2009/06/21 00:37
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

ライナーノーツ 「鳳仙花が咲くまでに」

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何だかライナーノーツを書くの、久しぶりのような気がします^^


19週という長い間、お読みくださってありがとうございました~!!

 



「いつか、あの光の中に」第3シリーズ。「鳳仙花が咲くまでに」

やっと完結しました~。


今回の主役は、第2シリーズ「菜の花の記憶」で初登場した

仁の双子の弟、バーナード・シン・ワイズマン。

ドンヒョク顔^^の彼の恋と、仲間との絆を描いています。

 

このシリーズ。長くなってますが、初めはこんなに長編になる予定じゃ

なかったんです(笑)


仁が生まれ、瞳が生まれ・・咲乃、木島、萌、常さん、拓海・・・


劇団「宇宙」のメンバーにどんどん感情移入して、

彼らは私の中で、色んなお話を作らせてくれました。


個性的なキャラの彼ら。

時には勝手にセリフを話し始めます。


私はその交通整理をしている状態^^

特に常さんは、話しはじめると長いですからね~、止めるのが大変です。

 

これを書いていた時、ちょうど太王四神記の韓国放送をやっている時

でした。

言葉もわからない、PCの小さい画面のMBC版。

途中で固まっちゃって紙芝居状態になっちゃったり、大変だったけど、

夢中で見ていましたよね。

 

そんな時に書き始めたこのお話。


バーニーの相手には、包容力のある母のような女性。

朱雀のような大地の母・・そんな女性がいいと思ったんです。


マムのために生き、仁への憎しみをバネにして戦ってきたバーニー。

どん底から這い上がって、NYでの成功者となって・・


愛というものを知らず、自分だけを信じて生きてきた彼は、

仁曰く、結構なマザコン^^


瞳のような清純派じゃなく、年齢もそれなりな女性・・

松原操は、そんなイメージから生まれたキャラでした。


悲しい過去を背負った彼女。

優しさと、バーニーを想うがゆえに自ら身を引いてしまいます。

それがスジニのイメージと結びついたんですね。


後半は、ドラマともシンクロしてくるこのお話。

操がスジニ。バーニーがタムドクの立場なのに、劇中劇ではそれを

瞳と仁が演じていて・・

自分ではその辺が書いてて面白かったですね。


確か1番の佳境、16話「ごめんなさい」は、

2時間くらいで書き上げちゃった覚えがありますから。

 

そして、ラストシーンは、あの坂の上。

度々、このシリーズで登場する劇団に通じる坂。

イメージはホテリアー20話のドンヒョクの仁王立ちでした!


ラストシーンのこの場面は、初めから決めていました。

あの悲しいドンヒョクの後ろ姿。

来ないジニョンをずっと待っていたあの背中を幸せにしてあげたい・・と。


このお話では、待っているバーニーの下に操はやってきます。

そして、バーニーは腕の中に未来を抱き締める。


未来へ続くようなエンディング。


彼らの息子、エドワード・ナオト・ワイズマンが生まれて

このお話は終わります。


愛する兄の名前と、尊敬する木島の名前を息子につけたバーニー。

その想いが伝わったでしょうか?^^


昨日のコメントにもいただきましたが、

いつか、息子エドの話も書きたいと思っています。

それはまたいずれ・・・

 

さて。


来週からは、新連載が始まります~。

このブログの10万ヒットの時にいただいたリクエスト。

とてつもなく遅くなりましたが、やっとここで登場します。


「金色の鳥篭」ー スジニの愛 ー  全10話です。


太王四神記、23話後半からの私なりのエンディング。

もうひとつの24話です。


連載前から、色んな方から励ましをいただいている作品。

どうか大きな広い心で(笑)読んで下さいね。



2009/06/20 00:08
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 最終話 「待ってる・・・」

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19週にわたって連載してきました「鳳仙花が咲くまでに」今回が最終話です。


シリーズ第3部。一応の一区切りです。


ラストシーンは・・あの有名な場面をイメージして下さいね♪

 

 



「ただいま。遅くなってごめん。舞は?」


「寝ちゃったわ。さっきまであなたを待ってたんだけど」


「そうか。あ、お袋。あけましておめでとう。

去年はなかなか来れなくてごめん。年末まで舞台だったし、

バーニーの事もあって・・元気そうだね。親父は?風呂?」


「うん。仁、ちょっといい?あのね。

実は大変な事になっちゃったの」


「また大袈裟だな。正月早々夫婦喧嘩とかじゃないだろうな。

どうせまたお袋が何かやらかしたんだろう?結局最後はいつも

“亜矢ちゃん、ごめん”って親父が謝るんだ」


「違うわよ。今年も私達は、至って平和」


「そりゃ何より。で、せっかくの平和な正月に悪いんだけど。

俺、やっぱりゆっくり出来ないよ。瞳から聞いただろうけど、

バーニーが思わしくないんだ。今日は萌に看病頼んで来たんだけど、

強引にでも明日入院させるよ」


「あのね、話ってのは、そのバーニーの事なのよ。いい?驚かない

で聞くのよ。バーニーの恋人、操さん。彼女、ここにいるの」


「ここ?ここって、どういう事だよ。それにどうしてお袋が操の事・・

おい、ここって。まさか、この町って事か?」


「話せば長くなるし、どうして今まで気がつかなかったって、また

あんたに怒られるけど。

実はね、この町っていうより・・あの・・この家に」


「何だってー?!!」

 

 


あの千秋楽の夜。

倒れたバーニーを木島の車に乗せ、俺達は病院に向かった。

入り組んだ路地ばかりの下北は、救急車を呼ぶよりその方が断然早い。

後部座席で拓海の膝の上に横たわるバーニーのうなされる声が、

運転席の俺にも聞こえて来た。

 

『・・待ってる・・待っ、て・・・・操』

 

何度も何度も、同じ言葉を繰り返すバーニー。

拓海は嗚咽を抑えられない。


極度の過労と睡眠不足。栄養剤の点滴と解熱剤の投与。

医者が処方した薬は確かに効いた。

だが何かを否定するように、翌日バーニーの熱はぶり返した。

意識は戻り、見た目にはしっかりしているようだが、

熱はなかなか下がらない。入院を拒むバーニーは、一日中部屋の

ベッドの上で乾いた唇を噛み締めながら天井を見つめている。

 

 

「舞がね、さっき晩御飯の時に変な事言い出したの。

“このからあげ、みさおちゃんのよ~”って」


「からあげ?」


「うん。あの子、前に秋の遠足で操ちゃんにお弁当作ってもらった

じゃない。ほら、私がスタジオ収録で朝まで帰れなくて、操ちゃん

に頼んで」


「ああ。そんな事あったな」


「味が違うのよ。操ちゃんのはバーニーが好きなマーマレードが

入ってて、甘くておいしいの。私も前に1回ご馳走になった事ある

から分るんだけど。これよ、食べてみて」


「・・旨い。何か懐かしい味だな」


「かもね、バーニーも好きらしいから。で、今日これを作ったのがね、

園の給食室で働いててここに住み込んでる人なの。名前は“みさ子”さん」


「ごめん、仁。まさか私もこんな事になってるなんて思わなかったから。

だってあんた達、詳しい事話してくれなかったじゃない。私、夏に彼女と

1回下北で逢ってるのよ。MIYUKIの場所が分らなくて、偶然逢った彼女に

案内してもらったの。その時に名刺渡したの、“訪ねて来てね”って。

ね、仁、この人でしょ?小さいけど写真・・

この前のクリスマス会で園児全員と撮ったの。横向いてるけど、分る?」

 

そこにはカメラを避けるように不自然に顔を背けた操が写っていた。

子供が3人、操のエプロンを握ってピースをしている。

操は、その子達の肩に手を置き、俯いて微笑んでいた。


「子供に人気なのよ。モノマネが上手くて、お笑いのギャグとかよく知っ

てるの。家に住んでるから遅くまでいてくれるし、延長保育の子のアイ

ドルよ、彼女」


「どうして操がここにいるんだ!灯台下暗しもいいとこだ。ああ、もう

そんな事はいい。とにかくこれからだ。お袋、それで操、今何処にいる?」


「それが、瞳ちゃん達が着いてからいなくなっちゃったの。

荷物はあるからきっと取りに来るとは思うんだけど・・

仁、あの人なのね、バーニーの想い人。ああ、今考えたら沢山思い当たる

節があるわ。彼女、そっとこの家を見に来ただけなのかも知れない。

それなのに私、強引に園に勤めさせちゃって」


「お袋!ナイスだぜ!!やっぱ伊達に年食ってないや。それと今回の

MVPは舞だよ。さすが俺の娘だ。舞には何かご褒美だな。

瞳!萌にすぐ電話だ。操が見つかったって知らせろ。

これで熱が下がるといいんだが・・操の奴、心配掛けやがって。

何事もなかったからよかったが、逢ったら思いっきり叱ってやる!」


「仁さん、ダメよ!操ちゃんだってバーニーや赤ちゃんのためを思って」


「操は俺の妹だぞ。俺が叱らなくてどうするんだ。

しかし、バーニーの言う通りだったな。遠くには行ってない、か。

ハハ・・確かに。そうだ、お袋!操、元気だよな?

