2010-03-29 20:18:10.0
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-15.ジェラシー

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「 ジニョン! 」

僕が彼女を追いかけようとしたその瞬間、ソフィアが僕の腕を掴んだ。
何かを訴えかけるような彼女の強いまなざしを僕は振り切るように視線を逸らして、
その手を外すと玄関の扉を急いで押した。

しかし、廊下に出てエレベーターの扉に手を掛けた時にはもう遅かった。
ジニョンの悲しい目が閉まり行く扉の細い隙間に見えた。
彼女もまた言葉なく僕に何かを訴えていた。

「 ジニョン!行くな! 」 

僕は降り始めたエレベーターを追うように非常階段の扉を乱暴に開けると
全速力で階段を駆け下りた。

僕が7階から降りきって、エントランスを走って外へ出ると、ジニョンは既に
10M程先を急ぎ足で歩いていた。


「 ジニョン!待って!・・・待て!ソ・ジニョン!

振り向いた彼女の瞳には涙が溢れ、顔は悲しみに歪んでいた。
彼女は僕の姿を確認するなり歩く速度を速めて進んだ。

「来ないで!近づかないで!
 私・・・最初に言ったでしょ?あなたの邪魔をしない・・
 恋人の・・邪魔はしないって・・・」

「ジニョン・・・」

「わかってたわ!・・・わかってるはずだった・・・
 恋人がいる・・・あなたは最初からそう言ってた・・・

 それでもあなたが好きで・・・どうしようもなく好きで・・・
 そんなこと、もうどうでもいいことのような気になってた・・・

 でも・・フランク・・・どうしたんだろう・・・私・・今・・・凄くドキドキしてる・・・
 胸がね・・・潰れそうに・・すごく痛い・・・

 わかってたことなのに・・・私はそれを承知であなたに・・・
 そうよ・・わかってたわ・・だから、大丈夫なはず・・・」

彼女は両の掌を自分の胸に宛がって、まるで自分自身に言い聞かせるかのように言った。

「ジニョン!」

「早く!戻って!あの人が・・・誤解する!」

「誤解?誤解か?・・・誤解じゃないだろ?」

僕は彼女の腕を掴んで無理やり僕に振り向かせた。

「だって!」

「誤解じゃない!」 僕はそう言って、力強く彼女を腕の中に抱き取った。

「だっ・・・て・・・」

「信じられない?」

「信じられない・・・だって、あの人・・あんなに綺麗で・・・
 あなたと・・・凄く・・似合ってる・・・
 私なんて・・・あなたが子ども扱いするの当然よ」

「子供扱いなんかしてない。」

「してる。」

「してない!」

突然僕は彼女の頬を両手で挟んでその唇を自分に運ぶと硬く閉じられたそれを
舌で無理やり押し分け、彼女の舌を自分の中に乱暴に吸い込んだ。

彼女の涙がふたりの合わせた唇を伝って僕に流れ込み、その苦さが彼女の悲しみまでも
僕に残さず伝えていた。

   子ども扱いなんか・・・してない・・・

   こんなにも・・・

   こんなにも・・・

彼女への熱い想いが激しく僕の胸を突き上げていた。
僕はやっと彼女から唇を離すと、狂おしいほどの想いで彼女を見つめた。

「愛してる・・・」

「・・・・・・」

「君は?」

「・・・・・・」

「君も・・・そうなんだろ?」

「・・・・・・」

「何とか言え・・・ジニョン・・・何とか言って・・・」

「・・・・・・」

彼女は無言のまま涙混じりの瞳を僕から逸らして伏せた。

「信じないの?」

「わからない・・・」

「わからない?・・・何故?」

「わからない・・・」

彼女は僕から視線を逸らしたまま「わからない」とだけ繰り返していた。
その言葉がまるで僕を責めているように思えてならなかった。

僕はそれ以上彼女を問い詰めることが出来なかった。

「僕を責めてるんだね・・・」

彼女は首を横に振った。

   わかってる・・・

   ごめん・・・君を抱きしめていながら・・・

   僕はまだ・・・彼女を離していない・・・それは事実だ・・・

ソフィアと僕は互いに恋人であると確かめ合ったわけじゃない。
しかし、僕の彼女への想いは間違いなく恋人へのそれだった。
互いを認め・・・尊敬もし・・・求め合った・・・いや、僕が一方的に彼女に寄りかかり
彼女はただ僕を黙って受け止めてきた。きっとそんな関係だ。

