KA・ZO・KU 「僕の家族に」
ヨンジュン。41回目の誕生日。おめでとう!
今年もまた嬉しいお知らせはないのかなぁ・・って考えてたら
久しぶりに、こっちのちょっと嬉しいお知らせを書きたくなっちゃ
いました^^
もっと早く書けそうだったのに、やっぱりこんな時間に(笑)
明日も朝から仕事なんだけどね~(爆!)
「・・・えっ?それって・・マジで?」
「ごめんね、本当にごめんなさいっ!あれだけ大騒ぎして
あなたを振り回して、結果これじゃ、誰だって怒るよね。
私もあの時は混乱しちゃってて、あなたに電話した時は
本当にどうしようか、って。だって私、てっきり・・」
「あ・・は、そう。そうか・・そうなんだ」
「レウォン、君?」
頭の中が真っ白になった。
携帯の中から聞こえるミナの声が、何度もリフレインする。
あの時はびっくりして、正直心臓がドキドキしっ放しだったけど、
今回掛けたこの電話で、正式に僕から申し込もうと思っていた
んだ。
「結婚してくれ」って。
それが、蓋を開けたら真実は怒涛の急展開。
勘違いだった? 想像何とか?
99%もの確率で判明する、いわゆるそういう類の便利グッズ。
「陽性だって」って言われたのは、つい昨日の夜。
なのに結果は、まさかの残り1%?
『オーマイゴッド!!』
神様、それってちょっと悪戯が過ぎやしませんか?
覚悟した。
いや、こういう言い方はミナに対して失礼だな。
さすがに最初は驚いたけど、慌てて電話を掛けてきたあの時の
ミナの声を聞いていたら、目の奥がジーンと熱くなってきて。
どういう風に表現したらいいか分からないくらいの感情が、猛烈に
僕の中から溢れてきた。
その時、ミナには照れくさくて言わなかったけど
・・・嬉しかったんだ。
僕が親父になる。
僕を呼ぶ愛しいミナの高い声と、甘いミルクの匂いの小さな命。
朝は仕事に向かう僕を、子供を抱いたミナが笑顔で見送って
くれて。
夜は疲れた体を抱えて帰った僕は、並んで眠るミナと子供に癒
される。
一瞬で妄想してしまったんだ。
ものすごく現実的で、それでいてふわふわした、そんな光景を。
それなのに・・・
「レウォン」
「ヒッ!」
突然背後から掛けられた聞きなれた声に、僕は驚いて妙な奇声
を発してしまったらしい。
慌てて「また後で」と携帯を切り、思わず辺りを見渡すと、目の前
には予想通り怪訝そうな顔をした父さんがいた。
「どうした、夜中に変な声出して」
いやいや、何でもないよ父さん。いや、ヒョン。
そんな興味津々の顔で、僕を見ないでくれ。
いや、何でもないんだ。ミナがね・・・いやいや、違う。
僕に子供が出来たとか、それが間違いだったとか。
誕生日が来たばかりの父さんは、まだ41歳だってのに危うく
爺ちゃんになるとこだったんだぜ、とか。
あ、いや。結婚とかそういうのはもうちょっと先かなぁって思って
はいたけど、実はさ、それもいいかなぁなんてさ。ちょっと本気で
思ったりして・・
「どうした。変な奴だな。顔がにやけてるぞ」
「へ?えっ?!べ、別に?」
マズい。もしかして今、また妄想してた?
まさか声に出したりなんか・・・してないよ、な?
「あは、まさか。何言ってんだよ。んな訳無いだろ。無いよ、無い・・
え、と。じゃ寝るわ。父さんまた明日」
「レウォン」
「あ、ん?」
何だか気まずくて、早々に退散しようとしたら背後からあの低い声。
僕の足は止まったけれど、振り向けない僕はそのまま天井を
見つめていた。
「良い男になってきたか、お前」
「・・何、が?」
「そりゃそうだ。お前は俺の息子なんだから当然だな」
「・・何の事?」
「信じてるぞ、俺は。俺はお前を信じてる。お前が選ぶもの、
全てをな。なぁ、思い出してみろ。俺が笑と夫婦になれたのも、
こうしてお前の親父でいられるのも、ユキに会えたのも、全部
お前のおかげなんだから」
「そんな、子供の時の事・・昔の話だよ。もしかして酔ってるの?
バースデーパーティーは明日っしょ」
「そう、そうだな。笑がまた張り切ってるよ。今回は日本料理の
コースにするんだそうだ。電話途中にしちゃって悪かったな。
明日、ミナちゃん手伝いに来てくれるんだろう?来たら俺から
謝っておくさ。お休み、レウォン」
背後から足音が遠ざかっていく。
バタンといって今閉まったドアは、きっと両親の寝室だ。
今、僕の顔はきっとさっきよりずっとニヤついているに違いない。
それは、あの妄想が妙に現実的だった理由が分かったから。
あの時妄想したイメージは、僕にとっての父さんの記憶だったんだ。
出会ってから今までの、父さんの笑顔の記憶・・・
あの人がいたから、今の僕がいる。
あの人がいたから、僕らは家族になれたんだ。
やっぱり決めた。
本当はずっと思っていたんだ。あの事がなくても、もうそろそろ
って思ってた。
びっくりはしたけど、嬉しかったんだ。本当に・・嬉しかった。
明日。
バースデーパーティーにミナが来たら、申し込もう。
きっとミナはびっくりして、あの大きな目から涙を流してしまう
だろうけど、そこは一生のキメどきだからね。
300本のバラとはいかないけど、ミナの好きな白いバラを1本
差し出してドンヒョクばりにキメながら、こう言うんだ。
「僕と・・・家族になってください」 って。
再掲 「ダスティンホフマンの様に・・」
今朝、掃除をしようと掃除機をかけていたら、この寒さで部屋を閉め切って
いた寝室の火災報知機が、けたたましく鳴り出したんです!
