2013/07/11 16:50
テーマ:創作 愛の群像 カテゴリ:韓国TV(愛の群像)

創作愛の群像Ⅱ 第十五話忘れないで

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第十五話


翌朝、ジュンスがいつもの時間にジョギングスーツに
着替えていると、中庭から何やら物音が聞こえた。

《随分早いな・・・》

ジュンスはジンスクがもう起きたのかと、扉を開けてみると、
そこにはジェホの姿があった。
ジュンスが立てた扉の音に気づいたジェホが、一瞬彼に
一瞥をくれたが、直ぐに頭を垂れて、靴紐を結び始めた。

「随分早起きだね」 ジュンスはジェホに声を掛けた。

「・・・・・・」 
しかしジェホは無言で紐を結び終わると、玄関へと向かった。

ジュンスは相変わらず素っ気ない態度のジェホに苦笑しながらも、
彼の後に続いた。

ジュンスはいつものランニングコースを進んでいたが、
前を走るジェホもまた、同じコースを走っているようだった。
ジュンスが少しスピードを上げて、ジェホの横に並ぶと、
彼は解り易く嫌そうな顔をジュンスに向けた。

《邪魔するな》 ジェホの目がそう言っていた。

「君もこのコースを?」 
ジュンスは穏やかに聞いたが、ジェホは答えようとしなかった。

終始不機嫌そうなジェホに、ジュンスが好意的な笑みを向けると、
ジェホはスピードを上げて、わざとジュンスの前を走った。

「若さには叶わないさ」 
追い抜きざまに、ジェホが嫌味な目つきを投げた。

今度はジュンスがジェホに一旦並んでみせ、これみよがしに
スピードを上げて、彼を追い抜いてみせた。

「経験が違うよ」 ジュンスも言い返した。

するとジェホが意地になったように、ジュンスを引き離さんと、
全速力で駆け抜けた。

しかし、ジュンスは負けていなかった。
互いに意地を張るかのように追いつ抜かれつしながらも結局
後半は、ジュンスがジェホに大差を付け、前を走る結果となった。





ふたりが家に戻ると、ジンスクが台所から顔を出していた。

ジェホは「ハァハァ」と息を切らし、自分の膝に手を付きながら
屈みこんでいた。

「今日はふたりで走ったのかい?」 
ジンスクが嬉しそうにふたりを眺めながら言った。

「別に・・・一緒に・・走った・・わけじゃ・・ない」
ジェホの息はとぎれとぎれで、ぶっきらぼうな強気の声も、
悲しいかな迫力に欠けていた。
一方ジュンスは涼しい顔で、ジェホを穏やかに見つめていた。

「いつから走っているだい?」 ジュンスがジェホに聞いた。

「・・・中学からだよ」 
ジェホが返事をしそうにないので、ジンスクが代わりに答えた。

「へぇー、随分と長く走ってるね。僕もその位から走り始めたんだ」

変らず仏頂面したジェホを他所に、ジュンスは明るい口調で話した。

「この子の習慣はね、伯父さんの・・カン・ジェホの影響なんだよ。
 伯父さんが残した日記に書いてあったんだよね、ジェホヤ」 
ジンスクが台所から料理を運びながら、ジェホに向かって言った。

「へぇー」 
ジュンスはジェホが少し赤くなっているのを見逃さなかった。

「ハルモニ・・余計なことを言うなよ」 ジェホがやっと口を開いた。

「オモ、本当のことだろ?
 伯父さんのお陰で心を入れ替えたって言ってただろ?
 もともとお前は子供の頃、どうしようも無い子だったじゃないか。
 勉強もしない。・・言いつけも守らない。・・友達とも仲良くしない。
 乱暴で、効かん気で・・・」

「言いたい放題だな」 ジェホが不服そうにジンスクを横目で見た。

「それが、ある時から変わった。カン・ジェホの日記を読んでから。
 勉強も沢山するようになったし、学校も好きになった。
 それから・・ジェヨンや私をとても大切にするようになった。
 その頃からだね、あの子の習慣を見習うようになって・・・」
ジンスクは昔を思い出し、嬉しそうにそう言った。

