2008/11/07 10:17
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑲・・・こちらは戯言創作の部屋

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かすかな物音にはっとして、目を覚ました。

隣にいるはずのユキがいないことに気付いて、僕は、傍らに置かれたシャツを掴み、ベッドから降りて隣室に通じる扉を開けた。

かすかな物音は、化粧室から聞こえてくるヘアドライヤーの風の音だったのだと解った。


窓から、外を見ると、辺りはすでに夕方の気配が漂っていた。

ソファに腰掛けて、タバコに火をつけた。

ユキとひとつになれた喜びに浸っていたくて、ベッドから離れようとするユキを引き戻して、背後から抱きしめた。

ずっと、このまま・・・と願い、ユキのうなじの香りを楽しみながら、目を閉じた・・・。

記憶はそこで途絶えていた。


やがて、ドライヤーの音が止んで、化粧室から出てきたユキは、化粧をし、身支度もすっかり整えていた。

ユキが僕の腕をすり抜けたことさえ気付かず、眠ってしまったことが、ひどくはずかしく思えた。

「ごめん・・・。眠ってしまった・・・」と僕は、言った。

「夕べは私のせいで、ほとんど寝ていないでしょう?」

だから気にしないで・・・と、ユキが言った。


かすかに漂う石鹸の香りに、欲望が再び目覚めるのを感じた。

それを振り払うように、僕は、シャワー室に入った。

熱い湯を全身に浴びながら、ユキと交わした時間を思った。


少しばかりの後ろめたさは、ユキの吐息と肌のぬくもりが忘れさせた。

ひたすら責め続ける僕と・・・それに応えてくれたユキ。

ユキの中で、果てた時の快感と、背中に感じたユキの手の力強さ・・・。

様々な情景が甦って、僕の心は、喜びに満ちていた。


              


用意されたバスローブに袖を通して、浴室を出た。

ユキは、ソファに座ってコーヒーを飲みながら、テレビ画面を見つめていた。

「見て!見て!昨日見た、会津のお城が映っているの」

ソファ越しにユキの背後から、テレビ画面を覗いた。

無数のろうそくの炎が揺らめいて、ユキと訪れた鶴ヶ城を照らしていた。


昨日のことなのに、ユキとあの場所にいたことが、ずいぶん昔のことのように感じられた。

それは、短時間で接近した僕とユキの関係のせいかもしれないと思った。

ユキの肩に手を置いて、耳元で「愛してる・・・」と、囁いた。


お返しの愛の言葉の代わりにユキは「おなかすいたでしょう?」と、現実的なことを言った。

昼食に、サンドイッチを一切れしか食べていない僕を気遣ってのことだった。

「夕食を早めにと、お願いしておきます」と言って、部屋の電話の受話器を取った。


空腹感よりも僕の心はユキのことでいっぱいだった。

湯上りの気だるい気分のまま、受話器を置いたユキを僕は抱きしめた。

バスローブ一枚を羽織っただけで、胸元が露出している僕を見て、「早く着替えをして下さい。目のやり場に困ります」と言った。

そんな他愛のない言葉さえも、今の僕には愛しく感じるのだった。


               


