2010/10/31 11:54
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-最終話そして本当の始まり

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ソウルへ発つ日の朝、フランクは車を走らせNYの郊外を訪れた。


この森を抜けると、そこには予想を裏切ることなく10年前と変わらぬ佇まいがあった。
白さも際立ったその家は長い年月が経ったとは思えぬ程に手入れが施され、
周辺には雑草すら生えておらず、その代わりに白い外壁を覆うかのように
薔薇の花が咲き誇っていた。

フランクはその家のドアの前に立ち、ポケットからひとつの鍵を取り出した。

そして一度目を閉じ、何かを念ずるように深呼吸をした後、それを鍵穴に差し入れた。


   ≪どこの鍵か・・当ててみろ≫


レイモンドのその言葉に、フランクは迷うことなくここを訪ねた。

彼の手がゆっくりと右に回った瞬間に、カチッという音と共にそのドアは開かれた。

中へ入ると、昔と変わらぬ調度品が目の前に現れて、フランクの過ぎ去った時間を
急速に撒き戻していった。

  
   僕が彼女のために選んだ絵画・・
   ソファーも・・テーブルも・・・キッチンの小物までもが
   何も変わることなく、昔のままに残されていた

   彼女が好きだったアンティークなスタンドも・・・
   埃ひとつかぶっていない

   そのキッチンで彼女が僕のコーヒーを淹れていた
   慣れない手つきで料理の真似事をしていた

        《何してるの?》

        《卵割ってるの・・・》

        《・・・君・・・料理やったことある?》
 
   このリビングでくだらないTV番組に彼女が笑っていた

        《フランク・・どうしてそんな難しい顔をしてるの?
         もう少し笑って?さあ・・》

        《可笑しくも無いのに笑えない》

   彼女の笑顔が・・・ここにあった・・・
   彼女の涙が・・・ここにあった・・・


        《ジニョン・・・もう少し待ってて・・・
         必ず君の・・・
         一番の望みを叶えられるように・・》

        《私の一番の望みはあなただわ》

   彼女は・・・ここに・・・いた・・・

   そしてその横には必ず・・・僕がいた・・・


めくるめく彼女との時間を繰りながら、フランクはまるで幻想の世界に飛び込んだような
錯覚を覚えていた。

そして奥の部屋に差し込む日の光に誘われるように近づいた時、彼は現実に
戻ることができた。


見上げると、そこには大きな天窓が開かれ、ガラスを通して眩しいほどの
太陽の日差しが
   

   僕に燦燦と降り注いでいた


     「フッ・・・」


   僕は思わず笑ってしまった


     レイ・・・ホントに・・・

     余計なことを・・・


フランクはベッドに腰を下ろすとその窓を通してしばらく天を見上げていた。


       《やっぱり・・・ここから星が見える方がいいな~》

       《今度用意するときはそうしよう》

       《あ・・でも、ここも素敵よ・・・自然がいっぱいで
        気持ちいいもの・・・》

       《じゃあ、あそこ・・・穴、開けちゃう?》

       《そんなこと・・できるの?》


       《できるさ・・君のためなら・・・》


しらずしらず、フランクの目尻から一筋の涙が零れ落ちた。

彼はその涙が自分の口元に届いて初めて、自分が泣いているのだと悟った。


     どうしたというんだ・・・フランク・・・

     この10年間・・・

     涙なんて・・・忘れていただろ?・・・

     愛なんて・・・邪魔なだけだっただろ?


 
  《君が終わっていない以上・・彼女も終っていない》


  《怖いんだな・・・臆病者が・・・》


     レイ・・・

 

     怖いなんて・・・笑わせないでくれ・・・

     もう・・・ずっと・・・ずっと・・・

     彼女のいない暗い海を彷徨って来たんだ・・・

     それ以上に怖いものなんて・・・

     この世に存在するものか・・・


 

       ・・・フランク・・・


     遥か遠くから、僕を呼ぶ声が届いた気がした 

     あの日霧と化して消え去った声が僕の胸に蘇る・・・

     永く・・永く忘れることを強いた・・・愛しい声・・・

     あの時から・・・僕はその名を口にしなかった
    
     しかし・・・封じ込めてしまった僕の心はずっと・・・

     彼女を求め泣き叫んでいた・・・

     暗闇の中でずっと・・・彼女の名前を・・・


        呼び続けていたんだ・・・

   
             ・・・ジニョン・・・

 


 

≪どこの鍵だか・・当てて見ろ
 住所を持たない奴を探すのは面倒なんでね≫

その頃、レイモンドはフランクがきっと、あの家を訪ねているだろうことを
確信していた。

10年という長い月日が彼の贖罪を更に深いものに変え、今度が最期のチャンスと
裏で手を回したものの、果たしてそれがフランクにとって救いとなるのか、
ジニョンの想いに沿っていることなのか、彼自身も確信があったわけではない。

しかし・・・こうせずにはいられなかった。

 

   フランク・・・

   もういいだろう?

