2008/09/30 00:45
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 5話 「君が居る時間」

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この回。このシリーズの名物キャラ^^常さんが初登場。
実は書いてるうちに自然に出てきたキャラでして・・(笑)
仁の次に人気のある常さん。こんな個性的な人物です。
そして・・瞳役の → ソン・ヘギョちゃんです。




 

その夜の舞台は、俺にとって特別な舞台になった。


“ただ、1人の人のためだけの舞台”


そんな経験は初めてだった。

 

暗い客席の中の一筋の光。

瞳の顔は舞台の上からでも輝いて見えた。


瞳のためだけに歌い、

瞳のためだけに踊った。


そして心の中で俺は叫んでいた。

 

「愛している」と。

 

初めてはっきり自覚した瞳への想い。

その想いを、ただ踊りにぶつけた。

 


終演後。


知り合いの演劇雑誌の記者が、楽屋の俺を訪ねてこう言った。

 

「お疲れ様です仁さん。今日のダンス、超色っぽかったです。

いつもセクシーだけど今日のはハートにきましたね。

男の俺だって惚れちゃいそうでしたから。

来月号で書かせてもらいます。今度ぜひ特集も組ませて下さい。

たまには逃げないでお願いしますよ!

“今注目の、色気のある男”

決まったらさっそく連絡させてもらいますからー」

 


なぁ、瞳。お前はこの舞台、どう見た?

もう大丈夫だろ?

そうだ。お前はこれでまた歩き出せる。

 

今頃どこかでタップを踏んでるか?

それとも1人、カラオケボックスで発声練習しているか?

 

 

許せ。


お前にあの役をふったのは、俺だ。

 


7時間前。


卒公オーディションが終わり審査に入った。

研究生30人、残酷だが順位を付け公演の配役を決定する。

この中から劇団員として残すのは3人。

 

上位は柴田アキラ、相原 萌。

現時点で、瞳は5番目。   

 

俺は審査員として客観的に点数を付けたが、実際の決定権は

代表である木島が持っている。その木島は配役の段階になって、

瞳に“ハーミア”を当てようとした。

 

主役の1人、“ハーミア”

ライサンダーを恋する小柄で活発な女の子。

柄からいって適役かもしれない。しかも大きな役だ。

だが・・ハーミアでは瞳は残れない。

今のあいつにはセリフが多すぎる。

男女混みで残すのは3人。他の者に喰われてしまう。


俺は決定権がないのを承知で、木島に配役変更を申し出た。

 

「頼みがある・・木村は、妖精の1人にしてくれ」


「仁、どういうことだ。順位からいって妥当な配役だろう?」


「あいつの歌とタップを生かしたいんだ。1場にパックとの

かけあいがあるだろ?

相原と木村なら、きっといいシーンができる。

振り付け、俺がやるよ。

ダンスシーンは俺に任せてくれないか・・頼む、木島」


「ほ~・・わかった。好きにしろ。そこまで言うんだ。

勝算はありってとこか?見せてもらうか。“お前の瞳”を」


「木島!違うんだ。そんなんじゃなくて」


「仁・・・驚いた。本気なんだな・・そうか、やっとお前・・

ああ。俺もあの子には順位以上の何かがあると思ってる。

やってみろよ。あと2人、あの役で抜いてみろ!

・・言っとくが、俺は裏取引はしないぞ」


「すまない。こんな事、頼める立場じゃないんだが」


「仁。お前・・今自分がどんな顔して喋ってるか分かるか?

そうか。やっとお前も、卒業したんだな。待ってたよ、俺は」

 


・・ちっ・・木島の奴。

俺がどんな顔してるっていうんだ?

 

さてどうしようか、相原と瞳のシーン。


妖精達が遊ぶ森。

悪戯パックと女王のお付きの妖精の言葉遊び。


二人とも中性的な雰囲気で、タップはもっと軽快でパワフルに・・

そうだ!この間いい曲があったな。あれを・・

 

「仁」

 

その時。

考え事をしながら劇場を出た俺に、

声をかけてきたのは咲乃だった。

 

「ねえ、無視することないじゃない。

何考えてたか当ててみましょうか・・あの娘のことでしょ。

ふふ、あなた結構正直ね。顔がそうだって言ってる。

今夜の舞台びっくりしたわ。

あなた、あんなダンスも踊れるのね」


「・・何が言いたい」


「別に。帰るんでしょ?今夜は泊めてね」


「言ったはずだ、咲乃。もう、止めよう」


「言ったはずだわ。私は退かないって。まさか本気なの?

あの娘といくつ違うと思ってるの?いつ会見を開いても

いいのよ。私とあなたなら世間は納得するわ」


「主演映画が決まった女優と、未だに芝居で喰えない役者とか?

お前の台詞とは思えないな。俺達はそんな関係じゃなかっただろ」


「どんな関係?ただの大人の関係だって言いたいわけ?

そうよね。あなたにはそんな感情はないんだって思ってた。

私もそれが心地良かったし。でも仁は変わった。原因はあの娘」


「俺が変わった?あぁ、そうかも知れない。

だから俺にもう構うな。そんなことしても、お前の為にならない」


「仁。今日は帰るわ。でも憶えておいて。

私は愛してるの、あなたを。あの娘には渡さない」

 

咲乃は、くるりと踵をかえすと、

ヒールの音を響かせて駐車場に向かった。

 

同期入団だった咲乃。

いつからそうなったのか、それすら正確に思い出せない。

ただ時々ベッドを共にするだけ。

咲乃の都合がいい時に、俺の部屋に来る。

ただそれだけの関係。

 

何年続こうと、咲乃に心を開いた事すらなかった。

お互いにそれで満足していた。

そう思っていたのに。

 

1人、部屋へ帰る道。

坂の途中の暗い公園に、砂利の音が響いている。

 

「瞳?」

 

瞳は公園の街灯の下で、黙々とタップを踏んでいた。

小さくメロディーを口ずさみながら踊る、瞳。

俺はタバコに火をつけ、小さく胸の痛みを感じながら、

その明かりに近づいていった。

 

