2010/07/12 08:49
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-14

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ジニョンをフランクのアパートに送り届けた後、私はまっすぐに自分のアパートへ向かった。

部屋の階でエレベーターを降りると、玄関の前に父が立っているのが見えた。


「どうしたんです?お一人で?」 私は驚いたというように父を見た。

「いや・・そこの路地で待たせている・・・」 
数日前、父に反抗的な態度をとって依頼、互いの中に微妙な気まずさが残っていた。
いつも誰かが互いのそばにいるこの環境の中で、私達は次第に親子関係が
希薄になっていることに、いつしか慣れてしまっていた。

しかし、こうして玄関の前で俯き加減に私を待つ父は、マフィアのボスその人ではなく、
息子と向かい合いたい、ただそれだけを願っている哀れな親の姿にしか見えなかった。

私がドアを開けて父の前で右手を室内に向かって差し出すと、父はホッとしたように、
私の誘いを受け入れた。

「初めてだな・・・ここへ来るのは・・・」

父がそう言って部屋を見渡している様子が何故か滑稽で、それでいて何故か温かくて、
そう感じた自分を私は父に知れないように、秘かに笑っていた。

「そうでしたか?」

 

「ああ・・・お前と一緒に暮らしたのは
   お前が17になるまでだった」

「・・・・・」

「私はそれ以来・・一人暮らしだ・・・」 父はそう言って項垂れた。

「どうぞ・・・お掛けください・・ワインでも・・」

「レイモンド・・・」

父は私に背を向ける形でソファーに腰を下ろすと、私に振り向かないまま、
改まったように口を開いた。

 

「何でしょう」 私もまた、父に敢えて視線を向けることなく、
ワイングラスを二つカウンターの上に用意すると、その脇のワインセラーから
その中でも一番最高のワインを取り出していた。


「私はいったい・・・何をしてきたんだろう」 父は独り言を言っているかのように呟いた。

「・・・・・」

「このところよく・・・幼い日のお前を思い出すんだ
 お前に・・・初めて会った時のことを・・・」

「・・・・・」

「あの日・・目の前を走ってくる少年が・・・
 賢さを瞳に輝かせた少年が・・・
 私の子・・・そう思った瞬間に涙が溢れ出た・・・」

「・・・・・」

 

「覚えているか?
 私の横でお前はハンバーガーを頬張って・・」

「・・・・・」

「最初は、頑として食べなかったんだ・・
 知らない人からはもらえない・・そう言って・・
 食べてくれなかった・・」

「・・・・・」

「ハンバーガーひとつを・・・むしゃぶりつくように
 頬張るお前が・・・    
 ・・無性に愛しかった・・・」

「・・・忘れました・・・」 私はやっとそう答えた。


「・・・本当は・・・お前達に・・・
 お前と彼女に逢いたかっただけなのに・・・
 結局言えなくて・・・
 お前達さえいてくれれば・・・良かったはずなのに・・・
 それすら・・言えなくて・・・
 結局お前達に悲しい思いだけをさせた・・・」

 

「・・・・・」
   
「愛する人を悲しませるだけの人生に・・・
 いったい価値などあるんだろうか・・・」

父の声には人生を心から悔いているような響きがあった。

「価値?・・・あなたの存在の価値を否定したら・・・
 僕は・・・僕自身も否定することになる・・・」

そう言いながら私が父の前にワイングラスを置き、手にしたワインのビンをゆっくりと
グラスに傾けていると父は私の顔を静かに覗いていた。

「・・・あの日からお前は、ずっと私を許しては・・・」

そう言いかけて父は言葉を変えた。


「・・あの時はそうするしか、私に選択の余地はなかった
 病気と生活に苦しんでいる彼女を放ってはおけなかった」

「僕をここへ連れてきた理由は・・・それだけ?」

「・・・・・・」

「それだけの意味でしたか?」

「・・・・・いや・・・違っていた・・・しかし・・」

父はグラスを手にすると、ひと口流し込んでひと息ついた。

「いや・・止めておこう・・・
 何を言ったところで・・言い訳にしかならない
 お前に許されないなら・・・私は彼女の元へ行くのも・・・」

「止めますか?・・・」

「・・・・・」

「覚えていますか・・・あの日・・・
 あなたと初めて会ったあの日・・・
 僕はあなたに銃を突きつけた・・・」

「ああ・・・覚えている・・・」

「あの時・・・その引き金を引いてしまっていればよかった
 何度・・・そう思ったかしれない」

「ああ・・・そうなるべきだった」

「いつの日か・・・
 僕があなたを許す日が来るんでしょうか」

「来なくとも・・・いいさ・・・」

「そうしたら・・・
 僕は一生苦しむんでしょうね・・・
 母と僕を引き離した・・あなたを許せなくて・・・
 僕を置いて死んでしまった・・母を許せなくて・・・
 そして・・・きっとあなたを許すことができない・・
 僕自身も許せなくて・・・
 人を愛することもできなくて・・・きっとそうやって
 一生・・苦しむんでしょうね・・・」

「・・・・愛する人がいるのか」

「・・・・・」

「その人は・・・」

「その人は・・まるで母さんのようなんです
 笑顔がとても綺麗で・・温かくて・・・
 彼女の笑顔に包まれていると心が柔らかく安らいで・・・
 彼女に睨まれると・・・まるで・・
   母さんに諌められているようで・・・
 彼女を抱きしめると・・・
 僕が寝付く前に必ず抱いてくれていた
 あの人の・・甘い匂いがするんです
 あの時で途切れてしまった・・・母さんの匂いがするんです」


私はいつの間にか、父の前で大粒の涙を流しながら、初めて愛した人の話を
語っていた。


逃げてしまわないかと恐れるみたいに、次第に早口にその言葉を運んで彼女を
語っていた。

父を前にして・・・いや、きっと父だからこそ・・・
今まで誰にも・・・
自分自身にさえ認めなかったことを・・・

彼女を愛してしまったことを・・・認めてしまっていた。

 

窓の外に輝く月が揺れたまま、原型を留めてくれなかった。

父は私の話を何も言わず黙って聞いていた

私はそんな父の柔らかい視線を背中に感じながら・・・

 


いつまでも・・・

 

   いつまでも・・・

 


      ・・・月明かりだけを見ていた・・・

 


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