体調悪かったり、変な様子ないよな?」


「うん。元気よ。いつも明るいし、風邪も引かないし」


「よかった・・操の奴、妊娠してるかもしれないんだ。多分あいつ、

バーニーと子供を護ろうとして、俺達の前から姿を消した。

自分は明るく笑って、俺にバーニーを頼むって・・

あいつしかいないんだ。

バーニーを幸せに出来るのは、あいつしかいないんだよ」

 

 

‐‐‐‐‐
 

母屋のリビングにまだ灯りが点いている。

園長と智明おじ様はいつも早寝だ。

こんな時間に起きているのは、

東京から影山さんが着いたからに違いない。


給食室の鍵を開けて、そーっと職員室に入る。

暗闇での手探りの不法侵入。“まるで泥棒みたい”と、

こんな状況なのに1人笑ってしまった。


非常用の懐中電灯を探り当て、長椅子に一晩の宿を作る。

同僚の膝掛けを各椅子から全部借り、クリスマス会で使ったポニョ

の着ぐるみを着こんでなんとか寒さを凌ぎ、横になった。

 

“影山さんが来れたって事は、先生の具合は良くなったんだ”


少しホッとすると、寝床の中から神様に祈りを捧げ、私は目を閉じた。

 

 

・・・操・・どこ?・・僕はここに・・いる・・

      寒いな・・君の居ない部屋は、寒くて・・凍えそうだ・・

 


「先生!!!」

 

思わず大声を上げて飛び起きた。

時計を見ると、まだ眠ってから15分も経っていなかった。

 

夢?今のは、夢だったの?


すごくリアルな夢だった。


先生がベッドの上で熱にうなされていた。

あの部屋の、あのベッドの上で。部屋にはTVが点けっ放しで、

いつもの朝のキャスターが街頭インタビューをしていた。

明るい女子高生の声と、大笑いするキャスターの声。

そして、先生の声が。

 


・・操・・・

・・待ってる・・ここ、で・・待ってる・・

 


もしかして影山さんは、急変した先生の様子を知らせに来たのではないか。

急いで病院に向かうために、瞳さんと舞ちゃんを迎えに来たのではないか。


「・・嫌!嫌だ、どうしよう・・・先生が・・先生が!」

 

体の震えが止まらない。

先生を失うかも知れない恐怖が、私をパニックにさせていた。

突然襲う強烈な吐き気。

私は、洗面所に駆け込んだ。

 



・・・操ちゃん、操ちゃん!大丈夫?


「え?」



急に背中に当てられた暖かい掌。

優しく、力強く、私の背を擦っている。


ゆっくり振り向くと、そこには瞳さんが立っていた。

そして、その後ろには影山さんが。

 

「もう!無茶しちゃだめよ。操ちゃんはママなんでしょう?

もう1人の体じゃないのよ。大事にしなくちゃ。

私は操ちゃんより年下だけど、ママとしては先輩なんだから」


「瞳さん、影山さん・・どうして?なんで私がここにいるって」


「聞いてた以上の機械音痴だな。お前、防犯装置っての知らないのか?

幼稚園は警備会社と契約してるし、職員室と園長室には、しっかり防犯

カメラが付いてんだよ。あそこには、金庫とか子供の個人情報とか色々

あるからな。母屋のモニターから中の様子は丸見えだ。

夜中に侵入者あり・・驚いたぜ。

しかもデカイ着ぐるみが急に震えだして。

でも、操。よかった。見つかってよかった・・お前が、無事で・・」


「影山さん」


「まだそんな呼び方する。言っただろ、仁って呼べって。

もうお前は俺の妹だって!あまり心配掛けないでくれ。

妹がいなくなるのは・・・もう嫌なんだ」

 

影山さんが。いや、仁さんが、私の為に涙を流している。

私を抱き締めて、頭を撫でてくれている。

そして瞳さんは、私の手を取り、優しく握ってくれた。

 

「私もよ。さん付けは嫌だな。私だってあなたと姉妹になるのよ。

姉だとは思えないだろうけど、せめて瞳ちゃんって呼んでね」

 

その暖かさに、私は今まで押さえていた涙が溢れ出した。

 

笑顔で・・笑顔で。


ずっとそう思っていたのに。


別れる時にも流さなかった私の涙は、止め処なく頬を伝った。

 

「仁さん、先生が!私、夢、見たんです。先生が苦しんでるの。

熱があって、うなされてるの、私を呼んでるの・・仁さん、先生は?

酷く悪いんですか?病院には?

瞳さん、ねえ!答えて。答えてください!!!」

 

 

 



「・・ってさ。可笑しかったぜ。ポニョの格好した着ぐるみが瞳を

掴まえて、わんわん泣いてんだ。でもよかったよ。朝になったらあいつ、

ポートランドに行くつもりだったらしい。

お前の故郷で子供と暮らしたかったって。

しかし世話の焼ける奴らだな。今度は操が貧血だとさ。

まあ、あいつも眠れなかったんだろうな。お前の事、想って」


「ごめん、仁。本当に、ごめん」


「やけに素直だな。よせよ、キモイぜ。

お前はいつもキリッとしてないとさ。

バーナード・シン・ワイズマン。お前は俺の自慢の弟なんだ。

秀才で、才能があって、勇気があって。

なあ、子供の時みたいに俺に何か命令しろよ」


「Really?じゃあエド、そこの靴取れよ」


「了解。それでいい」


「ばーか・・ハハ」


「どうしても外、行くのか?無理すんな、まだ病み上がりだぞ」


「いや。僕はあそこで待つよ。あそこで、操が上って来るのを

見たい。考えたら今まで、僕がずっと彼女を追いかけてたんだ。

僕の想いを告白し、操はそれを受け入れてくれた・・

いつもいつも彼女に甘えてた。彼女の優しさに、逞しさに、僕は

甘え過ぎてたんだ。だから僕はあそこで待つ。彼女が自分の足で

あの坂を上ってくるのを、

僕の元に帰って来るのを待ちたいんだ」

 

 



熱でうなされている間、僕は夢を見ていた。


ポートランドのアパートの部屋。

マムとグランマ、5歳のエドと僕。


いつになくマムは調子が良くて、エプロン姿でキッチンに立っていた。

マムの作ったカップケーキを、僕とエドは取り合いしながらそれを旨そう

に食べている。いつも怒っているグランマが何故かとても上機嫌で、

僕は頭を撫でられた。

 

『バーニー、愛しているよ。いつまでも此処にいてもいいけれど、

お前には行かなきゃ行けない所があるだろう?

ホラ、見てごらん。もうエドは行ったんだよ』


『あれ?エド・・エドはどこなの?

ね、グランマ!今、ここにいたのに!』


『バーニー。お前の居場所はここじゃない。お前には待ってる人が

いるんだ。そしてその人を、お前が幸せにしなきゃいけない。

それはお前にしか出来ない事なんだよ。

さ、早くお行き。そして、ずっと前だけを見て進みなさい』


『グランマ?どこ?マム?・・エド!!』

 

 

目覚めた時、僕の傍には萌がいた。

そしてその片手には、携帯が握られていた。

大声を上げた僕に驚き、振り向いた萌はこう言ったんだ。

 

「バーニー、見つかったって。操ちゃん」

 

 

 


4週間ぶりの外は、雲1つ無い快晴だった。

1月の風が少し頬に痛い。

少しまだふらつく足で、僕は坂の上に立った。

 

仁王立ちをして腕を組む僕を見て、

稽古場の窓から顔を出した皆が、口々に勝手な事を言った。

 

「まったく・・おい、お前は宮本武蔵か!

小次郎待ってるんじゃないぞ!バーニー、2ヶ月ぶりに恋人に逢うんだ。

もっと優しい格好して出迎えろよ」


「バーニーさん。その立ち姿、かっこいいっす!

