2010/07/31 00:27
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-42.うわて

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僕はその日既に、あのサロンからさほど離れていない小さなホテルに予約を入れていた。

それは、一度の面談で彼女がすんなりと僕の意向に応じるとは思っても無かったし
一旦僕が引いた後に、もしも彼女がその気になった時、いつでも素早く応じられるよう、
考えてのことだった。

しかし僕は彼女の前から消えた時、このホテルの名を敢えて口にしなかった。


果たして彼女が僕を探すか・・・それはひとつの賭けだった。


少なくとも彼女がその気になれば、彼女が僕が今夜この地に滞在していることを
察っしたとすれば、必ず僕の所在は調べ当てることができるはずだと踏んでいた。

 

 僕と・・・《連絡を取らなければならない》

彼女自身がそう思うこと・・・その事実が重要だったからだ。

 

僕はホテルに着くと直ぐに冷たいシャワーを浴びた。

今日ここへ来ることを、ジニョンに告げずに来てしまったことがずっと気に懸かっていた。


しかし今この時、彼女への想いは断ち切っていたかった。

   僕が今考えなければならないことは・・

   レイモンドとの戦い・・・それだけ・・・

シャワーの水を顔に激しく受けながら僕は自分が置かれた立場だけに集中しようとしていた。

   しかしこんなこと・・・何の役にも立ちやしない・・・

   なんて無駄なことをしている?・・・ジニョン・・・

   この水の音さえも・・・君の声に聞こえてしまうのに・・・


ジニョンには僕が今、ある仕事に追われていることは伝えてある。

ただ仕事の全容は彼女に知られないよう努めていた。

今係っているこのことがソウルホテルにも関係があり、またその奥深くには
彼女の出生の秘密までも係っている、そのことだけは彼女には決して知られたくない。

とにかく彼女のいないところで一日も早く事を終わらせたかった。
その想いが彼女を無意識に遠ざけていた。


電話で話をしているとジニョンが、僕に逢いたがっていることが手に取るようにわかる。

   それは僕も同じ想いだ


しかしその都度僕は、はぐらかすかのように、彼女の心をその場に置き去りにした。
彼女の不安に揺れ動く心を見ない振りをした。

   そうなんだ・・・僕には時間が必要だった・・・

 

   もう少し待っていて・・・ジニョン・・・

   君とふたりで生きるため・・・

 

   僕は目の前の敵を残らず

   倒さなければならない・・・

 

シャワーのコックを捻って水を止めた瞬間、部屋の奥で鳴り響く電話の音に気がついた。

僕は取りあえずバスローブを羽織ると浴室を出て、うるさく鳴り続けている音に向かうと
それを見下ろしながらゆっくりと手を伸ばした。


「フランク・シン様にお電話なのですが・・・
 先様がお名前を教えてくださいません
 繋いでくれればいいと・・・待っているはずだから、と
 そうおっしゃるのですが・・・いかが致しましょう」


        彼女からだ・・・

 

彼女が意外と早く僕を探し当てたことに僕は思わず零れる笑みを隠せなかった。

「繋いでください」

 

「フランク・シンです・・・どちら様でしょう」

僕は電話越しにも落ち着き払った自分を彼女に強調すべく、時折バスタオルで
濡れた髪を拭いながら、ゆったりと応対した。

「あなたが私を待ち焦がれている・・・そう思ったのだけど・・・違ったのかしら・・・
 随分と待たされたわ
 私が誰なのか・・・名乗る必要がお有り?」

彼女はいらつきを隠しもせずにそう言った。

   
「フッ・・・よくここが?」

「この辺で・・・ホテルリストの一番目に出てくるホテルだわ」

「そうでしたか・・それは知らなかった・・ところで、何の御用でしょう」

「あなた・・・私を焦らしているつもり?あなたこそ・・・
 私の電話を待っていたのではなくて?」

「さあ・・・待つべきでしたか?・・・」
「・・・・・」

彼女は焦らされたことが本気で癇に障ったらしく、急に言葉を噤んでしまった。

       この辺にしておかないと・・・

       臍を曲げられても厄介だ

「いや・・失礼・・・最初にこちらがお願いしたことでしたね」

「・・・それで・・・どうすればいいの?」

「あなたが隠しているものを、私にお預け願いたい」

「私が隠しているもの?」

「お分かりのはずです」

「それで?それをどうするの?」

「パーキン家にそれをネタに、レイモンドに退くよう、要求致しましょう
 あなたはそれがお望みでしょう?」

「それくらいのことでレイモンドは退くかしら」

「パーキン家所有の債権を徐々に買い占めています・・・
 あなたがお持ちのものが本物ならば
 それを担保に資金を融資してくれる反骨分子もひとりやふたりではありませんから」

