2009/04/05 09:39
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<27話>

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インスと出会い、会津で数日間を過ごしてから、すでにふた月近くの日々が過ぎ、季節は冬から春になった。

その間、インスは私に何度も電話をかけてきては、会いに行けないことを詫びた。


日本とNYとの時差も忘れて、熱く語るインスの口ぶりからは、Mのコンサートの熱気が伝わって来た。

そして、今回の仕事に賭けるインスの情熱も。


世の中の女性の多くは、「私と仕事とどっちが大事?」などといったセリフを恋人に投げかける時があるのだろう。


男は、困惑の表情を浮かべながら、・・・それでも、そんな恋人が愛しくて。

「もちろん、君だよ」と答えるのだろうか。

想像の世界でしか、思い浮かべることのできない光景を思った。


             



かつて心から愛したKにさえ、私はそのようなことを言ったことがなかった。


絶好のシャッターチャンスを逃すまいと、日本全国を駆け回っていたK。

私の誕生日も、ふたりの記念日も何度もキャンセルになった。


それでも、自ら作り出した「作品」について語るKの輝く瞳を見ることは、私にとって、何よりも代え難い幸せだった。


インスに対しても、その思いは変わらなかった。


離婚も、仕事も私のことは念頭に置かず、自分なりの方法で、満足の行く結論を出してほしいと願っていた。


インスに会いたいと言う気持ちは、いつも心のどこかに感じていた。

しかし、そんな思いに囚われることなく、比較的穏やかに今日まで来れたことは、私も、仕事に忙殺された日々を送っていたからかもしれない。


インスは、本番に向けて、今日も精力的に仕事をこなしているだろうか。

通勤途中の五分咲きになった桜の木を見上げて、ソウルのインスを思った。


              


春とは言っても一番乗りしたオフィスは、ひんやりとした空気が漂っていた。

私は空調のスイッチを入れ、給湯室でお湯を沸かし、コーヒーを淹れ、同僚のAの机の上に置かれた韓国の雑誌を手に取った。


社長が出勤してきたら、又、慌しい一日が始まる。

誰もいない静かなオフィスの朝のひと時が私は好きだった。


ハングルで埋め尽くされた雑誌は財界誌であったが、巻頭のページには、先ごろ来日した韓国人俳優の笑顔が掲載されていた。


韓国の情勢。

韓国の景気と株価。

政治家の活動。


取り立てて、興味を惹かれる記事もないまま、ページをめくっていくうちに、私の目は釘付けになった。


「新風」と題されたそのコラムは、多方面で活躍する成長著しい人物を取り上げたものだった。


「光の魔術師」と言う、サブタイトルの下にインスのはにかむような笑顔があった。


                



米国の歌手Mを迎えてのコンサートに挑む意気込みが、インタビュー形式で掲載されていた。


インスが手掛けようとしている仕事は、私の想像をはるかに超えた大規模なものだった。

関係者がインスに寄せる期待も、Mの訪韓を待っているファンの期待も、とてつもなく大きなものであることを初めて知った。


突如として、私の心の中にMのコンサートを見たいという欲望が湧いた。


Mの歌が聴きたくなったわけではない。


インスの手から紡ぎ出される「光」を見たい・・・と、思った。


                


「朝から、何を熱心に読んでるの?」

出勤して来た同僚のAが、私の肩越しに雑誌を覗き込んだ。


「ねえ!これ行きたい!」

「どうしたら行ける?」

私は、コラムのページの左下の囲みを指で叩いてAに問いかけた。


そこには、Mのコンサートの日程と会場名が記されていた。


「え~っ、今からじゃ無理よ。チケットの発売始まってるし・・・。Mでしょう?完売しちゃってると思うな・・・」

芸能通のAは、韓国で開催されるMのコンサートが、注目されていることを知っていた。


「キャンセルとか・・・あるでしょ!」

「お願い!何とかして・・・」

困った様子のAに向かって、私は尚も頼み続けた。



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