   その扉を開けて・・・君自身を取り戻せ

   心を捨てたなどと虚勢を張らず

   君の・・・奥深くにしまいこんだ

   その心に光を注ぐんだ


   君の心に聞いてみろ・・・

   待っているだろ?

   早く開けてくれと・・・

   早く・・・光をくれと・・・

   叫んでいただろ?


   そして・・そこへ・・・今度こそ・・・


   君の掛け替えの無い太陽を・・・


   しっかりと抱いて・・・

 

       ・・・持ち帰れ・・・







「何年ぶりだ・・ボス・・」

「21年・・」


   いや・・・10年・・・


   仰ぎ見た大空は目が眩むほどに白かった


   まるでたった今まで僕が見続けていた

   暗く長く・・・そして儚い夢から・・・突然・・・誰かに引き出され


   目覚めでもしたかのように・・・

   その光が僕の迷いを洗うごとく


      心の中まで染入るように・・・

            
             白く・・・

 


           ・・・眩しかった・・・


       

 

 

   












     mirage-儚い夢-  完




          


                
       
    
 
   

              


2010/10/30 17:53
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side-Reymond-完

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        drawing by boruneo

 




 


 

 

あれから10年の月日が流れていた

私はあの後、フランクの力を借りて多くのマーケット展開を果たし、ホテル・レストラン
パブ・バー・美容サロンなど多種多様な媒体を所有するようになっていた。
それは、組織の人間達の再生の為、彼らひとりひとりの能力に適用する箱となる土台が
どうしても必要だったからだ。


父は重い持病を抱えていたために刑の執行を猶予され、今は義母とふたり
NYを離れ余生を静かに送っている。

先日彼らを訪問した折に、義母は父のそばにいることがこの上なく幸せなのだと
私に言ってくれた。

父は決して多くを語らないが、義母の差し出す手にその無骨な手を置く照れた姿が
とても幸せそうだった。
その光景のほほえましさに私はホッと胸を撫で下ろしていた。

近いうちに二人で韓国に渡り、私の母のお墓参りをするのだと義母が言った。

「いいでしょ?」

「もちろんです。母も喜びます」

「そう?あなたがそう言ってくれると嬉しいわ・・・実はね
 まだ彼には話してないの・・・あなたのお父様は・・私とじゃなく・・
 本当は一人で行きたいのかも・・」

「そんなこと・・・きっと父さんも・・・義母さんと行きたいと思ってる」

「本当に?」 私の言葉に義母は輝くように微笑んだ。

「ええ」



   マム・・・

   ふたりがあなたを訪ねたら

   どうか、父さんを許してやってください

   父さんの永年の後悔を・・・救ってやってください

   それから・・・

   義母さんをそうっと抱きしめてやって・・・

   僕とあなたは・・・彼女に許しを請わなければならない

   あなたもそう思うでしょう?

   そして・・・心からありがとう、と・・・

   このひとは・・・

   あなたの愛した人を・・・

   心から愛し、守ってくれる人なんです・・・

   マム・・・お願いします
 

   これからのふたりをどうかお守りください

   マム・・・ああ僕も

   久しぶりにあなたに伝えたい・・・


   ・・・愛してます・・・




モーガンも間もなく出所して来るだろう。
その時はまた、私の参謀となって仕えてくれるに違いない。


そしてソニーは相変わらず私のそばにいた。

「いい加減・・私から離れたらどうだ・・ソニーそろそろお前も、
 静かに暮らしてもいいんじゃないのか?」

「何をおっしゃいます!若・・・あなたの伴侶を見つけるまでは・・
 安心して隠居など・・」

「隠居しろとは言ってないさ・・終始私に付いているのは疲れるだろ?
 お前の体を心配してるんだ」

「いいえ!」

「フッ・・・好きにしろ」

「はい・・好きにします・・・どうか若・・そろそろ・・」

「そろそろ?・・はは・・さっきの続きか?」

「笑い事ではございませんぞ」

「ははは・・・いや・・すまん・・しかし未だその気は無い」

「お父様もご心配なさっていらっしゃいます」

「・・・・見届けたいものがあるんだ」

「見届けたいもの・・・ですか・・・」

「それまでは・・・」

「若・・・」

「ん?」

「ソウルホテルですが」

「ソウルホテル?」


ソニーの話によると、あのソウルホテルがハンガン流通という会社に
狙われているとの情報が入ってきたという。
ハンガン流通といえば、韓国ではマフィア紛いの企業だとの噂がある。

そこに狙われてしまったら最後だと・・・


「そのハンガン流通がM&Aの優秀な人材を探しているようです」

「のっとる気なのか?・・ソウルホテルを」

「おそらく・・」

「・・・ハンガン流通といったな・・
 その話・・フランクに持って行くよう伝えろ」

「フランクに?相手はソウルホテルの敵ですよ」

「わかってる・・」

「何故・・」

「いいから・・そうしろ」

「はい・・承知しました」


しかし、私の思惑に反して、フランクはその話に乗ってこなかった。

     




