2010/10/22 23:23
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-50.冷たい決意

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      ・・・レイ・・お願いがあります・・・

ジニョンからの電話を受けたレイモンドが彼女の病室を訪れた。

「私もやっと・・君に会えたね」

「ご心配をお掛けしました・・・」

レイモンドはジニョンを見舞う前に、彼女の父親を部屋の外に連れ出しておいてもらうことを
事前にジョルジュに頼んでいた。
ジョルジュはレイモンドの正体をジニョンの父親には話してはいなかった。
そのため、ジニョンの父親にとってレイモンドは今でもジニョンの学校の教師でしかなく、
レイモンドが彼女を見舞うことに対して、父親が一縷の疑いをも抱くことはなかった。

「レイ・・どうかお願いです・・私をここから連れ出して下さい」
ジニョンはレイモンドとふたりだけになると、即座にそう言った。

「・・・・・」

「お願いです」

ジニョンはそう言いながら、レイモンドにすがるような目で手を合わせた。
レイモンドは彼女が何故、それを望むのか、十分わかっていた。

「・・・・わかった・・待ってなさい・・」



レイモンドは知っていた。
フランクが今、ジニョンを置いてこの地を去ろうとしていることを。


「一生の頼みがあります」

「・・・聞こう」

「僕は今からここを出ます」

「まだ退院許可は下りてないだろう?」

「ええ」

「ジニョンはどうする・・」

「彼女は明後日、韓国に帰国します」

「帰国?どういうことだ」

「父親が連れて帰ります」

「一時的ということか」

「いいえ・・・」

「それで・・どうして君が慌ててここを出なければならない?」

「・・・・・」

「彼女を置いて行く気か?」

「・・・・・」

「何故だ!」

「・・・・言わなければいけませんか?」
その時、フランクの目が「聞かないでくれ」と訴えていた。
レイモンドは荒げてしまった声を何とか抑えて、言った。

「・・・・それで私にどうしろと?」

「ジニョンはきっと・・あなたに助けを求めるでしょう」

「だから?」

「諦めさせてやって欲しい。僕を・・。
 それで・・父親とソウルに帰るよう、説得してやってください」

「ハッ・・」

レイモンドは呆れたように溜息をついて、フランクを睨み上げた。
そして、それ以上フランクと言葉も交わさず彼に背を向けると、音を荒げて
病室を去って行った。


レイモンドが病室を出た後、ドアの外でふたりの話を聞いていたソフィアが無言のまま、
病室に入ってきた。「・・・・・」

ソフィアはフランクから視線を逸らし、ただ黙々とベッドのシーツを整えていた。

「何?」 冷えた空気に耐え切れず、声を上げたのはフランクの方だった。

「・・・・・」 それでもソフィアはそれを無視するように手だけを動かしていた。

「・・・・何が言いたいの?」 フランクは再度聞いた。

「何も?」
ソフィアはフランクにやっと視線を向けたかと思うと、ただひとことそう言った。
しかし、その瞳は確かにフランクに向かって何かを訴えていた。

「そんな目で見るな。」 フランクはソフィアに向かっていらだつように言った。

「私は何も言ってないわ・・・
 あなたが今・・私の目を見て感じていることは・・・
 きっと・・あなた自身の心よ・・・あなたが・・そう言ってるの」

「・・・・・」

「それがあの子のためだと?・・・それは大きな間違いだわ」

「・・・・・」  

「それでも?」

「・・・・・」

「それでも?!」 ソフィアの声は涙声に変わっていた。

「・・・それでも。」
そんな彼女の問いかけに、まるで自分自身に言い聞かせるように
フランクは彼女の言葉を繰り返した。

「情けない男。」 ソフィアは吐き捨てるようにそう言った。
それでも彼女のフランクを見る目は彼を哀れむように、優しかった。

そして彼女もまたレイモンド同様、それ以上何も言わなかった。


      ・・言えなかった・・・

      あなたのその悲しい瞳が哀れ過ぎて・・

      言うべき言葉すら見失ってしまったの・・・



      フランク・・・

      どうしてあなたはそんなにも不器用なの?・・・

      どうしてもっと・・・自分を愛せないの?


      神は・・・・




外にはジニョンの父親が待っていた。
レイモンドはジニョンの前でポケットから携帯電話を取り出した。

「ソニー・・動けるか」



しばらくして、部屋の外で、男達の声が聞こえてきた。
そして、部屋のドアが開いて、ヨンスがジニョンに声を掛けた。

「ジニョン・・・ソニーと少し話をしてくる。
 ジョルジュが付いていてくれるというから行ってくるよ・・出発の準備をしていなさい」

「あ・・は・・い」

今日ジニョンはこの病院を退院して、父の意志通り韓国に帰国する。


       《フランクが・・・フランクのところへ行かせて》

       《ジニョン・・・彼は駄目だ・・・諦めなさい》

       《パパ・・どうして?》

       《あの男は駄目だ・・・》

       《どうして!・・彼のこと少しもわかっていないのに
        どうしてそんなことが言えるの?》


       《・・・彼は私の気持ちをわかってくれた》

       《どういうこと?・・・》

       《彼はもうここには来ない》

       《嘘よ!そんなこと・・あるはずがない!
        迎えに来るって約束したもの・・
        フランクは私に嘘はつかない
        どうして・・そんな嘘をつくの?パパ・・》

