2010/04/24 00:15
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-27.守る手・壊す指

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          collage &music by tomtommama

                story by kurumi





「ジョルジュといつ?」   

「今朝・・・当然のことだけど・・君を探してた」

「・・・・・」

「話をしたいそうだ・・・」

「・・・・・」

「君のご両親にはまだ・・本当のことを話してないらしい・・・」

「・・・・・」
  
「本来なら僕が、君と一緒に韓国へ行って君のご両親にお詫びする・・・
 それが筋だ。わかってる・・・きっと君もそうして欲しいでしょ?」

「・・・・・」

彼女は僕がジョルジュと会ったことを話している間、ただ静かにそれを聞いていた。

「・・・ごめん・・・でも今はできない・・・」
    
「いいの・・・わかってる・・・
 今あなたはお仕事が大変だってこと、わかってるわ
 あなたのお仕事の邪魔はしたくない」

「もう少しだけ待って欲しい・・・きっと・・・
 君のご両親にも認めてもらえる人間になる」
    
「認めてもらえる人間?・・・
 そのままのあなたを見れば・・・父や母もわかってくれる・・・」

「・・・・・そうかな」

「わかってくれるわ・・きっと。・・・だって・・私を愛してる人たちだもの・・・
 私が愛したあなたを愛さないわけないわ・・・」

ジニョンは“当然よ”と言う様にそう言った。
   
    そうかな・・・世の中はそんなに甘くはないよ、ジニョン・・

「ジョルジュには・・・ちゃんと連絡するわ・・それから父にも・・・」

「それは僕が・・」

「いいえ・・・今は私が。・・・その方がいいと思う」

「どういう風に?納得させられる?」

「本当のことを話すの・・・」

「本当のこと?」

「ええ・・本当のこと・・・
 “彼のそばを離れられない”・・・そう話すの」

彼女の瞳の中に頑固なまでの強い決心が見えた。

「ジニョン・・・」

    あとは僕が・・・君のその強い決心に報いるまで・・・

    そうだね・・・



テーブルにジニョンのお目当てのデザートが運ばれた時だった。
携帯の着信音がジャケットのポケットを振動させた。

「ごめん・・・」
僕はジニョンに中座を詫びながら、携帯を手に席を離れた。

「ハロー・・・」

「Mr.フランク・シン?」

「イエス・・・そちらは?」

「そちらがお探しのようでしたので、ご連絡を・・・」 その声がそう言った。

   探す?

「何のことでしょう」
そう言った瞬間、さっき表ですれ違い、追いかけた黒い影が脳裏を過ぎった。
電話の主はその時の声とは別人のようだったが、含んだ物言いがその仲間であることを
物語っていた。 「!・・・誰だ・・」

「私は・・・・」 男はそう言い掛けて続けた。
「・・・まあ、そんなに急ぐことはないでしょう・・Mr.フランク・・・
 近いうちに正式に名乗らせていただきます・・・
 しかし・・我々のボスのことは・・・
 もうあなたにも見当がついてらっしゃるでしょう?」

   確かに・・・見当は付く・・しかし

「何の用だ。」

「それももうおわかりのはず」
「持って回った言い方は止めろ。」 
僕は冷静を装ったが、ジニョンがそばにいることは、決して優位な立場ではない。

「直球がお好みですか?・・・」 男は僕の反応を面白がるように言葉で遊んでいた。

「何処にいる」

「ご心配なく・・・逃げも隠れも致しません・・・
 あなたの席の方をご覧下さい」

僕がその言葉に瞬時に反応し、さっき離れた席に視線を向けると
ジニョンが僕に気がついて笑顔で手を振っていた。
彼女の笑顔に応える自分の頬が少し強ばっていることに気が付いて、
僕は気を取り直して彼女に手を振り返した。

すると携帯電話を耳にあてがったサングラスの長身の男が、僕達の直ぐ後ろの席に近づき
着席する姿が見えた。

そして、男は思わせぶりに僕の方に振り向くと、口元でにやりと笑い小さく指を振った。

肩よりも長い髪を無造作に後ろで束ねたその男が、ゆっくりとサングラスを外し、
素顔を見せた。
目鼻立ちが整った中性的なその容貌は電話から聞こえてくる無機質な声とは
決して似つかわしいものではなかった。

「どういうつもりだ」

「美しい恋人ですね」 その男はまたもやニヤリと片方の口角だけを上げた。

「彼女に構うな・・」

「私が彼女に何かするとでも?
 それは誤解だ・・・私は何もしません・・・」

「いったい、何の用だと聞いてる」

「我がボスに会っていただきたい」

「その必要はない」

「ん~・・・困りましたね・・・」

「何もかもお前達の思うようには行かない・・そう思え」

「そうですか?・・・しかし、それは無理というものです・・・
 我々は今まで・・・どんなことでも・・・
 思うようにしか・・してこなかったものですから・・・
 フッ・・・いや・・失礼・・・しかし大丈夫。
 あなたは・・必ず・・・ボスに会ってくれます」

男は意識したかのようにゆっくりと、言葉を刻んで話した。

「ふざけるな。」

「穏やかにいきましょう、Mr.フランク・・・まずはお話ができて良かった・・・
 今日はあなたにご挨拶申し上げたかっただけです・・・
 あ・・それから最後にひとつ・・・」

「・・・・・」

「私は・・嘘をついたことが無いのが唯一の自慢です・・・
 先ほど申し上げましたね。私は何もしませんと・・・
 あなたにも・・・もちろん、彼女にも・・・
 しかし・・・私の関知しないことも・・ある。」

そう言って男は左右に座っていた強面の男達に交互に視線を送ると、
それまでの柔らかな笑みを冷ややかなそれに変えて、携帯電話を大げさに
パタリと閉じた。

僕は急いでジニョンの元に戻り、何でもなかったように彼女に笑顔を作って席に着いた。
そしてしばらく僕の視線は彼女の肩越しに見えるその男の背中に注がれていた。

「ドンヒョクssi」

「ん?」

「やだ・・さっきから呼んでるのに・・」

「あ・・ごめん・・・何?」

「や~ね・・」

「ごめん・・・ちょっと仕事のこと考えてた」

今このタイミングで彼女に、帰ろう、などとは言えない。
しかし、僕は少しでも早くここを立ち去りたい心境だった。

「そう・・・」

僕はジニョンの怪訝そうな表情から回避すべく、内心の動揺を懸命に隠した。

すると、おもむろに席を立ち上がる男の姿が視界に入ってきた。
そして男はこちらを振り向いたかと思うと、口元だけに笑みを携えて僕に向かって来た。

僕は思わず椅子の音を立て立ち上がり、ジニョンに向かおうとした。
その時だった・・・

「ジニョン?・・ソ・ジニョンじゃないか?」

男はにこやかにジニョンに近づいて柔らかく声を掛けた。
彼女も男の声に振り向いて、彼を見るなり親しげな笑顔を向けた。

「まあ・・レイモンド先生・・・」

「おっと・・・それは・・・だろ?」

男が自分の唇の前に人差し指を立てて横に振る仕草をしながらそう言った。

「あ・・そうでした・・・レイ・・・」

多分、僕の敵であろう男と、目の前で笑みを交わすジニョンの、ふたりだけで
わかりあったかのような会話に僕は驚愕し、それとともに胸が煮えくり返える思いだった。

「ジニョン・・驚いたよ・・・こんなところで会うなんて奇遇だね・・・
 そちらは・・・彼かな?」
男は僕に柔らかな視線を送りながら、しゃあしゃあと言った。

「え・・えぇ・・」

「紹介してくれないの?」

「あ・・ドン・・いえ・・・Mr.フランク・シン・・です
 フランク・・・こちらは・・レイモンド・パーキン先生・・・」

    パーキン?

