2011/01/30 22:45
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-39.相思華

Photo




    

  

 

collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

「ねぇ・・今日はお墓参りだけにしないか」 
次第に東海の海岸線が近づくにつれて、フランクはさっきから、
その言葉を何度も繰り返していた。
その度にジニョンは「はっ・・」と呆れたように小さく溜息を吐きながら
フランクの横顔をちらりと睨むだけだった。

「聞いてる?」 
ふいにフランクはハンドルを握ったまま、ジニョンの顔を覗きこんだ。

「往生際が悪い。・・前を見て。危ないわ」 ジニョンは少し無愛想に言った。

「アメリカに発つまでには行くよ」

「あと一週間しか無いわ」

「一週間もあるよ」

「ドンヒョクssiって・・・・・・」 
ジニョンの言葉の空白が長かったのでフランクは少し口を尖らせながら訊ねた。
「何だよ・・・・僕って?・・何?」

「あなたって・・・弱虫なのね、知らなかったわ」 ジニョンはプイと横を向いた。

「知ってると思った」 フランクはおどけたように言った。
「・・・・・・。」 ジニョンはそんな彼を無視して、窓の外に視線を向けた。

「ねぇ、ジニョン・・」
「そこを曲がって?」
「えっ?・・」

ジニョンはメモを片手に、住所を確認しているようだった。

≪そうだろうな・・・≫
この町を良く知っているのは、21年前ここを出て行った自分よりも、
この10年、毎月のように通っていただろうジニョンの方なのだと、
フランクは改めて思った。

「あっ・・止めて!」 
ジニョンが突然大きな声を上げて、フランクに車を停止させた。

 

「オンニー!」 ジニョンが車を降りるとジェニーが大きく手を振りながら
車に駆け寄って来た。

「ジェニー!」 ジニョンも大きく手を振って答えた。

「オンニ・・本当に来てくれたのね」

「ええ・・来たわ・・でも・・・」 ジニョンは少し困ったような顔をしながら
チラリと運転席のフランクに視線を向けた。

フランクはというと、停車した時目の前にジェニーの姿を見つけて
今回のことは、最初からふたりの企みに因るものだと理解して
車の中からわざとらしく大きな溜息を付いて見せた。

「そういうことか」 フランクはそう呟きながら、車をゆっくりと降りて来た。

「あ・・ジェニー・・ぐ、偶然ね・・お父さんのところに遊びに来てたの?」
≪白々しかったかしら・・・≫ジニョンは心の中で呟き宙を仰いだ。

「いいのよ・・オンニ・・オッパ、そうよ私がオンニに頼んだの
 オッパをここへ連れて来て欲しいって」

「ここって?」 フランクはそう言いながら、改めて辺りを見渡した。

「ほらね。」 ジェニーはそう言って溜息を吐いた。
「オッパって・・自分が買ってくれた家が何処にあるのか、
 どんな所かなんてことも、ちっとも興味なかったでしょ?」
そう言いながら、彼女は自分の後ろの家を目で示した。

「・・・・?ここ?」

「ええ」 ジェニーは頷いたが、その顔は晴れやかとは言えなかった。
その理由はフランクにも直ぐに想像できた。
彼はさっきからジェニーが示したその光景に目を見開いて驚いていた。

確かにフランクはつい先日東海に家を購入した。
休み毎に父の所に通って、父を気遣うジェニーのためにと思い、
根無し草を良しとしていた父を彼女に無理やり説き伏せさせた。
しかし、彼はその手続き一切をレオに任せていた。
≪そう言えば・・・≫

  『ボス・・不動産屋から連絡あったが・・』

  『ああ、ジェニーに全て任せてある・・
   彼女の言う通りに支払いを済ませてくれればいい・・
   今後僕への報告はいらない』

  『しかし・・ボス、行って見て来なくてもいいのか・・』

  『必要ない』

  『しかしな・・』

  『任せると言っただろ?いいか、忠告だ。
   今後一切、あの人の話題を僕の前でするのはよせ』

≪確かにそう言った・・・だからと言って・・・≫
「こんな・・薄汚い・・古い家・・・どうして」 
フランクはその家を眺めながら言葉にならない程に呆れていた。

「私も反対したんだよ・・レオssiがいくつも新しい家を紹介してくれたのに・・
 でもお父さんがここでいい、って聞かないんだもの・・
 きっとオッパに迷惑掛けると思って気を遣ったんじゃない?」
ジェニーは肩をすくめて、両手の掌を上に持ち上げそう言った。

フランクは彼女のその言葉を聞いて、父に対して無性に腹が立った。
「直ぐに別の家を探させる。何処にいるの。」 彼の声は冷たかった。

「えっ?」

「あの人は何処。」 

「あの人って・・・」

「父さんは何処!」

ジェニーはフランクの怒号に体を硬直させて、家の中を指差した。
フランクはそのあばら家ともいえる程の建物に向かって大股で進んだ。
ジニョンとジェニーは取り付く島など露ほど無さそうなフランクの後を
おろおろしながら付いて行った。

フランクは形ばかりに付いている木製の小さな門を乱暴に跳ね除けて
石のアーチを大きな背をかがめながらくぐった。

≪気を遣った?≫
フランクはこれは父の自分への反発でしかないと思った。
父は前にフランクが置いて行った小切手も手付かずで返して寄こした。
≪親としてのプライドか?・・今更・・笑わせるな≫

しかし、そこに足を踏み入れた瞬間、彼の動きがピタリと止まった。

ジニョンとジェニーはフランクの後ろを小走りに追いかけていたが、
急に彼の背中にぶつかって止まると、進行方向を塞いでいた彼を
押しやる形でやっと敷地へと入ることができた。

「何・・どうしたの?ドンヒョクssi・・・」
「オッパ・・どうしたの?」

「・・・・・・」 しかしフランクは立ち尽くしたまま、ふたりの掛ける声など、
まるで聞こえていないかのように黙り込んだままだった。

「ねぇ・・ドンヒョク・・ssi?」

ジニョンはフランクの顔を覗き込んで、思わず息を呑んだ。
何かにショックを受けたかのように、彼の顔面が蒼白だったからだ。
ジェニーもまた彼のその様子に気が付いて、口をつぐんだ。

「似てるだろ?」
ガラス戸を開けて、父、シン・ジャンヒョクが現れるとポツリと呟いた。

「・・・・・・」 フランクはそれには答えなかった。

「昔・・住んでいた家に・・・」 ジャンヒョクは続けた。

「そうなの?」 ジェニーが父の方に近づいて、言った。

「ああ、とてもよく似ているんだよ・・・
 ドンヒョクが生まれて・・・母さんもまだ元気で・・・
 ドンヒが生まれるまで住んでいた家に・・・
 ドンヒョクが家を買ってくれると聞いて
 前からいつも見ていたこの空き家を思い出したんだ」

「そうだったの」 ジェニーは父に優しく微笑みながら言った。
「だからここだったのね・・・」
「くだらない。」 フランクは感傷的に思い出を語る父と、それを
嬉しそうに聞いているジェニーに向かって冷たく言い放った。
「直ぐに新しい家に買い換える。」

「ここでいいわ・・私もここでいい」 ジェニーは兄に向かって
懇願するように言った。

「気を悪くさせてしまったか?・・・ドンヒョク・・・」 
父は背中を丸めて、気兼ねしたように小さく彼の名前を呼んだ。

「・・・・・・。」 
フランクは父の声を心に遮断してしまったかのように答えなかった。

「オッパ・・いいじゃない・・ね、この家で・・古くったって十分住めるもの
 ね、上がって?・・一緒にお昼ご飯食べよ?
 オンニも・・入って?二・三日前に移って来たばかりで
 何にもないんだけど・・・キッチン用具だけは用意してきたんだ、私・・」

