2009/11/07 10:58
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<47話>【R】

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★今回は、【R】的要素を含めた描写がありますので、お嫌いな方はスルーしてくださいね。

「四月の雪」のインスのイメージを壊したくな~いと言う方も、スルーしてください。






「逞しい腕にぎゅっとされると、なんだか安心する・・・。」

僕の腕の中で、マリーが呟いた。


「子供の頃、パパに抱っこされたこと思い出すなあ」

「僕は、君の父親か・・・?」

マリーとの年の差が頭をよぎって、苦笑いとともに、そんな言葉が口を突いて出た。


「父親の愛は、無償の愛よね。その人に、世界中の誰よりも愛してほしいと思ったら、恋人よりも、奥さんよりも・・・その人の子供になることかな、って思うわ」

父親になり損なった僕には、マリーの言葉の意味をすべて理解することはできなかった。


「ねえ・・・」

マリーが上目づかいで僕を見上げた。

「愛してるって言ってくれたら、もっといい気分になれるんだけどなあ・・・」

僕は、マリーから視線を逸らすと、「愛してる」の言葉の代わりに、「ビールでも飲むか?」と言って、立ち上った。


「なによ、照れちゃってぇ・・・つまんないの」

後ろで、マリーが独り言を言っていたが、僕は聞こえないふりをした。


                                      


マリーに缶ビールを手渡し、僕はビールをひと口飲むと煙草に火を着けた。

煙を吐き出す様子を隣に座っているマリーが、じっと見ていることに気づいた。


「なに?」

「煙草を吸ってる横顔・・・すてき」

「からかうなよ」

「からかってなんかいない。本当にそう思うから言ったの」


「煙草は?」

僕は、照れ隠しに聞いた。

「ちょっと、吸ったこともあったけど、止めた」

「いいことだな」


「ずっと前に、好きだった人が言ってたわ。終わったあとの1本が最高においしいって」

「終わったあと・・・?」

声にした瞬間、意味が解った。

「いっつも、私の横でおいしそうに吸ってた。それで、私も・・・って」


「おいしかった?」

「ううん、おいしくなかった。だけど・・・その人の唾液で少し湿った煙草の感触が好きで・・・指先から奪うと真似して吸ってたの」

顔の見えない男の横で、煙草をふかすマリーの姿が浮かんだ。

それは、嫉妬と呼ぶには程遠いものだったが、心の片隅をかすかにくすぐるような感情だった。


「その男とは・・・?」

「別れた。ふられたの」

「会いたいと思ったり、思い出したりしない?」

なぜこんなことを聞いているんだろうと思った。


「しない。私がふった男なら、今もひとりでいるのかなあなんて思ったりするけど。ふられた男のことは考えない。だって、私の知らない誰かと一緒になって、幸せに暮らしてるかも・・・なんて想像するとくやしいじゃない」

「君らしい考えだな」

「あなたは?」


「時々思い出す」

「どっちを?離婚した奥さん?それとも別れた恋人?」

「両方」

「はぁ・・・呆れた。ビールもう1本持って来て」


                                    


缶ビールを冷蔵庫から2本取り出して、再びソファに座ると、マリーは「ねえ・・・」と、また何かを問いた気な様子で僕を見た。

「君に、ねえ・・・って、言われるとヒヤッとするよ。今度は何?」

「私たち、あれからしてないけど。したい?」


「そう言うこと、露骨に言うな」

「答えてよ、したい?したくない?」

「したい・・・って、言ったら?」

マリーの表情が一瞬、固くなったような気がした。


「冗談だよ。襲う気はないから、安心しろ。今でも・・・後悔してる」

「え・・・?」

「あの日のこと。申し訳ないことをしたと思ってる。悪かった」


マリーに詫びるきっかけをやっと得られたような気がして、さらに僕は謝罪の言葉を口にした。

「謝って済むことではないと解っている。それでも、きちんと君に謝りたかった」

「嫌じゃなかった・・・。どんなに乱暴に扱われても、少しも嫌じゃなかった。あの時すでに・・・あなたを好きだったから」

マリーは俯いたまま言った。


「嫌だったのは・・・身代わりにされたこと。別れた人を思いながら、私を抱いたこと・・・」

身代わりにしたつもりはない。

そうではないんだ・・・。


あの日、マリーは恋愛について語った時、「日本の女」と言う言葉を引き合いに出した。

そのことに僕は無性に苛立った。

そして、理不尽な行為に及んだ。


だが・・・今、そのことを言っても意味のない気がした。

理由はどうであれ、僕のしたことが正当化されることはない。

「ごめん・・・」

もう、この言葉しか見つからなかった。


                                    