「大学の臨時講師でいらっしゃって・・
 私のサークルの顧問をなさってるの・・・」


    大学の?講師?

「初めまして・・Mr.フランク?・・・レイモンド・パーキンです・・・
 お目にかかれて嬉しいです」

男は少しの悪びれもなく僕に手を差し伸べ握手を求めた。
僕は彼女の手前仕方なく、それに応じながらも奴を睨みつけていた。

「フランク・シンです・・初め・・まして・・」

「ジニョンにこんなハンサムな彼がいるとはね・・・
 ちょっとショックだな・・・
 もっと早くモーション掛けるんだった」

「えっ?」

「知らなかった?僕はね・・
 君に会えるのが楽しみで学校に行ってたんだよ」

「また、ご冗談を・・」

「冗談なもんか・・・あ・・これは彼氏の前で失礼・・・
 ところでジニョン・・
 最近、学校休んでいたね・・どうしたの?」

「あ・・ごめんなさい・・・
 今、事情があって休学届けを出しています」

「そう・・残念だな・・・早く復帰しておいで・・皆待ってるよ・・・」

「はい・・有難うございます・・・」

「あー・・Mr.フランク・・彼女を少しお借りしても宜しいかな
 ジニョン・・この曲・・・覚えてる?」

男は天井を指差して、彼女の答えを待った。

「あぁ・・はい・・確か・・ラフマニノフの・・」

「そう・・ラプソディ・・・この前のように、踊らないか?」

そう言って男がジニョンの前にしなやかに手を差し伸べた。

「あ・・いえ・・私は・・」
「失礼ですが・・彼女は僕と踊ります・・」

僕はふたりの間に割って入って、ジニョンの肩を抱くと、彼から彼女を遠ざけるように
中央のダンスホールへ向かった。
彼女は彼に振り返りながら申し訳なさそうに頭を下げていた。

「ドンヒョクssi・・・失礼だわ・・」

「・・・・・・彼と・・踊りたかった?」

僕は自分でも驚くほどの冷たい言い方をしていた。

「そうじゃないけど・・」

「奴と踊ったことがあるのか?」

「サークルで・・あ・・ほら、私のサークルね・・・
 ホテル関係の研究してるの・・そこでダンスの講座が」

「・・・・・」

「怒ってるの?」

「別に?」

「嘘・・怒ってるわ・・・あれは、ただのレッスンよ」

「随分親しげに呼び合うんだね」

「あ・・あぁ・・あれは、先生が生徒みんなに・・・
 私達と年齢が近いでしょ?だから、お友達みたいに呼んで欲しいって・・・
 みんな“レイ”って呼んでるわ」

「あいつは・・いつから?」

「あいつって・・・レイモンド先生のこと?・・・
 ひと月ほど前、私が選択している経済学の講師に・・」


    ひと月前・・・そんなに前から?

「あいつ・・君に何かした?」

「私に?何かって?・・・誰にもお優しい方だわ
 ドンヒョクssi・・あいつあいつって、失礼よ」

「君は無防備過ぎるから」

「ドンヒョクssi・・・どういう意味?彼は・・」

僕は彼の方を振り向こうとした彼女の頭を自分の胸に強く押し付けた。

「他の男を見るな!」

「ドンヒョクssi!・・いい加減にして・・」

今度は彼女が僕の胸を強く押し返して僕から離れた。

「何だか変だわ・・ドンヒョク・・・せっかく踊ってるのに
 少しも楽しくない。」

僕は奴らの手が既にジニョンに近づいていたことを、目の前に突きつけられ、
理性を失いかけていた。


    駄目だ・・・こんなことでは・・・

    奴らの思う壺・・・


「あ・・ごめん・・・そうだったね・・・初めてのダンスなのに・・・
 今日の僕はちょっと可笑しい・・・きっと・・・
 突然、君の前に知らない男が現れて、動揺したんだ・・・
 ごめん・・・ジニョン・・・怒らないで・・・

 わかったよ・・・
 今夜は楽しく踊ろう・・・さあ、機嫌直して?・・・」

僕は彼女に余計な恐怖を与えないためにもここはしばらく、彼らの存在を頭から
振り払うしかなかった。

改めてジニョンの前に手を差し伸べ笑顔を向けると、彼女もまた僕に少しばかり
睨んだような笑顔を返して、僕の掌にそっと指を置いた。

そして、僕は彼女の腰に手を回し、ゆっくりと引き寄せ彼女を胸に抱いた。

「私ね・・・ずっと・・・こうして・・・あなたと踊りたかったの・・・
 この日を思い描いて、レッスンしてたわ・・・
 でも・・まだ下手でしょ?」

「いいや・・・僕の方こそ・・・リードできなくてごめん」

「ふふ・・・愛し合ってるふたりにはね・・・」

「何?」

「“愛し合ってるふたりにはステップなんて必要ない”・・・
 レイモンド先生の受け売り・・・」

そう言って彼女はクスッと笑った。

「そう・・・だね・・・」

ジニョンは今度は自分の方から僕の胸にそっと顔を埋めてきた。
僕は優しく彼女を抱きしめると、ゆっくりと視線を上げた。
その先に薄笑いを浮かべながら僕に向かってグラスを掲げる奴の姿が
ホールを揺らめく照明に浮かんで見えた。

僕は抱きしめた彼女の肩越しに、まだ計り知れない敵に向かって
戦いを挑むかのように奴を睨らみつけていた。


    レイモンド・パーキン・・・

    いったい・・・何を企んでいる?


