2009/12/12 12:35
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<51話>

Photo





「マリを旅行に誘ったもうひとつの理由は、マリの夢についてゆっくりと聞きたかったからなんだ」

「私の夢は、インスとずっと一緒に暮らすことよ」

マリは、躊躇うことなく言った。


「本当に?」

「おかしい?」

「いや・・・そうじゃなくて・・・」

「私らしくない?」

マリはそう言って笑った。


「あの・・・絵葉書に書いてあったことが気になってるのね」

「やっぱり、気づいてたのか?君に黙って持ち出したこと」

マリは黙ってうなずいた。


「まず、そのことを謝らなければいけないと思っていた」

「別に・・・謝ることなんてないわよ。見られても構わないと思ったから、あんなところに置きっ放しにしておいたんだし・・・」

マリにとってあの絵葉書は、その程度のものだったのか。


僕には、そうは思えなかった。

だからこそ、絵葉書の文面が理解できた時、僕は自分がしたことを後悔したのだ。


「NYで暮らしていた時のこと・・・いずれ話さなくちゃいけないと思ってた」

「そうか・・・」

「話すきっかけを失ってた・・・。いっそのこと、インスが絵葉書を見て、私を問い詰めてくれたら・・・って、思ったわ。ずるいわね」


              


マリは話すきっかけを失い、僕は尋ねるきっかけを失っていた。


「過去は気になる?」

「それが普通だろう?」

「目の前にいる人を精一杯愛する、それが私の愛し方なの。インスの愛した人がどんな人だったのか、なぜ別れたのか・・・そんなことは知らなくていいと思ってる」

「それは、終わったことに対して言えることじゃないのか?」


「私のことも終わったことよ」

「そうだろうか。少なくとも、向こうはそうは思っていないようだ。待っていると書いてあった」


僕は、あえて「向こう」などと乱暴な言い方をした。

顔の見えない男の姿が浮かんだ。


「だから・・・何?私をNYへ行かせたい?」

「そうじゃなくて・・・・」

「そんな話をするために、ここに来たの?」


「カズって、誰だ?恋人?」

「・・・だった」

マリは少しの間を置いて、そう答えた。


             


彼とは、日本のダンススクールで出会った。

同じ夢を追う仲間は、やがて恋人になった。

夢は果てしなく広がり、NYへ行って一緒にレッスンを受けたいと思うようになったの。


彼に内緒でパパとママに援助を申し入れた。

あっけなく一笑に付されたわ。

両親にとって、彼は娘を誘惑したとんでもないヤツで。

私達の夢は、話にならないほどのつまらないもの・・・だったの。


でも、私達はNY行きを強行した。

彼がいてくれたら、怖いものなんて何もなかった。

ふたりでバイトをしながらレッスンに通ったわ。


ひとつのパンをふたりで分けるような暮らしでも、幸せだった。

いつかは、プロのダンサーになって、同じ舞台に立とうって夢があったから。

それなのに、私はレッスン中に怪我をしてしまった。


               

NYの医者は再起不能とまでは言わなかったけど、リハビリにかなりの日数を要すると言った。


入院費を稼ぐために、彼はバイトを増やして、そのためにレッスンも休みがちになってしまった。

それでも、「夢をあきらめるな!」と言い続けてくれた。


そんな彼の姿を見ていることがたまらなくつらかった。

日本へ帰って治療に専念すると嘘を言って、私は・・・彼の元から逃げたの。


日本の医者は、痛めた箇所はダンサーにとっては致命傷だと言った。

一生自分の足で歩きたいなら、プロになるなどと大それた夢は忘れて、趣味としてのダンスを考えたらどうかと言われたの。


その時点で、私は夢をあきらめた。

両親の側にいるのも息が詰まる気がして、韓国に来たの。


最初は、おばあちゃんの家でのんびりと過ごしながら、これから何をしようかと考えたわ。

ダンスとはまったく関係ないことをしたかった。

だけど、すぐには思い浮かばなかった・・・。


とりあえず、おばあちゃんの反対を押し切って部屋を借りることにした。

生活するための手っ取り早い方法として、あの店を選んだの。


そして・・・しばらくして、あなたに出会った。


             


「これで、私の話しは終わり」

話し終えたマリは、すっきりとした表情をしていた。


「あの後、すぐに彼に手紙を書いたの。好きな人ができたって」

マリは、僕の様子を窺うように視線を向けた。


「幸せに暮らしているって書いたわ」

「その後、彼からは?」

「何も言って来ない。安心したんだと思う。彼だって、NYで2年近くもひとりでいるはずがないし・・・」


「いいのか?それで」

「私の夢はインスとずっと一緒に暮らすことだって、最初に言ったでしょ」

そう言いながら、マリはソファから立ち上がった。


「話しをしながらついつい飲んじゃって・・・風に当たりたい気分」

マリの言うとおり、目の前のワインのボトルは空になっていた。

「でも、外はきっと寒いわね」

マリは、窓辺に立って、漢江を見下ろしながらつぶやいた。


「マリ・・・」

僕は、マリと同じように漢江を見下ろしながら言った。

「結婚しよう」

マリの驚く顔が窓ガラスの中で、漢江の流れと重なっていた。




[1]

TODAY 6409
TOTAL 2776165
カレンダー

2009年12月

1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
ブロコリblog