何度消しても鳴る警報機。旦那はタバコ吸わないし、火の気なんかどこにも
ないのに・・
「もしかして・・・ホコリ?」
急いでリビングにあったプラズマクラスターを寝室に移動!
すると、止まりました。ホコリが充満しちゃって静電気発生?
そんなのでも火災報知機作動するんですね。びっくりしましたよ。
寒いからって部屋閉め切りはヤバイです!
花粉が入ろうが、寒かろうが換気は必要ですね(笑)
明日は2月14日。
バレンタインデーです♪
例年なら記念創作とか出してるんだけど今年は無理でした(すみませんッ!)
なので、旧作ですが去年の「KA・ZO・KU」シリーズのバレンタイン創作を
再掲しますね。個人的にちょっと気に入ってるお話です^^
年に一度、心に秘めた愛する人に自分の想いを伝え、
恋人達は愛を語り合う日・・・聖バレンタインデー。
今年のその日は、ちょうど旧正月とぶつかった。
去年の夏から働き始めた僕は、慣れない仕事や、
緊張の連続で、しばらく他の事は何も考えられなく
なってしまっていた。
大学を休学した社会人1年生と、
将来の選択を迫られる音楽大学の4年生。
あの頃、2人のスケジュールがうまく合わず、
毎日のメールと時々の電話での会話だけが、
僕達の間を繋いでいた。
疲れてボロボロになった夜も、彼女の声を聞けば癒されたし、
その元気なメールを読むたびに、僕は自然に笑顔になれた。
お互いの今日の出来事。
昼に食べたチゲの味。
話題のドラマの今後の展開予想。
飼っている猫が産んだ4匹の子猫の成長。
それは他愛の無い、繰り返されるいつもの会話。
「ねぇねぇ♪」で、始まる彼女の言葉と、
「ふーん、そうか」で、終わる僕の相槌。
おやすみ・・と切った携帯を握り締め、
僕は毎晩ベッドに入る。
頭の中は、今聞いたばかりの彼女の声でいっぱいで。
朝の光が部屋に差し込むまでの数時間、
無理に目をつぶった僕は、いつもなかなか寝付けなかった。
本当は時間なんか、作ろうと思えば作れたんだ。
僕の仕事は不規則だけれど、同じソウルの街の中。
事務所と彼女の大学は、車で30分も飛ばせば行ける距離。
少し無理をすれば、愛しいその顔が見られるのに、
僕は忙しさを理由に、彼女の誘いを何度か断った。
仕事での失敗や、自分の不甲斐無さに凹んでる姿を、
その時の僕は、彼女に見られたくなかったんだ。
逢いたくて堪らなかったのは、僕の方だったのに・・
彼女の悩みも分かっていた。
目指すオペラ歌手への道が、現実には果てしなく
遠い道になりそうだという事も。
だけどあの時の僕は、彼女に向かってどんな風にこの手を
伸ばせばいいのかさえ分からなくなっていたんだ。
・・自分の事で、精一杯で。
「どうしたの?何かあった?」
携帯の中の彼女の声が、心配そうに僕に語りかける。
自分から電話を掛けておいて、
彼女の冗談に笑えなくなっていた僕。
どうして怒らないんだよ。
こんなに君に冷たい僕を。
どうしてそんなに優しいんだ。
もっと僕に感情をぶつけていいのに。
いつも君は僕の味方。
僕は・・君の何なのだろう。
そして、あの瞬間。
自分からぎくしゃくさせている彼女との関係。
罰が当たったんだ。
彼女に甘えていた、僕に罰が。
移動中の車の中から見た、あの光景。
助手席で固まる僕の背中に、異様な感じを受けたんだろう。
後部座席の父さんが、僕の視線を辿った。
「ミナちゃんじゃないか。おい、レウォン!」
そんな事は分かってる。
ここは彼女の大学に近いカフェだ。
彼女が友人とテラス席でお茶を飲んでいても
何の不思議も無い。
その相手が僕の知らない男で。
そいつが彼女の手を、テーブルの上で握ってさえいなければ。
「レウォン。今日はもういい。上がれ」
CM撮りのロケからの帰り道。
この後、事務所でまだミーティングが残っている。
普段、仕事中は私情を挟まない父さんが、
この時は、僕を息子として扱った。
後から聞いたら、父さんと母さんの間にも
似たような経験があるらしい。
すれ違う時間。
互いに口に出さない想い。
誤解が誤解を生んで・・・
父さんは、母さんを泣かせた。
「ちゃんと解決しろ、レウォン。
ミナちゃんを失いたくないなら」
マイバッハから転げ落ちるように、
今通り過ぎたばかりの交差点へ向かって
僕は走り出した。
その背後に、先輩のエールのクラクションが高く響く。
角を曲がった先にあるオープンカフェ。
道路に面した一番奥の席。
ミナはすぐに見つかった。
彼女の前には、大きなカフェオレカップと、
何故か僕の大好物のクリームブリュレ。
そして相手の男は、僕の目の前で、
エスプレッソのお代わりをギャルソンに頼んだ。
「あれ?あれ?ジュニア!!うわっ!噂をすれば、だわ。
ね、どうしたの?どうしてここに居るの?仕事は?」
その素っ頓狂な大声に、店にいた誰もが振り向いた。
ミナが・・僕の存在に気付く。
いきなり目の前に現れた僕の顔を、
ミナは大きな目をさらに丸くして見つめている。
大声の主が、僕をミナの横に強引に引っ張っていった。
それはミナの大学のバイオリン科の学生。
僕も何度か一緒に食事した事もある、ミナの親友だった。
父さんの太王を見てかぞくになったと言うこの娘は、
それから僕の事をジュニアと呼ぶようになったんだ。
「ほらね?ミナ。言ったでしょう?私の彼の占いは
当たるんだって!“待ち人来る”言われてまだ10分も
経ってないじゃない。あんなに逢いたがってたジュニア
の方から飛び込んで来たわよ」
「・・レウォン君。どうして?」
「何してた?」
「何って・・えっと・・」
「来て」
「え?」
「すみません、ミナはこれで帰ります。
ミンジャさん・・でしたね。また今度」
「うん。ジュニア、ミナをお願いね。ミナ!あの占い、
信じていいんだからね。彼の言葉、思い出して!」
ミナはその言葉に小さく頷くと、
僕が伸ばした手を静かに取った。
「行こう」
「・・うん」
久しぶりに握ったミナの手は、少し冷たかった。
控えめに差し出すその小さな手を、僕は強く握り返す。
奪うようにミナを外に連れ出し、ふと振り向くと、
奥の席で、エスプレッソがミンジャの肩を抱いていた。
「ちょっと、レウォン!男は入ってきちゃダメよ。
ここは女の聖域なんだから。向こうでお義父さんとジュンが
映画見てるわよ。どうせ映画に行くつもりだったんでしょう?
