2010/06/26 13:18
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-12

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side story Reymond



私がソウルホテルとフランク・シンを結びつけることができたのは
韓国に生まれ育ったソニーからの情報によるものだった。

韓国の有名ホテルのひとつであるソウルホテルで起きた19年前の出来事は
丁度、ソニー自身が僕達親子の行方を捜して韓国を訪れていた頃に起きていた。

ジニョンの父親とソニーは古い知人で、ジニョンの出生の秘密を知る
数少ない友人のひとりは他でもないソニー自身だった。

数ヶ月前私は父から、フランク・シンを何としても手中に収めるよう命を受けた。

しかし私は当初この件に、あまり乗り気ではなかった。そんな私が初めて
フランクを見掛けることになったきっかけは、彼が私の友人のレストラン買収を
手掛けたことだった。

標的を射程距離に置いたフランクの、寸分の隙もない冷酷な目に身震いさえした。

そして結果が出た瞬間の何とも言えない虚しい冷めた目・・・
彼と何ら関わりの無いこの私の方が、胸が潰れそうだった。

私は助けを求めていた友人のことをすっかり忘れてしまうほどに、彼のその目に
簡単に魅了された。

その時は結局、私は彼と直接対面することもなく、彼の勝利に影で杯を上げていた。

 

きっとその時からだろう
私の奥底にあった何かが、次第に目覚めて行ったのは・・・

 

それからというもの私はフランクの身辺を余すところなく調べ上げた。

ひとりの人間を落とす時には、まずその人間の弱みを掴かむことが必須である。

しかし
どんなに調べ上げても、フランクという男には弱みと言えるものが見つからなかった。

幼い時に親に捨てられ、養子先とも折り合いが合わず逃げ出した男

それもまた彼にとっては大きな弱みであっただろう

しかし彼はその弱みさえもバネに這い上がって生きていた

それはあいつにとって、本当にちっぽけな弱みでしかなかった

少なくとも私にはそう見えた

ところがこの一・二ヶ月の間に彼の周辺に異変が起きた。その原因は

   ソ・ジニョン・・・

きっと・・・
フランク・シンのこの世で唯一の・・・

そして最大なる・・・弱み・・・


そしてそのジニョンという女がソニーの昔馴染みであるソ・ヨンスの娘だということを
私は程なく知ることとなった。

私の秘かな計画が頭の中で構築されていったのは・・・その時からだ。


  「古くからの友人を裏切ることにならないか」

  「なるでしょうね」

  「それでも・・・何故引き受けた?」

ソニーが韓国に渡り、ジニョンの父親と会う前に私はソニーにそう聞いた。
彼という男が、古くからの友人を喜んで裏切ろうとするわけはない、そんなことは
重々承知していた。

  「・・・・・・あなたのお母様の笑顔は本当に美しかった
   そのお母様の笑顔を最後に奪ったのは私です
   私はあの方からあなたを引き離しました
   あの方から・・生きる糧だった仕事を奪ったのも私です・・・」

ソニーは何故か遠くを見つめるようにして、私の質問と関係のないことを
話し始めていた。

  「・・・・・お前は命令されただけだ」

  「それでも!・・・
   私の目の前であの方の笑顔が消えてしまった
   それはひどく衝撃的なことでした
   私のひと言に、あの美しかった笑顔が・・簡単に崩れ去ったんです
   ですから・・・
   私はあの方の命だったあなたを守らなければ・・・なりません
   一生を掛けて、守らなければなりません」

ソニーはそう言いながら、初めて私の前で涙を流した。

 

  「母を・・・愛していたのか?」 私は驚いた目を、彼に向けた。

  「・・・・・」

  「だから・・・私の頼みは何でも聞く・・・
   そういうことか?・・・
   それが・・・私のやることが・・・間違ったことだとしても?」

  「あなたがおやりになることに間違いはありません。」

  「それは・・・どうかな・・・・・・また傷つく人がいる・・・
   お前もまた自分の本意としないところで
   人が悲しむ顔を見ることになる・・・
   それでも・・・いいのか・・・」