僕にとって、ソフィアという女が他の女とは違う存在で、彼女が僕にとって
なくてはならない人であったことも否定はしない。

   その僕が・・・君と出逢って・・・

   いつの間にか心を君に奪われていった・・・

   いつの間にか・・・誰の入る余地も無いほど・・・君に・・・

   沈んでいった・・・もう・・・浮き上がれないほど・・・

「・・・信じて欲しい・・・僕を・・・信じて・・・」

「・・・・・・」

彼女はただ黙って僕の手を自分からゆっくりと外すと、僕の前から立ち去った。

僕はそれ以上彼女を追いかけられなかった。


   今はまだ・・・追いかけられなかった・・・

 



私はどうしても彼の腕の温もりの中にいることができなかった。

現実に目の前に現れたあの人に・・・

    私・・・震えてしまった・・・

    あの人から目を背けてしまった・・・

    あの人が・・・あなたの・・・

    あまりに美しくて・・・自信に溢れていた・・・

    あの人の目があなたを愛していると私に叫んでた

    ねぇ、フランク・・・

    あの目を・・あの人の目を・・あなたの目が見つめていたのね・・・

    あの人の唇に・・・あなたの唇が優しく触れていたのね・・・

    あの人の髪を・・・あなたの指が愛しく撫でたのね・・・


        嫌・・・ 「嫌!」

私は自分が想像した二人の絡み合う姿を、掻き消すかのように頭を大きく振った。


    どうしようフランク・・・本当に・・・胸が痛いよ・・・

    どうしよう・・・私・・・壊れてしまいそう・・フランク・・どうしよう・・・

    助けて・・・お願い・・・


        「 フランク! 」


    

       

部屋に戻るとソフィアが窓辺に佇んだまま、視線を遠くに送っていた。

「生徒さんは・・・帰ったの?」 彼女は僕を見ないままそう言った。

「・・・彼女は・・・」

「フランク・・・私、やっぱりここに来ることに決めたわ・・・」
彼女は僕の言葉を遮って、突然そう切り出した。

「ソフィア・・・話があるんだ」

「卒業まで・・・待たなくてもいいでしょ?」
彼女は僕の話を、まるで聞こえない振りを通そうとしているようだった。

「聞いて・・・」

「学校へはここから通えないこともないし・・・」

「ソフィア。」

突然彼女は僕に向かって"何も言うな”と掌を見せた。

「彼女のことなら気にしてないわ・・・今までだって・・・
 私がそんなこと訊ねたこと一度でもあった?」

「聞いて・・ソフィア・・彼女を・・・」

「止めて!・・何も・・・話す必要はないわ・・・
 あなたらしくないわ。わざわざ私に了解を取るみたいな言い方はしないで・・・        
 今までと何ら変わりないことよ・・・そうでしょ?」