あんたも一緒に見てればいいじゃない」
今日は旧正月。
そして、恋人達の特別な日。バレンタインデー。
キッチンでは朝から料理の準備で大忙しだ。
母さんとお婆ちゃん、そして・・ミナ。
3人の大量の料理との格闘技戦は、まだまだ終わりそうに無い。
バレンタインと旧正月が重なってしまった今年。
もちろんデート予定だった僕達は、母さんからの突然の呼び出し
を食らい、今、父さんの実家にいる。
「僕達が見るつもりだったのは恋愛映画。
ゴッドファーザーなんだよ、父さん達が見てるのは。
僕、あれ5回も見た。よく飽きないよな。お爺ちゃんも
父さんも画面に釘付け。夢中なんだもん・・
ねえ、母さん。ミナはまだこっちに必要なの?」
「は~ん、なるほど。寂しくなったのね」
「な!そんなんじゃ・・ないよ」
「ミナちゃーん、ジュニアがね。寂しいから
傍にいて欲しいって!」
「ば、馬鹿!母さん!!分かった。いいよ、本でも
読んでるから、っていうか・・え?
どうして母さんがジュニアって言うんだよ!」
「占いが当たるんですってね、その子の彼氏。
今度私も占ってもらおうかな」
「質問の答えになってないよ、母さん」
「アハハ、ミナちゃーん。で?どこまで聞いたっけ。
レウォンが焼きもち妬いて、凄い勢いで飛び込んできた
んでしょう?カッコよかったんだって?強引に手を引いて・・
“卒業”のラストシーンみたいに2人でバスに飛び乗ったって?
キャー!ジュニアって情熱的~~!!」
「・・・母さん!!」
キッチンで、ミナの高く響く笑い声が聞こえる。
お婆ちゃんも、うふふと楽しそうに笑っていた。
リビングでは、父さんがお爺ちゃんと並んでソファーに
座り、映画を見ている。
父さんが組んだ長い足を枕にユキが眠っていて、
時々父さんは、サラサラのユキの髪を指で撫でていた。
チョコレートの甘い香りが家中に満ちてきた。
ミナが正月料理の手伝いから開放されて、やっと
バレンタインのケーキを焼き始めたんだろう。
母さんはきっとこれから
父さんの好きなコーヒーを淹れるはずだ。
『素直になれ、レウォン。自分の心に嘘をつくな。
最近のお前が空回りしていた原因は、ここにもあるんだろう?
早く行け。ダスティンホフマンみたいに強引にさらって来い!』
“父さん。僕は・・
ダスティンホフマンになれたの・・かな”
バレンタインの休日。
その甘い香りを吸い込んで、僕は小さく微笑んだ。
KA・ZO・KU 「追いかけっこ」
クリスマス創作です♪
今回は、イベントもありましたし、やっぱりKAZOKUで・・
この↑画像と名古屋での彼の行動から妄想したお話。
私が書くとこんなになるのよね~^^
「ちょっと・・君!」
「はい。どうしました?何かありましたか?」
リハが終わった、少しのんびりムードの楽屋通路。
他の人より少し遅い昼食後、コーヒーの自動販売機の
前にいた僕の背後で、誰かが急に声を掛けた。
条件反射の様に返事だけして、僕は熱いコーヒーの
入った紙コップに手を伸ばした。
去年事務所に入った僕にとって、
父さんの来日公演は2回目。
日本語の出来るスタッフは少ないし、自慢じゃないけど
僕は腕力も体力もある20代。
しかも朝。
リハが始まる前にうちの社長が全スタッフの前で、
「何かありましたら、とりあえずこのぺ・レウォンに。
ヨン様と同じ名前です。憶えやすいでしょう?」
だなんてジョーク交じりに紹介してくれちゃったおかげで、
僕は大忙し。ドーム中を駆け回っていたんだ。
舞台設営、会場案内、ボランティアの配置、
果てはグッズの不良品管理まで、誰もが僕の顔を見かけると、
あれこれ声を掛けてくる。
どうして僕に?って事もいっぱいあるし、さすがに分から
ない事には関われないけれど、イベント成功のために僕が
出来る事は何でもしないといけなかったから、とにかく僕は
走っていた。
そんな僕にまた声が掛けられた。
やっと今日初めてのコーヒーに手を伸ばしていた午後2時半。
父さんや、出演者の人達は、メディアと選ばれたかぞくの人
とのフォトセッションにそろそろ向かう頃。
「君・・誰?」
「えっ?・・うわっ!あちー!!」
思いがけないその言葉に、僕は手に持っていたコーヒーを
うっかり手にこぼしてしまった。
声の主が慌てて駆け寄ってくる。
「ごめん!大丈夫?」
「・・いえ。すみません、だいじょぶです・・あれ?」
顔を上げ、スポーツタオルを僕に貸してくれたその人を
見た僕は驚いた。
事務所所属の歌手で俳優。父さんがその才能に惚れ込んで
引き抜き、育てていた人だった。
「急に声かけて悪かったね。やけどしなかった?」
「大丈夫です・・あ、すみませんリダさん。
タオル、汚しちゃいました」
「いいよ、そんなの平気」
「後で洗ってお返しします。リダさん、いいんですか?