  「あなたとなら・・・地獄へでも落ちましょう」

  「ふっ・・・地獄には・・・母はいないぞ」

  「・・・あなたの母上が待ってらっしゃるのは
   私ではなく・・・お父上ですから・・・」

ソニーがそう言いながら俯いた姿が悲しげに見えた。

  「ソニー・・・」

  「はい」

  「お前が・・・母と生きてくれていたら・・・
   母も幸せだっただろうな・・・」

  「いいえ・・・若・・・それは違います・・・
   愛するということと、愛されるということ・・・
   その違いはあまりに大き過ぎる

   あなたの母上は・・・
   お父上を心から愛しておられた
   お父上もまた、母上を愛されておられた
   なのにおふたりはこの世で添うことができなかったんです

   哀れでした・・・そばでお仕えしていて・・・
   切なかった・・・胸が苦しかった・・・
   もう・・いいでしょう・・
   いつの日か・・・本当にいつの日にか・・・
   ・・・添わせてあげましょう・・・おふたりを・・・」

  「私がすることを・・・父はどう思うだろう」

  「あなたを跡継ぎにと頑として引かなかった父上の
   そのお気持ちがあの方の答えかと・・・」
ソニーはゆっくりとそう答えた。

  「本当に?」

私はソニーに振り返ると、遠い昔に彼を見ていた少年の目を向けていた。

  「ええ・・・私はそう思います」

ソニーのその言葉に、私は自分の頬が少し緩んだように思えて
それを彼に隠すように視線を逸らせた。


     母さん・・・

     父さんは本当にあなたを愛していたらしい

     母さん・・・あなたもそこで・・・
      
       あの人を待ってる?


     ソニーが好きだといったあなたの笑顔

     そうだよ・・・僕も・・・大好きだった・・・

     あなたの笑顔・・・


     その笑顔のままで

 

        ・・・あの人を待っている?・・・

 


2010/06/25 09:13
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mirage-儚い夢-37.開眼

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レイモンドはその手が既にソウルホテルに届いていることをフランクに執拗に誇示した。

ソウルホテルの債権が徐々に思わぬ所に集められ、昨日まで明光指していた経営に
突如暗い影が差し込むと、その影は経営陣の力を瞬く間に封じ込めていった。

彼らは未だ正体を隠すその影に怯えながら、暗闇の中で打開策を模索していた。

ジニョンの父ソ・ヨンスもまたそのひとりだった。

ソウルホテルの顧問弁護士でもあるヨンスにとっても、この状況に対する改善策は
暗中にあった。

そんなある日、ヨンスの元にひとりの男が訪ねて来た。

    《あなたの持つソウルホテルの債権をお譲り願いたい》

その男はヨンスに向かって唐突にそう言った。ヨンスは当然その申し入れを断った。
するとその男はひとつの封筒をヨンスの前に差し出してこう言った。

    《それをご覧になれば、あなたのお気持ちも変わるはず》

ヨンスはその封筒から取り出した書類にひと通り目を通すと突然激しく音を立てて
目の前のテーブルにそれを叩き付けた。
その拍子に書類の間から、学校らしき場所で友人達と、語り合いながら歩く
愛しい娘ジニョンの笑顔が舞い落ちた。

    《ソニー・・・あんたという男は・・・
     旧友だと思っていたのに・・・》
     

 