「そんなこと・・」 ジェホの頬が更に赤くなった。

「そうなんだ」 
そう言ったジュンスのジェホを見る眼差しは、とても優しかった。

「チェッ、勝手なこと言うなよ」 
ジェホはジンスクに向かって悪態をついた。
 
「何だい、本当のことだろ?」

「ハルモニ!早くしてよ、僕もう出るよ」 
ジェホは箸でテーブルを叩きながら、ジンスクに食事を急かした。

「行儀が悪いね、そんなところも伯父さんにそっくりだ」

そう言いながらジェホの頭を叩くジンスクを、ジュンスはちらりと見た。



「じゃあ、行ってきます。ハルモニ」

「もう学校に行くのかい?早くないかい?」

「ううん、家に一度帰ってくる。母さんの様子を見ないと」

「具合悪いのかい?ジェヨン」

「ううん、そんなわけじゃないけど、昨日留守したから」

「そうかい、そうだね、そうしておやり。
 じゃあ、行っておいで。気をつけてね」

「うん」

ジェホは食事を済ませると、バタバタと家を出て行った。

ジェホがジンスクに対してはこんなにも素直な子なのだと、
ジュンスは感心しながら、彼の後ろ姿を眺めていた。

「本当にまだまだ子供だね」 
ジェホの食べた後を片付けながら、ジンスクは嬉しそうに言った。

確かにジンスクに対するジェホの態度は、まだまだ子供に見えた。

「安心したかい?」 突然ジンスクが言った。

「えっ?」 ジュンスが背中に聞こえた彼女の言葉に振り向くと、
ジンスクは部屋に飾られたカン・ジェホの遺影に向かっていた。

「ちゃんと生きてるだろ?」 ジンスクは続けてそう言った。

「・・・・・・」





ジュンスが登校すると、シニョンは既に部屋にいた。

「早いね」 ジュンスはシニョンの部屋のドアを開けながら言った。
シニョンはその声に振り向いて、笑顔で応えた。

「ええ、授業の資料の準備があって・・昨日作れなかったから」

「何だ・・」

「えっ?」

「嘘でも僕に早く逢いたかったから、とか言ってくれるといいのに」

「・・・嘘でもいいの?」

ジュンスはシニョンの言葉に、呆れたように笑った。

「あなたに・・・早く逢いたかったからよ」
シニョンはくるりとジュンスに背中を向けた後、そう言った。

「・・・・コーヒー飲む時間ある?それとも資料手伝おうか?」
ジュンスは綻んだ頬を懸命に元に戻し、言った。

「資料は用意したわ。
 そろそろ、コーヒータイムにしようと思っていたところ」

「了解。それじゃ、準備してくるね」
そう言いながら、ジュンスは自室へと急いで戻って行った。




少しして聞こえたノックの音に、シニョンはジュンスにしては
早過ぎると思いながら、「どうぞ」と言った。

入って来たのはパク・ジェホだった。

シニョンは彼の顔を見て、一瞬言葉を詰まらせた。
ジェホもまた、バツが悪そうな表情で、なかなかシニョンと目を
合わせようとしなかった。

「どうしたの?・・元気がないわ」 
シニョンは教師というよりも、伯母らしく、労りを込めてそう聞いた。

「・・・昨日は・・・ごめん」 
ジェホは変らず目を伏せたまま、ポツリポツリと言った。

「昨日は・・・お陰で思い出の場所に行けたわ」
シニョンは自分の目を見ないジェホを他所に、彼をしっかりと
見てそう言った。

「・・・・これ・・・」 
ジェホがそう言って古そうな大学ノートの束を差し出した。

「・・・何?」 
シニョンは首を傾げながら、それらを手に取った。
それは、10冊ほどもあったので、受け取った彼女の腕にも
ずっしりと重く、少し力が必要だった。

「シニョンssiが持ってるべきだと思って」

「・・・・・・」

実際には15冊もあったそのノートの表には、題名などは無く、
1から始まり15までの数字だけが書かれていたが、シニョンは
見たこともないものだった。しかし、それらを手にした瞬間、
不思議なことに、懐かしさと愛しさが湧いた。