最上階のレストランで、少し早めの夕食を済ませて、僕たちは部屋に戻ってきた。

「こんなに早く夕ご飯を食べたら、夜中におなかがすきそうだ。そうなったら、また、コンビニまで走らないといけない」

僕は、そう言ってユキを笑わせた。

「こんなに雪が降っているのに?」

「1時間たっても僕が戻らなかったら、探しに来てくれる?」

「その時は、救助隊を呼ぶわ」


レストランで食事をしている時は、冗談も出たのに、二人きりの空間に戻ると、張り詰めた空気が漂う。

僕は、「少し飲もうか・・・?」と言って、冷蔵庫から、ワインのボトルを取り出した。

ユキとベッドルームに入る前に交わした言葉・・・。

「話しがある・・・」「私も・・・」

そのことが、ずっと気になっていた。


「結婚してるんだ・・・」その一言で、片付くはずのないことだった。

ワインのボトルを開けながら、話しを始めるきっかけを僕は、探していた。

「私のせいで、今日はどこにも出かけられなかったわね。明日は、晴れるかしら?」

「晴れたら、どこかに行く?」

「そうね・・・せっかく、会津に来たんだから。どこか景色のきれいな場所に・・・」

二人でいられるなら、どこにいたっていいんだ・・・僕は思った。


ユキのグラスにワインを注いで、グラスを寄せ合った。

「誰かとこうなることをずっと避けていました。きっと比べてしまうから・・・。生涯愛する人は、この人だけ・・・そう思えるほど、深く愛していました」

ユキは、かつての恋人のことを僕に話し始めた。


病院の庭で、タバコを吸う横顔がかつての恋人に似ていたこと。

好きなケーキが同じで驚いたこと。

そして、オーロラの撮影に行って、事故死したこと・・・。

彼の死とともに、恋する気持ちを封印してきたこと。


僕は、ユキの話しを黙って聞いていた。

言うべき言葉が見つからなかった。


ユキの清らかな思い出に比べたら・・・。

他に男がいると知っても尚、世間体の為、妻との結婚生活を継続しようと努力していた自分。

愛情のない性行為を妻との修復手段として繰り返していた自分。

妻との事に決着がつかないまま、ユキを抱いてしまった自分が、愚かに思えた。


この中途半端な立場にいる時に、ユキに対してどんなに愛の言葉を並べても、到底伝わるものではないと思った。

「でも・・・恋する心は、私の中にちゃんと残っていました。あなたに出会って、それに気付きました・・・」

僕は、言葉に詰まって、ユキの顔を見つめるのが精一杯だった。


               


「だけど・・・こうなったことで、責任を取って下さいなんてことは、言いませんから・・・。あなたが結婚していることは、解っていました。私は私の意志で、こうなったと思っています」

ユキは・・・。

僕と妻の関係が破綻しているなどとは、微塵も気付いていなかった。



2008/11/03 10:10
テーマ:今日のひと言 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

ごめん、愛してる。

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久しぶりにPCの無料配信のサイトを覗いてみた。

「ごめん、愛してる・7話」

タイトルと主演俳優の名前は知っていたが、関心がなかったので、今まで観たことはなかった。

「7話か・・・」と思いながら、それでも、他に観たいものも見つからず、私は、「視聴」をクリックした。



どうして、結末を先に知りたいと思ってしまうんだろう・・・。

それは、「愛群」を観て以来のこと。

「愛群」を観てから、物語はハッピーエンドに限ると思うようになったからだ。

ヨンジュン作品に限らず、全ての韓国ドラマに関してそう思う。


つい先日、私は「愛の挨拶」を連日、観続けた。

今になって尚、結末を知らないヨンジュン作品があると言うことが、うらやましいと言われた。

「愛の~」のように、全体に平和~のムードが漂う作品は、急いで結末を知る必要はない。

死や病とは、離れたところで、ストーリーが展開されて行くとなんとなく解るからだ。


ところが・・・「ごめん、~」は、7話を観ただけで、早くも危ない予感を感じた。

そうなると、悪い癖で、結末が知りたくてたまらなくなる。

ハッピーエンドを確認してから、ゆっくり作品に浸りたい・・・そういう気持ちになる。


しかし、今回は、結末を知るよりも、7話に至るまでの過程を知ることが先決だと思った。

便利なもので、レンタル店に行かなくても、人気ドラマをキャプチャーしてくれるサイトが、ちゃんと存在する。

しかも、親切な解説付きで。

おかげで、そこに至るまでのおおよその過程は理解できた。


しかし・・・なんだか望まない方向にドラマが展開していく気配を感じた。

スクロールすれば、その場で、一気に結末まで、たどり着くことができたが、なんとか我慢した。


PCの無料動画は、1週間に1話づつ更新される。

さて、結末を知りたいと言う欲望と、果たして何週間、闘えるか・・・。

あんまり、自信ないなあ・・・。


ところで、「ごめん、~」と言う作品をこよなく愛している人たちを「ミサ廃人」と言うのだそうだ。

「ミサ」とはどういう意味なんだろうと調べてみた。

「ミアナダ サランハンダ」の略だと言うことが解った。

興味が出てくると、探究心も湧いてくる。(笑)


「ごめん、愛してる」・・・も、インパクトのある題名だけれど。

「ミアナダ サランハンダ」は、なんだか切なさを感じる。

果たして、この題名の持つ意味に、最終回で気付くだろうか?


