『ホテリアー』の中のシン・ドンヒョク
何日か前の夜。
ただなんとなく・・・要するに暇だったからですが。
PCの前に座り、「ぺ・ヨンジュン」で、検索をしたら。
素敵な文章に出会うことができました。
ある方がご自身のブログに数年前にUPされた文章です。
少々、長めの文章ですので、お時間のある方はどうぞ。
『ホテリアー』の主演はBYJではなくて、キム・スンウさんです。
オープニングで名前が出てくるのが一番最初ですから。
そして、『ホテリアー』は、思わぬアクシデントでホテルを追われた生粋のホテルマンであるハン・テジュンが、どん底まで落ちぶれて、それでも這い上がり、愛するホテルのために身を粉にして働き、英知を絞り、その危機を救い、再生させるまでの過程を描いたドラマです。
その本来の骨太なストーリーに、しっかりと絡んでアクセントを付けるのが、美人で明るくて、ホテルをとっても愛しているけど、おっちょこちょいなジニョン、そして、テジュンと仕事の上でも恋の上でも鋭い対立構造をなすシン・ドンヒョクの存在、であるはずでした。
ホテルの危機と再生を描くのがメイン・ストリームであるならば、このドラマはあくまでもハン・テジュンを中心に描かれなくてはならなかったと思います。
しかし、『ホテリアー』はそうではありませんでした。
テジュンによるメイン・ストリームの他に、もう一つ、いつの間にやらそれに負けないくらい大きなストリームが自然発生してしまいました。
第一話にはほとんど出て来もしないシン・ドンヒョクによって。
スンウさんのテジュンは徹頭徹尾私の期待を裏切ることがありませんでした。
誰よりもホテルを愛していて、ひとへの温かい思いやりに満ちていて、リーダー・シップもあり、骨の髄までホテルマン。
でも、仕事に夢中になるあまり、恋に関しては無骨。
ところが、BYJのドンヒョクはどうでしょう?
私は彼によってとても混乱させられました。
冷徹で切れ者で洗練されていて大金持ちの美貌の青年。
世の中の全てのことを欲しいままに手にしているように見える。
ところが、彼は幼い頃生き別れた父親に再会して大泣き。
ジニョンが自分のことを分かってくれないと言いながら涙ぐみ、彼女にどう言葉を伝えたらよいのか分からずに黙り込んだと思ったら、挙句に感情を暴発させて監禁。
ようやく再会できた妹にもどう接してよいか分からずに、黙ったまま立ち尽くしてしまう。
他の俳優さんがドンヒョクをやったなら、ハン・テジュンが主役であるドラマとしてのエピソードの軽重を最優先し、あくまでもその洗練された魅力を前面に出しつつ、養子という辛い過去はその華やかな美貌にちょっとした影をつけるスパイス程度の重さでしか語られないというパターンもあったかも?と思うのです。
『ホテリアー』は、分かりやすい「生粋のホテリアーであるテジュンの奮闘物語」と、「傷ついた男の子みたいなカリスマ・レイダースが、自分の本当の心を優しく愛撫してくれる真のパートナーを求めて恋焦がれる物語」とが拮抗しながら並存するドラマに変わってしまいました。
準主役の物語が主役を喰ってしまうくらいの圧倒的な存在感と輝きを放っています。
私には、BYJのドンヒョクの後ろに、幼いドンヒョクが一人ぼっちで歩んできたであろうあまりにも辛い20数年がはっきりと見えます。
BYJはそんなふうに、キャラクターを解釈し、理解し、一人の生身の人間であるかのように創り上げることができる稀有な俳優です。
しかも、彼の創り上げたキャラクターは、一見どんなに嫌な奴に見えたとしても、その透明で純粋な本質を愛さずにはいられないという、演技上手と言われる俳優が計算して演じたとしても決して創り出せない“特別な何か”を確かに持っているのです・・・・。