あいつ、惚れ直しますよ!」


「副代表~!素敵~!頑張って~~!」

 


口笛を吹く奴、稽古場から転がり出て、タップを踏み出す奴・・

とにかく外野はうるさかった。

その気持ちが嬉しくて、僕は自然と口元が緩んでくる。

 

「よ~し、皆、集合!

今から劇団副代表 影山 信改め、バーナード・シン・ワイズマン君が、

NY仕込みのラブシーンを見せてくれる。

お前ら、よく見て今後の演技の参考にしろ!」


「演技じゃないよ、仁。僕はマジに本気だ。

僕は演出家であって、役者じゃないからね」

 

ワッハッハ!!ハハハハ!!

 

皆の笑い声が響き渡る。

苦笑いして振り向いたその時、君はやってきた。

 



坂の下で佇む君。


僕の姿を見つけると、慌てて急に走り出す。



「先生!!」


坂を駆け下りたい衝動を抑え、僕は大声で叫ぶ。

 

「ダメだ!操!転ぶよ。走らないで!ゆっくり歩いておいで。

僕は待ってるから。僕はずっとここにいるから・・」

 


頷く君の顔が少しづつ近くなる。

 

 

バカだな。泣いてるのか?

君は豪快に笑っているのが1番似合うのに。

 


ごめん。

君を泣かせたのは、僕だね。

君は僕のために自ら身を引いたのに。

僕が早く気付いてあげればよかったのに。

 

僕は、少し焦っていたのかも知れない。

日本に来て、仁と早く肩を並べたくて。

木島代表の期待に早く応えたくて。

 

もう僕は自分を偽らない。

そして僕は、前だけを向いて歩いていく。

 

僕は、僕だ。

アメリカ人、バーナード・シン・ワイズマンだ。

今頃になってやっと、はっきりそれが分った。

 


Liz・・



今の僕は、君にはどう映るだろうね。

今なら僕は、君に逢いに行けるよ。堂々と、君を抱き締める事さえ

出来る。そして、君の抱擁も受け入れられる。

やっと、本当の愛を見つけたから。

 

愛してくれてありがとう。

僕は・・ここで生きていくよ。

 



「先生・・ごめんなさい、私・・

ねぇ、待ってて。私、行くから。そこで、待っていて」

 



あと10歩。


僕の愛がやって来る。

 


7歩・・5歩・・・・・2歩。

 


そしてたった今、

 


僕は、未来を・・・抱き締めた。

 

 


‐‐‐‐‐

 

 


庭の花壇の鳳仙花がまた咲き出した朝。


僕は親になった。


仁は万歳と叫び、常さんは赤飯を炊き、

拓海は泣き、亜矢子マムは僕を抱き締めた。

 


Nice to meet you・・My Son, Edward.



よく来たね、僕の息子。


―  エドワード・ナオト・ワイズマン ―



君の名前は、ずっと・・

そう、きっとずっと前から決まっていたんだよ。

 

 


エドが生まれたその日。


“太王四神記”の再演が開幕した。

 



その初日の行列は、

 

あのキオスク前よりずっと先まで続いていた。
 

 


コラージュ、mike86


2009/06/13 00:33
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 18話 「張り詰めた糸」

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操が去って、1ヶ月。遂に千秋楽の日が・・・操は何処に。そしてバーニーは。


エンディングまで後、1話。よろしくお付き合い下さい~♪

 




千秋楽の朝、9時。


本多の長い歴史の中でも、

今回の舞台は1番の大入りになったという。


当日券を求める行列は更に長くなり、マチネは2時開演

だというのに、もう正面入り口に数十名の客が待っている。

受付担当の劇団員が心配して声を掛けたが、

「楽しみに待ってるから大丈夫です」と、逆にお土産まで

貰ってしまったそうだ。

 

木島はこの所、連日TV局に呼ばれっ放しだ。

韓国人気ドラマの舞台化にあたり、出演したインタビュー

番組の評判がとても良かったのがキッカケになり、両国の

相互交流をテーマにした討論番組や、初心者向けのタップ

講座のゲスト。海外の舞台中継の解説に、果てはプロ野球の

日韓交流戦のコメンテーター。

元来、人懐っこく穏やかな木島の性格はTV向きだったのか、

この調子だと新年の仮装大会の審査員にでも出演しそうな

勢いだった。

 

太陽の公演もまた、華やかなものだった。

主演俳優は本番の間を縫ってワイドショーの画面を賑わし、

演出の寺田への注目度は俄然高まった。

観客は連日大入り。立ち見席まで超一杯。

楽屋口には出待ち入り待ちのファン達が押しかける。

主演俳優が所属するグループの新曲発表の記者会見までもが

公演後の舞台で行われ、下北の街はこのひと月、祭りのよう

な賑わいだった。

 

そんな中、バーニーの作戦は静かに水面下で進行していた。

研究生達も操のために協力を惜しまなかった。

公演中の例の掛け声はもちろん、進んで太陽の動向を調査

し、楽屋から出てくる劇団員を酒に誘った。

 

多分Xデーは今日。

千秋楽の公演後だ。

 

あの日から1ヶ月。

あれ以来バーニーは操の名を口にしない。


毎日大声で皆を指揮し、

小さい修正点に厳しい口調で指示を出した。

観客には笑顔で接し、時には送り出しの時の記念写真にも

進んで応じているほどだった。

 

だが、俺には分かっていた。

あいつが、とても無理をしている事を。

心の中は乱れ、夜もろくに眠っていないという事を。


今、あいつの精神はきっと崩壊ギリギリの所で繋がっている。

 


「バーニー、少し休め。お前は疲れてる。無理するな」


「何?仁。もうすぐ客入れだよ、メイク終わってないじゃ

ないか」


「無理するなって言ってんだ。瞳も心配してる。

お前、瞳の作った弁当、毎日アキラにやってるだろう。

差し入れにも全然手つけないらしいじゃないか。

体がもたないぞ。ちゃんと食えよ」


「・・家で食べてるよ」


「お前。まさか、操が作った物しか食えないのか」


「いや、そういう訳じゃないけど、何かね。

胃が受け付けない」


「バーニー」


「あの部屋広いね、仁。広くて・・寒い。

ベッドも、1人だと眠れなくて。

でも全部今日で終わる。もうすぐだよ」


「もうすぐってお前。操の居場所まだ分らないんだろう?」


「うん。でもきっと遠くにはいないと思う。彼女は目的もなく

歩く人じゃない。何かあるはずなんだ。彼女が頼ろうとした

場所が。僕にはそれが分らないだけ」


「俺みたいにあいつの携帯にGPS付いてりゃなぁ・・

バーニー、前に操が言ってたんだ。“私達、惹かれあう運命

だった”って。俺もそう思う。お前の尖がった部分も、その

ガキみたいな部分も、操なら全部受け入れてくれる。

お前の本物の胡桃の一片は俺じゃない。操だったんだよ」


「・・か、な」

 


千秋楽は、物凄い熱気だった。

アンコールは7回も行われ、最後は緞帳を下ろさずに全キャ

ストが客席に下り、そのまま通路でのテーマ曲の大合唱に

なった。その興奮のまま送り出しが行われたので、観客も

キャストも感極まり、結局最後の客が外に出たのは1時間

以上も経ってからだった。


その送り出しの最中バーニーは劇場側に呼ばれ、

来年夏からの再演が早くも決定した。

 

それは、そんな感動的なフィナーレから2時間近く経って

からの事だった。

 

楽屋を訪問していた関係者も引き、打ち上げ会場に気持ちが

移る頃、大声で木島の名前を叫びながらその男はやってきた。


攻撃的なその声の主に、最初に応対した斉藤と村上が振り

払われ、その騒ぎに楽屋から飛び出した拓海とアキラが加わ

り、やっとその男をねじ伏せた。

 

「離せ!木島!!どういうつもりだ!お前だろう。

お前の指図か?」


大声で叫び、拳を振り上げて抵抗する男。

ふと動きを止めると、自分を押さえ込んでいる拓海の顔を

じっと見つめた。


「お前、操の?確かそうだ。前に1度・・」


「そうだ寺田。よくもその面を俺に見せられたな。

操がお前にどれだけ傷つけられたか!あいつが立ち直るのに

どれだけ掛かったか、分かってるのか!!」


「何を!!」


「拓海さん!警察呼びますかっ?!」


「当たり前だ!あ、110番より駅前交番の方が早い。走れ!」


「呼ばなくて結構です。話はすぐ済みますから」


「ワイズマン!!」
「バーニーさん!」

 

俺とバーニーは、真っ直ぐに寺田の前に歩いていった。

バーニーは落ち着いていた。怖いほどに。

背筋をすっと伸ばし、暴れる寺田を静かに見下ろしている。

俺は黙ってその弟の背中を見つめていた。

 

「あなたが寺田さんですね。

初めまして。影山信と申します」


「・・ワイズマン。貴様か?