「住所を持たない奴を探すのは容易じゃないな」

フランクはあれ依頼、個人の住居も事務所も持たず、仕事に合わせてホテルを
転々とする生活を送っていた。


「ソウルホテルは今度こそ・・人手に渡るぞ」

「関係ありません」
    
「気にならないのか」

気にならないわけがあるまい・・フランク・・・

あの後、ジニョンがどういう生活を送っていたのか

ひとつ残らず調べ上げていたはず・・・

彼女の身に何かあったら
直ぐにでも対処する用意があったはずだ


私とてそうだった・・・

ジニョンは韓国に帰国後、大学に入り直し、念願であったホテルの勉強を積み
順調な人生を送ってくれていた。

そして、現在はソウルホテルの支配人として、かなりの実力を発揮していると聞いている。

ジョルジュは結局ジニョンを諦めざる得なかった。
あれから数年もの間、脇目もふらず勉強と仕事に集中するジニョンは
決してジョルジュを受け入れることはなかった。

彼女の中に未だ消えることのないただひとりの男の影に、ジョルジュは永く苦しめられた。


   《レイ・・・フランクは断ったんですか?》

   《心配するな・・・ジョルジュ》


ジョルジュは帰国して三年後、このNYへと戻って来ていた。
そして今は私の右腕として働いている。

ジョルジュは自分が捨ててきたソウルホテルの危機よりも、彼らふたりの行く末に
心を砕いていた。


   《あいつは必ず行くよ》


   《今度こそ・・・ジニョンは幸せになるでしょうか》


   《ああ・・・きっと・・・》


     

「・・僕に・・どうしろと?・・」

「もう・・いいんじゃないのか・・そう言ってるんだ」
      
「何がです?」

「自分の心に聞け」

「心は・・・持っていない」

「心は・・・誰かのところに置いて来たか?」


  これが・・・君が彼女の元に置いてきてしまった心を
  取り戻してくる最後のチャンスだ

     
「今を逃したら・・一生後悔するぞ」

「あなたは?・・後悔しないのか」


  後悔?私は君と違って・・人間だからな・・・

  ずっと後悔していたさ・・・


  そう・・あの時・・君を殴りつけてでも

  君達ふたりを離れさせるんじゃなかったと・・・

  ずっと後悔していた・・・


「怖いのか・・・君が終わっていない以上・・
 彼女も終っていない」

「僕はもう・・・終わっている・・」


   嘘をつけ・・・



「・・怖いんだな・・臆病者が・・」

「あなたに言われたくは無い」

「ははは・・そうだな」


   確かに・・・この私が一番の臆病者だ・・・


「レオ!・・ソウルホテルの一件・・・・

 僕が引き受けるとジミーに伝えろ!・・

 ・・・・・これで・・いいですか?」

   
   ああ・・それでいい・・・

   彼女の元へ行け・・・そして


   ソウルホテルの敵となって・・ホテルを潰すか・・・
   
   それとも・・・そうしないのか・・・


   君が決めればいい・・・


   君の心が決めればいい・・・

 

それから・・・「これを受け取れ!」


私はこの10年間ずっと私の元で眠らせておいたそれを彼に投げた。



   これで・・・

    ・・・やっと私も解放される・・・

    

   

 

 



        
















































 