あなたは、器用な俳優でも、瞬発力のある俳優でも、勘の良い俳優でもないかもしれない。
でもね。他の誰が望んでも得られない特別な何かを、私を、そして、アジア中、ううん、世界中に散らばっている数え切れないくらいの人たちを、捕らえて離さない何かを、あなたは持っています。
それはもちろん、あなたのこの上なく美しい外見だけがもたらすものではありません。
そして、それは、世間が“演技力”とひとくくりにしてレッテルを貼っている能力を持っていたとしても、得られるとは限らないものなのです。
あなたはそんなかけがえのない宝物を持っていることを忘れないで・・・。
そして、私がいつもあなたを愛していることを、忘れないで・・・・。
この文章を読んで、また、「ホテリアー」を1話からゆっくり楽しみたくなりました。
同時に、「俳優・ぺ・ヨンジュン」を、早く見たくなりました。
創作の部屋~朝月夜~<49話>
ベランダでは、真夏の日差しを浴びて洗濯物が揺れていた。
リビングのテーブルの上には、マリが作った朝食が置かれていた。
その脇に添えられたメモには、『おばあちゃんのところに行って来ます。昼には戻ります』と、書いてあった。
リビングの時計を見上げる。
もうすぐ11時。
すっかり朝寝坊してしまった。
昨夜は大きな仕事を終えたことで、仲間と遅くまで酒を飲んだ。
「彼女が待ってるから、インスは行かないよなあ」
と、からかわれながら、結局、最後まで付き合ったのだった。
帰宅し、マリが眠るベッドにもぐりこんだ時は、すでに夜明け間近だった。
夕べ飲んだ酒が、まだ少し残っていて何も食べる気になれない。
シャワーを浴びてすっきりしようと思っているところに、マリが帰って来た。
手には大きな包みを抱え、額には汗を浮かべている。
「食べてないの?」
テーブルの上に手付かずのまま置かれている朝食を見て、マリが言った。
「今、起きた」
「暑いのに、よく寝てられるわね」
「ゆうべ、遅かった」
「ゆうべじゃない、朝・・・でしょ」
「知ってた?」
「当然。お酒の匂いで目が覚めた」
マリは喋りながら、忙しく手を動かしていた。
どうやら、祖母に大量の惣菜類をもらってきたようだ。
「うまそう・・・」
僕は、そのうちの一品に思わず手を伸ばした。
「その前に・・・シャワーを浴びて。お酒の匂いどうにかしてよ」
伸ばした手は、マリにあっさりと捕まってしまった。
シャワーを浴びて、水を飲もうと冷蔵庫の前に立った。
NYの街並みの絵葉書が、無造作に扉に貼り付けてあった。
マグネットをはずして、表書きを見た。
マリの祖母の住所で、マリ宛てに届いたものだった。
「誰から?」
「友達」
マリは、惣菜を分ける手を休めることなく答えた。
日本語で書かれた文面は、僕には理解できない。
「なんて書いてあるの?」と、聞いてみた。
「元気?って」
「それだけ?」
「それだけ」
僕は、それ以上は聞かずに、絵葉書を元の場所に貼り付けた。
テーブルの上の取り分けられた惣菜類を見て、急に空腹感を感じた。
「腹減った」
「その前に着替え」
「いいよ、このままで」
僕は、もう一度冷蔵庫の扉を開けて、缶ビールを取り出した。
「飲む?」
「いらない。それより着替えして。パンツくらいはいたら?」
バスタオルを腰に巻いただけの僕を見て、マリが言った。
「妙な気になる?」
僕は、マリの耳元で囁いた。
「はぁ・・・?意味わかんない。カゼひくから言ってるの」
「今日は、たっぷり時間がある」
「だから何なの?私は忙しい・・・」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
壁のインターフォンを取り上げた瞬間、母の声が聞こえた。
