さて・・・お正月休み。
今日で、仕事は終わり。
明日から1週間、お正月休みが始まる。
取りあえず、年内は大掃除をしようと思う。
普段から、きれいにしておけば何もあわてる必要はないのに・・・と、この時期いつも思う。
お正月、子供たちはそれぞれの予定を立てているようなので。
私は、私なりの楽しみを見つけて、お正月休みを過ごそうと考えている。
イベント後、ヨンジュン家族の方々から送っていただいたヨンジュンのDVD。
その中には、今回の東京ドームのイベントの他に、懐かしいヨンジュンの映像を集めたDVDもある。
ヨンジュンの素敵な姿を楽しみつつ・・・。
近所のレンタル店では、ただいま「100円セール」の真っ最中。
前から観たかった韓国ドラマを楽しむのもいいかな・・・と思う。
ただし・・・DVD三昧になって、また体重が増えてしまわないように注意しないとね(笑)
こういう素敵なフラッシュを探すのも楽しいかも・・・。
☆「goob bye my love 」のフラッシュは【maronさん作 】のものをお借りしました。
それなりのクリスマス。
夫の実家は、ある特定の宗教を信仰していることもあって。
ずいぶん昔に、義理の姉から「クリスマスはやらなくていいのよ」と言われたことがある。
玄関に飾ったクリスマスリースを見て、「リースは宗教色が強いから、飾らないように」とも言われた。
だが、子供たちにそんなことを強制してはかわいそうと。
言葉尻を捕らえて、いやらしいかな・・・と思いつつも。
「やらなくてもいいのよ」と言うことは、「やってはダメ」とは違うよね・・・と、勝手に解釈して。
我が家も毎年、それなりにクリスマスを楽しんできた。
ところが、今年はやはり心情的にクリスマスを楽しむ気になれず。
「なし」にしようと決めた。
ところが、実家の母から、22日にハムの詰め合わせが届いた。
『Special Gift Collection』と言う、立派な名がついたハムは、自粛ムードの我が家にクリスマス気分を運んできてくれた。
母もきっと、そう言うつもりで送ってくれたに違いない。
そして、翌23日にはお友達から『冬ソナチョコ』が届いた。
メッセージカードには、「チュンサンからのクリスマスプレゼント」と、記されていた。
優しい心遣いに胸を熱くしている私の傍らで、次女がひと言。
「これで、人並みのクリスマスができるね」
幼い頃の時のように、ツリーを飾ってくれとせがむことも数年前からなくなっていたが。
やはり、クリスマスには「ご馳走」・・・のイメージは消えていなかったようだ。
何事も子供に強要するのはかわいそうなことなのだと、反省。
デコレーションケーキは長女が某有名店のものを買って来た。
クリスマスっぽいお料理は、これまた某有名店の「既成品」を購入。
こういうことは、夫がいたときは許されないことだったので(手作りのものにこだわる人だったから)、少々の後ろめたさを感じつつも・・・。
子供たちには大好評だった。
かくして、わが家もそれなりのクリスマスを楽しみ、今は、大そうじの真っ最中。
今年は、我が家の「掃除奉行」が、不在のため、いかに子供たちを動かすかは、私の采配にかかっている。
これが、なかなか難しい・・・。
ところで、ヨンジュンは今年もクリスマスはお仕事?
それとも、お母様の手作りお料理をたっぷり味わえたのかな?
