2015-09-08 18:09:42.0
テーマ:創作 同じ空の下で カテゴリ:日記(今日の出来事)

同じ空の下で 2






久しぶりの創作UPに、沢山お越しくださいまして、ありがとうございます。

調子に乗って^^2話をUPいたします。

今回、懐かしい劇団のメンバー、出てまいりますよ。

ナイスミドル(笑)になった仁も登場します!














店じまいして、エドが向かいの【MIYUKI】のドアを 開けたのは、


もう夜の11時を過ぎていた。





操と舞は、どうやら常さんたちの計画に加担していたらしく、


大量の洗い物をするエドの横を笑顔ですり抜けると、




「先に行ってるわ。終わったらいらっしゃい」


と、言い捨てて先に行ってしまったのだ。





「ったく、女は鬼だな。誕生日の主役に鍋洗いさせんのかよ」





自分が誕生日そのものを忘れていた事は棚に上げ、


エドは愉快そうに笑いながら先に行ってしまった2人に悪態をついた。


半ばヤケクソになってソースパンや寸胴を擦り、腹いせに普段操が


一生懸命節約している水を、蛇口全開にしてザーザーと流す。




そういえば今朝も、最近稽古場下にばかり篭っていて、


家の方にあまり戻ってこない事をくどくど言われ、喧嘩になったのだ。





高2の夏から勉強部屋として使っている昔の家。


劇団の稽古場下にあるその部屋は、エドが8歳の頃まで


家族3人で住んでいた。


木島元代表からバーニーが劇団を譲り受けた時、


そのまま同じ劇団ビルの3階の木島家にエド達は移り住んだ。





アメリカで自分の事務所を持ち、演出家として新たに挑戦する事を


決意した木島とその妻、萌にとって、劇団運営及び、その全てをバーニーに


譲るのは当然の事だったらしい。





『このさいだ。何もかも全部好きにやっていいからな、バーニー。

今日からここの代表はお前だ。各方面へのなんちゃらかんちゃらは

一応全部済んでっから。

俺は萌と一緒に、これからお前の古巣に乗り込むよ。

あの時お前が日本で新たに始めたように、俺も向こうでやってみる。

せっかくの話だ。俺に、もう一度チャンスをくれ』



『代表・・』



『悪いな、バーニー。これは俺の我がままだ。

お前が何と言おうと、ここはお前に継いでもらう』



『代表!』



『あの仁や拓海たちを残していくんだぞ?他にあの連中をまとめ

られる奴がいたらお目にかかりたいもんだ。

奴ら、自分達が中年になってる事にすら気付いちゃいねえ。

ま、あれだけ踊れる連中だ、当然って言えばそれまでだが。

・・俺が出てった方がいいんだよ。宇宙も奴らにも刺激が必要なんだ』





木島はそう言って、代表就任を固辞するバーニーを説得したらしい。


安心してNYに新天地を求めた木島は今、アクターズスタジオを主催し、

育てた俳優をブロードウェイに送り出している。





劇団地下室の部屋は、エドが生まれ育った場所だ。


子守唄の様に、タップシューズの乾いた音を聞いて育ったエドには、


広い家のリビングより、稽古場の息づかいまでも感じられるような


狭い地下の部屋がなんだか居心地が良かった。





初めは試験前や、週末遊びに来た雅紀たちとのバカ騒ぎに使って


いた部屋だったが、最近は学校から帰ると、家に帰らず直行していた。





1人の時間が欲しいし、1人になりたい。


何だか毎日イライラするし、胸がもやもやする。





何故、勉強するのか。


自分が、何をしたいのか。


自分は・・どう想われているのか。





頭の中がぼんやりして何も考えられない。


答えを探そうとするけれど、


何が正解なのか、どの道を歩けばいいのかさえ分からない。





自分の何もかもが自信が無い。


今まで好きだった物。何も考えずにやってきた事。


それさえも、全部無駄だったような気がして・・


自分でもどうにも持て余す感情に、自然に稽古場下に篭る日が増えていった。







やっと片付けを終えて【MIYUKI】の重いドアを開けると、


店内は既に賑わっていた。