「これ・・は?・・」

「伯父さんのもの・・・だから・・シニョンssiのもの・・・」

「ジェホの?」

「うん・・・本当はもっと早くシニョンssiに渡すべきだったけど・・・
 シニョンssiいなかったし・・・母さんが送ろうとしたんだけど・・・
 僕が先に読ませてもらってたんだ・・・」

昨夜ジェホは、ジンスクの家にこのノートを取りに行っていた。
シニョンにこうして返すために。

このノートはその昔、ジェホが中学に上がる時、伯父である
カン・ジェホが使っていた机を譲り受けた時、引き出しの奥から
見つけたものだった。

最初は好奇心からだった。
読み進む内、次第にのめり込み、カン・ジェホという男に焦がれた。

彼の生き様と、彼の愛と、彼の涙が、ジェホの心に染みたからだ。

そしてジェホはいつしか・・・
カン・ジェホの愛したすべてを愛しむようになった。

「シニョンssi・・・伯父さんは・・・カン・ジェホは・・・シニョンssiを
 心から愛してたんだ・・・だから・・・」

「・・・・・・」

「だから・・・忘れないで。伯父さんを・・・忘れないで」

ジェホはそう言いながら、目に涙を溜めた。


   《僕を・・・忘れないでシニョンssi・・・》

カン・ジェホの声が、シニョンの心の奥に切なく響いた。











2013/07/09 22:35
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創作愛の群像Ⅱ 第十四話ジェホとジュンス