「ちょっと・・・ちょっと待って」
僕は、インターフォンに向かってそれだけ言うと、着替えをするために寝室に駆け込んだ。
「ソウルに来る用事があったから、ついでに寄ってみたの」
「電話してくれたら、迎えに行ったのに」
「行くと言ったら、来なくていいと言うでしょ?」
「そ・・・そんなことはないよ」
「しばらく顔を見せないと思ったら・・・こういうことだったのね」
「ごめん・・・」
「別に謝る必要はないわ」
「マリです。はじめまして」
居心地悪そうに立っていたマリが、母に挨拶をした。
「マリさん?インスの母です」
こういう時、母になんと言ってマリを紹介したらいいのだろうかと僕は迷った。
「ちょうどお昼ご飯を食べようと思っていたんです。よろしかったらご一緒にどうぞ」
マリは母のために席を作りお茶の用意をした。
毎日暑い日が続いて大変だとか。
散歩の途中で出会った子犬がかわいかったとか。
マリのおしゃべりのおかげで、気まずいムードにならずに済んだ。
「すっかりご馳走になっちゃって。そろそろ失礼するわ」と、言う母を僕は駅まで送ることにした。
母はタクシーで行くからいいと言ったのだが、「二人だけで話したいことがあるはずよ」と、マリが小声で言ったのだった。
「ご両親は、日本にいるって言ってたけど・・・?」
「父親が韓国人で、母親が日本人なんだ。日本だけじゃなく、いろんな国に行くらしい」
「そういうお仕事?」
「画商・・・絵や骨董品とか・・・。そういう会社をやってる」
「ご兄弟は?」
「いない」
「結婚するつもり?」
「解らない」
「解らないって・・・。親御さんはご存知なの?このままでいいはずがないわ」
「解ってる」
「どこまで解ってるの?あなたは男だからいいかもしれないけど・・・。あちらにとっては大事なお嬢様でしょ?結婚もしないまま、子供でもできたら・・・」
「気をつける」
「気をつけるって、そういう問題じゃないでしょう。お父さんには言えないわ」
そこまで言うと、母は大きなため息をついた。
改札口で、母は振り返ると「きちんと決めて、必ず連絡しなさい。お父さんに話すのはそれからよ」と、言った。
僕は、無言でうなずきながら、母を見送った。
「今日は、ゆっくりなのよね?」
ベランダで洗濯物を干しながら、マリが聞いた。
「昼から」
「朝ごはんは、そこにあるもので済ませて。私、行かなくちゃ」
「もう、行くのか?」
「バイトの子がひとり休みで、早く来てくれって言われてるの。夕べ、話したでしょ」
そう言うと、マリは化粧もそこそこにバッグを掴んで出て行った。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出そうとして、NYからの絵葉書に再び目が止まった。
母が来た日からずっと放置されている絵葉書。
この場所に置きっぱなしにしているということは、マリが言うように「たいしたこと」は書かれていないのだろう。
そう思いながらも、なぜか気になった。
表を返してみるが、相変わらず読めない日本語が並んでいるだけだ。
ふと、今日、会う約束になっている人物の顔が浮かんだ。
彼なら・・・読めるかもしれない、そう思った。
「日本語・・・ですか?多少は・・・読めますけど、難しい漢字はだめです」
僕は持って来た絵葉書を差し出した。
「・・・この、マリさんって人、誰ですか?インスさんの奥さんですか?」
「いや・・・僕は独身だよ」
会うのは今日で2度目の彼は、僕がマリと暮らしていることを知らない。
「友人の家に意味不明の絵葉書が迷い込んで・・・それで」
「そうですか、失礼しました」
「なんて書いてある?」
僕は、早く内容が知りたかった。
