2008/10/14 00:33
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 最終話 「永遠の約束」

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全19話。
劇団宇宙(そら)シリーズの第1部。いつか、あの光の中に」今日で完結です。

私のこんな妄想話、いかがだったでしょうか?
毎日お付き合い頂いて、本当にありがとうございます!

明日は、このお話のライナーノーツ(創作者後記)をUPしようと思っています。。
感想などコメント、または、ブロメにてお待ちしています。HNは、ebeで~す^^



 

「瞳!!あ~、ホントに瞳だ~!!もう、まったく

あんたって娘は・・いいんだよね。またココに帰っ

て来たんだよね。もう、歌えるんだよね!」

 


上京したその足で向かったのは、

私が一番行きたかった場所。

 

そこは・・下北の劇団稽古場。

 

私の顔を見るなり、バレエの練習をしていた


あいちゃんが猛烈な勢いで飛びついてきた。

 

「うん。そうだよ、あいちゃん。ごめんね、色々

心配かけて。先月のTV見たよ。私のこと、かばって

くれてありがと。ふふ、あのおかげで私の清純な

イメージ、崩れずにすんだよ。さすが親友」

 

「あんた、ちょっと喋んない間に性格変わった?

ハハハ、いい顔してるよ。

そうか。愛されてるんだね、仁さんに」

 

「うん、そうね。今は素直にそう言えるの。

彼はいつも私を見ていてくれる。今まで彼から貰った

いっぱいの愛に、私、これから応えていかなくちゃ。

私ね、今やりたいことがいっぱいあるの。なんか、

今なら何でも吸収できるような気がしてるんだ。

休んでる間に少し太っちゃったし、タップも本格的に

始めなきゃ。


・・・懐かしいな、この稽古場。

つい8ヶ月前なのに、もう何年も経った気がする。

私ね、彼に約束したの。

“もう逃げない”って。“何があっても一緒にいる”

って。そして“想いは言葉にして伝えよう”って」

 

「想いを言葉に。出来そうでなかなか出来ないよね。

特に私達日本人ってさ。そうか、瞳は想いと共に自分で

言葉を封印しちゃったから・・仁さんはずっと、瞳の声

で、瞳の想いを、聞きたかったんじゃないのかな。


静岡の御両親はどう?許してくれたんでしょ?

ううん、本当はとっくに仁さんの事、御両親は許して

たのよ。


教えてあげようか・・

病院でね、あんたがまだ意識が無かった時。

仁さん片時もあんたの傍から離れなかった。

2日も3日も一睡もしないであんたの手、ずっと握ってた。

その姿をね。御両親見ていらした・・頭では分かってた

んだと思うの。仁さんがどれほど瞳を愛しているのか、

瞳がどれほど仁さんを想っているのか。

意識を取り戻した時だって、他の誰の声にも反応しなか

ったのに、仁さんの声で瞳、目、覚ましたのよ。

あの時のお父様の顔・・あたし、忘れない・・


22で結婚なんて早い気もするけど、あんた達にとっては、

これで良かったのよ。

あ~ぁ。どっかに仁さんみたいに、いい男いないかな。

女としても、役者としても大きな愛で包んでくれるような

さ・・あたし今、彼氏いない暦8ヶ月なのよ~」

 

「8ヶ月?ウエストサイドの時?あの時別れたの?

・・知らなかった。誰?もしかして私の知ってる人?」

 

「当然。私たちには、そうそう新しい出逢いなんてない

でしょうが。あれ?仁さん、知ってたはずだけどな。

・・・・・・だよ」

 

「え~~~!!嘘!」

 

「あんたの鈍感は今に始まったことじゃないけどさ。

知らなかった?あの人と私、研究生時代からよ」

 

「だって、木島さんとじゃ・・私と仁さんより年の差」

 

「うん、15歳差。直人、去年離婚してるから、もう不倫

じゃなくなったんだけど。それが、直人ったら離婚した

とたん独占欲強くなってさ。初日開けたらプロポーズなん

かするもんだから、ひっぱたいたんだ。


“萌の事、ちゃんとしたいから離婚したんだ”って。


どう思う?だいたい私、そんな事頼んでないし。

直人と結婚したくて付き合ってたわけじゃないのに。

私の気持ちなんかまるで分かってないんだから・・

あ!言っとくけど、身体でアニタ取ったわけじゃないからね。

確かに、あの時の直人、私に夢中だったけど」

 


・・木島さんと??“直人”って~?

は~~参った!参りました~!

大人の世界は奥が深いわ・・・アハッ・・ハ、ハ

 

 

彼の故郷で過ごした、大切な時間。

即席の“ひとみせんせい”だった、あの優しい日々。

私達を暖かく包んでくれた幼稚園の子供達、

そしてお母さん達。

 

私達が上京する前日、園の皆は、それはそれは盛大な送別会

を開いてくれた。手作りのお握りとサンドウィッチ、唐揚げ

にポテトにジュース。


子供達は歌と、私が教えた縄跳びを披露してくれ、

お母さん達からは大きな花束と、私にはかわいいピアス。

仁さんには、サングラス。

 

話せない私を慕ってくれた子供達。

傷ついた私達の心をやさしく見守ってくれた、

温かい眼差し。

 


“1人で生きているんじゃないんだ”という事を教えて

くれたかけがえのない貴重な体験。

 

そのすべてに感謝して、私達はココに帰ってきた。

 


以前の計画通り(今度は新婚としてだけど)仁さんは

MIYUKIに越してきた。


驚いたことに常さんは、あの部屋を私達が住みやすいよう

にリフォームしてくれていた。

そして着いてすぐ生活できるようにと、すべて家財道具も

揃っていた。

 

私が入院中、そして退院してからも殆ど毎日メールのやり

取りをしていた仁さんと常さん。

 

「だって~~。電話かけて仁ちゃんの声聞いたらアタシ、

泣いちゃいそうだったんだもの。この甘い声が聞けない

日々はそりゃ、苦しかったわ~!ねぇ、アタシの耳元で

言ってみて。“好きだよ。常さん”って」

 

「バカ言え!いいかげんにしろ!!」

 

「キャ~~!!仁ちゃんの“生バカ言え”だわ~!

アタシ、コレが聞きたかったの~~」

 

「おい、瞳、アパート移ろう。ココは大家が気に入らない」

 

「仁ちゃん、そりゃないわよ~。

アタシ達トモダチじゃな~~い!そうだ!けんちん汁食べる?

昨夜仕込んどいたの。あんた達がいないと何も作る気しなくて、

久しぶりに作ったのよ。ヤル気が起きないもんだから、ランチ

のメニューも当たり障りのないもんばっかになっちゃって・・

あ、リフォーム代は気にしなくていいから。

仁ちゃんに、これから仕事で返してもらうわ。

だから・・ね、いい仕事しなさい。もう1人じゃないのよ、

あんたは。これはあんたの1番のファンからのお願いよ。

・・ファンクラブ第1号の称号はアタシよね」

 

「おい、いつ出来たんだ?そんなの。

ああ、ありがとう、素直に感謝するよ。友達、だからな」

 

「そうよ。友達の心は素直に受け取りなさい。

で、これはその友達の大家からの注文!ココの営業時間は

知ってるわね・・そう、深夜2時までです。

床も張替えはしたんだけど、なんせ元々が古いからね。

2階の夜の規則正しい振動が、モロに響くわけよ。

だからさ、ソノ時は少し気をつけ・・・」

 

「常さん!!」
「常さん!!」

 

 

新年が明けてまもなく、私は劇団に復帰した。

もちろん仁さんも一緒に。


事務所には、仁さんに本当に物凄い数の仕事のオファー

が舞い込んでいた。映画、プロデュース公演、単独タップ

ライブ、果てはバラエティー番組の話まで。

 

仁さんは少しずつだけれど、外の仕事も受け始めてた。

 

「俺の奥さんは恐いな。凄腕のマネージャーだ。

・・でも尻に敷かれるってのも案外悪くないな。

ハハ、昔の俺からは想像もつかないけど」

 

 

あの事件。

その瞬間はまだ記憶が曖昧。

 

憶えているのは、仁さんの顔だけ。

私を抱き締めて、「もう話すな・・」と言った時の

仁さんの顔だけ。

 


あの時の私は、不思議に落ち着いていた。

彼が無事だった事実。それだけで充分だった。

 


あの後、咲乃さんはどうなったんだろう?

仁さんも、木島さんも、常さんも、

私には何も教えてくれない。

 

「お前は知らなくていい」と仁さんは言うけれど、


私、咲乃さんを恨んでなんかいない。

むしろ今、あの人を理解できるような気がしている。

 


咲乃さんは、本気で彼を愛していたんだ。

きっと自分で考えていたよりも、もっと深く。

 


想う人に想われない。

その辛さは私には分かるから。

 

そして、そんな私を、仁さんは丸ごと愛してくれた。

 

「あなたに辛い想いをさせたのに?