ジニョンの父上がアメリカに渡るまで一週間、僕は次第に自分が成すべきことが
何なのか理解しつつあった。
そして、それが生み出すだろう嵐に呑まれる覚悟も・・・


そして・・
レイモンドの言動はソウルホテルを潰すことが決して見せかけでないことを日に日に
僕に思い知らしめた。

彼はたとえ彼のジニョンに向けた愛情が真実であったとしても、彼女にさえ
容赦することはないだろう。

まるでそうすることが全てでもあるかのように、彼の目が僕を追い詰めてくる。


僕は親に捨てられたことをバネに生きてきた
いつの日か、父を見返すその時が来た時、僕は自分を捨てたその父を遥か上から
蔑む立場の人間でなければならない。


そのためにも・・・
このアメリカに生きていく上で、マフィアなどと手を組むことなど、僕には
あってはならないことだった。

それは僕の唯一の信念とも言えた

僕自身がその信念を曲げることなく

ソウルホテルも・・・

彼女も・・・守ることは出来ないのか

もし・・・それを叶える方法があるとしたら

それはひとつしかない・・・

食うか・・・食われるか・・・

「ボス・・・言われた通り調べたぞ。これをどうするつもりだ」
レオが、片手に書類を翳しながら、そう言った。

「・・・・・」 僕は無言でその書類を手にした。

「・・・お前・・・何を考えている?
 まさか・・・可笑しなことを考えてないだろうな」
僕の神妙な様子を怪訝な顔で見上げながら、レオは声を少し震わせた。

「可笑しなこと?」

「・・・・殺されるぞ」

レオの表情が決して冗談ではないと語っていた。

「ふっ・・」

僕はそんなレオの真剣な顔が急に滑稽に思えて、口先で笑ってしまった。

「笑い事じゃないぞ!
 お前・・・マフィアの本当の姿を知らないから
 いいか・・よく聞け・・
 世の中には必要悪というのがある」

「奴らも必要悪だとでも?」 僕はレオを下から睨みつけるように言った。

「そう・・とは言わないが、もうずっと昔から
 彼らと世の中は共存してきたんだ」

「だから?」

「お前も触るな」

「おい・・レオ間違うな・・向こうから触ってきてる
 僕は振り払うだけだ」

僕は敢えてレオの真剣な忠告を冗談のように交わしていた。

「面倒はごめんだぞ。」

「だったらお前は逃げればいい」

「お前!・・・俺に向かってそんな口をきくのか!
 今まで俺がどれくらいお前の為に・・・」 
レオは激高して拳を振り上げんばかりだった。

「とにかく!、マフィアには触れるな!
 これは忠告だ 
 俺はお前に賭けた
 お前もこれからこの業界でのし上がっていく
 そう決めたんだろ?      
 だったら!目をつぶることも必要なんだ
 よく覚えておけ!」

レオはそう言い放つと、乱暴にドアを閉めて部屋を出て行った。


   レオ・・・

   お前の言いたいことはわかっている

   しかし僕には守りたいものがある

   命を掛けてでも・・・

   どうしても守りぬきたいものがある

   それは僕自身の信念と・・・

   ただひとりの・・・

 

   ああ・・

   よく・・・覚えておくよ・・・レオ

   しかし

   いったいいつまで

   このままでいられるというんだ    

   つぶった目は・・・

   いつかは開かなきゃならない

   歩くために・・・開かなきゃならない

   まっすぐに歩くために・・・

   そうだろ?レオ・・・

   
   そして僕は・・・この目で

   この世でただひとりの大切な人を・・・愛しく・・・

 

         愛しく・・・
         

        ・・・見つめるんだ・・・
      








2010/06/18 08:49
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mirageside-Reymond-11

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mirage side story Reymond




  

  《ライアン陣営が騒々しくなってきた》

ソニーから受けた彼らの動きに関する報告を気にかけながらも私は
フランクをことごとく煽っていた。


  《私は決して気が長くないんでね・・・》
  

いや・・・彼らふたりに対して、私はあまりに時間を費やしてしまった。

それがライアン陣営に疑念と余裕を与えることとなっていたのは確かだ。

だからこそ
何としても奴らより早く事を進めなければならない。


  《タイムリミットを・・・
   ジニョンの父上が渡米してくるその時まで・・・》


それにはフランクの怒りを強いて買わなければならなかった。

 


「ボス・・・引退のお考えは変わりませんか?」

このところ父は体の具合が芳しくなく、人間ドッグでの検査としながらもこの数日は
病院で静かに休養を取っていた。数日振りに彼らの前に現れた父に対して、
父の側近最古参のモーガンが苦渋の面持ちでそう言った。


「・・・もういいだろう?・・・私は・・疲れた」
椅子に深く腰掛けた父が物憂げに口を開いた。

「しかし・・・このままではファミリーが分裂しかねません」

「・・・・・」

「組織を守る義務もあなたにはお有りだ。」

モーガンは今までも、父に対して言うべきことをはっきりと進言して来た。
父もまた彼への信頼から、彼の忠告は必ず心に留めた。

しかし今回はそんな彼の言葉をも聞き入れる様子はなく、その決心の固さを
顔に忍ばせていた。

モーガンは、わざとらしく溜息を吐きながらも、本当はとうにわかっていた父の思いを
仕方なくも受け入れていたようだった。

そして父は私に視線を移してこう言った。

「いいだろ?・・・もう・・・
 私を・・・自由にしてくれないか?」

父のその目がまるで私にすがっているようだった。

 