2010/10/29 23:57
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-52.覚醒

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「さあ・・・取引をしよう・・・」

フランクはジャクソンの前に最終宣告のバインダーを滑らせた。
目の前で彼の顔が醜く引きつり、鋭い眼光がフランクに向かった。

   これで・・・ゲームオーバー・・・
     
   重く響く鉄の扉の音がこのゲームの終了の合図

   奴が暗い箱の中で、僕は冷たい闇夜に開放される

   いったい・・・どっちが・・・いいんだろう・・・

   今僕は他人の顔したこの街で・・・ただ息をして・・・
   ただ・・・生きている・・・

   ジャクソン・・・

   恨むなら・・・憎むなら・・・
   僕の息の根を止めに来るといい・・・ 

   人生なんて・・・いつ終わろうが・・・
   未練などさらさら無い・・・ 


「ボス・・次の仕事だが・・韓国のあるホテルの買収依頼だ・・
 依頼人はハンガン流通」

「韓国?レオ・・小遣いでも欲しいのか?」 

「ジミーの紹介だ・・邪険にもできまい
 それに・・レイモンドの口利きもある」 

「レイモンドが?・・彼が何故?」

「さあ・・ジミーがそう言っていた
 この案件は必ずフランクに持って行けと・・・」

   レイモンドが僕の仕事に口を挟むことは珍しいことだった

   ということは・・・
 

「・・・・ホテルの名は?」 

「ソウルホテル」

「ソウルホテル・・・」

   なるほど・・・

「ああそう言えば・・昔お前ソウルホテルに・・」

「断れ・・・・行かない」 
レオの言葉を遮るようにしてそう言った。

「そうか・・じゃあ・・そうしよう」
レオはそれ以上は何も言わなかった。

あれから10年
今やフランク・シンと言えば、M&Aの世界で知らぬものはいなかった。 

彼がその案件に係ったら最後、標的となった者は命さえも危ぶまれる、
その覚悟で首を洗ってただ待つしかないと実しやかに囁かれていた。 

何事にも冷徹で、何者にも非情と言われ、時に非難を受けることもあった。

それでも彼へのオファーは留まるところを知らなかった。
彼の標的とさえならなければ、彼ほど心強い味方は他にいない。
彼の実績を前にそのことを誰しもが認めざるえなかったからだ。




「・・・結婚しないのか・・・ボス・・」

「仕事より夢中になれる女がいればな・・・」

 

      《Excuse me!》

その甲高い声に囚われて思わず視線を向けると、
アジア系の女がレストランの支配人らしき男に噛み付いていた。

      《このナイフとフォーク
       刃が欠けていてステーキが切れないのよ!
       パサパサのレタスに熟れ過ぎたトマト・・・》
     
「韓国の女だな・・大した女だ・・」

「フッ・・」

「どうした?フランク・・あの女が気になるか?」

「いや・・ずっと昔に彼女が今言った逆の意味でここを
 一流のレストランなのだと褒めた女がいた・・
 このレストランも地に落ちたということだな」

僕は目の前の女の言動に彼女を思い出していた。僕がまだこの世界で駆け出しの頃・・
少しばかり儲けた金で、彼女にドレスを誂え、彼女が行きたいとせがんだ
この店へ初めて訪れた。


「ずっと昔・・・か・・・」

「ああ・・ずっと昔だ・・・」


   ・・・ずっと昔に・・・

   置いてきた・・・僕の心・・・

          

 