彼女のいないクリスマス歴・・・更新中?(笑)
創作の部屋~朝月夜~<52話>
「日本に行こう」
「日本へ・・・?」
「うん、マリのご両親に会って、結婚の許しをもらおう」
「そんなに急がなくても・・・」
「早い方がいいだろう?」
「インスの気持ちはとってもうれしい。結婚しようなんて、言ってもらえると思ってなかったから」
「ご両親の都合を聞いて。それに合わせて日本に行こう」
すでに夫婦同然の生活をしているのだ。
今更、形式に捉われるつもりもないが、きちんとした手続きを取るのも、男としての責任のような気がした。
「待って」
マリの答えは意外だった。
「待って・・・って・・・?今、うれしいと言っただろう?」
「誤解しないで。うれしいの、本当にうれしいのよ。インスとずっと一緒にいたい・・・その気持ちは真実だから。ただ・・・」
「ただ・・・何?」
「私たちの結婚には、乗り越えなくちゃいけない大きな壁があるわ」
僕の脳裏にユキとの会話が甦った。
「ホテルのカフェでパパに会った時のこと、憶えてるわよね?」
「憶えてる」
「パパがあなたを見て、安心したような表情をしたことも?」
「安心したかどうかは・・・それがどうかした?」
「パパは・・・あなたを・・・インスを後継者にって、思ったのよ」
「後継者に・・・って・・・」
「私がインスと暮らしていることなんて、とうに知っているわ。おばあちゃんが言わなくたって、誰かの口からパパの耳に入ってる。それを咎めないのは、あなたを後継者にしてもいいと考えているからよ」
ひとり娘であるマリは、馬鹿げた夢を追いかけて、つまらない男とNYへ逃避行した。
予想通り、娘は挫折して、舞い戻って来た。
しばらくして新しい恋人が現れた。
ダンサーの様な浮き草暮らしと違って、定職に着いている。
しかも、名の知れた照明監督らしい。
今すぐでなくてもいい。
婿に迎えて、いずれ、娘とともに事業を継いでもらいたい。
それが、父の考えだとマリは言った。
「父の仕事は、片手間にこなせる様な仕事じゃないわ。今の仕事を捨てられる?」
ユキにも同じことを言われた。
迷って答えを明確にできず、僕はユキを失った。
僕の優柔不断さが原因で、ユキは僕の前から去って行ったのだ。
父親の側で、一緒に暮らせる人が自分にはふさわしいと言ったユキに、ならば、なぜ僕を愛したのだと聞いた。
ユキは「間違っていたことに気づいた」と答えた。
恋をしたことも、愛し合ったことも全て間違いだったのだと言った。
今、またあの時と同じ決断を迫られている。
答えは簡単だ。
同じ過ちを繰り返したくなければ、今の仕事を捨てればいいだけのことなのだ。
ベッドに入っても眠れずにいた。
マリも同じだった。
「マリは、僕たちが出会ったことは間違いだったと思う?」
「インスはそう思っているの?」
「解らない。今、それを考えていた」
「間違いだなんて思ったことは一度もないわ」
「大きな壁にぶつかることは、予想できただろう?それでも・・・?」
「インスは、いつも先のことを考えて誰かを好きになる?」
「いや・・・、そんなことはない」
「愛したことを間違いだったなんて、思いたくない。ただ・・・愛しているからこそ、その人の夢を、犠牲にしたくないと思う」
夢を犠牲にしたくない。
それは、マリが自らNYの彼の元を離れた理由でもあった。
「パパの持っているものをほしいとは思わない。だけど・・・パパとママがふたりで築き上げたものを終わらせてしまっていいのかしら・・・と、言う気持ちもあるの」
「ひとり娘としては当然のことだ思うよ」
「だからって、それをインスに強制するつもりはないわ。時間をかけて考えて。焦って間違った選択をしてほしくない」
誤った選択は、後に悔いを残すことになる。
それが、マリの考えだった。
「マリの方が僕よりも大人かもしれないな」
「少しは見直した?」
そう言いながら、マリは小さく笑った。
「豪華な部屋で、新婚初夜の気分を味わおうと思ってたのに、
すっかり、深刻なムードになっちゃったわね。インスが突然、結婚しようなんて言い出すからよ」
いつもの明るい口調でマリが言った。
「今からでも、遅くはないさ」