父は数日前に横になっていた病室で私にこう言った。

   《レイモンド・・・
    お前の母さんが眠る韓国に行ってもいいか
    そこで余生を送ってもいいか》

   《余生?あなたらしくもないお言葉ですね
    それに・・・母さんはあなたなど、待ってはいない》

   《それでも・・・行きたい・・・
    お前が・・・許してくれるなら・・・》

父のその弱弱しい言葉にその後私は、何も答えなかった。

 

 


「引き継いでくれるだろ?・・・レイモンド・・私は・・・ずっと待っていた・・・
 この時を待っていた・・・
 お前が大人になるのを待っていたんだ」

            止めてくれ・・・
     そんな目で僕を見るな・・・

「嫌だと言ったら?」 私の思わぬ返事に父は驚きを隠さなかった。

「・・・・・」

「自由にしてくれ?
 あなたがそんなことを言うのか?・・・
 あなたが・・・僕の自由を・・僕の愛を残らず奪ったあなたが・・・
 そのあなたが・・・自由が欲しい?笑わせるな!」

「若!」

この年まで、父に対して意識的に反抗することさえしなかった私が
冷ややかに放つ言葉をソニーが慌てて制した。

周りにいた幹部達も私の態度に固唾を呑んでいた。

「僕が大人になるのを待っていた?疲れたから?引退したい?
 そして僕に・・あなたと同じ運命を背負わせるのか!」

「若・・・お止めください」

ソニーが今度は私と父の間に体を入れて立ちはだかった。

どけ!この人には言いたいことが・・」

「言いたいことが・・・山ほどあるんだろうな・・・レイモンド・・・」

父は今まで見せたことがないような寂しい目で、まるで判決を待つかのように
私を見上げていた。


「ボス・・・若は決して本気ではございますまい
 ご心配召されるな・・我々が若を必ずや・・・ボスの地位に・・・
 りっぱな跡継ぎにお育て申し上げる」

モーガンがその場を収めるように私の言葉を遮ると、ソニーに向かって、
私をこの場から連れて出るよう合図を送っていた。

私もまた正直、今この場にいることを望んではいなかった。
このままだと、私は父に対して取り返しのつかないことを口走ってしまいそうだった。
モーガンもソニーもいつもと様子が違う私を察していたに違いない。
私は彼らの言うままにその部屋を後にした。


父はきっと大分前からこの時を決めていた

だから、私の右腕となりうる男・・・フランク・シンを執拗に求めていた
このファミリーを確固たるものにした上で私に引継ぎたかった

そのことに私も気づいていなかったわけではない

しかし・・・私は・・・
その父の思いを利用して別のことを考えている

父にとって・・・大きな裏切りとなることを・・・

そのためには私は鬼にもなる

蛇にもなる・・・そう決めたんだ


しかし父さん・・・

あなたに奪われたと言った・・・僕の愛・・・

もう二度といらないと

捨て去ったはずの・・・愛・・・


その愛が・・・


僕の心の中に涙を落とすんです


何故か・・・


寂しいと・・・恋しいと・・・

 

・・・泣くんです・・・


2010/06/17 22:23
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mirage-儚い夢-36.岸壁

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「フランクの女を捕まえろ。」

「しかし・・・この件はレイモンド様に任せると・・・
 それがボスの意向だと・・・」

ライアンの側近が常軌を逸している彼に対して、遠慮がちに異論を唱えた。

「俺の言うことに従わない奴は、ここにはいらない」

ライアンの睨んだ鋭い目が彼らに有無を言わせなかった。

「・・・わかりました・・・それで・・・」

「フランクを力づくで手に入れる」 ライアンは企みを目の奥に忍ばせ言った。

「我々は、あなたが三代目を継ぐことに全てを賭けています
 もしもレイモンド様が後継となれば、そこで我々のすべてが終わる。」
それは彼らの偽らざる思いだった。

「レイモンドが三代目を継ぐ理由がどこにある?」 
ライアンは彼らの率直な懸念を、すかさず一蹴した。

「・・・・」

「お前達の気持ちがぶれているようでは先が思い遣られる」
そして彼らをまた睨み上げた。

「申し訳ありません」

「行け・・・」

 

 


