2010/07/12 08:49
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-14

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ジニョンをフランクのアパートに送り届けた後、私はまっすぐに自分のアパートへ向かった。

部屋の階でエレベーターを降りると、玄関の前に父が立っているのが見えた。


「どうしたんです?お一人で?」 私は驚いたというように父を見た。

「いや・・そこの路地で待たせている・・・」 
数日前、父に反抗的な態度をとって依頼、互いの中に微妙な気まずさが残っていた。
いつも誰かが互いのそばにいるこの環境の中で、私達は次第に親子関係が
希薄になっていることに、いつしか慣れてしまっていた。

しかし、こうして玄関の前で俯き加減に私を待つ父は、マフィアのボスその人ではなく、
息子と向かい合いたい、ただそれだけを願っている哀れな親の姿にしか見えなかった。

私がドアを開けて父の前で右手を室内に向かって差し出すと、父はホッとしたように、
私の誘いを受け入れた。

「初めてだな・・・ここへ来るのは・・・」

父がそう言って部屋を見渡している様子が何故か滑稽で、それでいて何故か温かくて、
そう感じた自分を私は父に知れないように、秘かに笑っていた。

「そうでしたか?」

 

「ああ・・・お前と一緒に暮らしたのは
   お前が17になるまでだった」

「・・・・・」

「私はそれ以来・・一人暮らしだ・・・」 父はそう言って項垂れた。

「どうぞ・・・お掛けください・・ワインでも・・」

「レイモンド・・・」

父は私に背を向ける形でソファーに腰を下ろすと、私に振り向かないまま、
改まったように口を開いた。

 

「何でしょう」 私もまた、父に敢えて視線を向けることなく、
ワイングラスを二つカウンターの上に用意すると、その脇のワインセラーから
その中でも一番最高のワインを取り出していた。


「私はいったい・・・何をしてきたんだろう」 父は独り言を言っているかのように呟いた。

「・・・・・」

「このところよく・・・幼い日のお前を思い出すんだ
 お前に・・・初めて会った時のことを・・・」

「・・・・・」

「あの日・・目の前を走ってくる少年が・・・
 賢さを瞳に輝かせた少年が・・・
 私の子・・・そう思った瞬間に涙が溢れ出た・・・」

「・・・・・」

 

「覚えているか?
 私の横でお前はハンバーガーを頬張って・・」

「・・・・・」

「最初は、頑として食べなかったんだ・・
 知らない人からはもらえない・・そう言って・・
 食べてくれなかった・・」

「・・・・・」

「ハンバーガーひとつを・・・むしゃぶりつくように
 頬張るお前が・・・    
 ・・無性に愛しかった・・・」

「・・・忘れました・・・」 私はやっとそう答えた。


「・・・本当は・・・お前達に・・・
 お前と彼女に逢いたかっただけなのに・・・
 結局言えなくて・・・
 お前達さえいてくれれば・・・良かったはずなのに・・・
 それすら・・言えなくて・・・
 結局お前達に悲しい思いだけをさせた・・・」

 