もうすぐフォトセッション始まるんじゃ」
「平気、まだ時間あるし。ね、君、うちのスタッフだよね。
ヨンジュンヒョンに付いてる。前に何度か見かけた事ある
けど、今回、一緒の便で来なかったよね。
それとも、僕が気がつかなかっただけかな」
「え?」
右手に半分こぼれたコーヒーの紙コップ。
左手にコーヒー色に染まったスポーツタオルを持った僕は、
バカみたいにリダさんの顔を見つめて固まってしまった。
・・何で僕なんかに声を?
どの便で僕が来たかって?
何を言ってるんだろう、この人は・・
「僕は今回前乗りだったんです。警備の事とかヒョンの
希望があって空港との打ち合わせなんかもあったから」
「警備?君が?あの警備を?」
「いえ、僕は空港サイドと話を詰めただけで、何も
してないです。実際にはSPの方とかが・・」
「4000人のファンを事故なく丁寧にって、あれ?
ヒョンが成功してすごく喜んでた。
ふ~ん、君、若いのにやるんだね。僕より年下みたいだから、
入って間もないんじゃないの?それに、ヒョンのスタッフって
入れ替わりが極端に少ないって聞いてたけど、よく入れたね」
「え?まぁ、はい」
「ゴメン。こんな所で立ち話・・少し座ろうか。
コーヒー、僕も飲むから新しいの付き合ってよ」
リダさんは、僕の顔を真っ直ぐに見ている。
優しい言葉の割に、その表情からはトレードマークの
甘い微笑みが消えていた。
ヨンジュン付きの僕は、基本父さんと行動を共にしている
けれど、最近の僕は他にも仕事を抱えていた。
父さん自身がプロデュースをしている新作ドラマ。
僕はそのドラマで制作の正規スタッフとして加わっている。
なので自然、僕は現場、父さんはカレンダーやCM撮影にと
別々の仕事の時も多くて、僕はリダさんとは数回しか会った
事が無かった。
いや、正確には会ったって言うか、僕が勝手にそう思っていた
だけで。父さんは僕を特別に紹介なんかしないし、一スタッフ
の僕を憶えているなんて、考えられない事だったから。
リダさんは、僕に一体何が言いたいんだろう。
わざわざそんな僕を呼び止めて話をするなんて・・
新しいコーヒーを手に僕達は、楽屋通路のベンチシートに
並んで座った。
向かい側では、イベントの日本人MC2人がメディアから
の取材を受けている。
リダさんの顔を見つけた男性MCは、軽くこっちへ会釈すると、
また、大袈裟な身振り手振りを交えながら大声で話し始めた。
その声と正反対に、
リダさんは正面を向いたまま小声で僕に話しかけた。
「昨夜。ヒョンの部屋に行ったでしょう?君。夜中に」
「え?あぁ。はい。行きましたけど」
「どうしてかな。僕は本番前だからって入れてくれなかった。
ちゃんと睡眠を取って明日に備えろって」
「ハハ・・言うでしょうね、ヒョンならきっと」
「でも、君は入れるんだ」
「どういう、意味ですか?」
「それは僕が知りたい。どうして君は特別なのかだ。
SPもスタッフもドアの前にさえ行けなかった。なのに、
ドアを開けたヒョンは笑ってたし、君の肩まで抱い・・」
「ちょっと待った!あ!そうか、リダさんは僕を知らないん
ですよね。何の話かと思いました。しかも僕、朝から色々
あったから、もう頭、混乱しちゃってて・・
すみません。僕、ぺ・レウォンっていいます。
ヒョンの息子です」
「息子?」
カミングアウトした僕の顔を、大きく目を見開いて
リダさんが凝視する。さっきまでの表情は消えて、顔には
うっすらと赤みが差してきた。
「息子って言っても正確には母の連れ子ですけど。
ヒョンと、いや父さんと僕は16しか離れてないから。
・・聞いた事なかったですか?母と僕と妹の事」
「いや・・知ってた。ヒョンの事は全部調べたから。
ヒョンに家庭がある事も、子供が居る事も」
「あの時は母からメールが来て父さんに見せに行ったんです。
妹が保育園のクリスマス会で天使をやったんで、その動画を。
母は父さんの仕事の時は、例えメールでも絶対邪魔しないから。
案の定、動画見て父さん、ニヤニヤが止まらなくなっちゃって」
「そう、君が・・レウォン君。ごめん、僕はてっきり」
「てっきり、何ですか?ハハ、まったく、そんな噂が立つのは、
父さんに家庭の匂いが全然しないからだな。
しかも体育会系で、すぐハグしたり肩組んだりするでしょう?