『マリ、元気か?オレは元気だ。聞いてくれ。オーディションに受かった!来月、初舞台だ。すごいだろう!マリ、夢を捨ててないよな。あきらめるなよ!NYで待ってる。~カズ~』
「最後のカズ・・・って、言うのはおそらく、差出人の名前・・・。男みたいですね」
日本語の文面を韓国語に訳す前に、彼が、「マリさんって誰ですか?」と聞いた意味がやっと解った。
マリへの私信を勝手に持ち出した結果が、こんなことになろうとは・・・。
いや・・・何らかの予感がしたから、持ち出す気になったのかもしれないと、僕は思った。
創作の部屋~朝月夜~<48話>【再びR】
☆「注意事項」は、前回と同様です。ご注意くださいませ・・・。
「どう、順調?」
照明機材を車に積んでいると、同僚に声をかけられた。
「えっ・・・?」
「ソウルの町を楽しそうに歩いてた?」
「見たのか?」
「オレじゃないけどね」
「そうか・・・」
「若い子だって?結婚するのか?」
「いや・・・まだそこまでは」
「もたもたしてると、また、逃げられるぞ」
同僚は、「また・・・は、余計だったな」と言いながら、僕の肩を叩いて、スタッフの輪の中に入って行った。
楽しそうに・・・か。
確かに、マリと一緒にいると元気になれた。
若いだけに、会話も豊富で、日々新しい話題を提供してくれる。
「今日、嫌なことがあっても、明日はいいことがあるかも、と思ったら、頑張れるじゃない」
仕事がうまくいかなかった日も、マリの明るさに助けられた。
肌を合わせることで、萎えていた気力を取り戻せたと思えた夜もあった。
そんなマリと暮らし始めて、3月が経っていた。
互いの部屋を行き来するようになって、遅くなったら泊まる、という状態が続いていた。
「一緒に暮らさない?」
提案したのは、マリだった。
「コンビニって、給料安いの。今住んでるアパート、古いけど結構、家賃高いし・・・」
「ソウルにおばあちゃんがいるって言ってたろう?」
「おばあちゃんちに行けって言うの?会えなくなるよ、私と」
「なぜ?」
「門限があるもん」
マリは一緒に暮らした方が何かと便利だと、大して理由にもならないようなことを散々しゃべり続けた。
僕が「うん」と言わないものだから、最後には「インスといつも一緒にいたいの」と、しおらしいことを言った。
僕は、いかにも君の事情を考慮して仕方なく・・・と、言うそぶりを見せながら承諾の返事をした。
しかし、本当は、マリの甘い言葉にほだされたのでもなく、マリに同情したのでもなかった。
僕が、マリを手放したくなかった。
いつも、目の届くところに置いておきたいと思い始めていたのだった。
「ねえ、今日、時間ある?」
朝食を食べながら、マリが聞いた。
「いつもどおりに仕事だけど」
「ちょっとだけ、私に付き合ってくれる?」
「なに?」
「う・・・ん、ちょっと」
「だから、なに?」
「うん・・・。パパとママが来るの」
「どこに?」
「ソウル」
「それで・・・?」
「一緒に行ってくれないかなあ・・・なんて」
「行ってどうする?」
「パパとママを安心させたいの」
「男と暮らしてるって聞いて、安心するか?」
「安心するわよ。相手がインスだから」
「どういう意味?」
「深く追求するならいい。もう頼まない」
マリはそれっきり黙ってしまった。
朝食を食べ終えた僕は、「時間と場所は?」と、聞いてみた。
「行ってくれるの!」
不機嫌な顔が、たちまち輝いた。
「何とかする」
「Pホテル、3時」
「そう言うことは、夕べのうちに言えよ」
ホテルの名前を聞いて、この格好ではまずいと僕は思った。
Pホテルは、国内でもトップクラスの格式あるホテルだ。
ジャンパーにジーンズで、入れるような雰囲気ではない。
僕は、クローゼットを開けて、スーツに着替えた。
「スーツ姿はじめて見た・・・すてき」