「本当に悪かったって思ってる?」

「思ってる」

「だったら・・・キスして」

「どうして、そういう発想に繋がるのか、解らない」

「謝罪の証」

マリーは僕に向かって目を閉じた。


僕も目を閉じて、躊躇いながらもマリーの唇にそっと唇を寄せた。

離れて、目を開けるとマリーの頬に一筋の涙が流れていた。

「好きになるのに時間なんて関係ないのね。出会って間もないのに・・・切なくなるほど、あなたが好き」

マリーは、震える声でそう言った。


「らしくないなあ・・・」

そう言いながらも、僕の胸の中にマリーに対する愛しさが、急速に広がっていった。


触れるだけのキスは、やがて深いキスに変わり、僕たちは何度もキスを繰り返した。

「嫌じゃなかったら・・・」

最後まで言わなくても、僕の言いたいことは、充分マリーに伝わった。

僕は、マリーの手を引いて、寝室のドアを開けた。


あの時は・・・マリーの体を眺める余裕はなかったのだと気が付いた。

柔らかなうなじ。

整った乳房。

贅肉のない下腹部。

みずみずしい爪。

ダンスで鍛えたマリーの体は、随所で若さを主張していた。


この体を独り占めしていいのか・・・。

謙虚な気持ちは、瞬くうちに、独り占めしたいという欲望に変わった。

「好きな人に抱かれるって・・・しあわせ」


「このまましてもいい?」

マリーは、僕の腕の中で、喘ぎながら頷いた。


                                     


つかの間のまどろみから目覚めたのは、窓から吹き込む冷たい風のせいだった。

「どうした?」

「雪が降ってる・・・駅まで送ってくれる?」


「明日の朝、送るから・・・」

そう言って、僕はマリーを手招きした。

マリーは素直に僕の横に滑り込むと、冷えた足を絡めてきて、「インス」と、言った。


「おじさんでも、あんた・・・でもなく、インス?」

「そうよ、インス」

「君は僕よりだいぶ年下だ。インスさんと言うのが普通だろう?」


「日本では、これが普通。恋人同士は、多くの人が呼び捨てで相手を呼ぶわ。私は、あなたをインス・・・と呼んで。あなたは私をマリ・・・って、呼ぶの」

「マリ・・・?」

「そう、それが私の本当の名前。マリーは店で使ってる名前なの」


「マリ・・・。また、君が欲しくなった」

僕は毛布の下で、マリの細い腰を抱き寄せた。


2009/11/04 10:35
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<46話>

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自宅まで仕事を持ち込むことは、できるだけ避けたいと思っているのだが、そうも言っていられない日もある。

今日も、片付けてしまいたい仕事があって、帰宅後はずっとPCの前に座っていた。

気がつくと、時計の針は午前0時を過ぎていた。


PCを閉じて、部屋の明かりを消そうとした時、かすかな物音がした。

気のせいかな・・・そう思いながらも耳を澄ませた。


玄関のドアに何かがぶつかる音。

小さな息づかい。

誰かいる・・・?

躊躇いながらそっとドアを開けてみた。


深夜の凍った風とともに入ってきたのはマリーだった。

「途中で、迷っちゃって・・・。こんな時間になっちゃった」

「どうしたんだ?」

マリーは靴を脱ぐと、ふらつく足取りでソファに座り込み、「お水をいっぱいくれない?飲んだら、帰るから」と言った。


            



僕は水の入ったグラスを差し出しながら、「酔ってるのか?」と聞いた。

「酔ってない」

うつろな表情でマリーは答えたが、それは明らかに違っていた。

その証拠に、グラスの水を一気に飲み干すと、マリーはソファに横たわった。


「おい」

「酔ってなんかいない・・・」

マリーは、呟くように言うと目を閉じた。

「おい」

僕がもう一度声をかけた時には、小さな寝息を立てていた。


マリーの頬を撫ぜるように、叩いてみた。

冬の夜道を歩いてきたマリーの頬は、とても冷たかった。

僕は、寝室から持って来た毛布をマリーにそっと被せて、リビングの明かりを消した。


             