「・・・・・」
   
「愛する人を悲しませるだけの人生に・・・
 いったい価値などあるんだろうか・・・」

父の声には人生を心から悔いているような響きがあった。

「価値?・・・あなたの存在の価値を否定したら・・・
 僕は・・・僕自身も否定することになる・・・」

そう言いながら私が父の前にワイングラスを置き、手にしたワインのビンをゆっくりと
グラスに傾けていると父は私の顔を静かに覗いていた。

「・・・あの日からお前は、ずっと私を許しては・・・」

そう言いかけて父は言葉を変えた。


「・・あの時はそうするしか、私に選択の余地はなかった
 病気と生活に苦しんでいる彼女を放ってはおけなかった」

「僕をここへ連れてきた理由は・・・それだけ?」

「・・・・・・」

「それだけの意味でしたか?」

「・・・・・いや・・・違っていた・・・しかし・・」

父はグラスを手にすると、ひと口流し込んでひと息ついた。

「いや・・止めておこう・・・
 何を言ったところで・・言い訳にしかならない
 お前に許されないなら・・・私は彼女の元へ行くのも・・・」

「止めますか?・・・」

「・・・・・」

「覚えていますか・・・あの日・・・
 あなたと初めて会ったあの日・・・
 僕はあなたに銃を突きつけた・・・」

「ああ・・・覚えている・・・」

「あの時・・・その引き金を引いてしまっていればよかった
 何度・・・そう思ったかしれない」

「ああ・・・そうなるべきだった」

「いつの日か・・・
 僕があなたを許す日が来るんでしょうか」

「来なくとも・・・いいさ・・・」

「そうしたら・・・
 僕は一生苦しむんでしょうね・・・
 母と僕を引き離した・・あなたを許せなくて・・・
 僕を置いて死んでしまった・・母を許せなくて・・・
 そして・・・きっとあなたを許すことができない・・
 僕自身も許せなくて・・・
 人を愛することもできなくて・・・きっとそうやって
 一生・・苦しむんでしょうね・・・」

「・・・・愛する人がいるのか」

「・・・・・」

「その人は・・・」

「その人は・・まるで母さんのようなんです
 笑顔がとても綺麗で・・温かくて・・・
 彼女の笑顔に包まれていると心が柔らかく安らいで・・・
 彼女に睨まれると・・・まるで・・
   母さんに諌められているようで・・・
 彼女を抱きしめると・・・
 僕が寝付く前に必ず抱いてくれていた
 あの人の・・甘い匂いがするんです
 あの時で途切れてしまった・・・母さんの匂いがするんです」


私はいつの間にか、父の前で大粒の涙を流しながら、初めて愛した人の話を
語っていた。


逃げてしまわないかと恐れるみたいに、次第に早口にその言葉を運んで彼女を
語っていた。

父を前にして・・・いや、きっと父だからこそ・・・
今まで誰にも・・・
自分自身にさえ認めなかったことを・・・

彼女を愛してしまったことを・・・認めてしまっていた。

 

窓の外に輝く月が揺れたまま、原型を留めてくれなかった。

父は私の話を何も言わず黙って聞いていた

私はそんな父の柔らかい視線を背中に感じながら・・・

 


いつまでも・・・

 

   いつまでも・・・

 


      ・・・月明かりだけを見ていた・・・

 


2010/07/11 15:28
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mirage-儚い夢-39.眠れない夜

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「着いたよ・・・じゃあ、ここで・・・」

「はい・・・あ・・ありがとうございました」

「これからは・・」

「これからは決して一人では歩いたりしません」

「ん・・・じゃ」

レイモンドは一度だけフランクの部屋の方を見上げると、他には何も言わず、
頬を少し上げただけの笑みを向けながら軽く手を振り、私に背中を向けた。
そして振り返ることなく、今ふたりで歩いてきた道を戻っていった。
私はその後姿を何故か溜息混じりに見送っていた。


