2011-01-30 22:45:52.0
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-39.相思華

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

「ねぇ・・今日はお墓参りだけにしないか」 
次第に東海の海岸線が近づくにつれて、フランクはさっきから、
その言葉を何度も繰り返していた。
その度にジニョンは「はっ・・」と呆れたように小さく溜息を吐きながら
フランクの横顔をちらりと睨むだけだった。

「聞いてる?」 
ふいにフランクはハンドルを握ったまま、ジニョンの顔を覗きこんだ。

「往生際が悪い。・・前を見て。危ないわ」 ジニョンは少し無愛想に言った。

「アメリカに発つまでには行くよ」

「あと一週間しか無いわ」

「一週間もあるよ」

「ドンヒョクssiって・・・・・・」 
ジニョンの言葉の空白が長かったのでフランクは少し口を尖らせながら訊ねた。
「何だよ・・・・僕って?・・何?」

「あなたって・・・弱虫なのね、知らなかったわ」 ジニョンはプイと横を向いた。

「知ってると思った」 フランクはおどけたように言った。
「・・・・・・。」 ジニョンはそんな彼を無視して、窓の外に視線を向けた。

「ねぇ、ジニョン・・」
「そこを曲がって?」
「えっ?・・」

ジニョンはメモを片手に、住所を確認しているようだった。

≪そうだろうな・・・≫
この町を良く知っているのは、21年前ここを出て行った自分よりも、
この10年、毎月のように通っていただろうジニョンの方なのだと、
フランクは改めて思った。

「あっ・・止めて!」 
ジニョンが突然大きな声を上げて、フランクに車を停止させた。

 

「オンニー!」 ジニョンが車を降りるとジェニーが大きく手を振りながら
車に駆け寄って来た。

「ジェニー!」 ジニョンも大きく手を振って答えた。

「オンニ・・本当に来てくれたのね」

「ええ・・来たわ・・でも・・・」 ジニョンは少し困ったような顔をしながら
チラリと運転席のフランクに視線を向けた。

フランクはというと、停車した時目の前にジェニーの姿を見つけて
今回のことは、最初からふたりの企みに因るものだと理解して
車の中からわざとらしく大きな溜息を付いて見せた。

「そういうことか」 フランクはそう呟きながら、車をゆっくりと降りて来た。

「あ・・ジェニー・・ぐ、偶然ね・・お父さんのところに遊びに来てたの?」
≪白々しかったかしら・・・≫ジニョンは心の中で呟き宙を仰いだ。

「いいのよ・・オンニ・・オッパ、そうよ私がオンニに頼んだの
 オッパをここへ連れて来て欲しいって」

「ここって?」 フランクはそう言いながら、改めて辺りを見渡した。

「ほらね。」 ジェニーはそう言って溜息を吐いた。
「オッパって・・自分が買ってくれた家が何処にあるのか、
 どんな所かなんてことも、ちっとも興味なかったでしょ?」
そう言いながら、彼女は自分の後ろの家を目で示した。

「・・・・?ここ?」

「ええ」 ジェニーは頷いたが、その顔は晴れやかとは言えなかった。
その理由はフランクにも直ぐに想像できた。
彼はさっきからジェニーが示したその光景に目を見開いて驚いていた。

確かにフランクはつい先日東海に家を購入した。
休み毎に父の所に通って、父を気遣うジェニーのためにと思い、
根無し草を良しとしていた父を彼女に無理やり説き伏せさせた。
しかし、彼はその手続き一切をレオに任せていた。
≪そう言えば・・・≫

  『ボス・・不動産屋から連絡あったが・・』

  『ああ、ジェニーに全て任せてある・・
   彼女の言う通りに支払いを済ませてくれればいい・・
   今後僕への報告はいらない』

  『しかし・・ボス、行って見て来なくてもいいのか・・』

  『必要ない』

  『しかしな・・』

  『任せると言っただろ?いいか、忠告だ。
   今後一切、あの人の話題を僕の前でするのはよせ』

≪確かにそう言った・・・だからと言って・・・≫
「こんな・・薄汚い・・古い家・・・どうして」 
フランクはその家を眺めながら言葉にならない程に呆れていた。

「私も反対したんだよ・・レオssiがいくつも新しい家を紹介してくれたのに・・
 でもお父さんがここでいい、って聞かないんだもの・・
 きっとオッパに迷惑掛けると思って気を遣ったんじゃない?」
ジェニーは肩をすくめて、両手の掌を上に持ち上げそう言った。

フランクは彼女のその言葉を聞いて、父に対して無性に腹が立った。
「直ぐに別の家を探させる。何処にいるの。」 彼の声は冷たかった。

「えっ?」

「あの人は何処。」 

「あの人って・・・」

「父さんは何処!」

ジェニーはフランクの怒号に体を硬直させて、家の中を指差した。
フランクはそのあばら家ともいえる程の建物に向かって大股で進んだ。
ジニョンとジェニーは取り付く島など露ほど無さそうなフランクの後を
おろおろしながら付いて行った。