「あ!影山さん。お疲れ様です!今日の舞台、素敵でした。

私、さっきの影山さんのダンスが頭から離れなくて。

なんか、自然にここで踊ってたんです。

私、本当は卒公の配役のこととかで落ち込んでたんですけど、

“私は私なりに、頑張ろう”って、さっきの舞台を見て感じた

っていうか。残るとか、落ちるとか、そんなんじゃなくて」


「・・瞳。飲みに行かないか。奢ってやる」


「え?」

 

返事も聞かずに歩きだすと、瞳は慌ててついて来た。

 

 

ただ、何も話さずに歩く。

俺の歩調に合わせるような、その靴音までが愛おしい。

 

「あの、いいんですか?」


「何が」


「私・・私みたいな研究生と」


「こんなオヤジとじゃ嫌か。たまには付き合え」


「やだ!オヤジだなんて。影山さん分かってませんね。

うちのクラスじゃ人気抜群なんですから。

残念ながら1番じゃありませんけど・・」


「ほう?興味深いランキングだな。

参考までに、1番人気は誰なんだ?」


「・・緒方・・さん・・です」


「拓海か。最近は飛ぶ鳥を落とす勢いだな。

芝居にしても女にしても」


「えっ?」


「ここだ。入れ。

ここは劇団の人間は来ない・・俺の隠れ家」

 

“MI・YU・KI”


重い扉のその店は、静かな大人のパブ。

しかし、そこには超個性的なマスターがいる・・

 

「あ~ら、仁ちゃん。お、か、え、りー!お疲れ。

・・あれ?仁ちゃん、お連れさん?しかもこんな若い娘と?

ふふ、こんな事、初めてだわ~。ねぇ♪ねぇ♪劇団の娘?」


「瞳、このうるさいのがマスター。無視していいから。

ほっといても、一人で喋ってるし。

常さん、邪魔するなよ。これから俺が口説くんだから」


「影山さん?!!」


「へぇ~~。アンタが女の子に冗談言うなんて。

お嬢さん。この人いつも仏頂面してるでしょ?こーんな顔して。

でも結構冗談言ったりするのよ。

真顔で言うからコレが、アタシのツボなんだわ!」


「あ~、もういい。うるさいな。お前・・未成年じゃないよな。

何にする?腹減ってるか?ここな、こんな店だけどうまいぞ」


「こんな店って、ねぇ。お嬢さん、何飲む?

カクテルのほうがいいのかな?」


「実はあまり飲んだ事ないんです。たまに劇団の友達や先輩に

連れて行ってもらうんですけど。

じゃあ、カシスソーダください。いいですか?」


「OK!ちょっと待っててね」


「ああ先輩って・・拓海か」


「はい。静岡の高校の2年先輩なんです。

ご存知だったんですか?拓海先輩は演劇部の部長で。

私、発声から教えてもらったんです。そもそも私が演劇部に

入ったのも、新入生歓迎公演で拓海先輩を見たからなんですよ。

その時何やったと思います?・・ロミジュリのロミオなんです。

あれで、1年生何人入ったんだっけ?

やさしくて、かっこよくて。

まさかここにいるなんて、私びっくりしちゃって。

あ・・すみません。私、おしゃべりですね」


「いや」


「そうだマスター!今日の影山さんのダンス、凄かったんですよ。

色っぽいっていうか。体が熱くなるっていうか・・あのダンス

見たら、何だか帰って寝るのがもったいなくなっちゃって。

今回の演目。あ、“モンマルトルの恋人”って言うんですけど、

主役の若い恋人達より、影山さん演じるジゴロが切ないんです。

本当は愛しているのに、自分の心を隠してあくまでも“仕事”と

して愛人に接するんですよ。その時のナンバーが泣けるんです・・

あ・・すみません、またおしゃべりで」


「いいのよ。仁ちゃんはいつもこう。こーんなうるさい店で、

黙って人の話聞いてるのが好きなんだから。

いつもそこのカウンターの端でバーボン飲みながら。キザでしょ?

ふふ、でもこの人。シメは、けんちん汁とぬか漬けとおにぎりなの

よね。もう典型的な日本人。こんな顔して、おかしいでしょ?」


「あのな。だいたいこんな店で、旨い和食があるってのがおかしい

んだ。自家製のぬか漬けだって飲み屋で出すレベルじゃないし。

ああ、そんな事はどうでもいいんだった。

瞳、言ったろ?この男の話は無視していいって。

こんな男、いちいち相手してたら、キリがない」


「ふふ、仲良しなんですね。マスター、聞いていいですか?。

影山さんって、どんな方なんですか?私、研究生なんです。

色々教えて頂いてるんですけど、実はよく知らなくて。

舞台の影山さんは、影のある殺人者とか、NYの不良少年とか、

そういう役が多いでしょう?

あ!あの時代劇も私好きでした。ウチじゃ珍しいですよね。

高校の時、田舎で見たんです。沖田総司。

そう、“新撰組、その愛”。

あの舞台が私がウチに入ろうと思ったきっかけなんですよ。

死を自覚した総司が一人踊るナンバー。影山さんのラストの

ソロです。ご存知ですか?」


「おい、瞳。頼む。話したいのは分かったからこの人に振るな。

常さんの語りは喋り出したら終わらないんだ」


「何言ってんの、待ってました!仁ちゃん、ダメよ。

質問されたんだから、アタシには答える義務ってのがあるの!

なんたって、アタシが仁ちゃんのファン第1号だもの。

お嬢さん。仁ちゃんとアタシはもう10年の付き合いなの。

ある日フラッと夜中にここに入って来たのよ。

“チラシ置かせてください”って。

劇団入ったばっかの頃よね。あの頃、ヒゲ生やしてたっけ?