木島に何を命じられた!お前ら一体!!」


「お話がよく分かりません。寺田さん、もう時間も遅い。

ここも出なければならない。生憎と木島は不在です。

本人は千秋楽に間に合うように戻りたかったようですが、

TVの収録がおしたらしくて。ですから、今現在“宇宙”の

責任者は私です。劇場には迷惑は掛けられない。

お話、伺いますよ。どこかに場所を移しましょう」


「俺の劇団員をどうした!何がどうなってるんだ!!

全員だ・・全員退団するとさっき、舞台が跳ねた後、俺に」


「全員、ですか?それは凄いな」


「ふざけるな!!お前達が劇団員に近づいてたってのは分か

ってるんだ!!若い男が入れ替わりに幹部を毎晩連れ出して

たって事もな。一体どういうつもりだ?!」


「寺田さん。あなたが願った通りになっただけじゃないですか。

あなたはメジャーになりたかった。演出家として名声が欲しか

った。今回の舞台は大成功だ。劇評も主演俳優の好演や、あな

たの演出を褒めている。今や木島と同じステージに立ったんだ。

これ以上何を望むんです?私は何もしていません。

ただ強いて言えばあなたの仲間を“応援”しただけです。

劇団や寺田演出はどうであれ、

君をきちんと見ている観客はいるんだよ、とね」


「貴様!・・そうか、操が消えたからって俺に復讐する気か!

操も操だ。あれだけ言っておいたのに戻ってきやしない。

木島の手の奴は、俺をどこまでバカにするんだ!」


「寺田さん。ホームグラウンドはいいものです。自分が自分で

居られる場所と仲間の存在。助け合って一緒に笑って。

だから頑張れるんです。あなたは人を見ていなかった。

周りの人間をただ利用していた。それが、あなたと我々の木島

との決定的な違いです。宇宙のボスは、木島直人は・・仲間で

ある僕達を、絶対裏切ったりしません」

 


毅然と言い放つバーニーは、体から静かなオーラを湛えていた。

興奮する寺田とは対照的に、抑えた声で相手を威圧している。

その姿は正に獲物を捕らえた“獅子”だった。

 

「寺田さん。これからですよ。あなたはこれから1人で歩いて

いくんだ。それは誰のせいでも誰のおかげでもない。あなた

自身の実力、それだけです。ここでこれ以上騒ぎを起こさない

方が賢明だと思いますよ。これからのあなたの未来に傷が付く。

それからもう1つだけ、あなたに言っておきたい事があります。


  僕は操と共に生きていきます


彼女は物じゃない。取引のカードに使ったり彼女の心を条件に

加えたり、そんな事は出来ないんです。

僕達は2人でしか生きられない。

僕達は2人居てこそ初めて1つの形になるんだ。

あなたにも僕の気持ちがいつか分る時が来ますよ。

・・僕はかつて、あなたでしたから」

 

「バーニー、もういい。すまなかったな。後は俺が話す」


「代表」

 

やっと収録が終わったのか。そこに木島が帰ってきた。

木島はバーニーの肩に手を置くと、ポンポンとそれを叩いた。

そして寺田の前に跪き、こう言った。

 

「雅之、俺だ。やっと逢えたな、卒業以来か」


「・・直人」


「もういいだろう。もう終わりだ。俺が悪かった、全部俺の

せいだ。お前の事を避けてた訳じゃない。若さだけのせいに

したくないが、俺も必死だったんだ」


「直人、それだけか!

俺の18年をそんな一言で片付けようっていうのか!」


「雅之、これだけは言わせてくれ。今回はウチの連中が動いた

のかも知れない。でもな、あのままのお前だったら、いずれに

しても結果は同じだったと思うよ。俺は1人じゃ何にも出来や

しない。仁やスタッフや、群舞の1人1人にまで、いつも助け

られてる。演出家 木島直人は、宇宙のほんの一部なんだよ。

それから・・頼む。これ以上この男を追い詰めないでくれ。

こいつは今まで散々苦しんできた。もう泣かせたくない。

こいつは大切な、俺の親友の弟なんだ」


「俺は?俺の事はどう思ってたんだ?直人!・・憎かった・・

どんどん離れてくお前が。財力も運も才能も全て持っているお前。

・・坂の上の“宇宙”は俺には空の上に見えて・・直人!!

俺は・・俺はお前が・・」

 

寺田の腕を取り立ち上がらせた木島は、その背中を押しながら

楽屋口へ消えていった。あれだけ暴れていた寺田が静かに木島

に連れられて行く。楽屋口に警察が着いたらしい。

木島の説明する声が、静かに聞こえてきた。

 


寺田は自分だけの世界で生きていたんだ。

ただ、木島の事を追いかけて。

ただ、木島の事が・・好きだったんだ。


木島に対する捻じ曲がった愛情。

俺や操やバーニーは、奴にとってどうでもよかったんだろう。
 

 

「バーニーさん!どうしたんすか?バーニーさん!!」


「え?おい!バーニー!!」

 


バーニーが倒れた。

 


木島達を見送って、ふっと息を吐いたその瞬間。

バーニーは、拓海の腕の中にふわりと倒れこんだ。

その体は燃える様に熱かった。

一体いつからこんな体で立っていたのか。

 

「バーニー!!おい、しっかりしろ!バーニー!!」

 

バーニーは微笑んでいた。

熱は体中を支配しているはずなのに、

顔は穏やかに微笑んでいた。


俺が抱き上げた時、荒い息の下でバーニーは静かに囁いた。

 


・・み、さお・・

 

 

‐‐‐‐‐

 


「来たのね~舞。ほら、お正月のご挨拶は何て言うんだっけ?」


「んーと。ばあば、あけましておめえとう」


「はい、おめでとう。よく言えました。

智明!瞳ちゃんと舞が来たわ!さ、上がって!

やっぱり仁は遅れてくるの?バーニーの熱は?」


「それがなかなか下がらなくて。もう2週間近くになるのに、

まだ9度に近い熱が続いてるんです。お医者様は体力の低下を

心配されてて、入院した方がいいって勧めて下さるんですけど、

バーニーはあの部屋から出ようとしなくて。

すみません、お義母さん。少しの間、舞をお願い出来ますか?

やっぱり明日にでもバーニーを入院させようと思うんです」


「そう・・あの子には辛すぎたのね、きっと。心のバランスが

崩れて体が悲鳴を上げてるのよ。家の事はいいのよ。

智明も私も、舞が来るのを待ってたんだから。それに今年はね、

家に園の給食室で働いてる人がいてくれるから。仁の部屋が空い

てるでしょ?年寄り2人にこの家は広すぎて、貸す事にしたの。

それが大ヒットなのよ!彼女、料理がすごく上手で・・

紹介するわ。実は彼女も下北沢の人なの。・・みさ子ちゃーん!

前に話したでしょう?嫁と孫が東京から。

あら?どこ行ったのかしら?さっきまでここにいたのに」

 

 

いつまでもここにいられないのは当然分かっていた。

ここは、影山さんの実家だ。

お正月になれば、影山さんも瞳さんも舞ちゃんだってやって

くる。先生本人だって来るだろう。


分かってたはずなのに、私はここから離れられなかった。

園長と、智明おじ様と、園の子供達。

家の中に感じる先生の微かな気配。

 

公演が終わるまで。

お正月が来るまで。


そう自分に言い聞かせていたのに。

 

さっき、キッチンの中で聞いた先生の具合。

まだ熱が下がらない?


