桜よりペ・ヨンジュン。

友人が、「ソウルの桜はまだかしらね?」って。
すると、もうひとりが、
「日本の桜、見せてあげたいわね」って。
あ~心優しきヨンジュン家族。
私は、ソウルのお天気は気になるけど。
桜の開花まで思いは及ばない・・・。
花見をするより、
≪ペ・ヨンジュン≫が見たい(笑)
こちらは、桜が今を盛りと、
風に揺れながら咲いています。
ヨンジュンの新しい情報がないまま、
ブログネタにも苦慮して(笑)
自分の過去ブログを見ていたら。
2年前のこの時期、
錦糸町の高矢禮・火がオープンで。
前日、「ヨンジュン来るかもよ~」
と、遠方の友人からメールをもらっていたのに。
錦糸町にペ・ヨンジュン?
と、全く信じず。
普通通りに出勤して、
あとで、ものすご~く悔やんだことを思い出しました。
その時に、書いたお話がこれ。
再掲ですし、長いですから、
お急ぎの方は、ここまでで。
そうだった・・・。
2年前は、あの「アニソナツアー」があって。
直後に、ヨンジュンが来日したんだわ・・・。
なんて、思い出話しを語ってください。
彼が来日してから、8回目の朝が来た。
窓を開けるとすっきりとした青空が広がっていた。
今日は土曜日で、仕事は休み。
簡単な朝食と身支度を済ませて空港に向かった。
すでに彼のファンと思われる何人かが、空港ロビーに佇んでいた。
13:30・・・。
この便に乗って彼は帰国する。
何の根拠もない。
いわゆる≪勘≫というヤツ。
私だけじゃなく、みんな≪勘≫を頼りにここに来ているのだ。
真の情報を知っている人など、ほんのひとかけらに過ぎず。
そういう人は、けして大勢の人間が集まる所へは来ない。
突然、ざわめきが起こった。
入り口に向かって人波が動いた。
彼が来た・・・!
私も、そう思って急いで同じ方向に移動した。
しかし、姿を現したのは彼のスタッフだった。
出国ロビーにぞろぞろと向かうグループの中に、彼の姿はなかった。
「キミはカレがいるから、ひとりでも大丈夫だよね」
新しい赴任地に向かう朝、夫がぽつりと言った。
外国の俳優に夢中になっていることを夫が快く思っていないことは、
うすうす感じていた。
けれど、言葉に出して言われたことは一度もなかった。
だからこそ、その日の朝のひと言は意外だった。
子供がいないから夫に着いていくことは、難しいことではなかった。
それをしなかったのは、仕事を辞めたくないと言うこともあったが。
心のどこかに、ひとりの時間を作りたいと言う願望があった。
誰にも邪魔されずに、彼に浸れる時間がほしかった。
仕事をしている時以外は彼のことを考え、
数週間に1回夫が帰宅する時は、優しい妻に徹した。
気ままな日々は、瞬くうちに過ぎて行った。
そんな中、彼が極秘来日をした。
「極秘」とは名ばかりで、
入国情報はその日の内にネット上を駆け巡った。
プライベート旅行と言うことで、
公式行事はなく、彼がファンの前に姿を現すことはない。
会えるチャンスは、出国の時・・・その時しかない。
ソウル行きの便は、あと3便。
最終便の搭乗手続きが終わるまで、
彼の到着を待ったがとうとう彼は姿を現さなかった。
無性に煙草が吸いたくなった。
出口から左に数メートル行った所に、
硝子張りの喫煙スペースがあった。
煙草に火を着ける。
メンソールが舌を心地よく刺激した。
禁じられていた煙草をまた始めたことを夫は知らない。
硝子越しに月が見えた。
やや太めの三日月だった。
今回の日本滞在は長くなる・・・そんな気がした。
彼を残してスタッフが先に帰国したことが、
何よりの証拠のように思えた。
2007年春。
彼は、映画のプロモーションのため共演女優と来日した。
記者会見でのひとコマ・・・。
『おいしいうなぎの店を知ってるって、先輩が言ったんです。