ジェニーは必死になって、父と兄の間を取り繕っていた。
ジニョンはそんなジェニーが哀れで、何んとか彼女の気持ちを
汲んでやろうと、心を砕いて、フランクの腕を必死に引いた。
「ドンヒョクssi・・入ろう?・・ね・・お願い。」
フランクはジニョンに促がされて、やっと縁側に腰を下ろした。

フランクはしばし、そこから小さな中庭を囲む建物を見渡していた。
昔はきっとそこには三世帯の家族が暮らしていただろう別棟が
ひとつの屋根で繋がったコの字型の長屋形式をそのまま残していた。

本当に似ていた。建物の色も形も。その匂いさえも・・。そしてフランクは
自分自身がこの風景をつぶさに記憶していたことにも驚いていた。
天井の低い平屋建ては、小さい頃はもっと高く見えたものだ。
中庭にはここで暮らす者達が共同で使うポンプ式の水道があり、
家族は顔を洗うのも、野菜や食器を洗うのも、ここを使っていた。
遊んで汚れて帰って来ると、その水で体を洗われたものだった。
それは寒い冬も変わらなかった。


  『止めて~父さん・・冷たいよ』

  『こんなこと位で弱音を吐くな、ドンヒョク・・男の子だろ?』

  『早く体を拭いて、お上がりなさい・・ドンヒョク・・』

  『母さん・・今日のご飯はな~に?』

  『さあ・・何かしら?当ててごらんなさい』

  『う~ん・・この匂い・・はね・・・僕の大好物の・・』

  『正解!』

  『まだ答え言ってないよ~』

  『ふふ・・いいから、早くいらっしゃい』

そうだった・・・あの頃僕達は・・・
貧しいながらも楽しく暮らしていた。父も母も・・・僕も・・・
明るく笑っていた。

この空間に佇むだけで、時が過去へ過去へと針を戻していく。
フランクの脳裏に優しかった母の声が蘇り、こだましていた。
そこには幸せがあった。
この21年間一度として、こんな風に思い出したことなど無かった。
母の声がまるで目の前で聞こえているかのように鮮明だった。
胸に熱いものが込み上げて、ひどく息苦しかった。
いつの間にか歯を食いしばって、その息苦しさと闘っていた。
気が付くと、フランクは自分では抵抗すらできないほどに、
ぽろぽろと大粒の涙を零していた。

先に部屋へと上がっていたジニョンは彼の涙に気が付いていた。
彼女は、ジェニーに「お腹がすいたわ」と、彼女を台所へと追いやり
慣れない親子の間で落ち着かないジャンヒョクを気遣いながら、
フランクが自分のプライドを取り繕えるまで密かに時を稼いだ。


その時だった。
フランクが突然立ち上がり、入り口の方へと大股で向かった。

「ドンヒョクssi!何処いくの!」 ジニョンは慌てて部屋を出ると靴を履いた。
ジェニーがジニョンの声に驚いて台所から飛び出して来た。
「大丈夫!・・ジェニー・・大丈夫よ・・待ってて
 戻ってくるから・・心配しないで!」 
ジニョンは不安な顔を向けているジェニーに向かって急いでそう言うと
フランクの後を追いかけた。

ジニョンは門を出て、真っ先に車の置いてある方角を見た。
車はそのままだったので、ホッとして逆の方に視線を向けた。
フランクは5メートル程先を歩いていた。
「ドンヒョクssi!・・待って!・・車のKEYを頂戴!」
ジニョンのその声にフランクはピタリと立ち止まって、ゆっくりと振り向いた。

そして彼はジニョンに向かって、小さく微笑むと、上着のポケットから
KEYケースを取り出し、彼女に向かって放り投げた。
ジニョンはそれを辛うじてキャッチすると、彼と同じように微笑んだ。
そして彼女は車へと急ぎ、その後部座席から何やら取り出した。
ここへ来る途中花屋で買った花束だった。

「忘れちゃ、駄目でしょ?」 彼女はそう言って、彼の元へとまた急いだ。
フランクはジニョンが自分の元にやってくるまで、動かずに待っていた。
ふたりは互いに無言のまま微笑みながら、同じ方向へと進んだ。




そこは港を見下ろせる小高い丘の上にあった。
フランクは、幼い頃二・三回だけしかここに来たことが無かったので
思ったよりこの丘が低いことを改めて知った。

「殺風景なところだな」 母が眠る小さな墓石の前に立った
フランクの第一声だった。

「今はね・・・。でも初秋には一面に相思華が咲乱れるのよ
 本当に綺麗なの・・」

「相思華?」

「ええ・・曼珠沙華・・知らない?真っ赤なお花」

「ああ・・彼岸花ね」

「そう、彼岸花・・・韓国ではサンチョ(相思華)っていうのよ
 母に聞いたことがあるの・・・
 相思華はね・・葉が生えている時は花が咲いてなくて
 花が咲く時には葉は全く残って無いんですって・・・
 だから、花は逢えない葉のことを想って恋焦がれ、
 葉は出逢えなかった花のことを想い続けるんだって・・・
 それが名前の由来らしいわ」

「へ~・・初めて聞いたよ」

「互いに必要なのに・・互いが出会うことは無い
 それでも・・お互いを想っています・・・
 心ではあなたが見えています・・・
 きっとそういう意味なんだと思うわ・・・」

「・・・・・・」

「あなたのお母様も好きだったんですって・・相思華・・
 だからこの場所にお墓を作ったんだって・・お父様が・・」

「フッ・・それも初めて聞いた」

「そう?」 ジニョンは小首をかしげて、フランクの顔を下から覗いた。
彼の表情が嬉しそうだったので、ジニョンも嬉しくなった。

ジニョンは手馴れたように墓石に花を供え終えると、墓前に姿勢を正し
両手を重ね合わせ手の甲を額に付けるとその場にひざまずいて、
そのままゆっくりと掌が地面に付くまで頭を下げた。
フランクは彼女のその姿を見つめながら、また胸の奥に突き上げる
苦いものを味わっていた。

「どうぞ・・」 ジニョンは体を横にずらして、フランクに場所を空けた。
フランクもまた、そこにひざまずくと、両手の指を交互に組んだ。
そして目を閉じ頭をその組んだ手に近づけた。

彼はいつものようなやり方で母に祈りを捧げた。
まるで今の自分を母に見せるかのように・・・。

≪母さん・・・見えているかい?僕だよ・・・
  ドンヒョクだ・・・ 

  会いに来るのが遅くなって・・・ごめんね・・・≫


      相思華・・・

      花は逢えない葉のことを想って恋焦がれ、

      葉は出逢えなかった花のことを想い続ける

      互いに見えなくても・・・互いを想い合っている・・・


≪そうだった?母さん・・・

  母さんもずっと僕を想っていたかい?

  僕の姿は見えていたかい?