自分の本当の想いに、なかなか気付かなかったのに?」

 

「あぁ・・今、ココに、俺の腕の中にお前がいる。

それだけで俺はいい」

 


悪い事ばかりじゃないね。

あんな事があったから、私達の絆はより強くなった。

 

 

首の傷は一生残るけれど、

私、この傷を隠したくはない。

背筋をピンと伸ばして、真っ直ぐ前を向いて、

堂々と歩いていく。

 

それが、あんな形ではあったけど、

気持ちを真っ直ぐにぶつけた咲乃さんに対する、

私の礼儀だと思うから。

 


“許してくれ”なんて言わない。

“彼を下さい”なんて言わない。

 

そんな事・・私が言われたくないもの。

 


そして、私はまたあの舞台へ戻っていった。

 


長かったブランクの期間。

その間、声を出さなかった事による音域の狭さ。

 

私はひたすら、5月のマリアの為にリハビリに励んだ。

 

不思議な事に、以前出なかった低い音が出るようになった。

高音は歌い込めば、ある程度早く戻るけれど、

音域が広がったことは嬉しい誤算。

だってこれで、ほぼ4オクターブになったんだから。

 


3月に入って、本格的にブロードウェイ公演に向けての

稽古が始まった。


久しぶりの本格的な稽古に、私は震えだした。

 

「どうしよう・・震えが止まらないの。

それに・・自信もないの」

 

「じゃ、またおまじないのキスするか?」

 

「あ、そうね、そうだった。

前にもそう言ってからかわれたんだ・・

そうよね。約束、忘れるところだった。 


“もう逃げない” “何があっても一緒にいる”


・・見ててね。

きっと私のマリア、成長してると思うの。

色んな事あったし、苦しい想いも越えてきたから。

今の私が演じる、今の私のマリア・・

それで、いいのかな。

 

ね、仁さん。


それで、いいんでしょ?」

 

 


春の柔らかな陽射しが、稽古場に入ってきた。

 

・・・あ、また春が来たんだ・・・

 

稽古場のフロアの感触。そっと手で撫でてみる。

 


“宇宙(そら)”に入団して、3年。

私はやっとここが自分の居場所だと実感できた。

 


稽古場のフロアのタップチップで削れた傷も、

踊る仲間の、飛び散る汗も、

木島代表の、興奮したダメだしも。

 


あぁ、私はこの一員なんだ。


・・幸せだな。

 

 

色んな出逢いや、様々な想い。

芝居をするって、簡単なことじゃない。

 

でも。


色んな事があっただけ、

役者としての私も大人になってきたんだ。

 


そんな私を、優しく見つめてくれる夫。

その存在があるから、私はまた高く羽ばたいて行ける。

 

 


私・・また歌ってもいいのよね。        あぁ・・俺も一緒だ。

 


ね、手を握っててくれる?           小さな手だな。

 


私がまた逃げないように。           約束したろ?

 


もう、前だけを見て歩き出せるように。    お前がいるから、               
                             
                               俺も歩き出せる。

 

 


“いつか”と約束した舞台が、もうそこまで来ている。


    その眩い光が、現実になる。

 

 

仁さん。                    瞳。

 


ありがとう。                  出逢えて良かった。

 


私を見つけてくれて、ありがとう。      どんなことも、

 

 

私を護ってくれて、ありがとう。       もう恐れはしない。

 


永遠に。                    永遠に。

 


そう、永遠に・・・・               命に代えても。

 

 

 


          「お前を、愛している・・」


          
                     「あなたを、愛しています」

            

 

                             
                     幕


 


2008/10/13 00:28
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 18話 「妖精の魔法」

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さて、遂に残りあと2話です。

事故の後、献身的な仁の介護で傷は癒えたものの、声が出なくなった瞳。
彼女の心の傷はかなり深そうです。夫としての仁の苦悩は続き・・
劇団には、破格の条件でのオファーが。
では、18話です。

 






木島からその連絡があったのは、

12月に入ってまもなくの事だった。


あいつは俺が受話器を取るや否や、

大声でこうまくし立てた。

 

「仁!俺だ。あのな・・いいか、落ち着いて聞け。

ニューヨークからオファーだ。

“ウエストサイドをオフ・ブロードウェイで”だと。

・・あぁ、本当だよ。ハハッ!おい、担いでなんか

いないさ。ドッキリでもないぜ。

仁。なぁ、俺、興奮してるんだ!楽の舞台見てたPDが、

ぜひにっていうんだぜ。

ニューヨーク、オフ・ブロードウェイ。

うゎお!信じられるか~!ま、当然っていえば当然か。

今年のベストミュージカル、新人賞、最優秀助演男優賞、

優秀演出家賞.総なめだ!見る人が見れば分かるんだよ。


でもな、仁。実はこの話には、オチがあるんだ、

バカ、話は最後まで聞けよ。それはだな・・

“瞳のマリア”が条件なんだ。

“瞳のマリア”“仁のベルナルド”

キャストは、いじるなってさ。どうする?・・あぁ・・

分かってるさ!あっちも事件の事は知ってる。

それを分かった上でのオファーだぜ!・・あぁ、でも

瞳の声の事はオフレコだったろ?あぁ・・おい、バカ!

こんな話もう2度とないぞ!お前だって分かってるだろ!!

うん・・うん、5月だ。何とかならないか?・・・おう、

待ってるぞ。じゃあな」

 

 

あいつ。興奮しやがって。

無理もない。

ニューヨーク進出は俺と出逢った時からの、

あいつの口癖だ。

 

『いつか、俺たちの舞台を本場の奴らに魅せつけて

やろうぜ!その時は、仁。お前の助けが、お前の

ダンスが必要なんだよ。一緒にやらないか?

お前のその長い手足、俺に預けてくれ、な?』

 

思えば、俺たちの出逢いはそこだったんだ。

あいつの目の輝きと“コイツは信じられる”という

不思議な確信。


気がつけば、がんじがらめに殻に閉じこもっていた

俺は、今までの事を全部話していた。屋台で泣きながら

話す俺の話を、木島は頷きながら聞いてくれた。

 

その、途方も無い夢は

俺と木島、両方の夢でもあったんだ。

 


5月。ニューヨーク、ブロードウェイ。


すべては、瞳の声次第、か。

 


一次的だと思っていた、瞳の症状。

退院してから、もう半年。

医者も首を傾げるばかりだ。

 


『今回の検査の結果、事件のショック状態からは、

ほぼ回復しているようですね。ご主人も大変献身的に

診ておられる。精神的にとても安定してきました。

でもまだ声が出ない・・影山さん。もしかしたら、奥さん

の心の中に“自分の声さえ出なければ、すべてうまくいく

と思える何か”があるんじゃないですか?

たぶん、御自分でも自覚してらっしゃらないと思うんです。

今が、お幸せなら尚更だ。

何かを護っているのかも知れないですね、無意識に。

・・一番、失いたくない物を』

 

 

子供達と楽しそうに笑う瞳。

声が出ない分、体と心で子供と会話している。


子供は正直だ。

自分に真っ直ぐ向かってきてくれる大人は、

素直に受け止める。

たとえ、話せなくとも。

 

 

あの日からお前はまだ護っているのか。

俺のことを。

目の前で失いかけた、

俺のことを。

 

お前が悪いんじゃない。

護らなきゃいけないのは・・俺の方なのに。

 


俺は園庭に降りると、たまらずに瞳を抱き締めた。

突然の俺の行動に、瞳は驚いて俺を見上げる。

 


「ああー!!じんせんせい。ひとみせんせいに、

だきついてるー!ラーブ、ラブ♪、ラーブ、ラブ♪

いーけないんだ~」

 

「お!妬いてるな?悔しかったら早くオトナになれ!

いいんだ、先生たちは夫婦だから」

 

「まったく、今どきのオトナはこれだからこまるよ。

そういうのはね、せんせい。テレビにでるひとたちが、

テレビの中でやるもんなの!おとななのにしらないの?

せんせいは、今はテレビにでるひとじゃないんでしょ?

・・あ、そうだ!ねえ、せんせいきいてよ。

ウチのパパとママさ、きのうお布団の中で、チューしてた!

ぼく、みちゃったんだ」

 

「ええっー!健太のママたちもラブラブ?

そりゃ、じけんですよー、健太くん!」

 


その場にいた大人たち、腹を抱えて大笑いした。

だが、こんな場面で、瞳の笑い声は聞こえない。

思わず抱き締めた俺の腕の中で、身をよじって

笑っているのに・・

 

「瞳」

 

俺の大きな笑い声は、いつしか涙声になっていた。

 

何をまだ護っている?