「ジニョン?」

その声に振り返ると、今しがたアパートのエントランスから出てきたらしい
フランクと・・・
そしてその横にはソフィアがジニョンに向かって笑顔を向けていた。

「あ・・・」

「お久しぶりね・・・ジニョンさん・・・お元気だった?」

「えっ?・・・ええ・・・ソフィアさんも・・・」

「じゃあ、フランク、ここでいいわ・・・」

「いや・・車まで送る・・・ジニョン、部屋に入ってて」

「え・・ええ・・」

「ジニョンさん・・じゃ・・また・・・今度はフランク抜きで会いましょう」
ソフィアはそう言ってジニョンにウインクをしてみせた。

「はい・・是非・・さようなら・・」

フランクとソフィアがジニョンを残して、彼女が駐車しているらしいパーキングの方へと
向い歩き出した。

  私は今度はつい先程まで私の視界にいたレイモンドとは逆の方向を
  歩くふたりの背中を黙って見送っていた
  そして同じように溜息をひとつついた

  その溜息を吐くと同時にふたりから視線を逸らせると
  フランクに言われた通り、彼の部屋に向かい、彼の帰りを待っていた


  私は冷えた体を温めようと冷蔵庫からミルクを取り出すと
  それをカップに注ぎ入れ、レンジにかけた
  二分程して少し熱くなり過ぎたミルクを未だ口にできないでいると
  玄関のドアが乱暴に開く音がして驚いて振り返った

  そこには走って戻って来たらしいフランクが大きく息を整えながら
  私を睨んで立っていた
  そして
  問い質すような口調で私に向かって来た

「どうしたの!? 急に・・・まさかここまで・・一人で?」

「走って来たの?」

「聞いているのはこっちだ・・・
 あれほど・・ひとりで行動しては・・駄目だと言ったでしょ!
 しかもこんな暗い夜道を・・歩いて?」

「大丈夫よ」

  私はフランクの心配を十分承知していながら、彼の厳しい視線に
  反抗でもするかのように不機嫌を装ってそっぽを向いた。

 

「大丈夫って・・君ね!」

  フランクはそっぽを向いた私の肩を自分の方に強い力で振り向かせると
  私を更にきつく睨んだ。


  私はそんなフランクに対して、引くに引けない感情を持て余したように
  彼のその目を睨み返すしかなかった。

「大丈夫だから、大丈夫なの!ちゃんと送ってもらったもの!」

「送って?・・誰に・・」

「だ・・誰だっていいでしょ?フランクだって・・」

「僕だって・・何!」

「フラ・・ンク・・だって・・・」

「・・・・まさか・・・ソフィア?・・・疑ってるの?」

「疑ってなんか・・・」 

  私は答えに困って睨み合わせたはずの視線を逸らしていた。


「じゃあ、何!・・その言い方・・」

「・・・だって・・・」

「だって?」

「だって・・逢いたくて・・・あなたに逢いたくて・・・
 どうしても逢いたくて・・・来たのに・・・あなたは・・・」

「ソフィアとは仕事の打合せだ・・・
 彼女は今、僕の仕事を手伝ってくれてる
 その話・・したでしょ?」

「したけど・・・」

「僕と彼女のこと・・・ふたりを信用してる・・
 君・・そう言ったでしょ?」

「言ったけど・・・」

「だったら・・どうしてそんな顔する?」

「ごめんなさい・・・」

  私は謝りながらも、彼から視線を逸らしたままだった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「で?」

「えっ?」

「誰に?」

「えっ?」

「ここまで・・・誰に?」

「・・・・ジョル・・ジュ・・・」

「ジョルジュ?・・・
 彼がよくここに連れて来てくれたね」

「・・・・」

「まあ、いいよ・・・ひとりで行動しなかったのなら
 それでいい・・・」 

  フランクはそれ以上私を追及することをしなかった。

「・・・・」


  私はフランクに嘘をついた


  本当はひとりでやって来たこと・・・そしてついさっき
  フランクがこのところ異常なまでに心配していた
  その「危ない目」に遭うところだったこと・・・

  そして・・・ここまで送ってくれたのがジョルジュではなく
  レイモンドだったこと・・・
  そのどれもが、フランクを怒らせることになる・・・

 

     そう思った・・・から?

 

  ソフィアさんと彼のこと、私は本当に疑ってなどいない
  今ではソフィアさんは私にとっても頼りになる人となっていた

  でもつい・・・そういう言い方をしてしまった

  そのことに腹を立てたわけじゃないのに・・・

  じゃあ・・何故?

  何故私は・・・フランクに対して怒ってるの?