誤解されるんですよね。
家ではあれほど母さんにベタベタなのに。
年頃の息子の前で平気でディープキスするんですよ、あの夫婦。
有り得ないですよね」
「ヒョンが?」
「父さんのプライベートと公の区別は見事ですよ。
あんなに愛妻家で、子煩悩で、親バカな父さんも、
外に一歩出たら、アジアの恋人だ。
僕の事も、聞かなきゃ分からなかったでしょう?」
「あ、うん」
「昔は父さんを超えなきゃ・・そう思ってたんです。
大きすぎる壁に押しつぶされそうで。でも今は父さんの
ために仕事したいって思ってるんですよ。僕が出来る事、
全部しようって。
進むのを止めた訳じゃないけど、これがきっと僕の正解。
心の中では、まだ追いかけっこ、してるんですけどね」
「追いかけっこ?」
「時々そう思うんです。いくら走っても追いつかない。
でも走るしかない。そんな感じ」
「・・追いかけっこ、か」
そうだ。
そういえば以前、父さんととリダさんの様子を
少し遠くから見ていて思った事があった。
この人は、本当に父さんを尊敬してるんだなって。
リダさんのその想いが、本当はどういう類のものなのか、
僕は正直分からなかったけど、父さんを追うその真剣な
眼差しに、ちょっと嫉妬っぽい感情を覚えたりもした。
そうか。
この人も、父さんを追いかけてるんだ。
父さんに追いつきたくて。
父さんの全部を知りたくて。
手を伸ばしても、まだまだ遥か向こうにいる父さんに、
いつか・・近づきたくて。
「レウォン君。僕は・・」
「リダ。ここにいたのか。時間だぞ」
その深い声に、楽屋通路にいた全員が振り返った。
ダークグレーのスーツをビシッと着こなして、颯爽とそこに
立つ姿に、どこからともなく「ホゥ・・」と溜息が漏れる。
見慣れている僕でさえ、その醸し出すオーラの強さに
目眩がしそうだ。
「「ヒョン!」」
「どうした?お前ら!」
僕とリダさんが同時に立ち上がり、声を上げた。
僕達のその姿に、父さんの顔がパァ~っと笑顔になる。
突然の悩殺スマイルに、今度は溜息じゃなく「キャ~!」と
悲鳴が上がった。
「ヨンジュンさん!」
僕達より父さんの近くにいた男性MCは、立ち上がり大声で
父さんに礼をした。父さんも深く礼を返すと、今度は真っ直ぐ
に僕達の方に向かって歩いて来た。
「どうした?お前ら。アハハ!何だ?この2ショット。
リダ。レウォンの事、知ってたのか?」
「もちろんですよ。彼と僕は友達ですから。
そうだよね、レウォン」
リダさんが、僕の肩に強く手を掛ける。
僕は何だか以前からずっとそうだったかのように、その手の
熱さに親しみを感じた。ほんの数分で僕達は、お互いを理解
したのかも知れない。
「うんそうだよ、ヒョン。友達なんだ。前からのね」
僕がそう答えると、リダさんは僕の耳元でクスッと笑った。
それが何だか僕のツボに入って、僕もククッと笑う。
父さんは、僕達のそんな姿に??って顔。
それがまた可笑しくて、今度は大声で僕達は笑った。
その後のイベントは、大成功。
各国の歌手の歌の共演や、サプライズゲストの登場で
盛り上がり、
(リダさんのパフォーマンスの時、明らかに僕はリハの
時とは違った感情だった。大声で手を叩いて応援してたよ)
そしてその空気が最高潮になったのは、
父さんの登場時だった。
まるでドーム中に地鳴りが鳴り響くような拍手と歓声。
きっと他の出演者のファンの人達も、父さんのカッコ良さに
度肝を抜かれた事だろう。
やっぱり、僕の父さんは世界一だ!
今回の来日は、いろんな意味で僕の心に残る旅だった。
初めての空港警備。
初めてのチャリティーイベント。
初めてのかぞく写真。
初めて父さんに勝った卓球試合。
そして、初めて僕に、親友が出来た。
リダと父さんと3人で食事に行った夜の楽しさは、
言葉では表せないくらいだ。
ホント、東京バンザイ!そんな気分。
旅の終わりはその気分のまま、新幹線に乗って名古屋に。
これまた初めての東海道新幹線。
車内に父さんが居るって知れちゃって
(まさにヨンジュン新幹線なう)
駅での混乱も予想されたけど、そこはテンションマックスな
僕達。遊び心いっぱいに、僕は父さんに提案した。
「追いかけっこしよう、ヒョン。最初に僕が出るから。
そしたら二手に分かれて走るんだ。僕が遠回りするよ。
そしてヒョンに追いつく。僕の方が足が速いからね」
父さんはアハハと笑っていたけど、まんざらじゃなかったん
だな。僕の案は採用され、その後かぞくの人の間で話題に
なった、笑顔のヨンジュンの追いかけっこが始まった。
かぞくの人の歓声の中。
僕と父さんが構内を走る。
どっちが先に、車に乗るか。
負けた相手の顔を想像すると、自然にまた笑えてきて。
父さん。
もっと走ってくれ。
もっと遠くに。
僕の息が切れるくらいに。
それでも僕は追いかけるよ。
僕も、リダも、ずっとずっと父さんを追い続ける。
・・約束するよ。
名古屋での追いかけっこの結果。
それは・・
本当のKA・ZO・KUだけの、秘密。
誕生日創作 僕の夢、君の夢・・そしてKA・ZO・KU
いや~やっと書けた・・恒例誕生日創作です。
しかもこういう時に限ってディナーの仕事があるのよね。昨日は疲れて進まなかった
けど、今日は本気出したわ!(で、こんな時間^^)
改めまして、ヨンジュン!!