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第十四話 ジェホとジュンス


「あなたって・・・いったい何者?」

「僕はこの世で・・まちがいなく、あなたを一番愛している男」

「チィ・・」
恐ろしく真面目な顔で、女心をくすぐるセリフを言ってのけた
ジュンスを、シニョンは呆れたように横目で睨んだ。

「その態度は心外だな」 
ジュンスはシニョンの疑わしげな態度に不満を著わにした。

「恥ずかしくない?」 
シニョンは胸の奥の熱いものを懸命に隠しながら、更に彼を
睨んだ。

「ちっとも」 ジュンスは満面の笑顔で答えた。

《なんて表情をするの?》

シニョンはジュンスから顔を逸らし、窓の外を眺めた。
無論踊る心を彼に見透かされないために。

若い娘ならばこんな時どうするのだろう。
徐ろに頬を赤らめて、彼の袖を掴んだりするだろうか。
そんな面はゆい想いが胸を過ぎった。

《・・・できるはずがないわ》
それでもこの熱い想いはきっと、年齢とは関係ないのだと、
彼に隠れて頬を綻ばせた。



「今日は本当にごめんなさい」 
自宅前に到着すると、車を下りる前にシニョンは、本当に
申し訳なさそうにジュンスに詫びた。

「僕は嬉しかったけど」 ジュンスは相変わらず優しく答えた。

「でも疲れたでしょ?今日は随分と運転していたし・・」

「いや・・ぜんぜん?、
 何ならこのままずっとあなたとドライブしてもいい」

「ふふ・・明日は何時に?・・あ・・」
シニョンは明日の朝また学校で落ち合うことを、当然のように
口にした自分に驚いた。

「明日は僕がコーヒー淹れます」

「大丈夫よ、私が・・」

「いいえ、僕の方がきっと上手だ」

「ふふ・・そうね、確かにそうだわ」

「じゃあ、決まりですね」

「ええ、それじゃ・・」

「おやすみなさい、今度こそ」

「ええ、今度こそ」

ジュンスが先に降りて、助手席に回り込みドアを開けてくれる。
近頃はそれが当たり前のように思ってしまっている自分が、
少し可笑しかったりする。

シニョンは思っていた。この数週間で、キム・ジュンスという男は
間違いなく、自分の中に息づいた。
まるで、自分という人間が彼の色に染まってしまうようだ。

《私はこんな女じゃなかったのに》

彼は愛されることの心地よさを、さりげなく与えてくれる。
適性の温度で、適性の弾力で、適性の空気で包み込んでくれる。
キム・ジュンスはそういう人だ。

別れ際に、絡めた互いの指が離れるとき、その指先に赤い糸が
繋がっている、そんな気分にさせられる。
そんな時のジュンスの柔らかく少年のような眼差しが好きだった。

《こんな気持ちになったのは・・・初めて?》

シニョンは思わず首を横に振った。

ジュンスの車がテールランプを数回点滅させて遠ざかっていった。
シニョンはその直後、ひどい自己嫌悪におちいった。

《そうよ、あなた以上に好きな人なんて・・決して・・決して・・・》
「できないわ・・ジェホヤ・・あなた以上に好きな人なんてできない
 ・・・できるはずがないわ・・・」




ジュンスが家に戻ると、入口の前に大きなバイクが止まっていた。

「ただいま帰りました」 
ジュンスは門を入ると、母屋に向かって声を掛けた。

「お帰り、ジュンスssi・・
 さっきは慌てて出て行ったけど何かあったの?」
ジンスクが扉を開けて声を掛けた。部屋の中に視線を向けると、
ジンスクの肩越しにジェホの顔が見えた。

「やあ、パク・ジェホ君・・来てたのかい?」 
ジュンスはジェホに声を掛けたが、彼はそれに答えず顔を背けた。
ジンスクはジェホの態度に顔をしかめ、彼の頭を軽く小突いた。

「は・・い、教授・・・」 
ジェホはジンスクの威圧に負けて、しぶしぶ返事をした。

ジュンスはそんなジェホの態度が可笑しくて、思わず俯いた。
笑いを堪えて顔を上げると、自分に向けられたジェホの眼差しが、
まるで突き刺すようだった。

「ジュンスssi、お茶でも如何?」 
ジンスクがそう言って彼を誘った。

「ええ・・・喜んで」 ジュンスは笑顔を向けて答えたが、
その横でジェホが不満そうな顔をしていた。

ジンスクがお茶を淹れに台所に行くと、また背を向けてしまったジェホと
丁度並んでカン・ジェホの遺影に向かうようにジュンスは座った。

「・・・・気になって来たのかい?」 ジュンスがジェホの背中に言った。

「・・・・・・」 ジェホは無言だったが、背中を少し固くした。

「シニョンssiはちゃんと送り届けて来たよ」

ジュンスがそう言うと、ジェホは怒りを顕にして、振り向きざまに
彼を睨みつけた。

「気になってたんだろ?」 ジュンスは穏やかな調子でそう言った。

「気になってなんかいない」 ジェホは刺々しく答えた。

「そう・・・・なら・・どうして彼女を困らせるのかな」

「あんたには関係ない!」 ジェホは声を荒げて怒鳴った。

「僕たちのこと・・・認められない?」

「僕たち?・・・笑わせるな」

「もう知ってるよね・・・僕たちが付き合っていること」

「シニョンssiはあんたなんか好きにならない!」

「どうして?彼女の気持ちがわかるのかい?」

「あんたなんかよりずっと!シニョンssiのことは知ってる」

「そうかな・・・」

ジェホは怒りがエスカレートする自分を抑えられなかった。

「あんたなんか!好きになるもんか!
 シニョンssiが愛しているのは・・・カン・ジェホだけだ」

「そう?」
それでも、ジュンスは至って冷静にジェホに接した。

ジェホは苛立っていた。

自分がキム・ジュンスに向けている言葉が、余りに子供じみていて、
情けなかった。
それに比べて目の前のこの男は、大人で、冷静で、余裕が有り過ぎる。
だから、またも彼から顔を背けるしか方法を見つけられない自分に
無性に腹が立って仕方なかった。

そこにジンスクがお茶を持って戻って来た。

「ふたりで何を話してたの?」

「男同士の話です」 ジュンスが答えた。

「へー男同士の話ね。いったいどんな話なんだい?ジェホヤ・・」

「何でもないよ」 ジェホはぶっきらぼうにそう答えた。

「お前ももう大人になったんだね」 
ジェホの言葉を無視して、ジンスクが彼の髪をクシャクシャに
しながらそう言った。
まるで目に入れても痛くないと言わんばかりの眼差しを向けながら。