マリの視線を逃れるように、僕は、「遅れるなよ」と言い残し、部屋を出た。
約束の時間より、早くホテルに着いたのに、マリはすでに先に来て僕を待っていた。
マリは、小花を散らしたふわりとした素材のピンクのワンピースを着ていた。
「そんな服、持ってたんだ?」
「一応ね」と、言うと、マリは僕の耳元で「かわいい?」と囁いた。
「パパたちは、カフェにいるわ」
「ちょっと、緊張するなあ」
「大丈夫、パパもママも気さくな人だから」
マリに連れられてカフェに入ると、窓際の席に並んで座っている両親の姿が見えた。
初対面の挨拶をした僕に、マリの父は名刺を差し出しながら、「マリがお世話になっているようで」と言った。
名刺には、名前と会社名が記され、「代表取締役」と言う肩書きが添えられていた。
「やっぱり、韓国はいいなあ」
ソウルの街が見下ろせる席で、マリの父が呟いた。
しばらくは、久しぶりに訪れた韓国の話しが続き、やがて、夫婦の恋物語へと話が発展した。
「彼女の心を掴むために、涙ぐましい努力をしたよ。日本語を必死に覚えたりしてね」
「私だって、韓国語の勉強をしました」
若かりし日の話しをする時、マリの父の精悍な顔は柔和な顔に変わった。
傍らで、微笑むマリの母は、美しい人だった。
中年と呼ばれる年齢に近づいた今も、美しいと感じるのだから、若い時の美しさはどれほどのものだったのだろうかと僕は思った。
「昔の話はそれくらいにして、そろそろ失礼しないと・・・」
「あ・・・もう、そんな時間か?」
「これから、親戚の人たちとの食事会があるの。インスは、この後どうする?」
マリに聞かれて、「会社に戻る」と、僕は答えた。
「忙しいのに、ごめんなさいね。どうしても、主人があなたに会いたいと言うものだから・・・」
「マリから、好きな人ができたと聞かされて。韓国人だと知った時は、うれしかったよ」
「男は、韓国。女は日本・・・これが、パパの口癖だもんね」
「何を理由にそうおっしゃるんですか?」
僕は、つい口を挟んでしまった。
「やだ~マジにならないでよ。ママが日本人だからに決まってるじゃない。要するに、根拠のない理論って、ヤツよ」
「まあ、なんて口の利き方でしょう」と、母に言われて、マリは思わず舌を出した。
ユキのことが頭に浮かんで、真剣に聞いてしまった自分が恥ずかしくなった。
「パパ、インスに会って、安心したでしょ?」
「もう、馬鹿な夢は諦めたんだろうな?」
「馬鹿な夢って・・・?」
僕は、マリに向かって尋ねた。
「知らない。何のことかしら?」
「ふたりの仲をとやかく言うつもりはないが、結婚となると話は別だぞ。解ってるな?」
「結婚・・・?そんなこと考えてないわよねえ」
マリは同意を求めるように僕を見た。
僕は、なんと答えてよいのか解らなかった。
「じゃあ、これで失礼する。とりあえず・・・マリをよろしく頼むよ」
マリの父が差し出した手を握り、僕は頭を下げた。
別れ際、「遅くなりそうだから、先に寝ていてね」と、マリは言ったが、なんとなく寝付かれず、ビールを飲みながら、マリが帰って来るのを待っていた。
「あ~疲れた!」と言う声とともにマリが帰って来たのは、深夜0時を少し過ぎた頃だった。
「まだ、起きてたの?」
「なんとなく・・・」
「シャワーを浴びて、寝よう」
マリはそのまま、浴室に直行した。
浴室から出てきたマリは、濡れた髪をタオルで拭きながら、「インス、今日はありがとう」と言った。
「飲むか?」
「うん、1杯だけ」
僕は、冷蔵庫から新しいビールを出して、マリのグラスに注いだ。
「一緒に暮らしてること、言ってないのか?」
「うん」
「どうして?」
「面倒だから」
「いずれバレるぞ」
「その時はその時。今は言いたくない。言ったら・・・間違いなく、日本に連れ戻される」