俺はこんなにもお前を愛している。

俺がどこへも行かないことは、

お前にも分かっているだろうに。

 

 


俺が大きく動くたびに、切なく顔を歪ませる瞳。

ありったけの想いを込めて、俺のすべてを注ぎ込む。


その瞼から流れているのは、悦びの涙じゃないのか。

その甘い吐息は、俺を感じているからじゃないのか。


声を・・

声を聞かせてくれ。

 

俺を、


“愛している”と、言ってくれ・・

 

 

 

 

 

その夜、私は夢を見た。


そこは、劇団の稽古場。

 

大鏡の前で電気も点けずに、彼が1人でタップを

踏んでいる。心なしかうつむき加減の彼は、段々と

激しいステップを刻み出す。

額に光る汗。

タップチップの乾いた音が、稽古場に響いていく。

 


「ねえ、その曲、初めて聴いたわ。新しいナンバー?」

 


私の質問が聞こえなかったのか。


彼はただ、黙々と踊り続ける。

 

「ね、仁さん。あのね、私の稽古も見て欲しいの。

今度はあなたと恋人役ですって。ふふ・・代表ったらね、

ニヤニヤ笑ってこう言うのよ。“瞳を誰にも触らせるなって

仁がうるさいんだ”って・・ね、聞いてる?仁、さん?」

 

 


いつの間にか踊るのを止め、鏡の前に立ち尽くす彼。

 


彼は・・・泣いていた。

手が白くなるほど固く拳を握り締め、

肩を震わせて。

まっすぐ前を向いて、流れ落ちる涙もそのままに。

 


そして、一言、“アァーーー!!!”と叫ぶと、

長い髪を振り払い、

また・・踊り出す。

 

 

それは、


“夏の夜の夢”で私に振ってくれた、

あの難解なステップだった。

 

 


「仁さん・・」

 

 

あぁ、彼は傷ついている。


こんなにも。


こんなにも・・私は彼を、傷つけた?

 

「そうよ、お姉さん。お兄ちゃんは傷ついてる。

  あなたを心から愛してるから」

 

 

「・・誰?」


「私はずっとお姉さんを見てたわ。あなたならお兄ちゃん

を助けてくれると思った。私を亡くして、心も無くして

しまったお兄ちゃんを、また歩かせてくれたのは、お姉さん

じゃない・・タップはキッカケに過ぎなかったのよ」


「えっ?」

 

振り向くとそこには、

長い髪をゆるく三つ編みにしたダンサーがいた。

長い足をバーの上に乗せ、ストレッチをしている。

 

「あの、お兄ちゃんって・・・あなた美、雪・・さん?」

 

「そう、美雪です。初めまして・・って感じしないわ。

お姉さんには、美雪が見える?」

 

「ええ、見える、見えるわ。不思議・・幽霊さん、よね?

私、こういうの苦手なのに・・ちっとも怖くない。

ううん、逢えて嬉しい。私もあなたに逢いたかったの。

逢って、話がしたかった。仁さんが愛した人だから。

・・でも、お姉さんだなんて。私の方が年下なのに」

 

「生きてればね。美雪は18のままだもん。

それにあなたは、美雪の兄嫁でしょ?・・美雪ね、ずっと

お兄ちゃんの傍にいたの。美雪のことで苦しんでるお兄ちゃ

んをずっと見てた。色んな女と付き合ってたけど、心はから

っぽのままだったよ。でもね・・少し嬉しくもあったんだ。

本当は」

 

「うん。分かるような気がするわ。なんとなく」

 

「10年。長いよね。30台も半ばになっちゃって。

そして瞳さん、あなたに出逢った。初めはね、美雪に

似てるって思ったのよ、お兄ちゃん、あなたの事」


「え?・・似てる・・かしら、私たち」


「ううん、全然似てない。ハハ!バカでしょ?

それが“一目惚れ”だったのにね。

理屈じゃないのよ。お兄ちゃんがあなたを好きになった

のは。運命?そんな簡単な言葉で言い切れないな・・

うーん、きっとあなたは欠けていたお兄ちゃんの一部

だったんだよ。心がそれを感じて離れられなかったんだ。

それなのに自分の気持ち認めようとしないで、あなたが

幸せならそれでいいって・・自分は恋なんかしちゃいけ

ないと思ってたんだ。しかも自分は14も上だし。

・・・そ、ホント、バカ」

 

「美雪さん・・ごめんなさい、

私・・もしかしたらあなたが彼と結婚」

 

「ん、お姉さんもバカだね。違うよ。

美雪はやっぱり妹でしかなかったんだ。あのまま生きてても、

きっとね。あの人はそういう人だから。

美雪の知ってる、美雪の愛した“稲垣 仁”って奴はさ。

頑固で融通が利かなくて・・ねぇ、前にお姉さんが美雪に

言った言葉、憶えてる?」

 

「えっ?」


「“梅と鮭~”の朝だよ」


「・・やだ・・いたの?・・あそこに」

 

「うん、いたいた。お兄ちゃんの幸せそうな顔、思い出すよ。

あの時、お姉さん言ったよね。

“あなたがやりたかった事、あなたが欲しかったもの、

私に叶えさせて”って」

 

「・・・・」

 

「そして、こうも言ったよ。

“いつか、私と一緒にあの舞台へ立とう。

あの、眩しい光の中に”って」

 

「美雪さん」

 

「お姉さんが喋らないのは何故?お兄ちゃんを護るため?

違う、違うよ!そうじゃないよ、逃げてちゃだめじゃん!

自分が話せさえしなければ、歌いさえしなければ、何も

起きなかったのにってそう思ってるんでしょ!!

違う!お兄ちゃんはそんな事望んでない!!

さっき見たでしょ?あなたを傷つけた事で、あなたの声を

聞けない事で、あんなに傷ついてる。

お姉さんには、あの女神の声があるんだよ。

お兄ちゃんだけじゃなくて、皆も幸せにしてくれる

あの素敵な声が・・」

 

「だって私・・いいの?・・また舞台に立っても?

私、また歌っても・・いいの?」

 

「当たり前じゃない!あの咲乃だって、そんなこと望んで

ないよ・・あの人ね、本当はそんなに悪い人じゃないんだ。

あの2人がお互いを支えにしていた・・そんな時期も確かに

あった訳だし。あの人頭のいい人だけど計算が狂ったんだね。

こんな筈じゃなかったんだよ。こんなにお兄ちゃんを愛し

ちゃうなんてきっと思ってなかったんだ。

男と女ってそう都合よくはいかないんだね・・

おっと、コレ、女子高生の台詞じゃないよね。

へへ、美雪には見えなくていいものまで見えちゃうから。


さぁ早く、お兄ちゃんを喜ばせてあげなきゃ。

さっきだって、お姉さんが声出さないから、凹んでたよ。

“あんなに泣かせたのに”って」

 

「やだ!もう!美雪さん、ってば!」

 

「ヘヘへ。乙女のまま死んだ妹の焼きもちだよ。

許しなさい」


「ふふふ」

「ハハハ」

 

「さて、これで、やっと美雪もココから離れられるかな。

大丈夫だよ。あの影山 仁はお姉さんしか見てないから。

不器用なんだ、あの人は。

お兄ちゃんはね、お姉さんそのものも愛してるけど、

“役者としての木村 瞳”の大ファンなんだ。

どんな想いで“木村瞳”を育てたか、舞台の袖でどんな顔

して見ていたか、知らないでしょ?

そうだ!お姉さん、美雪も連れてってよ。ニューヨーク!