カウベルの音も聞こえなかったのか。皆、エドを振り返りもしない。


大声で飲み、騒ぎ、誰かの話にどっと笑い声が起きる。





見れば全員が劇団関係者。


よく見る知った顔ばかりだ。





大きく溜息をついて立っていたエドに、


カウンターの中の常さんがやっと気付き、シェイカーを振る


手を止めて、こっちに来いと目力で合図した。





「エド。遅かったじゃないの、主役が遅刻だなんて。

悪いけど先に始めちゃったわよ」



「どうぞどうぞ。どうせきっかけだろ?オレの誕生日は。

こうやってここで皆で飲む口実の」





カウンターの右端に腰を下ろしたエドの前にジンジャーエール


を置いた常さんは、エドの様子に笑いながらこう言った。





「拗ねない、拗ねない。青少年の成長は嬉しいもんよ。

皆、喜んでるんだから。劇団代表の御子息の誕生日をね」



「止めてよ、その言い方。いくら常さんでも怒るよ?」



「ぶわっはっは!!何?その目!ふふ、あんたのそんな顔、

昔のバーニーにそっくりになったわ。やっぱ親子ね」



「似てる?オレが親父に?そうかぁ?どっちかって言うと、

仁おじさんの方に似てるってよく言われるけど」



「ぱっと見はね。バーニーの外見はキッチリしすぎてるから。

でも、あんたの瞳も灰色じゃないの。遺伝子なのよ。

しかし、仁ちゃんっていつまでも老けないわよね。

しかもあの体力でしょう?あれで50後半だなんて信じられないわ。

瞳ちゃん一体何食べさせてるんだか。

もしかして、あの地下室で、不老不死の薬でも仕込んでんじゃない?」



「アハハ。んなバカな。でも確かに、おじさん若過ぎ!

うちの学校の女子にも結構ファンがいるんだ。ダンス部の連中とか、

演劇部とか。オレの顔見ればサイン貰って来いってうるさいんだよ」



「ん。やっと笑った。ね。エド。最近変よ、あんた。

年頃だから色々あるのはアタシも分かってるけどさ。舞ちゃんが

心配してたわ。何も話してくれないって。ね?もしかして訳ありの

恋、かしら?青少年」



「・・そんなんじゃ、ない」



「あんた。最近踊ってないんだってね。どうして?

受験ってのは、そんなに忙しいものなの?」



「常さんまで。お袋だけで充分だよ。そんな台詞は」



「ねぇエド。本当の意味で仁ちゃんの跡が継げる男は、

あんただと思ってたけどね、アタシは。確かにまだテクニックじゃ

智や文哉に及ばないけど、あんたの踊りにはソウルがある。

ソウルよ、ソウル。分かる?ここ、ハート」



「あんまり褒めんなよ。そんな事言ってくれるのは、

常さんだけなんだから」



「あら?仁ちゃんもバーニーも分かってるわ、当然よ。

だってあんたが踊りだした日のことなんか」



「またその話?いいよもう‥耳タコ」





その時、店の奥から舞の高い笑い声が聞こえた。


舞にもっと飲め、と誰かが勧めているらしい。


奥を覗くと4人がけのテーブルに拓海とアキラが入り口に


背を向けて座り、舞の隣で文哉がニコニコしながら舞のグラスに


氷を入れていた。


劇団幹部のオヤジ達に囲まれて、舞はケラケラと笑い御機嫌だ。





「いやだぁ、拓海ちゃん。杏子は私の親友よ?

拓海ちゃんとじゃ一体いくつ違うと思ってんの?また、もう!

冗談、言わないで、よ」



「おい。心外だなぁ、舞。俺が誘ったんじゃないぜ。

杏子ちゃんの方から告ってきたの。それにな?舞。恋に年の差なんて

関係ないんだって。お前さんの両親も年離れてるだろう?当時は

犯罪だなんて言われたもんだぜ。な、仁さんと瞳、何歳違いだっけ?」



「うちの両親?14歳だけど」

彼女は俺にベタ惚れだし、俺だってまだ現役バリバリだからな」



「バカ拓海!14と25じゃ全然違うわよ。計算も出来ないの?

それにあんたまた悪い癖・・いい加減にしなさいよ。舞の友達泣かせたり

したらアタシが承知しないからね!ねぇちょっと、もう舞に飲ませないで。

この娘あんまり強くないんだから。飲みすぎると後が大変で・・

あとでアタシが仁ちゃんに怒られるんだからね!ちょっと聞いてんの?

