2010/10/10 14:25
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-48.覚めぬ夢

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   ジニョン!・・・ジニョン?・・・ジニョ・・


   フランク・・フランク・・・・フランク・・・ 



      夢を見ていた・・・

      暗い闇に包まれた中に聞こえていたのは

      ジニョンの名を必死に叫ぶ自分の声と

      遠くから届く彼女の僕の名前を呼ぶ声だけだった

      彼女の声に向かって走るのに・・

      僕はいつまで経っても彼女に辿り着くことができなくて

      常軌を逸したように焦り狂っていた・・・

      
      どんなに走っても・・・どんなに大声で叫んでも・・・    

      彼女の姿が何処にも見えない・・・

      
      僕は暗闇の中で狂ったように

      ただただ・・・彼女の名を叫び続けていた


「ジニョン!」

「フランク・・・しっかりして・・・」

僕の額に触れていた細い指をジニョンだと思い、掴んだ瞬間に目が覚めた。
その手の主がソフィアだとわかった時、今自分のいる場所が何処かが理解できた。

「・・ジニョンは?・・・どこ?・・彼女は・・」

「ジニョンさんは大丈夫よ・・・安心なさい・・」

「本当に?・・何処にいるの?・・逢わせて・・」

「今は無理よ・・・あなたはまだ動けないわ
 でも彼女は大丈夫・・怪我も軽いし・・ただ・・」

「ただ?」

「今・・彼女には彼女のお父様が付き添ってらっしゃるの・・
 わかるわね・・・だから・・もう少し待ちなさい・・・」

    ジニョンのお父さんが・・・

「・・どうしても・・逢いたい・・・」

「・・・・・情け無い顔しないの・・・」

「・・・ジニョンが僕を呼んでるんだ・・・きっと待ってる・・・僕を・・・」

「今は・・・無理よ。」 ソフィアは少し強い口調でそう言った。

「・・・・・」

「私が様子を見てくるから・・・我慢して」
そして彼女は、まるで子供に言い聞かせるように、彼の頭をなでた。

「怪我は何でもないんだね・・・」

「ええ」

「良かった・・・」 それだけでもフランクはホッとしたようだった。

「そうね・・・」

「怖い思いをさせてしまったんだ」

「・・・・・・」

「泣いてなかった?」

「大丈夫よ・・・あの子・・気丈だから・・」

「・・・・・・」

ソフィアとの会話の中でフランクは夢の中と違い、次第に安堵していく自分を感じていた。

「今は・・あなたは自分の体のことだけを考えて・・・早く元気になるのよ
 仕事の方はレオさんが進めてくださってるし
 私もあなたの復帰までレオさんに協力させていただく」

「ごめん・・・」

「それから・・・ソウルホテルの一件も解決したわ・・・」

「そう・・良かった」

「さあ・・・だから・・・安心して・・目を閉じて・・・
 今度は・・・彼女と逢う夢を見ていなさい・・・」

レイモンドの言う通り、ソウルホテルは危機を脱することができた。
    
安心したフランクは、ソフィアに促がされてゆっくりと目を閉じた。
そしてまた深い眠りについた。

それでもフランクは目覚める度に、ジニョンの名を口にして会いたがった。
その都度ソフィアは彼に、辛抱するよう言って聞かせた。

次第に彼も落ち着きを取り戻し、今の状況を理解したらしく、翌日からは
ジニョンの名を口にしなかった。

その代わり・・・

「今日は何日?」 目覚めると彼はまずそう尋ねた。

「30日・・・」 さっきも同じことを聞いた・・・


      ・・・今日は何日?・・・今何時?・・・


      時は・・・

      思うように過ぎてくれないわね・・・フランク・・・


フランクの行き場の無い不安が、ソフィアの胸を痛めた。

   

「フランク・・・・・・・ちょっと待ってて・・・」

そう言ってソフィアは立ち上がると、壁に掛かっていた鏡を手にしてベッドサイドに戻った。
そしてそれをフランクの顔に近づけると角度を変えて向きを調節していた。

「・・・・これでいいわね・・フランク・・少し上を見てご覧なさい・・・
 向かいの建物を見て?・・・赤い薔薇が見える窓があるでしょ?どう?見える?」

「うん・・」

「さっきね・・あなたが眠っている間に彼女のお見舞いに行って来たの・・・
 あの部屋にいるのよ・・・彼女・・とても元気だったわ
 でも・・今はまだここに来れないの・・わかってあげて・・・」