  見えていたんだね・・・そうなんだね・・・

  それなのに・・・ごめんよ・・・

  僕はとても長いこと・・あなたを忘れていた

  なんて親不孝だったんだろう・・・僕は・・・

  許してくれる?・・・母さん・・・

  でも今は見えるよ・・・こうして目を閉じていると

  あなたがすぐそこにいる

  すぐそこで・・・僕達を見てくれているね・・・≫



      ええ・・・・



         ・・・ドンヒョク・・・


































2011/01/28 23:53
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-38.別れと再会の朝

Photo




    

  

 

collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

レイモンドはジニョンのアパートの前でタクシーを止めると、
運転手にそのまま待つようにと伝え、彼女を部屋の前まで送った。

「それじゃ・・ひとりで大丈夫かい?」
彼がそう言って優しく頭を撫でると、彼女は満面に微笑んで見せた。

「ええ・・ありがとう・・大丈夫よ、レイ・・
 ジェニーももう直ぐ戻ってくるし・・」

「そう・・」

「それじゃ・・明日はアメリカに帰るのね・・・
 お別れなのね・・・」 ジニョンは改めて別れを惜しむように言った。

「ああ、お別れだ・・・今回はジョルジュは置いていく・・
  あいつもお母さんのそばにいたいだろうし
 ソウルホテル関連の仕事は彼に任せるつもりだ
 もちろん私も時々顔を見せるよ」

「もう本当に大丈夫なのね」

「力を尽くさせてもらうよ・・君たちのソウルホテルに」

「ありがとう・・レイ」

「だから君は・・」≪安心してフランクの所へ・・≫
そう言い掛けて、レイモンドは止めた。

「・・・・・・」

「あ、いや・・止めておこう・・」

「レイ・・?」

「いいかい?ジニョン・・君は私にとって・・たったひとりの妹・・」

「妹?」

「ああ、少しばかり気が強くて・・泣き虫で・・・
 優しいお兄様としてはとうてい放っておけない妹だ・・
 それならあいつも文句はあるまい?」
レイモンドはジニョンの頬に軽く指を触れながら、そう言って笑った。 
「だから・・・」

「・・・・・・」

「頼りにしてくれていい・・フランクの次に。
 何か困ったことがあったら、必ず連絡するんだ」 

「ええ・・]

「約束だよ」

「ええ、ありがとう・・レイ・・本当に・・」 
ジニョンは、彼の温かい心に胸を熱くして、涙が込み上げていた。
「ありがとうございました。」 そして彼への深い感謝を込めて、
深く頭を下げた。


  ソウルホテルを・・・

  守って下さって・・・ありがとうございました





ジニョンがレイモンドと別れ、部屋のドアを開けた時、
バックのポケットに刺さっていた携帯電話の着信が光った。
フランクだった。「もしもし?」
ジニョンは今しがた、レイモンドの前で涙を飲み込んだばかりで
発した声が震えていた。

「ジニョン?・・どうかした?」 
フランクは瞬時に彼女の声に異変を感じて、動揺したように聞いた。

「ドンヒョクssi・・ううん、何でもないわ」

「今どこ?」 

「アパート・・たった今戻ったところよ
 レイにここまで送ってもらったわ」

「そう・・迎えに行ったのに・・レストラン・・」

「知ってる・・・」

「それなら、待っててくれれば良かったのに・・」

「ちょっとあなたに悪戯してみたの・・レイと一緒に」

「フッ・・悪戯ね・・」

「驚いた?私たちがいなくて」

「いや・・あの人がやりそうなことだから」

「ふふ・・私が言い出したのよ」

「君が?」

「ええ」

「それは許せないな」

「ふふ」

「楽しかったかい?今日は・・」

「ええ、とても」

「それも、許せそうにない」

「ふふ・・あなたが計画したのよ」
「そうだけど」 
ジニョンが笑いながらそう言うと、フランクは拗ねたように答えた。

「ごめんなさい・・」 
ジニョンが最初はフランクをからかって面白がっていたものの、
突然神妙な声で彼に謝った。

「どうかした?」

「ううん・・」

フランクがどんな想いをして、ジニョンの決意を待っているのか
レイモンドに言われるまでも無く、彼女自身にもわかっていたからだった。
「これから、そっちへ行くよ」

「駄目。」

「どうして?」

「どうしても・・・今夜は・・ひとりにして」
≪それなのに・・・≫
ジニョンは、まだ答えが出せないでいる自分が歯がゆくてならなかった。

「・・・・・・」

「怒ったの?」

「別に・・」
「怒ってる・・」
≪そうよ・・怒る権利があるわ・・・
 あなたは何の迷いもなく、私に全てをくれたのだから・・・≫

「怒ってないよ」

「そう?」

「ああ・・怒ってない・・ただ逢いたいだけだ」

「今日はお昼まで一緒だったわ」

「今は一緒じゃない」

「わがままね」

「我侭?朝も昼も夜も・・そばにいて欲しいだけなのに?」

「ふふ・・それを我侭というのよ」

「そうなの?・・なら、我侭で結構」

「ドンヒョクssiったら・・」

ふたりは電話を通して聞こえてくる互いの明るい声にホッとしていた

「明日・・」
「えっ?」
「明日レイモンドのお見送り、行くの?」

「いや・・そのつもりはないよ」

「そうなの?」

「ああ、彼が嫌がるんだ」

「私も断られたわ」

「はは・・あの人はセンチメンタルだから・・」

「レイが?・・センチ・・?」

「ああ・・君が行ったら、間違いなく泣いてしまうよ・・」

「ふふ、あなたたちって、いつもお互いの悪口ばかり・・・」

「別に悪口じゃないさ」

「そうね・・お互いに愛し合ってるわ」

「愛?・・冗談は止めてくれ・・」

「ふふ・・・ねぇ・・明日私お休みなの・・」

「知ってる」

「行きたいところがあるの」

「行きたい所?」

「ええ・・連れて行ってくれる?」

「いいよ、何処でも・・」

「ありがとう」

「それで?」

「えっ?」

「何処?」

「内緒・・」

「・・・・・・」

「明日教えるわ」





翌日の朝、ジニョンはオフにも係らずフロントの前に立ち
レイモンドのチェックアウトを見守っていた。
手続き中にジニョンに気がついたレイモンドは思わず顔をほころばせた。
「来てくれたの?」 

「ええ、空港までのお見送りは却下されたから・・」
ふたりは並んで話しながら、表玄関へと向かった。

「はは・・苦手なんだよ、あれ・・」

「ええ、・・泣かれると困るから、行くの、止めておくわ」

「泣く?」

「フランクがそう言ったの」

「あいつが?・・」

「ええ、レイモンドはセンチメンタルだって・・そう言ってたわ」

「お前には負けるよ・・そう言っておいてくれ」

「ふふ・・言っておく」
ジニョンはフランクとレイモンドの間で、まるで楽しんでいるかのように、
含み笑いをしていた。

「今日はフランクと出かけるんだって?」

「聞いたの?」

「ああ、昨日あの後、逃げたことをあいつがしつこく責めるんでね
 君とのデートがどれだけ楽しいものだったか、力説してやった
 そうしたら逆襲されたんだ・・明日が楽しみだ、ってね」

「まあ、あなた達って、まるで・・」

「まるで?・・悪がき?」

「ええ」

「はは・・ソニーにもよくそう言われるよ
 あなた達の喧嘩はまるで幼い兄弟のそれだとね」

「ふふ・・きっとそうね・・ソニーさん・・お元気?」

「ああ、あいつも元気過ぎて、うるさいくらいだ」

「きっとレイが困らせてるんだと思うわ」

「おや?奴の味方?」

レイモンドとジニョンがエントランス前に待機中の送迎車の横で、
にこやかに話し込んでいると、クラクションが高らかに鳴り響いた。
その無粋なクラクションはレイモンドを待つ車からのものではなく
その向こうでジニョンを待つ、フランクの車からだった。

「あいつ・・」 
レイモンドはフランクの方を横目で睨みながら、「じゃあ、また」
そう言って、フランクにこれ見よがしにと、ジニョンを抱擁した。
そして彼女の耳元で静かに囁いた「早く、行っておやり・・」

