の名刺に自宅の電話番号を書いてくれた。

バスの到着を知らせる館内アナウンスが聞こえた。

バスに乗る時も、乗ってからも、私たちはずっと手を繋いでいた。


                                        

話すことは何もなかった。

ただ、車窓を流れ行く会津の景色を、それぞれの思いを抱いて見つめていた。


降りしきる雪のせいでバスが遅れ、別れを惜しむ間もなく、出発の時刻が迫っていた。

「自宅に着いたら、さっきの電話番号に必ず電話してね」

搭乗ゲートに向かうインスに私は言った。


「ユキ・・・いろいろありがとう」

「気をつけてね・・・」と、言って差し出した私の右手をインスの大きな手が包んだ。

「ユキ・・・」

何か言いたげなインスの顔・・・。

「愛してる」

私の手を握るインスの右手に、より一層力が入った。


「私も・・・愛しています・・・」

私は、心からそう言えた。

「ありがとう。その言葉が、心の支えになるよ」

そう言うと、インスは足早に搭乗ゲートに向かって歩いて行った。


一度も振り返らないインスの後姿が、ゲートの向こうに消えても、しばらく私はそこに立ち尽くしていた。


                                      

東京行きの新幹線に乗ってからも、今、別れたインスのことと、二人で過ごした会津のことばかり考えていた。


インスは、韓国に帰って、正式に離婚したら、必ず、ユキに会いに行くと約束してくれた。

私はその言葉を素直に喜んだが、日々の状況はどう変化するか誰にもわからない。

そのような約束が、どんなに不確かで、儚いものであるか、私は充分解っていた。


当分は、インスのことを考えて過ごす日々が続くのだろうか・・・と、思っていたら、携帯が鳴った。

仕事の電話だった。

コンサートツアーが終わってから、一度も事務所に顔を出していなかったので、どうなっているんだ、と言う社長からの電話だった。


新幹線の車内なので詳しい説明ができない、と私は言葉を濁し、月曜日には必ず出社すると約束をした。

こうなることは予想していたので、私はJRの駅で、いくつかのみやげ物を買っていた。


しかし、会津みやげなどを持っていったら、「のんきに旅行か・・・?」から始まり、「誰と行った」だのと詮索されるに決まっている。

月曜日に出社する時は、社長の好きなあの店のケーキにしようと決め、同時にいくつかの言い訳も準備しておかなければ・・・と私は思った。


                                    

自宅に着くなり私は、まず、部屋中の窓を開け放ち、空気の入れ替えをした。

冷蔵庫の中の古いものを処分し、留守番電話の確認をした。


携帯電話を持つようになってから、家の電話にかけてくる人はほとんどいないが、父だけは別だった。

「用があったら、携帯に電話して。その方が確実だから」と何度言っても、家の電話にかけてくる。


そして、思ったとおり、父から3度電話が入っていた。

メッセージの内容は、「たまには帰って来い」とか、「風邪をひいていないか」などの他愛もないことであったが、久しぶりに聞く父の声は、とても暖かいものだった。

インスと会津で過ごした日々のことを父に言ったら、父はなんと言うだろうか・・・。

Kを失った時、言葉少なに私を慰めてくれた父の顔が浮かんだ。


父に電話してみようか・・・そう思った時、突然、電話が鳴った。

「たった今、着いたよ」

電話の声はインスだった。


数時間前まで、隣にいたインスが、今は海の向こうにいる。

私の胸に熱いものがこみ上げてきた。

「ユキ・・・聞いてる?」

「ええ・・・無事に着いてよかったわ」

今にも涙がこぼれそうになるのをインスに悟られたくなくて、手短に言葉を返した。


「会いたい・・・ユキに会いたい。」

これ以上話していたら、電話口で泣き出してしまいそうだった。

「疲れたでしょう。今夜はゆっくり休んでね」

そう言うと、私から電話を切った。


数日間を過ごしたホテルの部屋を出る時も、空港でインスを見送る時も、不思議と涙は出なかった。

なのに・・・受話器を置いたとたん、溢れる涙を止めることはできなかった。


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