    しかし・・覚えておくといい・・・

    もしも・・・

    例えわずかでも・・・

    その指がジニョンに触れたなら・・・


    決して許さない・・・


    来るなら・・・


         ・・・来い・・・


 








2010/04/22 23:15
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-26.君がいないと僕は・・・

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彼女が行きたいと望んだthree hundred rosesの人が行き交う入り口の前で、
僕は彼女を抱きしめたまま、しばらく離さなかった。

いや・・・離せなかった・・・

僕に巻きつく暗黒の渦に彼女を奪われまいと、必死にしがみついてでもいるかのように。

「ドンヒョクssi・・・人が見てるわ・・・」

「構わない・・・」

僕は彼女が人目を気にする言葉を口にする度に、彼女の肩に回した両腕に力を込めた。

「だって・・・」

「うる・・さい・・・僕がこうしたい時は
 君は黙って・・僕の腕の中にいて・・・」

「・・・・・フラ・・ンク?・・・どうしたの?・・・
 何かあったの?・・・」

「何も?・・どうして?」

「だって・・さっきのあなたの目・・・何だか・・・怖かった・・・」

「怖い?・・・僕はいつもの僕だよ・・・
 こんなことも・・・今に始まったことじゃないでしょ?
 僕は何処でもいつでも・・・君をこうして・・抱いていたいだけ・・・」

「フフ・・・そう・・ね・・・そうよね・・・
 いつもの・・・あなたよね・・・でも・・・」

「でも?何?」
「そろそろ・・・」

「お腹すいた?」
「そんなこと言ってないわ」

「お腹鳴ってる」
「うそ!」

「僕はもっとこうしていたいけど・・・仕方ないね・・・
 食いしん坊ジニョン・・・では・・・エスコートを・・・」
「ドンヒョクssi!」

彼女は頬を膨らませながら、僕の胸をひとつ叩いたあと、それでも僕の差し出した腕に
優しく手を添えた。

彼女のくったくのない笑顔に包まれていると、僕の心に掛かった闇の雲が
嘘のように晴れていく。

僕は、僕の腕に添えられた白い手をそっと上から包み込むと、幸せそうに微笑む
その横顔に固く誓いを立てた。

    たとえ何があろうと決して・・・

    この手は離さない・・・

    たとえ誰であろうと絶対に

    ふたりの愛を壊させはしない・・・

    ジニョン・・・そうだろ?

    
店の中に入ると、アールヌーボー調に施された内装が洗練された様相と
落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「君がこんな大人っぽいところを好むとは意外だね」      

「ふふ・・素敵なところでしょ?ラスベガスのお店と
 まったく同じように作ったんでっすって・・・
 ドンヒョクssiも気に入ると思ったんだけど・・どう?」

「ん・・・気に入った」

「ホント?良かった・・・」

僕達は案内されて、テーブルに着くと改めて見詰め合い互いに幸せな笑みを交わした。

「ドンヒョクssi・・・ありがとう・・・」
「ん?」

「連れて来てくれて・・・」

「不思議なんだ・・・
 今までは経験しようとさえ思わなかったことでも
 君と一緒なら・・心が弾む・・・」

「そうなの?」

「ああ・・・だから言ってみて?・・・どんなことをしたいとか・・・
 何が欲しいとか・・・君のためなら僕は・・・」

「ありがとう・・でもね、ドンヒョクssi・・・
 そんなの・・あんまりないわ・・・
 ここに来ることはついおねだりしちゃったけど・・・
 本当は・・・あなたといれれば何処でもいいの・・・
 何をしててもいいの・・・」

「本当に?」

「ええ・・・本当よ・・・だからお願いはひとつだけ・・・
 お仕事の時は仕方ないけど・・・できるだけ
 いっぱいそばにいて・・・ね・・」

「それはもちろんだよ・・でも・・・」

    本当にそれだけで・・・いいの?

「どうかした?ドンヒョクssi・・・」

「・・いや・・・何でもない・・・」

「また・・何でもない?・・・
 何だか・・・今日のドンヒョクssi・・・」


    今日の僕は・・・

「変?」

    確かに変だ・・・

「うん・・・何となく」

「だとしたら、君と離れていたせいだな」


    これから立ち向かおうとしているものに

    僕は何故か初めての恐怖を覚えている      
      

「離れてたって・・・朝別れてからまだ8時間しか・・」

「8時間・・も・・だろ?・・・480分・・十分長いよ・・・
 もう死にそうだった」

    それを君に悟られたくはない・・・

「ふふ・・オーバーね・・・」

    君には・・・どうかそのまま・・・

    笑っていて欲しい

「オーバーなもんか・・ 僕はね・・・
 君と離れたその瞬間から・・・君に逢いたくなる・・知らなかった?」

「本当に?」
「ん・・」

「私も・・・」
「ホント?」

「ええ」

    僕が今 どれほどの幸せな顔をしたのか・・・
    僕にもわかったよ・・・ジニョン・・・

    いつもなら・・・
    「もっと幸せそうに笑って」と君が必ず文句を言う・・・

    今・・目の前の君は頬を薄紅色に染め僕を笑顔で包んだ

    君はまるで僕の心の鏡のようだね・・・

    僕が今どれほど幸せなのか・・・

    君のその笑顔が教えてくれる

「ここのお食事はね、すごく美味しいって・・・
 韓国でも有名だったのよ・・・食材もかなり厳選してるんだって」

「そう」

「それにレストランとしての姿勢も超一流だって」

「レストランとしての姿勢?」

「ええ・・例えばね・・・この食器ひとつをとってもそうなのよ・・・
 見て・・このグラスの輝き・・・」

「それがどうかしたの?」

「この輝きはグラスのひとつひとつを丁寧に愛情を込めて手入れしている証拠よ
 れから、このナイフとフォーク・・・シルバーを磨くのってすごく大変なの・・・
 でも見て・・ほら・・顔が映るほどでしょ?
 お肉の切れ味もとてもいいわ・・・」

料理を味わうこととはおよそ関係のないことを得意げに話す彼女は、今まで僕が
知らなかった彼女のような気がして、僕は思わず視線をテーブルに下ろしていた。

「君の感想って・・18歳の女の子が言うようなことじゃないね」

僕は視線を落としたまま、少しばかりムッとしたような口ぶりで彼女の言葉を遮った。

しかし彼女は僕のそんな様子に気付きもしないで話を続けた。

「小さい頃、よく出入りをしていたホテルのレストランでね
 そこの支配人が教えてくれたの・・・
 私がちょっとでも触ろうとするとそれはもう、こっぴどく叱られたわ・・・
 お客様に使っていただく大切なものだって・・」

「小さい頃?・・・」

「ええ・・私・・ホテルが遊び場だったの・・・ホテルの仕事ってね・・・
 どんな些細なことでも、お客様のことを第一に考えて
 従業員ひとりひとりが心を尽くしているのよ・・・」