ジニョンは、車に乗り込むレイモンドに満面の笑顔を返すと、
フランクの待つ車に小走りに近づいて、素早く助手席へと乗り込んだ。

フランクはその直後に車を発進させると、クラクションを軽く二回鳴らした。

ふたりの目の前を走る車の後部座席で、振り向かないまま後ろ手に
レイモンドが手を振った。

それから二台の車は右と左に分かれて進んだ。




「行ってしまった・・・」 ジニョンがポツリと寂しげに呟いた。

「寂しい?」

「そりゃあ・・」

「ふ~ん・・」

「あ・・ドンヒョクssi、今、焼もちやいた?」

「別に?」

「いいえ、焼いてるわ・・焼いてる・・焼いてる」
ジニョンはフランクの前に自分の顔を乗り出し、囃し立てた。

「ジニョン、うるさいよ・・運転中なんだよ」

「ふふ・・可愛い」 
ジニョンはそう言いながら、にっこりと微笑み、正面に向き直った。
フランクは、久しぶりに見るジニョンのあどけない笑顔が嬉しかった。

「・・・・・・で・・何処行くの。」

「東海」 ジニョンは正面を向いたまま、即座に短く答えた。

「東海?」

「ええ」

フランクが突然、車道を逸れてブレーキをかけると、ジニョンが
前のめりになった体を起こしながら言った。「どうして止まるの?」 

「何のつもり?」 フランクは正面を見据えたまま、冷たい口調でそう言った。

「何のって・・お父様に会いに・・」

「わざわざ行く必要はないよ」 フランクは更に冷たく答えた。

「どうして?・・あれ以来、お父様にお会いして無いでしょ?」

「ジェニーが行ってる」

フランクは最近、東海に小さな家を買った。
休暇の度にジェニーが東海へと父を訪ねていることを聞いて
彼女が心置きなく滞在できるようにと、心を砕いたのだった。

「ジェニーが言ってたわ・・お父様、口には出さなくても
 寂しがってらっしゃるって・・
 あなたに会えなくて・・
 再会してから、あなたと一度もお話が出来なくて・・」

「話すことは何も無いよ」

「いつまでそうしてるの?」

「会いたくない。」

「子供みたい。」 
フランクの頑なな態度に向かって、ジニョンは言い捨てるように言った。
その彼女の顔をフランクは鋭く睨み付けた。
「駄目よ・・そんな怖い顔したって、私怖くないもの・・」
そして彼は彼女から顔を背けた。

「お父様・・話を聞いて欲しい、って・・そう言ったんでしょ?」

「・・・・・・」

「あなたが東海に行った時・・
 そう叫びながらあなたの車を追いかけて来たって・・
 レオssiが言ってたわ」

「・・・・・・」

「ジェニーに会わせるために、ホテルにお呼びした時だって
 結局あなたは、ひと言もお父様とお話しなかった」

「必要無いからさ。」 
フランクは正面を見据えたまま顔を強ばらせ、彼の中で
怒りが頂点に到達しているのがわかった。
「そんなはずない。」 
それでもジニョンは彼の頑なさを一喝するように言った。

「君には関係ないだろ!君に何がわかる!」 
フランクは思わず怒鳴ってしまった。
その瞬間、ジニョンがフランクの瞳の中で、悲しげに項垂れた。

「あ・・ごめん・・・・・」

「そうね・・・私には関係がないわ・・・」

「ごめん・・そういう意味で言ったつもりは・・」

「わかってる!でも!このままじゃ・・
 このままアメリカに帰ってしまっちゃ・・駄目・・・
 絶対に・・駄目。」
そう言いながらフランクを見つめるジニョンの瞳に涙が浮かんで
今にも零れ落ちそうだった。

「卑怯だな・・・」

「・・・・・・」

「そうやって・・」

「そうやって?」 ジニョンの声は涙で震えていた。

「・・・いつもそうやって・・・僕を懐柔するんだ・・君は。」

「・・・何とでも言って。」 ジニョンはフランクを睨み付けた。
フランクはジニョンの睨み付けた眼差しに圧倒され、
遂には降参したように一度足元に視線を落として、小さく笑った。

ジニョンは彼のその様子にほっとして、張り詰めた緊張を解いた。
零れ落ちそうだった彼女の涙が、泣き笑いのせいで
急いで頬を伝い落ち、消えて行った。「忘れるところだったの・・・」

「ん?・・」

「お墓参り」

「・・・・・・」

「今日でしょ?
 このところ・・ちょっと精神的に参ってて・・・忘れてしまうところだった」

「・・・・・・」

「やっと・・・あなたと一緒に会えるわね・・お母様に・・」

フランクはジニョンのその言葉に、胸が熱くなる自分を感じて少しうろたえた。
しかし自分を見つめるジニョンの瞳が、素直になれ、と説いていた。

フランクは彼女に向かって静かに微笑むと、彼女の頭を右手で抱き寄せ
その髪にそっと唇を落とした。


   ああ・・・・


      ・・・そうだね・・・




























2011/01/27 21:34
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-37.レイモンドの愛

Photo




    

  

 

collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 


「10年前のあの頃・・私は君を愛していた・・いやきっと今でも・・・
 そんなに驚かないでくれないか・・・
 一度位、本心をさらけ出したとて、罰は当たるまい?」
レイモンドはそう言って笑って見せたが、ジニョンは困惑した表情のまま
ただ彼を見つめていた

「今まで誰にも話したことなど無いが・・・
 私は幼い頃、父によって・・母から引き離されて育った
 父にしてみればある意味、私と母を想ってしたことだ
 それでも長いこと、私は父を恨んでいた
 ・・・私達親子はある意味他人よりも遠い存在だった・・・

 そして・・母は・・・
 私の気持ちを無視して自ら命を断ってしまった
 母にしてみればまた・・私を想ってしたことだった
 今ではそう思う・・

 父も母も私を心から愛していた・・しかし・・
 彼らのしたことは私の心を閉ざす結果を生んだ・・・」

レイモンドはそこまで話すと、しばらく俯いて黙ってしまった。
そして、また顔を上げジニョンとの視線を合わせた。
 
「・・・大好きな・・とても大好きな母だった・・・
 だからこそ・・母が憎かった・・
 どんな理由があるにせよ・・自分を置き去りにした母を恨んだ
 そして私はとても長い間
 母の存在を自分の中から消し去って生きてきた」

ジニョンはただレイモンドの切ない程の告白に息を呑んでいた。

「君に初めて会った時・・その母を思い出した
 かなりの年月、忘れていたと思っていた母が鮮明に生きていた・・
 君の存在は・・私の奥深くに眠っていた母への思慕を呼び起こした・・・
 きっと君の笑顔が、母の笑顔と重なったのかもしれない
 そして君の芯の強さもまた、母に通じていた
 ・・・だから君を愛したのだと・・・そう思った・・・
 あ・・言っておくが・・マザコンだと、笑うんじゃないよ」

レイモンドは深刻になりつつあった自分の話を瞬時に冗談に変えた。
ジニョンは零れ落ちそうになっていた涙を懸命に飲み込むと
困惑していた表情を崩して、彼に向かってクスリと笑った。

「つまらない昔話をしてしまったね・・・しかし・・・
 君達には言っておきたい・・・
 時として人は人を愛する余り、判断を誤まるものだ
 だからと言って、それを責めることはできない・・・そうだろ?」