「そうだろうな」
「インスとの生活、失いたくないの。」
乱暴な口を利いたかと思うと、こうして男心をくすぐるようなことをさらりと言う。
これが、マリの魅力のひとつなのかもしれないと思った。
「眠い・・・もう、寝るね」
僕も少し遅れて、ベッドに入った。
「ねえ・・・」
すでに眠ったと思っていたマリが、背中をを向けたまま言った。
「ん・・・?」
「ママに見とれてたでしょ?」
「うん」
「うん?信じられない。普通は否定するもんよ」
マリがふり返って言った。
「きれいな人だな・・・って」
「ますます、信じられない」
「事実は事実さ」
実は、先ほどもビールを飲みながら、マリの母親の顔を思い出していた。
だが、さすがにそれは言わずにいた。
「マリにも半分、あの人の血が流れているんだよな・・・」
そう言いながら、僕はマリのパジャマのボタンに手をかけた。
「今夜はダメ・・・。疲れてる」
「マリ・・・」
僕は、マリの首筋に唇を寄せ、耳元で囁くように言った。
「同居を認めた条件は?」
「何で今、そのこと?眠い・・・」
「言って」
「夕ご飯は、必ず作ること」
「それから?」
僕は、3つ目のボタンをはずしながら聞いた。
「洗濯は毎日・・・あっ・・・すること」
僕の腕が、胸元に忍び込むと、マリは小さな声を上げた。
「そして?」
残りの2つのボタンをはずすと、マリの乳房が顕わになった。
「1日おきに・・・掃除をすること・・・」
僕は、片方の乳房を右手で掴み、もう片方の乳房の先端を口に含んだ。
「インス・・・」
マリは、僕の名を呼びながら身をよじった。
「もう、ひとつ、条件があったろう?」
マリは、黙って首を振った。
「拒否しないこと」
「そんなこと、決めてない」
「なら、今、決めた」
「イヤだって言ってるのに・・・」
僕は、マリのパジャマのズボンと下着を一度に剥ぐと、目標とすべき所に指を這わせた。
「マリはうそつきだな・・・」
「インス・・・」
マリは、再び僕の名を呼ぶと、自ら唇を求めてきた。
美しい人の顔が脳裏をよぎる。
あの人は・・・どんな姿態で夫を受け入れ、どのような声を発するのだろう。
淫らな想像は、いっそう僕を昂ぶらせ、潤った場所へと僕を駆り立てた。
「インタビュー」の中で、いちばん好きな表情。
「もう、観たの?」って、思うでしょう?
観たんです。
同じ県内に住む、心優しきヨンジュン家族の方のおかげで。
ブログで、強がりを言った日の夕方には、「インタビュー」のヨンジュンに会えた・・・と言うわけです。
自宅近くまで、届けてくださったAさん、ありがとう。
このお礼は、いつか必ず!・・・です。
「スカパーの映像って、きれいだね」
って、後ろで観ていた娘が言うほど。
はっきりくっきり・・・とても美しい映像でした。
Aさん宅と我が家とでは、DVDの機種が違います。
機種が違うと観られないという意味・・・また、解らなくなっちゃった。
さて、ところで・・・「インタビュー」の内容ですが。
これはもう、たくさんの方が書かれていますので。
いまさら、書くこともないかな・・・と思うし。
何よりも「百聞は一見に如かず」の諺どおりです。
まだの方・・・チャンスが巡って来たら、ご自分の目で見て・・・聞いて・・・。
楽しんでください・・・それが、1番です。
ただ、ひとつだけ。
私がもっとも、いいなあ~と思った瞬間のお話を。
インタビュー当日、ヨンジュンは宮本氏に「プレゼント」を用意していました。
それを、スタッフに「持って来て」と言うんですが・・・。
言う時の表情が、「お願い」じゃなくて、「指示」なの・・・。
指示する様子が、「ボス」って、感じがしていいんだなあ~。
これって、マニアックな楽しみ方かもしれない。