いいなあ~舞台人の憧れだもん。お姉さんのマリア・・

あぁ目に浮かぶよ。見せてね。きっとよ。約束!ね?」


「う、ん・・・・・うん」

 

 

 


その朝、私はすっきり目が覚めた。

まるで何年も眠っていたかのように。

こんな目覚めは何時以来だろう。

この部屋、こんなに明るかったっけ。

 

 


あ・・・仁さんの寝顔。


どうしてだろう。毎日見てたはずなのに、

今朝は違う顔みたい。


そっと頬に手を触れると、

温もりを感じて仁さんはふわっと目を開けた。

 


「あ。瞳、起きたのか?」

「うん、おはよう。仁さん」

 

「あぁ、おは・・・・・・・・え・・今、なん・・」


「だ、か、ら。おはよう、仁さん」

 

「そうじゃなくて・・瞳・・・声が・・・」


「うん、そうみたい。夢の中でね、妖精が治してくれたんだ。

・・辛子の種かな?」

 

「おい、どうして急に?」

 

「その妖精が言ってたの。昨夜のあなたは、

私が声出さないから凹んでたって。そうなの?」

 

「あぁ・・そうさ。あぁ、そうだよ。

お前・・瞳・・バカ・・・・バカやろう・・」

 

仁さんは大粒の涙と一緒に、折れるくらい私を抱き締めた。

 

 


私はきっと今まで、長い夢を見ていたんだ。

あんな事があってから、

ここで、仁さんと子供達と幸せだと思っていたけれど。

 

 

この人は、きっと私のそんな姿を望んではいない。

あの板の上が、あの光の中が、

本当の私たちの生きていく場所なんだよね。

 


「ねぇ、仁さん。私、何か生まれ変わった気分なの。

これからはもっと正直に生きる。あなたのことも、舞台のことも。

ふふ、もしかしたら、前より性格悪くなっちゃうかもよ。

・・・ね、キスしていい?今はね・・・あなたのキスが欲しい」

 

 


もう、怖がらない。

いつでもこの腕はここにあるから。

 

もう、

何があっても大丈夫。

 


気が遠くなるくらいの、仁さんの長いキス。

初めて自分から求めて、自分から応えた。

 


ごめんね、美雪さん。

そして、ありがとう。

 

 

“ねぇ・・また、そこで見てるの?”

 

“えへへへ・・お姉さん、ごちそうさま~~”

 

 


眩しい朝の光の中に、美雪さんの笑い声が、

 

遠くで聞こえた気がした。

 



2008/10/12 01:26
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いつか、あの光の中に 17話 「穏やかな日々」 

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昨日の事件。瞳、痛そうでしたね(そこかい!)
舞台のトラブルを無事、瞳の機転で乗り切ったと思ったら、
あの事件・・すいません。確信犯な私です^^

さて、今回は舞台が移ります。
あの事件の後、瞳はどうなったのでしょうか。
最終話まで後3話。仁と瞳のそれからを一緒に見守ってくださいね。

 



「ひとみせんせい、あーそーぼ」


「ひとみせんせい、ブランコおしてー!」


「もう!ぼくが先だよ~!」

 

 

子供達の楽しそうな笑い声が園庭に響く。


追いかけっこをする子、砂場で泥遊びに夢中な子、

そして、

瞳とブランコで遊ぶ子・・・

 

 

あの事件から7ヶ月。

俺と瞳は、俺の実家の幼稚園にいた。

 

子供達と一緒に遊ぶ瞳を、

母屋の2階の窓から見下ろす。

楽しそうに遊ぶその笑顔は以前とまるで変わらない。

 

 

「瞳、元気そうじゃないか。退院してもう5ヶ月だろ?

事件のことは大変だったが、もう終わった事だ。

マスコミも瞳には好意的だし・・咲乃、この間面会して

きた。ハハ、久しぶりに咲乃のスッピン見たよ。

それで昔のあいつ、思い出した。

あいつ、よく言ってたよな。

“恋愛より、芝居!恋は舞台の上でも出来る。

・・でも今は歌わなきゃ、今は踊らなきゃ”って。


初めは“愛”じゃなかったんだろうな、咲乃もさ。

お前はあいつにとっても都合のいい男だったんだ。

瞳が現れてお前が去っていって・・

やっと気付いたんだろ?自分の本当の気持ちに。

だってお前が本気で女に惚れるなんて、

誰が想像出来る?焦ったんだな。しかも相手は瞳だ。

女優魂にも火がついたんだろう。その結果が・・・


お前。咲乃を憎んでないだろ?いや、お前はそういう

奴だよ。あぁ。そうだ、斉藤が面会に来てたよ。

俺と入れ違いにな」

 

「・・そうか」

 

「あの楽の夜。まだ瞳の意識がなくて、生死の境を

彷徨ってた時。病院のお前の所に、斉藤が頭下げに

来たよな・・ただ黙って、真っ直ぐお前の所へ。

ピンスポの件に、奴が絡んでたってのはもう伝わって

たし。お前、どうするのかと思ったら、思いきり奴を

殴りやがった。マジ焦ったぜ、この上お前まで警察沙汰

じゃ洒落にならねえ。

あの時のお前の目・・俺は忘れられないよ。

ただ一発殴って、お前は瞳のところに戻っていった。

あの後、奴、俺に辞めるって言ってきたんだ。

自分だけが咲乃を止められた。お前に殴られたのは

当然だって。


あいつさ、本気で咲乃に惚れてるよ。

出てくるまで待ってるって。嫌だと言われてもずっと

咲乃の傍にいるんだって。

いい目をしてた。あの男ならきっと・・

な?そう思わないか?

おい。奴、辞めさせなかったぞ。いいよな。


お前も随分叩かれたけど、今や事務所は、仁への

オファーで溢れてるよ。

やっと“影山 仁”がメジャーになったってのに。

仁。どうなんだ?復帰、まだ無理なのか?」

 

「木島。相原から聞いてるだろ?

あいつがどんなだか」


「まだなのか。お前にも?」

 

「体は、もうすっかりいいんだ。

俺とも愛し合ってるし。ただ・・・・声が出ない」

 

「医者はなんて言ってるんだ」

 

「何の問題もないって。運よく危険な箇所は外れ

てたし、怪我も完治してるからって。

声帯も綺麗らしい。精神的なものだそうだ。

声を出す機能には何の問題もないんだから」

 

「まったく、こんなことになるなんてな。

“ウエストサイド”今年のベストミユージカルに

ノミネートされたんだ。来週正式発表だって、さっき

事務所に連絡があった。お前や俺も個人賞候補。

瞳も新人賞候補に上がってる。そうか・・まだそんな

段階なのか。早く女神の歌声が聞きたいんだけどな」

 

「すまない。もう少し待ってくれ。

俺もまだあいつの傍を離れられない。

俺の姿が見えないと震え出すんだ。

今は、こうして顔出してるから平気なんだよ」


「あの元気な瞳が?」

 

「先週、籍入れたんだ。こんな形で一緒になる筈

じゃなかったんだけどさ。まだ治療に時間かかるし、

瞳の実家には迷惑かけられない。

結構現実的だよな結婚って」

 

「聞いたよ。さっき、階下で親父さんに会った。

いい親父さんだな。瞳の事も実の娘みたいに・・

ともかく、おめでとう。

静岡の瞳の御両親は?まだ反対してるのか」

 

「ああ、俺のせいだからな。瞳がこうなったのは。

反対されるのは当然だよ。何度でも頭下げに行くさ。

・・俺が護るはずだった。俺が護らなきゃいけなかっ

たのに、実際は俺が瞳に護られてる。

事件のこともそうだが、あの笑顔がさ。

落ち込んでる俺をまた元気にしてくれるんだよ。

“仁さん、私は大丈夫。元気出して!”って。

今度は俺の番なんだ。

今度こそあいつを俺が護るんだ。


・・ん?どうした?大丈夫だよ!分かった、今行く。

木島、悪いな。あいつが呼んでるから。


なぁ木島。俺、時々思うんだ。

こんな暮らしも、結構俺達に合ってるんじゃないか

って。あんな厳しい世界より、子供達と遊んで、

俺も今度は片手間じゃなくちゃんと雑誌の仕事して。

・・睨むなよ。冗談だよ、悪かった」

 

「分かってりゃいい。邪魔したな。

あぁそうだ、おい!その髪。本気で堅気になる訳

じゃないだろ?青春スターにイメチェンか?

今度来る時までに戻しとけよ。トレードマークだろ、

お前のあの、むさ苦しい頭は。

・・じゃあな。また来るわ」


「あぁ、気をつけて・・・・・・あ、木島!」


「ん?」

 

「いや。雄介に“すまなかった”って伝えてくれ。

・・それから咲乃に“俺が悪かった”って」

 

「雄介?あぁ、斉藤な。本気のお前のあのパンチ。

俺は勘弁願うぜ。間違ってもお前を本気で怒らせない

ようにしないと。俺はまだ死にたくねえからな・・

ハハ、どっちも了解だ。瞳、大事にしてやれ。

俺がまた、咲乃のスッピン面、見に行って来るから」

 

「あぁ。ありがとう・・」

 

園庭に降りると、

瞳は俺の方に真っ直ぐに駆け寄ってきた。

 

「ごめんよ。木島が来てたんだ。分かるだろ?」

 

俺の顔を見て安心したのか、瞳はにっこりと笑うと、

また子供達の輪の中に入っていく。

 


瞳があの事件で傷ついたのは、

体よりむしろ心の方だった。

あの瞬間のことも、自分がどう行動したのかも

未だによく思い出せないらしい。

 

俺を護るため、咲乃の前に飛び出した瞳。

 

緊急に行われた手術は、時間は掛かったものの

無事に成功した。

出血の激しかった瞳に、劇団員はもちろん、

出待ちをしていた俺や拓海のファンも、輸血に協力

してくれた。処置がもう少し遅れていたら、本当に

危なかったらしい。

 

