2008/06/30 12:03
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑯・・・こちらは戯言創作の部屋

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カーテンの向こうには、銀色の世界が広がっていた。

会津地方は、雪が多いと聞いていたが、ひと晩でこんなにも積もってしまうなんて思ってもいなかった。

「これでは、観光どころではないですね。でも・・・雪が止んで、観光バスが出るようでしたら、私に構わず、出かけて下さい。せっかく、会津に来たんですから」

そう言いながらも私は、この雪は、きっと夜まで降り続くだろうな・・・と思った。

 

彼も、そう思っているのだろうか?

「そうします」とも言わず、黙って、雪を見ていた。

熱は平熱に戻っていたが、気だるさがまだ残っていた。

 

トイレに行こうと思い、ベッドから降りようとして、足元がふらついた。

彼が、「大丈夫ですか?」と、手を差し伸べてくれた。

浴衣は、胸元と裾が乱れて格好が悪い。

トイレに行くよりも着替えが先だと思った。

 

隣の部屋へ行って、クローゼットの中から、バッグを掴むと、「着替えをしますので」と断って、私は寝室の襖を閉めた。

ツアー中、パジャマ代わりに着ていたスエットに着替え、トイレで用を足して洗面所で顔を洗った。

鏡に顔色の良くない私が映っていた。

だからと言って、化粧をする気にもなれず、ほのかに色のつく、リップクリームを塗って、私は洗面所を出た。

 

                       

「こんな格好で、すみません」

スエット姿のことだけでなく、化粧っ気のない顔でいることも含めて、私はそう言った。

「そんなことは気にしないで下さい。楽な服装で、今日は一日寝ていた方がいい」と、彼は言った。

 

「それよりも、おなかがすいたでしょう?夕べは、夕食もあまり食べていなかったし・・・」

彼の言うとおり、昨日の晩は、ご馳走を前にしても、食欲が湧かなかった。

朝食は、最上階のレストランでバイキングと決められていた。

7時からだから、もう間もなく、朝食の準備が整ったと言う、館内放送が流れるはずだ。

 

熱いコーヒーが飲みたいと思った。

冷蔵庫の中のミネラルウォーターを電気ポットに入れて、お湯を沸かし、インスタントのコーヒーを淹れた。

「コーヒーを飲んで大丈夫ですか?」

「ええ・・・朝、コーヒーを飲まないと、目が覚めなくて・・・」と私は答えた。

 

私はカップを持ったまま、窓辺に寄って、空を見上げた。

彼も同じ様に、私の隣でコーヒーを飲みながら、降り続く雪を見ていた。

特別、話すこともなく、ただ静かに時間が流れていくことが、心地よかった。

 

                          

「今日もこの部屋で過せるように、ユキさんから、係りの人に言ってください」

 

韓国語を覚えて数年経ち、いまはそれを職業としている。

しかし、韓国語の微妙なニュアンスの違いに時々、と惑うことがある。

 

当初は・・・というより昨日まで、私は今日、会津を発つつもりでいた。

家を留守にしてだいぶ経っているし、仕事のことも気になっていた。

それにも増して、いくら「通訳」の為といっても、恋人関係にない男性と何日も一緒にいるのはやはりおかしいと、感じていたからだ。

 

だが、こんな事態になって、今日はとても長時間電車に揺られて、帰宅する気にはなれなかった。

今夜もここに泊まるとしたら、予約の延長をするか、部屋を替わらなければならない。

「今日もこの部屋で過せるように」という、彼の言葉には一体どんな意味があるのだろう。

 

昨夜、あと2泊3日滞在する彼のために、シングルルームを予約した。

僕はそっちに移るから、君は一人でここに残りなさい、ということなのだろうか?

それとも、このまま一緒にこの部屋で過そうということなのだろうか?