連れて行ってあげるって約束したのに・・・ふられましたぁ~』
女優は、おどけた表情とは裏腹に、どこか棘のある言い方をした。
意地悪な記者が問いかけた。
『こんな美人を残して、≪先輩≫はどこへ行ったんでしょうねェ?』
『さぁ・・・ね。多分・・・オンニ・・・』
言いながら、女優は、横にいる彼の様子を窺った。
彼は、顔色ひとつ変えず、視線を合わせることもなかった。
字幕スーパーでは、
「多分、他の先輩と出かけたんだろうと思います」
と、訳された女優の言葉。
だが、熱心なファンは「オンニ」の言葉を聞き逃さなかった。
その後、数日間、
彼の「空白の一夜」は、ネット上の話題となった。
日本でのイベントを終えた彼は、
プロモーションの最後の目的地香港へと向かった。
そして、
自国に帰国することなく、
また日本に逆戻りし、約2週間日本に滞在した。
かつての共演女優と日本で逢瀬を重ねていた・・・などと。
多種多様な噂が流れたが、
彼自身はひと言も語らなかった。
「すみません、火を・・・貸してもらえませんか?」
2本目の煙草に火を着けようとした時、横から声をかけられた。
私は黙ってライターを差し出した。
「どこかに落としてしまったようで・・・禁煙しろってことでしょうかね」
男は、ライターを返しながら軽く頭を下げた。
「禁煙できたら、苦労しない・・・?」
「そう言うことです」
男は、照れ笑いを浮かべた。
不意に男の携帯電話が鳴った。
「生まれた~?明日になりそうだって言ってたのに!
それで・・・どっち?男?男か~!」
辺りをはばからず、叫ぶような話し振りだった。
男は灰皿で煙草を揉み消すと、
「子供・・・生まれたんです」と、言った。
見ず知らずの私にも言いたくなるほどの喜びだったのだろう。
「ライター、ありがとうございました!」
大きな声でそう言って、颯爽と喫煙室を出て行った。
本来なら彼も、
今の男と同じように我が子の誕生に歓喜する年なのだ。
恋愛も思うようにできない彼が、不憫になった。
多くの人間から愛されるスターだって、
その人生はその人のものなのだ。
誰も、そこに立ち入る権利はない。
折りしも2007年のあの時と同じように、
日本は桜の季節。
「あの日の桜をもう一度見たいわ」と、
彼女にせがまれ。
日本のどこかで、
寄り添って夜桜を見上げているかもしれない。
ふと、そんな気がした。
明日、もう一度空港に来よう。
それは、彼の姿を追い求めるためではなく。
夫の赴任先に飛ぶ飛行機に乗るために・・・。
私は、煙草とライターを喫煙室のベンチに残し外に出た。
『地酒うまいぞ』
昨夜届きながら、
返信もせずにいた夫からのメール。
『全部飲まないで、取って置いて』
私は、夫に返信メールを送ると、
もう一度三日月を見上げた。
創作の部屋~朝月夜~<62話>
★幸せに暮らしているユキの姿を見て、ユキへの思いにけじめをつけようと決めたインス。
ですが、「星降」の町が近づくにつれて心が揺らぎます。
そんなインスを、「恋愛は時には潔さも必要」とタケルが後押しします。
(今回はめずらしく(?)長文です。お時間がある時に読んで下さればうれしいです)
「ここまで来て、いまさら何を言ってるんですか?」
タケルは呆れた・・・と言うよりもむしろ怒ったような言い方をした。
「なんだか急に怖くなった」
「怖くなったって・・・」
「幸せに暮らしている姿を見たい、そんな思いでここまで来た。けれど・・・それを確認す
ることが怖くなった」
それは僕の本音だった。
「情けないこと言わないでください。恋愛は時には潔さも必要だと・・・僕は思います。
現実を見て、これからのことを考える・・・≪黄色いハンカチ≫があるかないかを確か
めることが今の監督には必要なことだと思います。年下の僕が、偉そうなことを言って