ヨンジュンに対する私の「愛」は、「ごめん・・・」なんてものではなく。

「ねえ~めっちゃ好きなんだけど~」だろうな・・・・。

ちなみに私の友人のひとりは、「ごめん、~」を観て、ジソプssiのファンになり、ヨンジュンの公式HPより、はるかに高い年会費を払って、「ジソプHP」を見ている。

隠れファンなの・・・と言っていた彼女の気持ちが、7話を観て、ちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ解った。


            


おまけ映像↓

この人、歌じょうず!

本業は歌手・・・だっけ?いや・・・俳優に間違いないよね?

特に日本語で歌う部分必見・・・ならぬ必聴です。

ヨンジュンがこんな風に歌ってくれたら・・・泣くよ・・・。

 


2008/10/17 11:53
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑱・・・こちらは戯言創作の部屋

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【今までのあらすじ】
照明監督のインスと通訳のユキは、日本での仕事を通して、知り合います。
 
コンサート、打ち上げの日、熱を出して苦しむインスを病院に搬送したことから、ユキの看病が始まります。
 
退院の日、ユキと離れがたいインスは、ユキを会津に誘います。
 
会津に着くなり、今度はユキが風邪をひいて寝込んでしまいます。
 
自分のせいだと思ったインスは、心を込めてユキの世話をします。
 
そんな二人の間に特別な感情が芽生えて・・・。

            
☆なんと、3ヶ月ぶりにやっと続きを書きました。

今回は、「R」的描写も含まれていますので、「四雪」のインスのイメージを壊したくない方・・・または、その手のお話しは苦手だわ・・・と言う方は、ここで引き返してください。

          

     
「インスさんが・・・」と、言いかけたユキの唇を僕が塞がなかったら・・・。

ユキは、僕を好きだと言ってくれただろうか。

僕たちは、おかしいくらい幼い・・・ただ触れるだけのキスを交わした。

年がいもなく羞恥心を感じ、離れてからもユキと視線を合わせることができなかった。

ユキが無邪気に「これ、おいしそう」と言ってくれなかったら、僕は、ぎこちなさを解くために、もう一度ユキを抱き寄せていただろう。

僕が買ってきたコンビニのプリンをひと口食べると、ユキはまた同じ言葉を繰り返した。

「おいしい・・・インスさんも食べて・・・」

明らかに、数時間前とは違った空気が流れているホテルのこの部屋で、ユキもまた、ぎこちなさを解こうと必死になっていたのだった。

             

テーブルの上には、コンビニの袋に入ったサンドイッチ、ヨーグルト、チョコレート。

およそロマンチックな雰囲気とはかけ離れたその様子に、僕は、改めて自分の立場を突きつけられた思いがした。

ユキが言ってくれたかもしれない「好き・・・」と言う言葉。

その言葉を聞く資格は、まだ僕にはないのだと思った。

妻が離婚を申し立て、自分もそれに従う決心をした。

心は決まっていても、まだ、事実上、僕は妻帯者・・・と言う立場にいるのだった。

ユキに対する恋心が、本来なすべきことより先行していることに気が付いた。

「ユキさんに話したいことがあります」

ソファの隣に座っているユキを見ずに、僕は言った。

何でしょうか?・・・そう聞いてくれたら、スムーズに会話がすすんでいたかもしれない。

しかし、ユキは「私も・・・」とだけ言った。

またしても、沈黙が僕たち二人を包んだ。

ユキは突然、「サンドイッチには、コーヒーが必要よね。私買って来ます」と言って、立ち上がると部屋を出て行った。

             

ドアが閉まると同時に、僕は大きなため息をつき、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、一気に飲んだ。