「ううん・・・。今夜は、静かにこのまま眠りたい」
マリは、僕に寄り添ってそっと目を閉じた。
季節は、晩秋から冬になり、クリスマスコンサートや年越しライブで、僕は多忙を極め、帰宅も深夜になることが多くなった。
帰国したマリの両親とも会えず、どのような話しが出たのか、マリにゆっくり聞く時間もないまま、新しい年を迎えた。
「お正月くらいは、帰って来なさい」と母から電話で言われ、僕はマリを伴って久しぶりに帰省した。
若いマリを見て、父は驚いていた。
母は、まだ結論を出していないことに、ため息をついた。
それでも、温かく迎えてくれた両親に、僕もマリも感謝した。
結婚の話は、一時保留状態になってしまったが、僕たちの穏やかな生活は変わることなく続いた。
気がつけば、マリと暮らし始めてから、1年の月日が過ぎていた。
マリが予約したレストランで、僕たちはささやかに祝杯をあげ、感謝の気持ちを伝え合った。
翌日、マリは朝から張り切っていた。
「早く起きて。今日は一緒に部屋の片づけをしようって、昨日約束したでしょ」
「何も今日じゃなくても・・・」
「そう言って1日伸ばしにするんだから!古くなった雑誌や新聞、まとめて出して」
マリは寝室の窓を開けながら言った。
「それよりも朝ごはん、早く食べて。片付かなくて困るわ」
「部屋の片づけよりも、朝ごはんよりもしたいことがあるんだけど」
「何?仕事、残ってるの?」
「いや・・・そうじゃなくて」
「じゃあ、何?」
早く言ってと、言いたげなマリの顔を見たら、何もせず、ベッドの中で、マリと一緒にぐずぐずしていたいなどと言えなくなってしまった。
僕は、しぶしぶベッドを出ると、食卓で朝ごはんを食べ始めた。
「机の周りは手をつけないで置くね。仕事関係のものは解らないから」
そう言いながら、マリはクローゼットの中を片付け始めた。
丸めたままのTシャツが出てきたとか、靴下が片方しかないとか、手も口も休むことがない。
「ねえ、1年前の手帳が出てきたけど、どうする?」
「いらない、捨てていいよ」
僕は、マリの方を見ることもなく答えた。
ふと、ずっと続いていたマリのお喋りが止んだことに気づいた。
マリは、僕の傍らに立ち、小さな紙片をテーブルの上に差し出した。
「これ・・・何?」
マリが差し出した紙片に画かれていたもの。
それは、スジョンが入院していた病院で、「順調に育っていますから、安心してください」と、ユキの友人から渡された胎児の姿だった。
ユキと別れてから、一度も見ることもなく、手帳にはさんだままになっていたのだ。
「子供がいたの・・・?子供がいたのね!」
「違う・・・違うんだ、マリ!」
「日本の病院の名前・・・日本人・・・なの?解ったわ・・・」
「何が解ったって・・・?」
「あの日のこと・・・。インスが初めて私を抱いた日のこと・・・。私が発した日本人と言う言葉に、あなたは反応を示した・・・」
「マリ・・・」
「その後も、何度かそういうことがあった・・・」
「落ち着いて話を聞いてくれ」
僕は、マリの肩に手を掛けて、椅子に座るように言った。
「無理・・・!こんなものを見てしまって、落ち着くことなんてできない。子供がいたなんて・・・」
「違うんだ、子供はいない」
「いない・・・って、どういうことよ」
「ダメになったんだ。生まれていない」
僕は、ユキに子供ができたこと。
しかし、その子は、この世に生を受けることはなかったことを簡単に説明した。
「事実を確かめた?病院に行って確認した?」
マリは真剣な顔つきで僕を問い詰めた。
「彼女がそう言った」
「それをただ信じたの?」
「他に何を信じろと言うんだ」
「あなたが、そんな無責任な人だとは思わなかったわ」
それっきり、マリは口を噤んだ。
「過去は気にしない・・・そうじゃなかったのか?」
「あなたが誰と愛し合って、別れようとそんなことは気にしない。でも・・・子供は別」
「だから・・・子供は・・・」
いない、そう言おうとした僕の言葉を遮ってマリが言った。
「もしも、生きていたら・・・?あなたに言わずに、彼女がひとりで産んで、ひとりで育てていたとしたら・・・?」
ユキと僕の子が生きている?
その子をユキがひとりで育てている?