  そうよ・・・きっと私は・・・

 

     私の・・・レイモンドに対する感情に・・・

     私自身に・・・腹を立てている・・・

 

 

 

 

「レイモンドにしてやられた?」

ライアンの側近が若い男達に向かって叱責を浴びせていた。

「申し訳ございません」

「何のためにお前達を雇ってると思ってるんだ?
  たかが女ひとり、連れて来られないのか!」

「・・・・」

「他の奴にやらせてもいいんだぞ!」

「いいえ!今度こそ必ず!お任せを・・・」

「如何なさいますか」

「・・・・チャンスをやれ」

ライアンは彼らに背中を向けたままひと言だけ声を出した。

「そういうことだ・・・しかし三度のチャンスはないと思え!」

「はい!・・必ず!」

男達は、ライアンの背中に深く一礼をして部屋を出ていった。


「彼らに任せるだけでいいでしょうか」

「いや・・お前たちも動け・・時間がない
 親父が引退を内外に表明する前に、片をつけたい」

「承知しました」

 

 

 


「フランク・・・」

「ん?」

「・・・・・」

ジニョンが急に僕の胸に抱きついて、僕の背中に握った小さな拳を押し付けた。

「どうしたの?」

「離さないでね・・・」

「ん?・・・」

「私を・・・離さないでね・・・」

「離さないよ」

「約束してね」

「約束する・・・」

「何があっても・・・」

「ああ・・」

「誰かが・・・私たちを引き裂こうとしても・・・」

「誰が僕達を引き裂けるの?」

「そうね・・・」

「そうだよ・・・」


     あぁ・・・フランク・・・

     私のいるべき場所はこの胸の中だけ・・・

     あなたのこの胸だけ・・・


「こうして・・・眠りたい・・・」

ジニョンは僕の胸にもたれかかるように頬を埋めた。

「立ったままで?」

「くすっ・・・」

僕の冗談にジニョンは僕の胸で可愛く笑っていた。
しかし、それは心から笑っているようには思えなかった。


      どうしたの?ジニョン・・・

      何をそんなに恐れている?

      何が僕達を引き裂くというの?


僕は彼女を抱きしめたまま、まるでダンスをするように・・・
彼女を優しく宥めるかのように体をゆっくり揺らしていた。

彼女は何も言わず、僕に体を預けたまま目を閉じた。

彼女が僕に何を言いたいのか、その時僕は何もわからなかった。

 

ただ、今はこのまま・・・
ふたりだけの世界に揺られていたい・・・そう思っていた。

そして・・・

僕自身がいつも心に抱いている不安と・・・

彼女が今抱いている不安・・・

それが辿ればきっと同じところにあることを・・・


     僕は心の中で・・・

 


         ・・・必死に否定していた・・・


 








2010/07/04 13:06
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mirageside-Reymond-13

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ライアンの配下がジニョンを狙っていることを私はソニーからの報告で知った。
それからというもの私は、自分が受け持った授業が無い日であっても、
できるだけ学校に出向くよう努めていた。

フランクとて、十分気をつけてはいるだろう。
しかし私には、悲しいことに奴らの行動が簡単に読めてしまう。

奴らは決して諦めない
ターゲットが動きそうもないと思うその時間にも、決して気を緩めることなく
周到に見張っているものなのだ。

案の定、ジニョンは寮に戻って誰もが寝静まろうとしていたその時に、突然動きだした。
当然彼女の近辺に張り付いていた輩も『ここぞと』動き出す。

その報告を受けた私は、迷うことなくフランクのアパートの方角へと動いた。

私が駅で彼女を待ち伏せて、そっと後を付け始めるとその後方に彼女に狙いを
定めているらしい数人の男の気配を察知した。

私はその男達よりも先に彼女に近づこうと、彼女の進行方向を予測して、
車で先回りをして待った。

 