最近はそうでもないけど、その頃のこの人、表情がなくてね。

目ばっかギラギラしてて・・アタシ、引っ張りこんだのよ。

興味があったから」


「おい!変な言い方するな。俺はその趣味はない」


「あら、アタシはノンケよ。仁ちゃん知ってるくせに。

アタシ、実家が浅草の置屋だったの。いつも綺麗な芸者さんが

家にいてね。しかも年の離れた姉2人が上にいるのよ。

ダメなのよね。どうしてもこんな喋り方になっちゃうの。

でもアタシ。好きなのは女の人よ。カミサンだっていたんだから」


「え~?そうなんですか~?あ!す、すみません」


「ふふふ、面白い娘ね。この娘か、仁ちゃんを変えた娘は」


「おい!瞳、全部真に受けるな。

常さんの話は、どこまで本当か分からないからな」


「あら失礼ね。瞳ちゃんっていうのね。アタシ、常さんでいいわ。

皆、そう呼んでくれるから。もう私達、お友達よね。

何かあったら、いつでもいらっしゃい。仁ちゃん抜きで」


「ふふ、はい。分かりました。私、木村 瞳です

今度、卒公があるんです。

・・チラシ置かせてもらえますか?」


「はい。喜んで。うふふ、やっぱり若い娘はいいわね~

当然アタシも見にいくわよ。芝居を見る目は肥えてるわ。

残れるように頑張んなさいな」

 
「はい!頑張ります!」

 

 

瞳がここにいる。

俺が大切にしている場所で、今、瞳が笑っている。

俺は信じられない想いで、瞳を見ていた。

 

・・今、この時間が止まればいい。

この瞬間が永遠であればいい。


お前が拓海のことを頬を染めて話す時、

俺の胸はギリッと痛む。
 


それでも。


お前が他の男を好きなのだとしても。

 

今ここにお前がいる瞬間が俺には大切だ。


この瞬間が永遠に続くように。

 

 

それでも、瞳の終電を気にしている俺がそこにいた。


 


2008/09/29 00:50
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 4話 「ときめきの足音」

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季節は移って、そろそろ卒業公演(卒公)の準備。

研究生にとって、正念場が訪れます。

仁と瞳の関係に進展はあったのでしょうか・・

 追記。
午前中に10000ヒットに!こんなに早く・・ありがとうございます。
10000のキリ番踏まれた方、いらっしゃいますか?ここでは・・と思われましたら、
ブロメくださいませ。(HNは、ebeです)
記念に、次回作でのキャストにお名前を使わせていただきま~す。

 

 



月曜日。


卒業公演の演目発表。



朝、いつもの時間より早く稽古場に飛び込んだ私。

掲示板にはすでに演目が発表になっていた。

 

『劇団 宇宙(そら)研究所10期生卒業公演

 シェークスピア作   夏の夜の夢    』

 


夏の夜の夢!!


これが卒公の演目?

 

前に高校の文化祭でやったことあるけど、

(その時はチビだからハーミアだった)

高校演劇と劇団公演じゃ、まるで違う訳で。

 

配役のオーディションは金曜日。

この配役で事実上、上に残る者が決まると言われている。


上に残れるのは、2~3人。


2~3人・・

 

まず、抜群に芝居がうまくて超ハンサムなアキラ君でしょう?

ダンスはなんといってもあいちゃんが1番だし。

で、あと1人?

 

・・私、だめかも。

 

思いっきり肩を落した私がそう思った瞬間、


後ろから私の背中を誰かが小突いた。

 


「瞳。大丈夫かぁ~?残らないと承知しないぞ!」


「あ、拓海先輩!早いんですね、こんな時間に」


「あぁ。8時から本多で仕込み。明後日から本公演だからな。

ガチ袋忘れて取り来たんだ。この所、稽古で毎日帰るの朝だぜ、

殆ど寝てねえよ。そうそう、一昨日の土曜日。仁さん行方不明で、

珍しく木島さんキレちゃってさ~もう大変!

あの人、携帯持ってないのな。変わった人だよ」


「えっ?・・土曜日?」


「そ。お前らの稽古終わって、7時からあったんだ。

予定じゃ12時までだったんだけど、10時頃仁さん消えちゃって・・

ダンスシーンまとまらないもんだから、最悪さ!

あの人いないと締まんないからな。ウチは」

 

『影山さん、今日稽古ないんですか?』


『あぁ。咲乃の仕事が急に入って無くなった。

心配しなくていい』

 


あの時、そう言ってたのに・・

本番前の大事な時期なのに、どうして私なんか。

 

「そうだ、瞳。“真夏”ならハーミアかヘレナだろ?

あ!ヘレナは無理か。チビだからな。

もしかして、パックってこともあるか?

おい、どうなんだよ。お前の稽古、俺あんま見てないけど。

いけそうなのか?どっちにしろ、お前色気ないしなあ~。

なぁおい、聞いてんのか?」


「え?あ、うん・・・私ってそんなに色気ない?

この間、演出にも言われたの」


「そうだなあ・・お前、やっぱり・・・

その、まだ?・・だよな」


「何?」


「いや、うん、何でもない。じゃあな、これから仕込みだから。

新人は辛いよ。もっとも、ウチの劇団で仕込みやらない人なんて

代表の木島さんだけだけど」


「え?劇団員全員でやるの?それじゃ、影山さんも?」


「当たり前さ。あの人うまいよ。大工でも喰ってけるんじゃないの?

なぁまさか劇団員になったら、それだけで喰ってけるなんて思って

ないだろうな?バイトしてないの、萩原さんとあと2、3人だけだぜ」


「じゃあ・・かげ」


「もちろん仁さんも。ま、あの人は特殊だけどね。

おい、やけに仁さんを気にするな・・怪しいね、瞳君」


「違いますよ。何言ってるんですか?私が好きなのは・・

先輩、いいんですか?時間」


「うわっ!いけね!じゃあな。頑張れよ!」

 

もう!!拓海先輩ったら!


私が影山さんを?


ありえないよ。

だって14も年上だし、大体、向こうは子供扱いだもん。

じゃあ、この間の事は?


