2010/06/10 22:41
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond9 Hisname④

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学校へ行くと、校門のところであの人が待っていた。


「やあ・・おはよう・・・」

「・・・・・・」 僕は最初、彼を無視しようと顔を背けた。

「昨日は驚かせて・・悪かったね・・少し話してもいいかい?」

でも彼は僕の態度にも少し苦笑するだけで、僕の後ろを黙って付いてきた。

「・・・・・・・授業が始まります」 僕は突然立ち止まって、更に無愛想に答えた。

「5分でいいんだ」

「・・・・」

「私はこれから直ぐに、アメリカに戻らなければならない・・・
 その前に君に話しておきたいことがある・・・」

「何ですか?話って」

僕はもう彼を無視することなどできなかった。
無愛想に応えながらも、心のどこかで彼が気になって仕方なかったんだと思う。


「君の母さんは今、仕事を探しているね・・・」

「・・・・・・」

「しかし残念ながら、それは見つからないと思う」

「あなたがそうしたから?」

「ああ・・私が・・そうした・・」

「何故?・・どうして、あなたはママに意地悪するの?」


「意地悪・・か・・・」

「そうだよ!意地悪だ!ママを困らせて・・・」

「いいかい?レイモンド・・・私は・・君と・・・男と男として話がしたい・・・」

彼は僕の目をまっすぐに見て、そう言った。

「・・・・・?」

「正直に言うよ、レイモンド・・・私は君を連れにアメリカから来た」

「・・・僕は何処にも行かないよ!」

「いや・・・君は私のところへ来なければならない」

「勝手なこと言わないで!ママだって、僕を離さない、そう言ったんだ!」

「そうか・・・でもレイ・・・よく聞くんだよ・・・
 君のママは少し体が弱くて、君を育てていくことは難しい」

「何言ってるの?」

僕は唐突なあの人の言葉に、困惑を隠せなかった。

「彼女は今、とうてい仕事ができる体じゃない
 だから私は・・・
 静かな場所で彼女を静養をさせたいと思ってる・・・
 しかし君がそばにいては、彼女は無理をする・・・そうだろ?
 彼女は私にとっても大切な人なんだ・・・だから・・」

「嘘だ・・・おじさん・・何を言ってるの?ママはあんなに元気・・」

「ああ・・大丈夫だよ・・ゆっくり休みさえすれば
 元通り健康になる・・・そしたら君とまた暮らせる・・・」

「嘘だ!そんなこと言って、おじさんは僕とママを引き離す気だ!
 そんな嘘・・信じるもんか!」

僕は必死に彼に向かって叫んだ。

「レイ・・・・・わかった・・・わかったよ・・
 しかし・・いいかい?よくお聞き?
 これから、ママのことをよく見てるんだよ・・・

 彼をここへ置いていく・・・
 少しでもママの様子がおかしかったら彼を呼ぶんだよ・・・いいね・・・
 彼は私の代わりに君達を陰ながら守ってくれる・・・」
    
そう言いながら、彼は、いつも一緒にいた男を示した。
その男は僕に向かって、深々と頭を下げた。

 

 

その日の夜、僕はあの人の言葉を繰り返し思い出していた。
そう言えば、母は時々具合悪そうにしゃがみこむことがあった。
その都度、僕の心配を“大丈夫よ”と明るい顔で拭ってくれた。

   
「マム・・・」

「何?」

「僕に隠していることがある?」

「隠していることって・・・昨日のこと?」

「ううん・・・あの人のことはもういいよ・・話さなくても・・・」

「だったら、無いわ・・・レイとは隠し事無しって約束してたでしょ?
 あの人のことは・・・ごめんなさい・・・
 どうしても言えなくて・・・ママが悪かったわ・・・
 でももう何も隠してないわよ・・信じて?・・」

「そう・・・」

 