  「きゃあっ!」

私が彼女の手首を力任せに掴んで無理やり引っ張ると、彼女が驚きのあまり
大声をあげた。
私はその声を奴らに聞かれまいと思わず彼女の口を塞ぎ、乱暴に腕の中に
彼女を封じ込めると急いで物陰に潜んだ。
      
  「シッ・・・動くな!」

その瞬間彼女は、もがいていた体の動きを私の腕の中でぴたっと止めた。

     《見失ったのか!》

     《確かにここに入ったぞ!》

     《探せ!》

     《何としてもあの女を捕まえるんだ!》

彼らの気配が次第に遠ざかってしまった後も、私は抱きしめた彼女を離せないまま、
時を数えていた。

彼女はまだ私の腕の中で恐怖に打ち震えていたが、気持ちをやっと落ち着けて
静かに口を開いた。


  「離して・・・下さい・・・レイ・・・」

  「・・・・」

  「離して・・・」

  「離さない」

私はそう言うと、彼女を抱きしめていた腕に力を込めた。

 

     何をやってる・・・

     何を・・・言っているんだ

 

     こんな子供相手に・・・
 
     何を・・・

 

  「レイ・・・」

  「どうして、ひとりで歩いてた?フランクにも注意をされたはずだろ?」

  「どうして・・それを?」

  「世の中は・・・君が思うよりずっと物騒なんだよ」

  「フランクも・・・同じことを・・・言います」

  「君は・・・本当に・・・見ていられないほど・・・危なっかしい子だね」

  「だったら・・・見ないで・・・下さい」

彼女のその言い方は決して子供ではなく、ひとりの女のそれだった。

  「・・・・ああ・・そうしたい」

 

     そうしたいさ・・・
     どうしてこうも君に拘るのか・・・自分にも尋ねたい
     私が拘ったのは・・・フランク・シン・・・
     その男ただひとり・・・だったはず

 

  「もう・・離してください」

 

彼女の懇願の声に私は腕の力を緩めると、腕の中で震えていた彼女にやっと
顔を向けることができた。

 

  「あの人たちはいったい・・・誰なんですか?」

  「さあ・・」

 

     奴らが誰なのか・・・
     その先に誰が存在するのか・・・
     君には・・・知られたくない


  「私を探しているようでした」

  「そう?」

 

     ああ・・・君を・・・いや、君の大切な
     フランクを標的にしているやつらだ・・・
     そして君をも犠牲にしようとしている・・・

     私もまた、言ってみれば・・・その一味・・・


  「あなたはどうして・・ここへ?」

  「フランクに仕事のことで用があったんだ・・・」

  「仕事って?・・・あなたはいったい・・・」

  「公園に入るところで君を見かけて声を掛けようとした
   そしたら、あいつらが君の後ろを・・・
   公園なんて静かなところを、女の子がひとり歩くもんじゃない
   君は常識を知らなさ過ぎる」

私は厳しい目で彼女を睨みつけていた。

余りに無防備で、恐れを知らない彼女の無垢が無性に憎らしかった。

 

  「・・・ごめんなさい」

  「送ろう」

  「何処へ?」

  「フランクのところだろ?」

  「あなたが・・フランクのところへ行ったら・・・」

  「フランクが怒る?・・フッ・・アパートの下までだ」


      彼を怒らせるのが私の目的・・・
      しかし・・・君が嫌がるとわかっていることに
      私は何故か今夜は・・・
      少しばかり消極的になっていた


  「・・・・」

  「送らせてもらえないなら、このまま君を車に乗せて
   フランクのいないところへ連れて行くよ・・・ん?」

君の顔を覗きながらそう言うと、君は私の言葉を冗談に捉えたのか、
少しばかりホッとしたようにくすっと笑った。

 

