2009/02/12 01:01
テーマ:亜矢子 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

亜矢子

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今日は短編を1つ^^これは、去年の4月。サークルの2周年記念に書いた作品で

す。タイトルを見て?って思った方も多かったのでは?亜矢子さんは誰でしょうね。


あのシリーズの登場人物の中で1番辛かったのは、多分・・この人。

 

 



<10月20日 土曜日>


今日は半ドンだったから、午後は好きなレコードでも聞きながら、

来週の運動会の飾りつけを作ろうと思っていた。

小さな花飾りや輪つなぎは、時間が空いた時に職員総掛りで作っ

ていたけど、入退場門の大きな飾りは、ここ何年か私が作って

いたから。


大のクラッシックファンだったお義父さんのレコード。

園長室のキャビネットの中にぎっしり入っている。


私は趣味も教養もなく、普段はもっぱら歌謡曲専門だけど、

園児も職員も皆帰った土曜の午後、ここで1人そのレコードを

聴くのが好き。

 

今年の飾りは大きな薔薇の花にしようか。

それとも皆の好きなドラえもんがいいかな・・

 

そんな事を考えてたら、あの人から電話。

 

ベルが鳴っただけで、“あの人だ”って分かる。

その音は、とても優しく部屋の中に響いている。

 

電話を待ち焦がれていたのが、声から伝わらなかったかな。

私の声が上ずっていたのを、あの人に悟られなかったかな。

 

罪悪感と、ほんの少しの期待。

いけない・・と分かっているのに、

あの人の声に胸が震える。

 

「転勤願いを出した」って。

「隣町の施設に移動希望した」って。


それは・・どういう意味?

もしかしたら“私達の傍にいてくれる”っていう事?


ううん。


自分勝手な期待をしちゃいけない。


私は、ただの“友人の未亡人”なんだから。

 

 

<11月18日 日曜日>


今日は、小学校の学芸会。

今年の5年生の出し物は、太宰の“走れメロス”

 

昨日私が「5年生には少し難しいんじゃないの?」と聞いたら、


「母さん、5年はもう大人だよ!太宰くらい当たり前さ。

それにこの話は熱い話なんだ。男同士の友情の物語なんだぜ!」

だって。


まったく・・この所、何かというとすぐ私にケチをつける。


担任の先生に相談したら、「反抗期に入ったのかな。お母さん、

成長の過程ですから、大きな気持ちで見守ってあげてください」

っておっしゃった。


私も幼児教育を仕事にしてる訳だから、それは分かるけど、

実際に毎日毎日こう突っかかってこられたら、

こっちも黙っていられない。


ちょっとの口ごたえが、口喧嘩になって、

最後は本気になって怒ってる。


・・私って、母親失格だ。

だって母親のくせに、5年生相手に本気で熱くなっちゃう

んだから。


最近は背がぐんと伸びたし力もついたから、

手加減してたらこっちがやられちゃう!


こういう時に男親がいたらって思うのよね。

きっとこれから思春期に入って、もっと難しくなると思うし・・

 

あはっ!そうだった。“学芸会”

びっくりしたわ、主役なんだもの。


きっと、話してくれてたよね。

多分いい加減に聞いて生返事してたんだ、私・・

 

ごめんね、仁。


メロス。

見ているうちに涙が出てきたよ。


妹のため、友情のために走るメロス。

自分が殺されると分かっていながら、ただ約束を守るために。


舞台の上の仁はとても頑張っていたのに、

本当は涙で滲んでよく見えなかったんだ。

 

大きくなったね・・・

初めて逢った時は、あんなに小さかったのに。


マリナーズの帽子を被って、上目遣いに私を見た5才の仁。

あの時の仁の目が、今でも忘れられない。


緊張しすぎていたのか、事故の後遺症か。

園に着いて私の顔を見た途端に、バタンと倒れた仁。


何日か続いた高い熱が嘘のように下がったあの朝。

おかゆを持って来た私に、仁は言ってくれたわね。


「Thank you・・mam」って。


どうか、仁の記憶が戻りませんように。

この幸せが、ずっと続きますように。

 