目覚まし時計の音で、目が覚めた。

冬の朝は、布団のぬくもりが恋しくて、ベッドから出る気になれないのだが、ゆうべ遅くにマリーが来たことを思い出し、ためらう間もなくベッドから離れた。

しかし、リビングのソファで眠っているはずのマリーの姿はどこにもなかった。


ソファの上に、たたんで置いてある毛布。

その上には、小さな紙片が置かれ、「ゴメン・・・」とひと言書いてあった。


コーヒーくらい飲んで行けばいいのに・・・紙片を見つめながら、僕は心の中で呟いた。

真夜中に迷い込んできた野良猫に、ミルクもやらずに追い出してしまったような気分だった。


携帯電話の番号も、メールアドレスも教え合っていない僕たちは、実際に会わない限り連絡の取りようがなかった。

マリーに会いたいと思っていたわけではないが、なんとなく気になりながら、数日が過ぎた。


              



せっかくの日曜日だと言うのに、その日は朝からみぞれ混じりの雨が降っていた。

こういう日は、何もする気になれない。

パンとコーヒーで簡単に朝食を済ませると、僕はまたベッドにもぐり込みぐずぐずしていた。


マリーが来たのは、昼を少し過ぎた頃だった。

チャイムの音にドアを開けると、大きな包みを抱えたマリーが立っていた。

「昼ごはん、まだよね?」

そう言うと、マリーは僕の脇をすり抜けて、キッチンに入って行った。


包みから、取り出したものはいくつかのプラスチックの容器。

その中には、大量の惣菜が詰め込まれていた。

「料理、できなかったんじゃないのか・・・」


「おばあちゃん、直伝の日本料理よ」

「おばあちゃんは、韓国人だろう?」

「ママの真似をして作っている内に、おばあちゃんの方がママより上手になっちゃったの」


「これは・・・おばあちゃんの手作り?」

「1週間おばあちゃんのところに泊り込んで教わった。私の、手作り」

「私の」と言う、言葉を強調してマリーは言った。


               



「どう?」

テーブルに並べられた料理に箸を伸ばす僕に、マリーが聞いた。

「うまい」

「ほんと!よかった!ミソチゲしか作れない男と付き合おうって、決めたからには、私も料理を覚えないとって、頑張ったの」


「知ってたのか?」

「多分そうじゃないか・・・って。当たり・・・でしょう?」

僕は、苦笑いするしかなかった。


不思議なことにマリーの持ってきた惣菜を食べながら、僕は懐かしさに浸っていた。

それは、ユキと一緒に食べた会津の郷土料理を思い出したからだった。

マリーに対して後ろめたさを感じ、僕の箸はさらにせわしなく動いた。


実際にマリーの作った料理はおいしかった。

「うまい」を連発する僕に、すっかり上機嫌のマリーは、後片付けも全て引き受けてくれて、僕はソファに座って、食後のお茶が出てくるのを待っていた。


                



「ありがとう」

隣に座ったマリーに向かって、僕は言った。

「お礼なんていいわよ。この間、泊めてもらったお返し」


「なぜ、黙っていなくなった?」

「目が覚めたら、自分の部屋じゃなかった。どうやってここまでたどり着いたのかも思い出せなくて」

「ずいぶん酔ってた」


「合わせる顔がなくて・・・私、何かした?」

「いや」

「そう・・・よかった」

マリーは、安心したと言う様子だった。


「何かあったのか?」

「う・・・ん、別に。」

「客に絡まれた?」

「そんなことは、いつものことよ」

マリーはため息混じりに言った。


「ねえ、別れた奥さんは、韓国の人・・・よね?」

「ああ・・・」

「次に結婚するとしたら、やっぱり韓国人がいいって、思ってる?」

「その方が生活しやすいような気がする」

そう答えるのが無難だと思った。


               



「じゃあ、日本人とのハーフは?」

「君がそうだからか?」

「私と・・・と言うわけじゃなく・・・」

「特にこだわりはない」

「日本人に対するこだわりは?」

「なぜ、そんなことを聞く?」

僕の脳裏に、またしてもユキのことが浮かんだ。


「なぜ?」

僕は、重ねて聞いてみた。

「隠していてもどこかでバレるのよ。半分、日本人の血が入ってるって言うこと」

「それがどうした?」

真顔で尋ねる僕がいた。


「年配の客の中には、いまだに日本人に対するこだわりを持った人がいるの。汚い言葉を並べ立てて・・・。挙句の果てには、会ったこともない私のママにまで、発言が及ぶ・・・。それが、やりきれなくて・・・」