「止めろよ!」 
ジェホはジュンスの前で子供扱いされていることに腹を立て、
思わず力任せにジンスクの体を押しやってしまった。
その拍子にジンスクが大きくよろけてしまったのを、咄嗟に
ジュンスが抱き抱え、彼女が倒れるのを救った。

その時だった。

「伯母さんに向かって何をする!」 

ジュンスが突然声を荒げ、ジェホの胸ぐらを掴んで彼を睨みつけた。
その突き刺すような目に、ジェホは一瞬怯んでしまい、息を呑んだ。

「だ・大丈夫よ。ジュンスssi、そんなに怒らないで。この子、
 ふざけただけですから」 
ジンスクはジュンスの豹変した態度に驚いて、思わずジェホを
庇っていた。

ジュンスはハッとして、ジェホの胸ぐらから手を離し、静かに座った。

「はー・・驚いたわ、ジュンスssi、あなたでも怒ることがあるのね」
ジンスクは驚いたというより、感心したというような言い方でそう言った。
そうすることで、空気が悪くなってしまった場を執り成そうとしている
ことをジュンスは察した。

「あ・・失礼しました。はは・・僕としたことが大人気なかったですね。
 ジェホ君、悪かったね」
ジュンスはそう言って、またいつもの穏やかな表情を向けた。

「・・・・・・」 
ジェホは無言でジュンスに崩された自分の襟を正し座った。

「お前が悪いんだよ」 
ジンスクもいつものように、ジェホを小突く真似をした。

「ごめん・・ハルモニ・・痛かった?」 
ジェホはジンスクに申し訳なさそうに言った。

「ほらね・・いつもはこんなに優しいんだよ」 
ジンスクがそう言ってジュンスに微笑むと、彼も笑みを返した。

ジンスクとジュンスは、お茶を飲みながら他愛のない話しを交わした。
ジェホはと言うと、相変わらず無言でカン・ジェホの遺影に視線を
向けていた。

「・・・伯父さんによく似てるね」 
ジュンスがジェホに視線を向けて、カン・ジェホの遺影と彼を交互に
見ながら言った。
その言葉に、ジェホではなく、ジンスクの方が口を開いた。

「そうなの・・この子はね、生まれた時からあの子にそっくりだった。
 まるでカン・ジェホが生まれ変わってきたようにね。
 母親が・・ジェヨンが・・ブラザーコンプレックスっていうのかい?
 何かあるごとにね・・
 『オッパは・・オッパは・・』って言うんもんだから・・・
 この子ったら、物心ついた頃から、
 『伯父さんてどんな人だった?』って・・・
 『こんな時伯父さんだったらどうしてた?』って・・
 よく聞いたものだよ、ね」
ジンスクはそう言いながらジェホに同意を求めるように彼を見た。
そして続けた。

「私もね・・・次第に口調まで似て来たこの子に、つい・・・
 あの子を見てしまって・・・
 『伯父さんみたいな男におなり』って・・・
 口癖のように言ってしまった・・・
 困ったものでね・・・
 死んでしまうと・・いいところばっかり思い出すもんだから・・・

 あの子の生きた証をあちらこちらに残したくなってしまう・・・
 そのせいだね、きっと・・・お前はいつの間にか、
 カン・ジェホという男に心酔してしまったのかもしれない
 だから、父親ともぶつかってしまうんだね・・・だから・・・・・・」

「ハルモニ!・・・大げさに言わないでよ」 
ジェホは面倒臭いという態度で、ジンスクの話の腰を折った。
 
「愛されてるんですね」 ジュンスが言った。

「えっ?」

「カン・ジェホ・・・ssi」

「ああ・・愛してるなんて言葉・・照れくさいけどね・・・
 そうだ・・昔ここでね、あの子が私に言ってくれたんだよ・・・
 『伯母さんが僕の初恋の人だったって・・・愛してる』って・・・」
 実際、あの子のその言葉が私を救ってくれた・・・
 そのあとね・・後悔したんだ・・・
 私も・・ちゃんと言葉にすれば良かったって・・・・
 だから今はね、伝えてる・・『愛してるよ、ジェホヤ』って・・
 昔も・・・今も・・・これからもずっと・・・愛してるって・・・」
ジンスクはそう言いながら、ジェホの遺影を愛しそうに見つめた。