そうだ。

私は、仁がいれば何もいらない。

仁さえ傍にいてくれれば、それでいい。


それ以上の事を望むのは、いけないことなんだ・・

 

<12月25日 火曜日>


やっと2学期の終業式。

昨夜サンタさんにプレゼントを貰えた子も、

のんびり屋のサンタが今晩やっと来る子も、みんな嬉しそう。


お迎えのお母さん達に年末の挨拶をして園児を送り出し、

先生方に遅くなったボーナスを渡して、今年の業務は全て終了。

ガランとしたホールを見て、やっと大きな溜息が出た。


お義父さんが亡くなってから、3年。

今まで忙しくて、園の事だけで精一杯だった。


家の事は後回し。

日頃、園児に「お片づけしようね」と言ってる私なのに、

実態は、掃除をサボって散らかし放題。

一番大切にしなければいけない仁の事も、

かまってやれない日が続いてる。


ごめんね、仁。

我が家のサンタさんは、今日やっと街へお買い物。


ねぇ、また今年もサンタへのお願いは漫画なの?

もっと他所の子みたいに高価な物はねだらないの?


しかも仁の誕生日は23日だから、

バースデーケーキもプレゼントも、

クリスマスと一緒になっちゃうのに。

 

夕方買い物から帰ると、

園児のいなくなったホールで、仁は体を動かしていた。


ホールいっぱいにマットを敷き詰めて側転と前宙の練習。

そして今度は跳び箱を組み立てて、ただ黙々と飛び越えていく。


将来の夢は?って聞かれると、

いつも返って来る答えは“体操選手”だもんね。

家が幼稚園でよかったのは“いつでもマットが使える”

って所らしいし。


しばらく覗いていたら、

「母さん、晩飯まだ?俺、コロッケがいい」だって。


こらこら、今日はクリスマスだよ。

私だってクリスマスくらいご馳走作りますって!

・・と言っても、駅前で買って来たショートケーキと、

フライパンで焼いたチキンだけだけどね。

 

仁。

いつもありがとう。


君がいるから、私は毎日笑っていられるよ。

私の息子になってくれてありがとう。


今夜は神様に感謝する日。

君に逢えた母さんは、世界で一番の幸せ者です。

 


<12月31日 月曜日>


大晦日の1日はあっという間に時間が過ぎる。


溜まった大掃除と、まるで進んでいない年賀状。

おせちの買出しに、下ごしらえ。


「どうせ2人っきりなんだからテキトーでいいんだよ」

って仁は言うけれど、私だって一応は影山の嫁なんだから、

形だけは整えて、お義父さんや慎一にお供えしなくちゃ。


普段ぐだぐだしている私が、汗噴き出しながら廊下を雑巾掛け

しだしたから、仁は可笑しそうにゲラゲラ笑い出した。


「何が可笑しいの!笑ってないで手伝いなさい!」


大声で怒鳴ったら、仁がひょいひょいっと手招きする。

怒った顔のままついて行くと、客間と台所がピカピカになってた。


「家事はね、要領。母さんの掃除は効率が悪い」


あ・の・言い方!子供のくせに親を馬鹿にして。

くやし~い!・・憶えてなさいよ、仁!


最近は体力も口喧嘩でも負けちゃうことが多い。


でも、「家の男は俺だけだから」って、仁はよく言う。

あれでも、あいつなりに私を護ってるつもりなのかもね。


・・少し癪だけど。

 