「今までとは違う」

「今までと違う?何が?何が・・・どう違うの?」

「彼女を・・愛してる。」 

ふたりの間に少しだけ沈黙が流れた。       

「・・・・愛してる?」 彼女がやっとその沈黙を破って震える声で言った。

「彼女を・・・傷つけたくない」

「傷つけたくない?・・・あなたが?・・・」

「・・・・・・」

「あなたが・・・誰を・・・傷つけたくないの?」
彼女は“何を言っているの”と言わんばかりに、僕に確かめるような言い方をした。

「大切なんだ・・・彼女が・・・」

「・・・・・・」

「初めてなんだ・・・こんな想い・・・」

「・・・・・・」

「あなたにずっと話したかったんだ・・・知って欲しかったんだ・・
 いや・・・あなたは・・・もう・・知ってたよね・・・僕の気持ち・・・」

ソフィアは僕を見つめながら黙って僕の言葉を聞いていた。
その瞳にはみるみるうちに涙が溢れ彼女は嗚咽を堪えるように口を手で覆うと
声を殺して泣いた。

今までに見たこともない彼女のそんな様子に僕はただ呆然と息を呑んでいた。

「そんな泣き方を・・・するなソフィア・・・あなたらしくない」

「・・・・・私・・・らしくない?」 彼女は込み上げる涙を堪えるように声を絞り出した。

「・・・・・・」

「どういう意味?」

「・・・・・・」

「私らしい泣き方って?・・・どんな泣き方なの?フランク・・・」

「・・・・・・」

「言いなさい!
 私らしい泣き方ってどんな泣き方?」

「ソフィア・・・」

ソフィアが珍しく大声をあげて涙を拭いもせずに僕を睨みつけていた。

「・・・・・・・僕を・・・愛してたの?・・そんなに・・・」 

「・・・・愛してた?」 彼女はそう言って更に僕を睨んだ。

「あなたは今までそんなこと一度も・・・」

「だから?・・」

「僕の告白をいつもはぐらかしていたのはあなただ。」

「・・・・・・」
「どうして?」
「どうして?」

彼女は僕を睨みつけることで、浮かべた涙を飲み込むきっかけを探していたようだった。

「何故・・・言わなかった?」

「・・・・・・」
「どうして!もっと早くそう言わなかった!」

「言わせなかったのは!・・・あなたよ!」

「・・・・・・」

「あなたが・・・言わせなかったのよ、フランク・・・」

「・・・・・・」

「女はね、フランク・・・心の無い言葉には敏感なの・・・」

「・・・・・・」

「でも・・・それでも・・・嬉しくて・・・あなたの・・・
 心の無い“愛してる”にも胸が震えてしまう・・・そんな自分が情けなくて・・・
 背中を向けるしか・・・なかった・・・」

「本当に愛してなかったと思ってたの?」

「愛してたの?本当に?自分の胸に聞いてみて・・・」

「・・・・・・・」

「ねぇ、フランク・・あなたに“愛してる”・・そう答えていたら・・
 私達は違う結果になった?」

「・・・・・・」

「あの子は・・・そうしたの?・・素直に愛してるって・・返したの?・・」

「・・・・・・」

「私もそうしていたら・・・あなたは本当に愛してくれた?・・・」

僕はソフィアの言葉を聞きながら、彼女に対して、彼女の愛に、自分が如何に
甘えていただけなのかを痛感していた。

「・・・僕はどうしたらいい?」

「・・・私に聞くの?・・・」

「・・・・・・」
「あなたの心が何処かに向かってること・・・とっくにわかってた・・・
 そうよ、この数日、あなたが私を探していること知っていて避けてたわ・・・
 事実を認めたくなくて・・あなたを避けてた・・・

 あなたを追う女にはなりたくはない・・そう思ってた・・・
 いつもあなたの一番の理解者で・・あなたの寂しさを包み込める
 そんな女でありたかった・・・でも・・・そんなの嘘よ・・・嘘・・・

 嘘つきなのは・・・私も同じだった・・・

 本当は・・・いつもあなたのそばにいたかった・・・
 本当はいつも・・・あなたを抱いていたかった・・・

 あなたにくちづけされたまま・・・眠っていたかった・・・
 あなたと・・・静かに朝を迎えたかった・・・

 でも・・あなたはそんな女を必要とはしなかったわ・・・
 そうだったでしょ?」

ソフィアは時折大きくため息をついて心を落ち着けているようだった。

「だから・・・いつも嘘をついた・・・
 物分りのいい女の振りをしてた・・・
        
 あなたを避けている間、今日まで・・・ずっと考えてたの・・・
 私はあなたを・・・あなたの手を離せるんだろうか・・・
 でも・・・少しも答えを見つけれなかった・・・・

 こうしていつまであなたに会わないでいられるか・・
 試してみよう・・そう思ったの・・・でも・・・もう限界・・・

 だから来たのよ・・・あなたの心が何処にあっても・・・
 あなたが私にどんな顔を向けるとしても・・・

 ただ・・・・・逢いたかった・・・あなたにただ逢いたかった・・・
 だからここに・・・来たの・・・」

「ソフィア・・・」 

   僕は・・・      
       
「あの子には・・・あなたの心は重すぎる・・・
 それはあなたが一番よくわかってるはずよ・・・」

「・・・・・・」

「それでも?」
   
   ソフィア・・・

「彼女を・・・愛してる・・・」


   そんな目で見ないで・・・ソフィア・・・


       あなたを置いて・・・


           ・・・行かれなくなる・・・


 





 

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