2010/10/29 23:57
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-52.覚醒

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「さあ・・・取引をしよう・・・」

フランクはジャクソンの前に最終宣告のバインダーを滑らせた。
目の前で彼の顔が醜く引きつり、鋭い眼光がフランクに向かった。

   これで・・・ゲームオーバー・・・
     
   重く響く鉄の扉の音がこのゲームの終了の合図

   奴が暗い箱の中で、僕は冷たい闇夜に開放される

   いったい・・・どっちが・・・いいんだろう・・・

   今僕は他人の顔したこの街で・・・ただ息をして・・・
   ただ・・・生きている・・・

   ジャクソン・・・

   恨むなら・・・憎むなら・・・
   僕の息の根を止めに来るといい・・・ 

   人生なんて・・・いつ終わろうが・・・
   未練などさらさら無い・・・ 


「ボス・・次の仕事だが・・韓国のあるホテルの買収依頼だ・・
 依頼人はハンガン流通」

「韓国?レオ・・小遣いでも欲しいのか?」 

「ジミーの紹介だ・・邪険にもできまい
 それに・・レイモンドの口利きもある」 

「レイモンドが?・・彼が何故?」

「さあ・・ジミーがそう言っていた
 この案件は必ずフランクに持って行けと・・・」

   レイモンドが僕の仕事に口を挟むことは珍しいことだった

   ということは・・・
 

「・・・・ホテルの名は?」 

「ソウルホテル」

「ソウルホテル・・・」

   なるほど・・・

「ああそう言えば・・昔お前ソウルホテルに・・」

「断れ・・・・行かない」 
レオの言葉を遮るようにしてそう言った。

「そうか・・じゃあ・・そうしよう」
レオはそれ以上は何も言わなかった。

あれから10年
今やフランク・シンと言えば、M&Aの世界で知らぬものはいなかった。 

彼がその案件に係ったら最後、標的となった者は命さえも危ぶまれる、
その覚悟で首を洗ってただ待つしかないと実しやかに囁かれていた。 

何事にも冷徹で、何者にも非情と言われ、時に非難を受けることもあった。

それでも彼へのオファーは留まるところを知らなかった。
彼の標的とさえならなければ、彼ほど心強い味方は他にいない。
彼の実績を前にそのことを誰しもが認めざるえなかったからだ。




「・・・結婚しないのか・・・ボス・・」

「仕事より夢中になれる女がいればな・・・」

 

      《Excuse me!》

その甲高い声に囚われて思わず視線を向けると、
アジア系の女がレストランの支配人らしき男に噛み付いていた。

      《このナイフとフォーク
       刃が欠けていてステーキが切れないのよ!
       パサパサのレタスに熟れ過ぎたトマト・・・》
     
「韓国の女だな・・大した女だ・・」

「フッ・・」

「どうした?フランク・・あの女が気になるか?」

「いや・・ずっと昔に彼女が今言った逆の意味でここを
 一流のレストランなのだと褒めた女がいた・・
 このレストランも地に落ちたということだな」

僕は目の前の女の言動に彼女を思い出していた。僕がまだこの世界で駆け出しの頃・・
少しばかり儲けた金で、彼女にドレスを誂え、彼女が行きたいとせがんだ
この店へ初めて訪れた。


「ずっと昔・・・か・・・」

「ああ・・ずっと昔だ・・・」


   ・・・ずっと昔に・・・

   置いてきた・・・僕の心・・・

          

 