<1月3日 木曜日>


突然、あの人が家にやって来た。


「年始のご挨拶に」


そう言って、仁の好きなシュークリームの箱を抱えて、

しかも初めて美雪ちゃんを連れて来た。


仁は、大好きな稲垣のおじちゃんの訪問が嬉しそう。

小さい時から時々やってきては、

お菓子や漫画を買ってきてくれるおじちゃん。


この人の存在を、仁はどう思っているんだろう。

アメリカからこの人に連れて来られた事は、

まるで憶えていないようだけど。


初めて逢う美雪ちゃんがあんまりかわいいので、

11歳の男子は照れていた。


いつもの様に豪快にシュークリームを頬張ろうと大口を開けた

仁は、美雪ちゃんが見ていると気付くと急に大人しくなった。


「何照れてんのよ」と、私が言うと、


「っるさいな・・そんなんじゃないよ・・」

と、今度は乱暴にシュークリームを口に入れる。


そんな仁を見て、美雪ちゃんはケラケラ笑った。

あの人から話に聞いた通り、明るく元気な子らしい。


そして美雪ちゃんはシュークリームを食べ終えると、

「お兄ちゃん、凧揚げしよう!」と、照れてまだ頭を掻いて

いる仁を、強引に外に連れ出した。

 


お茶を入れ替えようと台所に戻ると、

ガス台の前の窓から凧揚げをする仁と美雪ちゃんが見えた。


初めは嫌そうにしていた仁も、もう笑顔で話しているみたい。

子供達は夢中で遊んでいた。

 

「亜矢ちゃん」

 

その時、窓の外の仁たちをボーっと見ていた私を

あの人はそう呼んだ。

今まで一度もそんな風に呼んだ事ないのに。


返事が出来ずにいる私に、もう一度あの人は呼びかける。

 

「亜矢ちゃん」


目の前のヤカンがシューシュー湯気を立て始める。

私は慌てて火を止めようとして、熱いヤカンに手を触れた。


「熱っ!!」


次の瞬間、私の手は水道からの冷たい水で冷やされていた。

後ろからあの人の手が私を包み込み、蛇口の下に当てられる。


「やだ!稲垣さん、止めて・・あはっ、私っておっちょこちょい

だから、すぐドジばっかしちゃって。いつも仁に叱られるのよ。

母さんは落ち着きがないって」


「すぐ冷やさないと。本当にそそっかしいから、君は」


「あの・・手・・」


「子供達、楽しそうだね、よかった。美雪はおてんばだから仁と

合うか心配してたんだ。ちょうどいい。少し勇気がいる話だから

このままで聞いて。

亜矢ちゃん。結婚してください。

今日美雪を連れてきたのも、君と仁に逢わせたかったからなんだ。

前に話した転勤願いが受理されたよ。

今年の春からこっちの施設に移れる。

美雪も今年は入学だし、名前が変るならいいタイミング・・」


「ちょっと、ちょっと待って。急に何?私、まだ何にも」


「長かった。長かったよ・・僕には。君は?君は、どうですか」

 

あの人の息が、首筋にかかる。

私はめまいを起こしそうだった。


何度も・・

何度も想像した。


あの人に抱かれる事を何度も何度も夢に見た。


いけないことだと言い聞かせてた。

私は死別したとはいえ、影山の嫁だったから。


あの人にも、妻子があったから。

 

慎一と結婚して、幸せだったのは初めの一年。

その優しさも情熱的な行為も、私を愛してくれての事だと

思っていた。だけど、子供が欲しいという私に慎一は決して

“うん”とは言わなかった。


私に一体何が出来ただろう。

日に日に生気を無くしていく夫に、義務だから抱いてくれと?

やがてガンを発症した夫を見捨てろと?


慎一の心にいた人は、仁を産んだ人。

彼女には、私には許されなかった慎一の子供がいた。

私は跡取りの名の下に、仁を彼女から取り上げた。


慎一は苦しんでいた。

苦しんで、もがいて、そして・・・・逝ってしまった。


罪悪感と嫉妬。

嫌悪感と仁への愛情。


私は壊れそうだった。

 

稲垣 智明は、慎一のNY時代の友人。

慎一と彼女を知る唯一の人。


あの人が訪ねて来るたびに心が安らいだ。

くだらない笑い話や、日々の愚痴。

仁と遊んで、ふざけあって。


私はあの人に助けられた。

あの人がいなかったら・・

私は仁を手にかけていたかも知れない。

 