そんなこと、あるはずがない・・・。
あってはならないことなのだ・・・と、僕は思った。
「どうするつもり?」
マリは、僕を責めるようなまなざしで見つめた。
創作の部屋~朝月夜~<51話>
「マリを旅行に誘ったもうひとつの理由は、マリの夢についてゆっくりと聞きたかったからなんだ」
「私の夢は、インスとずっと一緒に暮らすことよ」
マリは、躊躇うことなく言った。
「本当に?」
「おかしい?」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
「私らしくない?」
マリはそう言って笑った。
「あの・・・絵葉書に書いてあったことが気になってるのね」
「やっぱり、気づいてたのか?君に黙って持ち出したこと」
マリは黙ってうなずいた。
「まず、そのことを謝らなければいけないと思っていた」
「別に・・・謝ることなんてないわよ。見られても構わないと思ったから、あんなところに置きっ放しにしておいたんだし・・・」
マリにとってあの絵葉書は、その程度のものだったのか。
僕には、そうは思えなかった。
だからこそ、絵葉書の文面が理解できた時、僕は自分がしたことを後悔したのだ。
「NYで暮らしていた時のこと・・・いずれ話さなくちゃいけないと思ってた」
「そうか・・・」
「話すきっかけを失ってた・・・。いっそのこと、インスが絵葉書を見て、私を問い詰めてくれたら・・・って、思ったわ。ずるいわね」
マリは話すきっかけを失い、僕は尋ねるきっかけを失っていた。
「過去は気になる?」
「それが普通だろう?」
「目の前にいる人を精一杯愛する、それが私の愛し方なの。インスの愛した人がどんな人だったのか、なぜ別れたのか・・・そんなことは知らなくていいと思ってる」
「それは、終わったことに対して言えることじゃないのか?」
「私のことも終わったことよ」
「そうだろうか。少なくとも、向こうはそうは思っていないようだ。待っていると書いてあった」
僕は、あえて「向こう」などと乱暴な言い方をした。
顔の見えない男の姿が浮かんだ。
「だから・・・何?私をNYへ行かせたい?」
「そうじゃなくて・・・・」
「そんな話をするために、ここに来たの?」
「カズって、誰だ?恋人?」
「・・・だった」
マリは少しの間を置いて、そう答えた。
彼とは、日本のダンススクールで出会った。
同じ夢を追う仲間は、やがて恋人になった。
夢は果てしなく広がり、NYへ行って一緒にレッスンを受けたいと思うようになったの。
彼に内緒でパパとママに援助を申し入れた。
あっけなく一笑に付されたわ。
両親にとって、彼は娘を誘惑したとんでもないヤツで。
私達の夢は、話にならないほどのつまらないもの・・・だったの。
でも、私達はNY行きを強行した。
彼がいてくれたら、怖いものなんて何もなかった。
ふたりでバイトをしながらレッスンに通ったわ。
ひとつのパンをふたりで分けるような暮らしでも、幸せだった。
いつかは、プロのダンサーになって、同じ舞台に立とうって夢があったから。
それなのに、私はレッスン中に怪我をしてしまった。
NYの医者は再起不能とまでは言わなかったけど、リハビリにかなりの日数を要すると言った。
入院費を稼ぐために、彼はバイトを増やして、そのためにレッスンも休みがちになってしまった。
それでも、「夢をあきらめるな!」と言い続けてくれた。
そんな彼の姿を見ていることがたまらなくつらかった。
日本へ帰って治療に専念すると嘘を言って、私は・・・彼の元から逃げたの。
日本の医者は、痛めた箇所はダンサーにとっては致命傷だと言った。
一生自分の足で歩きたいなら、プロになるなどと大それた夢は忘れて、趣味としてのダンスを考えたらどうかと言われたの。
その時点で、私は夢をあきらめた。
両親の側にいるのも息が詰まる気がして、韓国に来たの。
最初は、おばあちゃんの家でのんびりと過ごしながら、これから何をしようかと考えたわ。
ダンスとはまったく関係ないことをしたかった。
だけど、すぐには思い浮かばなかった・・・。