ホテルに戻るとロビーに珍しい人が立っていた。


レイモンド・パーキンその人だった。

「どうしたんです?珍しいですね・・それより良くここが・・・
 偶然?・・ではないようですね・・・僕に御用ですか?」

「ああちょっとな・・しかし・・・・
 住所を持たない奴を探すのは容易じゃないな」

 レイモンドは少々不満げな口調でフランクを睨んでみせた。

「フッ・・部屋へ・・」

「いや・・ここでいい・・
 飛行機の時間に間に合わないんでね」

「相変わらず、お忙しいんですね」

「君ほどじゃないよ・・・・・ソウルの話・・断ったらしいな」

「まさか・・その為にここへ?」

「ソウルホテルは今度こそ・・人手に渡るぞ」

「関係ありません」

「そうか?気にならないのか」

「何がです?」

「彼女がどうしてるのか」

「なりません」

「そうか・・・ならいい・・じゃ」

レイモンドはあっさりとした調子でフランクに背中を向けると、その場を立ち去ろうと、
足を踏み出した。

フランクはしばし黙って彼の背中を睨みつけていた。

そして・・・


「・・・・・レイ!」

「・・・・何だ」

レイモンドはフランクの呼び止める声を待っていたかのように、
ピタリと足を止めるとゆっくりと振り返った。

「あなた・・何が言いたいんだ」

「何も?・・“ならいい”・・そう言ったはずだが?
 それとも・・何か言って欲しいのか」

「・・・・・」

「ああそう言えば・・ソウルホテルの経営者・・数日前に亡くなったそうだ・・
 今はその夫人が、顧問弁護士を後見人に後を継いでいるらしい

 ハンガン流通は今がのっとりのチャンスと考えている
 1000人もの従業員の行く末もきっと危うくなるだろうな」

「それで?」

「彼女が今・・何処で何をしているのか
 君が知らないわけじゃあるまい?」

「・・僕に・・どうしろと?・・」


「だから・・何も言っていない・・・」

「・・・・・」

「フッ・・・そんな顔をするな・・・
 もう・・いいんじゃないのか・・そう言ってるんだ」
      
「何がです?」

「自分の心に聞け」

「心は・・・持ってない」

「心は・・・誰かのところに置いて来た・・か?」

「・・・・・」

「・・・・このチャンスを逃したら・・一生後悔するぞ」

「あなたは?・・後悔しないのか・・・
 あなたこそ・・・気になるなら行けばいい」

「私が行ったところで・・・いや・・そうだな
 ・・・そうする手もあったな。そうしてもいいか?」

レイモンドは冗談とも本気とも付かないような表情でフランクの胸の内を
探るように左の口角を上げた。

「・・・・・」

「フッ・・冗談だ・・・」

「10年です」

「だから?」

「長過ぎました」

「遅過ぎてはいない」

「何のために?」

「私のためだ・・」

「あなたのため?」

「ああ・・あの時・・私が君達を巻き込みさえしなければ・・・
 今まで・・どれほど悔やんだか知れない・・
 だから・・・私の後悔を救え。」

「あれは・・僕の問題だ」

「だとしてもだ・・」


「もう終わったことです」

「確かめて来い・・・」

「何を」

「彼女の本当の気持ちを・・・
 彼女は今そこの総支配人と婚約目前という噂だ・・・
 彼らに後を任せたい・・それが前経営者の遺言だったらしい」

「・・・・・」

「君が終わっていない以上・・彼女も終っていない」

「僕はもう・・・終わっている・・」


「だったら・・・
 あの時君が救ったソウルホテルだ・・・
 今度は君の手で潰して来るといい」

「僕が手を出すまでもなくいずれあのホテルは潰れる」

「フッ・・・やはり調べていたのか・・・」

「・・・・・」

「はっきり言おう・・
 彼女が本当に終わっているのかどうか・・・
 君には確かめる義務がある」
      
「義務?」

「もしも彼女が終わっていたら、それはそれでいい・・
 しかしもしも終わっていなかったら
 彼女が次の人生に踏み出すために・・・
 君の手で・・・断ち切ってやればいい」

「断ち切る?・・・」

「わかっているだろ?
 今も尚、繋がっている何かを感じているだろ?
 その何かを互いに断ち切らなければ
 ふたりとも次に進めないことも・・・」

「・・・・・」

「いつまで目をつぶっているつもりだ?
  ・・怖いのか?・・怖いんだな・・臆病者が・・」

「ハッ・・あなたに・・・言われたくは無い」

「ははは・・そうだな」

レイモンドは声高々に笑って見せた。


「レオ!・・ソウルホテルの一件・・・・

 僕が引き受けると・・ジミーに伝えろ!・・」

   僕はレイモンドを睨みつけたままレオにそう言葉を投げた

「・・・・・これで・・いいですか?」


   僕の挑戦的なその問いかけにレイモンドは何も答えず
   僅かに視線を落とした
   しかし僕に隠したその口元は満足げに上がっていた

 

「それじゃ、失礼するよ・・
 お陰で・・無駄な時間を過ごしてしまった
 これでも・・忙しいんだ
 私をもう二度と・・煩わせるな・・・」

「ハッ・・」

レイモンドの憎まれ口にフランクもまた、呆れたように顔を逸らせた。

「あ・・そうだ・・これを受け取れ!」

レイモンドはフランクに向かって、何かを放り投げた。
フランクは目の前に飛んできたそれをとっさに受け取った。

「・・・何です?」

それは鍵だった

「これは?」

「どこの鍵だか・・当てて見ろ」

「・・・・・」

「住所を持たない奴を探すのは面倒なんでね」 

レイモンドは一度だけ後ろ手に手を振ると、フランクを振り返りもせず
ホテルエントランスの回転ドアをくぐって消えた。

 


 

レイモンドが訪ねて来た翌日、今度はソフィアがホテルのフランクの部屋をノックした。

「お久しぶりね・・・」

「どうしたの?こんなところまで、あなたが訪ねて来るなんて」

「ちょっとね」

そして、挨拶もそこそこにフランクの目の前のデスクに数冊のファイルを広げ始めた。


「これがソウルホテルの現状を網羅した資料
 そしてこれがハンガン流通の・・これは・・・」

「・・・・・どういうこと?」

「あなたの気が変わらない内に」

「よくこれだけの資料を・・手回しがいいんだな
 レイモンド?」

「依頼があったのは一週間ほど前よ」
      
「一週間?・・・彼に会ったのは昨日・・
 ソウル行きは承諾したばかりだ」

「ふふ・・」

「フッ・・・」
フランクは呆れたように顔を背けて見せた。

「それで・・いつにするの?韓国行き」

「さあ・・・先方には昨日の内にこちらの条件を伝えてある
 向こうの出方次第だな」

「条件?」

「僕はたかがホテルひとつの為に韓国など行くつもりはないんでね・・
 まずは・・先方がこちらの条件を飲むことが先決・・」

「そう・・・でも・・行くのね」

「ああ・・ソウルホテルを潰しに」

フランクはソフィアを下から見上げて唇の端を上げた。

「そうね・・・潰してくるといいわ・・・」

ソフィアもまた意味ありげに両方の口角を上げた。

「それから・・・もうひとつ・・・ハン・テジュン・・・」

「ハン・テジュン?」

「ええ・・ソウルホテル総支配人・・・
 これからあなたの敵になる人物よ
 その資料がこれ・・・なかなか手強い人物だという噂よ」

「フッ・・誰であろうと僕の相手じゃない」

「・・・確かに・・・買収に関しては・・そうね」

「・・・・・」


「知ってる?女は男をいつまでも待てるわけじゃないの
 どんなに頑張っても心が折れる時がある・・
 そんな時・・もしも近くに愛があったら・・・
 それを受け入れてしまうこともある・・・」