お誕生日、おめでとう!38歳のあなたに、今年が良い年になります様に♪
この家の、いや父さんの息子として育った僕は、
物心ついた頃から否応無く色んな経験をしてきた。
しかもこの仕事を始めてから、父さんの今まで僕に見せなか
った姿や、仕事に対する真剣な想いを目の当たりにして、
今まで僕が知っていた父さんの、半分も分かっていなかった
んだという事実に、息子ながらちょっと感動したりする場面
も多かったんだ。
前作の思いがけない大怪我の後、
父さんは次回作をなかなか決めかねていた。
自分が演りたいもの。
今の自分に出来るもの。
かぞくが望むもの。
etc、etc・・・
世間をあっ!と言わせたい遊び心と、
冷静に『今』を読む目。
そして、父さんの手を引いてくれる、
決定的だった頼もしい出逢い。
新しいヨンジュンとしての仕事を間近で見ていた僕は、
その真摯さと結構な豪腕ぶりに、正直衝撃を受けた。
昔から男らしい人だと思っていたけれど、ここ数年の
父さんは、僕が言うのもなんだけど、一皮剥けたって
いうか。何か迫力が違う。
「自信がついてきたんだと思うよ、色んな意味で。
怪我以降、色々思うところはあったんだろうし。
あの旅も制作側を体験する事も、ヒョンの中で必要な事
だったんだ。きっと今後の演技にも生かされる。
まだこれからだ。ここからだよ、ヒョンの真価は」
ある打ち合わせの時、まるでドンヒョクばりに議論を戦わ
せる父さんを部屋の隅で見ていた僕に、社長が耳打ちした。
そうだな。
本当にそうかも知れない。
父さんの演技を何年もずっと待ってくれてるかぞくの人には
本当に申し訳ないけれど、今のこの父さんを見てくれれば、
きっと分かってくれると思うんだ。
・・うん。きっと。
だから僕は、もう仕事に関してはちょっとやそっとじゃ驚か
なくなっている、なんて思っていたんだけれど、今回の事は
そんな僕もさすがに驚いてしまった。
いや・・驚いたっていうより、動揺したって言うべきかな。
事が自分自身に及んで、僕は本当に慌ててしまったんだ。
僕が何にそんなに動揺したのか、っていうと、
それは昨日の日曜日。父さんの38歳の誕生日。
今度のドラマのオーディション会場での事。
僕はスタッフの一員として名簿を持ち、受験者の待機
する廊下に向かって、順番がやってきた人の名前を読み
上げていた。
鳴り物入りで発表された、国民的俳優である父さんの
約3年ぶりの新作。
しかも制作自体に父さんが携わる今回の作品には、
沢山の新人俳優が登場する。
一般公募でのオーディションも後日大々的に行なわれる
予定だけど、この募集は俳優としての募集じゃなくて、
歌とダンスで物語を彩る、エキストラ的な存在だった。
セリフも役名も無い役だけど、物語のあらゆる場面に
彼らのパフォーマンスが存在する。
そんな役のオーディションでも、話題のヨンジュンドラマと
いうこともあってか、たった数名の募集に40名近くが集まった。
30人程の審査が終わり、残りあと数名となったところで、
呼び出そうとした次の受験者名を見て、僕は飛び上がる程
驚いた。
思わず、審査員席にいる父さんの方を振り返ったくらいに。
「どうしたレウォン、早くしろ」
父さんは表情ひとつ変えずに、僕に命じる。
僕は名前を呼ばずに、ただ「次の人・・」と言った。
ノックをして入ってきた受験者は、やはりその人で。
僕は決して広いとはいえないその会場で、思わずその名前を
叫んでしまったんだ。
「・・・・ミナ!!」
「オーディション中だ。静かにしろ、レウォン」
試験官としてテーブルの中央に座る父さんが、
動揺する僕を一喝した。
そこに現れたのは・・僕の恋人ミナだった。
ミナは僕の顔をほんの少し横目で見ると、静かに居並ぶ
試験官の前に立った。
「32番。キム・ミナです。今年ソウル音楽大学声楽科を
卒業しました。どんな役でも結構です。歌わせて下さい」
「ミ!・・・ナ」
伸ばしていた髪をバッサリとショートにし、
毅然と前を向くミナ。
それは、ほんの数週間前に僕の前で泣いていた、
ミナじゃなかった。
去年、音大卒業を控えたミナは、希望していた歌劇団の
試験に立て続けに落ちた。
オペラ歌手への道は、特出した才能のない普通の成績の
音大生には、ほんの僅かな狭き門。
このままレッスンし、いつ開くか分からない門を叩き続ける
べきか、または御両親が希望している自宅での音楽教室を開き、
子供達に歌を教えていくべきか。
ミナの悩みを、僕は分かっていたつもりだった。
一人娘である彼女が、御両親の望みを簡単に断われない性格
なのも分かっていたし、中学の頃からずっと想い続けたオペラ
歌手になるというその夢は、そもそも僕とミナの歴史の始まり
でもあったのだから。
電話やメール。
時々のデートでの彼女の涙。
結局、御両親の言う通り教室を開く事にしたミナ。
「決めたわ・・」と少し寂しそうにしていたけれど、
最後に会った時には、準備で忙しいと笑ってもいたのに。
そのミナが今、堂々とアリアを歌っている。
僕は、目の前で行なわれている光景が信じられなかった。
「はい、結構です。キム・ミナさん。このドラマでは歌手や、
ミュージカル俳優を目指す学生が登場します。あなたはずっと
クラッシックを専攻されていたんですよね。ドラマの必要上、
他のジャンルも歌っていただくかも知れません。出来ますか?」
パクさんがミナに質問する。
ミナは小さく息を吐いたあと、はっきりした声で答えた。
「もちろんです。どんな役でも、どんな曲でも構いません。
歌わせてください。よろしくお願いします」
僕は混乱していた。
どういう事だ?ミナがドラマに?