マリーはそこで一度、言葉を切った。


「私は、ママを誇りに思ってる。ママを愛したパパもね」

返す言葉を失っている僕を察して、マリーは「ごめん、つまらない話し・・・しちゃった」と小さく笑って見せた。


「そんな店、やめればいい」

僕は、マリーを引き寄せると強く抱きしめた。




2009/10/29 08:21
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<45話>

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「ひとり暮らしの男の部屋が、そんなにめずらしいのか?」

落ち着かない様子で、うろうろしているマリーに向かって僕は言った。


「どこかに女の影がないかな~と思って」

そう言いながらマリーはまだ、室内を見回していた。


「洗面所に歯ブラシでも見つけた?」

「大人は、そんな幼稚な痕跡は残さないでしょ?」

「確かにそうだな」


「だけどどこかに・・・無意識に自己主張しちゃうものなのよ」

「例えば?」

僕は、ミソチゲを作るための材料を刻みながら聞いた。


「玄関に2つスリッパが並んでたり。テーブルの隅にきちんと置かれたリモコン。香りつきのトイレットぺーパーなんかがあったら、決定的ね」

「検証の結果は?」と、僕は包丁を持つ手を止めることなく、ちょっとふざけて聞いてみた。


「本当にひとりだったんだ・・・」

マリーは、つぶやくような声で、安心したとも、がっかりしたとも取れる言い方をした。


                               


「そんなことより、こっちへ来て手伝ったらどうだ?」

「私、料理苦手だもん」

マリーは、窓辺の観葉植物の葉に触れながら言った。


「結婚する気ないのか?」

「料理の得意な男と結婚する。ねぇ、この鉢植え、生気を失ってるわよ」

僕は、鉢植えの観葉植物が置いてある方に視線を移すと、「そんなはずない」と言った。


「毎日、お水あげてる?」

そう言われると自信がない。

「3日前くらいに・・・」

「それじゃだめよ」


花屋の店員は、手がかからず緑が楽しめますと言っていた。

「話しかけながら、毎日お水をあげるときれいに育つって言うわ。女性と同じね。触れ合いながら、いつも好きだよとか、愛してるよって言うことが大事なのよ。ほったらかしておいたら、枯れちゃうんだから」

ユキのことを言っているわけではないと、解っていながら、胸が痛んだ。


ミソチゲの鍋が、ぐつぐつと音を立て始めた。

僕は、ふたり分の真空パックの白米を電子レンジに放り込んだ。


                                     


予想通り、僕の作ったミソチゲは、マリーから大絶賛された。

おかげで、僕は「料理上手な男」との評価を受けたが、それは、僕が作れるのは、ミソチゲだけだと言うことをマリーが知らないからだった。


食べてる間も、マリーのおしゃべりは止まらなかった。

仕事は何かと聞かれて、「照明監督」と答えると、「どんな仕事?」と身を乗り出してきた。

アメリカ人歌手のMに会ったと話してやると、驚嘆の声を上げた。


質問が離婚の原因に及んだ頃、僕はいよいよ潮時と思って、「食事が終わったら、帰れよ。今夜も仕事だろう?」と、言った。

「今夜は休み。じゃなきゃ、ソウルの町をのんびりうろついてないわよ。ここ片付けて飲もう」

「メシを食った上に酒まで飲む気か?」

「いいじゃん、一杯だけ」

そう言うとマリーは、汚れた食器を片付け始めた。


                                      


ダイニングテーブルから、ソファに場所を移して、マリーが作ったウィスキーの水割りに口をつけた。

「今度は私が答える番ね。何でも聞いて」


「年はいくつだ?」

「ノーコメント」

「何でも聞いてと言ったろう」

「質問を変えて」

「別にない」

「何か聞いてよ」


ユキと知り合った頃、ユキのことが知りたくてたまらなかった。

好きな色。

好きな季節。

好きな食べ物。

些細なことでも、僕にとってはどれも興味あるものだった。


「何考えてるの?」

「日本人なのか?」

僕は唐突に聞いてみた。


「ハーフ」

「ハーフ?」

「パパが韓国人で、ママが日本人。パパが仕事で日本に行った時、ママと知り合って。恋に落ちたの」


こんな偶然があるのか・・・。

動揺を悟られないように、僕は一気に水割りを飲み干し、マリーが2杯目のウィスキーをグラスに注いだ。


                                       


