2009/03/24 09:19
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<26話>

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☆BGMが重なって聞こえる方は、ブロコリブログの最初のページから、お入りください。


                


ソウルから車で3時間ほどの所にあるリゾート地は、スキー客で賑わっていた。

ゲレンデに特設されたステージが、コンサート会場となる。


照明担当のスタッフは、僕の他に2名いたが、いずれも経験が浅く、社長のO氏は不安を感じていたのだろう。

予定より1日早く到着した僕の姿を見て、社長は「明日でよかったのに・・・」と言ったが、内心安堵したような表情を浮かべた。


思えば、ユキと出会えたことも、社長のおかげと言ってもよかった。

体調を崩した僕の世話を、ユキに頼んだのは社長だったのだから。


毎日違うアーチストが出演して、1週間、コンサートは続く。

スキーだけでなく、コンサートを楽しみに訪れる人も多く、照明効果も綿密な計画を立てる必要があった。


ユキに会いたい・・・などと、甘いことは言っていられない、僕は自分自身に言い聞かせた。

それでも、コンサートが終わった後の凍てつく夜空を見上げては、「愛しています」と言ってくれたユキの顔を夜毎、思い出していた。


                 


すべての日程を終えて、ソウルに帰る日、僕の心は、納得のいく仕事を成し遂げた満足感に満ちていた。

自宅に戻った時は、深夜になっていた。


テーブルの上に、「あとのものは、自由に処分してください」と書かれたスジョンからのメモがあった。

室内から、大きな道具類が運び出された気配はなく、スジョンはわずかな身の回りの品だけを持って行ったのだ、と言うことが解った。


今は、残された物をどう処分するか、そこまで思いを回らせる気にはなれなかった。

僕は、着替えることよりも、シャワーを浴びることよりも先に、ユキの声が聞きたかった。


「はい・・・神門です」と言うユキの声が、とても懐かしく思えて、僕は名乗ることも忘れてしまった。

「ユキ・・・?」

僕の問いかけに「あ・・・っ」と小さくつぶやくユキの驚きの声が聞こえた。


「今、帰った・・・」

「地方でコンサートがあって・・・」

「どうしても今夜のうちに・・・」

「ユキの声が聞きたくて・・・」

「ずっと、連絡せずにいたこと・・・」

「離婚・・・決まった」

脈絡のない言葉が次々と口をついて出た。


ユキは「そう・・・」とひと言、言った。

互いの様子を気遣う言葉を交わしたあと、「ユキに会いたい・・・」と僕は言った。

「私も同じ気持ちです」

と、言ってくれたユキの言葉に心が揺れた。


「でも・・・しばらく行かれそうにない」

「今度の仕事・・・長くかかりそうなんだ・・・」

仕事なんか放り出して、本当は今すぐ、ユキに会いに行きたいんだ・・・と言う、本心を隠して、僕は言った。


いっそのこと、ユキが「待てない。今すぐ来て」と、言ってくれたら・・・との思いが、一瞬、僕の脳裏をよぎった。

「私のことは気にしないで・・・。私は大丈夫だから・・・」

ユキらしい言葉が返ってきたことで、さらにユキへの思いが募った。


僕は、「仕事が片付いたら、必ず会いに行く」と約束して電話を切った。


                 


リゾート地でのコンサートが終了した日、僕は社長に呼ばれて、次の仕事の指示を受けていたのだ。

海外からのアーチストを迎えての大仕事だった。


先輩の照明監督が受けるはずの仕事だったが、足を骨折して入院してしまったと言う。

「まったく・・・この大事な時に、あいつは何をしているんだ」

社長が、吐き捨てるように言い、「お前は大丈夫だよな」とでも言いたげな顔で僕を見た。


数日後、ソウル市内の病院に入院している先輩を訪ねると、「迷惑かけて、すまない」と、先輩は僕に向かって頭を下げた。

想像以上に元気な先輩を見て、僕は「何とかなりませんか?」と聞いてみた。


「腕だったらなあ・・・こうして肩から吊って、動くこともできるが、足だからなあ」と、先輩は、自分の右腕を肘から折り、同時に大腿部から装着されたギブスの上から、足を摩った。

「自信がないのか・・・?」と、先輩に聞かれた。

確かに社長から依頼された今度の仕事は、リゾート地のコンサートとは比べものにならないほどの技術と緊張を要する仕事だった。

韓国でも有名な劇場に、アメリカの大物歌手Mを招いてのコンサートだ。

失敗は絶対に許されない。

しかし、僕が躊躇している理由は別のところにあった。


                 

「まずは、NYに行って、Mのステージを見て来い。作戦はそれからだ」と、意気込んだ様子で社長は言った。

つまり、直ちに渡米して、現地に数日間滞在し、Mのステージをじっくり観察して来いということだ。

「帰国したら、すぐに企画会議を始めよう。忙しくなるぞ」社長はそう言って、「よろしく!」と、僕の肩を叩いた。


日本に行けない・・・。

ユキに会えない・・・。

迷っている理由はそこにあった。


ベッドの脇に立ち尽くしている僕を見上げて、先輩は、「チャンスを生かせ!」と言った。

「この仕事が成功したら、大きく評価される」

「照明監督として、世の中に名前を知ってもらえるチャンスなんだぞ」と、言われた。


病院を出るとすっかり日が暮れていた。

「お前なら、できるよ。俺の分まで頑張ってくれ」

先輩の言葉が耳元で聞こえた。


社長はまだ、会社にいるだろうか・・・。

僕は、渡米の意思を伝えるために、会社に向かって車を走らせた。


2009/03/09 17:27
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<25話>

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☆前回UPの24話から、すでに3ヶ月が経過してしまいました。

