2015/09/16 17:33
テーマ:創作 同じ空の下で カテゴリ:日記(今日の出来事)

同じ空の下で 3






ようやく3話です。いや~、長らく放置していたので、 気になる

ところだらけで・・・やっとこさUPにこぎつけましたよ。

どうぞご笑納下さいませ♪









舞の手を強引に引っ張りながらガードをくぐり、


本多劇場の前を通る頃、エドはやっとその手を離した。





舞は、楽しそうに小さい声でケラケラ笑っている。


そして、まだ少しおぼつかない足で、劇場の大階段を上り始めると、


最上段で、大きく伸びをした。





短めのキャミソールの裾から覗いた素肌が、妙に真っ白い。


エドは、舞から慌てて目を逸らした。o






「あ~、良い気持ち。ね、エドもおいでよ」



「酔っ払い…さ、帰るぞ。それとも瞳ちゃん呼ぶか?」



「いやよ、そんな酔ってないもん。それにそんな事したら

またパパに大目玉よ。大体パパが大袈裟なの。まだ全然平気だったのに」



「平気なうちに帰れって事だろう?オレだって自分の誕生会

抜けてわざわざ送ってやってんだ。感謝しろよな」



「“オレ”だって。イヤね、最近のエド。背伸びしちゃって」



「っせーな。いいだろ、別に」







…いつまでも姉貴ぶるなよな。


もう18だ。オレだってもう、子供じゃない。





「ね、エド。あんた、本気の恋した事ある?」



「え」






いつの間にかミュールを脱いだ舞は、階段の上に座り、


裸足の足を組んで、大きく息を吐いた。





組んだ足の間からスカートの中が見えそうで、


エドは溜息を吐き、また目を逸らす。





「おい。舞。いい加減にしろよ」



「ね?どうなの?エド。あんた、あれだけモテるんだから、

たぶん、ガールフレンドの1人や2人いるんだろうけど」



「別にモテてなんかいない。おい、いいだろ?もう」



「本気の恋よ。体中が震えちゃうくらいの恋。

きっと一目惚れなんじゃないかなぁ。逢った瞬間に、ハートにビビッと

運命感じちゃう!みたいな…」



「は?くだらな。女ってすぐそれな」



「何がくだらないの?本当の恋ってそういうものじゃない?

ある日きっと白馬の王子様が…女の子なら皆、夢見てるわ」



「へ…ぇ」



「ね。さっき拓海ちゃんが私の友達と付き合ってるって言ってた

でしょう?何だか考えちゃって。恋愛って色んな形があるのは分かる

けど、そんな年上の人となんて私、想像できないんだよね。

パパとママがいつまでもラブラブなのは、いいなって素直に思うけど」



「おい。拓海なんかの言う事、いちいち聞くなよな。

どこまで本当の話か分かったもんじゃないぞ」



「ね、エドは?エドはどんな恋がしたい?」



「舞」



「色々あるでしょう?夕日が差す放課後のプールサイドで、水泳部の

マネージャーに突然告られるとか。行き帰りの電車の中で、他校のJKに、

こっそりラブレターもらうとか」



「古っ!何だ?それ。お前、ライトノベルの読みすぎだ。

いつの時代のシチュエーションだよ。そんなの無い無い!」



「そうなの?じゃやっぱり拓海ちゃんが言うみたいに、高校くらいの

男の子って皆、ヤレればいいとしか思ってないの?え?エド、あんたも?」



「ヤレっ…バカ!何言ってんだ、お前。

はぁ…勝手にしろ。オレは先に行くからな」



「ちょっと、エド。私を送ってくれるんでしょ?

急にどうしたのよ。ね、ちょっと待って。エド、待ってってば!」







…チッ!くされ中年拓海!!ろくな事、言いやしねぇ。


あいつ、酒飲んでなきゃ、超面白くて大好きなんだけど。


親父に話せないエロイ相談も、拓海には話せるし。







でも。


これはダメだ。



21にもなって未だにおとぎ話の国にいる舞に、


あいつ、余計な事吹き込みやがって。







コイツは…舞は…


フツウの女とは違うんだよ。







猛烈に腹が立った。


背中に、追って来る舞のミュールのカツカツとした足音を聞きながら、


エドは、大股で仁のマンションに向かって歩き出した。







「ねぇ、ちょっと!エド~」


時々カカッと突っかかるような舞の足音。


エドはまた溜息を吐き、舞に分からないように少しだけ速度を緩めた。















「…えっ?アルが?」



「ああ」



「じゃ、公演は?ロングランは?」



「もちろん降板した。トニー賞受賞後の大事な舞台だったのにな。

残念ながら当日の舞台は休演。翌日から代役が立ってる。

バーニーは看病と諸々の処理があって、残ったんだ」



「どうしてそんな…エレベーター事故ってどういう事?

それよか、全治どのくらいなのよ!」



「傷自体は多分2ヶ月くらいかな。右足の複雑骨折と裂傷。

でも、問題は後遺症が残るかも知れないんだ。まだ分からないけど」



「えっ?」



「本当は、俺が残ってやれば良かったんだけど。

まさかこんな事になるとは思わなかったから、スケジュール入れて

たんだ。宇宙の仕事なら何とかなるけど、客演じゃそうはいかない

から」



「アル…」



「歩けなくなるとかそんなんじゃないけど、今後ダンサーと

して満足できる踊りが出来るかどうか…

バーニーは辛いだろうな。アルはバーニーを庇って落ちたんだ。

不幸中の幸いは、落ちたのが1階から地下2階までだった事だ。

もし、家がある12階から落ちたら命がなかった」



「そりゃそうだけど!」



「なぁ、常さん。瞳に何て話そうか。

アルが成功してアメリカ中に認められて、あんなに喜んでたのに。

あいつにとって、アルは弟みたいなもんなんだ」



「仁ちゃん」



「くそっ!!やっと、やっとここまで…あいつは、アルの

才能は…アルは本物のダンサーなんだ!!