あの人がアメリカに帰った翌日から、学校へ行く時も家に帰る時も
外で遊んでいる時も、僕のそばにいつも彼がいた。

彼は決して、僕に話しかけるわけではなく、そばに寄るわけでもなく、
本当に影ながら見守っているように、黙ってそこにいた。


「名前は何て言うんですか?」

ある日僕は突然彼に振り返り、走って近づくと唐突に言った。

「あなたが私の名前など・・知る必要はございません」

「どうして?」

「私はこれから一生・・・
 あなたを影でお守りするのが仕事です」

「僕を・・守るのが仕事なの?」

「はい」

「なら・・・名前を教えて・・・
 僕は知らない人とは・・話もしないんだ」

「・・・・・」

僕は彼の前で立ち止まったまま動かなかった。

「ソニー・・・ソニー・ジウと申します」

「ソニーさんか」

「ソニー・・と・・・」

「だって、あなたは僕より年上だよ」

「いいえ・・・ソニーと・・・」

男は頑として引かない、というように強い視線を僕に向けた。

「わかったよ・・・ソニー・・・
 ねぇ・・ソニー・・・教えてくれる?
 僕の母さんは本当に病気なの?何の病気か知ってる?」

「いいえ・・・どんなご病気かは存じ上げていません・・・」

彼は僕の目を見ないで、直立不動でそう答えた。


「そう・・・嘘つきなんだね・・ソニー」

「・・・・・」

「僕には教えないようにって?あの人が?」

「あなたのお体と・・そしてお心も・・守るのが仕事です」

「心も?・・・僕が動揺しないようにってこと?」

「・・・・・」

「でも・・隠される方が動揺するよ」

 

 

リンパ性白血病・・・それが母の病名だった。
聞いたところで、この病気がどんなものなのか、子供の僕にはよくわからなかったけれど
とても重い病気なのだということだけはわかった。

しかし、ソニーの話だと、母の症状はごく軽いもので、きちんとした治療さえすれば
完治する可能性も高いのだという。

そのためには、長い期間入院をしなければならない。
あの人が母から、仕事を取り上げている理由はそのためだと・・・
ソニーはそう言った。


「ソニー・・・僕がアメリカに行けば・・あの人のところへ行けば・・・
 ママは入院させてもらえるの?」

「もちろんです・・・いいえ、そんな条件などなくても
 入院の措置は既に取っています
 ただ、お母様は、あなたをひとり置いて
 それをお選びにはならないでしょう・・・」

「僕がそばにいることが・・・
 ママの病気を悪くしていくんだね・・・」

「・・・・・お父上を信じてください」

「・・・・・」

 


      僕がいることが・・・


         ママの病気を悪くする・・・


           そうなの?マム・・・ 

 

 


      《恨んでいるのか・・・》
 
目の前にボスとしてではない、あの日の父の優しい目があった。
  

    父さん・・・      

    あの日・・・あなたのその目を信じて
 
    母を置き去りにした      

    恨むとしたら・・・          

         ・・・僕自身・・・     


    でも・・・母さん・・・      

    僕はあなたの為にそれを選択した・・・  

    あなたを守る強い男になるために   

    それを選択した・・・     

    母さん・・・      マム・・・

    それなのに・・・      

    あなたはどうして・・・僕を置いて逝ったんでしょう      


    あなたがいない世界に・・・      

    どうして僕を・・・       
    


       ・・・置き去りにしたんでしょう・・・          

   

 


2010/06/10 09:18
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mirageside-Reymond8 Hisname③

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その人が僕の父だということはきっと最初から感じていたのだと思う。

初めて会った時、何処かで会ったことがあるような・・・不思議な感覚だった。

僕が少しの警戒心もなくその人を受け入れていたのも潜在的な思いが、
いいやきっと僕の血が・・・そうさせていたんだと思う。


その人は僕を抱きしめたまま、しばらく動かなかった。
その人の温かく広い胸の中で、僕はさっきまでの興奮を静かに沈めていった。

そしてその人は僕をゆっくりと自分から離した後、立ち上がり、母をゆっくりと
その腕に抱き寄せると、彼女の額に優しくくちづけて、僕の家から出て行った。

 


