2008/11/29 15:40
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)№21・・・こちらは戯言創作の部屋

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私の後を追って、インスが寝室に入って来てくれたら・・・。

そして、「僕が言い過ぎた・・・ごめん」と言ってくれたら・・・。

私だって、素直に謝ることができたのに。

インスは、ひとりで出て行ってしまった。


「おなかが空いたら、コンビニまで走るよ。1時間経っても僕が戻らなかったら、迎えに来て」

夕食を食べながら、そんなことを言って、私を笑わせたインス。

すでにインスが部屋を出てから、1時間以上が経過していた。

深々と降り続く雪の中で、佇むインスの姿が浮かんだ。


私は、寝室のドアを開け放し、ルームキーだけを掴んで部屋を出ると、エレベーターに向かって走った。

とりあえず1階まで下りて、フロント係に外出した人はいないかを尋ねようと思った。

まだ、8時を過ぎたばかりと言うこともあって、1階のロビーは、湯上りの客や、スキー客でにぎわっていた。

「私は、6時過ぎからここにいますが、外出されたお客様は、ひとりもいらっしゃいません。この雪では・・・出かけると言っても・・・」と、若い男性職員は答えた。


「連れが・・・戻らないんです。もう、1時間以上も・・・」

私のうろたえる様子が、男性職員に通じたのだろう。

カウンターの背後の「STAFF ONLY」と書かれたドアを開けると、中にいる職員を呼んだ。

出てきたのは、インスとも会話を交わしたことのある、あの韓国人女性だった。

              


「お連れ様なら・・・先ほどからずっとあちらに・・・」

彼女が指し示した先は、私の立っている場所からは、太い柱で死角になっていて見ることができない場所だった。

カウンターの端に寄って、後ろを振り向くと、確かに・・・彼女の言うとおり、インスの背中が見えた。

「ありがとう・・・」

私は彼女に礼を言うと、インスの側に駆け寄った。


インスは、ガラス越しに降り続く雪を見つめていた。

突然現れた私の姿が、ガラスに映ってインスの視界に入った。

「ユキ・・・」

驚いた表情でインスが、私を見上げた。


「何してるの?こんなところで・・・」

インスを見つけられたことで安心したはずなのに、涙がこぼれた。

「ひどいじゃないの・・・勝手に一人で出て行って・・・」

私は、インスの前に跪くと彼の膝にしがみついた。

「どこに行ったのかと・・・心配したのよ・・・」

インスは「ごめん・・・」とひと言言うと、私の髪を優しく撫ぜた。


「君を傷つけるようなことを言ってしまった・・・」

私が言わなければならない言葉をインスから聞いて、さらに涙が溢れた。

「立って・・・ほら、人が見てる」

インスに支えられて、私は傍らのいすに腰掛けた。

浴衣姿の小さな子供が、不思議そうな顔で私を見ていて、母親があわてて手を引いて行った。


気恥ずかしくなって、うつむいている私の顔を覗き込むようにして、「僕たちも温泉に入ろうか?」と、インスが言った。

「ここに来て、君はまだ、一度も温泉に入っていないだろう?」そう言うと、ちょっと待ってて・・・と言って、立ち上がった。

インスは、カウンターに歩み寄ると、韓国人の女性職員とひと言ふた言言葉を交わし、私を呼んだ。

にこやかに笑いかける彼女の顔は、「仲直りできましたか?」と言っているようで、私はさらに恥ずかしさがつのった。

               


インスに手を引かれて、エレベーターに乗ってからも、私たちはずっと手を繋いでいた。

部屋に戻るとすぐに、インスはクローゼットの中から、ふたり分の浴衣を取り出した。

「湯上りにこれを着るの?」と私が聞くと、インスは当然と言うような顔で頷いた。

大浴場の入り口には、「湯」の字が染め抜かれた紺色と赤色の暖簾が掛けられ、男女の区別がされていた。


「中に時計はあるかしら?」

私は、何分後にここに戻ればいいかしら、と言う意味でそう言った。

インスは、「時計なんて必要ないさ・・・」と言うと、紺色の暖簾を通り過ぎて、少し行ったところの木戸の前で止まった。

鍵穴に鍵を差込み、木戸を開けると小さな靴脱ぎがあって、その先にやはり小さな脱衣場があった。

インスは後ろ手に木戸を閉めると、施錠して「これで誰も、入ってこられない」と、言った。


脱衣場のガラス戸の向こうに何があるのか、私でさえ容易に想像できた。

インスが、連れて来たのは家族専用の小さな露天風呂だった。

一緒にお風呂に入るなんて、私には絶対無理・・・。

私は心の中でつぶやいた。

そんな私をよそにインスはすでに上半身裸になり、筋肉質の背中が私のすぐ目の前にあった。

何をしたらこんなに逞しい体が作れるんだろうと、私は漠然と考えていた。

                


「どうしたの?早く脱いで」

インスが、ズボンのベルトをはずしながら、私を見て、そう言った。

早く脱いで、ですって?だから・・・ダメ、絶対にダメ!