あの時。


『下を向くな。しっかり前を見ろ!』

『手を大きく!お前は小さいんだから全身で踊れ!』

『曲を感じろ!気持ちで踊れ!』

 

『そうだ・・俺だけを見て踊れ・・』

 


あんなに気持ちよく踊れたのは初めてだった。

あんなに苦手だったリズムタップも早く刻めるようになった。


たった6時間半。

たった6時間半で・・

 

 

その日授業が終わると、私は本公演が上演される本多劇場を

こっそり覗きに行った。


明後日の本番に備え、劇団員が舞台装置を設置していく。

パリの町並みを模した舞台に“カンカンカン”とナグリの音が響く。

上手の奥の階段の傍で、その音は鳴っていた。

 

「影山さん」


ガチ袋を提げ、頭にバンダナを巻いた姿に、

いつもの斜めに構えた様なその人とはすぐには分からなかった。


舞台のセンターで光を浴びて踊るその人が、

汗を光らせてナグリを振っている。

その乾いた音が、私の心の中でドキドキに変わっていく。

 

私はなぜか、見てはいけない物を見てしまったように、

慌てて外に飛び出した。


そして、

その動悸は、そのまましばらく治まらなかった。

 

 

金曜日。配役オーディション。


試験官は木島代表、声楽の山口先生、演技実技の近藤演出。

それと、影山さん。

規定の歌と、ハーミアのセリフ、クラッシックとタップ。


そして・・


あっという間に、結果は発表された。


私は?

 

“辛子の種”

・・からしのたね?


妖精の女王の御付きの、4人の妖精の1人。

この役は歌のソロがある。でも・・

これで上に残る3人の中に入るのは、絶対に無理だ。

 

「ダメだ・・私」


もう試験官の講評も耳に入らない。

一刻も早くこの場から抜け出したい。


私は、終わったとたん稽古場から外へ駆け出した。

 

「瞳!」


坂を駆け下りる私を、あいちゃんが追いかけてきた。


「バカ!どうしたっての?瞳らしくもない。

ソロの歌があるのはあんただけなんだよ?それってあんたの歌が

評価されたってことでしょうが。これですべてが決まるなんてのは、

先輩達の代までの迷信にしなよ!

この頃の瞳は見違えるようだモン。ダンスだってさっき凄かった。

・・びっくりしたんだ、私。

いつのまに、あんなタップ踏めるようになったの?

あんなに楽しそうに踊ってる瞳、見たこと無いよ。

一緒に上に行こうって約束したじゃん。私、約束は守る。

絶対残ってみせる。・・辛子の種から這い上がっておいで。

芝居ってのはさ、最後までわかんないから面白いんだよ!

“私の妖精。さあ、このパック様と共にまいろう・・”」


「あいちゃん・・ありがと。

おめでとう。パックなんて、もう決まりだね。

あいちゃんのダンス、クラス1だもん。当然だよ。

・・ごめん・・ちょっと1人になりたい」


「瞳」

 


昼下がりの下北の街。

その街を何の目的もなくとぼとぼ歩く。


そういえばいつも劇団とバイトの往復で、

この街の事、ほとんど知らなかった。


アンティークショップやさまざまな小物屋さん。

小さな路地の奥にスタジオがあったり、

常にどこかで、芝居が上演されている。

 

街全体がどこか異空間で、

街全体がどこか懐かしい。

 

・・こんなふうに歩いた事、なかったな。

もうすぐ1年になるのに・・

 

商店街を抜け、駅を過ぎ、ガードをくぐる。

しばらく行くと本公演中の本多劇場が見えた。

 

本番まであと3時間。

オーディションが終わってそのまま飛び出してきた私は、

財布も何も持ってきていなかった。


・・バイト休もう。今日は笑顔も出そうにないし。

本番見ようかな。当日券いくらだっけ。

 

「木村。お前は劇団関係者じゃないのか?裏から入れ。

木島には俺から言っておく。袖から見ればいい」


「あ、影山さん・・」

 

驚いて振り向くと、そこには影山さんが立っていた。

 

「いいんです。今日はお客さんになりたい気分なんです」


「そうか。なら最後列どセンターで見ろ。

今日は特別にお前の為に踊ってやる。

よく見てろよ。そして上がって来い・・・・からしのたね」


「え?」

 

影山さんはそう言うと、劇場の長い正面階段を駆け上がり、

一番上の段で振り返った。

 

「なぁ!瞳。“影山さん”じゃなくていい。

“ジン”って呼んでくれ。その方が俺らしいから」

 

 

その夜の公演は、その後の私の一生の宝物になった。


影山さんのその夜のダンスはものすごく情熱的で、

舞台上の影山さん演じるパリのジゴロに、私は恋をした。

 

私が胸をときめかせたのも無理はなかった。

なぜならそれは、

影山さんから私への“熱烈なラブレター”だったのだから。

 

その時の影山さんの想いの全てが分かったわけではなかった

けれど、ささくれ立っていた私の気持ちはすっかり落ち着き、

すっかりいつもの私に戻っていた。

 


卒公まで、1ヶ月半。

やれるだけやらなきゃ!!

 

劇場を出た私は、

 

夜の公園で1人、タップを踏んでいた。


 


2008/09/28 01:11
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 3話 「6時間半のレッスン」

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1年半前の作品。改めて読むと、拙い表現がいっぱいで・・
思わず加筆修正してしまいました^^

さあ・・今日はあなたも、仁と一緒にレッツレッスン!

 

 

 


瞳が研究所に来てそろそろ1年。

俺の生活はそれまでと大きく変わった。


毎朝7時20分。

瞳はバタバタと駅から走ってくる。


俺はタバコを吸いながらその様子を窓から見るのが

日課になった。

 

どんなに前夜仕事が遅くまでかかっても、

その時間には窓辺に立った。

 


“また、寝坊したな”

“髪が後ろ、はねてるぞ!”

“こら!おにぎりくわえたまま走ってくる奴があるかよ!”

 

時には稽古場の暗い照明ブースから授業を見ていることもある。

 

あ、またダメ出しされてる。

その手はなんだ?