しかも書類を見ると、
ミナの所属はいつの間にかうちの事務所になっている。
会わなかった数週間の間に何が起こったのか。
昨日だって電話した時、何も言っていなかったのに・・
その後、まだ数人のオーディションがあったはずだけど、
僕は正直言ってよく憶えていない。
どうやら動揺し、混乱した僕は色々ポカをやらかした
そうなんだけど。
「おいレウォン、帰るぞ」
「・・えっ?」
オーディションが終わった会場でボーッとしていた僕に、
車のキーホルダーをくるくると廻しながら近づいてきた
父さんが明るく声をかけてきた。その目が悪戯っぽく笑っ
ている。今回の仕掛け人は、やっぱりこの人か・・
「ヒョン。知ってたんだ」
「もちろん。彼女はうちの所属だぞ」
「僕は知らなかった」
「だろうな。正式に契約したのは今日だから」
「はぁ?」
「相談されたんだ、ミナちゃんに。もしかして俺なら、
どこか彼女が歌える場所を知ってるんじゃないか、そう
言ってきた。やっぱりまだ歌いたい、諦められないって。
御両親とも話し合ったんだそうだ。
“もう一度だけチャンスを下さい”って。
結構大変だったみたいだけど、押し切ったみたいだぞ。
でも残念だけど、俺はそっち方面に知り合いがいなくて
さ。で、うちの社長に聞いてみたのさ。そしたら・・
俺は小さい時からミナちゃんを知ってるし、今までお前の恋人
として見てたから気がつかなかったが、社長がすっかり気に入っ
ちゃってさ。どうせなら、うちからどうかって事になったんだ。
俺も御両親に挨拶に行ってきた。それが、一週間前」
「どうしてそんな大事な話・・僕に一言の断わりもなく?」
「彼女の人生だ。決めたのも彼女だぞ。お前・・ちゃんとミナ
ちゃんの声を聞いてたのか?彼女が欲しかったのはお前の慰め
なんかじゃない。もう一度、お前に強く背中を押して欲しかっ
たんだよ。ミナなら出来る、諦めるな!って」
「あ」
そうだ。僕はあの時ミナに言ったんだ。あの漢江公園で。
“やってみればいいじゃん。
だめだったら、またやり直せばいいよ”
そして僕達は友達になったのに。
どうして僕は、真剣にミナの声を聞かなかったんだろう。
「悩む事なんかじゃないか・・
私に才能が無いから仕方ないのよね」
寂しそうに笑っていたミナは、僕の言葉を待っていたんだ。
いつも僕の事を心配してくれるミナ。
そんなミナを僕は抱きしめる事しかしないで・・
「ヒョン!ミナは?ミナはどこ?」
「ん?」
「だから・・」
「そうだなぁ、オーディションの結果は明日だから。
・・帰ったんじゃないか?家に」
その言葉を半分も聞かずに、慌てて部屋を出て行こう
とする僕を、父さんが笑いながら止めた。
手に持ったキーホルダーをチリリンと耳の横で振りながら。
「レウォン!何処行くんだ」
「決まってるだろ、ミナの家。ミナと話さなきゃ」
「バーカ。お前、焦りすぎ。ミナちゃんの方がよっぽど大人
だな。さてここでクイズです。今日は何の日でしょうか?」
「え?なんだよ、こんな時に」
「だから冷静に考えろって。今日は何の日?
お前、笑とミナちゃんが何か約束してたの憶えてないのか?」
「約束って・・」
「まったく。アジア中のかぞくにとって、今日は特別な日なん
だぞ。まさか、息子に忘れられるとは思わなかったな。
ま、その年になれば親父より恋人の・・」
「うわっ!そうだったぁ・・父さん、帰るよ。早く!」
「ん?どこに?」
「意地悪だな。決まってるだろ、家だよ。
父さんの誕生日には、ミナと母さんが料理作るんだ。
母さんが張り切ってる。早く帰らないと雷が落ちるよ」
「あはは、やっと思い出したな。そうさ、笑を怒らせたら大変
だ。家族揃っての誕生日は笑の願いだからな。よし、帰るぞ。
お前もミナちゃんにちゃんと謝れよ」
「わ、分かってる・・よ」
その後の誕生パーティーは、ほぼ母さんの独壇場だった。
朝から仕込んでいた牛のワイン煮込みに、ミナも手伝った
チョコレートスフレ。
父さんの好きなワインがまた開けられる頃、
僕はミナを部屋に誘った。
「ふふ、今日は楽しかったわ。おば様のお料理も美味しかっ
たし、久しぶりにユキちゃんとも遊べたし。急に用が出来ちゃ
って最初からお手伝い出来なかったのが残念だったけど」
「ミナ」
「仕事中のレウォン君もカッコよかった。廊下で私、ずっと
見てたのよ。名前呼びに来るたびに、その人に目で“頑張って”
って言ってたでしょう?あれで皆、緊張がほぐれたんじゃない
かなぁ。私、何だか鼻が高かったんだから」
「ミナ、ごめん。お前の夢、僕は分かってたはずなのに・・」
「やだ。謝らないで。私、自分で決められたの。パパ達にも、
自分の気持ちがちゃんと言えたし、おじ様にも自分で電話した。
でも私、今日あそこで歌ってて思ったの。それでも私、甘えて
たんだなって。レウォン君に相談してた時、確かに背中を押して
欲しかったけど。おじ様やレウォン君に相談すれば助けてくれる
んじゃないかって思ってたのよ。実際恵まれてたしね。
・・今日の皆、真剣だったの。小さな役だけど、皆、真剣。
私なんてちっぽけで、まだまだで・・すごく小さかったの。