ふたりは互いに、自然な笑顔を作ろうと懸命になっていた。
そしてレイモンドはまた口を開いた。

「・・・フランクは気付いているよ・・」

「・・・・?」

「私が・・・君を愛していること・・・
 口にこそ出さないが、しっかりと私の想いをコントロールしている」

「コントロール?」

「ああ、私が君に暴走しないように・・・ということだな
 その為に彼は私の懐に入っていると言っても大げさじゃないはずだ」
レイモンドはそう言って更に笑って見せた。

「レイ・・・」 ジニョンは苦笑いで彼の笑みに答えていた。

「私はね、今まで・・何度、
 彼から君を奪ってしまおうと考えたかしれないんだ
 君達が離れ離れになっていた間も・・・
 今なら、君を私のものにできるかもしれない
 そう思ったことも一度や二度じゃない」

「・・・・・・」

「私は自慢じゃないが・・
 欲しいものは何としても自分のものにする人間だ
 しかし・・君に関して言えば、自分の信念を曲げたことになる」

「・・・・・・」

「何故そんなことができたと思う?」 レイモンドの問い掛けに
ジニョンは微かに微笑むだけで答えなかった。

「 ・・・・・ジニョン・・どうか怒らないで聞いて欲しい
 私はこの10年間・・・君のことを人に調べさせていた」

「・・・・・・」 一瞬、ジニョンの瞳の奥に怒りの渦が見えた。

「大義名分を言えば、君が幸せでいてくれているか・・
 確かめずにはいられなかった」

「・・・酷いわ・・・」

「知らないままでいるには私は君を愛し過ぎていた・・
 だからと言って、許せとは言わない
 いつかはこうして君に詫びようと思っていたんだ」

「・・・・・・」

「あいつは・・・フランクは・・・例え現実には君と離れていたとしても・・・
 心が君から離れることなど到底有り得なかった
 それはわかりきっていたことだ
 しかし・・もしかしたら君は違うかもしれない・・・
 彼を忘れて、違う道を歩み始めるかもしれない・・そうしたら・・・」

「・・・・・・」
 
「そう思っていた・・いや、そう願っていたのかもしれない」
レイモンドはまるで自問自答するように呟いて、頷いた。

「・・・・しかし・・ある時
 君が彼の母親の墓参りをしていることを知った
 月命日に毎月欠かさず・・・そのことを知った時
 私は一度だけ、その頃を見計らって来韓したことがある
 
 そしてある日・・・
 君は両手一杯に花束を抱えてある丘へと上った
 ごめん・・そんな怖い顔しないで・・・一度だけだよ・・・
 いつも君を付回していたわけじゃない」

「・・・・・・」

「君は丁寧にそのお墓に花を供え、長いこと手を合わせていた
 そして慣れたようにその横に腰掛けると
 その丘から見下ろせる海を君は長い間眺めていた
 10分・・30分・・一時間・・・
 潮風に吹かれながら・・時は流れていくのに・・・
 君は少しもそこから動かなかった」

「・・・ずっと?」

「ああ、ずっとそこにいた・・君のすぐ後ろに・・・」

「悪趣味・・・」

「ごめん・・・」

ジニョンは呆れたように薄く笑いながら、横を向いた。

「でもお陰でわかった・・・
 君達は離れていてもずっと共に生きていると
 君達ふたりの愛は・・・これから先も
 誰の、どんな妨げにも、負けはしないだろうと本気で思えた
 俗な言葉はあまり好きじゃないが・・
 君達は運命の絆で強く結ばれている・・・
 不思議と・・心からそう思うことができた
 きっと私には・・いや他の誰にも・・それを壊すことはできないとね・・・
 その直後だよ・・・私が・・・
 ソウルホテルの案件を彼に無理やり持ち込んだのは」

「・・・・・・」

「ジニョン・・・私は心から君の幸せだけを願っていた・・・
 しかし今は違うような気がする・・・
 思うんだ・・・
 私はもしかしたら今では君よりも・・・
 あいつの幸せを願っているんじゃないだろうかって・・・」

レイモンドは一度まぶたを伏せて小さく溜息をついた。

「どうしてなんだろうと考えたよ
 今まで私にとって君程愛した女はいないのに・・・」
レイモンドは少し困惑した様子のジニョンを無視するように話を続けていた。

「レイ・・・」

「最近ね・・その答えがやっとわかった」

「答え?」

「ああ、それほどに愛したはずの君よりも、
 今ではこの私があいつの・・・
 フランクの幸せを願っている・・その理由・・」
そう言ってレイモンドはジニョンに向かって満面に微笑んだ。

「それは・・・あいつの幸せが結果として
 君の幸せだから・・・
 それ以外に君の幸せは無い・・・そういうことだ」

ジニョンは無言のまま、レイモンドを見つめ続けていた。

「わかるだろ?」
レイモンドは彼女に向かって切なく顔を歪め、笑って見せた。

「今度は自分が待つ番なのだと、あいつは言った
 10年前のあの日・・君を置いて逃げてしまったあの日から
 あいつは暗い闇の中で生きていた・・・
 長い・・長い年月だ・・・きっと君もそうだっただろう・・
 だから・・もういいだろ?十分に苦しんだ・・・
 もうそろそろ暗闇から救い出してくれないか・・あいつを・・」

「レイ・・・」

「そのためなら私は何でもしよう・・・
 君たちのためなら・・・」

「・・・・・・」

「君たちのためなら・・・
 私もまたどんな罪でも犯すことができる」
レイモンドはかなり深刻に聞こえそうな自分の言葉を、
まるで冗談でも言っているかのような言い方で、ジニョンに微笑んだ。

「レイ、脅かさないで」

「脅してる?・・はは・・そうか・脅しか・・
 そりゃあ、いいや・・脅しで君の気持ちにけりがつくなら
 いくらでも脅して見せるよ」
レイモンドはそう言いながら、彼女の言葉に嵌ってしまったように笑った。
そして・・・

「愛するということは・・・そういうことだ。」
レイモンドは真顔に変え、ジニョンの目をしっかりと見据えると
そう言い切った。


「レイ・・」

「何だい?」

「ここから逃げ出さない?」 突然ジニョンがそう言った。

「えっ?・・・」

「どんな罪でも犯すんでしょ?」 ジニョンは悪戯っぽくレイモンドを見た。

 


≪そろそろだ≫ フランクは書類に目を通しながら、腕時計を見た。
そして机の上の書類を全てアタッシュケースに戻すと、
ポールに掛かったスーツの上着を手に取った。

明日はレイモンドもアメリカに帰る。
今回の一件での彼の多大なる尽力には感謝するしかなかったが、
例えフランクが頼まなくとも、レイモンドはジニョンのこととなれば、
黙っていられなかっただろう。

それはレイモンドがジニョンを心から愛しているからに他ならない。
そしてフランクはそのことをよく知っていた。

   『いいか、フランク・・私は今まで。
    今まで一度もジニョンとデートしたことが無い。
    一度もだぞ。』
   今朝レイモンドが突然そう言った。

   『お前、今回のことで私に感謝していると言うなら
    口先だけじゃなく、一度位ジニョンを私に預けたとて、
    罰は当たらないと思わないか?』

   その時、レイモンドの駄々をこねる子供のような言い様に、
   フランクは思わず噴出しそうになった。

   『一度だけですよ』 
   フランクが渋々そう言うと、レイモンドは『良し。』と笑った。

 


フランクがレストランに着いた時、そこに彼らの姿は無かった。

「レイのやつ・・・」

フランクはしてやられた、と苦虫を潰したような表情を露にした。
そして、レストランの前で待ちぼうけを食っていた運転手に
「もう用はない」と渋い顔で伝えた。

 

 