空腹にビールの冷たさが染みた。

目の前のフルーツサンドをひと口食べて、またビールを飲んだ。

フルーツの甘さと、ビールの苦さが混じって、妙な味が口の中に広がった。

それを消すためにまたビールを飲んだ。

2本目の缶ビールを手にした時、ユキが戻って来た。

「コインが1枚しかなくて・・・1000円札が使えなくて・・・」

ユキは、コーヒーが1本しか買えなかったと僕に詫びた。

そして、「あら・・・ビール・・・?」と言ってクスッと笑った。

その笑顔がたまらなく愛しくて・・・。

僕は、ユキの腕を掴んで思い切り引き寄せた。

「ビール臭い・・・」

そう言いながらもユキは僕の腕の中でじっとしていた。

柑橘系のシャンプーの香りと、ほのかに漂う香水の匂いに僕の臭覚は刺激されて、もっと強く、ユキを抱きしめた。

             

「結婚してるんだ・・・」

ユキの耳元で僕は言った。

俯いていたユキが、僕を見上げた。

「解ってます・・・だから・・・?」

「だから・・・」

僕は、ユキが言った言葉を反芻した。

「好きになってはいけない・・・?それは私が決めることよね」

囁くように小さな声だったけれども、ユキは僕の目を見てそう言った。

つい先ほど、妻とのことが決着するまで、乗り越えてはいけないと積み上げたはずの壁が、脆くも崩れる音が聞こえた。

僕は、両手でユキの顔を包み込むと、さっきのような幼いくちづけではなく、渾身の思いを込めてユキと唇を重ねた。

理性も倫理観も姿を消し、ただ、ユキを離したくないと言う思いだけが僕を支配していた。

たった1本の缶ビールが、僕を性急な男に変えたとも思えないので、これが自分の本来の姿なのだと、僕は思った。

心の奥に潜んでいた熱情が、噴出す「時」を待っていたのだと思った。

ソファに座ったまま、僕たちは、長いキスを繰り返した。

お互いの思いが一致していると解った時、僕はいったんユキを離し、立ち上がった。

ベッドルームに続くドアのノブに手をかけて、後を振り向くと、僕をじっと見つめるユキがいた。

             

人を好きになると言うことは、時間を必要としないのか・・・。

長い間連れ添った妻よりも、今は、こんなにもユキが愛しい。

大切にしたいと言う殊勝な気持ちよりも、ユキを我が手に抱きしめたい衝動が抗えないほど膨らんでいた。

ソファから、ベッドルームに移動する間のわずかな時間さえもどかしく、僕は、再びユキを抱き寄せると、その体を横たえて、唇を重ねた。

僕の唇は、ユキの唇から、首筋へ・・・その行方が乳房の先端に行き着いた時、初めて、ユキの口から、声が漏れた。

残った衣類をユキの体から離し、僕も全てを脱ぎ捨てて、ユキに体を重ねた。

「罪」と言う文字が、ちらりと脳裏をかすめたが、すぐに欲望の渦の中に消えた。

まだ、「愛している」と言える段階ではないことなど忘れて、深く・・・深く、ユキと繋がるためにその言葉を繰り返した。



2008/07/31 07:37
テーマ:今日のひと言 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