自分の台詞がない時にそんなにブラブラさせちゃだめだろ。

 

はぁ・・芝居はホントにまだまだだな。

でも、いい目をしている。


俺も研究生時代はあんなだったんだろうか。

 

そうだ。


俺も芝居なんて何も知らずに宇宙に入ってきた。

 

美雪の遺志を継ぎたくて。

ただ踊りたくて。

 


演出の木島に出逢った時、俺はストリートで踊っていた。

その時、奴は劇団のダンスをもっと特徴のある物にしたいと

悩んでいた。

 

声を掛けられて。

意気投合して。


朝まで飲んだその2日後には、もうこの稽古場に立っていた。


なんの実績もない一介のストリートダンサー。

ただ闇雲にリズムタップを刻んでいた男。

 

そんな俺を木島は拾ってくれた。

「今後の“宇宙(そら)”には、お前のタップが必要だ」と。


ここに入って、芝居の基礎から始めた。

芝居はズブの素人だ。羞恥も見栄もすべて捨てた。

年下の同期生とも競いあった。

 

それが10年前。俺は24歳。


美雪が死んで1年が経っていた。

 

 

「はい!今日はこれで終わりだ。

来週卒公の演目、発表になるぞ。オーディションも週末に

行うからそのつもりで。お疲れさん!」


「お疲れ様でした~~」

 

卒公オーディション。


もう、そんな時期なのか。

 

瞳、残れるのか?

どう贔屓目にみても、瞳の芝居はうまいとは言えない。

だが、歌はこのクラスでもトップだ。

そして一番の問題は、ダンス。

 

俺が採るなら相原だな。

あれはもうそのまま舞台にあげてもいいだろう。

身長が少し足らないが、あのパワフルな踊りはぜひ欲しい。


今年はツブが揃ってるほうかも知れない。

もっとも、

今まで真面目に研究生の稽古など見たこともないけれど。

 

厳しいぞ、瞳。

上がって来られるのか?

 

今回俺は試験官だが合否の決定権は無い。

木島はダンスの評価は聞いてくるけれど、

それをたいして参考にしないのは毎年のことだ。


結局は自分の目しか信じない。奴はそういう男だから。

 

一週間か。

 

俺は、初めて自分から動き出した。

もっとも、ここまで一年かかったが。

 

土曜日。

瞳のバイトは今日はない。

今日はタップの稽古の日。

 

何でも知ってるさ。恥ずかしながらな。

まるでストーカーだ。


考え事しながら爪を噛む癖も、

歌っているときの幸せそうな顔も、

悔しくて泣くときに、いつも線路脇の電柱の影にいることも。


今では美雪に似ているなんて思わない。

瞳は瞳だ。他の誰でもない。

 


「木村。ちょっといいか?」


俺はその日、更衣室に1人残っていた瞳に初めて声を掛けた。


「あ!え?影山さん?はい、あの・・何か?」


「今晩10時、駅南口。タップシューズ忘れるな」


「えっ、ええっ?あの、影山さん?!!」

 

 

夜10時。下北沢駅南口。

 

週末の夜の下北駅前は、もの凄い人混みで身動きが取れない。


携帯で連絡を取る待ち合わせの男女。

合コンの結果にこの夜の期待十分な大学生。

芝居が跳ねた帰りの少し酔った演劇ファン。

 

駅前のキオスクでミネを買い振り向くと、

改札口から転がるように、瞳が階段を駆け下りてきた。


俺を捜しているのか、瞳はキョロキョロと落ち着かない。


声を掛けようとしたその時、マックの前でたむろしていた

酔った体育会系の学生達に、瞳はしつこく誘われ始めた。

 


「君、今ひとり?」


「いえ、あの、違います」


「彼氏待ってるの?来ないみたいじゃん。

俺達と飲みに行こうぜ!」


「違います!私、人を待ってて」


「おい瞳!・・待ったか?」


「え?あ、影山さん!」

 

俺が大声で呼び、腕を掴んで引っ張ると、

瞳は俺のその手を掴んだまま後ろに廻り、

男達から隠れる様にしがみ付いた。

 

「おい、何すんだよ!!」


男達の中で一番ガタイのいい男が、酔った勢いもあって

いきなり俺の胸を小突いた。


「彼女に、何か?」


サングラスを外し俺が睨みつけただけで、その男は

「ヒッ!」と叫んで、動かなくなった。

周りの男たちは、慌てて道を開ける。

 

「・・10年早いんだよ」


瞳に聞こえないように、奴らに太い釘を刺す。

そして、小さく固まっていた瞳の肩を抱くと

そのまま駅前を離れた。

 

男達の目が無くなると、瞳は慌てて俺から離れた。

俺はそのまま瞳を5歩ほど後ろに従えて、ゆっくりと歩く。

 

・・参ったな、コイツ完全にびびってる。

俺に何を言われるか考えてるのか?

まさか呼び出し喰らって叱られるとでも思ってるのか?

 

・・フッ・・こいつ、面白い。


思わず俺が笑うと、瞳は憤慨していた。

 

「何がおかしいんですか?」

「どこに行くんですか?」

「あの、影山さん!私・・」


「入れ」


「え?ここ・・スズナリ?」


「見ればわかるだろ。上がれ」

 

“ザ・スズナリ”下北のスタジオ兼劇場。


その錆びた階段を上がっていく。


「あの・・影山さん?」


「本多には話通してある。朝5時までは自由に使っていいそうだ。

お前のタップ見てやるよ。来週オーディションだろ?」


「影山さん?どうして、私に?」


「ん?あぁ・・見たとこ、お前が一番危なそうだからだ。

歌、芝居、タップ。

どれを重視するかといえば、木島はタップを取る。

タップはセンスだからな。

センスのない奴にいくら教えても無駄なだけだ。

お前、リズム感はいいくせになぜリズムタップが踏めない?

ウチのタップは知ってるだろ?お嬢さん芸じゃないんだぞ!

体でリズムを取れ!」


「私はミュージカルタップのほうが好きなんです!

優雅だしバレエ的だし・・リズムタップは足がついていかなくて。

でもそれだって、始めてから9ヶ月しか経ってない・・」


「俺はタップを始めて2ヶ月後にはストリートで踊ってた。

客の反応を直に感じて体で覚えた。

お前はまだ頭で踊ってるんだ。難しいなんて考えるな!

足がついていかない?そんな訳あるか!