      このまま君を・・・
      フランクのいない所に連れて行くよ

      冗談じゃないと言ったら君は
      どんな顔をするんだろう・・・

私が真顔になったことに少し戸惑っていたはずなのに君はその戸惑いを懸命に
私に隠していた。

  「・・・彼に・・・逢いたくて・・・」

  「・・・愚問だったね」

私がそう言って言葉を途切れさせると、彼女もまた口を噤んだ。

そうして私たちふたり、何も言葉を交わさないまま、しばらくの間、
暗闇の時を一歩一歩刻んでいた。
    

  「私のことが気になるのかい?」

  「えっ?」

  「さっきからずっと・・・見てる」

 

     私は彼女の方を向くことなくそう言った

     さっきから・・・
     君の視線が私に注がれる度に・・・
     頬が無意識に緩む自分を心の中で笑っていた

 

  「い・・いいえ・・何も・・」  
  「着いたよ」

  「あ・・はい・・・ありがとうございました」

  「これからは・・」

  「これからは決してひとりで歩いたりしません」

  「ん・・・じゃ・・」

  「はい・・・」

 

     私のことが気になるのかい?

     何を馬鹿なことを・・・



 

彼女と別れた後、背後にうごめく黒い複数の影に向かって私はおもむろに近づいた。

彼らは私の存在を認めると、少しばかりたじろぐ様子を見せながら後ずさりした。

  「私が何者なのか・・・わかっている顔だな」

その中の兄貴分らしい男の襟首を乱暴に掴んで私は睨んだ。

  「・・・・」

  「お前のボスに伝えろ・・・勝手なまねをするなと・・・
   私に歯向かう奴は、たとえ誰であろうとも・・・
   許さない。・・・今私が言ったことを一字一句間違いなく・・・
   伝えろ。・・・いいな。・・・」

  「・・・・」

  「行け!」

男達は身の置き所に困ったように落ち着きをなくし、そそくさと私の前から消え去った。


  「若・・」

ソニーが私の後を追っていた車の中から降りて来た。

  「見かけない奴らでしたな・・・」

  「ん・・・だから余計に何をするかわからない」

  「手柄を立てて、幹部に取り入ろうとしている末端の奴らだと?
   いかがなさいますか?」

  「しばらくの間目を光らせてくれ・・」

  「若・・・あの子がそれほど気になりますか」

  「・・・・」

  「ま・・聞きますまい・・・あの子はソ・ヨンスの娘・・・
   私も守りたい気持ちは同じです」

  「頼む・・・お前にしか頼めない」

  「承知しました」


     フランク・・・急げ・・・

     お前の大切なものをいつまで守り通せるか・・・

     保障はできないぞ・・・


     いやそうじゃない・・・私のこの気持ち・・・


         保障ができないのは・・・きっと

 


            ・・・そっちの方だ・・・


2010/07/03 19:30
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-38.忍び寄る足音

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ソウルにいる父から突然電話が掛かってきた

    《何も変わったことはないか》

  変わったこと・・・

  沢山あり過ぎて・・・パパに話したら卒倒されそうよ


    《何もないわ・・元気よ》


  ごめんなさい・・・

  全てを語るには少し時間が掛かりそう

  変わったこと・・・一番変わったこと・・・

  それは私の心・・・人を愛する心・・・

  フランクのこと・・・パパにも早く話したい

  でも・・・電話で話すときっとパパは誤解する

  彼のこと・・パパにだけは誤解して欲しくないの・・・

  彼と実際に会って話してくれたら

  きっと・・・わかってくれる

  私が彼を本当に愛していること・・・

  私が彼でなければならないということ・・・

  そうよね・・・パパ・・・

  私を愛してくれているパパだもの・・・

  きっとフランクのことも・・・愛してくれるわね・・・

父は電話をくれる時いつも、私のことを心配して
あれこれ矢継ぎ早に質問する

ご飯は食べてるのか・・ちゃんと寝てるのか・・
今日は何を勉強した?・・どんな友達がいる?