今まであいつがどれだけ…どんな想いで…

常さん。やっぱ酒くれ。思いっきり強い奴」









エドが舞を家に送り届け、代わりに瞳を連れてMIYUKI


に戻った時、店には劇団の重鎮メンバーしか残っていなかった。


常さんはカウンターを離れて仁と飲んでいて、拓海とアキラは、


奥のベンチシートで静かに膝を抱えている。


カウンターの中の操が食器を洗う音だけが、小さくカチャカチャ響いていた。





さっきまでの店の様子とのあまりの変わり様に、


エドは開けたドアの前で驚き、棒立ちになった。


後から入ってきた瞳が、エドにぶつかって「痛っ!」と声を上げる。



「瞳ちゃん…」





ふわりと花のような笑顔の瞳が入ってくると、


張り詰めていた店内の空気が一変した。


瞳は、真っ直ぐに仁の傍まで進み、その手を取ると、自然に


隣に座り、高く透き通るその声で、愛するその名前を呼んだ。





「もう!仁さん。帰ったんなら空港から電話してくれたって

いいじゃない。エドから今聞いてびっくりしちゃった。元気だった?」



「瞳ちゃん」



「ね、アルも元気だった?受賞後、ずっと忙しいって言ってたものね。

トニー賞、ロングラン。凄いことだけど、体調が心配だな…

ん?何?皆、そんな顔して。ね、操ちゃん。何かあった?」



「瞳ちゃん、あのね」


仁が瞳の手を強く握り返す。


そして何も言わずに、瞳の小さな体を強く抱きしめた。











2学期が始まってまもなく、エドは担任教師に呼び出された。


理由は自分でも分かっていた。


学期初めに出さなければいけなかった進路関係の書類を、


まだ提出していなかったから。


そして、先週末に行なわれた校内模試を、


全教科白紙で出したからだ。





進路指導室までの廊下がやけに長く感じる。


渡り廊下で立ち止まり、窓の外のプールをぼんやりと眺めた。





去年の秋まで1日1万メートル以上は泳いでいたプール。


2年の時、個人メドレーの選手としてインターハイの東京都代表に


なったのが、遠い昔の様に感じた。





「セーッ、セーッ、セーッ!潤、ラスト1本!!」





コーチの甲高い声が、ここまで響いてくる。


エドが自分の後任に指名した、2年生の現キャプテンの潤。


スイマーとしての記録は今ひとつだが、真面目で誰にでも優しく、


2年からも1年からも慕われている。





「頑張ってるな、潤」





良い記録が出たんだろう。コーチがストップウォッチを潤に見せ、


盛大に頭を撫でている。プールサイドの部員達が駆け寄って、


全員で水の中から潤を引き上げた。





「どうしたの?エド。プールが恋しくなった?」





その声に振り向くと、いつのまにか隣に可奈子が立っていた。





同級生の可奈子は、元水泳部のマネージャー。


かつて、家族より長い時間をエド達とプールで過ごした仲間だ。


丸顔にポニーテールの可奈子は背が低く、エドの胸くらいしかない。


下からエドを見上げる様にして覗き込む表情は、悪戯を見つけた


子供みたいに無邪気だった。



「おう」


「何が“おう”よ。私、ずいぶん前から居たんだよ。

ちょっとショックだな。私ってそんなに気配無い?」



「悪かったな」



「いいけどね。私なんて、そんなもんだよ。エドこそどうしたの?

いつも1、2番のエドが先週の模試、100番にも入ってなかった」



「あぁ。もう貼り出されてんだ」



「さっきね。私、自分のより先にエドのから見るから。

で、どうしたの?熱でもあった?」



「別に。至って平熱。機能も正常」



「ならどうして?あんなの考えられないよ」



「おかげで進路指導室がオレを呼んでるんだ。自業自得だけど。

…な、可奈子。オレって、ガキか?」





窓の外のプールでは、今度は1年生のタイムを計っているらしい。


応援する潤のハスキーな大声が聞こえてくる。


エドは可奈子と、またぼんやりとプールを見つめた。



「ガキ?それどういう意味?エドはガキなんかじゃないじゃん。

私達の永遠のキャプテンだよ、エドは。エドのリーダーシップで

私達ひとつになれたし、あの鬼コーチのキツい練習にだって耐えられた。

そうでしょう?あの潤だって、エドを目標にああやって頑張ってるんだよ」



「そうかな」



「そうだよ。スポーツ万能で勉強出来てさ、みんなの憧れだもん。

しかも両親と伯父さんが有名人で…」



「チっ、お前まで雅紀みたいな事言うのかよ」



「だって、事実じゃん。ね、変だよ?今日のエド。

本当にどうしたの?何かあった?」



「そ、ちょっとな。夏休み、色々あったんだ、実は。

オレにとっては一大事…そうだ。お前、今日暇?

夕飯、オレん家で食ってかねぇ?」



「えっ?う、うん!暇、暇!今日、予備校なんて無いよ」



「あは、ホント、お前正直な。でもわりぃ。オレ、今日1人で帰りたく

ないんだ。付き合ってくれ。あいつと2人きりなんて真っ平だし…

じゃ、大人しく怒られてくるよ。ちょっと待ってろな。

終わったらすぐLINEする」





ペタンコになった上履きを引き摺るようにエドが歩き出す。



「あ、うん!分かった!!待ってるね、エド」





2~3歩行った所で、エドが後ろ手に軽く手を振る。


可奈子は、胸の前で小さく右手を握り締めた。









「うわ~!ここが下北かぁ。TVでは見たことあるけど、

私、来たの初めて」



「へぇ、意外。お前、食べんの好きだから、ここら辺のグルメ情報とかに

精通してると思ってた」



「え?あぁ、私、井の頭線ってあんまり乗らないから、さ」





本当は、可奈子は何度も下北沢に来ていた。


エドの住む街を見てみたくて。





だけど駅までは来られても、どうしても改札をくぐる決心が


つかず、結局は下り電車にUターン。


毎回溜息を吐きながら、家がある吉祥寺に帰っていたのだ。





初めてエドに誘われた放課後。


初めてエドと2人で並んで歩く、下北沢の街。





異常にテンションが高い可奈子は、改札を抜け、階段を跳ねる様に


駆け下りると、ロータリーで大きく伸びをし、深呼吸した。





「おい、急に何だよ。行くぞ」



「ね!エドのお母さんのお店ってどこ?ここから近い?