お前が人一倍体力があるのは、俺が1番知っている。

木村。頭で踊るな!体で感じろ!・・見てろ」

 


CDをセットし、フロアのセンターに1人立つ。

 

俺が劇団で初めてセンターで踊ったナンバー。


   “ウエストサイドストーリー”

 

音楽が・・始まった。

 

 

----

 


こんな間近で影山さんのダンスを見た。


これが・・・タップ。

 

私は今まで、何をやってきたんだろう。

音が鳴るだけがタップじゃないんだ。

リズムに乗るだけがダンスじゃないんだ。

 

魂が・・リズムが・・・心に響いてくる。


体の底から湧き上がってくる様なダンス。

 

曲が終わった時、私は涙を流していた事にやっと気づいた。

 

「ひと・・いや・・木村。今日は俺に付いて踊ってみろ。

基本は出来てるんだ。俺は教えない。体で感じて付いて来い」

 


朝の5時まで、6時間半。

影山さんは、本当に一緒に踊ってくれた。

私の目だけを見て。

ただ付いて来い、と。

 

曲を感じる。

音を感じる。

 

影山さんを・・・・感じる。

 

 

踊って。


踊って・・・

 

 

気づいたときは、フロアで私は眠っていて、

私の体にはいつのまにか皮のジャケットがかけられていた。

 

ロビーに出てみると、ベンチに座ったまま

大きな体を折り曲げるように、影山さんは眠っていた。

 

この人は・・何?


なぜ、私にこんなことをしてくれるの?

 

 

その子供のような寝顔を、


私はずっと見つめていた。


 


2008/09/27 00:46
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 2話 「とまどい」

Photo


何やら過去のありそうな謎の男、仁。
仁が天然娘、瞳と出逢って・・・
2人の本格的なファーストコンタクトの2話です。

 

 

 


午前6時30分。私の朝はここから始まる。


劇団の授業は朝9時から。

でもみんな、そんな時間には来やしない。

1番は、いったい何時に来てるんだろう。

 

杉並区方南町のアパートを6時45分に出て、丸の内線で新宿へ。

小田急線に乗り換えて、劇団のある下北沢まで30分。

駅から走って10分。

7時25分に劇団に着いたときには、いつも10人は先に来ている。

 

「おはようございま~す!」


この世界じゃ、朝でも夜でもこの挨拶。

おまけにバイトも飲食業だ。

私は本当に一日中「おはようございます!」を叫んでいる。

 

朝の稽古場は皆の気合で溢れてる。


ストレッチをする者、発声練習をする者、走りに行く者。


“拙者親方と申すはお立会いの内にご存知のお方も

御座りましょうが、御江戸を発って二十里上方・・”


≪外郎売≫は役者の卵の基本。稽古場に皆の声が響き渡る。

 

9時の授業開始までどう過ごすかに勝負がかかっている。

授業初日にのんびり8時半に着いた私は、めちゃくちゃ焦った!

だってその時、もう皆は“いつでも来い”状態だったんだから。


毎日5時までの授業。

居酒屋のバイトが夜12時に終わって、慌てて銭湯へ。

毎日2時に布団に入るから、4時間半しか眠れない。

それでも少しでも早く早く、と毎日走る。


養成所の授業は、バレエ、声楽、日舞、殺陣、パントマイム

そして・・演技実技。


ウチの劇団の特色は何と言っても圧倒的なタップダンスの群舞。

養成所の授業はなくとも、個人的に皆レッスンに通っていた。

当然踊れるものとして劇団は見るし、

そうでない者は容赦なく配役の対象外だ。


私もあいちゃんの紹介で、

タップとバレエのレッスンを始めていた。

 

毎日忙しく充実してる。

たった一つの問題は・・お、か、ね。


家賃、光熱費、他、生活費。

レッスン代に、分割で払ってる劇団の研究費。


収入源は少しの仕送りと、時給900円の居酒屋でのバイト。


この飲食店ってのが、貧乏研究生にはなんたって必須アイテム。

だって・・賄いが付くから。


一日これ一食なんてのもしょっちゅうで。

あとはひたすら御飯を炊いておにぎりでOK!

ダイエットと節約の一石二鳥?

おかげで、5kgも痩せられた。

 


入所して3ヶ月。

そんな生活に慣れたある日。


稽古場に忘れ物をして取りに戻った私は、

地下の更衣室に入っていった。

 

「やっばー!タップシューズ忘れちゃったよ・・」

 

昼間、沢山の人間が出入りしている更衣室。

真っ赤な夕日が差し込む、部屋の中。

 

今まで気がつかなかった奥への扉があるのを私は見つけた。

 

「あれ?何の部屋かな」

 

更衣室の奥の扉を開けると、

狭い廊下の先にもうひとつ部屋がある。


ぼーっと明かりが漏れる部屋の前に来た時、

勢いよく扉が開いた。

 

“バン!!” 

 

「痛っ!!」

 

思いっきりドアにぶつかった私は、その場に尻餅をついた。

 

「・・誰だ!あぁ“研究生 木村 瞳”か」

 

「うっわっ!!・・影山さん?すみません!私、ここがどこだか

分からなくて。ここ、影山さんのお部屋だったんですか?

・・あ、すみません!私、忘れ物を取りに。

えっと、あ・・すみません。帰ります。お疲れ様でし、た」

 

ぶつけた頭とお尻を擦り、後ずさりして慌てて帰ろうとする私に、

その人は低い声でこう言った。

 

「木村。ここは俺のテリトリーだ、近づかない方がいい。

帰れ。お前は・・こんなところには似合わない」

 

「あ・・本当にすみませんでした。お、お疲れ様でしたー!」

 

何度も頭を下げて、急いでそこを後にした。

後ろに、影山さんの視線を感じながら。

 

もう~!マジやばいよ。

あそこが影山さんの部屋だったなんて。

 

でも。

 

どうして影山さん、私の名前なんか知ってたんだろう?


研究生は30人いるし。

私そんな目立った存在じゃないのに。


そういえば面と向かって挨拶したの、今が初めてだ・・

 


影山 仁。


劇団「宇宙(そら)」の幹部俳優。


圧倒的なその深い声で語るセリフは聞くものを魅了し、

なにより、そのタップダンスはこの世界でも群を抜いている。

2年位前、何かの賞も受賞してたはずだ。

年齢・・たしか、34歳?

 

高校の頃、劇団の舞台を見て興奮した私。

そして、影山さんのダンスに心奪われた。


群舞のセンターで踏むタップは、

あの長い足と長い腕を生かしてものすごい迫力!