すみません。」
謝る必要なんてなかった。
タケルの言うことは正しいと僕は思った。
「臆病になって、つい弱気なことを言ってしまった。悪かった。撤回するよ」
「僕の方こそ、生意気なことを言ってすみません」
タケルは、僕に向かって小さく頭を下げた。
「お客さん、着きましたよ」
バスの運転手が、「星降」に到着したことを教えてくれた。
「ここから先は、誰かに聞けって言ったって、誰もいないじゃないか」
バスを降りる時、僕たちの背中に向かって運転手が叫んだことは、そういうことだった
のか。
タケルが言うように、辺りを見回しても誰もいない。
休憩時間なのだろうか。
それとも、山の日暮れは早いから、すでに家路に着いてしまったのだろうか。
農作業をしている人の姿も見当たらなかった。
その時、僕たちの左前方の草が揺れた。
バスの停留所付近で獣と遭遇するとも思えなかったが、一瞬「子狐か?」と思った。
現われたのは幼い男の子だった。
だが、その子の切れ長の・・・涼やかな目を見た時、本当に子狐の化身か・・・と、僕は
思った。
同時に遠い昔、似たような目を見たような・・・そんな気がした。
タケルも僕と同じことを感じたのだろうか。
「なんだ子供か」と言った。
男の子は、僕たちをちらっと見ただけで、坂道を上に向かって走って行った。
「お~い!ちょっと待って!」
自分を呼ぶ声だと気付いたのか、男の子は坂道の途中で振り返った。
タケルは小走りでその子に近づくと、「神門さんと言う家を知ってる?」と聞いた。
「みかど・・・?」
「うん、神の門と書いてみかど。漢字を言っても解らないか・・・」
「みかどってうちはたくさんあるよ」
「そうなんだよな」
日本語が解らない僕は、ふたりの会話が理解できない。
神門と言う名だけが、唯一理解できる言葉だった。
「田舎は、その地域全部が同じ苗字ってことがあるですよ」
と、タケルが教えてくれた。
「みかど・・・だれ?」
男の子がタケルを見上げて言った。
「そうか、下の名前が解ればいいんだよな」
「監督、下の名前、何と言いますか?監督が会いたい人の名前です」
「ユ・・・キ。神門ユキ」
「神門ユキさん、知ってる?」
「みかどゆきは、ぼくのおかあさんのなまえだけど・・・」
「ホントかよ!」
タケルは絶望的・・・とつぶやきながら、僕に韓国語でおおよその説明をしてくれた。
「やっぱり結婚してたんですね。そして子供もいた。だけど・・・」
「だけど・・・?」
「苗字が旧姓のままって言うのが気になるなあ。相手の男が神門姓になったってことで
しょうか?」
苗字のことなど、どうでもよかった。
それよりも、もっと大事なことが僕の心に広がっていた。
「年は・・・?その子の年」
「キミ、いくつ?」
「6さい。もうすぐ1ねんせいだよ」
「6歳だそうです」と、タケルが言った。
6歳・・・あの時の子が生きていたら、ちょうどこのくらいの年になっているはずだ。
もしかして、この子は・・・。
僕は、心臓が大きく高鳴るのを感じた。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
確証がないことを口にできないと思った。
ましてや子供に父親のことを尋ねるなどできないことだった。
「会いますよね?ユキさんに」
それは僕の承諾を得ると言うより、念を押す口ぶりだった。
「おかあさんに会わせてくれるかなあ?」
「いいけど・・・。おじさんはだれ?」
男の子は僕とタケルを交互に見つめながら言った。
「おじさんじゃなくて、お兄さんと言いなさい」
タケルが子供の頭を人差し指で突きながら言った。
「お兄さんたちは、キミのおかあさんに会うために遠くから来たんだ。お家まで連れて行
ってくれるとうれしいんだけどなあ」
「うん、ぼくのおうちはこのさかみちをのぼったところ。すぐだよ」