美味しいって評判だよね。またこの間、雑誌に出てたよ」



「あぁ、まあな。旨いんじゃない?オレは昔から食ってるから

よく分かんないけど」



「贅沢だよエド。うちなんか、母さん料理下手なんだもん。

カレーだってレトルトの方が断然美味しいんだから」



「レトルト旨いじゃん。オレなんかかえってそういうのに

憧れてたよ。3食ジャンクフードだっていいくらいだ。

な、悪いけどOREGONはまた今度な。今日はさ、家に来て欲しいんだ。

怪我人が居て、さ」



「怪我人?誰?お父さん?」



「いや…」








劇団稽古場は秋公演の稽古中だった。


仁や拓海たちが各々自分のパートを踊る傍で、バーニーが


若手のダンサーの踊りを静かに見守っている。





そんな父の顔をちらりと横目で見て、


エドは稽古場脇の外階段に向かった。





「うぅわわっ、ちょっと、すごい!皆、本物だよ」



「ん?何が」



「柴田アキラでしょ、桜井文哉に槙タケル。

あ、あの人何て言ったっけ。何とか智!最近CMで踊ってる…

わっ!それに、あれ、伯父さんでしょ?影山仁!!」



「当たり前だろ、稽古場なんだから。

しかしよく知ってんな、うちの劇団員なんて、そんなメジャーじゃ

ないのに。それよか可奈子、いいか。びっくりすんなよ」



「びっくり?エド、もうしてるって~!」





興奮する可奈子に呆れながら、エドはポケットから


鍵を取り出した。








玄関を開けると、リビングからソウルミュージックが


聞こえてきた。


それは、エドでも知っているスタンダードナンバー。


ドアの前で小さな溜息を吐いて、


エドは力いっぱい、ドアノブを廻した。





「ただいま」



「Hello!Ed. Welcome home!」



「あ!お帰り、エド。あれれ?」



「…舞。何でお前が居るんだよ!!」








そこには舞がOREGONのコーヒーポットを持ったまま立っていた。


そして正面には、車椅子に乗った大柄な黒人の男が、


にこやかにエドに笑いかけていた。




2015/09/08 18:09
テーマ:創作 同じ空の下で カテゴリ:日記(今日の出来事)

同じ空の下で 2






久しぶりの創作UPに、沢山お越しくださいまして、ありがとうございます。

調子に乗って^^2話をUPいたします。

今回、懐かしい劇団のメンバー、出てまいりますよ。

ナイスミドル(笑)になった仁も登場します!














