2010/10/30 16:47
テーマ:創作・小説 カテゴリ:趣味・特技(その他)

一万の夜を越え~流連~Ⅵ

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<Ⅵ>
 
翌日、夜のバイトが終ってから、潤一郎君が「じゃむ」に誘った。
特別な事が無い限り、早めに店が終った日は、当然のように、いつもここに来ていたのだが、店の女将さんが、息子の潤一郎君に、僕を夜遊びに連れ回すなと窘めたらしい。
悪戯をしたやんちゃな子供が、母親の目を盗む様に、僕達は勝手口の奥から抜け出してきた。
「じゃむ」のドアを開けるとすぐに、またイメージの違う厚化粧の彼女が視界に入った。
心臓が高鳴った。
 
「いるよ」
 
と、言って潤一郎くんが彼女達に向かって軽く手を上げた。
彼女とレイちゃんの他に男が一人いた。
昨夜ともに一晩過ごし、軽く冗談も言い、食事をして昼過ぎまで一緒にいた相手なのに、
今はすっかり平静心を失っていた。
潤一郎君の声が遠くに聞こえる。
20分ほどでもう一人男が入ってきた。
彼女の顔がパッと明るくなり、その前に座った。
如何にもモテそうな優男だ。
続けて、アツシが入ってきた。
店内を見渡し(ここの常連の共通仕草である)、彼女達に気が付くと元気に声をかけた。
 
「ダブルデートぉ、いいなあ」
 
アツシがうらめしく思えた。
 
「冗談じゃないよデートだなんて!ナゴムちゃんはともかく、レイちゃんは彼氏いないって

言ってたんだから・・・!」
 
「あれ?いい女には男の一人や二人いて当たり前って、言ってたのはマスターじゃなかったっけ」
 
「男のクセにブラッディマリーなんか飲みやがって・・・タバスコでも入れてやれ!」
 
「あ、それ美味いんですよ!」
 
僕はマスターをからかう積りで言ったのでは無く、それは、昨日の彼女の言葉だった。
耳の後側でずっと彼女の気配を感じていた。
みんなで茶化したが、マスターは本気で妬いてる様だ。
しかし、一番のピエロは僕だった。
いた堪れなくなってきた。
 
「アツシ、送ってくれないか」
 
「いいですけど、もう帰るんですか」
 
「おーい、逃げんなよ~吉岡良男!ホントは俺の気持ち一番解ってんだろ~?」
 
「マスター、マスターなんだから飲みすぎないでね」
 
僕はドアノブに手をかけたまま、めいいっぱい明るく答えたが、振り向けなかった。
パートに戻ってもずっと気になっていた。
自分自身のの曖昧な態度にも苛立っていた。
出会って一週間、数回会っただけの女にこれほど動揺した事があっただろうか。
今まで、女の子に対して、好きとか嫌いとか、愛とか恋とかいった感情で接していなかった事に、初めて気付いた。
可愛い女の子や自分を好きになってくれる女の子はみんな好きだったし、セックスの最
中なら、ソープの女とだって愛を語ってきた。
思春期の頃のあの想いが、初恋というなら、この感情はそれにも似ているかもしれない。
眠れないまま、悶々としていたら電話のベルが鳴った。
”彼女だ"と思った。
せわしなく動いていた左手を止め、3回リンガーを鳴らしてから受話器を取った。
レイちゃんからだった。
 
「寝てた?ごめんね、でも、怒っちゃったのかと思って、気になったから・・・」
 
「怒るって・・・俺がナンデ?」
 
「不愉快にさせたみたいだから、すぐ帰っちゃったみたいだし・・・本気になる前に敵を見せておいた方が言いかと思ってね。あなた達がまかり間違っても付き合ったりしないように、おせっかいかなと思ったら、ただのイヤなオンナやっちゃっただけだったわ。彼はね、本当にいい奴で真面目で純情で、真剣に彼女のこと想ってんだよ。貴方達の様にゲームで恋をするような人種じゃないの。彼女だってそうだよ。」
 
「彼女がなんか言ってたの?」
 
「そっこが問題なのよう!みんな私のカンと大きなお世話・・・ちょっとまって、今代わってあげる」
  
心臓がまた激しく波打った。
 
「こんばんは、元気?」 
 
少し間があった。
 
「最初から最後まで無視したまま帰っちゃうのね」
 
「そっちだって無視してただろう。楽しそうに彼氏といる女に声掛ける訳にいかんだろ」
 
「礼儀は礼儀でしょ.シカトした上にさっさと帰ったあなたを彼は疑ってたわ」
 
「疑うって、それはあんたらの問題だろ、。疑われるようなこともしてないし」
 
「彼にとって、私が誰かと何かした、ではなくて、私に何が起きたのかが問題なの。

私が何かに揺れてるってことが許せないみたい」
 
揺れてるって言葉にときめいた。”俺に?”
 
「オトコまだ店にいんの?」
 
「いる」
 
「帰せよ、これからそっちに行くから。20分以内に帰しとけよ。あんたに話したいことがある」
 

「そういうわけにいかない、怖い顔でこっち見てるし・・・一緒に帰るから。とりあえずちゃんと声が聞けたか  ら今晩は眠れるヮ」
 
「なに挑発的なことばっかり言ってんだ、絶対待ってろよ」
 
”声が聞けた・・・って”
 
店に戻ったのはちょうど2時だった。レイちゃんだけで他に客はいなかった。
 
「さっき帰ったばかりだから、駅辺りでシュラバになってんじゃないかと・・・・・」
 
ヨッシーほんとに戻ってきたんだー、しょうがないよ、こればっかりは、な」
 
「せっかく出直ししてきたんだから、飲みに行きましょう」
 
と店員のヤツモト君が言ったが
 
「いや、帰るよ」
 
「ナゴムんちいったら駄目だよ」
 
「行かないよ」
 
さっきの彼女の電話での挑発的な言葉は、思い上がりだったのか・・・
恋愛ごっこは、いつも成り行き任せだった。
チャリで戻ってくる間にも、レイちゃんの言うように、途中で会った時の事も想定しながら、心はどこか燥いでいたのに、空振りとなって、一気に萎えた。
アパートに戻っても、ふたたび悶々としてきた。
”眠れそうにないな”
その時、ドアが小さくトントン鳴った。
ドキッとしたが彼女はこの部屋を知らないし、突然来るのは兄貴か酔っ払った友人達だ。
ジャージだけ履いて玄関ドアを開けた。
毛皮のロングコートを着た、スラリと背の高い女が立っていた。

「どうしちゃったの?鍵なんかかけちゃって、女の子でも珍しく連れ込んでる?」
 



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