ずっと、前に「ホテリアー」で、どのシーンが好き?と聞かれて。
「厨房で、(実妹のジェニーが落とした)たまねぎを拾うシーン」と答えたら。
「かなり、マニアック!」と言われたことがあります。
「ツボニハマル」と言う言葉がありますが。
「インタビュー」の中で見せる、このヨンジュンの「ボス的表情」は、「ヨワイトコロヲツカレタ」と言う感じかな。
そして・・・。
「冬ソナ・イベント」のリハーサル・・・一緒だったのね。
この二人・・・いい感じです。
昔、どうの・・・なんてことは、ない!そう、確信しました(笑)
それよりも、これからどうにかなってほしいんだけど。
ダメかなあ・・・。
創作の部屋~朝月夜~<47話>【R】
★今回は、【R】的要素を含めた描写がありますので、お嫌いな方はスルーしてくださいね。
「四月の雪」のインスのイメージを壊したくな~いと言う方も、スルーしてください。
「逞しい腕にぎゅっとされると、なんだか安心する・・・。」
僕の腕の中で、マリーが呟いた。
「子供の頃、パパに抱っこされたこと思い出すなあ」
「僕は、君の父親か・・・?」
マリーとの年の差が頭をよぎって、苦笑いとともに、そんな言葉が口を突いて出た。
「父親の愛は、無償の愛よね。その人に、世界中の誰よりも愛してほしいと思ったら、恋人よりも、奥さんよりも・・・その人の子供になることかな、って思うわ」
父親になり損なった僕には、マリーの言葉の意味をすべて理解することはできなかった。
「ねえ・・・」
マリーが上目づかいで僕を見上げた。
「愛してるって言ってくれたら、もっといい気分になれるんだけどなあ・・・」
僕は、マリーから視線を逸らすと、「愛してる」の言葉の代わりに、「ビールでも飲むか?」と言って、立ち上った。
「なによ、照れちゃってぇ・・・つまんないの」
後ろで、マリーが独り言を言っていたが、僕は聞こえないふりをした。
マリーに缶ビールを手渡し、僕はビールをひと口飲むと煙草に火を着けた。
煙を吐き出す様子を隣に座っているマリーが、じっと見ていることに気づいた。
「なに?」
「煙草を吸ってる横顔・・・すてき」
「からかうなよ」
「からかってなんかいない。本当にそう思うから言ったの」
「煙草は?」
僕は、照れ隠しに聞いた。
「ちょっと、吸ったこともあったけど、止めた」
「いいことだな」
「ずっと前に、好きだった人が言ってたわ。終わったあとの1本が最高においしいって」
「終わったあと・・・?」
声にした瞬間、意味が解った。
「いっつも、私の横でおいしそうに吸ってた。それで、私も・・・って」
「おいしかった?」
「ううん、おいしくなかった。だけど・・・その人の唾液で少し湿った煙草の感触が好きで・・・指先から奪うと真似して吸ってたの」
顔の見えない男の横で、煙草をふかすマリーの姿が浮かんだ。
それは、嫉妬と呼ぶには程遠いものだったが、心の片隅をかすかにくすぐるような感情だった。
「その男とは・・・?」
「別れた。ふられたの」
「会いたいと思ったり、思い出したりしない?」
なぜこんなことを聞いているんだろうと思った。
「しない。私がふった男なら、今もひとりでいるのかなあなんて思ったりするけど。ふられた男のことは考えない。だって、私の知らない誰かと一緒になって、幸せに暮らしてるかも・・・なんて想像するとくやしいじゃない」
「君らしい考えだな」
「あなたは?」
「時々思い出す」
「どっちを?離婚した奥さん?それとも別れた恋人?」
「両方」
「はぁ・・・呆れた。ビールもう1本持って来て」
缶ビールを冷蔵庫から2本取り出して、再びソファに座ると、マリーは「ねえ・・・」と、また何かを問いた気な様子で僕を見た。