私はまた、同じことを心の中で叫んだ。


インスは、再びくるりと後ろを向くと、最後の一枚の下着を脱いで、露天風呂に続くガラス戸を開けた。

立ち上る湯煙の中に、インスの引き締まった裸体がギリシャ神話の彫刻のように浮かび上がっていた。

インスが、ガラス戸の向こうに消えても、私はまだ、持ってきた浴衣を抱えて、立ち尽くしていた。


インスは、湯につかりながら、困惑した私の様子を思い浮かべて楽しんでいるかもしれない。

それとも、子供じゃあるまいし何をいまさら恥ずかしがっているんだ・・・と、呆れているかもしれない。

そんな思いが頭の中に渦巻いた。


「ユキ、星がきれいだよ」

ガラス戸越しにインスの声が聞こえた。

雪が降っているのに、星なんて見えるのかしら・・・そう思いつつも、夜空を彩る満天の星は大いに興味を誘った。

「私が、そこに行くまで、絶対に振り向かないと約束して!」

私は、ガラス戸をわずかに開けると、インスに向かって言った。

「約束するよ・・・だから早くおいで」


私はタオルで体を隠して、ガラス戸を開けた。

向かって左側にインスの後姿が見えた。

               

私は、わざと、インスとは反対側の位置から浴槽に入り、身を沈めた。

夜空を見上げると、インスの言ったとおりいくつかの星がきらめいていた。

舞い落ちる雪と控え目に輝く数個の星。

小枝をわずかに揺らす風と樹々の上に降り積もる雪。


「もっと、近くに・・・」

インスが、私を呼んでいる。

私は、もう少しこの自然が生み出す美しさを眺めていたくて、聞こえないふりをしていた。


「ユキが来ないなら、僕が行く」

タタミ4畳分の広さしかない浴槽の中で、抵抗しても逃げられるわけもなく、私はあっという間に逞しいインスの腕の中に閉じ込められてしまった。

眼鏡をはずしたインスの眼差しは、どこまでも透明感を漂わせ・・・。

茅葺の小さな屋根から零れ落ちる雪片が、インスの前髪できらきらと輝いていた。



2008/11/27 08:18
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑳・・・こちらは戯言創作の部屋

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インスが話しの糸口を探している様子が窺えた。

何から話したらいいのか、迷っているのだと思った。

私が、言葉を発しない限り、この沈黙は永遠に続きそうな気が

した。


「おおよそのことは、知っていました」

私は、遠慮がちに言った。

グラスを運ぶ手を止めて、インスは私を見た。

無言だったけれど、何を知っているんだ?と言っているのが解

った。


「左手に指輪があったから・・・結婚していることは、最初から

解っていました」

インスはそっと右手で左手の指輪を撫ぜた。

「入院した晩、家族に連絡をしましょうかと、私が尋ねた時、あ

なたは、いいえ・・・と、そう言いましたね」

インスは、黙ってうなずいた。

「そのことがとても気になって・・・。翌日、Oさんに聞きました」


奥さんは、仕事を持っていて多忙であること。

帰宅時間が遅く、夕食の仕度もままならないこと。

私は、O氏から聞いたことを話し、夫婦関係が円満ではなさそ

うだと、O氏が心配していたと付け加えた。




            