「・・・・・きっと・・・伝わっています」 ジュンスは静かにそう言った。

「そうかい?ジェホヤ・・・」 
ジンスクはそう言って、ジェホの遺影に微笑んだ。

「・・・・・ジンスクssi・・明日が早いので、そろそろ失礼します」
ジュンスがジンスクの背中に向かって言った。

「あら・・そう?」 ジンスクは振り向いて言った。

「ええ、おやすみなさい。ジェホ君も・・今日は泊まっていくのかい?」

ジュンスがそう言うと、またも無言で返すジェホの頭をジンスクが
小突いた。
ジュンスはふたりのやり取りに微笑むと、「では・・・」と言い残し
部屋を出た。

すると彼らに背中を向けたその瞬間、ジュンスの笑顔が消えた。
そして彼は目を閉じ、胸の中で小さく呟いた。

《そう・・・伝わって・・・いるさ・・・》

 


2013/07/06 23:10
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創作愛の群像Ⅱ 第十三話この世で一番の・・・

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第十三話 この世で一番・・・





「久しぶりに来てみたくなったんだ・・・僕の・・・

  いいや、僕とあなたの・・・隠れ家に・・・」

シニョンは、そう言ったジェホの顔を無言で見つめていた。

「ここ・・もう営業してないんだ・・・でもオーナーに頼んで・・
 たまに息抜きに使わせてもらってる・・・ほら・・鍵も・・」
ジェホは顔の横で鍵を揺らして笑った。

「ね、シニョンssi、こっちへ・・・」
ジェホは立ち尽くしていたシニョンの手を取り、見覚えのある建物へと進んだ。
そして持っていた鍵を鍵穴に差し込むと、ドアを開け、シニョンを
いざなった。
中に入るとジェホは迷うことなくスウィッチに手を伸ばし、暗闇に
灯りを灯した。

明かりと共に中の様子が目の当たりに広がると、シニョンの頬に
少し赤みが指した。
その空間には確かに、ジェホの温もりが感じられたからだった。

シニョンにとって、カン・ジェホと過ごした思い出は、決して
多くはない。
この場所での出来事はその少ない中の忘れられない
ひとコマでもあった。
ジェホが昔、連れて来てくれた「彼の隠れ家」と称していた
小さな美術館。
ジェホは生前、ここをとても大切にしていた。

シニョンもその後、ジェホに伴って何度か訪ねたことがあったが、
この場所の存在は親しい人たちにさえ教えたことは無かった。

  『シニョンssi・・ここは僕とあなたの隠れ家だよ。
   だから・・・ふたりだけの秘密の場所だ。いいね』


シニョンが遠い日に思いを馳せている間、ジェホは勝手を
わかったように、ミニキッチンでコーヒーを淹れ始めていた。
シニョンはそんなジェホを見つめながら、自分が最初に
発すべき言葉を懸命に探していた。

「・・・・・・ジェホ?」 シニョンはやっと声を出すことができた。

「ん?」
 
ジェホは丁度、戸棚からマグカップを出しているところだった。

「・・・どういうつもり?」 シニョンは少し間を置いて聞いた。

「・・・どういうって?」 ジェホはコーヒー豆を挽いている傍らに、
カップをふたつ並べながら言った。

「何の悪ふざけ?」 
シニョンの声には次第に力が込められていた。

「・・・悪ふざけ?」 シニョンの言葉を繰り返して顔を上げた
ジェホも、険しい眼差しをしていた。

「どうしてここを知ったの?」 
シニョンはため息混じりにそう聞いた。

ふたりは少しの間、向きあったまま動かなかった。

少ししてジェホはシニョンから顔を逸らし、ふっと口角を上げた。
「信じないんだね」

ジェホはそう言った後、コーヒーがドリップされていく様をただ
黙って見つめていた。
その最後の雫がガラスの容器に溜まった黒い液体に落ちて、
波紋を描いた時、彼はやっとそれから目を離した。

