2010/10/05 10:39
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-47.誰よりも・・・

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フランクがドアの反対側に位置した窓の外に視線をやると、そこに映っていた
人影の慌しい動きに気がついた。
この部屋に入った時からそこには見張りらしき男がふたりいたことは知っていた。
そのふたつの影が次々に見えなくなったかと思うと、ひとつの影の主がその窓を
音もなく静かに開けた・・・ソニーだった。

ソニーはフランク達が囚われている室内への侵入に成功すると、まずフランクに近づき、
彼の手に小型の刃物をひとつ握らせた。
そして自分はジニョンを縛り付けていた綱にナイフの刃を入れた。

「急いで。・・ここを出ます」

タイムリミットは外で伸された輩を他の仲間が見つけるほんの数分間、
ソニーが早口でそう伝えた。

レイモンドを待つんじゃなかったんですか

ライアンにきな臭い動きがあると・・情報が・・
 できるだけ早くここを出た方がいいと判断しました
   若は今こちらに向かっています、直に到着するはずです

フランクもソニーも敵に感づかれないように気遣いながら手を早めた。

 

「ジニョンという女は何処だ!」

しばらくしてドアの向こうから、新たに入って来た男の声がした。

急いで。ライアンです・・彼に捕まると厄介だ

ふたりを縛り付けた綱がやっと解かれて、ソニーはまずフランクに向かって
先に窓の外へ出るよう合図した。

フランクは音を立てぬよう、少し高めに設えられた窓枠によじ登り、部屋の反対側へと
注意深く脱出した。
そしてソニーが持ち上げたジニョンの小脇に両手を差し入れると、彼女をしっかり抱きとめて
自分の腕の中に受け取った。

その瞬間、反対側のドアが開けられ、奴らの叫び声が部屋に轟いた。

「おい!・・何してる!
 逃げるぞ!・・捕まえろ!」

「逃げろ!フランク・・これを!」

その時ソニーはまだ部屋の中だった。
彼は自分の拳銃をフランクに手渡し、素手で奴らと格闘していた。

「ソニー!」

「いいから!急げ!」


フランクは仕方なくソニーを部屋に残したまま、ジニョンの手を取り急いでその場を離れた。

その瞬間部屋の中から、騒々しい物音に混じって銃声が聞こえた。
フランクは懸命にその場を走り抜けながら、思わず目を閉じた。

その時ジニョンが怯えたようにフランクの手を握り返していた。

「あの人は・・・大丈夫・・・ジニョン・・・大丈夫だ・・・」
フランクは自分自身に言い聞かせるように、そう呟いた。

 
広い建物の中をフランクはジニョンの手を引き、懸命に走った。
今は逃げるしか、手立ては無い。

最初入って来た入り口を出ようとそこへ向かったが、丁度そこに辿り着いた時、
かなりの手合いがなだれ込んで来ていた。
そしてきっとあの場所からの無線の指示に従っているらしい男達がそこを塞いでいたため
フランクは他の出口を探して逆を走るしかなかった。

しかし、出口を探せないまま、その内に追っ手が視界に入って来てしまった。

フランクはとっさにひとつのドアを開けた。その部屋は体育館のような大きさの倉庫だった。
フランクはその中に逃げ込むと、急いでドアを閉め、そのドアに背中を押し付けた。
そして、ジニョンの肩に手を掛け彼女を自分に振り向かせると、彼女の目を見て
言い聞かせるように話した。

「ジニョン・・いいかい?よくお聞き?」

「・・・・・」

「僕があいつらをここで引き止める。その隙に向こうの窓から出ろ。
 ここを出て何処かの物陰にしばらく隠れてるんだ。」

「嫌よ・・フランクと一緒でなきゃ・・」

「いいから!言うことを聞け!・・・このままだとふたりとも捕まってしまう
 ひとりだけなら・・何とかなる
 君はここを出て、レイモンドを待つんだ」

「レイを?」

「ああ・・ソニーが言ってた・・彼は今ここへ向かってる。もう直ぐ着くはずだ。
 彼ならきっと君を守ってくれる・・いいね!」

「でも・・」 

「ジニョン・・これを・・」
フランクはジニョンの手にソニーから渡された拳銃を握らせた。

「フランク・・」

「もしも・・危なくなったら・・使え。使い方は・・」
フランクはそう言いながら、彼女の手に拳銃を握らせ、発射の方法だけを教えた。

 

    とにかく今は・・・
    ジニョンをここから逃がさなければならない

レイモンドの声がフランクの脳裏に蘇ってきた。

  
    《ジニョンだけは奴らの手に渡すな!