「それで・・・?」

インスはつぶやくように問いかけた。

「それで・・・」

余計なことを聞いてしまったと後悔しました・・・と、言おうとした

私の言葉を遮るように、「同情した・・・。」とインスは言った。

「哀れに思った・・・。」

「哀れに思って、会津まで同行した・・・。」

先ほどのつぶやくような声とは違って、インスは矢継ぎ早やに

断定的な言い方をした。


「君の想像通り、僕は、哀れな男だよ。妻に男ができたことも

気づかず、気づいた後も、世間体のため夫婦関係を継続しよ

うと、けなげに努力した」

「妻に離婚届を突きつけられてもだ・・・」

「僕は、何も悪いことはしていない。なのになぜ、こんな仕打ち

を受けなければならないのだ・・・と妻を恨んだ」

「憤りを抱えたまま、僕は日本に来た」

「ひとりになって考えてみると、胸の中の憤りの原因は、踏み

にじられた愛情ではなく、傷ついた夫としてのプライドと意地な

のだと思えた」

「そんな時、君に出会った。心の片隅に明かりが灯ったような

気がした」

「自分でも驚くほど素直になれて・・・僕は君を会津旅行に誘っ

た。君と一緒にいたいと思った」

「妻との関係がダメになったから、君に近づいたのだと思われ

たくなかった」

「だから、言えずにいたんだ」

無口なはずのインスが、言葉を選ぶ余裕もないほど、一気に

話しているのを、私は黙って聞いていた。





「哀れな僕に同情し、会津まで来た。そして、慰めるつもりで僕

に抱かれた・・・?」

「違う・・・」

私は、初めて口を挟んだ。

「違う・・・わ。確かに最初は同情から、あなたの面倒を見ようと

思った。でも、それは、奥さんとのことで同情したのではなく、

異国の地で体調を崩してしまったあなたが気の毒になったか

らよ」

「気の毒に感じて会津まで来た・・・」

インスは、私の横顔をちらりと見ながら言った。


「言葉のわからないあなたが心配だったことも事実です。で

も・・・一緒に行こうと決めたのは、あなたに好意を持っていた

からです」

同情した、哀れんだなどとは、誤解だと私は言いたかった。

おそらくインスは、夫婦関係を覗き見するような私の行動を知

って、苛立っているのだろうと思った。

だが、決め付けたような言い方は私にとって心外だった。

インスは、それに対して詫びる様子もなく、無言でいることに

私も苛立ちを感じ始めていた。




「ベッドをともにした理由も言わないといけない?」

私はわざと棘のある言い方をした。

「聞きたい」とインスは言った。

「興味よ・・・興味と・・・好奇心・・・」

心にもない言葉が口を突いて出た。

「Kしか知らない私の体が、他の人に対して、どんな反応を見

せるのか・・・興味があったの」


「それで・・・?どうだった?昔の男と僕と・・・どっちがよかっ

た?」

わずかな言葉の行き違いが、互いの心から冷静さを失わせ

た。

言うべきことではない言葉を生み、それぞれの心を傷つけ合っ

ていた。

私は、グラスに残ったワインを一気に飲み干すと、寝室に駆け

込んで、勢いよくドアを閉めた。

Kのことを「昔の男」と言われたことも悲しかった。

だが、それ以上に、素直になれない自分が悲しかった。

インスが外に出て行く気配がした。

閉まる扉の音が大きく響いた。



2008/11/19 18:39
テーマ:今日のひと言 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「休ブ届」

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日々の出来事を綴る「ブログ」をしばらくお休みしようと決めました。