「ホテル?」

「ええ・・・幼い頃には何気なく見ていたことだけど
 大きくなるにつれて、それがすごく感動的に思えるようになったの・・・
 それで私は・・・」


瞳を輝かせながら嬉々と語っていた彼女が、僕の表情の変化にやっと気がついて
次第にその笑顔を曇らせていった。

「それで君は・・・ホテリアーになりたくなった・・・」 僕が彼女の代わりにそう言った。

「え・・えぇ・・・」

「ジョルジュと・・・」

「・・・・・?」

「・・・・・君はそこで働きたいと・・・まだ思ってる?」

「・・・・・・ジョルジュが?」

「正直に答えて・・・まだそこで・・・彼と・・・
 ジョルジュと働きたいと・・・思ってる?・・・」

「・・・・・・思って・・・ないわ・・・」

    ジニョン・・君は正直な人だ・・・

「・・・・・・僕が・・君の夢を奪ってるんだね」

    僕はいつの間に・・・
    こんなにも君を愛してしまったんだろう・・・

「だから!思ってないわ」


    君の瞳の奥の心までもが見えてしまう
       
「僕はどうしたらいい?・・・
 君を心から愛してるこの僕が・・・

 君の望みならどんなことでも叶えたい・・そう言っているこの僕が・・・
 君のことを一番縛り付けてる・・・」

「そんなこと思ってない・・」

「しかし・・・僕はまだこの地を離れることはできない
 かといって・・・君のことも手放せない。
 僕はどうしたら・・・いいんだろう・・・君がいなくなったら僕は・・・」

「ドンヒョクssi・・・」

「ジニョン・・・もう少し待って・・・
 必ず君の・・・一番の望みを叶えられるように・・」

「私の一番の望みはあなただわ」

僕の言葉を遮った力強い彼女の眼差しが


   “あなたを決して置いては行かない”


   そう言って僕を慰める


「君は・・・僕の希望の・・・全て・・なんだ・・・」


    僕はいつからこんなに・・・弱虫になったんだろう


「わかってる・・・わかってるわ・・・ドンヒョクssi・・・」


彼女はまるで幼子を宥める母のように僕を見つめていた。そして沈黙のまま
泣き笑いのような笑顔を作って見せた。

僕もまた必死に笑おうとしていた。


    さっき君に見せた幸せいっぱいの笑顔は・・・

    ねぇ・・ジニョン・・・

    どうやればまた君に見せられる?


滲んだ涙を隠したくて・・・

僕は大きく深呼吸をすると・・・

彼女の視線から逃れて宙を仰いだ・・・


    情けないな・・・

    君がいないと僕は・・・


        ・・・もう・・・駄目みたいだ・・・
    
    

 







2010/04/20 21:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-25.黒い影

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NYに戻ると、僕はまずアパートに向かった。
部屋の階でエレベーターの扉が開いた瞬間に、僕の部屋の扉に寄りかかっていた
あいつの姿が見えた。

   ジョルジュ?

彼はもう随分長いことこうして僕を待っていたのだろう。
僕を見つけるなり睨みつけた彼の視線が僕の動向を執拗に追いかけていた。

僕はそんな彼に一瞥をくれたあと、その視線を無視して彼の横をすり抜け
沈黙のまま部屋の鍵穴にKEYを差し込んだ。

「お待ちしてました」 彼が満を持して言った。
「・・・・・・」

そして彼は努めて冷静を装い、落ち着いた口調で僕に尋ねた。
「あいつを・・何処へ?」

僕は依然として無言のまま、彼に部屋に入るよう目だけで促した。
彼も無言で僕の前を横切り、僕に勧められるまま先に部屋に入った。

「・・・・・・コーヒーは?・・いかがです?」
「いいえ・・結構です・・・」

「そう・・・僕は飲んでもいいかな・・・」
「どうぞ・・・」

決して僕から逸らさない彼の視線を背中に感じながら、僕はコーヒー豆を挽いていた。

「答えてもらえませんか?
 わかっているでしょ?この数日、あなたの消息を探してました・・・
 あなたの学校へも訪ねました・・・」

「学校?・・よく・・・わかりましたね・・・」
「必死ですから・・・」

彼はきっと、僕と対峙しながら自分の興奮を抑えようと、懸命に耐えていたのだろう。
鋭い眼光とは裏腹に丁寧な言葉遣いを使いながらも、僕への憎悪が握った拳に見て取れた。

「それは僕も同じだ・・・」≪必死だったさ・・君から逃れるのに≫

「あいつの親にはまだ
 あなたのことは話していません」

「そう・・・」

「今はまだ・・・僕の都合で帰国が遅れていることになってる・・・
 しかし・・・それももう限界だ・・・」

「・・・・・」

「あいつはまだ未成年です・・・
 あいつの親がこのことを知ったら・・・」

「・・・・・」

「警察沙汰になりますよ・・・」

「それで?」

「一週間遅れると話してます・・・あと二日です・・・
 あいつを・・・返してくれませんか・・・」

「返す?」

「ええ・・・」

「彼女は品物じゃない・・・彼女は彼女の意思で僕の元にいる・・・
 それは君もわかっているはず」

「あいつはきっと、後悔します」

「後悔?」

「あいつは親に背いて平常心でいられる奴じゃない
 自分の意思を貫き通せるほど大人でもない」

「彼女のことは“自分が一番知っている”・・・
 そう言いたいわけだ」

「少なくともあなたよりは知っている!」

彼と僕は互いに睨み合った視線を譲れないまま、しばらくの間、沈黙に耐えていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

その沈黙を彼の方が先に破った。

「それに・・あいつには夢があります・・・」

「・・・・・・」

「いつの日か・・・ホテリアーになるという夢が・・・
 あなたはご存じないかもしれないが」

「・・・・・知ってます」

「そうですか・・・では・・
 あいつが働きたいホテルもご存知だろうか・・・」

「・・・・・」

「私の父のホテルです・・・
 小さい頃から、そこで・・・私と一緒に働くことが夢でした
 いいえ・・・今でもまだその夢は捨てていないはず」

「・・・・・」

「僕は・・・あいつの夢を叶えるためなら
 どんなことでもする・・どんなことでもできる・・
 今までもそうしてきたし・・・それはこれからも変わらない

 あなたはどうだろう・・・今、あいつの夢を知っているとおっしゃった
 それなら・・あいつにそれを尋ねたことがありますか?
 本当にやりたいことを聞いてやったことがありますか?

 あいつは・・・
 あいつはあなたの前で本心を語ってるんだろうか・・
 語れてるんだろうか・・・
 あなたは・・・あいつの真実を・・・
 本当にわかってると言えますか・・・」

「・・・・・真実?・・・
 今 彼女と僕の肌が触れ合う・・・それだけが真実だ・・・」

僕のその言葉に彼の眼光が力を増し唇が震えた。
「・・・・・・!」

「・・・・夢なんて・・・現実の元には儚いものだ・・・
 彼女の幼い頃からの夢が例え・・・君と歩むことだったとしても
 現実の彼女は今・・・僕と歩こうとしている・・・
 その現実を・・・君は認められないのか
 彼女のご両親にはいずれ、必ずお話をする・・・
 ご両親とて・・それが彼女の幸せと思えば・・・」

