2010/07/31 00:27
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-42.うわて

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僕はその日既に、あのサロンからさほど離れていない小さなホテルに予約を入れていた。

それは、一度の面談で彼女がすんなりと僕の意向に応じるとは思っても無かったし
一旦僕が引いた後に、もしも彼女がその気になった時、いつでも素早く応じられるよう、
考えてのことだった。

しかし僕は彼女の前から消えた時、このホテルの名を敢えて口にしなかった。


果たして彼女が僕を探すか・・・それはひとつの賭けだった。


少なくとも彼女がその気になれば、彼女が僕が今夜この地に滞在していることを
察っしたとすれば、必ず僕の所在は調べ当てることができるはずだと踏んでいた。

 

 僕と・・・《連絡を取らなければならない》

彼女自身がそう思うこと・・・その事実が重要だったからだ。

 

僕はホテルに着くと直ぐに冷たいシャワーを浴びた。

今日ここへ来ることを、ジニョンに告げずに来てしまったことがずっと気に懸かっていた。


しかし今この時、彼女への想いは断ち切っていたかった。

   僕が今考えなければならないことは・・

   レイモンドとの戦い・・・それだけ・・・

シャワーの水を顔に激しく受けながら僕は自分が置かれた立場だけに集中しようとしていた。

   しかしこんなこと・・・何の役にも立ちやしない・・・

   なんて無駄なことをしている?・・・ジニョン・・・

   この水の音さえも・・・君の声に聞こえてしまうのに・・・


ジニョンには僕が今、ある仕事に追われていることは伝えてある。

ただ仕事の全容は彼女に知られないよう努めていた。

今係っているこのことがソウルホテルにも関係があり、またその奥深くには
彼女の出生の秘密までも係っている、そのことだけは彼女には決して知られたくない。

とにかく彼女のいないところで一日も早く事を終わらせたかった。
その想いが彼女を無意識に遠ざけていた。


電話で話をしているとジニョンが、僕に逢いたがっていることが手に取るようにわかる。

   それは僕も同じ想いだ


しかしその都度僕は、はぐらかすかのように、彼女の心をその場に置き去りにした。
彼女の不安に揺れ動く心を見ない振りをした。

   そうなんだ・・・僕には時間が必要だった・・・

 

   もう少し待っていて・・・ジニョン・・・

   君とふたりで生きるため・・・

 

   僕は目の前の敵を残らず

   倒さなければならない・・・

 

シャワーのコックを捻って水を止めた瞬間、部屋の奥で鳴り響く電話の音に気がついた。

僕は取りあえずバスローブを羽織ると浴室を出て、うるさく鳴り続けている音に向かうと
それを見下ろしながらゆっくりと手を伸ばした。


「フランク・シン様にお電話なのですが・・・
 先様がお名前を教えてくださいません
 繋いでくれればいいと・・・待っているはずだから、と
 そうおっしゃるのですが・・・いかが致しましょう」


        彼女からだ・・・

 

彼女が意外と早く僕を探し当てたことに僕は思わず零れる笑みを隠せなかった。

「繋いでください」

 

「フランク・シンです・・・どちら様でしょう」

僕は電話越しにも落ち着き払った自分を彼女に強調すべく、時折バスタオルで
濡れた髪を拭いながら、ゆったりと応対した。

「あなたが私を待ち焦がれている・・・そう思ったのだけど・・・違ったのかしら・・・
 随分と待たされたわ
 私が誰なのか・・・名乗る必要がお有り?」

彼女はいらつきを隠しもせずにそう言った。

   
「フッ・・・よくここが?」

「この辺で・・・ホテルリストの一番目に出てくるホテルだわ」

「そうでしたか・・それは知らなかった・・ところで、何の御用でしょう」

「あなた・・・私を焦らしているつもり?あなたこそ・・・
 私の電話を待っていたのではなくて?」

「さあ・・・待つべきでしたか?・・・」
「・・・・・」

彼女は焦らされたことが本気で癇に障ったらしく、急に言葉を噤んでしまった。

       この辺にしておかないと・・・

       臍を曲げられても厄介だ

「いや・・失礼・・・最初にこちらがお願いしたことでしたね」

「・・・それで・・・どうすればいいの?」

「あなたが隠しているものを、私にお預け願いたい」

「私が隠しているもの?」

「お分かりのはずです」

「それで?それをどうするの?」

「パーキン家にそれをネタに、レイモンドに退くよう、要求致しましょう
 あなたはそれがお望みでしょう?」

「それくらいのことでレイモンドは退くかしら」

「パーキン家所有の債権を徐々に買い占めています・・・
 あなたがお持ちのものが本物ならば
 それを担保に資金を融資してくれる反骨分子もひとりやふたりではありませんから」