問題は、意識がなかなか戻らなかった事だ。

3日間、瞳は眠ったままだった。

そして、目を覚ました時には

・・声は失われていた。

 

咲乃は警察に連行され、しばらくマスコミは俺との

関係や例の監督とのトラブルを面白おかしく書き立て

ていたが、今は10代のトップアイドルの妊娠結婚報道

で沸き返っている。

芸能界はいつまでも1つの事件に関わっているほど、

暇ではないのだ。

 

知らせを受けて上京した瞳の両親は、

喉に包帯を巻き、

意識のない娘の姿に愕然としていた。


瞳が家を出てから4年。

やっと新聞や雑誌に娘の名前を見つけ、

喜んでいた矢先だったのに。

 

突然現れた娘の男。

14歳も年上の、しかもその男の過去のため

刺された娘。

そしてその娘は、声を失う程に傷ついている。


結婚を反対されるのも当然だった。

 

退院後、両親は瞳を引き取ろうとしたが、

瞳は頑として俺から離れなかった。

涙を流しながら、俺と暮らすと筆談で訴えた。

無理矢理引き離そうとすると、

・・発作のような震えが襲った。

 

分かってもらえるまで待とうと思った。

時間が掛かっても、祝福してもらえるまで。

 

だが、現実は待ってくれない。

入院費、手術代、リハビリ、カウンセリング。

 

金の問題だけじゃない。

できれば“影山 瞳”のほうが治療に都合もいい。

 

それに俺は“夫”という立場で、瞳を看護したかった。

今度こそ、瞳を俺が護っていたかった。

 

両親の許しを待たずに俺は決断した。

それが良かったことなのか、俺自身も未だ分からない。

籍を入れたことで、瞳の症状は落ち着いてきたが・・

 


それにしても何故?

何故、声が出ない。

 

俺のせいか?

俺がまだお前の心の何かを傷つけているのか。

 

 

 

お迎えの時間になり、

子供達はそれぞれの親と一緒に帰っていく。

 

「ひとみせんせい、じんせんせい、さようなら」


「おう、さようなら。気をつけて帰るんだぞ。

あ、健太のお母さん。今日健太、少し咳してたんで、

暖かくして早く寝かせてやって下さい。

明日、仁先生とサッカーするんだもんな。早く治せ」

 

「うん、わかった!ひとみせんせいもまたあそべる?

ママ、ひとみせんせいね、じんせんせいのおよめさん

なんだよ。ピアノも、なわとびもすごくうまいの。

でもしゃべれないんだ。おのどに、けがしてるから」

 

「こら!もう、この子ったら・・仁先生、すみません」

 

「いえ、いいんです。皆さん御存知ですから。

僕も自分が思ってるより結構有名人だったらしくて・・

僕の方こそ御迷惑おかけしてます。

ただ、妻がこの状態なんで、舞台復帰はまだ先になり

そうなんです。毎日子供達に助けられてますよ。

・・教員免許取っといて正解だったな」

 

「ま、仁先生ったら。では失礼します。

ほら、健太。さようならは?」

 

「じゃあね~、じんせんせい。ひとみせんせいはね、

じんせんせいがすきなんだってー!」

 

「こら!健太!!お世話になりました~」

 

 


園児が皆帰ると、必ず瞳はホールにやって来る。

 

それは毎日必ず繰り返される儀式。

 

そっとピアノの蓋を開け、鍵盤に指を乗せる。

そして、静かに弾き始める。

 

その曲は、どれも劇団のミュージカルナンバーで。

最後に弾くのは必ず“トゥナイト”だった。

 

美雪が使っていたレッスンバーを握り締め、

しばらくプリエをしていたかと思うと、

今度は静かにタップのリズムを刻み出す。

 

上履きで刻むタップの音は、

フロアに吸収されてしまうけれど、

 
それは紛れもない、


“瞳の音”だった。

 


・・・分かってはいるんだ。

あいつは舞台に帰りたがっている。

 


あんなに芝居が好きだった奴が。

あんなに歌が好きだった奴が。


そう簡単に忘れられるもんか。

 

あいつは、骨の髄まで役者なんだ。

あの舞台で、それが自分でも分かったはずだ。

 


ありふれた、どこにでもいる高校生だったあいつが、

どれだけ努力してあのマリアまでになったのか、

俺は知っている。


皆が帰った稽古場で、

朝までタップを踏み続けていたのも、

俺は知っている。

 


俺はここにいるよ。

お前に何があっても俺は傍にいる。

 

だから声を聞かせてくれ。

 

お前にまた「仁さん」って呼んで欲しいんだ。


お前の歌を・・聞いていたいんだ。

 

 

 

その一ヶ月後。

東京下北沢、劇団「宇宙(そら)」事務所。


そこに、一本の国際電話がかかってきた。

 

「もしもし、HELLO、あ?え?・・はい、えっと・・

代表の木島に代わります。代表、あの、ニューヨーク

からお電話が・・それが、大変なんです!!」


「なんだ大袈裟だな、どうした?

はい、お電話代わりました。木島です。

・・え?何ですって?ブロードウェイ?これ、正式な

オファーってことですか。ウエストサイドを?

・・・・木村 瞳、ですか・・いえ、そう言うわけでは。

はいそうです。影山と先月結婚しました・・来年の5月?

あ、分かりました・・はい、ありがとうございます。

はい・・失礼します」


「代表」


「本当だ。こりゃ大変な事になった・・

仁に連絡してくれ」

 

 


「よし、お~い、縄跳びするぞー!

みんなあつまれー」

 

「きょうこそは、ひとみせんせいに、勝つからな。

じんせんせい、ちゃんと数えてよー!ぼく、きのう

お父さんととっくんしたんだから~」

 

「よし、健太と瞳先生の一騎打ちだ!いくぞ。

みんなも数えろ。せーの、いーち、にーい、さーん」

 

 

 


それは、突然の。

予想もしないオファーだった。

 

舞い上がるほど信じられないその話には、

唯一の条件があった。

 

“キャストは記念公演のままで”

 

 

“マリアは「木村 瞳」のマリアで”・・・と。




2008/10/11 00:47
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 16話 「運命の舞台」

Photo

いつも、えべべやにお越し下さいましてありがとうございます。
16話に突入した「いつか、あの光の中に」。
遂にこの回を迎えてしまいました^^
舞台上ではウエストサイドが上演され、
そして、・・事件が起こります。

 


 


≪プロローグ  ジェット団とシャーク団のダンス≫

 

上手からシャーク団(プエルトリコ人の移民グループ)の3人、

偵察するかのように街を歩いている。先頭はベルナルド。


ジェット団(白人グループ)の縄張りの中に入り、

追われるうちに踊りだす。

初めは静かに、しだいに激しくなるリズム・・

そして、ベルナルドからタップに移る。

ベルナルドのソロ。激しく挑戦的に。

仲間が集まりだす。上手はシャーク団、下手はジェット団。


リフが現れる。

ベルナルドと睨みあううち、リフのソロ。

シャークの男達、リフを取り囲むように円陣を組む。

男達、低い姿勢で早いリズム。

円陣の中からベルナルドが飛び出す。


ベルナルドのソロからまた群舞へ・・20人のタップ。

リズムは除々にゆっくりに。音楽オフ。

タップチップの音だけが響き、1人づつ上下に退場。

最後のベルナルドの靴音だけが、

誰もいなくなった舞台から聞こえる・・

 


ターン!!・・・

 


俺の最後の靴音が鳴り終わり、一瞬舞台に静寂が訪れた。

次の曲が流れるまでの、ほんの数秒間。


観客が“ホーッ”と息をつくのが分かった。

そして我に返ったように、割れんばかりの拍手が始まった。

 


・・・まだ拍手が鳴り止まない。


次の音楽が、まるで観客を急かすように流れ始める。

 


2場の<ジェットソング>にバトンを渡し、上手袖に飛び

込んだ時、まだ荒い息の俺を、瞳は黙って微笑んで迎えた。

 


俺の荒い呼吸と、瞳の早い鼓動。

暗い袖で互いの視線だけが絡み合う。


思わずその頬に手を伸ばす。

瞳は静かに両手で俺のその手を握り締めた。

 


そして出番が近づいた瞳は、1つ大きく息を吐く。

 

「行って来ます」


「あぁ・・行って来い」

 


次の瞬間には、もうそこには瞳はいなくて・・


眩い光の中にマリアが飛び込んでいくところだった。

 


「ヒュー!お見事。マリア誕生」

 

 

恋に恋する乙女、マリア。

兄が決めた婚約者チノに、何のときめきも感じない。

 

“ねぇ、アニタ。恋って、もっと胸が苦しくなるものじゃ

ないの?ドキドキして、心が彼だけでいっぱいになって・・

結婚ってこんなものなの?アニタもベルナルド兄さんに感じて

いるのは、そんな苦しくなるような恋でしょ?