「あいつの親はあなたを認めない!」

「・・・・・」

「あなたのような!・・」

彼は即座に、自分が間違ったことを言い掛けたというように言葉を詰まらせた。
僕は彼のそんな様子を冷たく見つめながら口を開いた。

「僕のような?・・・」

「・・・・・・」

僕は彼に対して口元だけで小さく笑って見せた。

「君は、何不自由なく育ったお坊ちゃんなんだな・・・
 人を傷つけようと思うなら、もっと激しく罵倒しろ!
 それでなければ、相手は君を甘く見るだけだ・・・
 こんな時ははっきり・・・
 “あなたのような・・親に捨てられた人間は彼女にはふさわしくない”・・・
  そういうべきだ」

「・・・・・・」

「調べたんだろ?」

「・・・・・・」

「それで?」

「えっ?」

「それで・・・返さないと言ったら、どうなりますか?」

「・・・とにかく、あいつと話をさせてください」

「彼女が望まなかったら?」

「あいつの父親に全て話すまでです」





「ボス・・・遅かったな・・・時間に遅れるなんて
 珍しいじゃないか・・・」

「すまない・・・野暮用が・・・」

「ま・・いい・・・早速始めよう・・・休暇中悪かったな・・・しかし・・
 以前からお前が狙っていたホテル関連の重要な案件だ・・・
 急いだ方がいいと思ってな・・・

 知っていると思うが
 あの業界は新参者は受け入れにくい    
 しかしだ・・・お前はどうも別格らしい・・・
 最近M&A業界を賑わしてるヒーローだからな・・・
 そのお前の力を見込んで、是非にと乗ってきた会社がある・・・
 しかも、かなり大物だ・・・」

「何処だ」

「JAコーポレーション」

「JA?・・・そんなところに、入れるのか」

「ああ・・お前次第だ・・・今、そこが手掛けているM&Aがある
 NYグランドホテルとカナダのプリンスヒルホテルとの合併だ」

「ああ・・知ってる・・・それを僕に?」

「ボ~ス・・それを成功させてみろ・・・どうなると思う?」

レオは意味ありげな目つきを僕に向けた。

「かなりの利益だ」

「利益なんてもんじゃない・・・今後の俺達の礎となること
 間違いない・・・その代わり・・・」

「その代わり?」

「お前はこれを引き受けることで、どえらい相手を敵に回すことになる」

「どえらい相手?」

「お前も知らないわけじゃないだろう・・・
 JAには、今まで遣えたジェームス・パーキンという男がいる・・・
 奴の伯父が誰だか知ってるか・・・」

「マフィアのボス・・・パーキンと言えば知らない奴はいない」

「奴を敵に回すということはどういうことかわかるな・・・
 しかしひとつだけ、奴らを敵に回さない手立てがある」

「何だ」

「奴の傘下に入る」

「僕にマフィアに加担しろと?」

「奴もたとえ相手が甥であったとしても仕事となれば話は別だ
 ジェームスとお前では力の差は歴然
 お前が手に入るなら、きっとお前を選ぶ」

「マフィアとは仕事はしない」

「そうだったな・・・それはお前のポリシーだ
 それなら・・・」

「それなら?」

「弱みを見せるな」

「弱み?」

「守らなければならないものをそばに置くな・・・
 そういうことだ」

「・・・・・・」

「あいつらのやり方・・・知ってるか・・・
 攻撃したい人間がいるとする・・・その場合
 直接その人間をやるのは最後の最後だ
 まずはその人間の弱みに付け込む
 その辺は俺達のやり方と変わらないよな・・
 ただ俺達と歴然と違うのは・・・
 あいつらがその相手に直接手を下すということだ」

「フッ・・・そんなこと・・・」

「今更・・か?当然・・知ってることだよな・・・
 だが・・・敢えて言ってる
 ボス・・・いや・・フランク・・・
 お前に今・・・弱みはないか・・・」

「・・・・・・」

「ないか?・・・」

レオの僕を問いただす真剣な眼差しが、事情を深く尋ねるまでもなく
理解していると言っていた。

  僕の弱み・・・それは・・・

  ひとつだけ・・・

「・・・・・ある・・・・」

「なら・・・この仕事はやるな」

「どうして」

「どうして?・・・それはお前が一番・・・」

「この仕事を成功させたら・・・お前がさっき・・そう言った・・・
 僕にとって大きなチャンス・・・僕達の仕事の礎となる・・・
 そういうことだよな・・・」

「それはそうだ」

「なら・・・考えるまでもない・・・僕は必ず成功させる」

「しかし・・」

「守らなければならないものはひとつだけ・・・
 それは僕が・・・命を懸けても守ってみせる
 心配するな・・・
 お前はとにかく、話を進めてくれ・・・」
      
「・・・・・いいのか・・・覚悟があるんだな」

僕はレオに向かって黙って頷いた。


  守らなければならないものはこの世にひとつだけ・・・

  ジニョン・・・彼女だけ・・・

  そして・・・

  彼女と生きるためにも僕は成功を急ぎたい・・・

  誰もが認めざる得ない・・

  僕という人間の歴史を作るため・・・


          あいつの父親に全てを・・・
          あなたのことを話します・・・
           
          親父さんは頑固一徹な人間です
          決して間違ったことを許さない

          あなたは・・・あなた達は・・・
          既に間違ったことを・・・したんです


  間違ったこと?・・・

  ジニョンとの愛が間違ったことというなら

  この世の全てが間違ってる・・・

  彼女のいない人生が・・・正しいというのなら・・・

  僕は永遠に・・・間違った世界で生きる

  それが・・・僕の選んだ道だ・・・


僕はレオとの話を終えた後、その場所からさして遠くない、three hundred rosesへと
歩いて向かった。

もうひとつブロックを曲がると店が見える・・・そう思った時だった。

       《ソ・ジニョン・・・可愛い人だ・・・》

通りすがりに不意に、低くしゃがれた声が僕の耳に届き、僕は不気味なその声の主を
探して勢い振り返った。

  ジニョン・・・今・・そう言ったのか

しかしその瞬間、ひとつの黒い影が直ぐのブロックから消えた。
僕は慌てて、走ってその影を追いかけブロックを曲がってみたがその影は忽然と
消えてしまっていた。

瞬時に胸が締め付けられるような恐怖が僕を襲い、ジニョンの元へと走らせた。

「 ジニョン! 」

丁度その時、店に入ろうとする彼女の姿が目に入って、慌てて声を掛けた。

「フラン・・あ・・いえ・・ドンヒョクssi・・・
 驚いた・・私も今、着いたところよ・・
 早かったのね・・・もう少し待つかと・・・」

僕を見つけたジニョンの満面の笑顔を前に、僕は大きく安堵のため息をつきながら、
彼女をきつく抱きしめた。

「どうしたの?ドンヒョクssi・・・苦しい・・わ」

「何でもない・・・」

「フ・・ラ・・ンク・・?」

「何でも・・・ない・・・

    すごく・・・


   ・・・逢いたかっただけ・・・」

      








2010/04/20 11:53
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-24.いじわる

Photo


      

 



  

