2010/10/03 21:53
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-46.永遠の微笑み

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 フランクはレイモンドに促がされてソニーの後に続き、部屋を出ようとした。

「フランク・・」


その時、パーキン夫人が申し訳なさそうな顔つきでフランクに声を掛けた。

「どうか・・・許して下さい・・・」


この数分の時間の中で、夫人はきっと多くのことを把握しただろう。
そして、自分の血を分けた息子ライアンがたった今まで自分が頼りとしていたフランクと
その大事なひとを陥れようとしているらしいことも・・・。

しかし今のフランクには彼女のその思いを慮れる余裕など無かった。
結局彼女を振り向くこともせず沈黙のまま彼は急ぎ部屋を後にした。

 

 


「あそこです・・・」

「・・・・」

ソニーに連れて来られた場所はもう長い間使われなくなって久しいと思われる
何かの工場のような建物だった。
ソニーはそこから少し離れた所で車を止めフランクを見た。


「さあ・・行って下さい・・・ここから二つ目の建物です」

「・・・・」

「私はしばらく外で様子を伺います・・・
 そしてあなた方の様子が伺える場所を探します

 いいですか?あなたは私が必ず・・お守りします
 もちろん・・ジニョンさんもです
 できれば若の到着を待ってあなた方を逃がす手段を講じたい・・
 その方が危険が少ないかと。・・・若もその考えです
 それまで決してご無理をなさらないように・・・」

「本当に・・・」

「はい?」

「本当にレイモンドはここへ?
 本当のところ、僕達がどうなろうが・・彼には関係ないんじゃないか?
 彼は今なら・・あの書類を手に入れて・・・そのままFBIへ向かうことができる
 やっとここまで漕ぎ着けたんだ
 自分の思惑通りに・・・事を進められるチャンスだ」

「信じられませんか?若を・・・だとしたら・・たった今あなたが・・
 レオナルド・パクに伝えれば済むことだ。
 まだ間に合いますよ・・
 レイモンド・パーキンに決して書類を渡すなと・・・」

ソニーは正面を見据えたまま、静かにそう言った。

「・・・・」

「しかし・・・例え、あなたがそうなさったとしても若は必ずあれを手に入れる。
 どんな手を使っても・・そう・・
 例えレオナルド・パクに危害を加えてでも・・・」

「・・・・」

「あなたが逆のお立場でもそうなさいませんか?」

「・・・・」

「今ジニョンさんの命が掛かっているとしたら・・・」

 ソニーはそう言いながら、フランクに向かって温かな視線を向けた。
そして彼はフランクに部屋の場所を教えると車を先に降りそこから離れた。


フランクはひとりで指定された場所へ向かい、入り口の前で一度目を閉じ深呼吸をすると
覚悟を決めてそこに足を踏み入れた。


   《中へ入ったら・・右手に階段があります・・
    そこを上がってください》

   《よくご存知なんですね・・中の様子》

   《フッ・・・人に知られたくない時に使うには・・・ 
    絶好の場所ですから・・》

   《あなたや・・レイモンドも・・こんなことを?》

   《・・・・・必要があれば・・・》

フランクはソニーに指示されたように上階へと続く階段を上った。
指定された部屋までは二つの階段を上る必要があった。
静かな屋内にフランクが階段を上る足音だけが高く響いていた。
上階で待つ奴らはきっと、今近づいている足音が彼のものだと察しているだろう。
しかし彼は敢えて足音を忍ばせることをしなかった。

 

部屋に入っていくと、そこには数人の男達が待ち構えていた。

 

「ジニョンは何処だ」

フランクは待ち受けていた男達の顔を確認するより先にそれを問うた。

「お待ちしていました・・・Mr.フランク」

「ジニョンは何処だと言ってる」

「あちらの部屋で寛いでいただいています・・ご安心を・・・」

「ふざけるな・・直ぐにジニョンを」

 

男達はこの部屋に六人いた。中央に腰掛けた兄貴分らしい男・・・
その両脇には二人の男が構えて立っていた。

「それはできません・・大事なものが届くまでは・・・」

「僕だけがここに残ればいい話じゃないのか?頼む。ジニョンは帰してくれ」

「それも無理な話です・・・わかりませんか?
 彼女がいなければ・・レイモンド様が書類を持ってくる保証が無い」

「レイモンドは必ず持ってくる。」 

   レイモンドは必ず来る・・・

   僕は自分の口からその言葉が発せられた後で
   自分自身もまた彼を信じていることに気がついた


「さあ・・それはどうでしょうか・・・とにかく・・彼女は書類と引き換えです」

「だったら・・僕をジニョンのそばに」

「・・・まあ・・いいでしょう・・・」

話をしていた男が周りの男達に目で合図をすると、男達はフランクの手を後ろ手に縛った。
そして一枚のドアで仕切られたもうひとつの部屋へフランクの肩を押しながら連れ立った。

ドアが開いた瞬間、椅子に縛り付けられ目隠しをされたジニョンの姿が目に入った。


「ジニョン!」

「フランク?」

「ジニョン・・大丈夫か?」

「あぁ・・フランク・・やっぱりフランクだったのね
 でも・・駄目よ・・フランク・・直ぐに逃げて・・


目隠しで多分何も見えていないジニョンがフランクに向かって小声でそう言った。


   僕は思わず苦笑してしまった

 