「何の話?」

「一般論・・・」

「一般論?・・・くだらない・・」

フランクは体で座った椅子を回して、窓からの外の景色に視線を移した。

「フランク・・・あなたは今この世界で
 実力実績共に他の追随を許さない男になった」

「今度は何」

「今なら・・・今のあなたなら・・・
 たとえどんなことが起ころうと、きっと
 守りたいものを守ることが出来る・・・でも・・」

「でも?」

フランクは姿勢はそのままでソフィアを横目で睨むように見上げた。

「ひとつだけ足りないものがあるの」

「足りないもの?」

フランクはそう言いながら、椅子の向きを彼女に向かって直した。

「そう・・・あなたには心が足りない・・・」

「・・・・・」

「あの時・・彼女を守りきれなかった自戒・・・それが
 あなたが心を閉ざしてしまった理由・・・」

「わかったようなことを言うな・・・」

「あなたはそれを取り戻さなければならない」

「・・・・・」
「そしてそれは韓国にある」

ソフィアはフランクの目を真直ぐに見て、自信たっぷりに言い切った。

「なるほど?」
フランクはソフィアの力説に対して少しからかう様におどけた目を返した。


「ふざけても駄目よ・・フランク・・もうわかってるんでしょ?」

「何が?」

「正直になりなさい」

「・・・・・」

「そして心を取り戻したあなたは・・・間違いなく・・・最強の男になる」

「何だそれ」

「ふふ・・・一般論・・・」


ソフィアは明るく微笑んだ。

フランクは彼女の久しぶりに見せたその笑顔に向かって、躊躇いがちに薄く笑ってみせた。



「ボス!先方からこっちの条件を全て飲むと言ってきたぞ」

「随分早い回答だな」

「どうも何処かからの後押しがあったみたいだな」

「後押し?」

「お前がこの案件に係ることが買収後の取引の条件だと・・・」


   レイ・・・あなたの仕業か?


「それで早速だが・・・ソウル行きのチケットも用意したぞ」

「出発日は?」

「明日だ」

        まったく・・・どいつもこいつも・・・

 



            ・・・勝手なことばかり・・・
        
     


  


             


  

 


2010/10/28 21:17
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side-Reymond-26

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私はただここにいるしかなかった


   こうしてずっと君を見つめているのに・・・


   君の瞳には私の影すらも映っていない


   もう泣かないでおくれ・・・

   そんな君を見るのは苦し過ぎるんだ・・


   ジニョン・・・

   

   私は目を閉じてしまいたかった


しかし今ここで、目を閉じてしまったら・・・
君の存在すらも消え失せそうで本当に怖かった


   もうどれくらい経っただろう・・・

   ・・・やっと・・・落ち着きを取り戻した君は

   私の知る君の面影すらなくて・・・尚更痛々しかった・・・


   泣いていた君よりももっともっと儚げで・・・

   私はもうこれ以上君を見ている勇気を持てなかった

「ジニョン・・・もうお行き?・・・ジョルジュをここに迎えに来させている
 きっともうその辺で待ってるよ・・私は送って行けないが・・・」

   そうだ・・・どうか行ってしまってくれ


   これでやっと・・・私は救われる・・・

   しかし・・・本当にこれでいいのか?

 

「ジニョン!   フランクに・・
 フランクに・・何か伝えることは・・あるかい?・・もし・・
 もし彼に会ったら・・」


   言ってごらん・・・

   君の愛しいフランクは直ぐ・・そこにいる・・・

   もう一度呼んでごらん・・・

   "フランク”・・と・・・呼んでごらん・・・

   そうしたら・・・


でも彼女はもう今までのジニョンとは違っていた


「いいえ・・・何も・・・」

   そうなんだね

   君はもう涙を自分自身の手で拭ってしまっていた

そしてジニョンは・・・私の・・ジニョンは・・・
ドアの向こう側へと静かに消えてしまった


   
   これでいいのか・・・フランク・・・


   ジニョンをあんなにも壊した・・・

   私は君をどうやって許したらいいんだろうか


   心を捨てたと言う君を・・・

   どうやって認めたらいいんだろうか・・・


「あなたに!・・何がわかる!」


   ああ・・わからない

   わかりたくもない


   君は間違っている・・・

   しかし今の私には君にそれを説く術が無い


   そうやって崩れ落ち、声を上げて泣く君を前にして

   君に告げるべき言葉をみつけることすらできない
   

   そうだろ?フランク・・・

   今は・・・私が何を言ったところで

   君の答えは決まっていたんだろ?


   なあ、フランク・・・

   どうして君はそれほどに自分を傷つける?

   どうして立ち直れないほどに自分を貶める?

 

   どうして・・・どうどうと胸を張れない!


