2009/09/19 00:41
テーマ:創作 甘い記憶 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作  甘い記憶

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やっぱり、土曜日。


今日の創作は、「鳳仙花が咲くまでに」の最終話から少し後。

その年のバレンタインの光景です。

これは今年のバレンタイン創作として書いた作品。


やっと幸せになったバーニーと操。甘~い新婚生活です^^



お話を読む前に復習です(笑)


バーニーはNY時代、階段から落ちそうな子供を助けて、自分が事故に遭い、

足が少し不自由です。
そのせいでダンサーになる夢を諦めざるを得なかった・・

今回はそんな過去を踏まえてお読み下さいね♪

 





 

 

「さて。これだけあれば大丈夫。

仁さんはアーモンドでしょ、代表はビター。

拓ちゃんは、ああ見えてイチゴ味が大好きなのよね。

ホント、いつまでも子供なんだから。

常さんはやっぱりコーヒー味、っと。あん!ダメ、またつまみ食い。

さっきから何個目?

そんなに食べたら皆にあげる分がなくなっちゃうでしょう?」

 

「心外だな。僕はまだ2個しか食べてないよ」

 

「やっと綺麗に出来たのよ。これから箱に入れてリボン掛けて・・・

あ!それはまだチョコが軟らかいから、触ったら手に付いちゃう。

ほら、今言ったばかりなのに。先生って・・ば」

 

 

どうしたの?驚いた顔してるね。

急に僕が君を抱き締めたから?

だってこんな狭いキッチンじゃ、すぐ君の肩に手が届く。

 


小さなダイニングテーブルは、色とりどりのチョコレートが

並んでいる。

明日はバレンタインデー。

このチョコの量から察するに、

君は劇団中の男に愛を届けるつもりらしい。

 


別に僕は仁みたいに嫉妬深くもないし、

君を独占するつもりもない。


体調が安定してきた君が、

このイベントを楽しみにしていた事も知っている。

 

でも。


今夜は、その辺にしないか?

 

金曜の夜だ。

新婚の僕達には、大切な週末だろう?

 

 

君がこの部屋に帰ってきてまだ3週間も経っていない。

あの坂の上で君を抱き締めて、

その薬指にリングをはめたあの日から。

 


死んだマムのもう1つの形見。

冷たくなった体から、僕が抜き取ったシルバーのリング。

痩せ細ったマムの中指にあったそれは、

僕の小指にずっとはめられていた。

 


『今はこのリングしか贈れない。嫌かな?』

 


あの坂の上。

大きく首を振る君の目が、潤んでいた。

 


『もう1度言うよ、操。

そして2度と僕の傍を離れないって誓って。

操・・・Will you marry me?』

 

『先生・・私・・』

 

『返事が先』

 

『はい・・・あの・・お願い、しま・・す』

 

 


あの日。

もう1度君にプロポーズした。

仲間の見守る中、1月の青空の下で。

 


涙でぐしゃぐしゃになった君の顔と、仲間の大歓声。

君の薬指にリングがぴたりと納まった時、

全てのパズルが完成した・・そんな気がしたんだ。

 


ちょうど1年前に仁達が結婚式を挙げたあの稽古場で、

僕と操は、婚姻届にサインをした。

 

証人は仁と瞳、尊敬する木島代表。

 

胸がいっぱいになったあの瞬間。

僕は目を閉じ、君がペンを走らせる音を全身で感じた。

 

“操・ワイズマン”


それが今の君の名前。

 

そして、確かに息づく命がその暖かな胎内に宿っている。

 


神よ、感謝します。

こんな日が僕に訪れるなんて想像もしなかった。

 

 

バレンタインデーにチョコレートで女性から愛を告白をする

というのは、日本独特の風習なのか。

 

アメリカにいた時は、バレンタインは男が女性に贈り物をするのが

一般的で、女性から求められれば宝石も贈ったし、抱えきれない程の

花束を届けた事もあった。

僕自身は愛の神を信じていたわけでも、そのプレゼントに何か意味を

持たせた覚えも無かったけれど、それがその時の僕にとっては

必要な投資だったから。

 


乾いていたんだ。

あの頃の、僕の心は。

何も、誰も信じてはいなかった。

 

 


アハハ。

真ん丸の君の瞳に僕が映っている。

何を緊張してるんだい?