この街のどこかに・・ううん、世界のどこかに私の運命の相手が、

きっとどこかに・・そう、きっといるはず。


あのね!私、今日はなぜか、いい事がある気がするの。

私の運命が変るような・・そんな素敵な予感がね”

 

瞳のマリアは愛らしく、可憐だ。

 


今日は声が出てるな。しかも落ち着いている。

楽の今日が今までで1番いいかも知れない。

ハハ・・初日にあんなに緊張してたのが、嘘みたいだな。

 


さあ、俺も出番。

俺も大きく1つ息を吐き、気合を入れた。

 


ベルナルドは、シャークのリーダーだ。

白人どもに大きな面でこの街を歩かれて堪るか。

 

“これから、ダンスパーティーだ。盛り上がろうぜ!!

今夜は俺の自慢の妹を連れてきた。どうだ?すごい美人だろ?

・・誰も手を出すなよ。こいつはチノと結婚させる。

俺がマリアを世界一幸せな花嫁にしてやるんだ。


来いアニタ!お前は俺の女だ。因縁の決闘が明日に決まった。

この決闘が終わったら、お前を迎えに来る。

それまで・・・俺を想って待っていろ!”

 

 

千秋楽の幕は開いた。

 

評判を呼んでいた瞳のマリアが舞台に登場した途端、大きな

拍手が起こった。アニタとマリアの掛け合いには、笑いも起き

ている。ダンスパーティーのシーンは、マリアとトニーが引き

離されると、溜息が劇場内に響いた。上々の滑り出しだ。

 

今日の客はすこぶる反応がいい。

そんな舞台は演じる側も、気分が乗る。

タップチップの乾いた音が、耳に心地いい。

 

 


「舞台が跳ねたら、渡すものがあるんだ」


今朝。

公園からの帰り道。

瞳の「何?」という質問を「後でな」と、誤魔化した。


その答えが今、楽屋のメイクボックスの中で眠っている。

赤いビロードのジュエリーケースの中に。

 

 

さあ、“トゥナイト”だ!!

瞳。

客の度肝を抜いてやれ!!

お前の声は“女神の声”だ。

 


こんなに芝居が楽しいなんて、初めて知った

こんなに舞台を愛している事を、初めて感じた

 

もう、何度もこの役をやってきたのに。

もう、体がすべて憶えているのに。

 

因縁のジェット団と、シャーク団。

遂に決闘の時。

 

その狭間で、恋するトニーとマリア。

マリアは、トニーに“決闘を止めて!”と懇願する。

将来を約束した2人。

トニーは弟分リフを止めに、決闘場へ。

 


これがベルナルドの最後の出番。

今までで最高の死に様を見せてやろう。

 

決闘を止めるつもりが、ベルナルドにリフを殺され、

トニーは思わずベルナルドを刺す。

 

拓海トニーに刺された瞬間。

俺はもしかしたら笑っていたかもしれない。


マリアを想い、瞳を想う。

 

ベルナルドは・・俺だった。

 

 

出番を終えた俺は、いつものように楽屋に戻る気になれず、

ずっと袖から、瞳の芝居を見ていた。

 

以前、あんなに苦労していたベットインの場面。

それは可憐で、清純で・・・苦笑するほど色っぽい。

 

そんな俺の横に、気がつくといつの間にか木島が立っていた。

 

「仁。幸せなんだな」


「ん?あぁ、うん。そうなのかな」


「瞳のあの顔を引き出したのも、お前のそのにやけた顔を作った

のも、言うなれば俺のおかげだろ?間接的にはさ。

感謝してもらいたいもんだ」


「バカ言え、何言ってる」


「ハハ、少し素直になったかと思ったらその口癖だけは直らない

か・・大事にしてやれよ。ま、余計なお世話だろうが。

お前が羨ましいよ。俺なんか・・なぁ。お前も年の差って感じる

事あるか?」


「おい、まだ手こずってんのか?お前らしくないじゃないか。

よくお前は俺を遊び人みたいに言うが、本当にモテるのはきっと

お前みたいな奴だよ。あいつは若くてもお前より精神年齢は

ずっと上だぞ。せいぜい頑張れ」


「見捨てるなよ。真剣なんだ、こっちは」

 


頭を掻き、ボヤキながら木島は袖を後にした。

これから客席の一番後ろで、

エンディングまで立ち見するんだろう。


“観客の後ろが一番芝居がよく見える”


いつもあいつはそう言っているから。

そして、楽日の雰囲気がたまらなく好きなんだ、と。

 

感謝しろ・・か。

してるよ。本当に、色々なものに。


もしかしたら、一番感謝しなきゃいけないのは美雪にかも

しれない。それが、全ての始まりだったんだから。

 


そろそろ、ラストだ。

さぁ、エンディングの準備を・・と楽屋に戻りかけた俺の耳に

妙な音が聞こえた。

 

・・客席が急にざわめき出した?


慌てて舞台を見に戻った俺には、

何が起こっているのか初めは分からなかった。

 

ラストシーン。

 

マリアがチノに殺されたという嘘を信じ、マリアの元に行こう

と自ら“撃ってくれ”と街を彷徨い叫ぶトニー。


「チノ!出て来い!俺を殺したいんだろう?!」


トニーを探すマリア。

そして遂に見つけたその時、トニーは銃弾に倒れる。


「トニー!!!」


崩れ落ちるトニーを抱き締めるマリア。


ところが、


そのマリアに当たるはずのピンスポットが、当たっていない。

ピンスポから、瞳がいる位置までは1メートルくらい離れていた。

 

死んだ拓海トニーを膝に抱いている瞳には、その少しの距離が

埋められない。正座した体勢で大の男を抱いているのだから。

 

「おい、どうなってるんだ!!」

 
「分かりません。立ち位置が機材の不具合で変わったらしいん

です。出の前に瞳と拓海が何度も確認してたのに・・」

 

≪そうそう、照明の斉藤君から伝言。バミリ変えたから≫

 

「まさか・・・・・咲乃?!!」

 

会場のざわめきが、さらに大きくなる。

 

「瞳・・」

 

今、俺にはどうしてやる事も出来ない。

舞台上では瞳は“マリア”

板の上の事は、自分で解決するしかない。

 

暗闇の中、ライトから外れた瞳がまた1つ大きく息を吐くのが

分かった。そして真っ直ぐ前を見据え、膝に抱えた拓海を、

さらに優しく胸に抱き締めた。

 

・・あぁ、俺はやっぱり間違っていなかった。

俺の目は狂っていなかった。

  あいつは・・・瞳は・・骨の髄まで役者なんだ・・

 

スポットの当たっていない暗闇から、微かな歌声が聞こえる。

それはだんだん大きくなり、命が吹き込まれる。

 

その場面の後の台詞を全部すっ飛ばし、

エンディングの曲を1人歌いだした瞳。


音楽もなくアカペラで歌うそれは、

かえってトニーを失った悲しみに満ちていた。

 

高く透き通るその声。

観客の視線は、見えない瞳に注がれている。


周りにいた女達、シャークとジェットの男達も歌に加わる。

そしてワンコーラス終わった時、ものすごい拍手が鳴り響いた。

 

そしてそのままエンディングへ。

 

舞台と客席はもう一体になっていた。

俺が登場した時には、また割れんばかりの拍手。

俺は瞳を高く抱き上げ、思わず頬にキスをする。

 

全員でのタップの群舞は手拍子も加わり、興奮状態。

中には通路で踊り出す客もいたくらいだ。

 

アンコールはいつまでも終わらなかった。


10回まで数えて・・やっと幕は下りた。

 

 

幕が下りきると同時に、瞳は力が抜けたように舞台に

倒れこんだ。走って抱き起こした俺は瞳を抱き締め、

人前もかまわず口付ける。


遅れて流れた瞳の涙が、俺の唇に伝わった。

 

 

皆より遅れて、楽屋に戻ると、

そこはもう、お祝いに駆けつけた関係者や友人達で

賑わっていた。

 

俺を見つけて、サインをと色紙が差し出される。

いつもならたぶん断ったろう。

そんな俺が自然にペンを握っていた。


瞳にも、と色紙が渡される。恥ずかしそうに俺に助けを求め

ながらも、やがて笑顔で応じ出した。

 


終幕後の楽屋は、明るい声が満ちていた。

 

 

祭りの後の喧騒が落ち着くと、新人の瞳には仕事は山積みだ。

全員の衣装を、クリーニングに出すため回収していく。

 


「失礼しまーす!衣装頂きにあがりました~!」

 

楽屋を廻る瞳の声が廊下に響く。


澄んだその声に微笑みながら、

俺もバラシに向かおうとガチ袋を着けた。

 


皆が忙しく動き回っているそんな時、

楽屋にやってくる者がいた。


「あの・・もう、バラシに入ってるんで、すみませんが、あ!」

 

アキラの声が聞こえたと思い振り向くと、

そこには・・・咲乃がいた。

 

「おい!咲乃・・・お前なのか・・あれは」


「何のこと?嫌だ。変なこと言わないで。私は何もしてないわ。

返ってよかったじゃない。感動的だったわよ、あのアカペラ」


「まさか、お前・・咲乃。あんなこと」

 

「仁!・・仁・・・・・私達、もう・・ダメなの?