レウォン君。私こそゴメンね。勝手に受けて驚かせちゃったよね」
「いや・・うん。正直驚いた。予想もしてなかったし。
それに、父さんに言われてパンチ貰った気分だった。僕こそ、
ミナに甘えてたんだな。いつも会えば自分の事しか話さなかった。
本当に・・・ゴメン」
僕達はそれからお互いに謝ってばかりで。
そのうち2人とも顔を見合わせて、同時にふきだした。
そしたら今度は笑いが止まらなくなって、涙なんかも出てきたり。
そのミナの涙を僕が指で拭うと、ミナは照れたようにまた笑った。
「おい!レウォン!お前ら、まさかそこでイチャイチャしてるん
じゃないだろうな。下りて来いよ。ワインもう1本開けるから」
「ジュン!あなたまだ飲むの?もう5本目よ」
「あれ?誕生日だから今日は好きなだけどうぞって言っただろ?」
「もう誕生日は過ぎたもの。12時過ぎればもう普通の日。
これはまた今度ね」
「そりゃないよ。笑、あと1本!」
「明日もお仕事でしょ?ダメです。レウォン、ミナちゃん。
コーヒー淹れるわ。下りていらっしゃい」
そんな母さん達の会話がおかしくて、
僕達は、また顔を見合わせて大声で笑った。
仲良しの僕の両親。
僕達の理想だ。
今回の結果がどうでも、僕はミナを応援していく。
下手な慰めも大袈裟に背中を押すこともしないで、
ミナが進んでいく道を、僕は静かに見つめていくんだ。
きっとミナもそう言ってくれると思う。
・・僕達はまだ、始まったばかり。
朝。
出社すると、事務所の掲示板に、
オーディションの結果が張り出されていた。
合格者2名。
そのうち片方の数字は・・「32番」だった。
妄想短編 「フェラーリに乗って」
ああ・・書いてしまった。
しかもこんな時間。妄想は人を寝不足にしますねぇ^^
あのフェラーリヨンジュンから、こーんな話を。
やっぱり私はこのキャラで・・(笑)しかも私には珍しいR付き?(笑)
「え?本当に買ってくれたの?」
「当然さ。君、前から欲しがってたじゃないか。知り合いの
ディーラーに先日頼んでおいたんだけど、今日連絡貰ってさ」
「わ~!本当に?ありがとう~」
「明日納車なんだ。一番最初に、君を乗せたくて」
「やっぱりあなたは私の王子様だわ!私の願いを何でも
叶えてくれるんだもの」
「・・惚れ直した?」
「うん!だ~い好き♪」
女は、男の大きな胸の中に飛び込んだ。
男の逞しい腕が、女の細い腰を強く抱きしめる。
少し乱暴に女の首を掴んだ男は、その赤い唇を噛み付くように
奪った。息も出来ないほどの激しい口付け。
そして男は、女をベッドに押し倒す。
「・・痛いっ!・・どうしたの?いつもと違う・・」
「君は、こういうのは嫌い?」
「ううん・・・そうじゃないけど・・・あっ・・」
・・・嫌・・
やめて・・そんなこと・・
誰なの?その人は誰?
嫌・・離れて!
あなたには、私がいるのに!!
「嫌よ。やめて!ジュン!!」
「うわっ!びっくりした。どうしたの?急に大きな声出して」
「・・・・・え?」
「夢見てたの?怒ってたみたいだけど。俺が、夢で何かした?」
「あ。ううん・・ゴメン。そうじゃ、ないの」
「疲れてたんだね。このところ忙しかったから。
もう少し寝てる?もうすぐ海が見えるけど」
「海?」
「俺の方こそ急にゴメン。納車したコイツ見たらどうしても
最初に笑を乗せたくなってさ。でも、やっぱりこの車にして
良かったな。ハイブリッドだから音も静かだし。
ね?乗り心地サイコーだろ?」
・・夢?
そうか、夢・・よかった・・
思いだした。
午後一で、事務所に突然ジュンがやってきたんだったわ。
ほんの2分前に「午後、直帰出来る?」
ってメールが来て。
何事かと思っていたら、ニコニコ顔でやってきた彼に
私は抗議する間もなく拉致られて。
トップスピードになるのに、たった何秒だったかしら?
満面の笑顔で自慢する彼の顔が眩しいなあ・・って思った
ところで私、眠っちゃったんだ。
真っ赤なシートのフェラーリ。
ジュン、ずーっと前から欲しかったのよね。
カタログがいっぱい書斎にあるのを、私、知ってた。
昨夜寝不足なのは、ジュンの方でしょう?
納車になるのが待ちきれないって、ウキウキしてたもの。
でも・・やだな。あんな夢見るなんて。
嫉妬深い妄想癖とか、欲求不満の人みたいじゃない!
・・私、変な事、口走ってないわよね?
「笑」
「・・ん?何?」
「今夜はこのままどこかで泊まろう。ユキはレウォンに頼んだから」
「えっ?やっぱり私、何か変な事、言ってた??」
「変な事?何、それ」
「ア・・ハハ、いいのいいの。違うならいいの」
「何?どうした?」
「ア、ハハ・・・・・うわぁ、海よ、ジュン!」
「ああ。綺麗だ」
ジュンと久しぶりの夫婦水入らずのドライブ。
結局その夜は、あの夢が現実になっちゃった。
キャストが私に変更しただけ。
もしかしてあれ、予知夢だったのかな?
「また行こうな」
ってジュンは言ってくれるけど。
でもあの車・・・・ものすごく目立たない?
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