ホテルに戻るとロビーに珍しい人が立っていた。


レイモンド・パーキンその人だった。

「どうしたんです?珍しいですね・・それより良くここが・・・
 偶然?・・ではないようですね・・・僕に御用ですか?」

「ああちょっとな・・しかし・・・・
 住所を持たない奴を探すのは容易じゃないな」

 レイモンドは少々不満げな口調でフランクを睨んでみせた。

「フッ・・部屋へ・・」

「いや・・ここでいい・・
 飛行機の時間に間に合わないんでね」

「相変わらず、お忙しいんですね」

「君ほどじゃないよ・・・・・ソウルの話・・断ったらしいな」

「まさか・・その為にここへ?」

「ソウルホテルは今度こそ・・人手に渡るぞ」

「関係ありません」

「そうか?気にならないのか」

「何がです?」

「彼女がどうしてるのか」

「なりません」

「そうか・・・ならいい・・じゃ」

レイモンドはあっさりとした調子でフランクに背中を向けると、その場を立ち去ろうと、
足を踏み出した。

フランクはしばし黙って彼の背中を睨みつけていた。

そして・・・


「・・・・・レイ!」

「・・・・何だ」

レイモンドはフランクの呼び止める声を待っていたかのように、
ピタリと足を止めるとゆっくりと振り返った。

「あなた・・何が言いたいんだ」

「何も?・・“ならいい”・・そう言ったはずだが?
 それとも・・何か言って欲しいのか」

「・・・・・」

「ああそう言えば・・ソウルホテルの経営者・・数日前に亡くなったそうだ・・
 今はその夫人が、顧問弁護士を後見人に後を継いでいるらしい

 ハンガン流通は今がのっとりのチャンスと考えている
 1000人もの従業員の行く末もきっと危うくなるだろうな」

「それで?」

「彼女が今・・何処で何をしているのか
 君が知らないわけじゃあるまい?」

「・・僕に・・どうしろと?・・」


「だから・・何も言っていない・・・」

「・・・・・」

「フッ・・・そんな顔をするな・・・
 もう・・いいんじゃないのか・・そう言ってるんだ」
      
「何がです?」

「自分の心に聞け」

「心は・・・持ってない」

「心は・・・誰かのところに置いて来た・・か?」

「・・・・・」

「・・・・このチャンスを逃したら・・一生後悔するぞ」

「あなたは?・・後悔しないのか・・・
 あなたこそ・・・気になるなら行けばいい」

「私が行ったところで・・・いや・・そうだな
 ・・・そうする手もあったな。そうしてもいいか?」

レイモンドは冗談とも本気とも付かないような表情でフランクの胸の内を
探るように左の口角を上げた。

「・・・・・」

「フッ・・冗談だ・・・」

「10年です」

「だから?」

「長過ぎました」

「遅過ぎてはいない」

「何のために?」

「私のためだ・・」

「あなたのため?」

「ああ・・あの時・・私が君達を巻き込みさえしなければ・・・
 今まで・・どれほど悔やんだか知れない・・
 だから・・・私の後悔を救え。」

「あれは・・僕の問題だ」

「だとしてもだ・・」


「もう終わったことです」

「確かめて来い・・・」

「何を」

「彼女の本当の気持ちを・・・
 彼女は今そこの総支配人と婚約目前という噂だ・・・
 彼らに後を任せたい・・それが前経営者の遺言だったらしい」

「・・・・・」

「君が終わっていない以上・・彼女も終っていない」

「僕はもう・・・終わっている・・」


「だったら・・・
 あの時君が救ったソウルホテルだ・・・
 今度は君の手で潰して来るといい」

「僕が手を出すまでもなくいずれあのホテルは潰れる」

「フッ・・・やはり調べていたのか・・・」

「・・・・・」

「はっきり言おう・・
 彼女が本当に終わっているのかどうか・・・
 君には確かめる義務がある」
      
「義務?」

「もしも彼女が終わっていたら、それはそれでいい・・
 しかしもしも終わっていなかったら
 彼女が次の人生に踏み出すために・・・
 君の手で・・・断ち切ってやればいい」

「断ち切る?・・・」

「わかっているだろ?
 今も尚、繋がっている何かを感じているだろ?
 その何かを互いに断ち切らなければ
 ふたりとも次に進めないことも・・・」

「・・・・・」

「いつまで目をつぶっているつもりだ?
  ・・怖いのか?・・怖いんだな・・臆病者が・・」

「ハッ・・あなたに・・・言われたくは無い」

「ははは・・そうだな」

レイモンドは声高々に笑って見せた。


「レオ!・・ソウルホテルの一件・・・・

 僕が引き受けると・・ジミーに伝えろ!・・」

   僕はレイモンドを睨みつけたままレオにそう言葉を投げた

「・・・・・これで・・いいですか?」


   僕の挑戦的なその問いかけにレイモンドは何も答えず
   僅かに視線を落とした
   しかし僕に隠したその口元は満足げに上がっていた

 

「それじゃ、失礼するよ・・
 お陰で・・無駄な時間を過ごしてしまった
 これでも・・忙しいんだ
 私をもう二度と・・煩わせるな・・・」

「ハッ・・」

レイモンドの憎まれ口にフランクもまた、呆れたように顔を逸らせた。

「あ・・そうだ・・これを受け取れ!」

レイモンドはフランクに向かって、何かを放り投げた。
フランクは目の前に飛んできたそれをとっさに受け取った。

「・・・何です?」

それは鍵だった

「これは?」

「どこの鍵だか・・当てて見ろ」

「・・・・・」

「住所を持たない奴を探すのは面倒なんでね」 

レイモンドは一度だけ後ろ手に手を振ると、フランクを振り返りもせず
ホテルエントランスの回転ドアをくぐって消えた。

 