Over The Reinbow

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暑さのせいで何もする気が起きないのと・・・。

夏休みということもあって、なんとなく日常がバタバタしているのと・・・。

滅入る事ばかりで、PCに向かって文字を打つも、気分的に乗らず・・・。

あらゆるサイトのヨンジュンのフォトばかりを眺めて過していた。


滅入る事ばかり・・・と言ったって、どれも取り立てて深刻なことでもない。

どこの家庭でも遭遇する単純なことなのだと思う。


例えば・・・ちょっと考え事をしながら、車をバックさせたら、家のカーポートにこすってしまった。

自宅の駐車場で、「接触事故」を起こしてどうする・・・と、自己嫌悪に陥ったが、2週間も過ぎると、ぶつけた箇所もたいしたことのないように思えてくる。


娘の自転車が盗まれたことだって、たかだか1万円くらいの損害。新しい自転車を買えば済むことなのだ。

だが、鍵をかけて、指定の場所に駐輪しているにもかかわらず、盗難に合うとはどういうこと?と、疑問が残る。


職場での「臨機応変」の意味の難しさ。

「臨機応変で・・・」というのは、指示する方は、いかにも便利な言葉だが、教わる方は意外と難しい。

それぞれの感覚が大きく関わってくるからだ。


風呂釜が壊れて、修理を依頼した。

今回は、無事に回復したが、次回は部品を取り寄せることはできないかもしれないと言われた。

「寿命」のひと言で、片付けられてしまうんだろうな・・・。


風呂釜と平行して、DVDプレーヤーも故障した。

これには、本当に落ち込んだ。

「太王四神記」は全て、消えてなくなってしまった。

放送開始半ば頃から、HDDから、DVDに落さねば・・・思っていたのだが、知識不足と忙しさを言い訳に行動を怠っていた。


実は、何度か試みたのだが、DVDに移行することができずにいたのだった。

詳しいことを書くと長くなるので、省略するが、結局、その頃から、DVDの内部のシステムに支障があったのだと、昨日、電気屋に言われた。


ペ・ヨンジュンのドラマが、全てボツになったことなど、他人から見たらそれこそ「そんなこと~」の出来事だろう。

しかし、昨日の私は、かなり落ち込んで、友人から、「秋に再放送があるよ」と教わるまで、44000円(DVDBOX代)の資金の調達方法を考えるしかないと思っていた。


そして、ますます気分が暗くなりそうなのは、これから一ヶ月、義母を我家に招くことだ。

お姑さんと同居している人から見たら、「たった一ヶ月でしょ!」と叱られそうだが、気の合わない義母と僅かでも生活することを思うと、ため息が出る・・・・。


ご両親を大切にする韓国という国。

姑と同居することなど、当たり前のこととして、韓国の女性たちは、捉えているんだろうか・・・。

この点を考えても、到底、ヨンジュンの嫁は私には勤まりそうもない。


さて、気分転換は、やっぱりヨンジュンの笑顔しかない。

韓国に帰国したというし、名古屋ゴシレ・・・来てくれるかな。

こういう時、ヨンジュンがいてくれてよかった・・・と心から思う。


「Over The Rainbow」

日々の悩みや辛いことを乗り越えてこそ、虹が見えてくるのかもしれない。


              



              





2008/07/14 15:47
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑰・・・こちらは戯言創作の部屋

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「コーヒーだけでいいです」私は無愛想に言った。

わざわざ最上階のレストランまでバイキングを食べに来るほど、食欲があったわけではなかった。

しかし、「ひとりで行ってください」と言うのも、悪いような気がして彼に付いて、ここまで上がって来たのだった。

バイキングの料理を選んでいる間も、彼は、韓国人の彼女と楽しそうに話していた。

通訳の仕事を失った私は、ずっと、ひとりで座っていた。

本当にコーヒーしかほしくなかった。

なのに、「何か食べないとダメですよ」と言って、彼は私の前にヨーグルトと、トースト、それに数種類のフルーツとスープを置いた。

「せっかく彼女が選んでくれたんですから・・・」

彼は、他のお客に料理の説明をしている彼女の方を向いてそう言った。

彼のその言葉はさらに私を無愛想にさせた。

「それでは、ごゆっくり・・・」と、笑顔を残して、彼女は自分の仕事に戻って行った。

「スープが冷めますよ」

コーヒー以外の何かを口にしない限り、同じことを何度も言われそうなので、私は、スープの入ったカップに口を付けた。

                                 