男の子はそう言いながら、すでに数歩先を歩き始めていた。
「キミ、名前は?」
「じゅん・・・みかどじゅん」
「ジュン君か・・・」
「じゅんゆうしょうのじゅんだよ」
「難しい漢字を知ってるんだなあ」
「だれかにきかれたらそういいなさいって、おかあさんにいわれた」
「準優勝は2番目だぞ。2番より1番の方がよかったのに」
「いちばんはおとうさんだから」
「え・・・?」
「おかあさんがせかいでいちばんすきなのは、おとうさん。つぎがぼく」
「ジュン君が負けるくらいだから、お父さんはかっこいい人なんだ」
子供は、小さな声で「・・・うん」と言った。
「かっこいいって認めてないのか?あ~!やきもち焼いてるんだな」
僕は、ふたりの会話を黙って聞いていた。
「監督、敵はなかなか手強いみたいですよ」
「敵・・・?」
「ユキさんのご主人。かなりのイケメンみたいです」
「イケメン・・・」
こう言う時にも流行りの言葉を交えて会話ができるタケルを若いな・・・と思った。
その若い感性がうらやましくもあった。
男の子は、ジュンと言う名であること。
夫を世界で一番好きだとユキが言っていることから、言いにくいけれど夫婦円満な生活
をしているようだと、タケルが話してくれた。
ジュンの顔つきから、端正な面立ちの父親を僕は思い描いた。
「こっちのおじさんはかんこくのひと?」
「よく解ったなあ」
「いま、かんこくのことばをしゃべったでしょ」
「韓国語解るのか?」
「ちょっとだけ。ぼくのおかあさんが、おばさんたちにかんこくごをおしえてるから」
「アンニョンハセヨ」
タケルと話していたジュンが、僕を見ていきなり韓国語で挨拶をした。
僕は、驚いてタケルの顔を見た。
「母親が韓国語を教えてるらしいです。ユキさん・・・は、韓国語が話せましたか?」
「ああ、韓国語の通訳の仕事をしていた」
「ビンゴ~!決定ですね。この子の母親は、間違いなく監督が会いたがってるユキさん
ですよ!」
すっかりハイテンションになってしゃべるタケルの横で、ジュンは何か言いたげな様子
だった。
視線が重なったと思ったら、ジュンは僕に向かって言葉を発した。
「おじさんのおうちはかんこく?」
だが、僕にはジュンが何を言っているのか解らない。
助けを求めるように僕はタケルを見た。
「監督の家は韓国にあるのかって、聞いてます」
僕に代わってタケルが答えた。
「このおじさんは、子供の時からずっと韓国で暮らしているんだよ」
「じゃあ、おともだちもたくさんいる?」
「いると思うけど」
「ぼくのおとうさんのこと、しってるかなあ?」
「ジュン君のお父さん?」
「ぼくがもっとおとなになってからって、おかあさんはおしえてくれないけど、ぼく・・・しっ
てるんだ。ぼくのおとうさんはかんこくにいる」
さっきまでのハイテンションな表情とは一変した顔つきで、タケルが僕を見た。
「ほんとはおかあさんもおとうさんにあいたいんだ。でもがまんしてる。だから・・・」
「だから・・・?」
「あわせてあげたい」
「監督!なんだかおかしな展開になってきました」
「おかしな展開って・・・?」
「父親は韓国にいるって。母親がそう言ったみたいで・・・」
いままで隠れていた「あり得ないもの」が、突然僕の中で姿を現した気がした。
「父親の名前は・・・?」
僕は、通じるはずもない韓国語でジュンに問いかけた。
「ジュン、お父さんの名前、解るか?」
やや乱暴な口ぶりから、タケルが興奮していることが解った。
「う~ん・・・え・・・と・・・」
ジュンは必死に思い出そうとしているようだった。
「ジュ~ン!」
坂道の上から、ジュンを呼ぶ男の声が聞こえた。
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