「パーキン家に反発する人間もあなたの手中にある・・・そういうことなのね」

「はい」

「あなた・・・お若いのに、随分とやり手なのね
 敵に回さない方がいいかしら?」

「さあ・・・どうでしょう・・・
 あなたが私を敵に回すか・・味方につけるか・・私はどちらでも構いません」

「今がチャンス・・・そう言いたいのね」

「今しかありません」

「わかったわ・・・それでどうすれば」

 

僕は彼女からの電話を置いた後、すぐさまレオに連絡を入れた。

「レオ・・・明日、夫人から例のものを受け取る
 そのままNYに戻る予定だ」

「ボス・・・気をつけろよ。それを持っていることで、お前は全てのマフィアに狙われる
 そう思え・・・」

「ああ・・わかっている」

 

例のもの・・・

それはパーキン家の数十年に渡る裏取引の証拠書類と裏帳簿の原本だった。

 

それらは、今マフィア界のトップに君臨するパーキン家を簡単に脅かし、
パーキン家の地位を狙う反骨分子にとっては喉から手が出るほどの代物だった。

それが彼らが身を隠すように生きてきた理由でもあったのだと、フランクは思った。

しばらくの間は息を潜め、いつの日かその時が来たら、それを盾に攻撃を仕掛ける
その日を虎視眈々と狙っていたのだろう。

その重要な資料を持ち出していることでパーキン家はもちろん彼らを追っていただろう。
しかし彼らは、ロスの有力者の力を借りることに成功し、この5年もの間、
まんまと地下に潜むことが出来ていた。

しかし僕にはそんなことなどどうでも良かった

僕の狙いはただひとつ・・・
彼らの手元で眠ったものを起し、レイモンドに突きつける。
そして直ちにソウルホテルから手を引かせる、それだけで十分だった。


僕は翌日早朝に、昨日尋ねたサロンに向かうべく、ホテルをチェックアウトした。

目的のものを手にしたらそのまま空港に向かうつもりだったが、僕がタクシーに乗り込み、
目的場所を告げた時、背後から一台の車が時間差で動いたことに気がついた。

タクシーの運転手に少し横道に逸れるよう指示を出し回り道をして見せた。
そしてその車が僕をつけていることを確信した。

僕はサロンに向かうことを断念し、すぐさま彼女に連絡を入れた。


すると彼女は即座にこう言った。

「わかったわ・・・私もNYへ行きましょう
 私が直接持って行くわ
 あなたはそのまま空港に向かいなさい」

 

何んとか、付けられていた車を撒くことに成功して空港に着くと直ぐに、
僕は彼女の指示通り、彼女とも会うことなく、何も受け取ることもせず、
そのまま機上の人となった。

彼女が本当にNYへ行く保障もないものを、僕としたことが彼女の言葉をすんなりと
受け入れるなんて、
僕は少しばかり後悔していた。

しかしそれは杞憂に過ぎなかった。

僕が機内に入ると、僕の座席の隣をしっかりと陣取って座っていた彼女が
僕を見上げて得意げに口角を上げた。

「どうして・・・」

「ふふ・・・あなた・・・私に自分の身元も明かしていない・・・
 そう思っていたんでしょうけど・・・甘いわね・・・」

「・・・・・」

「自分にとっての命に等しいものを・・・
 見ず知らずの人間に簡単に預けるとでも思った?」

「じゃあ・・付けていた車はあなたの?」

「さあ・・」

彼女は空々しく小さな窓から外に視線を向けた。

「あなたがいたら目立ち過ぎる・・・邪魔です」

「もちろん・・表には出ないわ・・・でも・・・
 あなたの後ろには・・いさせてもらう・・・」

「・・・・・」

「嫌とは言わせないわ」

「・・・・・」

僕は呆れたように彼女を睨むと、溜息をつきながら仕方なく席に着いた。

「では・・・あなたのお手並み拝見と行きましょうか・・・」

「書類は?」

「これよ」

僕は彼女が差し出したアタッシュケースを開いて中から分厚い書類を取り出すと、
それらの信憑性を把握するべく急いで目を通した。

「どう?」

「・・・・・・・よく、生きてこられましたね」
僕はため息混じりにそう言って、重大な価値のある書類を、丁寧にケースにしまった。

「ふふ・・・」

彼女は美しい横顔で、含んだ笑みを浮かべていた。

 
     さあ・・・

     これから先は・・・この僕が・・・


       ・・・生きていられるかだ・・・

 

 


 

   


 


2010/07/26 08:45
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mirageside-Reymond-16