店じまいして、エドが向かいの【MIYUKI】のドアを 開けたのは、


もう夜の11時を過ぎていた。





操と舞は、どうやら常さんたちの計画に加担していたらしく、


大量の洗い物をするエドの横を笑顔ですり抜けると、




「先に行ってるわ。終わったらいらっしゃい」


と、言い捨てて先に行ってしまったのだ。





「ったく、女は鬼だな。誕生日の主役に鍋洗いさせんのかよ」





自分が誕生日そのものを忘れていた事は棚に上げ、


エドは愉快そうに笑いながら先に行ってしまった2人に悪態をついた。


半ばヤケクソになってソースパンや寸胴を擦り、腹いせに普段操が


一生懸命節約している水を、蛇口全開にしてザーザーと流す。




そういえば今朝も、最近稽古場下にばかり篭っていて、


家の方にあまり戻ってこない事をくどくど言われ、喧嘩になったのだ。





高2の夏から勉強部屋として使っている昔の家。


劇団の稽古場下にあるその部屋は、エドが8歳の頃まで


家族3人で住んでいた。


木島元代表からバーニーが劇団を譲り受けた時、


そのまま同じ劇団ビルの3階の木島家にエド達は移り住んだ。





アメリカで自分の事務所を持ち、演出家として新たに挑戦する事を


決意した木島とその妻、萌にとって、劇団運営及び、その全てをバーニーに


譲るのは当然の事だったらしい。





『このさいだ。何もかも全部好きにやっていいからな、バーニー。

今日からここの代表はお前だ。各方面へのなんちゃらかんちゃらは

一応全部済んでっから。

俺は萌と一緒に、これからお前の古巣に乗り込むよ。

あの時お前が日本で新たに始めたように、俺も向こうでやってみる。

せっかくの話だ。俺に、もう一度チャンスをくれ』



『代表・・』



『悪いな、バーニー。これは俺の我がままだ。

お前が何と言おうと、ここはお前に継いでもらう』



『代表!』



『あの仁や拓海たちを残していくんだぞ?他にあの連中をまとめ

られる奴がいたらお目にかかりたいもんだ。

奴ら、自分達が中年になってる事にすら気付いちゃいねえ。

ま、あれだけ踊れる連中だ、当然って言えばそれまでだが。

・・俺が出てった方がいいんだよ。宇宙も奴らにも刺激が必要なんだ』





木島はそう言って、代表就任を固辞するバーニーを説得したらしい。


安心してNYに新天地を求めた木島は今、アクターズスタジオを主催し、

育てた俳優をブロードウェイに送り出している。





劇団地下室の部屋は、エドが生まれ育った場所だ。


子守唄の様に、タップシューズの乾いた音を聞いて育ったエドには、


広い家のリビングより、稽古場の息づかいまでも感じられるような


狭い地下の部屋がなんだか居心地が良かった。





初めは試験前や、週末遊びに来た雅紀たちとのバカ騒ぎに使って


いた部屋だったが、最近は学校から帰ると、家に帰らず直行していた。





1人の時間が欲しいし、1人になりたい。


何だか毎日イライラするし、胸がもやもやする。





何故、勉強するのか。


自分が、何をしたいのか。


自分は・・どう想われているのか。





頭の中がぼんやりして何も考えられない。


答えを探そうとするけれど、


何が正解なのか、どの道を歩けばいいのかさえ分からない。





自分の何もかもが自信が無い。


今まで好きだった物。何も考えずにやってきた事。


それさえも、全部無駄だったような気がして・・


自分でもどうにも持て余す感情に、自然に稽古場下に篭る日が増えていった。







やっと片付けを終えて【MIYUKI】の重いドアを開けると、


店内は既に賑わっていた。


カウベルの音も聞こえなかったのか。皆、エドを振り返りもしない。


大声で飲み、騒ぎ、誰かの話にどっと笑い声が起きる。





見れば全員が劇団関係者。


よく見る知った顔ばかりだ。





大きく溜息をついて立っていたエドに、


カウンターの中の常さんがやっと気付き、シェイカーを振る


手を止めて、こっちに来いと目力で合図した。





「エド。遅かったじゃないの、主役が遅刻だなんて。

悪いけど先に始めちゃったわよ」



「どうぞどうぞ。どうせきっかけだろ?オレの誕生日は。

こうやってここで皆で飲む口実の」





カウンターの右端に腰を下ろしたエドの前にジンジャーエール


を置いた常さんは、エドの様子に笑いながらこう言った。





「拗ねない、拗ねない。青少年の成長は嬉しいもんよ。

皆、喜んでるんだから。劇団代表の御子息の誕生日をね」



「止めてよ、その言い方。いくら常さんでも怒るよ?」



「ぶわっはっは!!何?その目!ふふ、あんたのそんな顔、

昔のバーニーにそっくりになったわ。やっぱ親子ね」



「似てる?オレが親父に?そうかぁ?どっちかって言うと、

仁おじさんの方に似てるってよく言われるけど」



「ぱっと見はね。バーニーの外見はキッチリしすぎてるから。

でも、あんたの瞳も灰色じゃないの。遺伝子なのよ。

しかし、仁ちゃんっていつまでも老けないわよね。

しかもあの体力でしょう?あれで50後半だなんて信じられないわ。

瞳ちゃん一体何食べさせてるんだか。

もしかして、あの地下室で、不老不死の薬でも仕込んでんじゃない?」



「アハハ。んなバカな。でも確かに、おじさん若過ぎ!

うちの学校の女子にも結構ファンがいるんだ。ダンス部の連中とか、

演劇部とか。オレの顔見ればサイン貰って来いってうるさいんだよ」



「ん。やっと笑った。ね。エド。最近変よ、あんた。

年頃だから色々あるのはアタシも分かってるけどさ。舞ちゃんが

心配してたわ。何も話してくれないって。ね?もしかして訳ありの

恋、かしら?青少年」



「・・そんなんじゃ、ない」



「あんた。最近踊ってないんだってね。どうして?

受験ってのは、そんなに忙しいものなの?」



「常さんまで。お袋だけで充分だよ。そんな台詞は」



「ねぇエド。本当の意味で仁ちゃんの跡が継げる男は、

あんただと思ってたけどね、アタシは。確かにまだテクニックじゃ

智や文哉に及ばないけど、あんたの踊りにはソウルがある。

ソウルよ、ソウル。分かる?ここ、ハート」



「あんまり褒めんなよ。そんな事言ってくれるのは、

常さんだけなんだから」



「あら?仁ちゃんもバーニーも分かってるわ、当然よ。

だってあんたが踊りだした日のことなんか」



「またその話?いいよもう‥耳タコ」





その時、店の奥から舞の高い笑い声が聞こえた。


舞にもっと飲め、と誰かが勧めているらしい。


奥を覗くと4人がけのテーブルに拓海とアキラが入り口に


背を向けて座り、舞の隣で文哉がニコニコしながら舞のグラスに


氷を入れていた。


劇団幹部のオヤジ達に囲まれて、舞はケラケラと笑い御機嫌だ。





「いやだぁ、拓海ちゃん。杏子は私の親友よ?

拓海ちゃんとじゃ一体いくつ違うと思ってんの?また、もう!

冗談、言わないで、よ」



「おい。心外だなぁ、舞。俺が誘ったんじゃないぜ。

杏子ちゃんの方から告ってきたの。それにな?舞。恋に年の差なんて

関係ないんだって。お前さんの両親も年離れてるだろう?当時は

犯罪だなんて言われたもんだぜ。な、仁さんと瞳、何歳違いだっけ?」



「うちの両親?14歳だけど」

彼女は俺にベタ惚れだし、俺だってまだ現役バリバリだからな」



「バカ拓海!14と25じゃ全然違うわよ。計算も出来ないの?

それにあんたまた悪い癖・・いい加減にしなさいよ。舞の友達泣かせたり

したらアタシが承知しないからね!ねぇちょっと、もう舞に飲ませないで。

この娘あんまり強くないんだから。飲みすぎると後が大変で・・

あとでアタシが仁ちゃんに怒られるんだからね!ちょっと聞いてんの?

