2009/10/21 09:49
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<44話>

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「あなたが好きなの・・・」

背後から聞こえたマリーの声は、数分前にきっぱりと僕を拒絶した声とは、別人のようだった。

目の前で、固く閉ざされた扉は、マリーの心そのままではなかったのか。


思考が混乱している僕に、マリーは言った。

「初めて会った時から、好きになったんだと思う。うまく説明できないけど」

通りすがりの男が振り返って僕たちを見ていた。


「離してくれないか・・・」

「いや・・・」

「人が見てる」

「構わない」

「僕は、困る」

想像もしていなかった展開を僕は、受け入れられずにいた。


「離してほしかったら、約束して。別れた人のことは忘れるって」

マリーの腕を振り解くくらい、簡単なことだったが、僕はそれをせず、「約束できない」と言った。

「そんなに好きだったの・・・?」

「ああ・・・」と、答えた。


ならば、別れなければよかったじゃない・・・。

僕は、マリーの次の言葉を予測した。

それは、僕の中で数え切れないくらい反芻した言葉だった。

そう問いかけられたら、今度も曖昧に「ああ・・・」と答えるだけだ。


ところが、マリーは「解った」と言うと、あっさり僕を解放した。

「ならば、忘れる努力をしたら?その方が利口じゃない?」

マリーの口調は、元に戻っていた。


                 


僕は、マリーに背を向けたままその言葉を聞いていた。

「相手にその気がないなら、追いかけるだけ無駄だと思うな」

断定したマリーの言い方が気に入らなかった。


振り向いた時、マリーと目が合った。

その視線を避けることなく、マリーは言った。

「離れて行った人への思いは、いずれ冷めるわ。そして、近くにある愛が欲しくなる。私は、あなたが好き。側にいて、いつもあなたを見ていたい。そんな愛が今のあなたには必要だと思うけど?」


どうしてそんな風に決め付けたような言い方が出来るのだろう。

その自信は何なんだ・・・?と、マリーに聞きたかった。

「お前に何が解るんだ?って、顔してる」

そう言いながらマリーは小さく笑った。


「恋愛に回数や年齢は関係ないわ。大事なのは、どれだけ深く愛したかってことよ」

言い返してやれ、どれだけユキを愛していたか、言ってやれ。

僕の中で、誰かが叫んでいた。


「続きは今度会った時ね。反論できるだけの言葉を用意して店に来て。待ってるから」

そう言い残すと、マリーはまたハイヒールの靴音を響かせて、階段を上がって行った。


僕がマリーにしたこと・・・それは、許されるはずのない行為だ。

なのに、「好きだ」と言ったマリーの気持ちが理解できず、靴音が部屋の中に吸い込まれるまで、僕はその場に立ち尽くしていた。


                  


マリーと別れてから、僕の頭の中には様々な思いが交錯していた。

確かめたわけではないが、見た限りマリーは僕より7~8歳は若いはずだ。

そんな年下の女と、恋愛論を戦わせるだけの暇も時間も僕にはない。

もちろん、店に行こうなどと言う気はまったくなかった。


しかし、僕が力づくでマリーを抱いた事実は消えない。

我、関せずで、背を向けるのは卑怯な気がした。

思いは、堂々巡りを繰り返していた。


                


年が改まって、数日が過ぎたあるの日、僕はマリーと再会した。

ソウルの街中のCDショップの前だった。

ショーウィンドーには、たくさんのCDがディスプレイされ、大型テレビには激しいリズムに合わせて踊るダンサーの姿が映し出されていた。


その画面をウィンドー越しに見つめる女・・・それがマリーだった。

最初は遠くから、黙って見ていた。

少しずつ近づいて行って、背後から声をかけた。


「おい」

「これでも私・・・ダンサーだったの。怪我してやめたけど」

驚いて振り向くマリーを想像していたのに、マリーは画面から目を離さずに言った。


「いきなり声をかけられて、驚かないのか?」

「さっきから、ずっと私を見てたでしょ?」

「見てない・・・」

「うそ。ガラスに映ってたもの」

なんだ、気づいてたのか・・・と、がっかりする自分がおかしかった。


「志しなかばで挫折しちゃった」

マリーらしくない言い方だった。

「昼ごはんは?」

「驕ってくれるの?」

「そのつもりで聞いた」


「ミソチゲ・・・それも、思いっきり辛いヤツ」

「メシの話になったら、元気になったな」

「私、元気なさそうに見えたんだ・・・」

そう見えたから、昼ご飯に誘う気持ちになったのだった。


                


「行こう」と言いながら、マリーは腕を絡めてきた。

「くっつくなよ」

「いいじゃん、誰も見てないもん」

確かに、マリーの言うとおり、道行く人々は僕たちのことなど、眼中になさそうに足早やに通り過ぎて行った。


目当ての店に行くと、昼時ということもあって店内はひどく混み合っていた。

思案した挙句、「ウチに来るか?」と、僕は言った。

「へぇ~意外な発言。そう言うこと絶対に言わない人だと思ってた。料理出来るの?」


「ミソチゲならそこら辺の食堂より、うまい。どうする?」

「襲ったりしない?」

「そう言うことを言うなら、昼メシはひとりで食べろ」と、僕は言いながら、やはりマリーはあの日のことにこだわっているのか・・・と思った。


「たとえ襲われても、今はミソチゲが食べたい」

「じゃ、決まりだ。まずは市場に行こう」

「え・・・っ?買出しに付き合うの?」

「嫌ならいい」


僕はひとりで歩き出した。

「もう~!待ってよ~。ホントにおいしく作れるの?まずかったら許さないからね!」

追ってくるマリーの声を聞きながら、僕の口元に思わず笑みがこぼれた。



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