   自分達は一対なのだと・・・

   半身なのだと・・・


   離れては生きていけないのだと・・・

   どうして言わない・・・


   どうしてそれだけじゃ・・・



   駄目なんだ・・・


       


         ・・・フランク・・・






2010/10/27 23:32
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-51.遠く消え行く声

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ジニョンが落ち着きを取り戻すまでレイモンドは静かに彼女の傍らにいた。


ジニョンは長い間・・・床にしゃがみこんで泣いていた。

自分の周りには誰もいないかのように無防備に、時に子供のように大きな声で叫びながら
時に堪えるように震えながら・・・ただ・・ただ・・泣いていた・・・

このまま放っておくと、彼女の中の涙が本当に一滴もなくなってしまいそうだった。

それでもジニョンのその哀れな姿を前にレイモンドは彼女に近づくことさえできなかった。
彼にできたことは、ただ黙って自分の瞳に彼女の姿を映し続け心で彼女の頭をなで
心で彼女の涙を拭うことだった。

いったいどれ位の時が経ったのだろう。
陽が高いうちに来たはずなのに、いつしか窓の外の陽が湖畔に近づいていた。

しばらくしてジニョンは大きく深呼吸をして,吸い込んだ空気をそのまま大きく吐き捨てた。
まるで何かを吹っ切る儀式を執り行ったかのように・・・。

その後で彼女は不意に立ち上がると窓辺に向かった。
そしてまたしばらく沈黙のまま、夕日に浮かぶ湖畔のずっと先に視線を送っていた。

「ジニョン・・・ジョルジュをここに迎えに来させている
 きっともう彼はその辺で待ってるはずだよ・・
 私は送ってはいけないが・・・そろそろ空港に・・・」

レイモンドはそう言ってやっと、彼女に別れを告げる心の準備を始めた。

「この家は・・売られるんですか?」

ジニョンもやっと口を開いた。
レイモンド自身が既にこの状況を知っていたことを、ジニョンも悟ったようだった。

「ああ」
「そうですか」
彼女はもうさっきまでの興奮から冷めたように落ち着いた表情で答えていた。

その表情がとても大人びていて、レイモンドは驚いた。
そこには、もう以前の・・いやさっきまでのジニョンはいなかったからだ。

「私も・・」 レイモンドは俯いて息を吐いた。
「ここで君と・・・お別れをしなければならないね」

「・・・・はい」 ジニョンの声はしっかりとしていた。

「ジニョン?」

「はい」

「大丈夫かい?」 大丈夫じゃないのはきっと、自分の方だと、その時レイモンドは思った。

「・・・・大丈夫です」

「そう・・じゃあ、もう行きなさい・・・お父様が空港で待ってらっしゃる
 きっと・・心配しておいでだ・・」

「はい」

ジニョンはレイモンドに向かって一筋の笑顔も浮かべることなく、ゆっくりと深く一礼をして、
そのまま玄関のドアに向かった。


 ジニョン! 

レイモンドは思わず声を上げ、彼女の足を止めた。


「フランクに・・」

「・・・・・・」

「フランクに・・何か伝えることは・・
 あるかい?・・もし・・もし彼に会ったら・・」

ジニョンはレイモンドのその言葉にしばらく俯いたまま沈黙していた。
そして想いを振り切ったかのように顔を上げて彼を見た。

「いいえ・・・何も・・・」 そう言って彼女は寂しげに首を横に振った。

ジニョンは最後まであの輝くような笑顔を見せることなく、ドアの向こう側へと消えた。

レイモンドは追いかけて行きそうになる自分を、拳を握り締めて耐えていた。




「あれで・・・いいのか・・・・」 レイモンドは彼女が出て行ったドアを見つめたまま呟いた。

いいのかと聞いてるんだ!答えろ!・・フランク!」
そして今度は、声を荒げて怒鳴った。

「・・・いいんです」 裏口のドアを開けて、フランクが部屋に入ってきた。

「・・ジニョンを連れて来るなんて・・」
フランクはレイモンドを睨み付けながら、そう言った。

家の売却の件でここでレイモンドと落ち合う約束をしていたフランクが、
突然現れたジニョンに驚いて、隠れるように外へ出ていたのだった。
 
「話したら・・ここに来なかっただろ!今なら・・間に合うぞ・・」

「・・・いいえ。・・彼女はジョルジュが。・・ジョルジュが守ってくれます」

「お前!」

レイモンドはフランクに詰め寄ると彼の胸倉を激しく掴んだ。

「・・・・・・・ジニョンに・・ジニョンに・・・私の・・ジニョンを・・あんなに・・」

レイモンドは彼を睨みつけながら泣いていた。

「・・・・」 しかしフランクは何も答えなかった。

「あの子の笑顔は守れ・・そう言っただろ!
 あの子には・・お前しかいない・・そう言っただろ!
 何故・・守らなかった!何故・・守ろうとしない!
 何故・・・何故・・・な・・」