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「やはり、レオナルド・パクの情報網は期待通りでした」

「彼らがこのNYから消えて5年、か・・・」

「ええ・・今までよくも逃れていたものです」

「後はフランクが上手く彼らを計画に乗せてくれれば」

「乗って来るでしょうか?」

「フランクなら・・」

「彼を随分と信用なさってるんですね」

「フッ・・」

  そう・・・

いつしか私は彼を自分の目的を叶えられる唯一の男だと確信していた。

「しかし・・いよいよです」

「ああ・・私の計画は彼ら無しでは終決しない」

「・・・・・」

「ソニー・・覚悟はいいか・・」

「覚悟?とっくにできております    
 それに私は・・最後まで若のおそばにいられれば本望ですから・・・」


「・・・・・フッ・・損な人生だな」

「損?・・本望と申し上げました」

「ソニー・・・頼みがある・・・」

「何でしょう」

「・・・私にもしものことがあったら父を・・・」

「・・・・・」

「父を・・・私の代わりに・・・
 母の眠る場所へ連れて行ってくれないか」

「・・・・・」

「頼む」

「若・・それは・・お引き受けしかねます」

「命令だ・・お前は私の命令なら何でも聞く・・そう言ったはずだ」

「いいえ・・・たとえあなたのご命令だろうと・・・
 きっとお父上が承諾なさらない・・・
 あなたご自身がお連れしないことには・・頑として聞き入れてくださらない
 あの方も・・・どなたかによく似ておいでです」

「誰のことだ?」

わざとらしくのたまうソニーを私は下から睨みつけた。

「血は争えぬと申します」

ソニーは睨みつけた私にお構いなく淡々とそう言った。

「フッ・・」

「ですから・・」

「ソニー・・・お前は今まで私の言うことに背いたことがあったか?」

「ございません・・一度として。」

「それなのに?」

「はい・・・」

「お前が・・生涯で唯一、私の命令に背く・・そういうことか・・・」

「はい。」

「なあ、ソニー・・・・・私が強情なのはきっと・・お前に似たんだ・・」

「私に・・・ですか?」

「ああ・・父よりもずっと多くの時間を過ごしたお前に・・・
 きっとそうだ・・・」

私がそう言うと、ソニーは私に、彼にしては珍しく満面に湛えた笑顔を見せた。

私もまた、彼から顔を背けながらも自然と綻ぶ自分の頬を手の甲で押さえ俯いた。

   ソニー・・・お前がいてくれたから・・・

   僕はまだ人間でいられたのかもしれない

   母が残した僕への想いを・・・

   お前だけが忘れずに守ってくれていた

   この世界で・・・縦に厳しいこの世界で・・・

   お前は変わらず母の心だけを守ってくれた

   お前ほど強情な男はいない

   そうだろ?

 

      僕が強情なのは・・・


         ・・・お前に似たんだ

 

 


「・・若、我々はどう動きましょう」

「ああ・・まず、フランク達の護衛を強化しろ
 奴らは自分達の立場が危うくなれば無鉄砲なことをしかねない」

「はい・・・こちら側の幹部達はどのように・・・
 たとえ若のなさることとはいえ、黙ってはいますまい」

「ん・・・」 私は少し考えて、おもむろに口を開いた。   

「モーガンには私が直接、話をしよう」

「はい」

「それから・・例のものをフランクが手に入れたら
 彼から速急に奪い取れ・・
 フランクの手にあっては彼が危ない」

「はい」

「とにかく、フランクの動きを見逃すな
 彼が私の手先と勘ぐられることは避けなければ・・
 彼らにも・・ライアンにも・・・そして警察にもだ・・・
 そのためにも・・・我々は・・徹底的にフランクの敵となるんだ。」

 

「そこまで・・あの男のことを?守る必要があるんですか?」

 

「守らなければならない。」

「わかりました」

「・・・・急げ!」

「はっ!」

 

   

   あの男を守る理由?・・・

   そんなもの考えもしなかった

   いや・・・きっとそれは・・・

   私の心のずっと奥深くに

   いつの間にか根付いていたのかもしれない


   あの男を守らなければならない・・・

   その理由・・・


   それは・・・

  
   あの男にしか

   守ることができないもの・・・


   それが・・・この世に

   たったひとつだけ・・・

         
   ・・・存在するからだ・・・


 


2010/07/25 15:03
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mirage-儚い夢-41.切り札

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僕がその人を訪ねロサンゼルスに飛んだのは、レオからの報告を受けた
その翌日のことだった。

 

昨日、電話でアポイントを取った時、その人は会談の場所にロスにある
自己所有の美容サロンを指定した。

街の外れの静かな場所に存在するそのサロンは、外観は普通のアパート風で
入り口の厳重なオートロックドアを抜け中へ入ると、内装は外観と打って変わって
上層階級御用達風の絢爛たる造りを誇示していた。