母も僕もしばらくの間、何も話さなかった。
互いに触れられたくない何かから逃れるように黙っていた。

母は僕がベッドに入る時間になってやっと決心したかのように、大きく溜息を
吐ききながら口を開いた。


  「レイ・・・何が聞きたい?」

  「・・・・・」

  「ママに話して欲しいこと・・あるでしょ?」

  「無いよ」

  「あの人はね・・」

  「無いよ!」

  「・・・・・」

僕の中にわけのわからない不安が過ぎっていた。

あの人を父として認めるということが、僕と母が今までふたりだけで築いて来たものを
簡単に壊されてしまいそうで、意味もなく怖かった。


僕はその夜、母を避けるようにブランケットを頭からかぶり、夜通しその恐怖に
震えていた。

 


眠れなかったはずなのに、いつの間にか朝方にはぐっすりと眠りに落ちていた。

夢を見ていた・・・

目が覚めた時には何の夢だったか忘れていた。
でも、僕の目尻に滲んだ涙がどんな夢だったかを思い出させた。

   笑顔だった母が急に悲しそうな顔を残して
   街のブロックの角を曲がって消えた
     
        ・・・マム!・・・

   僕は追いかけて追いかけて・・・
   母に追いつこうとしていたけれど
   どんなに走っても・・・走っても・・・
   母が曲がって消えたその角に辿り着くことが
   できなかった・・・

      

下へ降りると、母がキッチンに立っていた。
いつもなら、仕事に出掛けていて既にいないはずの母が・・・


   《やはり・・・あなたの仕業だったんですね・・・
    昨日、仕事を失くしました・・・》

昨日の母のあの人への言葉が頭を過ぎった。


  「おはよう・・マム・・」

  「あ・・おはよう・・レイ・・」

母はいつものように僕を抱きしめてキスをした。

  「朝ごはん用意したら、出かけてくるわね」

  「仕事探しに行くの?」 僕がそう言うと、母は一瞬顔を曇らせた。

  「えっ?・・ああ・・・あなたが心配することは
   何も無いのよ・・・」

  「宛があるの?」 僕は無表情なままそう言った。

  「レイ・・・大丈夫よ」

  「本当に?」 突然僕の胸の奥に、言い知れぬ不安が押し寄せていた。

  「ええ・・」

  「僕はママと一緒にいられる?」

僕は母から目を逸らしたまま、ミルクのカップを口に運んでそう言った。

  「何を言ってるの?当たり前じゃない・・・」

  「マム・・・僕は何もいらないよ・・・
   昨日みたいなご馳走なんて・・いらない・・・
   そうなんだ。本当はハンバーガーだって食べたく無い。

   僕達はふたりで楽しく暮らしていたよね・・・
   マムは僕のこと・・・大好きだよね。
   僕はマムと一緒なら、他には何もいらない・・・
   マム・・・お願い・・・僕を何処にもやらないで・・・」

 

僕は母の首にしがみつくように抱きついて、さっきの夢の続きにやっと辿り着いたと
自分自身に言い聞かせていた。

  「レイ・・・わかってる・・・
   わかってる・・・何処にもやらないわ・・・
   あなたがいなければ・・・
   ママは生きていけないもの・・・」

 

 


             マム・・・
        僕のお父さんってどんな人だった?


             優しい人だったわ・・・

   
        どんな声?

             とても素敵な甘い声よ・・・


        どんな顔をしてた?


             あなたに良く似ていて・・
             ハンサムだったわ

 
        愛してたの?

             ええ・・とても・・・
             だから、あなたが生まれたの・・・


        どうして・・死んじゃったの?


             ・・・・・・・・・・


        ごめん・・・
        いいよ・・マム・・話さなくても・・・

 

 

僕は小さい頃から、母が父のことを話す時の笑顔が好きだった。

とても大切な人のことを話しているように母の笑顔は輝いていた。

その美しい母の笑顔が見たくて、僕は父のことをよく訊ねたものだった。

でも、どうしても最後の質問になると母の笑顔が曇ってしまう。

僕はいつの間にか、父のことを聞かなくなっていた。

 

 

     僕の父さんはどんな人?


        あなたに良く似た・・・ハンサムな人よ・・・


     愛してた?

          とても・・・


               とても・・・愛してたわ・・・


 


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