「パパがママを愛しすぎちゃって・・・」言いながら、マリーはクスっと笑った。

「結婚する前に私ができちゃったの。パパはあわてて韓国に帰って、お父さんとお母さん・・・つまり、私のおじいちゃんとおばあちゃんに結婚の許しをもらったのよ」


「それ・・・本当の話しなのか?」

「そうよ、どうして?」

「いや、別に」


一瞬、僕は、マリーがユキと僕の関係を全て知っていて、作り話をしているのではないかと思った。

「私は、韓国で生まれて、小学生まで韓国で育ったの。中学生になった時、パパの仕事の都合で日本に行って。今も、パパとママは日本で暮らしているわ。私だけが、また韓国に戻って来た・・・と、いうわけ」


「なぜ・・・?」

「う~ん、それは・・・話すと長くなりそうだから、今日は、やめておく。暗くならないうちに帰ろうかな」そう言いながら、マリーは立ち上がった。

僕は、思わずマリーの腕を掴んで「まだ、いいじゃないか」と言いそうになった。


「ミソチゲ、おいしかったわ。ごちそうさま」

「送っていくよ」

「ううん、いいの。ひとりで帰る。ここまでの道順を覚えておきたいの。また、来ていい?」

僕は、黙って頷いた。


                                     

「一番聞きたいことを忘れてた。忘れられないほど好きだった人とどうして別れたの?」

靴を履きながら、マリーは思い出したように言った。


即答できない僕に、マリーは、「答えたくない?」と聞いた。

「解らない・・・」

それが僕の正直な気持ちだった。


「解らない・・・?そうね。解ってたら、苦しんだりしないわよね」

「今日は、やけに素直だな」

「あなたを好きだと言ったでしょう。嫌われたくないもの」


マリーがドアを開けると、日没前の冬の風が舞い込んで来た。

それは、程よい湿り気と冷気を含んで、僕の頬を心地よく撫ぜた。


マリーの後姿を見送りながら、僕は少しの間、風の香りを楽しんだ。

 


2009/10/21 09:49
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<44話>

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「あなたが好きなの・・・」

背後から聞こえたマリーの声は、数分前にきっぱりと僕を拒絶した声とは、別人のようだった。

目の前で、固く閉ざされた扉は、マリーの心そのままではなかったのか。


思考が混乱している僕に、マリーは言った。

「初めて会った時から、好きになったんだと思う。うまく説明できないけど」

通りすがりの男が振り返って僕たちを見ていた。


「離してくれないか・・・」

「いや・・・」

「人が見てる」

「構わない」

「僕は、困る」

想像もしていなかった展開を僕は、受け入れられずにいた。


「離してほしかったら、約束して。別れた人のことは忘れるって」

マリーの腕を振り解くくらい、簡単なことだったが、僕はそれをせず、「約束できない」と言った。

「そんなに好きだったの・・・?」

「ああ・・・」と、答えた。


ならば、別れなければよかったじゃない・・・。

僕は、マリーの次の言葉を予測した。

それは、僕の中で数え切れないくらい反芻した言葉だった。

そう問いかけられたら、今度も曖昧に「ああ・・・」と答えるだけだ。


ところが、マリーは「解った」と言うと、あっさり僕を解放した。

「ならば、忘れる努力をしたら?その方が利口じゃない?」

マリーの口調は、元に戻っていた。


                 


僕は、マリーに背を向けたままその言葉を聞いていた。

「相手にその気がないなら、追いかけるだけ無駄だと思うな」

断定したマリーの言い方が気に入らなかった。


振り向いた時、マリーと目が合った。

その視線を避けることなく、マリーは言った。

「離れて行った人への思いは、いずれ冷めるわ。そして、近くにある愛が欲しくなる。私は、あなたが好き。側にいて、いつもあなたを見ていたい。そんな愛が今のあなたには必要だと思うけど?」