大理石の広いエントランスの奥に重厚なドアが二つあり、それぞれのドアに
メンズとレディースの表示の刻印が見えた。
僕が指示された通り、メンズ専用の入り口から入ると、待ち構えていたかのように
受付嬢らしき女性が入り口付近で僕を出迎えていた。

 

「お待ち申し上げておりました・・ご案内申し上げます」

彼女は僕を連れ立って、メンズから通じているらしいレディース専用の個室へと誘導し
僕を尋ね人の元へと案内した。

 

通された部屋はアールヌーボー調の調度品でまとめられ、広々とした空間に
その中央にぽつんと置かれた一台の細いベットが目を引いた。

ベッドの上には背中をむき出しにうつ伏せた一人の女性が横たわっており、
その白い背中を器用な指使いで術を施しているエステティシャンと思われる
東洋の女性がちらりとこちらを向いて会釈をした。


「フランク・シンと申します」

僕は自分の尋ね人がそこに横たわっている人物と解釈して口を開いた。

「・・・・」

その背中は微動だにせず、返事すら無かった。しかし僕は迷わず話を続けた。

「用件はお電話で申し上げた通りです」

「・・・・」

「・・・ご協力いただけますか・・」

「あなたに協力すれば・・私は何を得られるの?」 彼女がやっと声を上げた。

それでもうつ伏せた状態を崩すことなく、僕に視線を向けるわけでもなく、
落ち着き払った声だけが僕に向かっていた。


「きっとあなたの望みが得られるかと・・・」

「ふふ・・・そう・・・でも・・ひとつだけ聞かせて?
 どうして・・あなたは・・・
 私がパーキン家の弱みを握っていると思ったのかしら」

「情報を得たからです・・・」

「情報ね・・・・どこからそんな情報が?」

「私が望めば、調べられないことなど何一つありません」

「随分大きな口叩くのね・・・それにしても・・・
 そのことは決して誰にも漏れないことだと思ってたわ・・・
 それに私はそれを公にする気もさらさらない・・・」

「・・・しかしあなたは・・時を狙っていたはず・・」

「まさか!」

彼女はやっと僕の方に顔を向け、僅かに声を荒げてみせた。
しかし、その声とは裏腹に彼女の冷たい目は一向に動揺を感じさせなかった。

しかし僕と初めて対峙した彼女が僕を見て一瞬だけ驚いたように眼を見開いたのがわかった。

「・・・随分と・・・お若い方なのね・・それにかなりの美男子・・・」

「・・・・・」

「・・・でも・・嫌いな顔だわ・・・」

その言い方は初めて会ったはずの僕をずっと昔から嫌いだったと言いたげな口ぶりだった。

「・・・・」


   ローザ・パーキン・・・


アンドルフ・パーキンの妻・・・現在はパーキン家を離れ、ロサンゼルスの外れに
ひっそりと居を構えていた。
   

彼女の肌はとても白く輝き美しく、そして若々しかった。
年齢を聞かなければまだ三十代後半と言われても納得するだろう。

 

「あなた・・・誰かに頼まれてここへ?あなたのボスは誰?」
   
「私にボスなどいません」

「なら、何故・・パーキン家を狙うの?」

「仕事です」

「仕事・・ね・・・」

「それで・・・」

「それで?・・・何だったかしら・・・」

「ご協力いただけ・・」
「そうね・・・あなた次第」

彼女は僕を睨みつけるように力強くブルーの瞳を向けて、少し薄めの唇の口角を
妖しく上げた。

 

しばらく待つようにと別室に通されて三十分、彼女は体のラインを強調したような
シルクのシンプルなドレスに身を包んで現れた。
抜けるような白い肌に瞳の色と同じ淡いブルーがよく似合っていた。