日々のブログをお休みして、「創作」の年内完結を目指します・・・などと、偉そうに宣言しましたが、この有様。

いつもお付き合いくださっていた方々には、お詫びの言葉も見つかりませんが、再びお付き合いくださればありがたいと思っています。

会津で愛を確認し合ったインスとユキ。

二人は、再会を約束して、福島空港で別れました。

自宅に戻ったインスは、妻のスジョンと離婚に向けての話し合いをすべく、向き合います・・・。




「いつ戻ったの?」

「昨日・・・」

「だったら、今日でなくてもよかったのに」

「早い方がいいだろうと思って。それに、また来週は、仕事で

遠くまで行かなければならない」

以前なら、「遠くってどこ?ねえ、帰りはいつ?」

と、しつこいくらいにスジョンは聞いたのに、もうその必要はな

くなった。



僕とスジョンは、二人で暮らした部屋で向き合っていた。

この部屋で・・・と、望んだのは僕だった。

話し合いの場所として、スジョンは街中のレストランを指定して

きたが、僕は、他人の目に晒されながら、最後の会話をする

気には、なれなかった。



僕が差し出した離婚届にスジョンはさっと目を通すと、「すみま

せん」とひと言言った。

何に対する謝罪なのか。

夫である僕に隠れて、他の男と浮気したことか・・・。

それとも、離婚を勝手に決めたことか・・・。

いくつかの思いが浮かんだが、いまさら聞いても意味がないよ

うな気がした。





スジョンは折りたたんだ離婚届の用紙をバックにしまうと、僕

の留守中に荷物を運び出すかもしれないが、それでもいい

か?と聞いた。

今更、異議を唱えるつもりもなく、僕は承諾の返事をした。



「一緒に暮らすのか・・・?」

あの男と・・・と言おうとして、僕はあとの言葉を飲み込んだ。

「できるだけ早く、そうしたいと思っているわ」とスジョンは答え

た。

独身時代のものはもちろん、結婚後二人で購入した家具類

も、必要な限り、持って行くようにと、僕は言った。

スジョンは「うん・・・」と答えたけれど、新生活を始める二人に

とって、過去の道具類は邪魔になるだろうと、僕は思った。



台所で、お湯が沸いたことを知らせる電気ポットの音がした。

私が・・・と、立ち上がるスジョンを制して、僕はコーヒーを淹れ

るために席を立った。

カップに入ったふたつのコーヒーをテーブルに置いた時、スジ

ョンが「そのセーター・・・似合うわ」と言った。

ユキが僕にプレゼントしてくれた紺色のセーターだった。




「日本で・・・買ったんだ・・・寒くて」

セーターが入った包みを差し出した時の、ユキの顔が浮かん

だ。

「素朴なデザインがあなたらしい・・・」と言って、スジョンは小さ

く笑った。



この部屋の権利のこと、二人で貯めた預金のことなど、離婚

の際に発生する事柄を僕たちは話し合った。

「子供がいなくてよかったかもね・・・」と、スジョンが言った。



僕の留守中に荷物を運び出した後の、鍵の置き場所を決め

て、スジョンは席を立った。

「住む場所は決まっているのか?」

別れた妻とは言え、そんなことが気になった。

「部屋を借りたの。ずっとそこに住むかどうかはまだ、解らない

けど・・・」

新しい生活の準備を着々と進めているんだな・・・と僕は思っ

た。



スジョンは帰り支度をすると、改まって僕に向かって、今回のこ

とを詫びた。

すべては自分の責任で、あなたには本当に迷惑をかける結果

になってしまったと、重ねて詫びた。



「体に気をつけて・・・。元気でね」

差し出されたスジョンの右手を握りながら、僕は思った。

このまま、何も言わず、別れてしまっていいのだろうか・・・と。



ここ数日の自分の行動を思った。

スジョンだけを責め、責任を負わせ別れることが、ひどく卑劣

な行為に思えた。


「好きな人ができた・・・」

スジョンは一瞬驚いた表情をしたが、「そう・・・」と穏やかに言

った。


「日本で・・・具合が悪くなった時、世話になった・・・」

彼女は日本人で、通訳の仕事をしていて・・・などと、細かい説

明は、今のスジョンには必要ないだろうと思った。




「愛し合ってるの?それとも・・・あなたの一方的な恋?」と、ス

ジョンが聞いた。

僕が返答に迷っていると、「愛し合ってるのね・・・セーターの贈

り主・・・そうでしょ?」と言った。



もう、君だけを責めたりしない。

僕も同罪だ・・・そんな思いをスジョンに伝えたかったが、具体

的な言葉にすることができなかった。


「これで、安心してこの部屋を出て行ける。幸せになってね。私

もそうなれるように頑張るから・・・」

そう言い残して、スジョンは部屋を出て行った。



最後まで、優しい言葉ひとつ言ってやれなかった自分が情け

なかった。

と、同時に無性にユキに会いたくなった。


女々しい気持ちを振り払うように、僕は仕事場に向かうための

準備を始めた。

仕事は、地方のリゾート地でのコンサートだった。

仲間はすでに現地入りしていて、明後日、合流する予定になっ

ている。

帰国したばかりの僕の体を気づかって、明後日でよいと配慮

されてのことだった。



明日、出発しよう、と僕は決めた。

ユキに会いたくてたまらない気持ちを、仕事に没頭することで

忘れよう。

そして、この仕事が終わったら、離婚が成立したことをユキに

伝えるために日本に行こうと思った。



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