千秋楽の夜、電話で話す園長の言葉に私は倒れそうに

なった。それは先生の誕生日。

2人でお祝いしようと、ずっと前に約束したその日。


影山さんからの電話は、無事に千秋楽を終えた報告なのだと

思っていた。真夜中、階下で話す園長の緊張した声。

途切れ途切れの会話の中の

「バーニーが倒れた」「高熱」の二言。

 

“どうかこれ以上、先生を苦しめないで下さい”

“先生を助けてください”


私は明け方まで窓辺で祈り続けた。

 

 
冬の海は深い鉛色だ。

この潮の香りにもすっかり慣れてしまった。

あの夜、舞ちゃんと鳳仙花で染めた爪は、

もう色も残っていない。

 

私は、どうしてここにいるのだろう。

心はあの坂の上に置いてきたのに。

 
あの時、ミニコミ誌で見つけた幼稚園の栄養士募集。

料理に自信はあるけれど、私は資格などもっていなかった。


・・どんな所だろう。


ただ、少し様子を見ようと園の前まで行った時、

園長は私に声を掛けてくれた。

 


『あら?あなた・・そうだわ!あなた前に東京でお逢い

したわよね!下北の、道案内して下さった。

お名前は確か、み・・』


『み?ええ、そうです。あの時の・・みさ子です』

 

私が手にしていたミニコミ誌を見つけると、

「もしかして応募?」と目を輝かせて喜んでくれた園長。

この人は本当に温かく微笑む人だ。

 

それからは、トントン拍子。

いや、あっと言う間に、園長の独壇場。


何故か私は、別れてきた恋人の実家で働く事になり、

おまけに住み込みの部屋は、恋人の兄が以前使っていた

部屋だ。こんなの絶対に変に決まってる!

 

瞳さんは今夜母屋に泊まるし、舞ちゃんはあの様子では

しばらくの間お泊りだ。今夜は職員室の長椅子で寝る事に

して、夜が明けたら荷物を取りに行かなければ。

明日、瞳さんが東京に帰った後、そっと出て行こう。

幸いお腹はまだ目立たないし、ほとんどつわりもない。

園長も同僚も、私の妊娠には気づいてはいないだろう。

 

私にはこの子がいる。

先生の・・先生と私の子供がいる。


この子さえいれば、私はどこの街にいっても生きて行け

そうな気がしていた。

 


誰もいない海。

夕日が水平線の向こうに消えていく。

夜の闇がもうそこまでやってきていた。

 

「この海をずーっと、ずーっと行ったら、

先生の故郷に着くのかな」

 


先生が孤独な心を抱えて暮らしたオレゴン、ポートランド。

 

写真でしか見た事のない街を想いながら、

私はそっとお腹に手を当てた。

 


 


コラージュ、mike86


2009/06/06 00:21
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 17話 「獅子の目覚め」

Photo

操を失って、地下の部屋で号泣するバーニー。

だが、太王四神記の公演はまだ始まったばかり。


翌日、操の過去の真実を知ったバーニーは・・

 




いつの間にか、ここに来てしまった。

 

両親を心配させたくなくて、田舎には行けなかった。

きっと拓海は連絡して私がいないと分かれば、両親には

何も言わないはずだ。2年半前の入院の時の母の涙を、

拓海は憶えているだろうから。


未婚で妊娠し、流産した私。

その相手の名前を私は最後まで言わなかった。


「こんな目に遭ってるのに、

あんたその人をかばうのかい!」


母はそう言ったけれど、私はもう寺田の顔も声も、

すべてを忘れたかったから。


強情な娘に呆れ、そして母は泣いた。

ベッドの中の私の髪を撫でながら、ただ泣いてくれた。


今、拓海と同じ劇団にいる私に両親は安心している。

拓海は私が不幸になるのを黙って見ているはずが無い。

それを両親は何よりもよく知っていた。

思えば私は昔から、年下の拓海に護られていたのかも

知れない。

 


今降りた駅は、何と言う駅だっただろう。

確かに東京駅で、この町の最寄り駅だと聞いてきたのだ

けれど、もう駅名を忘れてしまった。


どうしてここに来たのか私にもよく分からない。

ただ、財布の中に入っていた名刺を見つけ、

気づいたら電車に乗っていた。


先生の元を離れる決心をしたのに、私はここにいる。

少しでも先生の香りのする町に立っている。

ここは先生の故郷でも、住んでいた場所でもないのだ

けれど。

 

駅前のケーキ屋さん、商店街の大きな本屋さん。

あ、ここは確か、瞳さんの話に出てきた店だ。


舞ちゃんの好きなイチゴがいっぱい乗ったショートケーキ

があって、いつも影山さんはこの店の前を素通り出来ない

事とか、散歩中に本屋さんに立ち寄った、お義父さんと影山

さんと先生が、何時間も立ち読みしていて夕食時になっても

帰って来なかった事とか。

 

ここは、影山さんの実家がある町だった。

 

・・海が近いんだ。


整備された駅前を歩いていた私は、

微かに香る磯の香りを感じていた。

 

『小さい町だけどいい所よ。海は綺麗だし魚も美味しいし。

ね、いらっしゃる時には遠慮なく連絡してね。

本当よ、社交辞令なんかじゃなく』


そう言われた時は、まさかこんな形で来る事になるなんて

思いもしなかった。しかもたった1人、先生の元を去って。

 

幼稚園を経営しているという影山さんの実家。

御両親と影山さんの苗字が違うのは、

過去の悲しい愛の結果だと聞いた。

 

私達が婚約した日。

先生の報告に嬉しそうに、私に酒を注いでくれた影山さん。

 

『これからは俺の妹だ。研究生だからって遠慮するなよ。

そうだ、もう影山さんなんて呼ぶな。仁でいい、仁で。

俺も操って呼ぶから。そうか、一緒になるのか。嬉しいな。

俺に妹が出来る・・よし。今夜は飲むぞ~!

操が飲める奴でよかったよ。さ、グッと行け。

おいバーニー、何やってんだよ、今日はお前がホストだろ?

ほら、ここ、酒追加!』

 


あれはまだ夏の終わり。

狭い稽古場下の私達の部屋での深夜の宴会。

影山さんと瞳さん、眠っちゃった舞ちゃん。

萌さんと拓海、そして先生。

本当に楽しかったあの夜。


窓辺で煙草を吸う先生の横で見た、花壇の鳳仙花。

肩を寄せ合う私達の間に、酔った拓海がふざけて割り込み、

先生に私を頼むと泣いたあの夜。

 

永遠にあんな時が続くと思っていた。

尊敬する先輩達に囲まれて、先生の傍でいつも笑って。

 

今頃、先生は何をしているだろう。

昨夜、私がいなくなったあの部屋でちゃんと眠れただろうか。


馬鹿だ、私・・

自分で決めた事なのに、たった一日でもう先生を心配してる。


部屋に残した一行の言葉。

先生はあれを読んできっと怒ったかも知れない。

そして、何も告げずに去った私に失望したに違いない。

 

それでも私は護りたかった。


先生と、

先生に愛された証しを。

 

 

タムドクの出に合わせ、舞台袖から劇場外に出た私は

そのまま駅に向かった。


本多劇場から少し離れた新劇場。

寺田の劇団の公演が行われているその劇場の前には、

出演中の人気アイドル目当ての若者達が外まで溢れていた。

盛況な様子と、TVクルーまで待機していたその光景に、

私は少し救われた想いだった。


“どうかこのままこの公演が成功しますように”

“寺田が、もう変な妄想に囚われる事なく、

真っ直ぐ演出の道を進めますように”


駅前の混雑を抜け電車に乗った私は、

シートに深く沈み、静かに携帯の電源を落とした。

 


さて。

これからどうしよう。


準備は3週間もあったのに、結局やったのは部屋の荷物の

整理と当面の先生の食事の用意だけ。

しっかり者みたいに思われて、同期生の色んな相談事や

悩み事に答えていた私。

でも本当の私は、単純なただの大酒飲みだ。

 

駅前の安いビジネスホテルに今夜の宿は確保したけれど、

(昨夜はあの新宿のバッテングセンターの傍のマックで

一晩明かした)

いくら安くても一泊3800円。食事をしない訳にいかないから、

私の貯金なんてすぐ底をついてしまう。


固いベッドにあぐらを掻き、

フロントにあった地元のミニコミ誌をパラパラめくる。


「住み込みの仕事なんか無いわよね、そう簡単に。

え?・・ここ・・」

 

 
‐‐‐‐‐
 

 

「そこは王の玉座だ、庶民は座れないぞ。

もっとも俺だって本番中1度も座らないけどな」

 

操が消えた昨夜。

稽古場下のあの部屋で、バーニーは号泣した。

初めて知った愛する人の温もりを失い、

このままどうにかなるのではと思う程、バーニーは泣いた。


やがて俺と拓海の制止を振り切るように部屋を飛び出した

バーニーは、それきり連絡が取れなくなっていた。

 

やっとその姿を見つけたのは昼過ぎ。

公演中の劇場の舞台上だった。

楽屋入りしたアキラが、王の玉座に呆然と座るバーニーを

発見したのだ。

 

