2010/06/26 13:18
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-12

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side story Reymond



私がソウルホテルとフランク・シンを結びつけることができたのは
韓国に生まれ育ったソニーからの情報によるものだった。

韓国の有名ホテルのひとつであるソウルホテルで起きた19年前の出来事は
丁度、ソニー自身が僕達親子の行方を捜して韓国を訪れていた頃に起きていた。

ジニョンの父親とソニーは古い知人で、ジニョンの出生の秘密を知る
数少ない友人のひとりは他でもないソニー自身だった。

数ヶ月前私は父から、フランク・シンを何としても手中に収めるよう命を受けた。

しかし私は当初この件に、あまり乗り気ではなかった。そんな私が初めて
フランクを見掛けることになったきっかけは、彼が私の友人のレストラン買収を
手掛けたことだった。

標的を射程距離に置いたフランクの、寸分の隙もない冷酷な目に身震いさえした。

そして結果が出た瞬間の何とも言えない虚しい冷めた目・・・
彼と何ら関わりの無いこの私の方が、胸が潰れそうだった。

私は助けを求めていた友人のことをすっかり忘れてしまうほどに、彼のその目に
簡単に魅了された。

その時は結局、私は彼と直接対面することもなく、彼の勝利に影で杯を上げていた。

 

きっとその時からだろう
私の奥底にあった何かが、次第に目覚めて行ったのは・・・

 

それからというもの私はフランクの身辺を余すところなく調べ上げた。

ひとりの人間を落とす時には、まずその人間の弱みを掴かむことが必須である。

しかし
どんなに調べ上げても、フランクという男には弱みと言えるものが見つからなかった。

幼い時に親に捨てられ、養子先とも折り合いが合わず逃げ出した男

それもまた彼にとっては大きな弱みであっただろう

しかし彼はその弱みさえもバネに這い上がって生きていた

それはあいつにとって、本当にちっぽけな弱みでしかなかった

少なくとも私にはそう見えた

ところがこの一・二ヶ月の間に彼の周辺に異変が起きた。その原因は

   ソ・ジニョン・・・

きっと・・・
フランク・シンのこの世で唯一の・・・

そして最大なる・・・弱み・・・


そしてそのジニョンという女がソニーの昔馴染みであるソ・ヨンスの娘だということを
私は程なく知ることとなった。

私の秘かな計画が頭の中で構築されていったのは・・・その時からだ。


  「古くからの友人を裏切ることにならないか」

  「なるでしょうね」

  「それでも・・・何故引き受けた?」

ソニーが韓国に渡り、ジニョンの父親と会う前に私はソニーにそう聞いた。
彼という男が、古くからの友人を喜んで裏切ろうとするわけはない、そんなことは
重々承知していた。

  「・・・・・・あなたのお母様の笑顔は本当に美しかった
   そのお母様の笑顔を最後に奪ったのは私です
   私はあの方からあなたを引き離しました
   あの方から・・生きる糧だった仕事を奪ったのも私です・・・」

ソニーは何故か遠くを見つめるようにして、私の質問と関係のないことを
話し始めていた。

  「・・・・・お前は命令されただけだ」

  「それでも!・・・
   私の目の前であの方の笑顔が消えてしまった
   それはひどく衝撃的なことでした
   私のひと言に、あの美しかった笑顔が・・簡単に崩れ去ったんです
   ですから・・・
   私はあの方の命だったあなたを守らなければ・・・なりません
   一生を掛けて、守らなければなりません」

ソニーはそう言いながら、初めて私の前で涙を流した。

 

  「母を・・・愛していたのか?」 私は驚いた目を、彼に向けた。

  「・・・・・」

  「だから・・・私の頼みは何でも聞く・・・
   そういうことか?・・・
   それが・・・私のやることが・・・間違ったことだとしても?」

  「あなたがおやりになることに間違いはありません。」

  「それは・・・どうかな・・・・・・また傷つく人がいる・・・
   お前もまた自分の本意としないところで
   人が悲しむ顔を見ることになる・・・
   それでも・・・いいのか・・・」

  「あなたとなら・・・地獄へでも落ちましょう」

  「ふっ・・・地獄には・・・母はいないぞ」

  「・・・あなたの母上が待ってらっしゃるのは
   私ではなく・・・お父上ですから・・・」

ソニーがそう言いながら俯いた姿が悲しげに見えた。

  「ソニー・・・」

  「はい」

  「お前が・・・母と生きてくれていたら・・・
   母も幸せだっただろうな・・・」

  「いいえ・・・若・・・それは違います・・・
   愛するということと、愛されるということ・・・
   その違いはあまりに大き過ぎる

   あなたの母上は・・・
   お父上を心から愛しておられた
   お父上もまた、母上を愛されておられた
   なのにおふたりはこの世で添うことができなかったんです

   哀れでした・・・そばでお仕えしていて・・・
   切なかった・・・胸が苦しかった・・・
   もう・・いいでしょう・・
   いつの日か・・・本当にいつの日にか・・・
   ・・・添わせてあげましょう・・・おふたりを・・・」

  「私がすることを・・・父はどう思うだろう」

  「あなたを跡継ぎにと頑として引かなかった父上の
   そのお気持ちがあの方の答えかと・・・」
ソニーはゆっくりとそう答えた。

  「本当に?」

私はソニーに振り返ると、遠い昔に彼を見ていた少年の目を向けていた。

  「ええ・・・私はそう思います」

ソニーのその言葉に、私は自分の頬が少し緩んだように思えて
それを彼に隠すように視線を逸らせた。


     母さん・・・

     父さんは本当にあなたを愛していたらしい

     母さん・・・あなたもそこで・・・
      
       あの人を待ってる?


     ソニーが好きだといったあなたの笑顔

     そうだよ・・・僕も・・・大好きだった・・・

     あなたの笑顔・・・


     その笑顔のままで

 

        ・・・あの人を待っている?・・・

 


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