フランクは形ばかりに付いている木製の小さな門を乱暴に跳ね除けて
石のアーチを大きな背をかがめながらくぐった。

≪気を遣った?≫
フランクはこれは父の自分への反発でしかないと思った。
父は前にフランクが置いて行った小切手も手付かずで返して寄こした。
≪親としてのプライドか?・・今更・・笑わせるな≫

しかし、そこに足を踏み入れた瞬間、彼の動きがピタリと止まった。

ジニョンとジェニーはフランクの後ろを小走りに追いかけていたが、
急に彼の背中にぶつかって止まると、進行方向を塞いでいた彼を
押しやる形でやっと敷地へと入ることができた。

「何・・どうしたの?ドンヒョクssi・・・」
「オッパ・・どうしたの?」

「・・・・・・」 しかしフランクは立ち尽くしたまま、ふたりの掛ける声など、
まるで聞こえていないかのように黙り込んだままだった。

「ねぇ・・ドンヒョク・・ssi?」

ジニョンはフランクの顔を覗き込んで、思わず息を呑んだ。
何かにショックを受けたかのように、彼の顔面が蒼白だったからだ。
ジェニーもまた彼のその様子に気が付いて、口をつぐんだ。

「似てるだろ?」
ガラス戸を開けて、父、シン・ジャンヒョクが現れるとポツリと呟いた。

「・・・・・・」 フランクはそれには答えなかった。

「昔・・住んでいた家に・・・」 ジャンヒョクは続けた。

「そうなの?」 ジェニーが父の方に近づいて、言った。

「ああ、とてもよく似ているんだよ・・・
 ドンヒョクが生まれて・・・母さんもまだ元気で・・・
 ドンヒが生まれるまで住んでいた家に・・・
 ドンヒョクが家を買ってくれると聞いて
 前からいつも見ていたこの空き家を思い出したんだ」

「そうだったの」 ジェニーは父に優しく微笑みながら言った。
「だからここだったのね・・・」
「くだらない。」 フランクは感傷的に思い出を語る父と、それを
嬉しそうに聞いているジェニーに向かって冷たく言い放った。
「直ぐに新しい家に買い換える。」

「ここでいいわ・・私もここでいい」 ジェニーは兄に向かって
懇願するように言った。

「気を悪くさせてしまったか?・・・ドンヒョク・・・」 
父は背中を丸めて、気兼ねしたように小さく彼の名前を呼んだ。

「・・・・・・。」 
フランクは父の声を心に遮断してしまったかのように答えなかった。

「オッパ・・いいじゃない・・ね、この家で・・古くったって十分住めるもの
 ね、上がって?・・一緒にお昼ご飯食べよ?
 オンニも・・入って?二・三日前に移って来たばかりで
 何にもないんだけど・・・キッチン用具だけは用意してきたんだ、私・・」

ジェニーは必死になって、父と兄の間を取り繕っていた。
ジニョンはそんなジェニーが哀れで、何んとか彼女の気持ちを
汲んでやろうと、心を砕いて、フランクの腕を必死に引いた。
「ドンヒョクssi・・入ろう?・・ね・・お願い。」
フランクはジニョンに促がされて、やっと縁側に腰を下ろした。

フランクはしばし、そこから小さな中庭を囲む建物を見渡していた。
昔はきっとそこには三世帯の家族が暮らしていただろう別棟が
ひとつの屋根で繋がったコの字型の長屋形式をそのまま残していた。

本当に似ていた。建物の色も形も。その匂いさえも・・。そしてフランクは
自分自身がこの風景をつぶさに記憶していたことにも驚いていた。
天井の低い平屋建ては、小さい頃はもっと高く見えたものだ。
中庭にはここで暮らす者達が共同で使うポンプ式の水道があり、
家族は顔を洗うのも、野菜や食器を洗うのも、ここを使っていた。
遊んで汚れて帰って来ると、その水で体を洗われたものだった。
それは寒い冬も変わらなかった。


  『止めて~父さん・・冷たいよ』

  『こんなこと位で弱音を吐くな、ドンヒョク・・男の子だろ?』

  『早く体を拭いて、お上がりなさい・・ドンヒョク・・』

  『母さん・・今日のご飯はな~に?』

  『さあ・・何かしら?当ててごらんなさい』

  『う~ん・・この匂い・・はね・・・僕の大好物の・・』

  『正解!』

  『まだ答え言ってないよ~』

  『ふふ・・いいから、早くいらっしゃい』

そうだった・・・あの頃僕達は・・・
貧しいながらも楽しく暮らしていた。父も母も・・・僕も・・・
明るく笑っていた。

この空間に佇むだけで、時が過去へ過去へと針を戻していく。
フランクの脳裏に優しかった母の声が蘇り、こだましていた。
そこには幸せがあった。
この21年間一度として、こんな風に思い出したことなど無かった。
母の声がまるで目の前で聞こえているかのように鮮明だった。
胸に熱いものが込み上げて、ひどく息苦しかった。
いつの間にか歯を食いしばって、その息苦しさと闘っていた。
気が付くと、フランクは自分では抵抗すらできないほどに、
ぽろぽろと大粒の涙を零していた。