「今までどこにいた。部屋には帰らない、携帯には出ない。

どれだけ心配したと思ってる。心あたりには全部電話して、

お前の行きそうな所も当った。もしやと思って村上に下北劇場

まで行かせたんだぞ。ちょうど主演俳優の帰りと重なって、

ファンと報道陣でえらい騒ぎだったらしいけど・・

今まで捜してたのか、操を」


「新宿の」


「ん?」


「新宿のバッティングセンター、さっきまでそこにいた」


「バッティングセンター?」


「前に操と行ったんだ。楽しくて、ずっと笑ってた。

また行こうねって。今度は私、シュートも打てるようになるって。

他に・・思いつかなかった」


「バーニー」


「僕は操の過去を何も知らなかった。それでいいと思ってたし、

今でも思ってる。でも仁・・もう1度教えてくれないか。

操は何て言ってたんだ?あの舞台袖で、あの時」


「あぁ。急に別れるって言い出して、俺も驚いてよく憶えてないが、

確か・・“寺田はキレると何をするか分らない。私には護るものが

ある、だから仕方がない。私も同じ失敗は2度としない”

あ?そうだ。どういう意味なんだろう。同じ失敗って」

 

「仁さん!そう言ったんすか?操は。

“同じ失敗はしない”って?」


「拓海」

 

いつの間にか、舞台に拓海が立っていた。

 

拓海は昨夜家に帰らず、飛び出したバーニーの代わりに稽古場

下に残り、もしかしたらひょっこり帰ってくるかも知れない

操をずっと待っていた。2人を結びつけたのは自分だからと。

無断でバーニーの元を去った操を自分が叱るんだ、と。

 

拓海は、1つ息を吐くと、思い切った様に話し出した。

 

「バーニーさん。操は、流産した事があるんです。」


「流産?」


「すみません。こんな事、言わずに済んだらよかったんだけど。

・・操は、2年半前に寺田に腹のガキを殺されたんです。あの男、

操が妊娠してるの知らずにあいつを殴ったんです。気を失うまで。

俺が駆けつけた時には操、血溜りの中で倒れてました。

赤ん坊、2ヶ月になってなかったそうっす」


「殴った。操を、寺田が」


「暴力は前からあったらしいんだ。

でもその時、寺田は自分の売込みに便宜を図って貰うために、

操の体を使おうとした。裏切られたと思った操は逃げ、

激怒した寺田は・・だから、操が護るものがあるってそう言った

んなら。2度と同じ失敗はしないって、そう言ってたんなら・・

もしかしてあいつ、妊娠してるんじゃ・・あいつ、自分がバーニー

さんといればまた子供に危害が及ぶって思ったんじゃないかな。

いや、それよりバーニーさん自身を護りたかったんだと思います。

あいつは、自分の事より、相手の事を想う奴だから」

 

バーニーの顔が急に変わった。

ここ数年、俺が見ていなかったあの顔。


初めてNYで逢った時に、俺を見つめていたあの表情。

全ての感情が凍ってしまったような、冷たい目。

触れたら切れてしまいそうな、鋭利な眼差し。

 

「おい。バーニー」


やがてバーニーは、左の口角をほんの少し上げて何回か頷くと、

静かに立ち上がった。

 

「バカだな、操。僕は何があっても愛してるって、

あれほど言ったのに。きっと彼から昔の僕の事も聞いたんだね、

だからあんな事・・分った、全部繋がった。

心配掛けてゴメン。仁、僕は闘う。そして操を取り戻す」


「闘う?取り戻すって、お前」


「安心して、仁。僕は馬鹿なマネはしない。

拓海、教えてくれてありがとう。そうか・・もしそれが本当なら、

操はきっと大丈夫。彼女は健全で優しい人だから。

自分の体もお腹のbabyもきっと大事にしていてくれる。

仁、拓海。この公演絶対に成功させよう。

四神記が劇団の新しい代表作になるように。

そして今年度の演劇賞を、四神記が全部掻っ攫うくらいに。

彼には少し代償を払って貰うよ。操の仇を取る訳じゃないけれど、

やられっ放しは僕のポリシーに反するからね。

それには出来たら“太陽”内部から崩れてくれると助かるかな」

 


さっきまでの抱き締めてないと壊れてしまいそうなバーニーは、

もうどこにもいなかった。

自信に満ち、生気を取り戻した、大人の男がそこにいた。


その変化は驚くほど見事で、こいつのほうこそ役者に向いてるん

じゃないかと、本気で思ったくらいだ。


ハーバード出の奴の考えは、やっぱり俺には分らない。

 

そうだ。

バーニーも操も、そんなに簡単に別れられる訳がないんだ。

この数ヶ月、俺はこの2人をずっと傍で見てきたじゃないか。

 

こいつが味方で、弟で本当によかった。

こんなのを敵に廻したらとんでもなくやっかいだ。

・・俺なら、迷わず逃げるね。絶対に。

 


公演は、まだ2日目。


朝と昼過ぎのワイドショーは、昨日の初日の模様を両劇団共に

紹介した。初舞台のアイドルと、韓国での話題のドラマの舞台化。

映像付きでインタビューもばっちり入った太陽と、

簡単な紹介のみの宇宙。

扱いは9・1くらいの割りで向こうが有利だけど、

100メートル走のスタートのピストルは今、鳴ったばかりだ。

 

宇宙の“太王四神記”公演期間は、約1ヶ月。

太陽の“ロミジュリ”も当然同じ日程だ。


楽日は12月23日。


それは奇しくも、俺達2人の誕生日。

そしてバーニーの、いや、俺達の闘いが本気で始まった。

 

 

初日から1週間。


何やら口コミが客を呼んでいるらしく、日に日に観客が増えて

行った。前売りチケットはネットでもプレイガイドでも遂に

完売し、毎日の当日券の行列は、どんどん長くなる。

俺のファンと、ずっと宇宙を応援し続けてくれているご贔屓客。

そして俺達も驚いた今回の口コミ客の正体は、

熱烈なヨンジュン家族だった。


彼女達のネットワークは目を見張るほどに迅速だった。

ヨンジュンを感じる為だけにやってきた彼女達が、芝居の面白さと

初めて体験するタップのリズムに、体中で興奮していく。

目を輝かせて劇場を後にする彼女達。

その興奮冷めやらぬネットでの発言が、また次の家族を劇場に

足を運ばせた。

 

「バーニー、寺田に代償って実際に何やるんだ?

集客数で勝負って訳じゃないだろう?相手の役者は大手プロダク

ション所属だぞ。ファンクラブもあるしチケットは完全SOLD OUT。

大体、本多とあそこじゃキャパが違う。

俺達がいくら満席にしたって向こうは1回で500人は多く入る。

同じ公演回数じゃ勝ち目はないじゃないか」

 

本番前。

バーニーは毎日あの玉座に座っている。

長い足を組み、じっと前を向き、客席の後ろのドアをずっと

見つめている。操が現れるのを待っているのか。

だがその表情は、とても穏やかだった。

 

「集客数?そんなのどうでもいい。僕が言ってるのは、この公演が

終わった後さ。千秋楽、いや、もう少し後かも知れない。

断言してもいい。“太陽”は無くなるよ」


「無くなる?潰れるってことか!」


「少しニュアンスは違うかも知れないな。

でも少なくとも主要メンバーは退団するだろうね。

特に、創立当時からいる古いメンバーほど」


「・・お前、なにやった?」


「何もしてないさ。そう・・何もしてない。

ただ、研究生に協力してもらってはいるよ。

僕は顔知られてるから」


「協力?何が出来るってんだ、まだろくに何も出来ない

研究生に」


「声を掛けてもらってる」


「声?」


「今の太陽の公演。客の9割以上はあのアイドルのファンだ。

本来の太陽の客は殆どいない。寺田が劇団員にチケットを渡さ

なかったから。寺田は劇団員にこう言ったらしい。

“ノルマから開放されて嬉しいだろう。もう俺達はメジャーだ。

あくせくチケット売らなくても客は入ってくる”って。

そうだね、確かに楽だ。チケットが完売ならギャラだって出る。

だけど同時に彼らは自分を応援してくれていた客を失ったんだ。

それって、とても寂しい事だろう?