でも・・・今日の父の様子は少し変だった


    《一週間後にはそっちへ行く・・・
     そうしたら、一緒に韓国へ帰ろう》

父は決して自分本位の人間ではない

私のことにも事のほか寛大で、私のためと信じたことならば
親として子供を束縛するようなことは決してない
しかし今日の父の言葉には私に有無を言わせない強いものがあった

    《・・・・・》

    《どうした?》

    《あ・・いいえ・・・》

    《この前はジョルジュにまんまと丸め込められたからな》

    《そんな言い方はないわ》

    《はは・・冗談だよ、ジョルジュのことは信用してるさ
     しかし・・お前を留学させたのはちょっと早過ぎた
     そう思ってる・・・私の間違いだった
     お前をアメリカにやるんじゃなかった》

父はまるで独り言でも言っているように同じことを呟いた


    《どうして急にそんなことを?》

    《急じゃない・・・前から考えていたことだ
     ジョルジュも一緒に帰る》

    《だって・・ジョルジュは今お仕事・・》

    《ホテルが大変なんだ・・・ジョルジュはもう納得してる》

    《ホテルが大変って?ソウルホテルのこと?
     いったいどうしたというの?
     ついこの間まで何もかも順調だったじゃない》

    《いや・・それはお前が心配することじゃない・・・》

    《そんなに大変なの?》

    《ああ・・》

    《でも私・・》

    《わかったね・・お前は韓国に戻るんだ
     お願いだ・・ジニョン・・・私たちのそばにいておくれ》

    《・・・・》


結局、私は父に何も言わなかった

 

      帰りたくない・・・フランクのそばを離れたくない

そう言いたかった・・・でも・・・
最後の父の声が何故か悲しそうに聞こえて

私はそれ以上何も言えなかった

 

 

フランクから、外出もひとりではしないように言われていた
でも・・・
どうしたんだろう・・・父も・・・フランクも・・・
この頃何だか可笑しい

私は急に不安になって、フランクのアパートへ急いでいた

しばらくして、
誰かに付けられている気配を感じて立ち止まり
何度も振り返ってみたけれど・・・

 

      きっと・・・気のせいね・・・

 

太陽がしっかりと隠れて、月の姿が朧に現れる時間帯に
この街を歩くのは、やはり緊張が走る
駅を降りて急ぎ足で歩いたものの、背後からの複数の靴音に
敏感に反応してしまった

 

      やっぱりフランクに迎えに来てもらうんだった

 

フランクのアパートまで行くにはこの公園を横切った方が早い
そう思った私が公園の入り口に差し掛かったその時だった

 

  「きゃあっ!」

私の手首を力強く掴んで、ぐいと引っ張る黒い影に
私はなすすべもなかった

 

  「何をするの!離して!
   誰か・・助けて!フランク!」

 

その黒い影はものすごい勢いで私を引っ張ると物陰に入り、
私の体をその腕の中に閉じ込めて私の動きを封じた

 

      うっ!な・・に・・!

 

  「シッ・・・動くな!」

 

その声に聞き覚えがあったがそれが誰なのかを理解する前に
今度は口を大きな手で塞がれて私は声すらも出せなくなった
計り知れない恐怖が私の震えを誘っていたその時・・・

近くで数人の男達の声が聞こえてきた

 

  「見失ったのか!」

  「確かにここに入ったぞ!」

  「探せ!」

  「何としてもあの女を捕まえるんだ!」

 

ふたりの体がやっと隠れるくらいの幅しかない物陰のすぐそばで
男達の物々しい声が怒号のように飛び交いその気配が次第に遠ざかっていった。

その物々しさに気をとられていた私はいつの間にか自分の口を塞いでいた手が
外されていたにも係らず、私の体をしっかりと抱きしめて動かない大きなその腕の中で
声を飲み込んだままその腕にしがみつき、震えていた。

 

そして・・・

 

  「離して・・・下さい・・・レイ・・・」

 