・・・本当に・・本当にあなたは、あの娘と・・歩くの?」


「帰れよ。お前だって劇団員だろう!何をやったか自分で

分かってるのか?確かに俺が悪かった。ひどい男だよ、俺は。

だがな、それなら俺に言え!瞳や舞台は関係ないだろ!

俺達は・・あの時は、お互いが必要だった。

無駄な時間だったとは俺は思ってない。感謝もしてる。

だけど俺はもう・・

ごめん。俺は瞳と・・・・・なっ!!!」

 

 

それは、まるでスローの映像のようだった。

 


咲乃が、そこにあったハサミを俺に向かって振り下ろすのと、

 


瞳が、俺の前に飛び込んだのは・・・・・ほぼ同時だった。

 


俺の胸を狙ったハサミは、瞳の・・“喉”に刺さった。

あっという間に俺の視界は、赤一色に染まる。

 

見えなくなった眼鏡を外した時、

腕の中の瞳は微笑んでいるように見えた。

 

「瞳?・・ひと、み・・・・・瞳!!!!」


「よかっ・・た、じ、んさ・・ん・・けがし、てな、い・・」

 

「嘘だ・・嘘だろ?だれか・・木島!!こんな、うそだ・・

アキラ!救急車を・・嫌だ・・いやだ・・・あ。また誕生日・・

美雪、瞳を連れて行かないでくれ・・今度は俺が護るって。

・・・俺が・・俺が瞳を・・く、そっ!!・・・」

 

「仁・・さ、ん・・ごめ、ん・・さい・・

コ、コにハサ、ミおいたの、わた、し・・」


「分かった、もういい、話すな。分かった、分かったから」

 


「違う・・仁。ちがうの・・いや・・

・・・仁・・・こんな、私こんなつもりじゃ・・

なかった。こんな・・・・」

 


「キャーーー!!!」

 

 

 

 

 


それは春の終わり。


瞳の22歳の誕生日。

 


俺は腕の中の瞳を、ただ抱きしめるだけだった。


 


2008/10/10 00:37
テーマ:創作 いつか、あの光の中に カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

いつか、あの光の中に 15話 「前奏曲」

Photo

休みだった今日。
また「太王四神記スペシャル」の録画を見てしまいました。
司会者の質問に、真面目に答える姿。
ジョークを言った後に見せる悪戯っ子の様な顔。
そして、メイク室でのノーメークの彼。はあ~、何て綺麗^^
私って面食いじゃなかったのになぁ。
彼を見てると幸せな気分・・愛よね~愛!!


愛と言えば、ここにも愛の捻れた形が。
咲乃が、動いてしまいます。そして・・

 

 


【劇団 宇宙(そら)創立15周年記念公演 

     ウエストサイドストーリー】


この若手劇団も、もう15周年になるのか。

創立時の飢餓にも似た若者の貪るような叫びのこの演目は、

15年の時を経て、“狂おしい恋のドラマ”に進化していた。


今回大きく変ったのは、マリア役の新人「木村 瞳」の魅力に

よるものだ。透明で純粋で、それでいて芯の強い女を感じさせる

木村の歌声は、年甲斐もなく私の心を震わせ、その胸に包まれ

たい衝動に駆られた。さしずめ“女神の声”というところか。

劇中のトニーならずとも、運命の恋を感じた男性客も多かった

のではないか。

アニタ役の「相原 萌」 名曲“AMERICA”で魅せた若い色気は、

パワフルなそのダンスと共に、今回の収穫といえよう。

今後が楽しみである。

初演時から、ベルナルドを演じ続けている「影山 仁」

私は彼のタップのファンで、実は地方公演などもプライベート

で観ているのだが、今回の公演は目を疑った。

これが同じ役者が演じたものかと思うほど、彼のベルナルド

こそ進化していた。前回までのギラギラした野獣のような激しさ

に、妹を想う兄の優しさが加わっていたのだ。

今、日本でこれほど気持ちで踊れるタップダンサーは彼をおいて

いないのではないか。

命が尽きる瞬間の、彼の微笑みが胸を打つ。

今後ますます、私の追っかけの回数が増えそうだ。


演出家「木島 直人」は、これら新しい魅力ある配役を得て、

名作をさらに見ごたえのあるものにした。

悲劇ではあるが、明日への希望をも感じさせる力作。

エンディングの全員でのタップの群舞は、まさに圧巻。

不覚にも涙が止まらなかった。

ぜひ、劇場に何度でも足を運んで欲しい作品である。

他に、緒方 拓海、柴田アキラ、等が出演。

  シアターコクーン、25日まで。(守山 潤)  

 

 


「ちょっと、ちょっと仁ちゃん!あの新聞どこにやったのよ!

一般紙にあれだけのスペースで劇評載せてもらうのなんて、

初めてなんだから!しかも、今回は瞳ちゃんがメインなのよ。

ま、あんたのことも褒めてはいるわね。でもこれって、瞳ちゃん

のおかげじゃない?

“妹を想う兄の優しさ”・・ほら、今のあんたそのものよ。

滲み出るわよね。あれだけ愛してれば。ほらその顔。あれは演技

じゃないでしょ!さぁ新聞出しなさいよ。あんたが持ってるのは

分かってんだから」


「分かってんならいいだろ?あの日忙しくて駅売り買えなかった

んだよ。瞳がメインだと?あいつも確かにいいが、まだ新人だ。

あれは期待評だな。俺に対する批評の方が良いじゃないか。

俺は“進化した男”だぞ。進化した男はちゃんと芝居してるんだ。

素なんかでやってたら、俺は妹のラブシーンに乱入するさ。

キスなんかさせるか。しかも拓海とだぞ。

なぁ、それより瞳、知らないか?

起きたらいないんだ。バッグも財布も置いてあるんだけど」


「はぁ~、一時も離さないってわけ~?瞳ちゃんにだって自由

ってもんがあるのよ。そんな愛し方してたらその内、仁ちゃんの

手から飛び出したくなるかもね。

“あなたの愛は私には重いの”とか言われてさぁ、他の男に」


「そうかな。そんな風に思ってるかな・・でも駄目だ。

俺はもう瞳を離せない。あいつがいないと、歩けないんだ」


「バカね。冗談よ。あぁ、なんか少し妬けるわ~。

どっちに妬いてるのかアタシにもよく分からないけど。

ふふ、瞳ちゃん、少し散歩してくるって。

やっと楽日だもの、考える事もあるんじゃないの?

あんたがよく眠ってるから起さないでって言ってたわ。

ホント、いい娘ね。ね、仁ちゃ・・あ~あ、もう行っちゃった。

恋する男の後ろ姿。

何かアタシも、もう1度あんな恋がしてみたくなっちゃったな。


・・・ねぇ実由紀。なんだか急にアンタに会いたくなったわ。

ここはアンタの店じゃないの。幽霊でもいいから出てこない?