彼女は僕の顔を覗きこみながら、その脚線美を誇張するかのように僕の前に
優雅に腰を下ろした。

「フランク・・・だったかしら・・・お名前」

「ええ・・」

「時を狙っていたはず・・・
 先程そうおっしゃったわね・・・・・・・・・」

彼女は僕の正体を伺うかのように鋭い視線を向けた。

「ええ・・」

「確かに・・・狙っていたわ・・アンドルフがトップを退く、その時を・・・」

「ご子息の戦線離脱という話はやはり表面上・・・ということですね」

「・・戦線離脱?世の中ではそんな風に?・・
 そうね・・・・・・・・・・」

彼女はスッと斜めに足を組み、目の前のテーブルに置かれた。
ケースに手を伸ばすと、その中から煙草を一本取り出した。

「・・・あなた・・・慣れてないのね」

「・・・・?」

「こんな時は、直ぐに火を点けるものよ」

「・・・・・」

そう言って妖しげな笑みを浮かべながら、彼女は自らライターで優雅に火をつけた。

「・・・フー・・・
 あの子は仕事の失敗でアンドルフから見放されたのよ」

煙草の煙をわざとらしく僕に向かって吹きかぶせながら彼女は話しを続けた。

「・・・といっても、彼には初めからあの子に継がせる気持ちなど
 さらさらなかったでしょうけどね

 レイモンド・・・・・・・」

彼女はその名前を口にしてから、少し間を置いた。

「あの人が生涯で愛したたった一人の女の息子
 彼にはあの子ひとり、いれば良かったのよ
 フレッドもライアンも・・・そして私も・・必要なかった」

彼女はそう言いながら視線を落として小さく溜息をついた。

「・・・・」

「だから、離れてあげたの・・彼の為に・・・」

そう言った彼女の声が少し震えているように感じた。

「・・・・」

「ふふ・・信じた?・・・
 あの人の為・・・そんなわけはないわね・・本当は・・
 いつの日にか・・
 彼の大事な大事なレイモンドを潰すのが私の目的・・・
 そして私のフレッドに光を浴びせるの」

「・・・・」

「その為なら、私は何でもするわ・・・
 それが今・・その時なのかどうか・・それはまだ・・わからないけど・・」

彼女は僕に協力するかどうかわからないと言いたげに、僕に意味ありげな微笑を向け、
煙草を灰皿に置いた。

「あなたが目的を果たそうとされるなら・・私と組んだ方が得策だと。」
僕は彼女から一寸も目を逸らさずそう言った。

「自信家なのね」

「自信?・・・事実です」 そしてそう言って僕は口元だけで笑って見せた。

「そう・・頼もしいのね・・・
 確かに、私とフレッドの力だけでは目的を成し遂げるには厳しいわ
 あの子・・レイモンドの周りには力のある人間が有象無象に
 盾となってあの子を守っている・・
 これもあの人の意志・・・
 全てがレイモンドの為にレールが敷かれているの」

「今がチャンスです・・・ファミリーは分裂しかけている」

「・・・今は何もお答えできないわ・・・今日はお引取りを・・」

そう言いながら彼女は立ち上がり、僕に退室を促すように入り口のドアを開けた。

「わかりました・・今日のところは引き上げます」

僕は敢えて彼女に逆らうことなく直ぐに席を立った。

僕が部屋を出ようと、彼女の横を通り過ぎようとしたその時、突然彼女が
僕の胸に掌を当てて進行を遮った。


「あなた・・・レイモンドに・・・似てるわね・・・」

僕はそう言われて、思わず不愉快そうに彼女を睨んだ。

「その目・・・その目よ・・・
 何度睨まれたかしれないわ
 あの子が幼い頃でさえ、大の大人の私が思わず震えたものよ
 私の・・・大嫌いな・・目」

彼女は僕を睨み返すように見上げてそういい捨てた。

 

   僕はわかっていた・・・
   これからの勝負・・・
   僕にとってこの女が唯一の命綱となる

彼女もまた、それを悟ったかのように僕に挑んでいた。

 

「この目がお嫌いなら・・仕方ありません・・・
 しかし・・・私でなければ・・・
 あなた方を暗闇から救い出すことはできない
 いいでしょう・・・
 私がお気に召さないなら・・・このまま・・・
 この煌びやかな牢獄で安穏と暮らされるがいい」

僕は彼女を振り返ることなく後ろ手にドアを閉めそこを出た。

 

彼女が僕を選ぶのか選ばないのか、これはひとつの賭けだった。
だから敢えて、僕は彼女に背中を向け潔く立ち去った。

 

   僕が優位に立つためには・・・

   追って来るのは彼女の方でなくてはならない

   今ここで・・・

 

   彼女との駆け引きに

 

   僕は決して・・・

 


       ・・・負けてはならない・・・


    


         


       

 


2010/07/18 13:00
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-15

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   その人を・・・守ってやりなさい・・・

   愛する人は・・・ 何としても・・・

      守らなくてはならん・・

   お前には・・・
   私のような後悔をさせたくはない

 
父は背を向けた私にそれだけ言い残して部屋を出た。


        守ってやりなさい・・・

 

「フッ・・
 あなたにそんなことを言われるとは・・・思わなかった・・・」

私は父が出て行ってしまった後にひとり月に向かって呟いた。
「あなたに何がわかる」 そう続けた私の心の中は不思議と穏やかだった。

 

   しかし父さん・・・
   残念ながら僕にはその資格がない

 

   自分の思惑の為に愛した女すらも陥れる
   ・・・そんな男です

 

   それに彼女には・・・
   きっと命がけで彼女を守もりぬく
   最強の男がいる


   父さん、教えてあげましょうか・・・

 

   愛することと・・・愛されること・・・

   その違いはあまりに大き過ぎるということを・・・

   フッ・・・


   ソニーがそう言ったんです

   もしかしたら・・・あなたよりもずっと深く
   母さんを愛していたかもしれない・・・

   ソニーが・・・そう言ったんです

   父さん・・・あなたは知ってますか?