・・・あ」



「だ、か、らだよ。常さん。仁さんの居ない平和な飲み会。

舞は俺達のアイドルなんだ。あの超過保護の仁さんが傍にいたんじゃ、

まともな話だって出来やしない。それに俺達はだね、飢えた若い団員から

舞を護ってんの。本来なら感謝してもらいたいくらいさ、なあ?アキラ」



「そうですよ。僕達は舞ちゃんが生まれた時から知ってるんですから。

娘みたいなもんじゃないですか。僕はね。親の気分なんですよ」



「ふーん、拓海。誰が誰に感謝するって?」



「当ったり前だろ?舞を箱入れて外に出さない頑固親父。

もうすぐ還暦だってのに化け物みたいに若いウチのトップさ。

稽古場で若い女の生き血吸ってる大長老」



「誰が大長老だ!馬鹿野郎」



「えっ?痛て~、なにすんだよっ!‥て。げ、仁さん?」





拓海の頭を拳固でゴツンと叩いた仁は、慌てて謝るアキラ達を


睨みつけると、酔った舞の腕を掴み、強引に中年男達のテーブルから引っ張り


出した。





「じ、仁さん‥いつ帰ってたんっすか?帰国、明日の予定じゃ」



「用事が終わったから帰って来た。何かまずかったか?」



「いや~、アハハ。ま、まずいって事はないですけど」



「まったく。いつも殺人的に間が悪いね、拓海は。

そんなだから何回結婚しても奥さんに逃げられんだよ」



「エド!てめぇ、俺の唯一の傷口に塩塗りやがったな?大体お前の誕生日

だからこそ俺達はこうしてだな!おい、操!お前んとこの教育はどうなってんだ?

口の訊き方から教育し直せよ」



「あら。私にとばっちり?生憎、ウチの教育方針は自分に正直にって奴でね。

主人がアメリカ人なもので、どうしても考え方がアメリカナイズされちゃうのね」



「お前なぁ、ふざけるなよ。どう考えたって、バーニーさんの躾とは思えねぇ

だろ。それにいいか?俺はお前の命の恩人だぞ!もっと敬え!」



「またその話。はいはい、そうでした。でももう時効でしょ?

エドの言う通りだわ。いつまでもそんな事グダグダ言ってるから、何度も嫁に

逃げられんのよ」



「く~!おい、操、てめぇ~!」





拓海が操の頭を拳固で小突くマネをする。


酒が入ってケラケラ笑う操は、そんな拓海を相手にもしない。


いい年した従姉弟同士の喧嘩は、いつも操の勝利だった。





「アハハ。操ちゃん、サイコー!あ、パパ!お帰り~」



「何がお帰りだ。いい若い娘が、何酔っ払ってる」



「え~?そんなに飲んでないわよ。ちょっとよ、ちょっと」



「ナオト。お前が居て何だ。舞の監視してろって言っただろ」



「知らないよ。オレは舞のお守りじゃない。それに、オレの言う事なんか

聞かないさ、コイツは」



「ねぇパパ。私は大人よ。いつまでも子供じゃないの」



「バカ言え、何が大人だ。お前はまだまだ子供だ」



「あら?ママがパパと結婚したのは22歳の時でしょう?

私も来年22よ。立派な大人じゃない」



「舞。お前なぁ」



「はい、仁ちゃんの負け~。もういい加減、過保護から卒業したら?

いいから座んなさいよ。何か作るから。どうしたの、早かったじゃない。

帰るの明日じゃなかった?」





仁は、エドの事を“ナオト”とミドルネームで呼ぶ。


バーニーが息子の名前に、自分のアメリカ時代の英語名を付けたのが、


未だに気に入らないらしい。





エドも仁が呼ぶ“ナオト”という響きが好きだった。


憧れの伯父の“特別”になれた様な気がするから。





カウンターのエドのグラスの中身を覗き込んだ仁は、


ちょっと考えてから、常さんに同じものをオーダーした。


常さんは、あら珍しいと肩をすぼめると、カウンターの真ん中に


座った仁の前に、ジンジャエールを置いた。





「何だかいつもと違うわね。向こうで何かあった?」



「ん?あぁ。まぁ、な」



「ねぇ、アルには逢えたんでしょう?どうだった?元気にしてた?

しかし、たいしたもんよね。あのアルが。アタシ達が知ってるあのアルが、

今年のトニー賞だなんてさ。仁ちゃんが発掘したあの子の才能は、やっぱり

本物だったって事だもの。ね、あの子のあの舞台、まだロングラン続いてる

んでしょう?アタシも見たいわ~。今度皆で行きましょうよ!」



「ん?あぁ、そうだな。おい、ナオト。悪いがあの酔っ払いを送っ

てってくれ。で、瞳にMIYUKIに来るように言ってくれるか?

常さん、腹減ってんだ、飯くれよ。常さんのおにぎり食いたい」








金曜の夜の駅前は、深夜でも賑やかだ。


静かな商店街の外れにあるMIYUKIから、鼻歌交じりに歩いてきた舞は、


その賑やかさに何故かククッと笑いながら、やっと歌うのを止めた。





ミュールを引っ掛けた足が少しおぼつかず、時々エドを振り


返っては、またククッと小さく笑う舞。


その姿に、駅前にいた数人の男が、ヒューヒューっと高い口笛を吹いていく。





エドは、まだ笑っている舞の手を乱暴に掴むと、


溜息を吐きながら、大股でガードをくぐって行った。





握った小さなその手の温もりに、


エドの心臓がトクン、と音を立てた。




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