「ジニョン・・・しばらくここへ来るのは止めよう
 特にひとりで来たりしては絶対に駄目だよ」
フランクはジニョンを心配げに見つめながら、そう言った。


「どうして?」
それなのにジニョンは首を傾げて、彼の言葉の理由を問うた。

「どうして?怖かっただろ?」

「そ・・そんなことないわ」

「嘘つけ・・震えていたくせに」

「震えてなんか・・」

「ねぇ・・・はい・・は?」
フランクはジニョンに向かって、彼女の異論は受付けない、と言わんばかりに
顔を近づけ言った。

「・・・・・」

「君はいつもそうだ・・・ね、知ってる?
 君はね・・僕の言うことに“はい”と答えることがない
 少しは素直になったらどう?」

そう言うと、ジニョンはプーと頬を膨らませて僕を小さく睨んだ。

「ん?」

僕はジニョンのその膨らんだ頬を人差し指で潰してみせながら、彼女の顔を
下から覗きこんだ。

「プッ・・・・わかったわ」

「はい・・」

「・・・は・・い・・・」

「まったく・・・」

 

僕が執拗にそんなことを言うわけをジニョンはどれ位理解しているだろう。
レイモンドにここが知れたということはあいつの組織の誰もが知り得るということになる。

「それから・・・何処に行くのにも
 ひとりで行動しては駄目だよ」

「どうして?」

 

   ほら・・・案の定、きょとんとした顔を向ける

 

僕はそんな彼女に思わず笑ってしまった。

 

「何が可笑しいの?フランク・・・」

 

   ジニョン・・・
   君がいつの間にか僕の名前を「ドンヒョクssi」と呼ばなくなっていることに
   君は気がついているかい?

   それは・・・
   僕が今きっと、この緊迫した状況の中で
   知らず知らず本来の僕であるドンヒョクを忘れ 
   またフランクに戻ってしまっている・・・
   その証なんだろうね

    そうでないと、奴に太刀打ちできないんだ

   でも本当はね

   早く君の中に・・・本当の僕を取り戻したい


「大した理由はないさ・・・ほら・・こんな世の中だろ?
 あまりに物騒だからさ」
   
「ふふ・・・フランク・・心配性なのね」


「ああ・・君に対して・・だけはね」

 

「わかったわ・・気をつける」

 

「うん・・そうして」


   必ず・・・そうして・・・

 

僕はジニョンを学校の寮に送ると、その足でレオとの待ち合わせ場所に急いだ。


「ボス・・・パーキンの周辺が少し慌しくなってきたぞ」

「慌しいとは?」

「アンドルフ・パーキンがトップを退くことが噂され始めた」
レオが、それがひどく大変なことだと言わんばかりに、険しい顔をした。

「というと?」

「三代目は誰が継ぐかということになる」

「誰だ?」

「ああ・・情勢はレイモンドが有力だ・・・
 長男のフレッド・パーキンは
 早くから戦線離脱している
 残るは、ライアン・パーキンとレイモンド・・・」

「長男が駄目なら次男じゃないのか・・・」

 

「普通はな・・・しかし、次男は出来が悪い
 いや・・マフィアとしては、出来が悪いわけじゃない
 父親よりもどちらかというと初代に似ている兵だ
 いわゆる・・・昔ながらのマフィアだろうな
 堅気に恐れられているという意味だ・・・
 だがしかし、奴には人望がない
 その点、レイモンドは賢く、理知的で人望も厚い」

「たかが・・マフィアだ」 僕は吐き捨てるように言った。

「フランク・・・マフィアとはいえ、
 今や、パーキン家はアメリカでは一大企業だぞ
 トップにはその企業を運営していく力が必要なんだ」

「レイモンドにはあると?」

「ああ・・・しかし、それを阻止する動きが内部にある
 次男側に付いていた陣営と長男に付いていた陣営がタッグを組んで
 レイモンド潰しに掛かっているというわけだ」

「レイモンドが・・・潰される?」

「いや・・・奴はそう簡単には潰されはしない
 穏やかな風貌の裏に隠された冷徹さといったら
 兄貴達には及びも付かないだろう
 噂では長男が退いた理由も、レイモンドに恐れをなしたからだと
 だからフランク・・・注意しろ」

「僕に何の関係がある?」

「大有りだ・・・
 次男のライアンのような闇雲に手荒いことをする奴は
 時としてそのものが凶器だからな
 頭を使うレイモンドを相手にするより覚悟が必要だぞ」

「覚悟?」

「とにかく早いこと、この案件を片づけて
 奴らと手を切ろう」

「それは僕だって、そう願いたい」

「だから・・・」

「だから?」


「俺が言いたことはわかるだろ?」

「ソウルホテルに構うな・・か?」

「わかっていればいい」


「・・・・・」

「わかっている顔じゃないな」

「・・・・・」


「ボス・・・フランク・・・」 レオが溜息をつきながら目を閉じた。

「わかってるよ・・・」

   わかってるさ・・・僕だって

   ソウルホテルに構いたくなどあるものか


   しかし・・・あのレイモンドがそうさせてくれない


     《フランク・・・私も気が長い方ではないんでね
      確かにジニョンに情が移ってしまったことは認めよう
      しかし、それは飽くまでも生徒に対する情でしかない