「・・・・」

「何んとか言え!」

「・・・・僕が・・・臆病者だからです・・
 彼女が・・僕といて幸せでいられるのか・・
 彼女を・・守っていけるのか・・・
 僕に・・彼女を得る資格があるのか・・」

「彼女が幸せかそうじゃないか・・決めるのはお前じゃない。
 彼女自身だ・・」

「それでも!・・・僕は・・決めた。」

「そうやって勝手に考えて・・勝手に決めて・・
 彼女の心を・・お前は踏みにじった。」

「・・・・・・」

「お前はこれから先ずっと・・その報いに苦しむんだ・・
 後悔に・・・苦しむんだ」

「後悔?フッ・・・」

「何が可笑しい!」

「後悔なんて・・・
 それは心を持った人間のものです・・・」

「・・・・・・」

「僕はもう・・・心を捨てました」

フランクは薄く悲しげな笑みを浮かべながらポツリとそう言った。

「何を・・言ってるんだ」

「だから僕に・・後悔なんてあるはずがない!」

フランクは今度はレイモンドを睨みつけてそう言い放った。

「・・・・馬鹿な奴」

レイモンドはフランクを壁に投げつけるように彼の胸倉から手を離した。

「・・・あなたに・・何がわかる・・・・」

「ああ・・わからない!」

「あなたに!・・何がわかる!」

フランクはレイモンドに自分の持て余した心をぶつけるように強く叫んだ。

フランクの背中がレイモンドに叩きつけられた壁を滑り落ち床に崩れ落ちた。
溢れる涙を拭うこともせず、とうに下した自分の決断を肯定する理由を彼は探していた。

しかしそれは決して見つけられないと・・・わかっていた

                
     《その人を捕まえて!泥棒!その人泥棒です! 》 
    

     《離せ!・・僕が君の何を!何を盗んだと言うんだ! 》


    
ついさっきまで・・・ここで・・・愛しいジニョンが泣いていた。


何度も・・何度も・・
ドアを開けて駆け寄り、彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。


   
     《愛なんて・・・邪魔なだけだ・・・そう思ってた・・・
      ・・・君さえいなければ・・・
      こんな苦しい想いをせずに済んだんだ・・・》


     《私がいなければ良かったってこと?》
     

   ああ!そうだ!・・

   君がいなければ・・・君がいなければ・・・

   何もかもすべて・・・すべて・・・いらない・・・
                   

    

フランクもまた、壁越しにジニョンと共に泣いていた。
ジニョンの泣き叫ぶ声に耳を塞ぎ耐えていた。

フランクは自分の意志で自分の心が崩れゆく音を聞いていた。

そしてその音はレイモンドの声さえもかき消した。


   ねぇ・・ジニョン?・・・聞いておくれ・・・

   僕は君の前で・・・ドンヒョクという本当の僕に戻りたかった・・・

   でも・・・今の僕はもうシン・ドンヒョクじゃない

   君も何処かで感じていたでしょ?

   だから・・・僕をドンヒョクと呼ばなくなった


      《這い上がって生きることを強いられた男・・・》


   それがフランク・シンという・・・この僕だ


       《愛してくれる人が誰もいないなんて・・・
        どうして、そんなこと思うの?
        そんなの・・・悲しすぎる・・・》

       《僕は・・君がいてくれればそれでいい・・・
        愛してると・・・言ってくれる君が・・・》  


       《嫌よ・・・フランク・・・あなたが・・・
        そんな悲しい心のままに生きるのは嫌・・・》


   寂しい心も・・・悲しい心も・・・

   もう・・・何も無い・・・




僕の中から・・・ジニョンを・・・

この世の全てをかき消した・・・


自分の名を何度も何度も呼ぶジニョンの泣き声が次第に遠く・・・

いつしか霧となって消えていた


フランクは既に、自分が今何処にいて
何を思い、何をしているのかさえわかってはいなかった

そしてジニョンと同じように、涙が涸れ果てるまで、声を上げて泣いた



   後悔なんてあるはずがない・・・

   後悔なんて・・・心を持った人間が味わうもの・・・


   僕はもう・・・

   心を捨てたんだ・・・



外は既に夕暮れて・・・沈み行く陽が湖畔を紅く染めていた

見上げた空はジニョンと初めて会った時と同じ色をしていた


   僕はあの日から・・・ずっと・・・

   夢を見ていた・・・




                  君のこの笑顔が・・・

     
               必ず僕の前に・・・

 

             ・・・永遠でありますように・・・




   もろく・・・切なく・・・儚い・・・君の夢を・・・





   君の声が・・・


   夢に遠く消えてゆく



    君が・・・



        ・・・消えていく・・・





             ≪待って!・・・私は・・・



          私の名前はジニョン!



             ・・・ソ・ジニョン!・・・≫



    

        










    

 

 

            

 

 

 

 

 


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