決めた理由はいくつかありますが、ブログに寄せられたレスで傷ついたとか、そういうことではないということをまず、お伝えしておきます。


別に、改まって「休ブ宣言」しなくても・・・。

とも、思いましたが、それが、今まで暖かいコメントを寄せてくださった多くの方に対するエチケットだと思いました。


先週末、ブロコリに対する今後の希望、要望を意見交換しようという場所を提供してくださっている方がいることをはじめて知りました。

そう言えば、さらに何日か前、私の元にも「ぜひ、意見を・・・」と、レスが入っていたことを思い出しました。


そのような大事なレスを流してしまったことを反省するとともに、時間的余裕を失くしていることに気づきました。


誰に頼まれたわけでもなく、好きでやってきた「ブログ」ですが、たくさんの人の目に触れると思うと、言葉選びも慎重になります。

堅苦しく考えず、気楽に書こうと始めましたが、自分の部屋という意識を持つようになると、「ま・・・これでいいか・・・」では、済まされなくなってきました。


フォトは、より良いものを・・・と吟味し、文章の言い回しを何度も読み直してチェックしていると、あっという間に時間が過ぎていきます。


けして義務ではない「ブログ」の更新。

それが、なんとなく「書かなくちゃ」という思いに捕らわれると、本来の「楽しみながら書くブログ」の、私の趣旨からどんどん遠ざかって行く気がして・・・。


「ブログ」を書くことに費やしてきた時間を、一時返上して、「太王四神記」ををもう一度、最初から観てみたい・・・。

ブロコリブログのそれぞれのお部屋を駆け足ではなく、ゆっくり訪ねたい・・・。

「創作」サークルの先輩たちの創作をもっと楽しみたい・・・。


そして、現在進行中である「創作」の完結を年内と決め、それを達成したい・・・。

このようなことが「休ブ」を決めた理由とご理解ください。


当分の間は、どうしても何か語りたくなったら、どなたかのお部屋に、レス・・・という形で、残したいと思っています。



さて、報告は以上とし、昨日の忘年会のことを少し。

ヨンジュンにどんなに夢中になっていても、一応は主婦の集まり。

12月は、横浜でクリスマスイベントもあることですし、11月に忘年会を・・・ということになりました。


場所は、赤坂の中国料理店「星が岡」。

幹事の計らいで、ヨンジュンが二度目の来日の時お世話になった柿沼氏とお会いすることができました。

あの日のヨンジュンの様子を、身近で見た柿沼氏のお話は、感動に値するものでした。


来月も「星が岡」でオフ会を予定しているため、参加予定者の楽しみを奪ってしまうと申し訳ないので、詳細を書くことは、控えます。


柿沼氏のお話に興味のある方は、ぜひ一度、「星が岡」に足を運ばれることをお勧めします。


最後に、昨日の忘年会におきまして、企画の段階から、お世話してくださった2名の幹事さんへ、感謝の言葉を申し添えたいと思います。

お世話様でした・・・そしてありがとう。


            






 


2008/11/15 11:40
テーマ:今日のひと言 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

50年前のユニフォーム~進む勇気~

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50年前の高校球児ってこんなに小さかったの・・・?

息子が持ち帰った古いユニフォームを見てそう思った。

息子の高校の野球部OBが亡くなって、葬儀に出席するために、どうやらこのユニフォームを着用するらしい。

こういうものを見ると、「伝統校」の重みを感じる。


エースの座に定着できず・・・それでも、一日も欠かさず、練習に励む息子を見ていて、将来のことをどう考えているのだろうと問いかけたくなるのを、今はぐっと我慢している。

尋ねたって、明確な回答は得られないだろうし・・・。


母は、いまだに未練たらしく、「お遊び程度の部活でよかったのに・・・」と、口に出しては息子に「またそれかよ・・・」と言う顔をされている。

選ぶ学校を間違えたのでは・・・と思っているのは、母だけで、息子は、ひとつも後悔していないのは、間違いないようだ。


考えてみたら、母親なんてものはとても無力なものに思える。

一緒に走ることもできないし、キャッチボールの相手にもならない。

それでも、「いつも君の応援団長だよ」という気持ちだけは、息子に伝えたいと思うのだが・・・それもままならない。



昨日は、幼稚園時代の友達のお母さんと久しぶりにランチをした。

私学に進み、すでに予備校通いをしている子。

バンド活動に励んでいる子。

息子と同じように野球部に所属する子。

バイトに精を出している子。


それぞれがそれぞれの個性を発揮して、高校生活を送っているが、母たちの心の中には、いまだに○○さんちの○○君が、住んでいる。

必要以上の会話がないのも同じなら、何を考えているのか理解に苦しむ場面に出くわすのも同じ。

うちの息子だけじゃないんだ・・・と思うとちょっと安心したりして・・・。


時には、ぺ・ヨンジュンを離れて、いまだに子育て奮闘中の現場の声を聞くのも楽しい。


        


傷つきながらも、「進む勇気」を手放さない。

「決してあきらめずに」生きることこそが、自分を産んでくれた

親への感謝だと信じているから。(さだまさし談)



2008/11/07 10:17
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「朝月夜」(アサヅクヨ)⑲・・・こちらは戯言創作の部屋

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かすかな物音にはっとして、目を覚ました。

隣にいるはずのユキがいないことに気付いて、僕は、傍らに置かれたシャツを掴み、ベッドから降りて隣室に通じる扉を開けた。

かすかな物音は、化粧室から聞こえてくるヘアドライヤーの風の音だったのだと解った。


窓から、外を見ると、辺りはすでに夕方の気配が漂っていた。

ソファに腰掛けて、タバコに火をつけた。

ユキとひとつになれた喜びに浸っていたくて、ベッドから離れようとするユキを引き戻して、背後から抱きしめた。

ずっと、このまま・・・と願い、ユキのうなじの香りを楽しみながら、目を閉じた・・・。

記憶はそこで途絶えていた。


やがて、ドライヤーの音が止んで、化粧室から出てきたユキは、化粧をし、身支度もすっかり整えていた。

ユキが僕の腕をすり抜けたことさえ気付かず、眠ってしまったことが、ひどくはずかしく思えた。

「ごめん・・・。眠ってしまった・・・」と僕は、言った。

「夕べは私のせいで、ほとんど寝ていないでしょう?」

だから気にしないで・・・と、ユキが言った。


かすかに漂う石鹸の香りに、欲望が再び目覚めるのを感じた。

それを振り払うように、僕は、シャワー室に入った。

熱い湯を全身に浴びながら、ユキと交わした時間を思った。


少しばかりの後ろめたさは、ユキの吐息と肌のぬくもりが忘れさせた。

ひたすら責め続ける僕と・・・それに応えてくれたユキ。

ユキの中で、果てた時の快感と、背中に感じたユキの手の力強さ・・・。

様々な情景が甦って、僕の心は、喜びに満ちていた。


              