・・・あ」



「だ、か、らだよ。常さん。仁さんの居ない平和な飲み会。

舞は俺達のアイドルなんだ。あの超過保護の仁さんが傍にいたんじゃ、

まともな話だって出来やしない。それに俺達はだね、飢えた若い団員から

舞を護ってんの。本来なら感謝してもらいたいくらいさ、なあ?アキラ」



「そうですよ。僕達は舞ちゃんが生まれた時から知ってるんですから。

娘みたいなもんじゃないですか。僕はね。親の気分なんですよ」



「ふーん、拓海。誰が誰に感謝するって?」



「当ったり前だろ?舞を箱入れて外に出さない頑固親父。

もうすぐ還暦だってのに化け物みたいに若いウチのトップさ。

稽古場で若い女の生き血吸ってる大長老」



「誰が大長老だ!馬鹿野郎」



「えっ?痛て~、なにすんだよっ!‥て。げ、仁さん?」





拓海の頭を拳固でゴツンと叩いた仁は、慌てて謝るアキラ達を


睨みつけると、酔った舞の腕を掴み、強引に中年男達のテーブルから引っ張り


出した。





「じ、仁さん‥いつ帰ってたんっすか?帰国、明日の予定じゃ」



「用事が終わったから帰って来た。何かまずかったか?」



「いや~、アハハ。ま、まずいって事はないですけど」



「まったく。いつも殺人的に間が悪いね、拓海は。

そんなだから何回結婚しても奥さんに逃げられんだよ」



「エド!てめぇ、俺の唯一の傷口に塩塗りやがったな?大体お前の誕生日

だからこそ俺達はこうしてだな!おい、操!お前んとこの教育はどうなってんだ?

口の訊き方から教育し直せよ」



「あら。私にとばっちり?生憎、ウチの教育方針は自分に正直にって奴でね。

主人がアメリカ人なもので、どうしても考え方がアメリカナイズされちゃうのね」



「お前なぁ、ふざけるなよ。どう考えたって、バーニーさんの躾とは思えねぇ

だろ。それにいいか?俺はお前の命の恩人だぞ!もっと敬え!」



「またその話。はいはい、そうでした。でももう時効でしょ?

エドの言う通りだわ。いつまでもそんな事グダグダ言ってるから、何度も嫁に

逃げられんのよ」



「く~!おい、操、てめぇ~!」





拓海が操の頭を拳固で小突くマネをする。


酒が入ってケラケラ笑う操は、そんな拓海を相手にもしない。


いい年した従姉弟同士の喧嘩は、いつも操の勝利だった。





「アハハ。操ちゃん、サイコー!あ、パパ!お帰り~」



「何がお帰りだ。いい若い娘が、何酔っ払ってる」



「え~?そんなに飲んでないわよ。ちょっとよ、ちょっと」



「ナオト。お前が居て何だ。舞の監視してろって言っただろ」



「知らないよ。オレは舞のお守りじゃない。それに、オレの言う事なんか

聞かないさ、コイツは」



「ねぇパパ。私は大人よ。いつまでも子供じゃないの」



「バカ言え、何が大人だ。お前はまだまだ子供だ」



「あら?ママがパパと結婚したのは22歳の時でしょう?

私も来年22よ。立派な大人じゃない」



「舞。お前なぁ」



「はい、仁ちゃんの負け~。もういい加減、過保護から卒業したら?

いいから座んなさいよ。何か作るから。どうしたの、早かったじゃない。

帰るの明日じゃなかった?」





仁は、エドの事を“ナオト”とミドルネームで呼ぶ。


バーニーが息子の名前に、自分のアメリカ時代の英語名を付けたのが、


未だに気に入らないらしい。





エドも仁が呼ぶ“ナオト”という響きが好きだった。


憧れの伯父の“特別”になれた様な気がするから。





カウンターのエドのグラスの中身を覗き込んだ仁は、


ちょっと考えてから、常さんに同じものをオーダーした。


常さんは、あら珍しいと肩をすぼめると、カウンターの真ん中に


座った仁の前に、ジンジャエールを置いた。





「何だかいつもと違うわね。向こうで何かあった?」



「ん?あぁ。まぁ、な」



「ねぇ、アルには逢えたんでしょう?どうだった?元気にしてた?

しかし、たいしたもんよね。あのアルが。アタシ達が知ってるあのアルが、

今年のトニー賞だなんてさ。仁ちゃんが発掘したあの子の才能は、やっぱり

本物だったって事だもの。ね、あの子のあの舞台、まだロングラン続いてる

んでしょう?アタシも見たいわ~。今度皆で行きましょうよ!」



「ん?あぁ、そうだな。おい、ナオト。悪いがあの酔っ払いを送っ

てってくれ。で、瞳にMIYUKIに来るように言ってくれるか?

常さん、腹減ってんだ、飯くれよ。常さんのおにぎり食いたい」








金曜の夜の駅前は、深夜でも賑やかだ。


静かな商店街の外れにあるMIYUKIから、鼻歌交じりに歩いてきた舞は、


その賑やかさに何故かククッと笑いながら、やっと歌うのを止めた。





ミュールを引っ掛けた足が少しおぼつかず、時々エドを振り


返っては、またククッと小さく笑う舞。


その姿に、駅前にいた数人の男が、ヒューヒューっと高い口笛を吹いていく。





エドは、まだ笑っている舞の手を乱暴に掴むと、


溜息を吐きながら、大股でガードをくぐって行った。





握った小さなその手の温もりに、


エドの心臓がトクン、と音を立てた。



2015/09/04 13:49
テーマ:創作 同じ空の下で カテゴリ:日記(その他)

同じ空の下で 1







遠ざかっていく、幼い日が。




公園の滑り台。


稽古場の床の染み。


そして、キミの笑顔。





飛行機雲が一筋流れる。


目指す未来は・・あの光への旅立ち。













「・・ぉい。おい!まだ終わってないぞ!アディショナルタイムだ。


何突っ立ってんだよ!」


「あ。悪い」


「何だよ、ぼーっとして。珍しいな。考え事か?」


「そんなんじゃないさ」


「いくぞ!残り3分。あと1点入れようぜ。2点差なら決まりだろ、今のB組


の戦力じゃ」


「OK!雅紀。いい パスよこせよ」









夕方の校庭に響く声。


高3の夏。


否が応でもやっ てくる受験の重圧に、エドワード・ナオト・ワイズマン


(愛称エド)は、クラスメイトと現実逃避のサッカーに興じていた。








21世紀最悪の不景気の嵐が、日本中に吹き荒れたここ数年。


世間はどこも就職難で、 良い大学を出たから即、希望の企業に


入れるって訳じゃない。





将来の夢?