   母さんはあなたをとても愛していた・・・

 

   あなたは母さんに愛されていた

   そうです・・・それならば・・・

 

   僕よりもあなたの方が・・・遥かに幸せだ・・・


   あなたは自分の人生に価値がなかったと言った・・・

   本当にそう思いますか?

 

   あぁ・・・そうでした・・・

   あなたのことを言葉にする時の
   母さんの美しく優しい笑顔・・・

   あの笑顔を今・・思い出してしまった

   その笑顔がとても好きで・・僕は良く
   母さんにあなたのことを尋ねたりしたものです


   そうなんですね・・・

   あなたの存在の価値は・・・


   きっとそうだ・・・

   僕の母さんに愛を教えたこと・・・

   今の僕には・・・それがよくわかる・・・

 

   父さん・・・

   あなたはそれだけでは・・・


       ・・・不足ですか・・・

 

 

「若・・・フランク・シンが動き出しました」

「ん・・・上手く情報が伝わったんだな」

「おそらく・・」

「それで彼らには辿り着けそうか」

「いえ・・それはまだわかりません・・
 どうもフランク・シンはひとりで動いているようです」

「ひとりで?」

「その方が情報が漏れる可能性が少ない・・そう考えてのことだと・・」

「危険だな・・・ライアンの動きは?」

「相変わらず、張り付いています」

「ソニー」

「はい」

「フランクが彼らと接触しそうな動きがあった時は・・・」

「・・・・・」

「もしもそれを邪魔するような奴がいたら・・」

「承知しています・・・あなたはそれ以上何もおっしゃらなくていい・・・」
    
  フランクは私の思う通りに動いてくれるだろうか

  思うところへ辿り着いてくれるだろうか・・・

私はソニーからの電話を切った後、父が残したワインを眺めながら、
私の最後の戦いがきっと、父を追い詰めることになるだろうことを心の中で詫びていた。

 

   でも、父さん・・・

   その戦いが終わったら・・・あなたを・・・

   母さんの元へ送れそうな気がする・・・

   その時こそあなたを・・・

   許せそうな気がするんです

 


私は机の引き出しから小さな木箱を取り出すと、その中から焼けかけた一枚の写真を
手に取った。

   私の手元に残るたった一枚の母の写真・・・

   少し伏目がちに想いにふけったような・・・

   美しい横顔・・・

   これは・・・僕があなたに内緒で
   そっと撮ったものだ・・・

   シャッターを押した瞬間に・・
   あなたが僕に「何でもないのよ」と言いたげに
   笑顔を向けた・・・
   それが却って・・悲しかったのを覚えています

   今こうして改めて見ると

   きっとあなたは静かに
   心の隅に父さんを刻んでいたんですね

 
母が一人で逝ってしまった後、その行為が許せなくて、私は感情のまま
母の写真を残らず燃やしてしまっていた。

その時、慌てたソニーがその火を消し、燃えかかった最後の一枚を取り上げて
私を睨みつけながら黙って持ち去ってしまった。


それから随分長いこと、私がこの写真を目にすることはなかった。

あれは私が二十歳になったころだったろうか・・・
ソニーが何も言わずこの木箱を私に差し出した。

私は最初不思議な顔をしながら蓋を開け、その中にこの写真を見つけると、
思わず苦笑いを浮かべながら彼からこれを受け取った。
 

   母さん・・・
   本当はあの時のことを凄く後悔しています
   あなたとの思い出を消してしまおうなんてこと・・・
   するんじゃなかった

   僕の大好きだったあなたの美しい笑顔
   それが一枚も残っていない

   このたった一枚の写真の中のあなたは
   余りに悲しげで・・・

   まるで僕を責めているようだ

   
   忘れてしまいそうだったんです

   あなたの幸せそうな笑顔を・・・

   それを彼女が思い出させてくれた
      

   だから余計に彼女に惹かれるのかもしれない・・・

   僕の記憶の中の・・・

   あなたの笑顔に・・・惹かれるのかもしれない・・・


       母さん・・・

 

          それもまた・・・

 

        あなたの・・・僕への・・・

 


 