僕が何を言うのか考えてるのか?

 

そうさ。


僕は少し怒っている。

 


昼過ぎから続いているこの作業に、

君は夕食もそこそこに熱中している。

甘い香りが漂うキッチンに籠りっぱなしで、

今の今まで君は僕の存在を忘れていた。

・・そうだろう?

 


僕は昼からPCで仕事しながら、

横目でそんな君をずっと見ていた。

真剣な顔でチョコを溶かしたり、何を失敗したのか

大慌てで本を開いたり。

 

料理上手な君もチョコを作るのは慣れてないんだね。

何時間も格闘して、やっとラッピング作業に取り掛かった君。

 


僕達の足元には、赤やピンクのリボンがバラバラと散らばっている。

銀の糸のようなクッション材はテーブルの上でふわふわ踊っている。

 


僕を何時間も待たせた罰だ。

・・ちょうどいい。

このリボンで君をくるんで、ベッドまで運んでいこうか。

 


アハハ、また目が大きくなった。

君を困らせるのって、すごく楽しいよ。

 

 

「・・急に・・何?」

 

「チョコが指に付いちゃったよ。取ってくれないかな?」

 

「だからまだ柔らかいって言ったのに。テッシュならここに・・」

 


その指で君の唇にチョコをつけると、甘い香りが立ち上った。

ブラウンに色づいた唇が、僕を艶やかに誘っている。

驚く君の顔を見つめながら、僕はそのチョコをペロッと舐め取った。

 


「美味い」

 

「・・バカ、ね」

 

「これ、僕のだよね。甘いミルクチョコレート」

 

 

うんうんと小さく何度も君が頷く。

 

「先生、甘いのが好きでしょう?

少しヘーゼルナッツのフレーバーも入れたの。

ミルクたっぷりで、優しい味。特別製なのよ」

 

「では、もう一口・・」

 


もう1度チョコを口に含み、その香りが消えない内に君に口付けた。


甘い、甘い口付け。


そっと離した唇を人差し指で押さえると、

操はその目から一粒涙を流した。

 

 

「どうして?何故泣く?」

 

「・・・幸せだから、かな。何だか変な気持ち・・

先生と、ここにこうしているのが、まだ信じられないの。

はしゃいでいなくちゃ、夢見たいにどこかに消えていっちゃいそうで」

 

「もう夢じゃないよ、僕はここにいる。操もここにいる」

 

「先生」

 

「ここが僕たちの家だ。稽古場も花壇の鳳仙花も君を待ってた。

君はもう僕のwifeだ、誰にも渡さない。ここから僕たちは・・・」

 

 

“コツコツ”

 

その時、遠慮がちなノックの音が僕たちの邪魔をした。

 


少し前から感じていた廊下の気配。

無視しても良かったけど・・仕方ない。

外にいるのはきっと、僕の片割れだ。

 


「いいよ。入って来なよ、仁」

 

「・・・アハッ、参ったな。ゴメンな。

舞が操のチョコを見たいってさ。悪いな」

 

「みさおちゃ~ん!うわ~!チョコいっぱいだー」

 

「お~っと、舞。バーニー叔父ちゃんにハグは?」

 

「あとでー。いまはチョコが先~」

 

「あ、そ」

 

「舞ちゃ~ん。いらっしゃい!うふふ、先生形無し」

 

 

すまなそうに頭を掻く仁に手を引かれ、舞が部屋に飛び込んで来た。
 
昼間、操と瞳は材料の買出しに一緒に出かけていたから、

きっと今、チョコを作っていると聞いて慌てて見に来たんだろう。

 


3歳の舞は、この頃料理に興味があるらしく、

よく瞳と台所に立っているらしい。

去年のクリスマスには、サンタさんに「舞の包丁が欲しい」と

頼んだそうだから、結構本気モード。

料理上手な操とは、話も合うのかとても仲がいい。

 


僕の存在などまた忘れたかのように、

操は舞とチョコの味見に忙しそうだ。

操は小さな舞を膝の上に乗せ、ニコニコと笑っている。

 

 

「悪いな、タイミングぴったりだったか。マズイと思って引き返そうと

思ったんだけど、舞が引っ張るもんだから・・

なぁ。今、まさにこれからって時だったろう?」

 