希望の未来?



そりゃ、考えない訳じゃないけれど


この高3の夏に今すべき事は他に見つからなくて、


ただ規則的に予備校や高校の補習に出かける日々。




心に引っ掛ってるモヤモヤ。自分でも持て余す感情。



ただボールだけを追っているこんな 時間にも、心はどこかに飛んでいる。





「なあ、エド。俺は羨ましいよお前が。勉強だって全然やってる風じゃ


ないのに、こないだの模試、早慶一発A判定だったんだろ?


俺なんかここんとこ、ずーっとDだぜ、D!」



「ん。まあな。でも、まだ 迷っててさ」



「迷ってるだぁ~?何を迷う事があるんだよ。


常に学年3位以内のお前なら、どこにだって行ける だろうが」



「ん~。大学そのものがさ。あまり魅力的じゃない」



「はぁ・・世の中ってのはどうしてこう不公平 なんだ。お前みたいに出来が良いのが


大学行くかで悩んでて、俺みたいに成績も良くないのに、嫌でも受験しなきゃ


いけない奴がいるなんてさ」



「お前は親父さんの跡継ぐんだろ?医者になるなら仕方ないさ。


そこそこの大学ならお前だって楽勝だろう?そう凹むなよ」



「凹みもしますよ。俺みたいな凡人に神様は不公平だ。


秀才でスポーツ万能。イケメンでおまけにハーフ。


好条件揃いまくりの上に、家は有名芸能一家。エド。お前もう反則だぜ」



「誰がハーフだ。オレは8分の1しか」



「おい。もしかして留学とかするのか?あのNYの・・お前、前に言ってたじゃ


ないか。ホラ、なんてったっけ?親父さんの・・」



「おい!お前ら試合中に何話してんだよ!ボケっとすんな。チャンスだぞ!」



「「え?」」



「行ったぞ、雅紀!エドに廻せ!」



「え?ええ~!」



「雅紀!パス廻せ!うわっ!バカ!どこ蹴ってんだよ!ここで同点に して


どうすんだ!・・ああ~~もう!!」










エドが通う高校は、東京の北新宿にある。


大都会新宿ではあるけれど、辺りは結構閑散とした雰囲気。


名前からのイメージは都会のど真ん中という印象だけれど、


ちょっと歩けば、キャベツや大根が山ほど栽培されてるし、


結構のどかな風景が拡がっている。





だけど裏門の200メートル先には、ピンクのお城の様なラブホテルが何軒も乱立


してるし、部活の帰りに校門のすぐ傍で、いかにもそれっぽい女の人が


人待ち顔で立っている所を見ると、やっぱりここは繁華街。


勉強する環境としては普通じゃないんだろう。





高校が決まった時。


下見に来た父、バーニーは、その景色にぴくりと眉間に皺を作り、


運転席の伯父、仁は、 窓から身を乗り出して、その原色の景色を見ては大笑いした。





静かで淫靡な公立高校。


思春期真っ盛りの男子達は、 当然この高校が大好きだった。








結局サッカーは、土壇場で同点ゴールを決められ、PKで逆転されて負けてしまった。


だけど久しぶりに体を動かして気分が少し晴れたエド達は、


それからマックで小腹を満たし、ネオンが輝きだした街を大股で歩きながら


AKBやアニソンを大声で歌い、新宿駅で別々の路線に散らばった。






エドが下北沢に着くと、駅のホームは結構混雑していた。


急な駅の階段を2段抜かしで駆け下り、駅前のロータリーの人込みをかきわけると、


家へ帰らずそのまま商店街へと 向かう。





夏祭りを3日後に控えた商店街には、沢山の真っ赤な提灯が風に揺れていた。


商店街が流している祭り囃子のBGMと、 風俗店の呼び込みの声が奇妙な


コラボレーションを醸し出している。


今夜は金曜日。


もうすぐこの辺も、ソワレ帰りの人でもっと 溢れかえるだろう。


下北の週末は、眠らない街だ。





1週間前からバーニーが仁と一緒にNYに出掛けていて留守だったので、


このところ夜はずっと母、操の店で過ごしていた。





バーニーは何よりも操を大切にしている人で、自分が留守の時は必ず


「マムを護れ」とエドに命令していく。


だから最近自宅には、ただ寝に帰るだけのような状態だった。





操が経営するビストロ【OREGON 】は、


地元のグルメ雑誌にしょっちゅう取り上げられている人気店だ。


「忙しいんだから、他でバイトするならココを手伝ってよ」と言う操の頼みに


エドは、時間があるとギャルソンエプロンを付け、店に出ていた。


【OREGON 】の斜め向かいには、狭い商店街の通路を挟んで、


パブ【MIYUKI 】がある。


ここの2階にはかつて仁達の家があって、子供の頃、エドは毎日遊びに来ていた。


従兄弟の3つ子達と大騒ぎして床を走り回り、


操に大目玉を喰ったのは遠い昔。


6人家族の仁一家には、さすがにここは手狭になり、


5年ほど前に劇団傍のマンションに引っ越した。

(かえってエドの家とは目と鼻の先になったわけだ)