地鳴りのようなタップと、叫ぶような歌声は、

いつまでも私の耳に残っていた。

 

そういえば、影山さんはマスコミに出ていない。

看板女優の萩原さんは、ドラマや映画の世界でも活躍してるし、

影山さんより若い劇団員にもアイドル並の人気者だっている。

 

どうしてかな。

マスコミ嫌い?

それに、あの部屋・・

 

うわっ!タップ行くんだった。チコクする~!!

駅にあいちゃんを待たせてたのを思い出した私は、

思いっきり駆け出した。

 


----

 


「よかったの?仁。あの娘でしょ?

あなたがこのところお気に入りなのは。

そうね。確かにうちの劇団にはいないタイプだわ」

 

咲乃は、奥のベッドに腰掛けて、口紅を直している。


俺はそんな咲乃を無視し、タバコを取り出した。

 

「オーディションの時もあなた、あの娘を入れるべきだって

力説してたじゃない。何がお気に召したの?

背だって低いし、そう美人でもない。

ああそうそう・・歌はそこそこ歌えるらしいわ。

山口さんが珍しく褒めてた。“透明な高音が素晴らしい”って。

この部屋に近づくなって?お前には似合わない?

ふふっ、笑えるわね。影山 仁があんなお子様が趣味だなんて」

 

「・・・止めろ。そんなんじゃない。」

 

「あの娘、どうするつもりなの?あなたの手で女にしてあげるの?

・・帰るわ!あなたのそんな顔見たくないし。

仁。私は退かないわよ。あなたが私に飽きたとしても、絶対に。

じゃぁね、ロリコン役者!・・また連絡する」

 


俺は部屋の窓から、慌てて外へ飛び出す瞳を見ていた。


部屋から出て行く、咲乃を振り向きもせずに。

 


“お気に入り?”

違う、そうじゃない。

そんなんじゃないんだ。

 

 

2年前の静岡公演。

頬を紅潮させて、俺にサインを求めてきた高校生。

 

驚いたんだ。

 

あまりにも・・美雪に似ていて。

 

いや、顔が似ていたわけじゃない。

肩頬だけに出来るえくぼと、握手をしたその手が、

俺の・・・たった1人の妹に似ていた。

 

小さくて丸いぷっくりした手。


「女らしい、細くてすらっとした手がいいなあ」


美雪はいつも気にしていた。

 


「あの・・“木村 瞳さんへ”って入れてください!」


「キ、ム、ラ、 ヒ、ト、ミ?」


あの時聞いた名前がずっと忘れられなかった。

きらきら輝くその目が、俺の心にずっと残っていた。

 

オーディションで瞳を見たとき目を疑った。

また逢えるなんて思ってもいなかった。

 

咲乃の言ったことはあながち嘘ではないな。

 “ロリコン役者”?


・・それを言うなら“シスコン役者”だ。

 

18で死んだ妹をいまだに引きずっている。

もう11年も経っているのに。

 

俺はまたタバコに火を点けた。

 


俺は自分の中の感情に戸惑っていた。

 
この3ヶ月。

俺の目には瞳しか見えてなかった。

オーディションに意見したのも事実だ。

最後の1人を決める時、俺らしくなく木島に食って掛かった。

 

「これからの“宇宙(そら)”には

今までに無いタイプが必要だ!」


木島は不思議そうに俺を見てニヤっと笑うと、瞳を選んだ。


「仁が初めてまともに意見を言ったか。どんな心境の変化だ?

よし!尊重してやる。言ったからには責任を持て。

・・お前も少しは研究生の面倒も見ろよ!」

 


俺が??

そんな柄じゃない。


それでも稽古場の掲示板にそっと評判のいいダンス教室の

ポスターを貼ったり、知り合いの居酒屋のバイト募集の

チラシを置いたりした。

 


この感情は何なんだ。

俺は14も年下の女の子に惚れたと言うのか?


いや、違う・・

そうじゃない・・


妹に似ているから。

ただそれだけ。

そう。それだけ・・だ。

 


その時の俺は、


そう思おうと自分に言い聞かせていたんだと思う。

 


本当はとっくに認めていたのに。


その感情が何なのか

 

自分でも分かっていたのに・・・



2008/09/26 00:32
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 1話 「入団」

Photo


いつも、私のマニアックな話題^^にお付き合いくださいまして、
ありがとうございます・・

昨日予告しました通り、今日から私の創作「いつか、あの光の中に」を
連載いたします。

これは、昨年1月から、創作サークル【Creative Square】-創作の広場 で、
掲載された作品です。


主役の「影山 仁」に、彼をイメージして書いたお話です。
仁は俳優であり、タップダンサー。彼のダンス姿!を妄想してお読みください。

尚、CS版には私の拙い背景とコラージュがあります。ここは文字だけですが、そちらも気が向いたらお越しくださいね。


 

 





いつか、あの光の中に  1話 「 入団 」

 


君は知らない   


俺がいつから君を見ていたのか

 


君は知らない   


俺がどれほど、君のことを愛しているのか

 


君が幸せならばそれでいい    

 

俺には君は眩しすぎるから

 


だけど


もし許されるなら

 


君の瞼に一度でいい

 


口づけさせてくれないか・・・

 

 

 

 

 

 

『合格通知  木村 瞳 様

  
   おめでとうございます


あなたは、2月20日、当劇団「宇宙(そら)」にて行われた


入団試験に合格されました。


養成所入所式は、4月1日、劇団稽古場にて行われます。


尚、入所手続きは3月15日までに、劇団事務所に・・・・・』

 

 


う、そ?


合格?この私が合格??

 


今、注目されているミュージカル劇団『宇宙(そら)』

その研究生に合格した。

 


私、 木村 瞳 20歳。

 

静岡の田舎の高校を卒業し、花の(?)東京に2年前やって来た。

無謀にも、女優を目指して。

 


高3の夏休み。

友達と見た、「宇宙(そら)」の舞台。


その圧倒的な衝撃に、「絶対、ここに入る!!」と、女優宣言。

卒業後、両親の反対を振り切って、単身上京。


そして、遂に・・・


っていうと、なんかかっこいいけど、

現実はそんなもんじゃないんだよね。

 


反対されて家出同然に出てきたから、

(結構、後先考えないんだ、私って)

まず住むとこから困っちゃって・・

 

不動産屋の前でうろうろしてたら、背の高いオジサンに

「紹介してあげるよ!」って声かけられた。

 

身なりはしっかりした人だったんだよ!