客の目は全部主演の2人に向けられている。

自分達はただのその他大勢だ。

いい芝居したって誰も自分達を知らないし、気づいてもくれない。

ボスの寺田は自分達の事など完全に無視している・・

そんな時アンコールで声掛けるんだ。

大勢のアイドルファンの声援の中、“影山!!”ってね。

研究生達の声は通る。彼らには聞こえるよ」


「そうか、心理戦だな。その拍手が自分に向けられたものじゃ

なくても、太陽以外でならやり直せると思うよな。

寺田の傍にいたら、いつまで経っても自分は捨て駒だ。

俺だったら公演中だって辞めるかもな」


「だよね」

 

平然と言い放つバーニーは少し笑っていた。

そしてその目は、舞台の上から遠い何かを見つめていた。

 

「代表なんだ。代表を見てて思った。

僕達が自由に好きな事が出来るのも、宇宙の為に頑張ろうって

思えるのも、代表がいつも僕達を信んじていてくれるからだ。

前に仁、言ったよね。

“代表は、山に登る時は懸命に励ましてくれるし、

船が沈む時には絶対一緒に沈んでくれる”って。

寺田には代表の様なそんなカリスマがない。

仲間がいない劇団じゃ、何にも出来ないのにね。

人が作るんだよ、すべては」

 


眠っていた孤独な“虎”が、

愛と仲間を得て雄雄しい“獅子”として目覚めた。

 

そのバーニーの姿を見て、

俺にはそんな言葉が浮かんできた。

 



 

コラージュ、mike86


2009/05/30 00:29
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 16話 「ごめんなさい」

Photo

冒頭は劇団による劇中劇。舞台上の芝居と舞台袖での操と仁。


そして・・物語とテサギの世界が、シンクロしていきます・・

 



君を捜しに来た・・あの人が呼んでいる。


せっかく捜してくれたのに悪いんだけどさ。

私の事は“見つからなかった”って伝えて。

スジニは居なかった、捜せなかったって。

戻れないんだ、私は傍にいちゃいけない。


一体どんな罪を犯したって言うんだ。

逃げなきゃいけないくらいな・・


罪?何もしてないよ。

これから罪を犯しそうだから逃げてるんだ。

私が傍にいたら、あの人が苦しむ事になる。


君は、あの人の恋人じゃないのか。


恋人?そうだね。来世で・・うん。来世でそうなれたら

いいな。神様にずっとお祈りを続けたら、そうなれる

かもね。逢えて嬉しかったよ、カンミ城主。

来世で逢おう。

 

 

 
「これが最後の着替えだから。

鎧の紐、全部しっかり結んでくれ。

ラストの群舞は俺ハードだから解けない様に頼むよ」


「はい」


「アキラの奴、カッコよすぎるな。

あれじゃ俺のファン全部持ってかれちまう」


「ふふ、仮面を着けた神秘の城主ですからね。

魔法が解けた後は、美男子じゃなくちゃ」


「アハ、違いない・・なぁ、聞いてもいいか。

婚約して今が一番幸せな時期だろう?なのにどうして

あんな目でバーニーを見るんだ。それとも俺の思い過しか?」

 


舞台上は、タムドクの元を去ったスジニを、チョロが捜し出

した場面だ。切ない片想いのチョロと、タムドクを想って身を

引いたスジニ。そしてこの後は、スジニのソロのバラードだ。


舞台はそろそろ終盤に差し掛かっていた。

これが最後の着替え。

最後に着る鎧の紐は後ろ縛りなので、

俺は舞台袖で、操に紐を結んでもらっていた。

 

「この着替えが終わったら、陛下は出ずっぱり。

もうお手伝いする事はないですね。

影山さんには話しておきます。私、劇団辞めます。

辞めて・・先生と別れます」


「何だって?!今、何て言った!」


「縛れません。動かないで。

もう少し、そのままでお願いします」


「おい、別れるって言ったのか?どうして、何があった!」


「ご存知ですよね“太陽”の寺田雅之。ずっと木島代表を

攻撃してた人です。私は寺田と関係がありました、2年半前

まで。裏切られて、傷ついて。私は寺田から逃げていた。

・・戻って来いと言うんです。私が先生と別れさえすれば、

もう劇団も代表も先生も、攻撃しないと」


「馬鹿な!そんな事!!」


「影山さん。声、大きいです」


「分かってる・・お前、本気で言ってるのか?

あの男がどんな男かは大方予想がつく。奴の木島への感情は

完全な逆恨みだ。支離滅裂なあんなくだらない中傷、木島も

俺も気にしてやしない。奴の言葉を信じるのか?お前が戻っ

た所で、あの男がそう簡単に・・おい、もしかして脅されて

るのか?何を言われたのか知らないが、この事とバーニーと

お前には何の関係も」

 

俺の言葉に操は寂しそうにふっと笑うと、小さく首を振った。

 

「あの人は、心のどっかが捻れてしまっていて、自分の事しか

信じられないんです。でも知らなかったとはいえ、そんな寺田

の隣にいた私にも罪はあったんですね。

だから・・罰も受けました。そして今度は私が傍にいる事で、

先生が攻撃される・・先生にもう傷ついて欲しくないんです。

自分では葬ったつもりの過去も、まだ心の奥では生きている。

思い出させたくないんです。笑っていて、欲しいんです。


影山さん。今、下北劇場のこけら落とし公演で、四神記と

同じこの時間に“太陽”が初日を開けています。

私、四神記の成功はもちろん信じているけど、それ以上に

寺田の舞台の成功を祈ってるんです。

だって、舞台が成功して演出家としての寺田の名声さえ上が

れば、もうネット攻撃なんて変な事しなくなると思うから。

寺田は名声が欲しくて焦っているだけなんです。

それでも私は約束しました、先生と別れると。

あの人はキレると何をするか分らない。私には護るものがある。

・・だからこれはもうどうしようもないんです」


「罪だと?そんなものあるか!

おい、バーニーは?あいつは知ってるのか!」


「まさか。先生にはこの3週間、笑顔で接してきましたから。

影山さん、先生を頼みます。偏食はだいぶ治したんですけど、

放っておくとまたジャンクフードばっかになるから。

あと、考え込むと煙草の量が増えるんで、注意してあげて下

さい。夜なかなか寝付けないから、話し相手にもなってあげて

ください。それから・・」


「バカ!自分だけで勝手に決めるな!舞台が終わるまで待て。

お前が居なくなったらバーニーはどうなるんだ。

不器用なあいつの心を抱き締めてやれるのは、お前だけだ!

それはお前だって分かってるだろうが!

俺が、いや俺と木島がなんとかする。フィナーレまで後、40分

くらいだ。終演後すぐ太陽の劇場に行こう。

話し合うんだ。木島とあの男も1度きちんとした方が、」

 

瞳の切ないバラードが劇場に響き渡る。

観客のすすり泣きがそこかしこから聞こえてきた。


そして、最後の紐を結び終わった操の手が

ふっと離れた。

 

「影山さん、心配いりません、私は寺田の元には戻らない。

別れると約束はしたけれど、それだけは出来ない。

・・私も“同じ失敗は、もう2度としない”

先生には今朝、心の中でさよならを言って来ました。

先生の好きな出し巻き卵と、塩鮭と豆腐とワカメのお味噌汁。

おいしいって、先生全部食べてくれた・・

フィナーレまで見て行きたかったけど、もう行きます。


・・私は、心から先生を愛しています。そして先生に愛された。

それは事実だから、絶対に消えない思い出だから。それだけで

私は生きていけます。瞳さんのソロ、もうすぐ終わりますね。

陛下、もうすぐ出番ですよ」


「おい、待ってろよ。終わるまでここで待ってろ!いいな!」

 

深々と俺に礼をすると操はにっこりと笑い、

袖から去って行った。

バーニーはどこにいるんだ!どこで舞台を見てる!

 

その時、一瞬照明が変わり音響ブースの中にいるバーニーが

微かに見えた。俺は堪らず舞監の村上の所に駆け寄った。

 

「音響ブースに内線繋げ、早く!」


「仁、出番すぐだぞ!」


「分かってる!!」

 

・・・バーニー、早く出ろ。

 

「はい音響」


「副代表出せ」


「は?」


「いいから代われ!!」


「何?仁、出トチリするよ。話なら後でだ」


「バーニー、急げ!みさ」


「仁!早く!!あと20秒も無い」


「なっ!くそっ!」

 

 

・・人は誰も間違いを犯す。そして過ちがあれば悔い改め、

無知から学んでいく。それが人間だ・・私は人間を信じる。

後世できっと誰かがチュシン国を築いてくれると信じている。

私は天に力を返そう。だからもう、大丈夫だ・・

 


エンディングの曲が静かに流れ出す。

俺は、舞台中央の光の中に真っ直ぐ進んでいった。

 

パチ。

パチ・・

パチ、パチ、パチパチパチパチ・・・


小さな拍手が、やがて大きな振動を伴って大きな拍手になり、

劇場を揺らした。


アンコールが鳴り止まない。


一旦降りた緞帳がまた上がり、コムルも火天会も太王軍も

ホゲ軍も、全員がステージに登場する。


そして、舞台中央の光の中から俺が現れると、

拍手は一層強くなった。

一旦静かになった客席に向かい、俺は叫ぶ。

 

「私が見えるか」


「「うぉー!」」


「私の声が聞こえるか!」


「「うぉー!」」


「遅れずについてまいれ・・私が“先頭で踊る!”」

 

戦闘シーンの音楽に乗った劇団員全員のラインタップ。

舞台前面で一列に並びタップを踏む宇宙名物のアンコール。

劇場中が1つになり、音楽が更にアップテンポに変わった時、

出演者、スタッフ、作、演出家が紹介された。

 

「・・チョロ、柴田アキラ! ヨン・ホゲ、緒方拓海!