【OREGON】と【MIYUKI】を間に挟んだ道路の真ん中。


ここまで来てエドは立ち止まり、どちらのドアを開けようか、少し迷った。


案の定【OREGON 】の前には、席待ちの人が数人並んでいた。


今朝、つまらない事で操と口喧嘩になって(悪いのは自分なのは分かっていたけど)


真っ直ぐあの黄色い屋根のドアを開ける気にならなかったから。





「ありがとうございました~。またお越しください。あ!エド。


何やってんの、そんなとこ突っ立って」





その時、【OREGON】のドアが開き、帰る客を見送ったのは、従姉弟の舞だった。





舞はエドより3つ年上の21歳。


仁の長女だ。


「・・別に。今、入ろうと思ってた」



「遅かったじゃない。今日は忙しいって分かってるんだからもっと早く帰って来て


欲しかったな。操ちゃん、カンカンよ!」



「っさいな」



「エド!何?その態度!」





どうしてだろう。


最近舞の顔を見ると、訳も無くイライラする。


舞の、いかにも年上の姉が弟を見下すような態度に、猛烈に腹が立つ。


店の客に愛想を振りまく姿にも向かっ腹が立ったし、


最近始めた化粧が妙に似合ってるのも、何だか嫌だった。





小さい時はショートヘアで、男の子みたいにツンツンとトサカの様に固い髪を


立てていた舞。


エドが7才の時、舞の家に3つ子の弟達が生まれてからは、


ますます男の子の様に、毎日泥んこになって遊んでいた。


そんな舞が、今は背中まで伸ばした髪に緩いパーマをかけている。


大きい目を見開いて怒っているけれど、


黄色いシュシュ でまとめた髪から香る、微かなシャンプーの匂いは、


女の子らしい優しい花の香りだった。





出来たら話しかけないでくれと思う。


舞のどんな態度にもムカついてしまうし、


何が原因でも、結局最後は怒鳴ってしまうんだから。





そんな舞を無視し、大きく【OREGON】のドアを開けると、


店の中は予想通り満席だった。


黄色いギンガムチェックのテーブルクロスの客席は、


4人掛けが全部で8席。カウンターが5席。


突然大きく開いたドアから入ってきたエドを、客全員が振り返った。


キッチンの奥からは、ピーク時特有の操の高揚した声が聞こえてくる。





「3卓と8卓のオレゴンチキン、出来ましたぁ!


舞ちゃん、7卓のビーンズサラダもお願いね」


「はーい」





舞がエドの顔を半ば睨みつけるように舌を出し、両手にチキンの皿を持って、


目の前を通り過ぎる。


鼻先に、ほんのり甘いいつもの匂いが漂った。





「ただいま」


左手でフライパンのジャンバラヤをあおりながら、器用に右手でオーブンの中を


確認した操は、エドの顔も見ずに肘でそのドアを閉めた。



「遅い!あんた今、何時だと思ってるの?」



「7時半くらいだろ。駅に20分に着いたから」



「金曜のディナーは混むの分かってるでしょう?何やってたのよ。


もっと早く帰って来れないの?」



「受験生だよ、オレは」



「また。都合の良い時ばっかり受験生なんだから。


勉強なんか全然してないくせに」



「な。お袋・・その事だけど」



「ゴメン、話は後。悪いけど、早く着替えて。今日はずっとこんななのよ。


あんたのファン、何人帰したか」



「何だ?それ」



「最近多いのよ、あんた目当ての女の子。


まあね、今日は特別な日だから余計なんだろうけど。・・忘れてたの?」



「だから何が」



「どうしてもって子の分だけ受け取っといたわ。


更衣室にあるから後は自分でどうにかしてね。とにかく早く着替えてよ」





からかう様なその言葉に、訳も分からず奥の更衣室に向かうと、


小さなロッカーの上に、何やら仰々しいカードが置いてあった。


ロッカーの中は色んな形のラッピングバッグ。


床の上にはビニールに包まれた大きなミッキーのぬいぐるみ。





「なんだこれ・・あっ!」


先頭の目につく所に置かれていた、金と赤のリボンで飾られたカードには、


<Happy Birthday to Edward> と、書かれている。


「あ、そっか。誕生日」


このところの単調な日々の繰り返しに、エドは本当に自分の誕生日を忘れていた。





今日で18歳。これでやっと18歳以下お断りから開放される年齢だ。





妊娠9ヶ月で操に陣痛が来た時、まだ小さいからと心配する周囲をよそに、


3250gという立派な体重で生まれたエド。


その朝はバーニーが演出する劇団の公演初日の朝だった。


仁は病院で万歳!と大声で叫び、常さんが周囲もはばからず


号泣したというから、その日の下北は結構なお祭り騒ぎだったに違いない。





小さい時からエドは、仁から色んな話を聞かされて育った。


バーニーと、仁の出生の話。


アメリカで生まれ育ったバーニーの辛い幼少期。


そして両親の出逢いと、その深い愛情。





仁はエドを膝に乗せ、ゆっくり煙草を燻らせては、


ひとつひとつ言葉を噛み締めながら、静かに話して聞かせた。


バーニーは、そんな自分の事はまるで話さず(仁が話しているのを知っていたのか)


