2010/10/30 17:53
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage side-Reymond-完

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        drawing by boruneo

 




 


 

 

あれから10年の月日が流れていた

私はあの後、フランクの力を借りて多くのマーケット展開を果たし、ホテル・レストラン
パブ・バー・美容サロンなど多種多様な媒体を所有するようになっていた。
それは、組織の人間達の再生の為、彼らひとりひとりの能力に適用する箱となる土台が
どうしても必要だったからだ。


父は重い持病を抱えていたために刑の執行を猶予され、今は義母とふたり
NYを離れ余生を静かに送っている。

先日彼らを訪問した折に、義母は父のそばにいることがこの上なく幸せなのだと
私に言ってくれた。

父は決して多くを語らないが、義母の差し出す手にその無骨な手を置く照れた姿が
とても幸せそうだった。
その光景のほほえましさに私はホッと胸を撫で下ろしていた。

近いうちに二人で韓国に渡り、私の母のお墓参りをするのだと義母が言った。

「いいでしょ?」

「もちろんです。母も喜びます」

「そう?あなたがそう言ってくれると嬉しいわ・・・実はね
 まだ彼には話してないの・・・あなたのお父様は・・私とじゃなく・・
 本当は一人で行きたいのかも・・」

「そんなこと・・・きっと父さんも・・・義母さんと行きたいと思ってる」

「本当に?」 私の言葉に義母は輝くように微笑んだ。

「ええ」



   マム・・・

   ふたりがあなたを訪ねたら

   どうか、父さんを許してやってください

   父さんの永年の後悔を・・・救ってやってください

   それから・・・

   義母さんをそうっと抱きしめてやって・・・

   僕とあなたは・・・彼女に許しを請わなければならない

   あなたもそう思うでしょう?

   そして・・・心からありがとう、と・・・

   このひとは・・・

   あなたの愛した人を・・・

   心から愛し、守ってくれる人なんです・・・

   マム・・・お願いします
 

   これからのふたりをどうかお守りください

   マム・・・ああ僕も

   久しぶりにあなたに伝えたい・・・


   ・・・愛してます・・・




モーガンも間もなく出所して来るだろう。
その時はまた、私の参謀となって仕えてくれるに違いない。


そしてソニーは相変わらず私のそばにいた。

「いい加減・・私から離れたらどうだ・・ソニーそろそろお前も、
 静かに暮らしてもいいんじゃないのか?」

「何をおっしゃいます!若・・・あなたの伴侶を見つけるまでは・・
 安心して隠居など・・」

「隠居しろとは言ってないさ・・終始私に付いているのは疲れるだろ?
 お前の体を心配してるんだ」

「いいえ!」

「フッ・・・好きにしろ」

「はい・・好きにします・・・どうか若・・そろそろ・・」

「そろそろ?・・はは・・さっきの続きか?」

「笑い事ではございませんぞ」

「ははは・・・いや・・すまん・・しかし未だその気は無い」

「お父様もご心配なさっていらっしゃいます」

「・・・・見届けたいものがあるんだ」

「見届けたいもの・・・ですか・・・」

「それまでは・・・」

「若・・・」

「ん?」

「ソウルホテルですが」

「ソウルホテル?」


ソニーの話によると、あのソウルホテルがハンガン流通という会社に
狙われているとの情報が入ってきたという。
ハンガン流通といえば、韓国ではマフィア紛いの企業だとの噂がある。

そこに狙われてしまったら最後だと・・・


「そのハンガン流通がM&Aの優秀な人材を探しているようです」

「のっとる気なのか?・・ソウルホテルを」

「おそらく・・」

「・・・ハンガン流通といったな・・
 その話・・フランクに持って行くよう伝えろ」

「フランクに?相手はソウルホテルの敵ですよ」

「わかってる・・」

「何故・・」

「いいから・・そうしろ」

「はい・・承知しました」


しかし、私の思惑に反して、フランクはその話に乗ってこなかった。

     




「住所を持たない奴を探すのは容易じゃないな」

フランクはあれ依頼、個人の住居も事務所も持たず、仕事に合わせてホテルを
転々とする生活を送っていた。


「ソウルホテルは今度こそ・・人手に渡るぞ」

「関係ありません」
    
「気にならないのか」

気にならないわけがあるまい・・フランク・・・

あの後、ジニョンがどういう生活を送っていたのか

ひとつ残らず調べ上げていたはず・・・

彼女の身に何かあったら
直ぐにでも対処する用意があったはずだ


私とてそうだった・・・

ジニョンは韓国に帰国後、大学に入り直し、念願であったホテルの勉強を積み
順調な人生を送ってくれていた。

そして、現在はソウルホテルの支配人として、かなりの実力を発揮していると聞いている。

ジョルジュは結局ジニョンを諦めざる得なかった。
あれから数年もの間、脇目もふらず勉強と仕事に集中するジニョンは
決してジョルジュを受け入れることはなかった。

彼女の中に未だ消えることのないただひとりの男の影に、ジョルジュは永く苦しめられた。


   《レイ・・・フランクは断ったんですか?》

   《心配するな・・・ジョルジュ》


ジョルジュは帰国して三年後、このNYへと戻って来ていた。
そして今は私の右腕として働いている。

ジョルジュは自分が捨ててきたソウルホテルの危機よりも、彼らふたりの行く末に
心を砕いていた。


   《あいつは必ず行くよ》


   《今度こそ・・・ジニョンは幸せになるでしょうか》


   《ああ・・・きっと・・・》


     

「・・僕に・・どうしろと?・・」

「もう・・いいんじゃないのか・・そう言ってるんだ」
      
「何がです?」

「自分の心に聞け」

「心は・・・持っていない」

「心は・・・誰かのところに置いて来たか?」


  これが・・・君が彼女の元に置いてきてしまった心を
  取り戻してくる最後のチャンスだ

     
「今を逃したら・・一生後悔するぞ」

「あなたは?・・後悔しないのか」


  後悔?私は君と違って・・人間だからな・・・

  ずっと後悔していたさ・・・


  そう・・あの時・・君を殴りつけてでも

  君達ふたりを離れさせるんじゃなかったと・・・

  ずっと後悔していた・・・


「怖いのか・・・君が終わっていない以上・・
 彼女も終っていない」

「僕はもう・・・終わっている・・」


   嘘をつけ・・・



「・・怖いんだな・・臆病者が・・」

「あなたに言われたくは無い」

「ははは・・そうだな」


   確かに・・・この私が一番の臆病者だ・・・


「レオ!・・ソウルホテルの一件・・・・

 僕が引き受けるとジミーに伝えろ!・・

 ・・・・・これで・・いいですか?」

   
   ああ・・それでいい・・・

   彼女の元へ行け・・・そして


   ソウルホテルの敵となって・・ホテルを潰すか・・・
   
   それとも・・・そうしないのか・・・


   君が決めればいい・・・


   君の心が決めればいい・・・

 

それから・・・「これを受け取れ!」


私はこの10年間ずっと私の元で眠らせておいたそれを彼に投げた。



   これで・・・

    ・・・やっと私も解放される・・・

    

   

 

 



        
















































 


 
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