ジニョンはあれから幾度となく父親を説得した。しかし父の意志は固く、揺るがなかった。      


レイモンドはジニョンの目を真直ぐに見つめて、彼女の決意を確かめた。

ジョルジュもまた、ジニョンの気持ちを痛いほどわかっていた。
レイモンドがジニョンに手を貸して部屋を出て行くのを何も言わず見送った。

「ジョルジュ・・」

「ああ・・わかってる・・・急げ」

「ごめんなさい・・」



レイモンドとジニョンはまず最初にNYのフランクのアパートに向かった。
しかしそこは昨日のうちに解約されたらしく、中を覗くと天窓の下に置いたベッドも
何台かのパソコンも何もかも消えていた。

ただキッチンのカウンターに彼が好きだったコーヒー豆の袋がポツンとひとつだけ
寂しく取り残されていた。

ジニョンは目の前で起きている只ならぬ状況に次第に青ざめて、震えるように
レイモンドを見上げた。

しかし、レイモンドは既にこの結果を知っていた。
それでも彼女に諦めろ、と言えずにここまで連れて来たのだった。

しばらくして、ジニョンは慌てたように玄関に向かった。

「ジニョン!何処へ行く!」

「別荘に・・」

「・・・・・」

「別荘に・・行きます」

「行ってどうする?・・そこもきっと・・」 

「・・・・・」

レイモンドはそう言いかけたものの、彼女の返す切ない目にそれ以上の言葉が
つなげなかった。

「わかった・・・行こう・・・」

レイモンドは今はジニョンの気の済むようにしてあげようと思った。

湖畔に向かう車の中で、ジニョンは爪の先を噛みながら窓の外を見続けていた。
時に彼女は、自分で自分の肩を抱きしめて震えを堪えているかのようだった。


別荘に車が到着すると、ジニョンは車が停止するよりも早く車のドアを開け
ふたりの家に向かって走った。
そしてそのドアを開けると、そこは初めてここを訪れた時のように、全ての調度品が
白い布で覆われていた。

ジニョンはその情景を目の当たりにして、愕然とした。

あまりのショックに目が大きく見開き、その瞳からみるみるうちに涙が溢れ出た。


「フランク?・・フランク?・・・」

ジニョンはドアというドアを開けては彼の名前を繰り返し呼んだ。

「フランク!・・フランク!・・フラ・・」

そして・・・とうとう全てのドアを開けてしまった。

「フランク・・・悪ふざけは止めて・・フランク・・お願い、出て来て・・・

 冗談なのよね・・フランク・・
 そうやってあなた・・いつも意地悪ばかり
 私・・あなたの意地悪にはもう慣れっこなんだから・・・
    
  こんなの・・何てこと無いんだから・・・

  私を怒らせて・・隠れて笑ってるのよね
  ね、そうなんでしょ?

  驚かせようとしてるのよね?

  そうよね・・フランク・・・

  答えて!フランク・・フランク!フランク!ー


ジニョンは今度は狂わんばかりに泣き叫びながら、家具を被った布を乱暴に剥いで回った。

「・・・・うそつき・・うそつき!・・」

「ジニョン!」

レイモンドは彼女の興奮を抑えようと必死に捕まえて抱きしめた。
しかし・・ジニョンの狂気は、彼の力さえも簡単に振りほどいた。



「うそつき!・・・

 迎えに来るって言ったのに

 待ってて・・って・・

 待ってて・・そう言ったのに!

 私がいればいい・・いるだけでいい・・そう言ったのに・・

 そうよね・・そんなはずない

 そんなはずない・・・

 あなたが私に嘘なんて付かない

 あなたが私をひとりになんてしない

 だって・・・あなた・・私がいないと駄目じゃない

 私がいないと・・・私がいないと・・・」

ジニョンはまるで呪文のように、自分に言い聞かせるように“そんなはずはない”と
繰り返し呟いていた。

しかしいつまで経っても目の前の風景は変わることがなかった。


「うそだったの?フランク・・・

 ここが私達の家じゃないの?

 ふたりだけの・・家・・そうじゃなかったの?

 ほら・・・

 天井・・まだ穴空けてないじゃない

 約束したでしょ?

 星が見えるようにしてくれるって・・

 約束したでしょ!

  
  フランク!・・・フランクー・・フランクー

  何処にいるの?

  どうして私を置いていくの?

  私は・・どうすればいいの?

  返事して・・嫌よ・・・フランク・・・

  置いていかないで

  私を置いていかないで・・・

  置いて・・いかないで・・・・

  嫌よ・・・嫌・・・フランク・・・

    ・・・フランク!-」・・・


        神は・・・


        大きな悪戯をなさったのね・・・

             ・・・フランク・・・














 

 

 


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