いつも少し不器用にエドを抱きしめた。





操を愛し、心から尊敬しているバーニー。


その愛情表現の豊富さに比べ、エドに対してのハグはどこかぎこちない。


それが幼少期のトラウマを心に抱えた結果と知ったのも、


仁がエドに教えてくれた事だった。





「ちょっと何してんの?お客さんまた入った・・エド?」



「なぁ、舞。お前のプレゼントってこの中にあんの?」




支度の遅いエドを見かねて、舞が更衣室に顔を出す。


舞も知らなかったのだろう。


うず高く積まれたプレゼントの山に、ぅわっと小さく驚くと、


次の瞬間にはエドの顔を覗き込み、意味ありげにニヤッと笑った。



「ん?私?さぁ、どうかな。去年せっかくあげたシャツ、あっさり奏に


やっちゃうような奴だもん。今年は考えちゃうな」



「オレには小さかったんだ。しょうがないだろ」



「まったく背ばっかり伸びちゃって。男の子ってつまんない」



「3つ子はまだ全然小さいだろ」



「そんなのもうすぐよ。あの子達パパに似たみたい。


もうママも抜かしちゃったもん」



「あんた達!いい加減にしてよー!」



「ほら、言わんこっちゃない。エド、早くねっ!」





その夜は、閉店近くなっても客足が途切れなかった。


その後もプレゼントや花束を持ってくる客も居たけれど、


舞のからかうような視線が悔しくて、エドはそれを全部断った。


もっとも、客を粗末に扱うと後で操の雷が落ちるので、


したくもない作り笑顔でやんわりと・・だったけれど。






夜10時の閉店時。


メニュー看板を仕舞おうと、外に出たエドの目の前に、


黄色い縞のシャツと細身の黒い皮のパンツを穿いた常さんが立っていた。





まだMIYUKIは営業時間内のはず。


首を傾げ、いぶかしがるエドに、常さんは超のつく笑顔でこう言った。





「ハッピーバースデー、エド。皆待ってるわ、うちにいらっしゃい」



2015/09/04 13:27
テーマ:ひとり言 カテゴリ:日記(今日の出来事)

よろしかったらお付き合いを…








いやはや。9月ですね。


何だかんだと過ごしていたら、ついに最後の月になっちゃいました。


こんな時間に更新するのも珍しいですが、


今日は前回予告した「考えている事」を 公開したいと思います!




…って言っても、大した事はないんですが、 PCの中に眠ってる創作をね。


この際だから出しちゃおうかと(笑)




これ、書き始めたのは、もう何年前?


唯一開催された、懐かしき「えべべやオフ会」(埼アリでのイベント後)に、


参加者の方に確かこの1話をお土産にしたんですよね。



あの時は、順調にラストまで書き上げるつもりだったから、普通にお渡し


したんだけど、まさか未完になるとは。


私のモチベーションが、もたなかったんですよね。


なにせ彼がまるで動かなくなってしまったんで、お話の中の人物もすっかり停止


しちゃったんです。





で、今回ここに上げようと思ったのは、


これを機に、やはりしばらくネットをお休みしようと思ったからです。


でも、決して後ろ向きのお休みじゃなくて、あくまでも前向きな、ね♪




いつか、きっとまた書きたくなる。そんな予感もしてるので。





さて。今回のお話。


主人公は、あのバーニーの息子、エドでございます。


UPするにあたって読み返してみると、やっぱり直したい箇所が出てきて、


たった1話なのに上げるまでに、かなり時間が掛かりました。


そもそもタイトルから直しましたしね。(苦笑)





そのタイトルですが、これは嵐の私の好きな曲からいただいております。


(シングル曲のカップリングの曲なので、ご存知の方は多分アラシックですね^^)


歌詞の世界がピッタリで、爽やかな曲調も好きなこの曲。




もし気になった方は、ぜひ検索して聴いてみてくださいね♪





今回、推敲しながら、以前書いていた時のエドのイメージと今の私の中のエドが


少し変わって来てる事に正直驚いたんです。特に…顔がね^^それと話し方。


でもこれは、やっぱりしようがないですわ(笑)


書いてる私の心の変化だから。うん。


イメージは、19~20歳頃。金髪に近い茶髪の頃の翔ちゃんです。


キンキンに尖ってて、左耳にはピアス。


ファンの間で「チャラ翔」と言われるこの時期の彼は、


もうね。とんでもないイケメンさんですよ。




色んな葛藤にもがき苦しんでた、あの頃の姿。


あの頃があるから、今の翔ちゃんがあるし、今の嵐さんたちがある。




アハハ…結局、嵐愛になっちゃった(笑)





あくまでも言っておきますが、 このお話は完結していません。


もしかしたら、続きを書くかもしれないし、このままかもしれない。


それでも、ここで遊ばせていただいていた私の声だし、想いは詰まっています。


よろしかったら。本当によろしかったら、お読み下さいね。


まもなく、更新しますので…


2015/08/25 23:44
テーマ:ひとり言 カテゴリ:日記(今日の出来事)

そろそろ準備を









…寒い!!いや~、ついこの間まで猛暑でひーこら言ってたってのに、


今度は寒いと言い出すとは。人間なんて(私だけ?)勝手なもんです。


しかし、まさかこの時期に長袖着ることになるとは…気温差に弱い


私。久しぶりに電車で外出して体温調節機能が狂ったのか、駅に


着いてしばらくしたら貧血でクラクラして、思わずハナに迎えに


きてもらっちゃいました^^台風接近して気圧も変わってるしねぇ…


まったく、厄介な体質です。(苦笑)








改めまして、おこんばんは。


なんだかんだと、サボってばかりな私をお許しくださいませm(__)m


例の若い男(笑)にうつつをぬかしてる私は、彼及び彼らの


方にどうしても目が行きがちでして。こっちに来る時間がなかなか、ね。


取りにくくなってるんですよ。


そしてここもほぼ後1ヶ月。色々ね、自分が今ネットを使って語る意味とか


私にしちゃ、難しいことなんかも、チラッと考えてみてたりして。


足がちょっと遠ざかってるのも事実なんですよ。


んー…どうしたもんですかね。未だに考え中です。


とりあえず、来月になったら考えてる事もひとつあるので、それを実行


してみようかなと。ここで7年間、遊ばせてもらいましたから、最後の一滴まで


公開したい想いがあるので。よろしかったら、お付きあいくださいませ♪


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