とりあえず、おばあちゃんの反対を押し切って部屋を借りることにした。
生活するための手っ取り早い方法として、あの店を選んだの。
そして・・・しばらくして、あなたに出会った。
「これで、私の話しは終わり」
話し終えたマリは、すっきりとした表情をしていた。
「あの後、すぐに彼に手紙を書いたの。好きな人ができたって」
マリは、僕の様子を窺うように視線を向けた。
「幸せに暮らしているって書いたわ」
「その後、彼からは?」
「何も言って来ない。安心したんだと思う。彼だって、NYで2年近くもひとりでいるはずがないし・・・」
「いいのか?それで」
「私の夢はインスとずっと一緒に暮らすことだって、最初に言ったでしょ」
そう言いながら、マリはソファから立ち上がった。
「話しをしながらついつい飲んじゃって・・・風に当たりたい気分」
マリの言うとおり、目の前のワインのボトルは空になっていた。
「でも、外はきっと寒いわね」
マリは、窓辺に立って、漢江を見下ろしながらつぶやいた。
「マリ・・・」
僕は、マリと同じように漢江を見下ろしながら言った。
「結婚しよう」
マリの驚く顔が窓ガラスの中で、漢江の流れと重なっていた。
創作の部屋~朝月夜~<50話>【R】
「もう、寝た?」
僕は、ベッドの中で横にいるマリに話しかけた。
「何?」
「来月、どこかに行かない?」
「どこか・・・って?」
「それをふたりで決めよう」
「どうしたの、突然」
マリが僕を見て聞いた。
「一緒に旅行したことないだろう?」
「ないけど・・・」
「行きたい所、ある?」
マリは少し考えて、「日本」と言った。
なぜ、日本だなんて言うんだ・・・?
次の言葉を発せずにいる僕に、マリが言った。
「パパとママに、また、会ってくれって言われると思った?」
「いや・・・」
「今の時期、紅葉がきれいなのよ」
「見たことあるんだ?」
「うん・・・高校生の頃にね」
「ずいぶん昔の話だなあ」
「その頃、日本にいて、修学旅行が京都だったの。ところが、私、熱を出して」
「行かれなかった?」
マリは、黙ってうなずいた。
「すごく楽しみにしていたから、悔しくて。ベッドの中で泣いてたら、パパが風邪が治ったら一緒に行こうって」
「それで、行ったんだ」
「うん・・・綺麗だった。京都の紅葉。天才画家がどんなに腕を揮っても、あの色は出せないわね」
僕の脳裏に、会津の雪景色が鮮やかに甦った。
純白の雪。
深々と降り積もる音。
凍てつく風の香り。
そして・・・。
「日本はだめだ」
「どうして?」
「・・・言葉が通じない」
「私は解るわ」
「そのたびに通訳してたら、面倒だし、かっこ悪い」
「それなら、アメリカもフランスも・・・イタリアも全部だめじゃないの」
「だから、韓国のどこかに・・・」
「最初から、そう言って」
マリは、「つまんない」と言うと、背を向けた。
「韓国にだって、紅葉が楽しめる場所はいくらでもあるさ。たとえば・・・」
「思い出作りしたいの?」
「え・・・?」
「旅先で、もう、終わりにしようって別れ話をするつもり?」
「そうじゃなくて・・・」
「だったら、なぜ突然、旅行しようなんて言うのよ」
マリは振り返ると僕の胸にしがみついた。
「私は、今のままがいい。インスと暮らせたらそれでいいの」
今のままでいいはずがない・・・。
マリが望んだこととはいえ、正式に結婚もせず、毎日、マリに家事をやらせている。
掃除、洗濯、食事の仕度。
そして、夜は一緒に眠る。
男としては何の不自由もない。
だが、それは男にとって都合のいいことで、真っ当な生き方ではないように思える。
母もそう言っていた。
僕がマリを旅行に誘った理由はふたつあった。
まず、忙しく働くマリに休息を与えてやりたかった。
そして、ふたつめはマリの夢の話を聞く時間を作りたかった。
NYから届いた絵葉書に書かれた「夢を捨ててないよな」の言葉の意味を、僕はいまだに確認できずにいた。
「カズ」と言う人物のことも。
あの日、マリに内緒で絵葉書を持ち出し、内容を知って愕然とした。
先に帰宅していたマリに気付かれないように、僕は元の場所に絵葉書を貼り付けた。