「ああ、秒読みに入ってた」

 

「恨むなよ。瞳が余計な事言うからだ。もう寝るって時だった

のに、操のチョコが見たいって、大騒ぎだったんだ。

怒ったんだけど、あいつチビのくせに頑固でさ」

 

「親が親だからね。仕方ない、舞なら許すよ。

仁だけだったら追い返したけど」

 

「俺はそこまで野暮じゃないぞ。

ベッドが大きくなったんだから、さぞ・・」

 

「そうだ。マムにお礼言わなきゃ。あんな立派なベッド、

贈ってもらっちゃって。

びっくりしたよ。いきなり配達の人が何人も」

 

「あんな狭いベッドに妊婦とデカイお前じゃ、

いくらなんでもな。実はホッとしてるんだ。

あれは・・俺も処分したいと思ってたから」

 

「あ、そうか」

 

 

キッチンでは、また何か作り始めたらしい。


小さな舞が、持って来たらしいエプロンをして、

「よーし!」と気合を入れている。

 

微笑ましいキッチンの風景。


Babyが生まれたら、

何年か後には、こんな風景が日常になるんだろうか。

 


「おい」

 

「ん?何?」

 

「いい顔してるな、お前。とても男っぽい顔だ」

 

「そう、かな」

 

「折角だから飲もうぜ。もうすぐ瞳も来るはずだ。

舞は女子に任せて・・な?」

 

「ああ・・いや、仁。折角だから少し聞きたい事があるんだ。

卒公の振り付けなんだけど、何回稽古してもうまく決まらなくて。

そうだ。お前、今ちょっと踊ってみてくれないか?」

 

「おいおい。人使い荒いな。俺のギャラ、最近結構高いんだぞ」

 

 


僕がさっさと腰を上げ稽古場に向かうと、

ブツブツ言いながらも仁が付いて来る。

暗い稽古場の灯りを点けると、大鏡に僕と仁の姿が映った。

 

 

「研究生が踊るから変なのか、振り付け自体が不自然なのか微妙でさ。

あれは、お前の振り付けじゃないだろう?」

 

「今年はコーラスラインか。

あれは俺が入団する前にもう出来てたから。

タップだけ少し俺が直したんだ。シンプルなだけに雑に踊れば粗も見える。

何幕だよ?お前が困るなんて珍しいじゃないか」

 


僕がCDをセットする間に、仁はもうダンスシューズを履いていた。

ジーンズのポケットからバンダナを取り出すと、

慣れた手つきで髪を縛っていく。

 


「2幕なんだ。ザックがキャシーとの過去を回想するシーン。

今回のキャシーは操だろ?

踊らないキャシーなんて、代表の考えにも驚くけど」

 

「あのクラスでキャシーを他に誰が演れる?しかも踊らずに

全部を表現しなきゃいけないんだ。踊るより何倍も難しいさ。

・・なぁ、考えは変わらないのか?操、芝居辞めるって」

 

「あぁ。彼女が決めた事だから」

 

「劇団にとっても損失じゃないか。あれだけ演れるのに」

 

「操の気持ちは分るからね・・代表とも何度も話し合って、

今回のキャシーが出来たんだ。ああ、次の小節から。

ここからだ・・ザックが上手からジャンプで・・そう・・うん・・

STOP!!そうか・・やっぱり、文哉の軸足がブレてるんだ。

仁のは真っ直ぐに見える」

 

「ブレるって?分った。こう踊ってるんだろう?」

 


仁が僕の疑問に瞬時に答えを出す。


次に仁が踊った姿は、僕が悩んでいた研究生の姿そのものだった。

 


「実はこれが本来の振り。本当はこっちが正解なんだ。

文哉って、あの背の高い奴だろう?彼のダンスはダイナミックで

キレがいい。彼も俺と同じ。ジャンプ力があり過ぎるんだよ。

滞空時間が長いから、曲の収まりが悪くなるんだ。

だからここは・・・こう飛んで、こう。

・・な?決まるだろ?真面目に振りなんか覚えなくていいんだ。

感覚で踊れって言っとけ」

 

「なるほどね、天才は言う事が違う。勉強になった」

 

「誰が天才だ。こんなのお前でも踊れるだろ?」

 

「・・僕?」

 