レイモンドとジニョンは、表で待ち構えていた車を避けるように
レストランの裏口から、こっそりと抜け出ていた。

悪戯な子供達が親に内緒で家を抜け出し遊びにでも出かけるように
ふたりして顔を見合わせ笑いながら、2ブロックを駆け抜けた。

「知らないぞ・・ジニョン
 あいつの恐ろしい顔が浮かぶようだ」
レイモンドはそう言って走りながら、胸の前で十字を切った。

「ふふ・・レイが先にそうしようって言ったのよ」

「おいおい、私のせいにするのかい?」

「ええ。もちろん!」 ジニョンの笑顔は屈託が無かった。


「ま、いいさ・・知ってたかい?
 あいつを怒らせることほど楽しいことは無い・」

「そうなの?」

「ああ、あいつに睨まれるとゾクッとする
 それがまたたまらないんだ」

「レイ・・悪趣味ね」

「はは・・趣味は悪くないと思ってたが・・」

「でも、ありがとう・・・
 フランクを・・・ずっと見ていてくれて・・・」

「・・・・・・」

「ずっと・・・心配だったの・・・でもレイが・・・
 フランクを愛していてくれて・・嬉しかった」

「愛してる?・・・それはちょっと違うんじゃないか?
 私が愛してるのは・・はは、何だか変な感じだな」

「変じゃないわ・・あなたはフランクを愛してくれた・・」

「私だけじゃない・・・君の代わりにフランクを守った人間は・・」

「・・・そうね・・でも、ありがとう」

「複雑だな・・」 レイモンドはそう呟いて上目に宙を仰いでみせた。

 

 


「さて、これからどうする?
 本当にソウルの街に繰り出すかい?」

レイモンドがそう言うと、ジニョンは横に首を振った。

「そうだね・・それじゃあ、家まで送って行こう」

「ありがとう・・レイ・・」


レイモンドはジニョンの本当の気持ちがよくわかっていた。
彼女が、フランクを避けてレストランを出て来てしまったのは
今夜はどうしてもフランクの顔を見ることができなかったからだった。

 

≪あいつの幸せが結果として君の幸せだから
 それ以外に無いからだよ・・・≫

今のジニョンにとって、さっきのレイモンドの言葉は胸に重過ぎた。

 

今ジニョンは考えなければならなかった

自分自身がどうするべきなのか・・・

ホテルのため?・・・

ドンスクのため?・・・

フランクのため・・・自分のため・・・


  今度は自分が待つ番なのだと、あいつは言ったんだ


  暗闇から救い出してくれないか・・・あいつを・・・


≪ええ・・・レイ・・・私も・・・≫


     ・・・私も・・・



        ・・・そうしたい・・・

 

























2011/01/26 22:08
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-36.突然の告白

Photo




    

  

 

collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

フランクは彼女にくちづけながら、いつまでもこの時が続くようにと祈った。

ジニョンは彼の狂おしいほどのくちづけに、自分がこのまま彼の中に
溶けて消えてしまえばいいと願った。

しかし、時を刻む音はいやがうえにも現実を運んでくる。

それ故に、ふたりは意図して互いの胸の奥に潜む暗鬼に
触れることを避けた。

ドンヒョクが手配したルームサービスのランチを摂る間さえも
まるで一分の不安すらも感じていないかのように、互いに明るく
振舞うよう努めていた。

フランクはジニョンの気持ちを追い詰めることはするまいと決めていた。
≪しかし・・・≫実の所彼は心の奥の自問と戦っていた。
≪もしもジニョンの答えが・・・≫
フランクは小さく首を横に振って、その先の疑念を否定した。

「どうしたの?」 ジニョンが尋ねた時、玄関のチャイムが鳴った。
フランクは直ぐに訪問者がレイモンドだと思い、ジニョンに目で合図した。
彼女は頷いて席を立ち、寝室へと向かった。

フランクがインターフォンで応えず、直接玄関のドアを開けると
そこにはレイモンドの意気揚々とした姿があった。

「随分早いですね」 出迎えたフランクはレイモンドに言った。

「そうか?」
レイモンドは澄ました様子で、フランクに先立って部屋へと向かい
メインルームのドアを開けた。

「やっぱりね」 そして彼は立ち止まってフランクに振り返った。
彼の視線は目の前のテーブルに広げられた用済みの食器に注がれていた。
フランクは彼の言葉の意味を理解しながらも、そ知らぬ振りをした。
「今ジニョンは着替えています」

レイモンドは大きく溜息をついて、フランクを睨んだ。
「確かジニョンは昼過ぎまで、どうしても外せない仕事があるんだったよな」
彼はひと言ひと言を強調してそう言った。フランクはそれには答えず
澄ました顔で席に戻ると、コーヒーカップを口に運んだ。

そこへ寝室からジニョンが現れた。
その瞬間、不満げだったレイモンドの顔が柔らかく穏やかに変化した。

「やあ・・ジニョン・・綺麗だ・・・とても似合うよ」
淡いブルーシルクのワンピースを身に着けたジニョンを眺めながら、
彼は満足そうに言った。

「Hi・・レイ・・プレゼント・・ありがとうございます」 
ジニョンも顔を赤らめながら満面の笑みで答えた。

「ああ、着てくれて嬉しいよ・・君への初めてのプレゼントだね」
そう言いながら、レイモンドはジニョンを愛しげに見つめていた。

「最初で最後にして下さい」 フランクが後ろから冷ややかに横槍を入れた。

「プレゼントまで指図される謂れは無い。」 レイモンドは彼を横目で睨んだ。
「今日は一日付き合ってくれるだろ?」 その睨んだ目を優しく細めて、
レイモンドはジニョンへと移した。

「7時までです」 フランクがすかさず口を挟んだ。

レイモンドはそれには答えず、ジニョンの肩を抱き、玄関へと急いだ。
ジニョンは苦笑しながら、レイモンドに従った。

「7時に迎えに行きますよ」 フランクはふたりの背中に向かって言った。

「何処に?」 レイモンドは意地悪そうな声でその言葉だけを残し
ジニョンとふたりで出て行った。

残されたフランクは不思議と心地良いいらだちを味わいながら、
わざとらしくどかっと椅子に腰を下ろし、呟き微笑んだ。
「何処へでも。」




久しぶりに楽しく笑ったような気がした。

ジニョンはレイモンドを案内し、ソウルの観光スポットを巡っている間
終始笑っていた。

このところ、ドンスクのことや、ホテルのことで心を乱されることが続き
相手が愛するフランクと言えども、心から笑ったことがなかったような
気がしていた。

「アー楽しかった・・」 ジニョンは心からそう言った。

「そうかい?」 レイモンドは彼女のその言葉に目を細めた。

「ええ、とても・・最近こんなに笑ったことなかったわ」

「それは嬉しいね・・フランクにもちゃんと報告しよう」

「レイ。」 ジニョンは悪戯っぽく彼を睨んだ。

「はは・・冗談だよ・・悪い結果が読めることはしない主義だ」

「そう?悪い結果にわざと立ち向かいそう」

「するどい。」

「ふふ・・」

レイモンドとジニョンはフランクが手配してくれたレストランで
少し早めのディナーを楽しんでいた。

「しかし、ディナーを5時半に予約するなんて、あいつ・・
 本気で7時に迎えに来るつもりなんだな」
レイモンドはデミタスカップをソーサーに戻しながら、
フランクに対して軽く悪態をついていた。

「ええ、きっと。」 ジニョンもそれを面白がっていた。

「ここから逃げだすというのはどうだい?彼がここへ来た時には、
 我々は既に夜のソウルへと消えてるんだ」
レイモンドが腕時計を確認しながらそう言うと、ジニョンは
彼の子供じみた言い様に、声を上げて笑った。