「君に、ねえ・・・って、言われるとヒヤッとするよ。今度は何?」
「私たち、あれからしてないけど。したい?」
「そう言うこと、露骨に言うな」
「答えてよ、したい?したくない?」
「したい・・・って、言ったら?」
マリーの表情が一瞬、固くなったような気がした。
「冗談だよ。襲う気はないから、安心しろ。今でも・・・後悔してる」
「え・・・?」
「あの日のこと。申し訳ないことをしたと思ってる。悪かった」
マリーに詫びるきっかけをやっと得られたような気がして、さらに僕は謝罪の言葉を口にした。
「謝って済むことではないと解っている。それでも、きちんと君に謝りたかった」
「嫌じゃなかった・・・。どんなに乱暴に扱われても、少しも嫌じゃなかった。あの時すでに・・・あなたを好きだったから」
マリーは俯いたまま言った。
「嫌だったのは・・・身代わりにされたこと。別れた人を思いながら、私を抱いたこと・・・」
身代わりにしたつもりはない。
そうではないんだ・・・。
あの日、マリーは恋愛について語った時、「日本の女」と言う言葉を引き合いに出した。
そのことに僕は無性に苛立った。
そして、理不尽な行為に及んだ。
だが・・・今、そのことを言っても意味のない気がした。
理由はどうであれ、僕のしたことが正当化されることはない。
「ごめん・・・」
もう、この言葉しか見つからなかった。
「本当に悪かったって思ってる?」
「思ってる」
「だったら・・・キスして」
「どうして、そういう発想に繋がるのか、解らない」
「謝罪の証」
マリーは僕に向かって目を閉じた。
僕も目を閉じて、躊躇いながらもマリーの唇にそっと唇を寄せた。
離れて、目を開けるとマリーの頬に一筋の涙が流れていた。
「好きになるのに時間なんて関係ないのね。出会って間もないのに・・・切なくなるほど、あなたが好き」
マリーは、震える声でそう言った。
「らしくないなあ・・・」
そう言いながらも、僕の胸の中にマリーに対する愛しさが、急速に広がっていった。
触れるだけのキスは、やがて深いキスに変わり、僕たちは何度もキスを繰り返した。
「嫌じゃなかったら・・・」
最後まで言わなくても、僕の言いたいことは、充分マリーに伝わった。
僕は、マリーの手を引いて、寝室のドアを開けた。
あの時は・・・マリーの体を眺める余裕はなかったのだと気が付いた。
柔らかなうなじ。
整った乳房。
贅肉のない下腹部。
みずみずしい爪。
ダンスで鍛えたマリーの体は、随所で若さを主張していた。
この体を独り占めしていいのか・・・。
謙虚な気持ちは、瞬くうちに、独り占めしたいという欲望に変わった。
「好きな人に抱かれるって・・・しあわせ」
「このまましてもいい?」
マリーは、僕の腕の中で、喘ぎながら頷いた。
つかの間のまどろみから目覚めたのは、窓から吹き込む冷たい風のせいだった。
「どうした?」
「雪が降ってる・・・駅まで送ってくれる?」
「明日の朝、送るから・・・」
そう言って、僕はマリーを手招きした。
マリーは素直に僕の横に滑り込むと、冷えた足を絡めてきて、「インス」と、言った。
「おじさんでも、あんた・・・でもなく、インス?」
「そうよ、インス」
「君は僕よりだいぶ年下だ。インスさんと言うのが普通だろう?」
「日本では、これが普通。恋人同士は、多くの人が呼び捨てで相手を呼ぶわ。私は、あなたをインス・・・と呼んで。あなたは私をマリ・・・って、呼ぶの」
「マリ・・・?」
「そう、それが私の本当の名前。マリーは店で使ってる名前なの」
「マリ・・・。また、君が欲しくなった」
僕は毛布の下で、マリの細い腰を抱き寄せた。
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