安らぎが、恋に。

信頼が、愛に。


あの人の奥様が事故で亡くなった時、私は怖くなった。

自分の想いが、また人を傷つけたのかと。

非難されるような関係ではまるでなかったけれど、

私は自分から距離を置いた。


あの人の想いを知りながら、私は自分の想いを封印した。

 

「・・離してくれない?逃げないから」


「あ、ごめん」


「いままでと一緒じゃダメなの?友達のままでいいじゃない」


「亜矢ちゃん、いいかい。君は今まで頑張ってきたんだ。

慎さんの事、影山の家の事、園長として、仁の母親として。

1人で笑顔作って、頑張って・・もういいよ。少し休め。

君はきっとそう言うだろうとは思った。

でもだめだ、これは譲れない。妻の墓に報告してきたんだ。

ここに来る前、慎さんのところにも。

“君と結婚する”ってね。

“許可”を取りにじゃないよ。“報告”に行ったんだ。

美雪には女親が必要で、仁には男親が必要で、

僕には・・君が必要だ。

・・君には、僕が必要じゃない?」


「突然やってきて、勝手にプロポーズして・・・

私を、泣かせようと思ったって・・・ダメだからね・・

第一、子供達だって・・」

 

「幼稚園、俺がやるから」


いつの間にか、仁と美雪ちゃんが立っていた。

仁は美雪ちゃんと手を繋いで、恥ずかしそうに私にそう言った。


「俺が大きくなって園長になるよ。大きくなって影山家を守る。

だから大丈夫だよ。母さんは、おじちゃんと結婚しろよ」

 

-----

 

「ばあば!ばあば、ごはんよ~」


「え?・・ああ。そうか・・

舞ちゃん、ばあばを迎えに来てくれたの?」


「うん。ままがね~ごちそうできたって!

あのね~いちごのけーきもあるのよ~

ねえ、ばあば。きょうは、ばあばのおたんじょうび?」

 


我が家に、久しぶりに家族全員が揃っている。

今年は舞のおしゃべりが始まって、とても賑やかになった。

瞳ちゃんに私の昔のネックレスをあげようと捜していたら、

鏡台の奥から懐かしい日記が出てきた。


もとより適当な性格の私だから、毎日は書かれてないけれど、

あの時の私は、少し臆病で・・相変わらず男勝りで・・


色々あったなあ。


結婚、慎一の死。

仁を引き取って、お義父さんを看取って、智明と再婚して。

美雪を死なせてしまって、仁に辛い想いもさせた。


でもよかった。

仁は幸せになったわ。瞳ちゃんに出逢ったから。

そして、私にはもう1人息子が増えた・・

 


「マム?どうかしましたか?舞は声だけ掛けて、もうダディーの

膝の上です。みんな呼んでますよ。行きましょう」


「うん、今行くわ・・ねぇ、バーニー」


「はい」


「ありがとうね。仁を許してくれてありがとう。

あなたから仁を取り上げて・・私、後悔する事でいっぱいなの。

あなたのお母様にもひどい事・・」


「マム?僕のマムは今、あなただけです。

ダディーも僕には、最初から稲垣のダディーだけです。

そうですよね。僕達、家族でしょう?さ、行きましょう」


「あなた、いい男ね。いい息子だわ」


「仁よりいい男ですよ、僕は。今頃気付いたんですか?

ハハハ・・あ、そうだ。聞くの忘れてました。

今日はマムの誕生日?毎年この日は家族で集るんでしょう?」

 

 ・・・ううん、バーニー、今日はね・・


私と仁が親子になった日なの。

そして、智明と再婚した日。


この日を忘れないようにしようって。

毎年、家族でこの日を迎えようって。

 

智明がね・・

 

    智明がね・・・・

 


「亜矢ちゃん、おいで!ケーキ切るよ」

 



コラージュ、mike86


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