      そうだフランク・・タイムリミットを設けることにしないか?
      もう直ぐジニョンの父上がアメリカに入る・・・
      そのことは君も知っているね

      その日を君と僕とのタイムリミットとしよう
      よろしいかな?・・・あと一週間だ
      フランク・・・これ以上答えは待たない

      私の本来の姿を知らないわけじゃあるまい?
      可愛いジニョンとて・・・それは同じことだ・・・》

 


   あいつがいかに冷酷か・・・噂は数少なくない
   一度彼を怒らせると、この世界で生きて行けなくなる・・・
   そう震え上がっている者もいる

   長男のフレッドが心底惚れていた女を誘惑して
   彼女が自分に心を向けたとたん冷たく捨てた

   それだけじゃない

   彼らの母親もレイモンドに陥れられ
   一文無しでパーキン家を追われたという噂だ

   フレッドはそれ以来、パーキン家に寄り付かない


         噂だろ?


   ああ・・・噂だ・・・

 

       確かに彼には計り知れない冷徹さが垣間見える

       しかし・・・決して卑怯な奴には見えない


         ふっ・・・

       敵を弁護してどうする・・・


       僕も焼きが回ったか・・・


       さあ・・・どうする?


       ジニョンの父が渡米するまで一週間
       僕は何をしたらいいんだ


       奴の策略をどうやって

 

            ・・・かわす?・・・
         

 
    

 


 

      






 

 


2010/06/12 11:36
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond10 Hisname⑤

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        「ソニー?」

    「はい・・・」

    「ソニーはあの人と僕の母のこと・・・どれくらい知ってるの?」

    「あの人・・・お父様のことですね」


    「あの人は・・・僕の母を愛してた?」

    「はい・・・とても・・・」

    「なら・・どうしてふたりは離れ離れになったの?」

    「あなたがアメリカに渡ればいずれ知ることですから
     お話しましょう・・・」

ソニーは少し硬い表情をして、僕に話し始めた。

    「あなたの父上にはあなたの他に家族があります」

    「他に家族って?」

    「あなたには兄上がふたり・・・」

    「兄さん?」

    「はい・・・でも、母上が違います・・・」

    「・・・・・」

    「あなたの母上はそのことを知って・・・」

    「それが別れた理由?」

    「いいえ、きっとそれだけでは・・・
     ・・・しかし、それ以上は私には説明できません・・・
     あなたがアメリカに行けば、おわかりになることです・・・
     父上がどんな存在か・・・
     しかし、あなたがこれからなさるべきことは
     沢山勉強して、色んなことを吸収して・・・
     どんなものにも負けない強い心をもったお方になることです・・・
     私はそのためになら、どんなお手伝いも厭いません・・・」

    「ソニーはどうしてそんなに僕に優しいの?
     僕のことまだ何もしらないでしょ?」

    「あなたのそばにいるようになって・・・半年です」

    「半年?・・・そんなに前から僕を知ってたの?」

    「はい・・・こうして・・今と同じように・・」

    「僕が気がつかなかっただけ?・・こうしていつも僕の後を?」

    「はい・・・あなたがどれほど賢くて・・・お優しくて・・
     正義感が強く・・・何より、お母様をどれほど大切になさっているか・・・
     ずっと見て参りました・・・」

    「あの人がそうしろと?」

    「はい・・・父上は心からあなた方を愛しておられます」

 

 

    「マム・・・僕は・・・アメリカに行くよ・・」

    「!・・・・な・・何を言ってるの?レイ・・
     冗談でしょ?・・冗談よね・・」

母は僕の突然の言葉に驚いて、立ち上がった拍子に椅子を倒してしまった。

    「冗談じゃないよ・・・僕ね、父さんのところへ行く・・」

    「父さんなんて!あなたに父さんなんて、いない!
     あなたはママだけの・・ママ一人の子供よ!
     あの人が、何か言ったのね!
     レイ!どうして、あの人の話なんか信じるの?
     ママと・・ママのそばにいて・・
     お願い・・ママをひとりにしないで・・・」