「ふふ、レイったら・・
 悪い結果が読めることはしない主義なんでしょ?・・」

「いや、立ち向かう主義。」

「協力してもいいわ。」 ふたりは互いに悪戯っぽい目をして微笑んだ。

「でも・・本当に良かった」 レイモンドはほころぶ程の笑顔から
愛しいものを優しく見つめる微笑に変えてそう言った。

「えっ?」

「やっぱり君はそうやって笑っている方がいい」

「・・・・・・」

「君の悲しそうな顔を見るのは、いつになっても辛いよ」

「レイ・・・」

「フランクもそうなんだ」

「・・・・・・」

「あいつは苦しんでいるよ、ジニョン・・・わかるね」

「・・・ええ・・・」

「君の立場や気持ちもわからないではない、しかし・・
 私は、ドンスク社長のことはよく知らない
 だから悪いが・・・私はやはり奴のことを考えてしまう」

「レイ・・・」

レイモンドは神妙な顔でそう言った後、にっこりと笑った。
ジニョンはレイモンドの言いたいことがよく理解できたが、
さりとて、返す言葉に迷った。

「しかし、君が答えを出す以外にないわけだから・・
 私は・・彼の言うことを信じることにした」

「えっ?」

「私も・・・黙って待つということだ」 
そう言って彼は固い意志を示すように腕組をした。

「レイ、私は・・」
「私はね、ジニョン・・」 レイモンドはジニョンの言葉を遮った。
「どういう因果か、君たちの人生に深く係ってしまった
 いや、私の人生に君たちを係らせてしまったと言った方が
 正しいような気がする・・・その為に君たちは
 十年もの間、離れて生きるしかなかったんだからね」

「そんなことは・・」

「いやあるよ・・・私の生涯における最大の後悔だ・・」

「レイ・・・」

「だから・・・見届けたい」

「見届ける?」

「ああ、君たちが共に生きる姿を見届けたい。」

レイモンドは宙を仰いで、そう言うとゆっくりと目を閉じた。


「君たちの未来を・・・見届けたい」

レイモンドは淡々とした口調でその言葉を繰り返した。
そして彼のその言葉はジニョンの心に切なく染み入った。
この10年の月日をレイモンドもまた苦しんで生きていた。
彼の表情がそのことを如実に伝えていたからだ。

ジニョンはしばらくして、少し熱くなった胸を冷ますかのように
小さく溜息を吐いた。

「レイ・・・心配掛けて・・ごめんなさい」
ジニョンはゆっくりと言葉を繋ぎながら、込み上げるものを堪えた。

「心配はしていないよ・・・私は君達を信じてるからね」
彼は優しい笑顔でジニョンを見つめた。

「私・・・」 
しかしその言葉は今の彼女にとって、決して心地良くはなかった。

「ん?」

「私・・・どうしたらいいのか、わからないの」

「・・・・・・」

「私にとって、フランクは・・・誰よりも・・何よりも大切な人・・・
 それに間違いはないわ・・・でも・・・・・・・」

「確かに・・・」 
レイモンドはジニョンの言葉の先が思うように繋がりそうにないことを察して、
その先を引き取るように彼女の言葉を遮った。

「確かに・・比べられないものはあるよ、ジニョン・・
 人にはそういうものが確かにある・・・しかし・・・・・」
レイモンドは一旦黙して一呼吸置いた後、言葉を選ぶように先を続けた。

「この世に・・・
 愛するものも・・欲しいものもたったひとつだけ・・・
 ひとりの女しかいないという男がいる
 彼女以外は何ひとついらないという男がいる
 その女のためならどんなことでも・・・
 きっとどんな罪でも犯すだろう男だ
 そう・・・どんな罪でもね・・・
 例えその罪ゆえに、欲しいと願う女すら得られない
 そんな辛い結果となったとしても・・・
 その結果が・・・その女の為ならば、それでいい
 そう思う男だ・・・」

「レイ・・」 ジニョンは悲しそうに眉を顰めた。
もちろん、レイモンドが誰のことを言っているのか、
その男が欲するものが何であるのか、ジニョンにはわかっていた。
「何故?」 それでもジニョンはそう聞いた。 

「何故?」 レイモンドもまた彼女に問うた。

「その人は・・・どうしてそこまでするの?」

「さあ・・どうしてだろう」 
レイモンドはジニョンに問いかけるように小首をかしげた。

「彼女もきっと・・・
 彼をとても愛していて・・・ふたりはとても愛し合っていて・・
 それなら、きっと・・・彼女は
 彼に・・・罪を犯してまで望みを叶えて欲しいとは思わないわ・・・
 彼女もまた、彼のことが大切だから・・
 とても・・とても・・愛してるから、きっと・・・」

「そうだね・・・きっとそうだろう・・・
 でも時に愛するもの同士は・・・
 互いを思う余り、互いが望まないことをしてしまうものだよ」
レイモンドは今までの固い表情を柔らかく変えてそう言った。
この時彼は、心の中で自分の父や母のことを思い出していた。

ジニョンは彼のその言葉に悲しげに笑顔を作った。

「しかし私は奴の気持ちが手に取るようにわかる」 レイモンドは続けた。
「ねぇ、ジニョン・・・私はずっと君の幸せを願ってきた・・・
 この10年ずっと・・・」
ジニョンは俯きかけていた顔を上げて、レイモンドを見つめた。
「それは・・・私が君を愛しているから・・・」

ジニョンはレイモンドのその言葉に少し驚いたように瞬きをした

「知らなかったわけじゃないだろ?」
レイモンドはそう言って悪戯っぽく笑って見せた。

「あの・・レイ・・」 ジニョンは困惑した表情でレイモンドを見つめた。

「黙って聞きなさい・・・私は今、君に告白しているんだ
 きっと最初で最後の告白だ」
レイモンドはそう言って、ジニョンの言葉を遮った。
彼のまなざしは彼女を愛しむように熱かった。

「10年前のあの頃・・私は君を愛していた・・


    ・・・いやきっと今でも・・・」・・・
 



















2011/01/25 23:35
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-35.もう二度と・・・

Photo




    

  

 

collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

「いったい、どういうつもりなんだ?」 

受話器から届いたレイモンドの呆れたような声がフランクの片眉を上げさせた。

レイモンドはフランクからの連絡が一向にないことに痺れを切らし、
朝早過ぎるのもお構い無にうるさくフランクのリンクを鳴らしたのだった。

フランクはいつもの通り、早朝の走り込みでかいた汗をシャワーで流し
昨夜やりかけていた仕事に取り掛かろうと、デスクに付いた所だった。

「何のことでしょう?」 フランクは受話器の向こうに向かって、
憎らしいほどに醒めた無機質な声を返した。

「ジニョンのことだ。」

「ああ・・」

「彼女はアメリカに連れて行くんだろ?」

「さあ・・」

「さあ?!」

「何をそんなにカリカリなさってるんです?レイ・・」

「私は何のためにここへ来たんだ?」

「あー・・・愛のため?・・でしたか?」

「ふざけるな!フランク・・」

「ふざけてなどいません・・・」

「それなら、何故ジニョンは泣いているんだ?
 どうしてあんなに苦しそうな顔をしている?」

「・・・・・・」

「フランク!」 レイモンドがフランクの沈黙を一喝した。

「僕はもう・・・彼女を失うことはできない」 フランクが突然そう言った

受話器を通して聞こえてくるフランクのその声は淡々とした中に
悲哀を滲ませていた。
そしてその言葉はレイモンドに向かって言っているのではなく
フランクが自分自身に言い聞かせているのだと、レイモンドは思った。