どうしてそんな風に決め付けたような言い方が出来るのだろう。

その自信は何なんだ・・・?と、マリーに聞きたかった。

「お前に何が解るんだ?って、顔してる」

そう言いながらマリーは小さく笑った。


「恋愛に回数や年齢は関係ないわ。大事なのは、どれだけ深く愛したかってことよ」

言い返してやれ、どれだけユキを愛していたか、言ってやれ。

僕の中で、誰かが叫んでいた。


「続きは今度会った時ね。反論できるだけの言葉を用意して店に来て。待ってるから」

そう言い残すと、マリーはまたハイヒールの靴音を響かせて、階段を上がって行った。


僕がマリーにしたこと・・・それは、許されるはずのない行為だ。

なのに、「好きだ」と言ったマリーの気持ちが理解できず、靴音が部屋の中に吸い込まれるまで、僕はその場に立ち尽くしていた。


                  


マリーと別れてから、僕の頭の中には様々な思いが交錯していた。

確かめたわけではないが、見た限りマリーは僕より7~8歳は若いはずだ。

そんな年下の女と、恋愛論を戦わせるだけの暇も時間も僕にはない。

もちろん、店に行こうなどと言う気はまったくなかった。


しかし、僕が力づくでマリーを抱いた事実は消えない。

我、関せずで、背を向けるのは卑怯な気がした。

思いは、堂々巡りを繰り返していた。


                


年が改まって、数日が過ぎたあるの日、僕はマリーと再会した。

ソウルの街中のCDショップの前だった。

ショーウィンドーには、たくさんのCDがディスプレイされ、大型テレビには激しいリズムに合わせて踊るダンサーの姿が映し出されていた。


その画面をウィンドー越しに見つめる女・・・それがマリーだった。

最初は遠くから、黙って見ていた。

少しずつ近づいて行って、背後から声をかけた。


「おい」

「これでも私・・・ダンサーだったの。怪我してやめたけど」

驚いて振り向くマリーを想像していたのに、マリーは画面から目を離さずに言った。


「いきなり声をかけられて、驚かないのか?」

「さっきから、ずっと私を見てたでしょ?」

「見てない・・・」

「うそ。ガラスに映ってたもの」

なんだ、気づいてたのか・・・と、がっかりする自分がおかしかった。


「志しなかばで挫折しちゃった」

マリーらしくない言い方だった。

「昼ごはんは?」

「驕ってくれるの?」

「そのつもりで聞いた」


「ミソチゲ・・・それも、思いっきり辛いヤツ」

「メシの話になったら、元気になったな」

「私、元気なさそうに見えたんだ・・・」

そう見えたから、昼ご飯に誘う気持ちになったのだった。


                


「行こう」と言いながら、マリーは腕を絡めてきた。

「くっつくなよ」

「いいじゃん、誰も見てないもん」

確かに、マリーの言うとおり、道行く人々は僕たちのことなど、眼中になさそうに足早やに通り過ぎて行った。


目当ての店に行くと、昼時ということもあって店内はひどく混み合っていた。

思案した挙句、「ウチに来るか?」と、僕は言った。

「へぇ~意外な発言。そう言うこと絶対に言わない人だと思ってた。料理出来るの?」


「ミソチゲならそこら辺の食堂より、うまい。どうする?」

「襲ったりしない?」

「そう言うことを言うなら、昼メシはひとりで食べろ」と、僕は言いながら、やはりマリーはあの日のことにこだわっているのか・・・と思った。


「たとえ襲われても、今はミソチゲが食べたい」

「じゃ、決まりだ。まずは市場に行こう」

「え・・・っ?買出しに付き合うの?」

「嫌ならいい」


僕はひとりで歩き出した。

「もう~!待ってよ~。ホントにおいしく作れるの?まずかったら許さないからね!」

追ってくるマリーの声を聞きながら、僕の口元に思わず笑みがこぼれた。



2009/09/22 09:46
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<43話>

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なぜ、ひと言・・・声をかけてやることができなかったのだろう。

乱暴なことをして悪かった・・・と。


まるで武勇伝を語るように、女たちとの情事を話す奴等をいつも冷めた目で見ていたじゃないか。

力づくで女と関係を持った男たちを軽蔑していたはずじゃなかったのか。


女々しいと罵られ、「日本人」と言う言葉にうろたえて我を失った。

いや・・・そんなことは言い訳に過ぎない。

男の勝手な言い分でしかない。


僕は何かに衝き動かされるように、拒絶の言葉を叫び続けるマリーを力づくで押さえ込んだ。

そして、愛情のない卑劣な行為に及んだ。

最低の男だ・・・。


二の腕と肩に残された爪痕。

熱い湯が刃となって、突き刺さる。

シャワーの飛沫を浴びながら、自分の犯した罪の深さを思った。


                 