 

レイモンドが訪ねて来た翌日、今度はソフィアがホテルのフランクの部屋をノックした。

「お久しぶりね・・・」

「どうしたの?こんなところまで、あなたが訪ねて来るなんて」

「ちょっとね」

そして、挨拶もそこそこにフランクの目の前のデスクに数冊のファイルを広げ始めた。


「これがソウルホテルの現状を網羅した資料
 そしてこれがハンガン流通の・・これは・・・」

「・・・・・どういうこと?」

「あなたの気が変わらない内に」

「よくこれだけの資料を・・手回しがいいんだな
 レイモンド?」

「依頼があったのは一週間ほど前よ」
      
「一週間?・・・彼に会ったのは昨日・・
 ソウル行きは承諾したばかりだ」

「ふふ・・」

「フッ・・・」
フランクは呆れたように顔を背けて見せた。

「それで・・いつにするの?韓国行き」

「さあ・・・先方には昨日の内にこちらの条件を伝えてある
 向こうの出方次第だな」

「条件?」

「僕はたかがホテルひとつの為に韓国など行くつもりはないんでね・・
 まずは・・先方がこちらの条件を飲むことが先決・・」

「そう・・・でも・・行くのね」

「ああ・・ソウルホテルを潰しに」

フランクはソフィアを下から見上げて唇の端を上げた。

「そうね・・・潰してくるといいわ・・・」

ソフィアもまた意味ありげに両方の口角を上げた。

「それから・・・もうひとつ・・・ハン・テジュン・・・」

「ハン・テジュン?」

「ええ・・ソウルホテル総支配人・・・
 これからあなたの敵になる人物よ
 その資料がこれ・・・なかなか手強い人物だという噂よ」

「フッ・・誰であろうと僕の相手じゃない」

「・・・確かに・・・買収に関しては・・そうね」

「・・・・・」


「知ってる?女は男をいつまでも待てるわけじゃないの
 どんなに頑張っても心が折れる時がある・・
 そんな時・・もしも近くに愛があったら・・・
 それを受け入れてしまうこともある・・・」

「何の話?」

「一般論・・・」

「一般論?・・・くだらない・・」

フランクは体で座った椅子を回して、窓からの外の景色に視線を移した。

「フランク・・・あなたは今この世界で
 実力実績共に他の追随を許さない男になった」

「今度は何」

「今なら・・・今のあなたなら・・・
 たとえどんなことが起ころうと、きっと
 守りたいものを守ることが出来る・・・でも・・」

「でも?」

フランクは姿勢はそのままでソフィアを横目で睨むように見上げた。

「ひとつだけ足りないものがあるの」

「足りないもの?」

フランクはそう言いながら、椅子の向きを彼女に向かって直した。

「そう・・・あなたには心が足りない・・・」

「・・・・・」

「あの時・・彼女を守りきれなかった自戒・・・それが
 あなたが心を閉ざしてしまった理由・・・」

「わかったようなことを言うな・・・」

「あなたはそれを取り戻さなければならない」

「・・・・・」
「そしてそれは韓国にある」

ソフィアはフランクの目を真直ぐに見て、自信たっぷりに言い切った。

「なるほど?」
フランクはソフィアの力説に対して少しからかう様におどけた目を返した。


「ふざけても駄目よ・・フランク・・もうわかってるんでしょ?」

「何が?」

「正直になりなさい」

「・・・・・」

「そして心を取り戻したあなたは・・・間違いなく・・・最強の男になる」

「何だそれ」

「ふふ・・・一般論・・・」


ソフィアは明るく微笑んだ。

フランクは彼女の久しぶりに見せたその笑顔に向かって、躊躇いがちに薄く笑ってみせた。



「ボス!先方からこっちの条件を全て飲むと言ってきたぞ」

「随分早い回答だな」

「どうも何処かからの後押しがあったみたいだな」

「後押し?」

「お前がこの案件に係ることが買収後の取引の条件だと・・・」


   レイ・・・あなたの仕業か?


「それで早速だが・・・ソウル行きのチケットも用意したぞ」

「出発日は?」

「明日だ」

        まったく・・・どいつもこいつも・・・

 



            ・・・勝手なことばかり・・・
        
     


  


             


  


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