一時、その場所から絵葉書が消えたことに、マリは気付いていなかったのだろうか。
それとも、気付いていながら、知らぬふりをしたのだろうか。
問い質されないことをいいことに、僕は口を噤んだまま、今日まで来てしまった。
「特別なことは何も望まない。インスの側にいたいだけ・・・」
いつもは受け身のマリが、自分から唇を寄せて来た。
マリの舌が緩やかに動き回る。
僕から奪った唾液を飲み込む音が、耳元で微かに聞こえた。
マリの右手がTシャツを捲り、僕の胸を撫で、細い指先は、脇やお腹の辺りで柔らかに弧を描き続けた。
その間も、マリの唇は僕の耳朶を噛み、首筋を辿り、頬に触れた。
たったそれだけのことで、僕の体はすでに反応し、それを悟られまいと僕は焦った。
だから、マリの指がスウェットパンツの紐に掛かった時には、思わずその手を強く掴んだ。
「拒否しないって約束は、私だけに課せられたものだったのかしら?」
それじゃ不公平よね・・・そう言いいながら、マリの手は僕の腕を逃れ、スウェットパンツのゴムをくぐり、その中へと侵入した。
激しく押し寄せる快楽の波の中で、声が漏れそうになるのを僕は必死に耐えた。
今、マリが僕にしていること・・・。
それは、けして強要してはならないことだと今まで戒めて来た行為だった。
だが、実は心のどこかにいつも抱いていた願望だったのだと、マリの髪を撫でながら僕は思った。
マリの唇と舌に翻弄され、その部分だけが、僕の体の一部でありながら、そうではないような・・・そんな錯覚に陥った。
「それ以上したら、だめだ・・・」
身を任せていたら、そのまま果ててしまいそうで、僕は、強引にマリを引き離した。
僕たちは慌しく衣服を脱ぎ、再び縺れ合った。
そこで、初めて主導権を得た僕は、マリの体にキスの雨を降らせ、先ほどの仕返しをするかのように、マリを責めた。
僕の動きに合わせて、マリの乳房がリズミカルに揺れた。
それはまるで瑞々しい果実のようで、先端を吸ったら甘い蜜がほとばしりそうだった。
「インス・・・好きだと言って」
マリがその言葉を要求する時は、登りつめる時の合図だ。
僕は、マリの耳元に望みどおりの言葉を囁いた。
韓国国内の旅行の話しは、あっさり流れ、僕たちはソウル市内のホテルで1日を過ごすことを決めた。
マリを家事から解放し、ゆっくりとした時間を過ごすことが目的なら、それもいいか・・・と言うことになったのだった。
「どうせなら、最高級のホテルがいいなあ。隣の部屋のひそひそ声が聞こえるような、安いホテルなら、ここにいる方がずっといいもの」
マリの希望を適えるべく、僕はソウル市内の高級ホテルの部屋を予約した。
「見慣れた漢江もこういうところから眺めるといつもと違って見えるわね」
最初は乗り気じゃなかったマリもうれしそうだった。
僕たちは寄り添って、雄大な夜の漢江を眺めた。
「インス・・・旅行に誘った本当の理由は何?」
夜景から目を離さずマリが言った。
「私をゆっくり休ませたいから・・・そう言ったわよね。でも、本当の理由は他にあるんじゃない?」
「ワインでも飲もうか?」
「お酒を飲まないと話せないようなこと?」
「いや・・・冷蔵庫の中のワインがおいしそうだったから。持って来て。ワイングラスも一緒にね」
僕たちはソファに並んで座り、深紅の液体が注がれたグラスを寄せ合った。
「レストランでおいしいお料理を食べて、漢江を眺めながらインスと一緒にお酒を飲んで・・・とってもいい気分。すべてインスのおかげね。ありがとう」と、マリが言った。
無邪気な表情で、「おいしい」と言いながらワインを飲んでいるマリの横顔を見ていたら、本当の理由なんてどうでもいいじゃないか・・・と思えてきた。
だが、心に気掛かりなことを抱いたまま生活していくのは、本当の幸せに繋がらないような気もした。
僕は迷いながらも、まず、無断で絵葉書を持ち出したことを詫びることから始めようと決めた。
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