「ねぇジニョン・・・キスしていい?」
僕は後ろから彼女をしっかりと拘束したまま、彼女の耳元に囁いた

「ドンヒョクssi・・・そんなこと・・・聞かないといけないの?」
彼女はまたいつものようにそう言った。

「僕は紳士だから・・・」

「紳士?・・紳士ね~・・・じゃあ、淑女の私は・・・そんな時どう答えれば?」

「んー・・・どうぞ・・って・・・」

「えー・・・そんなの何だか変だわ・・・」

「じゃ・・こうやって・・“いいわ”・・・とか?」 僕は唇を突き出して見せた。

「えー・・・!」
人一倍照れ屋の彼女をからかうのは実に楽しい。
目の前で彼女がみるみる頬を赤く染めていき、一生懸命に僕の言葉を切り返そうとする。

   さっき僕を・・・泣かせた罰だよ・・・
   ちょっとだけ意地悪させて

「いいから・・・していい?」

僕は照れ隠しにおしゃべりを絶やさない彼女の顎を、クィッと後ろ向きに誘導すると
真顔で彼女の答えを待った。

「いい?」

「だから・・いちいちそんなこと・・聞かないで・・・」

「言ってくれないとできない・・・」

彼女は僕から視線を落として、更にその頬が真っ赤に色づく。
僕はその顎を指で持ち上げて彼女の瞳の中に僕を戻した。

「言って・・・“いいわ”って・・・」
あまりに真剣な僕の眼差しに彼女がやっと観念する。

「い・・いいわ・・・」
震えたようなその返事に僕は薄く微笑んでそっと唇を合わせた。
僕の唇と彼女の唇がゆっくりと触れ合って、互いを確かめるようになまめかしく音を立てた。
次第に濡れゆく彼女の唇を軽く啄ばみながら、彼女の吐息さえ許さないほどの
執拗なくちづけに変えていく。

彼女の右手が僕の胸を押し息苦しさを訴えると、僕の腕が彼女の背中をグイと引き寄せた。

彼女のまだ少し濡れた髪が僕の指に絡んで冷たかった。

僕は唇を離さないまま、彼女を抱き上げそのままベッドへと運んだ。
ふたり同時に倒れ込むように横たわりスプリングを弾ませる・・・

その拍子にふたりの唇が離れて、彼女の吐息が小さく漏れた。
そして僕はまた、ジニョンを真顔で覗き込んでわざと尋ねる。

「抱いてもいい?・・・」

「だ・・駄目って言ったら・・・ど・・どうするの?」

「どうしよう・・・」 

「どうしようって・・・」

「どうして欲しい?」

「どうして欲しい・・って・・・」 

「あ・・今・・何を想像した?」

「何も・・想像したりなんか・・」 

「言ってごらん?・・・」 

「・・・・・・」
   彼女が少しべそをかいてきた・・・ 

「フラ・・ンク・・・どう・・して・・・そんなこと・・」 

「君のその反応が見たくて・・」

「・・・・・・」

    この辺で・・・止めないと、本気で拒絶されそうだね

「ドンヒョクって・・・フランクよりも意地悪な人?・・・」

「そうかも・・・」

僕は彼女がまだつむじを曲げない内に、急いで彼女の首筋に唇を這わせた。
そして・・・ゆっくりと彼女を少女から女へといざなう。

「いじわるして・・・ごめん・・・」

「許せない・・・」

「愛してるから・・許して・・・ジニョン・・・」

 
    愛してる・・・愛してる・・・愛してる・・・愛してる・・・

    言葉にするのももどかしいほどに・・・


    だから・・・少しばかりの意地悪は大目にみて・・・

    僕の・・・君への愛しさが・・・溢れすぎて・・・

    君の白く滑らかな肌に零れ落ちていく

    そして・・君は・・・


「もう・・・許したでしょ?・・・」

「い・・・」

    じ・・・わ・・・・・・

君に伝えたい僕の愛を、ひとつひとつ君の吐息と絡めながら

いつしか僕が君に埋もれていく・・・

    あぁ・・・ジニョン・・・

    僕は・・・このまま・・・


    君の中に沈んで・・・しまいたい・・・




「やっぱり・・・ベッドから空が見える方がいいな~」

「うん・・・今度用意するときはそうしよう」

「あ・・でも、ここも素敵よ・・・自然がいっぱいで
 気持ちいいもの・・・」

「じゃあ、あそこ・・・開けちゃう?」 僕はそう言って天井を指差した。

「ふふ・・」

「明日・・業者に聞いてみるよ」

「・・・・・ドンヒョクssi・・本気なの?
 いいわよ、そんなことまでしなくても・・・」 

「言っただろ?
 僕は君のやりたいことは何でも叶えるって」

「でも・・・」

「ジニョン・・・明日は少しドレスアップして、街へ出掛けないか」

「え?だって明日は・・お仕事・・・」

「夕方までには必ず終わらせる・・・迎えをよこすから
 君は準備していて?」

「でも・・・ドレスアップって・・私・・ドレスなんて・・・」

「こっち来て?・・・このクローゼット開けてみて」
僕は彼女のその言葉を待っていたとばかりに、彼女をクローゼットに誘導した。

ジニョンは不思議そうな顔をしながら、バスローブを羽織るとベッドを降りて
僕に近づき、クローゼットの扉を開けた。
そこには事前に用意した数着のドレスやワンピースなどが隙間無く掛けられているはずだ 。

「どうしたの?これ・・・」

「皆、君のものだよ・・・靴もアクセサリーも
 下着も用意してある・・・
 サイズは・・・多分、合ってるはずだけど・・・」

「下着も?・・・
 サイズなんて聞かれたことあったかしら?」

「いいや・・・大体だよ」

そう言いながら僕は両手で輪を作って彼女を抱いている仕草をして見せた。

「ドンヒョク・・・いいえ・・フランクって・・・
 いつも女の人にそうやってプレゼントするの?」

彼女は少し口を尖らせて僕を睨みながらそう言った。

僕は当然彼女が喜んでくれるものと思っていた。

「心外だな・・ジニョン・・・女の人に洋服や靴なんてプレゼントしたの初めてだよ
 それに、サイズはソフィアが教えてくれた」

「ソフィアさんが?・・彼女にそんなこと聞いたの?」

「何を準備すればいいだろうかって・・・そしたら
 着の身着のままだろうから、すべて準備なさい・・って」

「フー」

彼女は呆れ顔を少しオーバーに現して僕を再度睨んだ。

「何?」

「ソフィアさんの部屋・・・あなたのレイアウトでしょ」

「そうだよ・・・」 僕はあっさりと答えた。

「・・・・・・」 ジニョンはそのことが不満だったらしく、僕を更に睨んだ。

「何?」

「・・・・あなたって・・ソフィアさんの言う通りね」

「言う通りって?・・彼女、何を言ったの?」

「女心がまるでわかってない。」

僕を睨みつけた彼女がわざとらしくため息を吐いて、くるりと背を向けると寝室を出て行った。
そしてバスルームに駆け込んだかと思うと、そこからなかなか出て来なかった。
僕は彼女のそんな様子に、愚かにもたじろいでバスルームのドアを叩いた。

「ジニョン!僕、何か悪いことした?
 何怒ってるの?出て来いよ!ジニョン!・・・」

「怒ってないわ!シャワー浴びるの!」

投げつけるようなジニョンの声が中から届くと、僕は余計に困惑した。

「じゃあ・・・僕も一緒に・・」

「駄目!」

「ジニョン!?」

僕はジニョンがシャワーを浴びている間、そのドアの前に座り込んで、
彼女が急に怒った理由を尋ねていた。


「ねぇ、ジニョン・・教えてよ・・どうして怒るのさ
 洋服を勝手に用意したから?君の趣味に合わなかった?