その腕の主がレイモンドだとわかってからは、私はいつの間にかその腕の中で
震えながらも、妙に安心しきっていた。

 

  「・・・・」

  「離して・・・」

  「離さない」

 

レイモンドのその反応に私はその胸を押し返している自分の手に
力が入っていないことに気がついた。

 

  「レイ・・・」

 

それは、少しの身動きも許さないほどに私を抱きすくめるレイモンドが私の肩に
顔を埋めたまま泣いているように感じたからだった。

 

  「どうして、ひとりで歩いてた?
   フランクにも注意をされたはずだろ?」

レイモンドは私を抱きしめたままそう言った。

  「どうして・・それを?」

  「世の中は・・・君が思うよりずっと物騒なんだよ」

  「フランクも・・・同じことを・・・言います」

  「君は・・・本当に・・・
   見ていられないほど・・・危なっかしい子だね」

  「だったら・・・見ないで・・・ください」

  「・・・・ああ・・そうしたい」

彼の心臓の音を耳で数えながら、私は彼と妙に淡々と話をしていた。

  「もう・・離してください」

レイモンドはやっと力を緩めて、私に顔を向けた。

  「あの人たちは?」

さっきの恐ろしい男達の声が気になってしかたなかった。

  「さあ・・」
でも、レイモンドは私から顔を背けてそう言った。

  「私を探しているようでした」

  「そう?」

  「あなたはどうして・・ここへ?」

  「フランクに仕事のことで用があったんだ・・・」

  「仕事って?・・・あなたはいったい・・・」

  「公園に入るところで君を見かけて声を掛けようとした
   そしたら、あいつらが君の後ろを・・・
   公園なんて静かなところを、女の子がひとり歩くもんじゃない
   君は常識を知らなさ過ぎる」

レイモンドはそう言いながら今度は怖い顔を私に向けた。

  「・・・ごめんなさい」

  「送ろう」

  「何処へ?」

  「フランクのところだろ?」

  「あなたが・・フランクのところへ行ったら・・・」

  「フランクが怒る?・・アパートの下までだ」

  「・・・・」

  「送らせてもらえないなら、このまま君を車に乗せて
   フランクのいないところへ連れて行ってしまうよ・・・・ん?」


レイモンドがさっきまでの怒ったような顔から柔らかい表情に変えて、
私の顔を覗き込んだ。
私は彼の冗談交じりの言葉に思わず笑ってしまった。

 

  「・・・・」

  「さあ・・」

 

私はレイモンドの言うがまま、彼の後を付いて、フランクのアパートの方へと向かった。

  「あの・・フランクとは・・お仕事でも?
   学校とどう関係が・・あっ・・ああ・・そう言えば
   フランクって、凄く優秀で・・学校でも先生みたいなこと・・そのことで?」

  「フッ・・・ま・・そんなところだ・・・
   彼に頼みたいことがあるんでね・・・それより
   君はどうして、こんな時間に?」

  「それは・・・彼に・・・逢いたくて・・・」 本心だった。

フランクに逢いたくて、逢いたくて、後先を考えられなかった。

  「そう・・・愚問だったね」

レイモンドはそう言ってまた、寂しげに俯き言葉を途切れさせた。

この前、別荘に突然やってきたレイモンドを見てしまってから
私の彼に向ける思いが何かしら変わってきていた。

       何が変わったのか・・・私はそう自問してみた

彼が時折見せる寂しげな伏せたまつ毛に胸が締め付けられる想いが
生まれていたことを否定することができない。

       でも・・・これはフランクに寄せる想いと決して違う

そのことだけは確かだった。

 

       それでも何故か・・・


  「私のことが気になるのかい?」

  「えっ?」

  「さっきからずっと・・・見てる」

 

そう・・・さっきから私は・・・
ずっと・・・レイの横顔を盗み見るように覗いていた。

       私は・・・いったい

 


 

         ・・・どうしてしまったというの?・・・

 







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