「それにしても、よく降りますね。今日は何をして過しましょうか?」

韓国語が解るスタッフがホテルにいると言うことが、彼の気分を軽くしたのだろうか。

彼はにこやかに雪の日のホテルでの過し方を提案した。

プール、ビリアード、トレーニングジム・・・スポーツ系の施設をいくつか言ったあと、「ユキさんには、どれも無理ですね」と言った。

後から思えば、体調が万全でない私の事を気遣ってくれた言葉だったのだが、その時は、「君にはどれもできそうにないなあ」と言っているように思えた。

それに全てが、彼女のアドバイスであると思うと、気分的に賛成しかねたし、体を動かして、汗を流す気にはなれなかった。

「リラクゼーションフロアで過します」

『波の音とすてきな香りに包まれて・・・癒しの時をお過ごし下さい』

私は、先ほどエレベーターの中で見た、ポスターを思い出してそう言った。

「エステですか?」と言って、彼は小さく笑った。

                                   


結局、私はリラクゼーションフロアへ、彼は、温水プールへ行くことになった。

「水着はレンタルのものがあるらしいから、心配しないで下さい」と言った。

リラクゼーションフロアと言うだけあって、そこはあらゆる設備が整えられた癒しのスペースだった。

サウナ、ジャグジー、エステルーム、ネイルサロン、小さな美容室まで完備されていて、私は驚いた。

夕べ温泉に入り損ねた私は、ジャグジーの泡のお風呂に身を沈めて、ゆったりとした気分を味わった。

突然、髪をカットしようと思い立ち、美容室にも行き、ネイルサロンで爪を染めてもらった。

彼とは、昼までには戻りましょうと約束していた。

時計を見ると、まだ、11時を少し過ぎたばかりだった。

リラクゼーションフロアのロビーで、コーヒーを飲みながら、ピンク色に変わった爪を見つめた。

ほんの少しだけれど、髪を切ったことに彼は気付いてくれるだろうか・・・。

自然にプールへと足が向いた。

硝子越しに、ひときわきれいなフォームで泳ぐ人が見えた。

ゴーグルを外すまで、それが彼だと気付かなかった。

プールサイドに上がった彼が向かう先に視線を移すと、そこには韓国人の彼女がいた。

プールサイドには似つかわしくない制服姿の彼女。

その目の前に、最小限度と思えるような小さな水着を着けた彼が、惜しげもなくその体を晒していた。

逞しい胸の筋肉と、太い腕は、硝子越しの遠目で見てもはっきりと解った。

二人の会話はここにいては聞こえない。

楽しげな様子だけが伝わってきた。

痛いくらいに湧き出していたジャグジーの飛泡。

全身マッサージが気持ちよくてうとうとしてしまったこと。

カラフルなマニキュアを前にして、散々迷ったこと。

話したいことがたくさんあったのに・・・。

私は居たたまれない気持ちになって、その場を離れた。

                               


部屋のドアを開けると、室内に彼の香りが漂っていた。

窓辺のテーブルの上に無造作に置かれた彼の腕時計。

それを手に取った時、わけもなく涙がこぼれた。

髪を切ったことも、爪をピンクに染めたことも、彼のためだったのだと、その時初めて気が付いた。

従業員とお客とのたわいない会話・・・そう思えば心が騒ぐこともないのに・・・。

なぜか、涙がとまらなかった。

昼を過ぎても、彼は部屋には戻ってこなかった。

雪は朝よりも小降りになったもののまだ、降り続いていた。

12時30分近くになって、部屋のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、寒そうな顔をした彼が立っていた。

「こういうものなら、食べられるかなと思って。駅まで宿泊客を迎えに行くというホテルのバスに便乗させてもらいました」

そう言いながら、彼は、コンビニの袋を差し出した。

「髪を切ったんですね・・・とてもよく似合います」と、彼が笑顔で言った。

乾いた涙が、再び頬を伝いそうになるのを必死に我慢して、私は夢中で彼の胸にしがみついた。

突然の私の行動に、彼は驚いたのだろう。

「どうしました?」と心配そうに聞いた。

「あなたが、もう・・・ここに戻ってこないんじゃないかと思って・・・」

私は、彼の胸に顔をうずめたまま、正直な気持ちを口にした。

しがみついた私の腕を自らの手で引き離すと、「ここに戻らず、どこに行くんですか?」と、彼は私の目を見て言った。

「あなたが・・・インスさんが・・・」

好きなんです・・・と言おうとした私の唇に、彼の唇が静かに落ちてきた


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