「すぐそこだから・・」なんて言われてあやうく変な店に

“紹介”されそうに。

 

バカだね。まるで田舎モンまるだし!

 


あれから、私も少しは都会人になったんだよ。

新宿の地下街でエステや宗教の勧誘に出合っても、もう大丈夫。

キャッチやナンパも見向きもしない。

 

強くならなきゃ!都会で1人で暮らすには。

 


田舎の母さんは、いつもそっと、仕送りをしてくれる。

父さんに見つからないように、毎月ほんのわずかだけれど。

それでも、役者の卵はいつも金欠だ。

 

それもこの一通のハガキで報われた。

あ~!!うれしいよ~~!!

 


そして、遂に入所の日。

 

“ああ・・これから私の役者人生が始まるんだわ”


感慨にふけってた私はすぐに現実にぶち当たる。

 


みんな、綺麗・・・

背、高い・・・


ここって、どこ??

どうしてここに私がいるの?

なんで私が合格したの?

世界が・・違う・・

 


私は身長150㎝。

どう大雑把に見ても、この人達と20cmは違う。


しかも、今回の試験。


受験者300人。合格者30人。内、女子は、10人。

劇団員に残れるのはその中から2、3人って聞いた。

私、このモデルみたいな人達とライバルにならなきゃなんないの?

 


あ・・・めまいしてきた。

 

落ち込んだ私の隣で、ニコニコ笑ってる女の子。

 

“ほっ・・10人並みじゃん”

 


「たぶん、私、今あんたと同じこと考えてたよ。

私、“相原 萌”。あいちゃんって呼んで!ヨロシク!」

 

「あ・・木村 瞳です。よろしく・・

あいちゃん?萌ちゃんじゃないの?可愛い名前なのに」

 

「そう、そこが問題。

私の顔、“萌”ってイメージじゃないんだってさ。

失礼しちゃうよね。このまま芸名でいける名前なのにさ。

昔からそう呼ばれてるから、瞳もそう呼んで!

あ、瞳でいいよね。あんたとは仲良くやれそうだ。

あのモデルみたいな連中とは話合いそうにないもん。

しかし、私達、何で受かったんだろうね。

ゴメン、率直な意見だ。あぁ瞳は分かる。あんた、歌うまいよね。

憶えてるよ、試験の時聞いたから。私は・・やっぱダンスかな?

4歳からクラッシック、モダン。ずっとやってたから。

我々の容姿じゃ到底あんなのに敵わないもんね。

あ!またまたゴメン!」

 


ふっ・・なんか少しホッとした。

今すぐシッポ巻いて逃げちゃおうかと思ってた。


少し落ち着いた頭で稽古場を見ていると、何か視線を感じる。

 

「何?・・」

 


視線の主が私に向かってピースした?


・・・・あ~~~!!!

 

「拓海せんぱ、い?」

 

「やっと気がついたか、瞳。

俺はお前が入ってくる時からずっと見てたのに。

どうした?驚いたろ。」

 


田舎の高校の演劇部。

私達女子の憧れの部長、緒方拓海先輩。

 

背が高くてカッコ良くて、芝居もダンスもすごく上手くて。

全然勉強してそうも無かったのに、あっさり現役で東京の大学

受かったって聞いてたのに。


それがいったいどうして、ココに?

 


「大学には行ったさ。勉強だってしてたんだぜ。

芝居は趣味って親とも約束してたのに、こっちで宇宙の舞台

見たらもう堪らなくて。

やっぱり役者になろうって思って1年で辞めたんだ。

親には泣かれたよ。ハハ、もう勘当同然。

俺は去年劇団員になったんだ。

今年の本公演でやっと役もらえてさ。

お前が来るって知って俺、ワクワクして待ってたんだぜ。

また一緒に芝居できるな。瞳・・絶対上がって来いよ。

研究生で落ちたら承知しないからな!」

 


うわ!すっごいプレッシャー。

 

でもココに先輩がいるなんて。


だって・・・


ずーっと、好きだったんだもの。


私が演劇部に入ったのだって、

新入生勧誘公演のときの先輩を見たからだし。

 


やさしくて、かっこよくて。


あの時よりもっと素敵になったなあ。

 

上かぁ・・


一年後、私は残ってるのかな。

こんな人達を何人も抜いて。

 

 


入所式が始まった。

 

正面に劇団関係者(要するにお偉いさん)が、

ずらーっと並ぶ。

 

劇団代表、幹部俳優、養成所講師。

 

あ・・あの人。

萩原 咲乃だ。

 

この劇団の看板女優。

彼女の魅力がこの劇団の大きな“売り”。

 

わ~っ、やっぱオーラが凄いよ。

周りが光って見えるもん。きれ~い!

 

でも思ったより背ちっちゃいんだ。

舞台では大きく見えるのに。

なんかちょっとホッとしたかも。

だからといって、私が小さいのとは関係ないけどさ。

 

演出家でもある劇団代表木島さんの話。

 

「なんでも吸収できる新しいスポンジになれ!

未経験者も、いままで芝居をやっていた者も、

真っ白になってついてきてくれ。」

 

宇宙の色に染まれってことかな。


うん。ある意味、私は“真っ白け”だけどね。

 

さ、頑張らなきゃ。

そのために今までやってきたんだもん。

それに、拓海先輩が上で待ってくれてるし。

 

武者震いにドキドキが加わって、

私の心臓は今にも爆発しそう。


本当に、本当に私、


これから役者になるんだ・・

 

 


そんな私を稽古場の隅からじっと見ていた人がいたんだ。


その時の私はまるで知らなかったけれど・・

 

 

黒の皮ジャンに黒いサングラス。


長い足を無造作に組んで、フロアに直に座っている。

 

 

劇団宇宙幹部俳優   影山 仁(じん)

 

 

その後の私の人生を変えてしまう男だった。



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