「部屋に行かない?寒くなったから・・・」 
ジェホは微動だにしていなかったシニョンの手を強く掴んだ。
シニョンはその手を解こうとしたが、大人になってしまった彼の
力には及ばなかった。
彼は彼女の手を掴んだまま、ひとつの部屋へと進み入った。

この部屋もまた、シニョンには彼との思い出の場所だったが、
今は到底懐かしむ気分にはなれなかった。

ジェホは重ねられた布団の上からクッションを取り出し、それを
床に置きながら言った。
「まだ暖かくないから、この上に座ってて。コーヒー持ってくるよ」 

ジェホが部屋を出て行くと、シニョンは力が抜けたように
腰を落とし、頭を抱え込んだ。




少しして、ジェホがコーヒーをふたつ手にして戻って来た。
そして彼はシニョンの手にカップを持たせ、自分も彼女の
傍らに腰を掛けた。

「温かいでしょ?」 ジェホはシニョンとの間に生じた隔たりを
気にしていないとばかりに、明るく言った。

「・・・・・・」 シニョンは答えなかった。

「ここ・・・覚えてるよね」

「・・・・・・」

「僕が初めてあなたに心を開いた場所・・・」
ジェホは、自分が「カン・ジェホ」だと言わんばかりにそう言った。

「・・・・・・」

いつまでも無言のシニョンに向かって、ジェホは話を続けた。
「あなたは・・・」

「止めましょう、ジェホ・・・パク・ジェホ・・・」
シニョンがやっと口を開いて、ジェホを悲しげに見つめた。

「僕は・・・カン・ジェホだ」
ジェホはシニョンから目を逸らしてそう言った。

「いいえ違う」
シニョンの強い口調に、ジェホは彼女を睨むように見返した。

「何故違うと言える?どうして違うと言える?
 この前だってそうだった。あなたは信じてくれなかった。
 でも僕はカンジェホだ。あなたと愛し合ったカン・ジェホだ。
 ほら、覚えてるでしょ?
 あなたはあの日、ここで僕と心を交わしてくれた。
 あなたが優しく僕の心を癒してくれた。
 ここで・・・僕があなたに話したこと・・覚えているでしょ?
 忘れたりしないよね。
 ここで・・・あなたが僕にしてくれたことも・・・忘れていないよね。
 ね、シニョンssi・・僕は・・」

「カン・ジェホ」 

「・・・そう。カン・ジェホだよ。僕は・・カン・ジェホ」

「そう・・・もしもあなたがカン・ジェホなら・・・」
シニョンが切ない眼差しでジェホを見上げると、彼は息を呑んだ。
「・・・・・・」

「もしもあなたが本当にカン・ジェホなら・・・ジェホに体を返して。
 パク・ジェホに返して」

「・・・・・・」

そしてシニョンは、無言で睨みつけるジェホの目を見つめたまま、
バックから携帯を取り出し、彼から視線を逸らさないまま、
その電話の向こうに言った。

「・・・・・ジュンスssi?お願い、迎えに来て欲しいの・・ここは・・」

ジェホはシニョンのその言葉に、怒りを顕にした眼差しを向けた。
彼は瞬間的に、彼女の手にあった電話を奪い取り、それを床へ
激しく叩きつけた。
そしてシニョンをそのまま壁に押し付け、彼女の手首を強い力で
押さえつけた。

「ジェホ!」 シニョンはジェホを強く睨みつけた。

「あいつには渡さない・・・あんな奴に・・・渡さない・・・」
ジェホの行動は常軌を逸していたが、シニョンはそんなジェホを
憐れむような眼差しで見つめながら、努めて穏やかに言った。
「・・・・ジェホ・・・離しなさい」