「そう、お前。今度は俺の番だぞ。

折角のコーラスラインだ。一緒に踊ろうぜ」

 

「僕が踊る?無茶言うな。僕は足が・・」

 

「昔は踊ってたんだし、今だってあれだけ走れるんだ、大丈夫さ。

振りだって入ってる。ジャンプやタップは足首に負担になるだろうけど。

なぁ、“ONE”なら出来るよな?」

 

「待てよ!」

 

 

仁がデッキを操作すると“ONE”のメロディーが流れ出す。

動けずにいる僕に向かって、仁は突然笑い出した。

 


「ハハ、そういえば昔、マムと踊ったな。

つばの広い帽子持ってさ、キッチンで」

 

「・・え?」

 

「ポートランドのアパートだよ。TV見ながら踊っただろ?

確かチョコレートクッキーをお前が食べたいって言い出して、

マムが焼いてたんだ・・そうだ。うん、そうそう・・」

 

「・・憶えてない」

 

「この間まで記憶が無かった俺が言うのも可笑しいけどな。

今、久しぶりに踊って急に思い出した。

オーブンでクッキーが焼ける甘い匂いがして。お前が帽子持ってきて・・」

 

「僕が持って来た?マムに踊ってくれって?」

 

「そうさ。3人で踊ったじゃないか。

俺たちは野球帽のつば持ってさ・・“ONE!”って」

 

 


僕が忘れていた記憶を、仁が思い出した。

 

マムが踊った?

チョコクッキーを焼いたって?

 


僕の記憶の中では、酒瓶を抱えて震えているマムがいるだけだ。


エドの名を呼んでは、泣いてばかりいたマム。

 


稽古場にあった小道具のシルクハットで、仁がポーズを決める。

 

エドが・・“ONE”を踊っている。

 


「来いよ。ほら!」

 


仁が投げたシルクハットが僕の足元に落ちる。

拾い上げる僕の目の前で、仁が手を差し出した。

 

 

「・・踊れるのかな。僕は」

 

「踊ろうとしなくていいんだ、バーニー。

ただ踊るんだよ。お前が踊れば、それがダンスだ」

 

 

音楽が体を包んでいく。

 

足が、リズムを感じ始めた。

 

 

 

「あ、仁さん。遅くなってごめんなさい。

舞は迷惑かけてない?出掛けにお義母さんから、チョコ送ったから

って電話が・・・・・え・・・バーニー?」

 

 

 


“あぁ、夕暮れだね。TVはブロードウェイのステージ中継”


“あぁ、そうだ。マムは笑ってるだろう?”


“あぁ。笑ってる・・僕たちのダンスを見て、笑ってる・・”


“甘い香りだろ?お前が好きだからクッキーはいつもチョコなんだ”


“あぁ、本当・・甘い香りだ・・”

 

 

 

きっと僕の足は、仁の速いステップについていってはいないだろう。


曲がらない足首でのターンも不恰好に違いない。

 


でも、体が憶えていた。

踊る事の楽しさを、僕の足は憶えていた。

そして・・あの甘い記憶さえも。

 

 

コーラスラインのラストナンバー。


同じ顔をしたダンサーが2人、大鏡の中で踊っている。

 

 

瞳が慌てて呼んだんだろう。


気がつけば瞳と操が、稽古場の入り口で僕たちのダンスを見ていた。

 

操は手で口を覆い、その目には、また涙が光っている。

 

 

「先生・・・」

 


瞳の腕にすがるように、僕を見つめる操。

 

 


操。


よく見ていて欲しい。


これが、これが本当の僕の姿だ。

 

 

バレンタインのプレゼントは、やはり男が贈る物だね。

僕は君に僕を届けるよ。

 

 


♪ もし 今日を最後に踊れなくなったらどうする?

 悔やまない 何があっても。選んだ道がどんなに辛くても

 全てを捨てて 生きた日々に悔いは無い

 誰もが1人。1人、1人 素晴らしい人・・

 

誰もが特別な存在・・・・・ONE!!

 

 

 

ハッピーバレンタイン・・操。

 

 

踊る僕。

 

泣き顔の君。

 

 


さっき言えなかった言葉の続き。

 

 

ここから僕達は・・僕たちの未来は始まるんだよ。

 

 

 

コラージュ、mike86

 


 


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