スジニ、木村瞳! キハ、相原萌!!」


「そして、我らが王様。タムドク、影山仁!!」

 

割れんばかりの拍手の中、出演者全員が俺を囲んで右手で

胸を叩くポーズを取った。劇場内は笑いに包まれる。

そして、最後にバーニーが紹介された。

 

「最後は・・台本、演出! 影山信!!」


劇場センターの通路からバーニーが舞台に駆け上がってくる。

深く客席に向かい礼をするバーニーを、

観客はスタンディングオーベーションで迎えた。

 

「本日は、劇団“宇宙(そら)”本公演“太王四神記”に

お越しいただきましてありがとうございます。今回初めての

演出でしたが、本国韓国でも絶賛された作品の素晴らしさ、

その作品を完全に宇宙のものにした出演者達の頑張りに助け

られ、無事に初日を迎える事ができました。

それと、私事になりますが。僕を宇宙の仲間に迎えてくれた

兄に感謝の言葉を・・“仁、本当にありがとう”。

これからも木島代表の下、劇団員一同より一層精進してまい

ります。今後共、劇団宇宙をどうぞよろしくお願いいたし

ます。本日は本当に、ありがとうございました!!」


「「ありがとうございました!!!」」

 

バーニーの挨拶に、俺の胸は熱くなった。

最後に全員で礼をしている間、思わず涙が零れそうになった。


鳴り止まぬ拍手の中、緞帳が静かに下りて来る。

ざわめく客席。

ハイタッチでお疲れ様を言い合う劇団員。

緞帳の前で大きく溜息をつくバーニー。

放心したように佇むその姿に皆が声を掛けていく。

 


「副代表、お疲れ様でした。ありがとうございました!」


「最後の挨拶すごくよかったです。私、感動しちゃって」


「ありがとう。あれは昨夜、操が考えてくれ、て・・

あ、仁!お疲れ様」


「ああ、お疲れ。バーニー、あのな」


「ね、さっきから操の姿が見えないんだ。仁、見なかった?」


「彼女、もういないのか」


「うん。舞台の上から2階席の研究生達が見えたけど、

操、いなかったんだ。終わったらこっちに顔出すって言って

たのに。あ、瞳・・よかったよ、スジニのソロ。

ね?やっぱり明るく歌う方がよかっただろう?客はスジニの

立場もスジニの想いも、全部知ってるんだ。あの方がかえっ

て切なさが増す。上から見てたけど結構ハンカチで目頭押さ

えてた人がいたよ。僕もちょっと泣きそうになった」


「おい、ちょっと来い」


「何怒ってるんだ?仁は何故か4幕から少し感情に走ったね。

あそこは逆に落ち着いて静かに演じた方が、客には伝わるよ。

でも良い出来だった。初日としてはまずまず・・」


「いいから来いって!」


「仁?」


俺はバーニーを、舞台奥の装置の裏に引きずっていった。

興奮冷めやらなかった劇団員もぞろぞろと楽屋に帰って

行き、舞台上は急に静かになった。

 

「いいか、落ち着いて聞け。

バーニー、操はもうここにはいない」


「いない?いないって、どこか行ったのか?」


「お前、気がつかなかったのか。

最近の彼女、変じゃなかったか?」


「変?何が?別に変わった所なんかないよ。

いつも通り笑って、酒飲んで。そうだ、参ったよ。

昨夜も片付けしないからって僕はまた怒られ・・」

 


『んもう、またこんな所に置きっぱにする!部屋狭いんだ

から読み終わった本や雑誌はちゃんと片付けなきゃ。

ホラ、PCの下まで本だらけじゃない!几帳面なくせに自分

の周りは無頓着なんだから。でも本当に凄い量。ねぇこれ、

全部読んでるの?ハァ・・図書館開けるわね』


『今日、一日料理してたの。見て!冷凍庫にこんなにいっぱい。

これで公演中忙しくても、しばらくは大丈夫ね。

先生の好きな和風ロールキャベツでしょ、鯖の味噌煮にチキン

カレー。あ、でも鯖味噌はあんまり温め過ぎると固くなっちゃ

うかな、気をつけてね。先生、聞いてる?

それから駅前の八百新は金曜日にフルーツが2割引なの。

あと、パン屋さんは北口の・・』

 

 

「そういえば、どうして急にあんな事・・

それにいつも冷蔵庫にはあまり詰め込むなって。

いないって、どういう事だ?仁。

ここにいなけりゃ、どこにいるんだ」


「バーニー」


「・・何か、あったんだな。お前、知ってるのか」

 

そういえば昔、確かこんな場面があった。

胸倉を掴んで、お互いの目を睨みつけたあの時。

そうだ、あれはNY。あの時は俺がバーニーに詰め寄ったんだ。

“瞳をどうする気だ!”と。

 

「さっき内線に掛けた時だ。

俺は出番が迫ってて、止められなかった。

寺田と会ったらしいんだ。“お前と・・別れるって”

おい、待て!バーニー!!!」

 

腕を掴んだ俺を振り払い、バーニーは走り出した。

舞台から着替えや片付けでゴタゴタしている舞台裏を抜け、

真っ直ぐ楽屋口へ。

 

「待て、バーニー!おい、誰か。あいつを止めろ!

くっそ!どうしてこんなにきちんと縛ってあるんだ。

結び目、解けねえ・・あ、拓海。着替えたのか!」


「どうしたんすか、仁さん。

バーニーさんが今、凄い勢いで」


「家だ。きっとあいつは稽古場下に行った!

あいつを捕まえといてくれ。俺もすぐ行く!」


「いったい、何が」


「操が消えたんだ。バーニーと別れるって。

急げ!お前なら追いつく。

いくら毎日走ってても、バーニーはあの足だ」

 


最後まで聞かずに拓海は走り出した。

まだ顔中にべっとり血糊がついていたから、もしかした

ら途中でおまわりに捕まるかもしれない。

俺も急いで傍にいた劇団員に紐を解いてもらい、鎧を脱

ぎ捨てるとジャケットを引っ掛け、そのまま劇場を飛び

出した。

 


誰もいない稽古場。


電気が全部消された廊下に駆け込んだ俺は、

地下から聞こえる異様な声に耳を疑った。


「うわあああぁぁ~!!!」


声を荒げ、興奮するバーニー。

そのバーニーを必死に取り押さえている拓海。

 

こんなバーニーを俺は久しぶりに見た気がする。

いや、違う。

こんなに感情を露にしたバーニーを、俺は初めて見た。

 

「バーニーさん!バーニーさん!!操に何があったんすか?

落ち着いてください。もうすぐ仁さんが。あ、仁さん!」


「バーニー」


俺の呼びかけにバーニーの体は止まった。

振り向いたその顔は、怒りと悲しみに満ちていた。

 

「携帯通じないんだ・・着替えも、靴も無い。

どうして気がつかなかったんだ。いっぱいヒントがあった

のに。もう何週間も前からだ。やけに綺麗に部屋の整頓し

始めて、freezerの中は温めるだけの料理でいっぱいで。

笑顔で・・ずっと笑顔で・・

あぁ・・操から誘ってきた夜もあった」


「お前にこれ以上傷ついて欲しくないって。

辛かった過去を思い出して欲しくないって。

私には護るものがある、だから、どうしようもないんだ

って」


「護る?護るもの?違う!違うよ、操・・僕だよ、

君を護るのは、僕だ!嫌だ・・また1人に戻るのは嫌だ・・

もう、1人には・・・耐えられない」

 

 

点きっ放しのPC。開いていたワードの画面。

 
そこには一言、

 

「ごめんなさい」 と打たれていた。

 


コラージュ、mike86


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