「パーキン家に反発する人間もあなたの手中にある・・・そういうことなのね」

「はい」

「あなた・・・お若いのに、随分とやり手なのね
 敵に回さない方がいいかしら?」

「さあ・・・どうでしょう・・・
 あなたが私を敵に回すか・・味方につけるか・・私はどちらでも構いません」

「今がチャンス・・・そう言いたいのね」

「今しかありません」

「わかったわ・・・それでどうすれば」

 

僕は彼女からの電話を置いた後、すぐさまレオに連絡を入れた。

「レオ・・・明日、夫人から例のものを受け取る
 そのままNYに戻る予定だ」

「ボス・・・気をつけろよ。それを持っていることで、お前は全てのマフィアに狙われる
 そう思え・・・」

「ああ・・わかっている」

 

例のもの・・・

それはパーキン家の数十年に渡る裏取引の証拠書類と裏帳簿の原本だった。

 

それらは、今マフィア界のトップに君臨するパーキン家を簡単に脅かし、
パーキン家の地位を狙う反骨分子にとっては喉から手が出るほどの代物だった。

それが彼らが身を隠すように生きてきた理由でもあったのだと、フランクは思った。

しばらくの間は息を潜め、いつの日かその時が来たら、それを盾に攻撃を仕掛ける
その日を虎視眈々と狙っていたのだろう。

その重要な資料を持ち出していることでパーキン家はもちろん彼らを追っていただろう。
しかし彼らは、ロスの有力者の力を借りることに成功し、この5年もの間、
まんまと地下に潜むことが出来ていた。

しかし僕にはそんなことなどどうでも良かった

僕の狙いはただひとつ・・・
彼らの手元で眠ったものを起し、レイモンドに突きつける。
そして直ちにソウルホテルから手を引かせる、それだけで十分だった。


僕は翌日早朝に、昨日尋ねたサロンに向かうべく、ホテルをチェックアウトした。

目的のものを手にしたらそのまま空港に向かうつもりだったが、僕がタクシーに乗り込み、
目的場所を告げた時、背後から一台の車が時間差で動いたことに気がついた。

タクシーの運転手に少し横道に逸れるよう指示を出し回り道をして見せた。
そしてその車が僕をつけていることを確信した。

僕はサロンに向かうことを断念し、すぐさま彼女に連絡を入れた。


すると彼女は即座にこう言った。

「わかったわ・・・私もNYへ行きましょう
 私が直接持って行くわ
 あなたはそのまま空港に向かいなさい」

 

何んとか、付けられていた車を撒くことに成功して空港に着くと直ぐに、
僕は彼女の指示通り、彼女とも会うことなく、何も受け取ることもせず、
そのまま機上の人となった。

彼女が本当にNYへ行く保障もないものを、僕としたことが彼女の言葉をすんなりと
受け入れるなんて、
僕は少しばかり後悔していた。

しかしそれは杞憂に過ぎなかった。

僕が機内に入ると、僕の座席の隣をしっかりと陣取って座っていた彼女が
僕を見上げて得意げに口角を上げた。

「どうして・・・」

「ふふ・・・あなた・・・私に自分の身元も明かしていない・・・
 そう思っていたんでしょうけど・・・甘いわね・・・」

「・・・・・」

「自分にとっての命に等しいものを・・・
 見ず知らずの人間に簡単に預けるとでも思った?」

「じゃあ・・付けていた車はあなたの?」

「さあ・・」

彼女は空々しく小さな窓から外に視線を向けた。

「あなたがいたら目立ち過ぎる・・・邪魔です」

「もちろん・・表には出ないわ・・・でも・・・
 あなたの後ろには・・いさせてもらう・・・」

「・・・・・」

「嫌とは言わせないわ」

「・・・・・」

僕は呆れたように彼女を睨むと、溜息をつきながら仕方なく席に着いた。

「では・・・あなたのお手並み拝見と行きましょうか・・・」

「書類は?」

「これよ」

僕は彼女が差し出したアタッシュケースを開いて中から分厚い書類を取り出すと、
それらの信憑性を把握するべく急いで目を通した。

「どう?」

「・・・・・・・よく、生きてこられましたね」
僕はため息混じりにそう言って、重大な価値のある書類を、丁寧にケースにしまった。

「ふふ・・・」

彼女は美しい横顔で、含んだ笑みを浮かべていた。

 
     さあ・・・

     これから先は・・・この僕が・・・


       ・・・生きていられるかだ・・・

 

 


 

   


 


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