2010/07/11 15:28
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-39.眠れない夜

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「着いたよ・・・じゃあ、ここで・・・」

「はい・・・あ・・ありがとうございました」

「これからは・・」

「これからは決して一人では歩いたりしません」

「ん・・・じゃ」

レイモンドは一度だけフランクの部屋の方を見上げると、他には何も言わず、
頬を少し上げただけの笑みを向けながら軽く手を振り、私に背中を向けた。
そして振り返ることなく、今ふたりで歩いてきた道を戻っていった。
私はその後姿を何故か溜息混じりに見送っていた。


「ジニョン?」

その声に振り返ると、今しがたアパートのエントランスから出てきたらしい
フランクと・・・
そしてその横にはソフィアがジニョンに向かって笑顔を向けていた。

「あ・・・」

「お久しぶりね・・・ジニョンさん・・・お元気だった?」

「えっ?・・・ええ・・・ソフィアさんも・・・」

「じゃあ、フランク、ここでいいわ・・・」

「いや・・車まで送る・・・ジニョン、部屋に入ってて」

「え・・ええ・・」

「ジニョンさん・・じゃ・・また・・・今度はフランク抜きで会いましょう」
ソフィアはそう言ってジニョンにウインクをしてみせた。

「はい・・是非・・さようなら・・」

フランクとソフィアがジニョンを残して、彼女が駐車しているらしいパーキングの方へと
向い歩き出した。

  私は今度はつい先程まで私の視界にいたレイモンドとは逆の方向を
  歩くふたりの背中を黙って見送っていた
  そして同じように溜息をひとつついた

  その溜息を吐くと同時にふたりから視線を逸らせると
  フランクに言われた通り、彼の部屋に向かい、彼の帰りを待っていた


  私は冷えた体を温めようと冷蔵庫からミルクを取り出すと
  それをカップに注ぎ入れ、レンジにかけた
  二分程して少し熱くなり過ぎたミルクを未だ口にできないでいると
  玄関のドアが乱暴に開く音がして驚いて振り返った

  そこには走って戻って来たらしいフランクが大きく息を整えながら
  私を睨んで立っていた
  そして
  問い質すような口調で私に向かって来た

「どうしたの!? 急に・・・まさかここまで・・一人で?」

「走って来たの?」

「聞いているのはこっちだ・・・
 あれほど・・ひとりで行動しては・・駄目だと言ったでしょ!
 しかもこんな暗い夜道を・・歩いて?」

「大丈夫よ」

  私はフランクの心配を十分承知していながら、彼の厳しい視線に
  反抗でもするかのように不機嫌を装ってそっぽを向いた。

 

「大丈夫って・・君ね!」

  フランクはそっぽを向いた私の肩を自分の方に強い力で振り向かせると
  私を更にきつく睨んだ。


  私はそんなフランクに対して、引くに引けない感情を持て余したように
  彼のその目を睨み返すしかなかった。

「大丈夫だから、大丈夫なの!ちゃんと送ってもらったもの!」

「送って?・・誰に・・」

「だ・・誰だっていいでしょ?フランクだって・・」

「僕だって・・何!」

「フラ・・ンク・・だって・・・」

「・・・・まさか・・・ソフィア?・・・疑ってるの?」

「疑ってなんか・・・」 

  私は答えに困って睨み合わせたはずの視線を逸らしていた。


「じゃあ、何!・・その言い方・・」

「・・・だって・・・」

「だって?」

「だって・・逢いたくて・・・あなたに逢いたくて・・・
 どうしても逢いたくて・・・来たのに・・・あなたは・・・」

「ソフィアとは仕事の打合せだ・・・
 彼女は今、僕の仕事を手伝ってくれてる
 その話・・したでしょ?」

「したけど・・・」

「僕と彼女のこと・・・ふたりを信用してる・・
 君・・そう言ったでしょ?」

「言ったけど・・・」

「だったら・・どうしてそんな顔する?」

「ごめんなさい・・・」

  私は謝りながらも、彼から視線を逸らしたままだった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「で?」