アンタが守ってたぬか床。皆おいしいって言ってくれてんのよ。

声が聞きたいな・・いい女だった。もう一度・・逢いたいよ」

 

 

春の終わり。

下北沢の街は、鮮やかな緑に包まれている。


商店街を通り抜け、

駅前のガードをくぐり、

俺は瞳が通ったはずの道を走っていた。

走りながら、瞳が今どこにいるのか思い当たったから。

 

その場所は、きっと。

 

「瞳!」

 

「あ!仁さん。起きたの?ごめんなさい。、よく眠ってたから。

でもよく私がここに居るって分かったわね。ふふ、また魔法?」


「ここまで走ってきたんだ。走りながら、あの日の瞳を思い出し

てた。あのオーディションの夜。あの時、街灯の明かりの下で

タップ踏んでたろ?俺を見つけて、微笑んだあの時のお前の顔。

忘れないよ。あの時、理性を保つの大変だったんだぞ。

本当に残酷な奴だったよ、お前は」


「うん。私も思い出してたの。あの夜の仁さんのダンス。

あれは、私へのラブレターだったのね。今なら分かるわ。

あの時、なぜこんなに仁さんが気になるのか自分でも分からな

かったの。きっととっくに気持ちはあなたに向かっていたのに。

仁さん楽日お疲れ様です。おかげで無事に楽を迎えられました。

色々と御指導、ありがとうございました!!」


「よく頑張った。お疲れさん。お前のおかげでいい舞台だった。

それから、誕生日おめでとう。22歳か・・若いな。

帰ろう。常さんがすごい朝飯作ってくれたんだ。

楽のお祝いだって。差し入れに特製おにぎりも握ってくれたぞ。

“俺、梅と鮭~”ハハ!行こう」

 

 

千秋楽のその日は、大入り満員だった。

日曜のマチネだけに立ち見も出たくらいだ。

例の新聞の劇評もそれを後押ししたのだろう。

20日間の公演中、18日間の大入り。

この広い劇場でのそれは、当然、劇団記録でもある。

 


楽屋に研究生の楽日挨拶の声が響く頃、

新人の瞳は、まだ最後の衣装の直しに忙しかった。

 


「村上さん。ウエスト、サイズ大きいんですか?」


「あぁ、痩せたのかな。踊るとどうも、動きにくいんだ。

ベルトの穴、これ以上ないからさっき千枚通しで開けたんだけど。

長い所、切ってくれるか?

ベルナルドはGパンで済むからいいよな。な?瞳ちゃん!」


「もう!怒りますよ。はい、わかりました。ハサミ持ってきますね。

ここの楽屋の皆さんは、もうお昼済まされたんですか?

差し入れ、廊下にあるんで、食べてくださいね。

お菓子類も今日で最後だから食べちゃって下さい。またいっぱい

ケーキ頂いちゃって・・女子だけじゃ食べきれませんから!

すみません、お願いしますね」


「俺たちさ~、仁さんみたいに“酒もケーキも”って野郎じゃない

んだよね~そのセリフ、向こうの楽屋で言ってくれる?

・・甘党の酒飲みの個室でさ」


「ん、もう!・・・知らない!!」


「ハッハハ!!!」

 

評判がいいからか、楽屋の空気はとても軽やかだった。

誰も彼も饒舌で、廊下で俺と瞳が話していると必ず誰かの茶々

が入り、しかも、俺がわざと瞳を抱き寄せたりするものだから、

瞳は真っ赤になって怒った。


「やだ、もう!やめてって言ってるでしょ!」


今、序列からいって劇団で俺に「やめろ!」と言える立場は

木島だけだった。


皆は驚き、俺は大笑いし、当の瞳はさらに真っ赤になった。


調子に乗った俺は、皆に宣言した。


「分かった。ちゃんとしないから瞳は怒るんだな。

なあ!皆!俺と瞳・・結婚するよ、公演が終わったら。

だから、もうからかうな。俺がまた怒られる」


「そう・・じゃ、“結婚おめでとう”だわね、仁」


その声に皆が一斉に振り返った。

 

 

「咲乃・・」


「楽のお祝いに来たんだけど?・・皆、何?その顔。

私が来たら迷惑?そうよ、皆・・知ってるんでしょ?

先週の週刊誌に出てたのは、全部事実。監督とのあの不倫

騒動で次のドラマは、降板。CM契約も・・打ち切り。

散々よ。きっと誰かが手を廻したのね。

まったく、気抜いてるヒマなんかないわ・・・この世界。

急に暇になったからさ。激励に・・来た訳・・いけない?」

 

「お前。酔ってるのか。こんな時間から」

 

「あら?お酒飲むのに、時間なんて関係あるの?何時なら飲んで

いいわけ?私はね、飲みたい時に・・飲むの。仁の指図は受け

ないわ。もう、あなたとは何の関係ないもの。ね?瞳さん?

まだ客入れ前でしょ?舞台見てきていい?

舞台・・しばらくまた立てそうにないから」

 

1人、舞台に向かう咲乃。

その後ろ姿を、誰も止める者はいなかった。

 

 

 

「斉藤君。私よ・・ラストのマリア、ピンスポどこ」

 

本番1時間半前。

誰もいない舞台。

照明ブースに向かって咲乃は、静かに携帯で話し出す。

 

「咲乃さん、やっぱり止めてください。

この舞台は成功で終わりたいんだ!俺、あなたに憧れて、

“ウエストサイド”やりたくて宇宙に入ってきて・・

今回のこの舞台、大事にしたいんだ。ね、咲乃さんも見たで

しょう?・・俺、後悔してます。あなたに仁さんと瞳の事

話すんじゃなかった。気持ちは分かるけどそれとこれは違う!

あなたもまだ劇団員なら・・」


「君が私にそんな口聞くとは思わなかったわ。

私のマリアが好きだって言わなかったかしら?

大した事じゃないわ。ただピンスポ1つ外すだけじゃない。

かわいいもんよ。


私だって宇宙は大切にしたいわ。でもあの娘は許せない。

マリアは私よ!マリアも仁もなんて虫が良すぎるわ!

・・・・・ふっ、仁はもう・・駄目ね。

彼、ああ見えて純粋だから。もう私の入る隙なんかない・・

仁が戻らないなら、マリアだけは取り戻す。それだけよ。

ね、1つでいいの。

ラストのバミリ、教えなさい」

 


咲乃は、センターの1つのテープをそっと剥がし、

位置を・・貼り変えた。

 


楽屋に帰ってきた咲乃は妙にに上機嫌で、

瞳を見ると突然大きく手を広げ抱き締めた。

 

「瞳さん。最後の舞台、楽しみにしてるわね。

あ!そうそう。照明の斉藤君から伝言。ラストのバミリ、少し

変えたからって。照明の角度変えたらしいの。伝えてくれって

言われたから。ね、拓海と一緒に“後で確認”して。

・・じゃあね、瞳さん、客席で見てるわ。頑張って」


「咲乃」


「仁。いい舞台になるわよ。きっと“思い出に残る舞台”に

・・じゃあね」

 

咲乃は木島の楽屋に挨拶を済ませると、

劇団員全員に声を掛け、満面の笑みで、楽屋を後にした。

 

「仁さんどうしよう。私、この間咲乃さんにひどい事言っちゃった。

咲乃さん私に“頑張って”だって。あの咲乃さんがよ?

仁さんの事、マリアの事・・きっと私を憎んでると思ってた。

それが・・あぁ、謝らなきゃ。あの人はもっと大きな人なのよ。

私にあんな事言われたのに。仁さんも、あんな言い方するし・・」


「あんなって?」


「・・だって・・愛して、なかったって・・」


「あぁ、あぁそうか。でも、俺達は本当にそんな関係じゃなかった

んだ。だから俺も楽だった。なんていうか、同士みたいなさ。

お互い相手に求めなかったから続いたんだよ、俺達は。

でも、それは愛じゃなかった。瞳、俺を、ずるいと思うか?」


「うん、ずるい。ねぇ、咲乃さんは仁さんを愛してるわ。

私には分かる・・でも私もずるいの。そんな咲乃さんの気持ちを

分かっても私、もう仁さんと離れられない。誰に何て言われても、

別れられない。今日の舞台。頑張るね、私。

だって、それしか私には出来ないもん」


「瞳・・」

 

 

客入れ時間になり、木島は全員を集めて最後のゲキを飛ばした。

 

「さぁ!楽日、泣いても笑ってもこれで最後だ!

今回のこの舞台。こんな“ウエストサイド”を見られて、

俺は皆に感謝している。この舞台は、“宇宙(そら)”にとっても、

お前達にとっても、きっと何かをもたらしてくれたと信じている。

ラスト一回。お前達の全てを見せてくれ!思いっきり行こう!

後で、いい酒飲もうぜ!“楽日、よろしくお願いします!”」


「「よろしくお願いします!!」」

 

 

それは本当にかわいい悪戯のつもりだったんだろう。

ラストの大事な場面で照明から外れた瞳を動揺させ、

混乱させる。自信を無くした瞳が、自ら降板を申し出るように。

その程度のもので済むはずだった。

 

 

俺はその日の舞台を全部憶えている。

オープニングからエンディングまで、少し残らず。

 


そして、その後の出来事も。

 


それは、俺の脳裏に、

 

 

スローモーションの映像で、いつまでも焼きついて離れなかった。

 

 

 

*照明がきちんと当たるように、舞台の板の上には各役の場面ごとの立ち位置をカラーテープや
ガムテープ等で印がつけてあります。
(バミリテープ。印を付ける事を“場見る”=バミリといいます)
楽日なので瞳たちはもう立ち位置、バミリが無くても覚えているでしょうが、
それを、咲乃は急に変更した・・・いよいよ千秋楽です。


 


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