レイモンドはしばらくの間、フランクに掛ける言葉を失っていた。

「・・・・それなら・・」 
レイモンドは少しして溜息混じりにやっと口を開くことができた。
「待っているんです」 フランクは直ぐにそう答えた。

「待っている?」

「ええ・・・今度は・・・僕が待つ番ですから」

   今度は・・・僕が待つ番ですから

フランクは自分の言葉を噛み締めるようにそう言った。


「どういうことだ・・」

「理由?・・ですか?・・・フッ・・説明は難しい・・」 
フランクはまるで自嘲しているかのように小さく笑って言った。

「君という男の考えることは・・・よくわからん」 ≪そうじゃない≫
レイモンドにはよくわかっていた。

「フッ・・お互い様でしょう?」 フランクは面白がっているようだった。

「私は単純明快だ・・・愛するものは誰にも譲らない」

「そうでしたか?」 そうじゃないでしょ?、と言うようにフランクは言った。

「例外もある」 そう言って、レイモンドは笑って見せた。

フランクも彼に合わせて小さく笑った後、更に続けた
「しかしレイ・・これだけは言えます
 僕には・・・例外など無い。
 愛するものも・・欲しいものも・・最初から、そしてきっと最後まで・・
 この世にひとつしかありません・・だから・・
 そのたったひとつのもの以外・・何ひとつ・・・いらない。」

「だろうな」 レイモンドは心から納得したように言った。

「もう二度と・・・」 フランクはその後の言葉を口にしなかったが
レイモンドにはしっかりと聞こえていた。≪もう二度と、諦めない≫と。

レイモンドはさっきまで抱いていたフランクへの不審が、
自分の中から綺麗に消えていくのを感じていた

「フランク・・・信じてもいいか」 それでもレイモンドは確かめたかった。

「あなたに信じてもらわなければなりませんか?」

「ああ・・何としても。」

「なら・・信じて下さい」






「きゃー!!」 
寝室から聞こえた突然の悲鳴に、PCのKEYを叩いていたレオが
驚いて指を宙に浮かせたまま、そのドアに振り返った。

「何だ?今のは・・」 レオはフランクを見て言った。「ジニョンssiか?」
レオは昨夜から隣の部屋にジニョンが眠っていることを知らなかった。

フランクはニヤリと笑ったかと思うと、持っていたペンをテーブルに置いた。
そしてレオに向かって意味有りげに言った。「・・食事でもして来ないか?」

「そんな暇は・・・あー・・OK?、食事休憩としよう
 ランチには少し早いがな」 
嫌味混じりに言いながら、レオはフランクに向かって肩をすくめた。

「フランク!どうして起こしてくれなかったの!」
レオが部屋を出ようと席を立った時、フランクの寝室のドアが
勢いよく開いて、ガウン姿のジニョンが乱れた髪のまま現れて、
レオと鉢合わせした。

「きゃっ!・・ごめんなさい」
慌てたジニョンはまた寝室へと消え、レオは無言のまま、
フランクに後ろ手に手を振って部屋を出て行った。

フランクが苦笑しながら、寝室のドアを開けると、
ジニョンは鏡の前で、困ったように髪を手で梳いていた。

「おはよう・・やっと目が覚めたね」 
ジニョンはフランクの涼しげな笑顔を鏡越しに睨み付け、悪態をついた。
「・・大遅刻。」

「たっぷり眠らせたかったんだ」

「仕事があるのよ。」

「その心配はない」

「今何時だと思ってるの?もう二時間も過ぎてる」

「テジュンssiには了解を得ておいた
 今日の君の仕事は僕が決めていいことになってる。」

「えっ?」 ジニョンは驚いた顔でフランクに振り返った。

「だから今日は・・」

「ちょっ・・ちょっと待って・・
 あなたがどうして私の仕事に・・それに・・
 どうして、テジュンssiに勝手に?・・」
ジニョンはフランクに抗議しようと立ち上がった。

「僕はソウルホテルの理事だからね、
 それくらいは権限があるだろ?」
フランクは澄ましてそう言いながら、ドアにもたれて腕を組んだ。

「・・・・・フランク・・・あのね。」 ジニョンはフランクに詰め寄った。
「今から二時間は僕と過ごすこと・・それから・・」
彼は近づいて来た彼女の口を掌で塞ぐと有無を言わさずそう言った。

「う・・ん・・もう!勝手なこと言わないで」
ジニョンはフランクの手を払いのけ、彼から逃れた。

「何処行くの?」

「オフィスに決まってるでしょ?」
そう言いながら、彼女はベッドの脇の椅子に掛けてあった服を手に取った。

その瞬間、ジニョンは自分で服を脱いだ覚えが無いことに気がついた。
「・・・・・・あなたが?」 
ジニョンはガウンの下の自分の素肌に視線を走らせた後、
フランクに振り返った。

「窮屈そうだったから・・」 フランクはにっこりと笑顔で言った。

「・・・・・・。」

「それに・・・」 フランクはそう言いながら、ジニョンに近づいて
背後からゆっくりと彼女を抱きしめた。
「君が目を覚ました時、この方が楽かなって・・」
そして彼は、彼女の肩からガウンを少しずらして、その肩に唇をつけた。
すると彼女は素早くそのガウンを肩に戻して、彼をかわした。

「止めて・・フランク、レオさんが・・」
「レオは出かけたよ」

「そうじゃなくて・・だとしても!私は仕事に・・」
「レイモンドが怒ってるんだ」
「えっ?」

「こっちに来てから、ジニョンとゆっくり話もできてないって」

「だって・・」

「レイは明日アメリカに帰ってしまう
 その前に少しくらい付き合ってあげてもいいんじゃない?」

「それでわざわざ、テジュンssiに了解を取ったの?」

「そういうこと・・
 このホテルにとって、取引先のお偉いさんだからね、レイは・・
 市内観光くらい付き合ったって罰は当たらない
 そうでしょ?・・テジュンssiも当然のことだと言ってた」

「そうね、確かに・・・そういうことなら・・
 わかったわ・・それでレイは?」

「用事を済ませて、一時にはここに迎えに来るよ」

「一時?・・まだ二時間はあるわね・・・じゃあ、ちょっと着替えに家に・・」

「着替えは用意してある」 
フランクはそう言って、テーブルの上の高そうなブランドの箱を指差した。

「ドンヒョクssi・・」
「僕じゃないよ・・レイの仕業・・だから文句言わないで」
ジニョンは抗議しようと一度口を開いたものの、フランクの先制に
呆れたように溜息をついて口を閉じるしかなかった。

「お陰で少し時間ができたね」
フランクはそう言って、さっき彼女によって戻されたガウンを
その肩から再度滑らせた。
ジニョンは彼を熱く背中に感じながら、次第に自分の頬が
優しく緩むのを感じていた。

そして彼女は昨夜、自分が彼を困らせていたことを思い出していた。

「ドンヒョクssi・・・昨日は・・その・・ごめんなさい」

「謝るようなこと・・何かあった?」

「あったわ・・いっぱい・・・」

「そうだった?・・忘れた・・」

「・・・・時間をくれる?ドンヒョクssi・・・」

「シー・・時間がもったいない・・」

フランクはジニョンの背中を抱いて、彼女の首筋に唇を這わせながら
彼女に衝撃を与えないよう巧みに互いの体をベッドに滑らせた。

ジニョンは思っていた。

フランクの腕の中にいれば、不思議と何もかも忘れられる。

この腕の中にさえいれば心から安心できて・・・


   私のすべてが・・・


       ・・・フランクだけになるの・・・


  


   













 

 

 


[1] [2] [3]

TODAY 47
TOTAL 596992
カレンダー

2011年1月

1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
スポンサードサーチ
ブロコリblog