            ・・・罰ですか?・・・

 

 



2010/07/17 22:25
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mirage-儚い夢-40.決別

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「・・おじさんから連絡があったか?」 

「ええ・・」

「それで・・・どうする?」

ジョルジュはさっきからずっと、私の顔を見ないまま静かな声でそう言った。

「・・・・」

「俺は帰国する・・・お前は・・・どうする?」

「どうするって・・」

「おじさんは本気だぞ」

「・・・わかってる」

「あいつには話したのか」

「・・・・」

ついさっき、フランクの車を降りようとした時、ジョルジュが私の視界に入ってきた。
フランクも彼の存在に直ぐに気づいたようだった。

いつもならジョルジュとの接触を避けるかのように、そのままアクセルを
吹かせるはずの彼が一旦エンジンを切り車から降りると私の隣に寄り添い、
ジョルジュが私達に近づいて来るのを一緒に待っていた。

 

「何の用ですか」

急いで走って来たジョルジュが息を荒く継ぎながら、私ではなくフランクに向かって
開口一番そう訊ねた。
私は、フランクとジョルジュの顔を交互に見比べながら、昨夜フランクについた嘘が、
彼にはとうにお見通しだということに私は小さく溜息をつくしかなかった。

「ジニョン・・ちょっと席を外して」

フランクはそう言って私を車の中に戻すと、ジョルジュとその場から離れて行った。
互いに深刻そうな顔つきで向き合っていたが、彼らの声が届かない私には、
ふたりを心配げに見つめることしかできなかった。

    

 

「今週末にはおじさんが渡米して来るぞ」

「さっき、フランクと何を?」

「なあ・・ジニョン・・・お前・・あいつといて・・・幸せか・・・」

ジョルジュが私の質問をわざと無視した。

「どうしてそんなことを聞くの?フランクが何か言ったの?」

 

私が再度問い質すように彼の目を睨みつけると、彼はしばらく黙り込んで
私の先を大またで歩き始めた。


    『約束は守ってもらわなきゃ困る』

    『約束?』

    『君にとってもジニョンは大事な人だろ?』

    『君にとっても?俺にとって・・だ』

    『彼女から目を離すな・・そう頼んだはずだ』

    『いったい、あんたの周りで何が起こってるんだ
     ジニョンに何か起きるのか!
     それに・・どうしてジニョンが巻き込まれなきゃならない
     何の事情も聞かされず!
     あんたにあいつのことを頼むなどと言われる筋合いもない!』

    『事情は知らない方がいい・・それから・・
     レイモンドに用心しろ・・いや、奴の周辺にいる輩に
     用心して欲しい』

    『レイモンド?レイとあんた・・何の関係があるんだ?
     レイも巻き込んでるのか・・このところ
     レイの様子がおかしいのはあんたのせいか?』

    『とにかく・・ジニョンをひとりにしないで欲しい
     今、こんなことを頼めるのは君しかいないんだ』

そう言ったあいつの目が余りに真剣で、俺はそれ以上のことを問い質すことが
出来なかった。

    『あんたに言われなくとも・・・ジニョンは俺が守る』

 

あいつは俺の言葉をまるで聞かなかったみたいに、車で待つジニョンに視線を向けると、
俺の言葉にこうかぶせた。

 

    『僕達がこうして話していることが気になっているだろう
     ジニョンには・・彼女が僕についた嘘を責められた
     そう言ってくれ』

    『嘘?』

 


 

「あいつと一緒にいて・・・これから先のお前の幸せが見えるか」

しばらくしてジョルジュが、黙って彼の後ろを歩いていた私に急に振り向いたかと思うと
突然にそう尋ねた。

「どうして!・・そんなこと聞くの!」 私は思わず声を荒げてしまった。

「答えろ。」 彼もまた声を荒げた。

「・・・・・・」

「お前・・不安なんだな・・・」

私の目の奥にある何かを読み取りでもするかのように、私の顔を覗きこんだ彼が
私の心の中を簡単に結論付けた。

「不安なんか!不安なんかないわ!私・・フランクを愛してる・・凄く愛してる
 死ぬほど愛してるもの!」

「軽々しく死ぬほどなんて言葉使うな!お前はまだ子供なんだ!
 あいつの全てを背負えるほどの器量はお前にはない。     
 そんなこともわからないのか!」

「わからないわ!オッパが何を言いたいのか。少しもわからない!」

昔からジョルジュといつもこんな風に喧嘩をしていた。
ジョルジュが私に怒鳴る時はいつも私のことを想ってのことだということも知っていた。
知っているからこそ余計に、反抗してしまうのかもしれない。
言われていることが、図星であることを認めてでもいるように、私は彼に対して
意味もなく怒鳴り散らした。