 

もしも、後者なら、彼に必要以上の宿泊代を負担させてしまうことになる。

それに、「一緒に泊まろう」と言われて、「はい、そうします」と即座に答えるのもおかしなものだと思った。

私は、前者の解釈が正しいと判断し、「今夜はひとりでこの部屋に泊まる」と、彼に話した。

 

                           

あっさり承諾してくれると思っていたのに、「僕と一緒にいるのは嫌ですか?」という答えが返って来た。

「いえ、けしてそういうわけではなく・・・」と、私はどう答えたらよいのか解らず、口ごもった。

「僕の存在が迷惑ですか?」と、再び彼は聞いた。

だからそういうことではなく・・・と、私は同じ言葉を反芻した。

 

「ユキさん・・・」

私の腕に手を伸ばす彼の姿が、曇ったガラス窓に映った。

「迷惑だったら、僕はシングルルームに移ります。ただ・・・気分のすぐれないユキさんが荷物をまとめて、別の部屋に移動するのは、大変だろうと思って・・・。誤解しないで下さい。それが、僕の・・・本心です」

彼は、私の目を見てそう言った。

 

その時、室内の電話が鳴った。

一瞬、私たちは顔を見合わせ、私は、掴んだ彼の手を振り解いて、受話器を取った。

電話は、フロント係りからだった。

 

「おはようございます。朝早くからすみません。お加減はいかがでしょうか?今、係りの者がお部屋まで伺いますので・・・」

受話器を置くのと同時くらいに、部屋のチャイムが鳴った。

 

彼が僕が出るから・・・という仕草をしてドアを開けた。

聞こえてきたのは、若い女性の軽快な韓国語だった。

「昨日は、ご不便をおかけして、申し訳ありませんでした。今日は、私がおりますので、何でもおっしゃってください」というようなことを言っている。

それに対して彼は「助かります。ありがとう」と、答えていた。

 

ちらりと見えた彼は、本当に安堵したという表情で、にこやかに話していた。

私はなんとなく、出て行くきっかっけを失って、挨拶もできずにいた。

彼が、この部屋を引き続き使っていいかどうかを聞いている。

 

「それでは、シングルルームはキャンセルということで、よろしいですね?」と、客室係りの韓国人女性が聞いた。

「いや・・・ここに残るのは彼女ひとりで・・・」

僕は、別の部屋に移ります、という彼の言葉を待たず、私は言った。

「二人で、あと二日・・・ここに滞在します」

 

彼が驚いた顔で振り向いた。


2008/06/06 18:23
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑮・・・こちらは戯言創作の部屋

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最後の一杯をコップに注いだ時には、心地よい眠気と、酔いを感じていた。

ベッドに入って、横になろうかな・・・と、イスから立ち上がりかけた時、背後で、襖の開く気配がした。

「どうかしましたか?」

僕がそう言ったのは、明らかに君の様子が変だと感じたからだ。

しかし、君は「何でもありません」と答えると、クローゼットから、バッグを取り出した。

 

「・・・・」

君が何か、言ったような気がしたが、僕は聞き取ることができなかった。

バッグの中を覗き込み、何かを探している様子が気になって、僕はもう一度、君に声をかけた。

「薬を・・・」そう言うと君は大きなため息をついた。

「薬を探しているんですが・・いつも、必ず持っているのに・・・こんな時に限って・・・」

君は独り言のように呟くと、また、ため息をついた。

 

「インスさん・・・」僕の名前を言いながら、立ち上がったとたん、君の体が小さく揺れた。

慌てて差し出した僕の腕が感じたものは、異常に熱い君の体温だった。

薄手の浴衣を通して感じられた熱さ・・・それは普通ではなかった。

「フロントに行って、薬をもらって来て下さいますか。今、紙に書きますから・・・」

 

君は手帳のページを破って、僕に渡した。

「とにかく、横になって下さい。すぐに行って来ますから」

君をベッドに寝かせて僕はフロントへと向かった。

メモを渡してから、係りの者が戻ってくるまでの時間が、とても長く感じられた。

薬を手渡される時、日本語で何かを言われたが、僕には理解できなかった。

 