シャワー室を出ると、携帯電話が鳴っていた。

「キム監督ですか?オフの日に電話してすみません」

電話の相手は、後輩のジェウォンだった。


「申し訳ないんですが・・・。今からこちらに来ていただけません
か?」

ジェウォンは、本当に申し訳なさそうに言った。

「現場か?トラブったのか?」

「いえ・・・そうじゃなくて・・・。生まれそうなんです・・・」

「生まれそう・・・って?子供か・・・?」


ジェウォンには、臨月の妻がいたことを思い出した。

「はい・・・もうすぐ・・・」

「早く行けよ!今すぐそっちに向かうから」

「すみません、よろしくお願いします」

「元気な子が生まれるように祈ってるよ」

すみません・・・と、電話の向こうで何度も頭を下げるジェウォ

ンの姿が浮かんだ。


子供か・・・。

あの時の子が順調に育っていたら、自分も今頃、父親になっ

ていたはずだ。


ユキは、どうしているだろうか・・・?

今もひとりでいるだろうか・・・。

それとも、最後の電話で語っていた「父の側で、一緒に畑を守

ってくれる人」とめぐり会っているだろうか。


日本中を死に物狂いで探せば、再び会えたかもしれないの

に。

拒まれることが怖くて・・・探すこともしなかった。


だからと言って、忘れたわけではない。

僕以外の男と幸せを築いて・・・と、願う余裕もなく、今も変わら

ず、心はユキを求めて彷徨っている。

女々しいと言われて当然の男なのだ・・・。


              



3日後、僕はマリーの店に行った。

どうしてもひと言、謝りたいと思ったからだ。

しかし、店の中を見回してもマリーの姿はどこにもなかった。


「あんた、あの晩の人・・・だよね?」

カウンター越しに中年の男に話しかけられた。

「マリーはいないよ。もう3日も来てない。こんなことは初めて

だ」

男は、僕の反応を窺う口ぶりで言った。


「心が風邪をひいたんだとさ・・・何を言ってるんだか」

男はグラスを磨く手を止め、「あの晩、何かあったのかい?」

と、僕に聞いた。

男の問いかけには答えず、僕は店を出た。


「謝りたい」という思いは、「謝らねば」と言う思いに変わってい

た。

マリーは部屋にいるだろうか・・・。

恐る恐るチャイムを鳴らすと、化粧っ気のないマリーが顔を出

した。


「何?何の用?もう二度と会いたくないって言ったはずよ」

「ひと言謝りたくて・・・」

僕は、マリーが閉めようとしたドアを押さえた。


「何の真似?大声出すわよ!」

「申し訳ないことをした・・・」

「申し訳ない・・・?一応、自覚はあるんだ?」

「だから、こうして謝りに来た」


「誰のために?」

「誰の・・・って・・・」

「自分のためでしょ?自分を慰めるために・・・最低!」


「すまなかった・・・悪いことをしたと思っている」

「許すと言ったら、気が済む?なら・・・言ってあげる。何もなか

った・・・これでいい?」


僕は返す言葉がなかった。

マリーは勢いよくドアを閉めると鍵を降ろした。

閉ざされたドアを見つめたまま、僕はその場にしばらくの間、

立ち尽くしていた。


               



謝罪することで、罪の意識が少しでも軽くなることを望んでい

た・・・?

確かにそうかもしれない。

謝罪の言葉を口にして、己を満足させたかったのだ・・・と、マ

リーに指摘されて気付いた。


僕がマリーにしたことは、許されるはずのないことなのだ。

それなのに、わずかな期待を抱いてここに来たことが、恥ずか

しい。

階段を下りたところで、天を仰いだ。

数個の星が冬の夜空で、静かに瞬いていた。


コンクリートの廊下を走る細いヒールの靴音。

その音が階段を下り、僕の背後で止まった。


誰だ・・・?

振り返る間もなく、音の主は僕を背後から抱きしめた。


「忘れると言って・・・。終わった恋は、もう忘れると約束し

て・・・」

腰に回されたマリーの腕は、さらに強く僕を抱き寄せ、高鳴る

胸の鼓動が、僕の背中で響いていた。



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