  わかってるわ・・・そうよ・・私はフランクといても
  いつも不安を抱えている

  彼を愛している・・・それは紛れもない事実
  彼も私を愛している・・・それもきっと・・・事実

  でも・・・時々
  彼が消えてしまう夢を見る
  彼が私を置いていってしまう夢を見る


「夢を見るの・・・」

「夢?」

「ええ・・・」

「嫌な夢なのか」

「ええ・・・」

こういう会話だけで・・・私がどんなにその夢に怯えているのか、わかるのは
きっとこの世でジョルジュだけだと思う。

小さい頃から、私が嫌な夢を見るといつの日かそれが現実になることがよくあった。
と言っても今までのそれらの殆どはとても些細なことで、例えば、
楽しみにしていた旅行の前にお腹を壊すとか
とても欲しかった限定品が手に入らないとか
みんな後になって、笑って話せることばかりだった。

でも時々、本当に嫌なことを夢見ることがあって、その都度、私はジョルジュに
その恐怖を話していた。

そしてその中にひとつ・・・
私の記憶の奥に潜在しているものがある
ずっとずっと昔・・・
私はきっと凄く大事にしていた何かを失くしている
それが何なのかはわからないけれど
記憶にないほどの遥か昔、
私は何か大切なものを失くす夢を見ていたような気がする
そしてそれはきっと現実になった・・・と思う・・・
でもそれが何なのかは・・・今でもわからない

 

私の見るフランクの夢は・・・その夢に近い
何故だかわからないけれど・・・意味もなくそう感じていた。

「俺は・・・おじさんの言う通り、
 お前が俺と一緒に帰国してくれればいいと思ってる
 俺のそばにいてくれればいいと思ってる
 たとえ、お前がおじさんの言うなりになって・・・
 帰国することがお前自身の本心に沿わないことだとしても
 お前の・・俺への気持ちがなかったとしても
 俺はそれでも構わない・・」

「心がなかったら・・幸せにはなれないわ」

「お前の心は必ず取り戻してみせる!
 お前は・・俺のそばでしか幸せになれない!
 俺はそう信じてる。
 今のお前がたとえあいつを・・・死ぬほど愛してるとしても
 俺が・・お前を愛してることにはきっと叶わない!」

「そんなの!」

「叶わない!。決して。・・文句があるか!」

ジョルジュは私の肩に指を食い込ませながら、力強くそう言った。

「ジョルジュ・・・ジョルジュ・・・
 そんなこと言わないで・・私にそんなこと言わないで
 私・・あなたを愛してる・本当に愛してる・・
 でも・・それはね・・兄に対する愛でしかないの
 きっとこの気持ち・・これ以上にはならない・・決してならない。」

「それでもいい」

ジョルジュは私の肩から手を離すと、私に哀願するような眼差しを向けた。

「ジョルジュ・・」

「それでもいい・・」

「ジョルジュ!」

「それでもいい!」

目にいっぱいの涙を溜めたジョルジュの悲愴な姿が次第に歪んでいった。
私は溢れ出る涙を拭おうともしない彼を目の前にしてひどく苦しかった。

でも彼の想いには、決して応えられないことを私はとっくに知っていた。
彼が言うようにたとえ、フランクとの愛が実ることがなかったとしても
彼の想いは決して受け取ってはいけない・・そう想った。

ジョルジュは私のことを一番わかっているかもしれない。
彼といれば私はきっと幸せをもらえるのかもしれない。
でも・・・彼を・・・私が・・・決して幸せにできない・・・
どんなに時間が過ぎ去ろうとそのことはきっと変わることはない。

「ジョルジュ・・オッパ・・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・
 ごめんなさい・・ごめんなさい・・・ごめ・・」

私は何度も何度も彼に対して謝っていた。
ジョルジュはそんな私をただ呆然と見つめているだけだった。

互いに頬を伝う涙は途切れることなく流れ続けていた。ジョルジュはきっと・・・

私の彼への心の決別を

この瞬間に・・・

   認めていたのかもしれない・・・

 


 

「ボス・・どうした・・顔色が悪いぞ」

「いや・・何でもない・・それより居場所はわかったか」

「ああ・・・ボス、もう一度聞くぞ。本気だな。」

「ああ」

「・・・・わかった・・・」

「連絡先をくれ・・僕が直接会う」

「いや・・それは俺が・・」

「駄目だ・・レオ、お前にはソフィアと一緒に残った仕事をやって欲しい」

「しかし・・お前ひとりでは・・」

「ひとりの方がいい」

「・・・・」

「奴らに気づかれないうちに・・


       ・・・片をつける」・・・

 


 


 





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