フランクの両脇にはふたりの男がそれぞれに彼の腕を掴んでいた。

「フッ・・ジニョン・・・逃げられそうもないよ・・・」


「・・・そうなの?」


おい! これじゃあ、逃げようにも逃げられないだろ!?
 この仏頂面の奴ら・・部屋から出せよ!」


フランクはドアの向こうの兄貴分らしい男に向かって大声を張り上げた。
フランクの両脇にいた男達は部屋の向こうにいる男の指示で、彼をジニョンと同じように
椅子に括り付けた。

そうして・・・


   奴らは僕を睨み返しながらしぶしぶ部屋を出て行った


「ジニョン・・・」

「フランク・・・」


「・・良かった・・君が無事で・・・」

「私は大丈夫・・・そう言ったでしょ?」


「奴らに酷いことはされなかったかい?」

「酷いこと?・・こうして縛られてるけど・・十分・・酷いことだわ!」

ジニョンは口を尖らせて見せた。

 

「フッ・・君って・・・」

   この非常時にきっと強がって見せているだろう君に救われる思いがした

   でも・・・

「・・怖かっただろ?・・」

「・・・怖かったわ・・さっきまで・・・でも・・あなたの声が聞こえたとたん
 何だか・・不思議に勇気が沸いてきた」

「ごめんよ・・こんな思いをさせて」


「あなたのせいじゃないわ・・・」

「いや・・僕のせいだ・・」

「ごめんなさい・・・フランク・・・あなたがひとりで出歩いちゃ駄目だって・・
 あんなに言ってたのに・・
 ジョルジュにも・・レイにも・・言われてたのに・・
 ごめんなさい・・ごめんなさい・・ 」

「ごめん・・理由を言えなくて・・」     

「でも・・レイが・・・あの人たちのボスなの?」

「いいや・・違うよ」

「違うの?」

「うん・・違う」


   厳密に言えば・・・
   あの男達のボスはレイモンドに他ならない

   しかし今のジニョンにそう言いたくはなかった

   きっと捕まっている間
   奴らの会話の中にレイモンドの名前が出ていることを
   ジニョンがどれほど心配していたか・・・

   僕の言葉に少しばかり胸を撫で下ろす彼女が伺えた

   大丈夫・・・ジニョン・・・
   レイモンドは君が思っているような男に・・・違いないよ・・・

 

「逢いたかった・・」

「僕も・・・」

「嘘・・」

「嘘?どうして?」

「ちっとも連絡くれなかった」

「ごめん」

「フランク・・・」

「ん?・・」

「あなたの・・顔が見たい」

「ちょっと待ってて・・」

 フランクは少し離れた場所に置かれた椅子を少しずつ体で動かしながら
ジニョンの近くへと移動させた。

 「ジニョン・・ここまでが限界だ・・少し左に顔を倒してみて?」

 「うん・・こう?」

フランクはジニョンの目隠しに何んとか口を近づけ銜えると、彼女の頭から抜くように
それを引っ張った。

辛うじて目隠しが取れたジニョンがフランクを見て、顔をほころばせた。
フランクもまた、彼女の瞳に逢えて胸が熱くなるのを感じていた。
ふたりはしばらく声も出さず、見つめ合ったまま苦笑いを浮かべていた。

「髪の毛・・ボサボサじゃない?・・ふふ・・手・・これじゃあ、直せない・・」

フランクにずっと見つめられていたジニョンが我に帰って照れたように俯いた。

「綺麗だよ・・とても・・」

「また~フランク・・嘘つき・・」

「本当だよ・・だから・・お願い・・僕から目を逸らさないで」

自分達が置かれた普通ではない境遇に対しては諦めざる得ないことに、
互いに溜息をつきながらそれでも、今ここにふたりでいることに安堵を覚えていた。

「どうなるの?私たち・・」

「大丈夫・・君だけはきっと助けるから」

「君だけは?・・・駄目よ、フランク・・助かるのはあなたと一緒でなきゃ」

ジニョンは少し怒ったように目に力を入れて強い口調で言った。


「・・・そうだね・・」

「絶対よ」

ジニョンは今度はまるで哀願するようにフランクを見ていた。

 

「うん・・」

「フランク・・・」

「ん?」

「私に届く?」

「?・・・」

「キスして」

ジニョンはフランクに向かって、いつものくったくない笑顔を見せた。

 


  ジニョン・・・君って人は・・・

 

ジニョンの笑顔を守りたいと言った、レイモンドの顔が浮かんだ

 

 

       《あの子の笑顔は・・・
        何としても守らなきゃならない》


   そう思っているのは僕も同じだ

   いいや・・・あなた以上にそう思ってる・・・

       
       《その笑顔の先には君が必ずいなければならない・・
       それを忘れるなよ・・》

     
   忘れるものか・・・

 

  
   ジニョン・・・どうか・・・

 

   その笑顔のままで・・・

 

   僕に勇気を与えて

 


フランクはさっき彼女の目隠しを取った時のように体を伸ばし、やっと届いた
ジニョンのまぶたに祈りを込めてそっとくちづけた。

 


   君のこの笑顔が・・・

     
   必ず僕の前に・・・

 

      ・・・永遠でありますように・・・



 

 

 


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