用意されたバスローブに袖を通して、浴室を出た。

ユキは、ソファに座ってコーヒーを飲みながら、テレビ画面を見つめていた。

「見て!見て!昨日見た、会津のお城が映っているの」

ソファ越しにユキの背後から、テレビ画面を覗いた。

無数のろうそくの炎が揺らめいて、ユキと訪れた鶴ヶ城を照らしていた。


昨日のことなのに、ユキとあの場所にいたことが、ずいぶん昔のことのように感じられた。

それは、短時間で接近した僕とユキの関係のせいかもしれないと思った。

ユキの肩に手を置いて、耳元で「愛してる・・・」と、囁いた。


お返しの愛の言葉の代わりにユキは「おなかすいたでしょう?」と、現実的なことを言った。

昼食に、サンドイッチを一切れしか食べていない僕を気遣ってのことだった。

「夕食を早めにと、お願いしておきます」と言って、部屋の電話の受話器を取った。


空腹感よりも僕の心はユキのことでいっぱいだった。

湯上りの気だるい気分のまま、受話器を置いたユキを僕は抱きしめた。

バスローブ一枚を羽織っただけで、胸元が露出している僕を見て、「早く着替えをして下さい。目のやり場に困ります」と言った。

そんな他愛のない言葉さえも、今の僕には愛しく感じるのだった。


               


最上階のレストランで、少し早めの夕食を済ませて、僕たちは部屋に戻ってきた。

「こんなに早く夕ご飯を食べたら、夜中におなかがすきそうだ。そうなったら、また、コンビニまで走らないといけない」

僕は、そう言ってユキを笑わせた。

「こんなに雪が降っているのに?」

「1時間たっても僕が戻らなかったら、探しに来てくれる?」

「その時は、救助隊を呼ぶわ」


レストランで食事をしている時は、冗談も出たのに、二人きりの空間に戻ると、張り詰めた空気が漂う。

僕は、「少し飲もうか・・・?」と言って、冷蔵庫から、ワインのボトルを取り出した。

ユキとベッドルームに入る前に交わした言葉・・・。

「話しがある・・・」「私も・・・」

そのことが、ずっと気になっていた。


「結婚してるんだ・・・」その一言で、片付くはずのないことだった。

ワインのボトルを開けながら、話しを始めるきっかけを僕は、探していた。

「私のせいで、今日はどこにも出かけられなかったわね。明日は、晴れるかしら?」

「晴れたら、どこかに行く?」

「そうね・・・せっかく、会津に来たんだから。どこか景色のきれいな場所に・・・」

二人でいられるなら、どこにいたっていいんだ・・・僕は思った。


ユキのグラスにワインを注いで、グラスを寄せ合った。

「誰かとこうなることをずっと避けていました。きっと比べてしまうから・・・。生涯愛する人は、この人だけ・・・そう思えるほど、深く愛していました」

ユキは、かつての恋人のことを僕に話し始めた。


病院の庭で、タバコを吸う横顔がかつての恋人に似ていたこと。

好きなケーキが同じで驚いたこと。

そして、オーロラの撮影に行って、事故死したこと・・・。

彼の死とともに、恋する気持ちを封印してきたこと。


僕は、ユキの話しを黙って聞いていた。

言うべき言葉が見つからなかった。


ユキの清らかな思い出に比べたら・・・。

他に男がいると知っても尚、世間体の為、妻との結婚生活を継続しようと努力していた自分。

愛情のない性行為を妻との修復手段として繰り返していた自分。

妻との事に決着がつかないまま、ユキを抱いてしまった自分が、愚かに思えた。


この中途半端な立場にいる時に、ユキに対してどんなに愛の言葉を並べても、到底伝わるものではないと思った。

「でも・・・恋する心は、私の中にちゃんと残っていました。あなたに出会って、それに気付きました・・・」

僕は、言葉に詰まって、ユキの顔を見つめるのが精一杯だった。


               


「だけど・・・こうなったことで、責任を取って下さいなんてことは、言いませんから・・・。あなたが結婚していることは、解っていました。私は私の意志で、こうなったと思っています」

ユキは・・・。

僕と妻の関係が破綻しているなどとは、微塵も気付いていなかった。



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