「えっ?」

「誰に?」

「えっ?」

「ここまで・・・誰に?」

「・・・・ジョル・・ジュ・・・」

「ジョルジュ?・・・
 彼がよくここに連れて来てくれたね」

「・・・・」

「まあ、いいよ・・・ひとりで行動しなかったのなら
 それでいい・・・」 

  フランクはそれ以上私を追及することをしなかった。

「・・・・」


  私はフランクに嘘をついた


  本当はひとりでやって来たこと・・・そしてついさっき
  フランクがこのところ異常なまでに心配していた
  その「危ない目」に遭うところだったこと・・・

  そして・・・ここまで送ってくれたのがジョルジュではなく
  レイモンドだったこと・・・
  そのどれもが、フランクを怒らせることになる・・・

 

     そう思った・・・から?

 

  ソフィアさんと彼のこと、私は本当に疑ってなどいない
  今ではソフィアさんは私にとっても頼りになる人となっていた

  でもつい・・・そういう言い方をしてしまった

  そのことに腹を立てたわけじゃないのに・・・

  じゃあ・・何故?

  何故私は・・・フランクに対して怒ってるの?

  そうよ・・・きっと私は・・・

 

     私の・・・レイモンドに対する感情に・・・

     私自身に・・・腹を立てている・・・

 

 

 

 

「レイモンドにしてやられた?」

ライアンの側近が若い男達に向かって叱責を浴びせていた。

「申し訳ございません」

「何のためにお前達を雇ってると思ってるんだ?
  たかが女ひとり、連れて来られないのか!」

「・・・・」

「他の奴にやらせてもいいんだぞ!」

「いいえ!今度こそ必ず!お任せを・・・」

「如何なさいますか」

「・・・・チャンスをやれ」

ライアンは彼らに背中を向けたままひと言だけ声を出した。

「そういうことだ・・・しかし三度のチャンスはないと思え!」

「はい!・・必ず!」

男達は、ライアンの背中に深く一礼をして部屋を出ていった。


「彼らに任せるだけでいいでしょうか」

「いや・・お前たちも動け・・時間がない
 親父が引退を内外に表明する前に、片をつけたい」

「承知しました」

 

 

 


「フランク・・・」

「ん?」

「・・・・・」

ジニョンが急に僕の胸に抱きついて、僕の背中に握った小さな拳を押し付けた。

「どうしたの?」

「離さないでね・・・」

「ん?・・・」

「私を・・・離さないでね・・・」

「離さないよ」

「約束してね」

「約束する・・・」

「何があっても・・・」

「ああ・・」

「誰かが・・・私たちを引き裂こうとしても・・・」

「誰が僕達を引き裂けるの?」

「そうね・・・」

「そうだよ・・・」


     あぁ・・・フランク・・・

     私のいるべき場所はこの胸の中だけ・・・

     あなたのこの胸だけ・・・


「こうして・・・眠りたい・・・」

ジニョンは僕の胸にもたれかかるように頬を埋めた。

「立ったままで?」

「くすっ・・・」

僕の冗談にジニョンは僕の胸で可愛く笑っていた。
しかし、それは心から笑っているようには思えなかった。


      どうしたの?ジニョン・・・

      何をそんなに恐れている?

      何が僕達を引き裂くというの?


僕は彼女を抱きしめたまま、まるでダンスをするように・・・
彼女を優しく宥めるかのように体をゆっくり揺らしていた。

彼女は何も言わず、僕に体を預けたまま目を閉じた。

彼女が僕に何を言いたいのか、その時僕は何もわからなかった。

 

ただ、今はこのまま・・・
ふたりだけの世界に揺られていたい・・・そう思っていた。

そして・・・

僕自身がいつも心に抱いている不安と・・・

彼女が今抱いている不安・・・

それが辿ればきっと同じところにあることを・・・


     僕は心の中で・・・

 


         ・・・必死に否定していた・・・


 








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