     事が起こってからでは取り返しはつかない

     奴らはお前を見くびってる

     ジニョンに何かあったからといって・・いや・・

     そのジニョンに手を掛けたら最後

     お前という男が決して言いなりになることはない

     却って己の命までも危ぶまれるということに
       奴らは気がついていないんだ

     だから決して・・ジニョンを渡すな》


レイモンドの言葉の意味を、フランクはやっと今理解した。
    
ドアの外が騒々しくなってきた。
フランクは奴らが騒ぎ立てているドアを背中で力の限り押し返したまま
ジニョンを突き放した。

「時間がない!急げ!」

ジニョンの表情は不安で張り詰め、目に涙を一杯溜めていた。
それでもフランクの言うことを聞いて、反対側の窓辺に向かった。

フランクはジニョンが出口に近づくを待ったように力尽きて、ドアが奴らによって蹴破られた。


「逃げろ!」

フランクの叫び声が広い空間にこだました。

ジニョンはフランクが気になって何度も何度も振り返った。
もう少しで出口に辿り着こうとしていた時、フランクが激しく攻撃されているのが
ジニョンの目に入った。

その時だった。

「止めて!」

銃声が広い空間に鳴り響いた。
ジニョンの手に握られた拳銃の銃口から白い煙が緩く吹いた。

そしてジニョンは自分の行為に怯えたようにそのものを地面に投げつけると
フランクの元へ駆け戻って来た。

「ジニョン!来るな!」

しかし、ジニョンは迷わなかった。
彼女はフランクの体を庇うように被い彼らの前に立ちはだかった。


その時、男達の群れを分けるようにして、ひとりの男が前に出た。

「流石・・レイモンドが惚れただけのことはある
 勇気のある・・お嬢さんだ・・
 しかしお嬢さん・・心配要らないよ・・
 彼は我々にとって大事な人間だからね
 これ以上・・傷つけたりはしない・・

 しかし・・あんたは違う・・・
 あんたはどうも・・レイモンドにとって大切な人らしい・・・奴にね・・
 あんたを無傷で返すと約束したんだ・・
 しかし・・俺は考えた・・
 それじゃあ、あまりに面白くないとね・・・

 あいつも馬鹿だよな・・
 俺がどれほど自分のことを嫌っているか
 知らないらしい・・・」

男はそう言って薄笑いを浮かべながらジニョンに近づいた。

ソニーが言っていた・・ライアン・・・その男だった。

「触るな・・・」

「止めて・・」

「彼女に・・触るな!」

既に手傷を負っていたフランクは力を振り絞ってジニョンを男から奪い取った。
そして走れるだけ走るとフランクは突然倒れるようにして彼女の上に覆いかぶさった。

「ジニョン・・」

フランクは腕の中に彼女を抱いたまま意識が遠のいていくのを感じていた。
彼はジニョンの耳元で途切れ途切れに囁いた。

「ごめん・・もう駄目みたいだ・・
 このまま・・動くな・・ジニョン・・動くな・・
 僕は・・君を離さない・・・決して・・離さない・・
 もう直ぐ助けが来る・・彼が来る・・きっと来る・・
 だから・・・僕の・・腕の中で・・・動く・・な・・・」

そう言ってフランクはジニョンの上で気を失いかけていた。

「女を始末しろ!」

ライアンの指示で男達がフランクの体をジニョンから離そうとしたが
フランクの体はジニョンを包み込んだまま堅く閉ざし、彼らの手に負えなかった。

「無理です!こいつ・・離れません」


   触るな・・・ジニョンに・・・触・・るな・・・

   ジニョン・・・僕の・・・命・・・

   誰よりも・・・誰よりも・・・

   愛しい・・・僕の・・・いの・・ち・・・・・・・

   

 そこにサイレンの音がが鳴り響き、次第にここへと近づいて来ていた。

ライアンはとっさに、自分の懐から拳銃を取り出すと迷わず、フランクとジニョンに
銃口を向けた。

その瞬間、ライアンの拳銃がその手からはじかれ飛んだ。


「無傷で返す・・そう約束しなかったか!
 ライアン!」

男達が慌てた様子でその場を散り始めていたが、次々にFBIの手によって
取り押さえられていた。

フランクは薄らぎ行く意識の中で、おぼろげに見えた人影がレイモンドであることを確認すると、
ホッとしたようにジニョンを腕の中に抱いたまま薄く微笑んでうな垂れた。

「フランク・・フランク・・いやよ・・
 私をひとりにしないで・・フランク・・いやーフランクー

ジニョンは自分の上で意識を無くしてしまったフランクを力の限り揺すりながら、
大声で泣き叫んでいた。

ジニョンにはそこに響き渡るサイレンの音も、男達の慌てふためく騒動も
彼らが四方八方で警察の手に拘束されている様子さえも何も目に入らず、
何も耳にも届かなかった。
その時、その瞬間、彼女の中に存在したのは愛するフランクただひとりだった。

「フランク!しっかりしろ!」

レイモンドが慌ててふたりに駆け寄り、声を掛けた。
そしてやっとの思いで、ジニョンを力の限り抱きしめたまま意識を失っていたフランクを
彼女から離した。

「止めて!」

ジニョンはレイモンドの腕に抱えられたフランクを、まるで奪い取るかのように
彼を抱きしめ離さなかった。

「ジニョン!離しなさい・・救急車に乗せるんだ!」
 

いや!・・いや・・連れて行かないで・・
  フランク・・フランク・・・私の・・フランク・・」

「怪我をしてるんだ!離しなさい!」

その時ジニョンは錯乱していた。
ジニョンにはそこにいるのがレイモンドだということすらもわかっていなかった。

彼女の頭の中には自分達を攻撃していた男達から、フランクを守ることしかなかった。

そして・・・
ジニョンもまたフランクを抱きしめたまま
フッと、精神が遠のくようにレイモンドの腕の中で気を失ってしまった。



「ジニョン!しっかりしろ!」



       ・・・ジニョン!・・・ 

 

 


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