 僕が下着まで用意しちゃったから?
 それは僕が買ったんじゃないよ・・業者の人間に頼んだんだ

 それとも・・・他に理由が?

 ソフィアの部屋のレイアウトがどうのって・・言ってたね
 それがどうかしたの?・・・」

「・・・・・・・」
「ねぇ・・・」

「そこどけて!出られない!」

「あ・・ごめん・・・」

僕が慌ててドアから離れると、まだ怒ったままの顔の彼女がやっと中から出てきて、
僕の横をすり抜けた。
僕は、その後を、くっ付きそうなほどにぴったりと付いて歩いた。

「ねぇ・・教えてよ・・・何を怒ってるの?」

僕は彼女の後を追いかけながら、彼女のご機嫌をおろおろと伺っていた。

   何で僕がこんなことを?

「何でもないわ」

「何でもなくはないでしょ?・・・十分怒ってる顔だけど」

「・・・・・」

「ジニョン!」

「何でもない!」
彼女が急に立ち止まり僕に振り向くと、決して何でもなくはない表情を僕に向けた。

「改めてわかったわ!あなたって!・・・」

「あなたって?」

「・・・・・・・・・何でもない!」

「それはないだろ?言いかけて止めるのはルール違反だって
 いつも君が言ってることだぞ?」 

「言いたくないの!」

「言わなきゃわからないことだってあるでしょ?!」

「言ったら、嫌な女になっちゃう!」

「ジニョン!」

僕は彼女の両手首を掴んで、背ける彼女の顔を無理やり振り向かせた。 
彼女の目から溢れる大粒の涙が、それまで彼女の行動に少しばかりむっとしていた僕を
一瞬にして萎えさせた。

「ジニョン・・どうして?・・泣くの?・・・
 お願い・・・言ってくれ・・・
 君にどんなことをしてあげたら喜んでもらえるのか・・・
 僕はあんなことしか、思いつかない・・・
 好きな人に喜んでもらえることが何なのか、何ひとつ知らなくて・・・
 今何故、君が怒るのかがわからない・・・」

僕は本当に困惑してそう言った。
すると不意に彼女が歪めた顔を僕の胸に埋めた。
そして僕に回した両手を僕の背中に食い込ませた。

「・・・・・・嫌な女だわ・・・私・・・あなたが・・・
 ソフィアさんを大切な人だと言った・・・
 そのことがいつまでもひっかかってる・・・

 ソフィアさんは、フランクはこの部屋に入ったことない・・・
 そう言った・・・でも、それはきっと私を気遣ってのことよ・・・
 わかってるわ・・・でも・・・やっぱり嫌・・・」

「あ・・・」

「あなたとソフィアさんは恋人同士だった・・・
 割り込んだのは私の方なのに・・・
 彼女は凄く優しくしてくれた・・・それなのに・・・
 あなたと彼女のことを考えるといつも胸が苦しくなる・・・」

「ジニョン・・・僕は彼女の部屋に入ったこと無いよ」

「・・・・・」

「確かに彼女の部屋のレイアウトは僕・・・
 家具も僕が選んだ・・・今時はね・・・ジニョン・・・
 パソコン上でレイアウトも簡単にできるんだよ・・・

 彼女に頼まれて僕がコーディネイトした・・・
 でも・・玄関先にも行ったことがない・・・本当だ・・・

 ソフィアが入れてはくれなかった・・そう言った方が正解かもしれないけど・・・
 彼女はそんなことで君に嘘なんかつかないよ

 そんなに・・・彼女のことが気になる?
 僕が言った言葉が君を傷つけてるの?・・・

 ソフィアを大切な人だと言ったこと・・・
 でも・・・僕はただ君に嘘をつきたくなかっただけだ

 彼女がいなければ、今の僕はなかった・・・
 そう言うとまた君を傷つけることになる?・・・

 でも・・・その事実を話さないでいることは逆に
 君への裏切りのような気がした

 僕は君を・・・真直ぐに見つめていたい・・・

 君にも偽りの無い本当の僕を見つめていて欲しい・・・   
    
 もう僕は・・・君を失えないんだ・・・ 

 誓うよ・・・
 これから先・・・どんなことが起ころうと・・・ 

 僕の心は君だけにしか向かわない・・・    
 だから・・・僕を・・僕の心だけを見て・・・」

彼女は無言のまま、僕に回して作った拳に力を込めた。

「・・・・・・ドンヒョクssi・・・・・・」

「ん?」

「あなたにはきっと・・・女心は一生わからないわ・・・」

「そうなの?」

    聞かなかった方が苦しくないこともあるのよ・・・

    フランク・・・

「でも・・・いいわ・・・私に話すことは全て本当のこと・・・
 それは私だけの・・・ドンヒョクssiの心・・・そうなのね・・・」

    ソフィアさんが言ったわ・・・

    フランクの心は・・・あなたには重すぎる・・・

    でも・・・


    それでも・・・私は・・・

    あなたの心を背負いたい・・・


「ん・・・」

「ドンヒョクssi・・・私、行きたいところがあるの・・凄くおしゃれして・・・」

「何処?」

「Three Hundred roses・・・」

「Three Hundred roses?・・・ラスベガスの?」

「NYにもできたのよ・・・あの高級レストラン・・・
 一度行ってみたかったんだ」

「ああ・・いいよ・・・じゃあ、早速予約入れよう・・
 美容室の予約も入れておくよ・・・」

「うん」

「機嫌直してくれた?」

「ごめんなさい・・・」

「じゃあ・・・キスしてい・・」
「だか・・・ぅっ・・」

     ごめん、もう・・・


        ・・・聞かない・・・
 
    

 


 

      






 

 


2010/04/16 08:37
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-23.恋しきもの

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「ボス・・・新しい棲みかの住み心地はどうだ・・・」

「ああ・・悪くない・・」

「そうか・・・それは良かった・・・・」

「・・・何の用だ?・・・三日間は電話もしない約束じゃなかったか」

携帯電話の着信音が鳴った時、僕は思わず眉をひそめていた。
案の定、受話器の向こうから聞こえてくるレオの声は、僕の反応を予想したかのように
言葉を濁ごして歯切れが悪かった。

