冬がくる前に
スポーツジムの帰り。とっくに忘れてたこと。
契約駐車場の看板に知っている不動産会社。
中学生の時に通っていた学習塾で、授業が始まる前の屈託ない時間をどうでもいい話で過ごすかけがえのない友を私は無神経な態度で失った。
そのことがずっと心にひっかかっていた。
いつだったか聞いた。
彼は今、父親の不動産会社を継いでいると。
33歳の若き社長は、きっともう忘れているだろうし、
私はけっしてうぬぼれてるわけでもない。
ただ、チクッとするのだ、心が。
当時、彼には付き合っているカワイイ彼女がいた。
…はず。
学校内でも、カワイイと評判の小柄な双子の妹。
私はといえば、昔から背が大きくて、電柱ってよくからかわれていて、だからあの頃は、ずいぶんと小柄なコに憧れていて羨ましくて仕方なかった。
晩熟だったのか、臆病だったのか、男のコと付き合うなんて考えられなかった頃。
いや、想像はしていたけれど、自分には“ナシ”だと諦めていたのかもしれない。
ある日、仲の良い男友達のひとりが、塾の後ろの席から、私に耳打ちした。
「大好きだよ」
絶対に冗談だと思った。
そんなはずがない。彼は私より10cm近く背が低かったから身長が釣り合わないと思ったし、何より、やっぱりからかっているんだって咄嗟に思ってしまったのだ。
私は耳打ちを返した。
「大嫌い」
嫌いでも特別好きでもなかった。
なぜ、そう言ったのかわからない。
単純に彼が言った反対の言葉が浮かんだんだと思う。
その後、彼がどんな表情をしていたのかわからない。
私が彼の前の席に座っていたから。
振り返ることはしなかった。
すぐに彼の横の友人とふざけあっている声が聞こえていたから、やっぱり冗談だと思った。
でも、それが彼と塾で会った最後だった。
しばらく休んだその間に、志望校を変えたらしい彼と私は別々のクラスになったのだ。
合格発表。
彼の名前を探した。
なんとなく気にしていたのだと思う。
彼の名前はなかった。
1年が経った頃、学園祭で偶然にも彼とすれ違った。
目を逸らされ、心のモヤモヤとしていたものが
現実となった気がした。
もしかしたら、あれは冗談とか悪ふざけではなかったのでは?いつからかぼんやりとそう思っていた。
そして、いつもまさかと否定していた。
私は、嫌いじゃなかったんだよ。
あれ以来、同窓会でも1度も合わない。
私は、恐る恐る彼と昔親しかったと思われる
同窓生に尋ねた。
「アイツはさ、コクられて付き合ったんだよ。好きなコがいたらしいけど、付き合ったらしいよ。まっ、M浦は可愛かったしな。」
まさか、まさか私じゃない。
今さら、否定してもドキドキしても仕方ない。
ばかげている。
同窓会に現れないのも、単に社長業が忙しいに決まっているし、もう18年も前のことを
拘ってはいないだろう。
だけど、今でも彼の会社の前を通ると
チクッと心が痛む。
会社名を目にしただけでも。
私は彼を傷つけていないはず。
傷つけていませんように。
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