    「マム・・・直ぐに戻るよ・・・
     少しの間だけ、勉強の為に寮に入るだけだ・・・
     僕、勉強好きなの、知ってるでしょ?
     すごく有名な学校に入れるんだ・・・」

    「レイ!駄目よ!
     離れたら、二度と会えなくなる・・・
     あの人の世界に行ったら・・あなたもあの人と同じに・・
     あぁ・・駄目よ・・・駄目よ・・レ・・イ・・・・・・・」

    「マム!」

母はそのまま僕の目の前で気を失ってしまった。
僕は外で待っていたソニーを急いで呼んで、母を病院に運んだ。

 

 

病院の白いベッドの上で、母が目を覚ました時、僕は母の傍らで眠っていた。
優しく髪を撫でられている感触で目が覚めると、母の手が僕の髪を梳いていた。

    「マム?・・・」

    「レイ・・・ごめんね・・・」

    「マム・・病気のこと、どうして隠してたの?
     僕に隠し事は何も無いって、言ったでしょ?」

    「ごめんなさい・・・レイ・・」

    「僕はママから離れるんじゃないんだ・・・
     ママを守るために・・強い男になる・・・
     そのために、ちょっとだけ・・本当にちょっとだけ」

    「ちょっとだけ・・さよなら・・なのね・・・」

    「うん・・・だから、待ってて・・マム」

    「レイ・・・聞いて・・・
     ママはあなたのお父様を本当に愛してた・・・
     いいえ、きっと今でも愛してるわ・・・

     でもね・・・あの人の世界は・・・私達の世界と違うの・・・
     怖かったの・・・あなたをあの世界に置くのが怖かった・・・
     だから、あの人から逃げてしまった・・・

     ママはね・・・あなたを・・・
     あの人と同じ世界に生きさせたくはない」

    「言ってることがわからないよ・・マム・・」

    「そうね・・・わからないわよね・・・」

母はそう呟いたまま、悲しそうに俯いた。

僕には本当に意味がわからなかった。
母はしばらくして、決心したかのような意志を瞳の中に覗かせながら、
僕の目を改めて見た。

    「レイ・・・
     ママね・・・体がこんなになっちゃって・・・
     あなたと一緒にいることができそうもない」

    「大丈夫だよ・・マム・・
     ちゃんと治療すれば直ぐに元通りになるって・・
     ソニーが言ってたよ」

    「ソニー?」

    「うん・・あの人・・・ソニーっていうんだ・・・
     マムを病院まで運んでくれた・・・
     僕を守るのが仕事なんだ」

    「そうなの・・・」

少し離れたところでこちらを見守っていたソニーは改めて母に頭を下げ
無言で挨拶をした。

母は何故か小さく溜息をついた。
自分の知らないところで、父の手が僕に届いていることをソニーを見て
改めて実感していたのかもしれない。

    「レイ・・・そうなのね・・・
     もう、ママにはどうすることもできないのね・・・」

    「・・・・・・?」

    「レイ・・・」

    「なに?」

    「レイにお願いがあるの・・・」

    「お願いって?」

    「ママのこと、心配したりしないでね・・・
     ママは大丈夫だから・・・
     あなたはこれから沢山勉強して、
     世の中のことをいっぱい見つめるのよ・・・
     そして・・色んなことを吸収なさい」

    「ソニーも同じこと言ってたよ」

    「そう・・・世の中のことを沢山知ることは・・・
     間違ったことを知ることにも繋がるわ・・・
     あなたがもう少し大きくなって・・・
     あなたがあなた自身で・・・
     選択しなければならないようなことが起こった時
     広い視野で判断できる・・・そんな人になって欲しい
     今はまだ・・あなたには意味がわからないかもしれない・・・
     でもいつの日か・・・
     ママが言った意味がわかる日が来た時・・・
     その時にどうか・・・あなたの心が・・・
     その意味を受け入れられる心であって欲しい
     

     ママはね・・・本当はあなたに・・・
     あの人の世界を見せたくなかった

     レイ・・・よく覚えておいて・・・
     人は人の道を外れては駄目よ・・・
     どんな時も、人を陥れたり、人を悲しませたり・・・
     そんな人にならないでね・・・」