「・・・・・・」

フランクは鏡に映ったその窓をしみじみと見つめていた。

「何か言ってた?」

「ええ・・あなたに早く逢いたいって・・・」

「そう・・・」

「心配してたわ・・あなたのこと・・・」

「そう・・・」

ソフィアは嘘をついていた。
 
いつまでこうして、ジニョンが元気でいると嘘をつかなければならないのか
ソフィアはフランクを見る度に胸が潰れるようだった。




「目を覚ましてから・・もう三日も経つというのに・・
 どうしたと言うんだ・・ジニョン・・・パパだよ・・ジニョン・・答えておくれ・・・」
 
「・・・・」    

「おじさん・・おじさんも少し休んだ方がいい・・今日は俺がここにいますから」   

彼女は確かに大きな怪我を負っていたわけではない。
しかし聞くところに拠ると病院に搬送されてから丸一日目を覚まさず
そして目覚めた後もまるで夢の中を泳いでいるような目をしているという。
自分の父親や身近な人の姿も視界に入っていないかのように、目を開けていても、
誰とも話しすらしないのだと・・・。

医者の見解は極度のショックに因る一過性の症状だろうと・・・
彼女の父親と一緒に付き添っているイ・ジョルジュが教えてくれた。

ジョルジュはフランクとジニョンの良き理解者のようだった。

そしてソフィアは、一昨日病室に訪れたレイモンド・パーキンという男からも、
詳しい事の次第を聞かされた。

ジニョンの父親にはまだふたりのことを話していないとのことだった。
ソフィアはフランクが彼女の父親に自分を認めてもらうべく、この仕事に
力を入れていたことを知っていた。

今のこの状況はフランクの心証を害するだろうと判断したジョルジュとレイモンドが
ジニョンと隣り合わせだったフランクの病室を、ジニョンの父が到着する前に別棟へと
移動したこともソフィアも納得の上のことだった。


「ジョルジュ・・・いったい何があったんだ・・この子に・・いったい何が・・・」 
ジニョンの父が嘆いた面持ちでジョルジュにそう聞いたが、ジョルジュは口を噤んだ。 

「・・・・」    

「お前も本当のことを話してくれないのか・・・」

ジョルジュは悩んでいた。ジニョンの身に起きた様々なことが、余りに多すぎて
彼女の父親に全てを打ち明けることを今まで躊躇していた。
しかしもうこれ以上隠しておくことはできないと彼は覚悟した。

考えた末にやっとジョルジュはフランク・シンの存在をジニョンの父に語り始めた。
彼とジニョンの出会いと、ふたりの関係と、ここまでの経緯を彼の知る限りのことを
話して聞かせた。

そして、ソウルホテルを救ったのも実は彼であったことも・・・。


ヨンスはジョルジュの言葉を静かに聞いていた。

「それで・・・彼は?」

「この病院の、別棟にいます・・・
 かなりの怪我を負いました・・ジニョンを守るため・・そう聞いています・・・・」 

「そうか・・・」

「おじさん・・あのふたりは本当に愛し合っているんです」

ジョルジュのこの言葉は本心からだった。
今でも彼のジニョンを愛する気持ちに変わりは無い。しかしジニョンの気持ちは
とっくに自分に無いことを認めないわけにはいかなかった。

「・・・・・・」

「ジニョンの気持ちを・・汲んでやってください」
ジョルジュはヨンスに心からそう言った。

「・・・・ジョルジュ・・・お前はいいのか」

「・・・俺は・・・ジニョンの兄貴ですから・・・」

ここ数ヶ月の娘の変化に気がつかなかったわけではない。
ヨンスはジョルジュの話を聞きながら、ひとつひとつ納得していく自分の心を
冷静に受け止めることもできた。

その時からヨンスは丸一日考え込んでいた・・・そして・・・

 
「彼に・・・会えるか?」

「えっ?」

「フランク・シンという男に・・会えるか・・・」

「あ・・・今は・・まだ・・怪我を」

「話もできないのか」

「いいえ・・そんなことは・・・確認してきます。少し待っててください」

 