先に部屋へと上がっていたジニョンは彼の涙に気が付いていた。
彼女は、ジェニーに「お腹がすいたわ」と、彼女を台所へと追いやり
慣れない親子の間で落ち着かないジャンヒョクを気遣いながら、
フランクが自分のプライドを取り繕えるまで密かに時を稼いだ。


その時だった。
フランクが突然立ち上がり、入り口の方へと大股で向かった。

「ドンヒョクssi!何処いくの!」 ジニョンは慌てて部屋を出ると靴を履いた。
ジェニーがジニョンの声に驚いて台所から飛び出して来た。
「大丈夫!・・ジェニー・・大丈夫よ・・待ってて
 戻ってくるから・・心配しないで!」 
ジニョンは不安な顔を向けているジェニーに向かって急いでそう言うと
フランクの後を追いかけた。

ジニョンは門を出て、真っ先に車の置いてある方角を見た。
車はそのままだったので、ホッとして逆の方に視線を向けた。
フランクは5メートル程先を歩いていた。
「ドンヒョクssi!・・待って!・・車のKEYを頂戴!」
ジニョンのその声にフランクはピタリと立ち止まって、ゆっくりと振り向いた。

そして彼はジニョンに向かって、小さく微笑むと、上着のポケットから
KEYケースを取り出し、彼女に向かって放り投げた。
ジニョンはそれを辛うじてキャッチすると、彼と同じように微笑んだ。
そして彼女は車へと急ぎ、その後部座席から何やら取り出した。
ここへ来る途中花屋で買った花束だった。

「忘れちゃ、駄目でしょ?」 彼女はそう言って、彼の元へとまた急いだ。
フランクはジニョンが自分の元にやってくるまで、動かずに待っていた。
ふたりは互いに無言のまま微笑みながら、同じ方向へと進んだ。




そこは港を見下ろせる小高い丘の上にあった。
フランクは、幼い頃二・三回だけしかここに来たことが無かったので
思ったよりこの丘が低いことを改めて知った。

「殺風景なところだな」 母が眠る小さな墓石の前に立った
フランクの第一声だった。

「今はね・・・。でも初秋には一面に相思華が咲乱れるのよ
 本当に綺麗なの・・」

「相思華?」

「ええ・・曼珠沙華・・知らない?真っ赤なお花」

「ああ・・彼岸花ね」

「そう、彼岸花・・・韓国ではサンチョ(相思華)っていうのよ
 母に聞いたことがあるの・・・
 相思華はね・・葉が生えている時は花が咲いてなくて
 花が咲く時には葉は全く残って無いんですって・・・
 だから、花は逢えない葉のことを想って恋焦がれ、
 葉は出逢えなかった花のことを想い続けるんだって・・・
 それが名前の由来らしいわ」

「へ~・・初めて聞いたよ」

「互いに必要なのに・・互いが出会うことは無い
 それでも・・お互いを想っています・・・
 心ではあなたが見えています・・・
 きっとそういう意味なんだと思うわ・・・」

「・・・・・・」

「あなたのお母様も好きだったんですって・・相思華・・
 だからこの場所にお墓を作ったんだって・・お父様が・・」

「フッ・・それも初めて聞いた」

「そう?」 ジニョンは小首をかしげて、フランクの顔を下から覗いた。
彼の表情が嬉しそうだったので、ジニョンも嬉しくなった。

ジニョンは手馴れたように墓石に花を供え終えると、墓前に姿勢を正し
両手を重ね合わせ手の甲を額に付けるとその場にひざまずいて、
そのままゆっくりと掌が地面に付くまで頭を下げた。
フランクは彼女のその姿を見つめながら、また胸の奥に突き上げる
苦いものを味わっていた。

「どうぞ・・」 ジニョンは体を横にずらして、フランクに場所を空けた。
フランクもまた、そこにひざまずくと、両手の指を交互に組んだ。
そして目を閉じ頭をその組んだ手に近づけた。

彼はいつものようなやり方で母に祈りを捧げた。
まるで今の自分を母に見せるかのように・・・。

≪母さん・・・見えているかい?僕だよ・・・
  ドンヒョクだ・・・ 

  会いに来るのが遅くなって・・・ごめんね・・・≫


      相思華・・・

      花は逢えない葉のことを想って恋焦がれ、

      葉は出逢えなかった花のことを想い続ける

      互いに見えなくても・・・互いを想い合っている・・・


≪そうだった?母さん・・・

  母さんもずっと僕を想っていたかい?

  僕の姿は見えていたかい?

  見えていたんだね・・・そうなんだね・・・

  それなのに・・・ごめんよ・・・

  僕はとても長いこと・・あなたを忘れていた

  なんて親不孝だったんだろう・・・僕は・・・

  許してくれる?・・・母さん・・・

  でも今は見えるよ・・・こうして目を閉じていると

  あなたがすぐそこにいる

  すぐそこで・・・僕達を見てくれているね・・・≫



      ええ・・・・



         ・・・ドンヒョク・・・


































 

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