そう言いながら母は、僕の肩越しにソニーを見ていた。

    「レイが、ママの為にしてくれようとしてること・・・
     わかってるわ・・・
     確かにママは、体がこんなで・・・
     あなたを育てていくことも・・・できない・・・
     本当はね・・無駄な足掻きだと・・・自分でもよくわかってた・・・
     あなたに何もしてやれない自分が腹立たしくて・・悲しくて・・・
     それでもただ・・・あなたといたかった・・・

     ママは・・・あなただけで良かったの・・・
     あなたがいてくれる・・・それだけで良かったの・・・」

    「僕だって・・・」

    「レイ・・・愛してる・・・
     これからもずっと・・・愛してる・・・それだけは忘れないで・・・」

    「僕も・・・愛してる・・マム・・・」

    「ママはね・・・・あなただけで良かったの・・・レイ
     あなただけで・・・良かったの・・・レイ・・・
     私の・・・レイ・・・」

 

母は繰り返しそう言いながら、僕を強く抱きしめた。
僕は母の涙を自分の頬に黙って受けながら、初めて母に逆らう自分の決心が、
決して間違っていないと、信じていた。


二日後、母を父が手配していた病院に運ぶことをソニーが僕に伝えた。
僕は一日も早く母の病気が治ること・・・それだけを願って母を見送った。

母を乗せた車が遠ざかり、それが見えなくなっても長いこと、僕はそこに立ちつくしたまま
その方向を見つめていた。
ソニーは僕が止まらない涙を自分の腕で拭うまで、僕の後ろで黙って待っていた。


そして・・・それから一ヶ月・・・

       レイ・・・

       ママはあなただけで良かったの・・・


その言葉だけを僕に残した母は新しい病院で自ら命を絶った。
その事実をソニーから聞かされたのは、それからまたひと月ほど後のことだった。

 

ソニーはその時、自分が嘘をついていたことを僕に詫びた。

母の病気が軽いものだと言った

      あの言葉は嘘だった・・・と・・・

母と別れたあの時に既に余命は三ヶ月と診断されていたという

その時僕はソニーの胸を何度も何度も叩いて怒りをぶつけた。

ソニーはただ黙って、僕の怒りを受け止めていた。

そのことがわかっていたら・・・

   マム・・・

   僕はあなたをひとりにはしなかったのに・・・

 


そして・・・気持ちが落ち着いた時

僕の怒りは母のしたことを許せない思いに摩り替わっていた。

僕はそれから長い年月・・・

母を恨んで生きてきた・・・


   どうして・・・あんなことを・・・

   僕を置いてどうして・・・

   あなたは逝ってしまったんでしょう・・・


   子供の頃は本当にそれがわからなくて・・・

   あなたを恨んでいた・・・

 

 

そして今、僕自身が望まずとも、僕は組織の後継者となることを余儀なくされている。

この世界に身を置かなければならない僕の血を・・・
あなたが恐れた意味が今更ながらよくわかる・・・


   マム・・・あなたがあの時・・・僕に伝えたかったこと・・・

   残念ながら・・・それは叶えられそうもない・・・
   
       《人は人の道を外れては駄目よ・・・

        どんな時も、人を陥れたり、人を悲しませたり・・・

        そんな人にならないでね・・・》


母は多分・・・

自分の存在が、僕に負担を掛けることを恐れていた・・・

僕の心の足かせになることを恐れていた

そして何よりもきっと・・・

僕に伝えたいことを僕自身に印象強く残したかった


だから自らを僕の前から消し去った・・・

 

きっとそうなのだと・・・今になって、わかる

 


   マム・・・あなたが・・・

   命を掛けて僕に言いたかった言葉は心に沁みる

   けれど・・・どんなに足掻いても・・・

   どんなに拒んでも・・・

   受け入れなければならないものもある

   それもまた・・・

   あなたの死が僕に教えた


   どうしようもないことも・・・あるんだと・・・

 


         いつの日か・・・

         ママが言った意味がわかる日が来た時・・・

         その時にどうか・・・あなたの心が・・・

         その意味を受け入れられる心であって欲しい

 

        
   僕の心?・・・

   それはもうとうにあなたの元へ置いてきた・・・
 

 

          レイ・・・

          私はあなただけで良かったのよ
    


 

     本当に・・・僕も・・・


        あなただけで・・・

 

 


            ・・・良かったのに・・・

 

 

 


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