「悪いが明日NYへ戻ってくれないか」

「・・・・・」

「すまない。しかし・・・今度の案件について早い内に
 耳に入れておきたいことがある」

「今、話せ。」

「いや・・・直接会って話したい。・・・明日午後1時
 いつものところで・・じゃ」

「おい・・」

レオは僕の返事をわざと聞かないというように急いで電話を切った。

最近レオは僕の操縦方法を心得ているように思う時がある。
僕への意見や忠告も、是が非でも通さなければならない時には僕に有無を言わせない。
癪に障ることもあるが、結果としてそれは正解だと言えた。
だからこそ、そのレオが今、僕にNYに戻ることを要求するということは、
それなりに大きな理由があることだと僕も理解せざるえないのだ。


『お仕事なの?』

「ん・・」

ジニョンは濡れた髪をタオルで拭きながらシャワー室から出て来ると
彼女をひとりでここへ置いていくことを考えてうなだれていた僕を気遣うように
優しげに声を掛けた。

『NYへ?』

「ん・・」

『明日?』

「ん・・・ジニョン・・ごめん」
『ケンチャナヨ』

「・・・・・・」

『ケンチャナ・・・フランク・・・私は大丈夫・・・
 ここであなたを待ってるわ・・・』

「ジニョン・・・」

ジニョンがさっきから僕に話す言葉がハングルであることにとっくに気付いていたが、
僕は敢えて英語で返していた。

「どうしたの?」

『え?』

「ハングル・・・」

『わかるんでしょ?フランク・・・』

「忘れた・・とっくに・・・」

『嘘ばっかり・・・
 私、興奮すると時々英語使わないでハングル使ってたでしょ?
 それでも・・あなたとの会話・・不自由したこと無いわ
 あなたの答えはいつも英語だったけど・・・」

「フッ・・・」

『私といる時はハングルを使って?・・・フランク・・・』

「どうして?」

『あなたが祖国を忘れないように・・・』


   祖国?・・・


「・・・・・・・祖国じゃない。」 僕は強く拒否するように言った。

『祖国よ。』

力強い瞳の彼女を前に僕は思わず下を向いて笑った。
 
   さっき話した僕の身の上話のせい?

   それで・・・ハングル・・なの?


『可笑しい?』

「いや・・・可笑しくない・・・」

『フランク・・・その笑い方・・・感じ悪い。』

ジニョンはそう言って、瞳に軽く力を入れて僕を睨んだ。

 

「フッ・・・きっと・・・そうだな・・・
 僕が・・・君に初めて出逢った時・・・
 あの場所で足を止めたのは・・・君のそのハングルのせいだった・・・

 君と・・・ジョルジュが話すハングルに無性に腹が立っていたのは
 君達が羨ましかったから・・・そうなのかもしれない・・・
 きっと嫉妬していたんだ・・・君達の交わす・・・懐かしいハングルに・・・

 もう二度と使うまいと決めていた・・・

 世界中の言語の中で・・・一番嫌いだった・・・
 僕は・・・僕という存在を否定した韓国が嫌いだった。」


『・・・・・・・』

「でもそうじゃなかったんだ、きっと・・・一番・・・恋しい国だった・・・
 一番耳に優しい原語だった・・・

 君の話すハングルがどれだけ僕の心に沁みたのか・・・
 きっと、君には想像もできないよ・・・
 だって・・・僕自身・・・今・・初めて気がついたんだから・・・」

そう言って僕は彼女に向かって微笑んだ。

『フランク・・・』

「僕は素直じゃないね・・・」

『そうね・・・あなたは素直じゃないわ・・・』

『ミアネ・・・ジニョンssi・・・』

『フラ・・ンク・・・?』

『ドンヒョク・・・』

『え?』

『シン・ドンヒョク・・・僕の韓国名・・・それが・・・
 僕の本当の名前・・・“ドンヒョク”・・・言ってみて・・・』

僕は彼女の瞳を真直ぐに見つめて『ドンヒョク』という名をハングルでゆっくりと発音した。

『ドン・・ヒョク・・・・・ドンヒョク・・ssi・・・
 あぁ・・何だか・・・素敵な響きだわ・・・ドンヒョクssi・・って・・・』

彼女は僕のその名前を輝くように音にした。

たった今まで、心の奥底に封印され続けた僕の幼い日の心の拠り所が
まるで・・・暗闇の中から・・・ジニョンという光に導き出されていくようだった。

   そうなんだ

女神のような彼女の微笑みに僕は完全に降伏していた。
 

『ジニョン・・・おいで・・・』

僕は彼女の手を取ると力強く引き寄せて自分の膝の上におろした。
そして彼女の肩に掛かったタオルで彼女の髪を包み込み、思い切り力を込めて
乱暴にその髪を拭き始めた。

『痛いわ!フラン・・・ドンヒョク!痛い!』

『黙って!急いで乾かさないと、風邪引くだろ?』

『でも、痛いわ!もう少し、優しくして!・・ドンヒョクssi!・・・』

『駄目!』


   駄目だよ・・・今は駄目・・・

   お願いだから今はこのまま僕に背を向けていて・・・

   せめて・・・


僕達の会話は今を境に英語からハングルに変わり、彼女が僕を呼ぶ名は「ドンヒョク」と
なっていくのだろうか。

   シン・ドンヒョク・・・

11年もの間、僕は誰にもその名で呼ばれたことが無い・・・


「あなたは今日からフランク・・・」

そう言われたあの日から・・・抵抗する術も知らなくて・・・
ただ・・・

   ・・・心で叫んでいた・・・

 

   僕はフランクなんかじゃない・・・ドンヒョクだと・・・


それがいつの頃からか・・・
僕自身も拒絶してきた父がつけたドンヒョクという名・・・

その僕の名が、今・・・愛する人の声で蘇った

 

   ジニョン・・・お願い・・・もっと・・・

   もっと呼んで・・・僕の名を・・・君の声で呼んで・・・

   もっと・・・もっと・・・ジニョン・・・

 

しばらくすると・・・
さっきまで抵抗していた彼女が突然大人しくなって
僕がするままに身をまかせ、そしてゆっくりと僕にもたれかかった。

 
    きっとそれは・・・

 
僕はそのまま彼女を受け止めるように優しく、力強く抱きしめると、
彼女の背中に顔を埋めた。

 

    きっとそれは・・・

 

    僕の涙に気がついたせいだね・・・ジニョン

 


君が静かに・・・

   僕の心が落ち着くのを待っている・・・

 

君がそっと・・・

   君に回した僕の腕を抱いてくれる・・・

 

言葉のいらない静かな時の流れを・・・


   僕は君とふたり・・・


   漂う幸せに酔いしれていた・・・


   コマウォ・・・

 


        コマウォ・・・ジニョン・・・

 

   

 

 


 


 




 


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