         

 

薬と体温計を受け取って、僕は急いで部屋に戻った。

薬の粒を確めると、君はコップの水と一緒に一気に飲み込んだ。

「ごめんなさいね。ちょっと疲れたりすると、熱を出してしまう時があるの。それに少し風邪をひいたみたい・・・。今日、寒かったものね・・・」と言って、君は小さく笑った。

 

君を見つめる僕の表情が、深刻そうに見えたのだろうか。

「薬を飲んで、眠れば治るから・・・。心配しないで下さい」と、君は言った。

酔いも、眠気もすっかり消えていた。

 

高熱を出した僕の世話をしてくれたこと。

寒い会津の町を一緒に見て回ってくれたこと。

それらが、今、君を苦しめている原因なのだと僕は思った。

「僕で、できることだったら何でもしますから・・・」

そう言うのが精一杯だった。

 

「大丈夫です。本当に・・・。眠れば良くなりますから・・・。あ・・・ひとつお願いしてもいいですか?」君は遠慮がちに言った。

「なんですか?何でも言ってください」

「ペットボトルの飲み物を・・・できれば、スポーツドリンクのようなものを買ってきてもらえますか?夜中に喉が渇いて、目が覚めるかもしれないので・・・」

部屋に備え付けられている冷蔵庫には、お茶と水はあったが、スポーツドリンクは入っていなかった。

「ホテルのどこかに自動販売機があると思うの・・・。ごめんなさい・・・こんなこと頼んで。」

「気にしないで下さい。すぐに行って来ますから」そう言って、僕は、寝室を出た。

 

だが、確かにどこかで見かけたはずの自動販売機の場所が思い出せない。

落ち着いて、思い出さなければ・・・と思いながら、とりあえずエレベーターに乗って、1階のボタンを押した。

エレベーターを降りて、辺りを見回したが、自動販売機はどこにもなかった。

「自動販売機はどこですか?」

こんな簡単な日本語さえ、僕は解らない。

なんだか情けなさで、胸がいっぱいになった。

 

その時、エレベーターが開いて、風呂上りと思える男性が降りて来た。

そうだった・・・!温泉に入った時に出口の所で、自動販売機を見たのだと思い出した。

寝室に戻って、ベッド脇の小さなテーブルの上にペットボトルを置くと、君は「ありがとう」と言い、「インスさんも寝てくださいね」と言った。

「タバコを一本吸ってから・・・」と答えたものの、今夜は眠れないだろうな・・・と思った。

 

         

 

ふと、目が覚めた。

外はまだ薄暗い。

時計を見たら、間もなく6時になるところだった。

夕べは、気分を落ち着かせるためにタバコを吸って、ベッドに入った。

静かに寝息を立てている君の寝顔を見ながら、僕も、いつの間にか眠ってしまった。

 

ベッドの中の君は、まだ眠っていた。

そっと、ベッドから抜け出して、恐る恐る君の額に手を充ててみた。

気配を感じて、君が静かに目を開けた。

「すみません。熱が下がったかと・・・気になって。起こしてしまったみたいですね。」

「今何時ですか?」

「6時です。もう少し、眠りますか?」

「大丈夫です。インスさんのおかげで、良く眠れました。夕べはありがとうございました。」

そう言うと君は、ベッドサイドに置かれたペットボトルを見て、「せっかく、買ってきてもらったのに、一口も飲んでいないわ。」と言った。

 

僕がキャップを開けて、「飲みますか?」と聞くと、君は小さく「ええ・・」と頷いて、僕の手から、ペットボトルを受け取り、おいしそうに飲んで、笑顔を見せた。

一口飲むたびに君の喉が上下に揺れる。

浴衣の胸元から見えるその様子が、妙にセクシーで・・・。

不謹慎な思いを振り払うかのように、僕は、勢いよくカーテンを開けた。


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