ソフィアは今まで幾度となくジニョンの病室を訪ねたが、家族以外は面会謝絶ということで
一度も会わせてもらうことができなかった。

      ごめんなさい・・・フランク・・・
      あの薔薇は・・・
      彼女の部屋の窓辺に置いてもらえるよう
      お願いして来たの・・・
      あなたにはまだ・・・彼女のことは・・・伝えられない・・・


ソフィアはフランクが眠りに就いたことを確認するとジニョンの病室を再度訪ねた。
病室のドアをノックしようとした時、ジニョンの父親らしい声が聞こえてきた。


   《フランク・シンという男に・・会えるか・・・》

その声に深い決意が感じられてソフィアは不安にかられた。

  



「お願いします・・・少しでいいんです。彼女に会わせていただけませんか?」

「ソフィアさんでしたかな?・・・確か昨日もいらしてくださった・・・
 ジニョンの大学のお友達の・・・」

「あ・・はい・・」

「どうぞ・・会ってやって下さい・・きっと刺激になるかもしれません・・
 今丁度起きています・・・
 私も久しぶりに外の空気を吸って来ましょう」

ソフィアが病室に入るとジニョンはベッドの上で座っていた。

ソフィアがベッドの傍らにいたジョルジュを黙って見つめると、彼は彼女の胸の内を
察したかのように何も言わず部屋を出て行った。


「ジニョンさん・・・」

しかし、ソフィアの声にジニョンは何の反応も示さず、無言で目の前の白い壁を見つめていた。

「ジニョンさん・・ジニョン?・・・目を覚ましなさい・・・
 聞こえる?ジニョン・・・私よ・・ソフィアよ・・・」

「・・・・・・」

ジニョンの表情はソフィアの言葉に反応する様子すらなかった。
しかしソフィアはジニョンの手を取り、彼女の耳元で話し続けた。

「早く・・目を覚ましなさい・・・ジニョン・・
 このままだと・・・・・あなたたちは・・・・・・
 お願いよ・・・ジニョン・・・
 フランクの声が聞こえないの?彼の声が届かないの?
 夢の中でずっとあなたを呼んでるのよ」

「・・・・・・」

すると、無表情のままのジニョンの目から一筋の涙が流れた。

「ジニョン?・・・聞こえているの?・・・
 フランクの声が・・聞こえているの?・・聞こえてるのね・・・」

ソフィアはジニョンの頭を撫でながら、涙が込み上げてきて仕方なかった。

「安心なさい、ジニョン・・・フランクともうすぐ・・・逢えるわ・・・
 だから待ってるのよ・・・待ってるのよ、ジニョン・・・」

そしてソフィアはジニョンの頭を抱きしめて優しく語り始めた。

「ジニョン?私が前に話したこと・・・覚えてる?

 男と女は・・・
 神様に生を受ける前はひとつの体だったというお話・・・

 神はそれをわざと引き裂いて・・・この世に遣わしたの

 引き裂かれたそのふたつの体は何とかひとつの体に戻りたくて
 もうひとつの体を無意識に・・・懸命に探すの・・・
 そして・・・惹き合い・・・愛し合う・・・
 それが・・・半身というものなのよ・・・

    
 ジニョン・・・あなた達は・・・半身同士よね・・・
 そうでしょ?あなたが・・・あなたのフランクへの愛が・・・
 私に・・・そう認めさせたでしょ?

 だから・・どんなことがあっても・・・

 もしも神様がまた・・・ちょっとだけ悪戯をしても・・・・
 決して負けてはだめよ・・・

 わかったわね・・・
 何があっても・・・信じていられるわね・・・

 フランクを・・・待てるわね・・・ジニョン・・・」

ソフィアが彼女を抱いている間、ジニョンが正気を取り戻すことはなかった。
それでもジニョンがソフィアの肩に自分の頭を乗せるようにもたれかかった姿は、
まるで彼女の言葉に応えているように見えた。


    男と女は・・・


    神様に生を受ける前はひとつの体だったの

    神はそれをわざと引き裂いて


    この世に遣わすという意地悪をなさった


    引き裂かれたそのふたつの体は


    何んとかひとつの体に戻ろうと


    もうひとつの体を懸命に探すの・・・

    
    そしていつの日にか・・・


    彼らは自分の意志と関係なく


    惹き合い・・・出逢って・・・



            必ず・・・



          ・・・愛し合うのよ・・・
     





 

 

 

 

 








 

   
        



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