「・・・・・・」

「ジェホを傷つけないで」

「・・・どういう意味?」

「カン・ジェホは・・・妹を・・ジェヨンをすごく愛してた・・・」

「・・・だから?」

「だから・・・あなたがカン・ジェホなら・・・こんなことをしない。
 愛する妹の子供を・・・パク・ジェホを傷つけるようなこと・・・
 決してしない・・・」

「どうしても信じないの?
 だったら、僕はどうしてこの場所を知ってるの?
 どうしてここがあなたとの大切な場所だってわかるの?
 あなたと・・カン・ジェホの・・」

ジェホはそう言いかけて項垂れると、シニョンの手首を離した。

「ジェホ・・・」 
シニョンは突然膝を抱え込むようにして黙り込んでしまった
ジェホを放っておけず、彼の隣に並んで座った。
そして彼女は、ジェホが用意してくれたコーヒーカップを手に取り、
少しぬるくなってしまったコーヒーを口に流し込んだ。

彼女はジェホの手にもカップを持たせようとしたが、彼は首を
横に振って強く拒んだ。そんなジェホを切なげに見つめながら、
シニョンはアメリカに発つ前日のことを思い出していた。

  『シニョンssi、行かないで。僕も一緒に行く』

まだ幼かったジェホが、自分にすがって泣きじゃくった日のこと。
結局その後拗ねてしまって、丁度今みたいに膝を抱え込んで
黙り込んでしまったこと。
   
今この時、ふたりの息遣いだけが微かに聞こえる音もない部屋で、
ジェホのコーヒーは、僅かも減っていかなかった。



しばらくして、シニョンはジェホを残して部屋から出た。
そして小さくため息を吐きながら、手の中の携帯電話を見つめた。
それは、さっきジェホが床に強く叩きつけてしまったせいか、
電源を入れても作動してくれなかった。

「どうしよう・・・」 
シニョンは、30分程前に掛けたジュンスへの電話を思い浮かべ、
彼がきっと、自分の電話の意味もわからず心配しているだろうと、
それが気掛かりだった。

室内はすべての照明が消されていて、電話機を探そうにも、
足元すらよく見えなかったので、シニョンは、さっきジェホが
点けていた場所を思い出しながら、照明スウィッチを探していた。

その時だった。
目の前のドアノブがガチャりと音を立て、扉が内側に動き出した。
シニョンは思わず身構えて、後ずさりした。
小さな玄関灯の灯りを背に黒い影が中へを入るのがわかると、
シニョンは更に身構えた。

「シニョンssi?」 その影は言った。

「・・ジュンス・・・ssi?」 

シニョンの視界に、その影が光にうっすらと浮かび上がるように
ジュンスを認めさせると、彼女の頬が安堵に綻んだ。
「・・・・でも・・・どうして?」

「迎えに来て、と頼まなかった?」 ジュンスはそう言って笑った。

「え・・ええ・・いえ・・そうじゃなくて・・・どうしてここが?」

「ああ・・・これ・・・」 
ジュンスはそう言って、自分の携帯のストラップを持って、それを
ゆっくりと振ってみせた。
それでもシニョンにはまだ理解できなかった。

「それより・・寒いくないですか?・・車に・・」 
ジュンスはそう言って玄関の方を指した。

「あ・・ええ・・ちょっと待っててくださる?」
シニョンはそう言って、ジェホがいる部屋に向かった。

シニョンが部屋に入ると、ジェホは積み上げられた布団に
寄り掛かって寝ているようだった。

「ジェホヤ・・」 
彼はシニョンの声に、一向に反応しなかった。

ジェホはきっとキム・ジュンスと帰ることを拒むだろうと思った。
シニョンは仕方なく、メモに伝言を書いて、彼のコーヒーカップの
横に置いた。

「・・・・ジェホヤ・・・帰るわね・・・」
シニョンは再度声を掛けたものの、諦めたようにため息をついて、
後ろ髪を引かれる思いを残しながら部屋を出た。

シニョンが部屋を出ると、ジェホはゆっくりと目を開けた。
そしてその視線を彼女が残したメモに落とし、それを手に取った。

 《ジェホヤ・・・先に帰るわね・・・
  ジェヨンには連絡を入れておくわ
  明日はちゃんと学校に来るのよ シニョン》

ジェホはそのメモを握りつぶし、壁に向かって投げつけた。




シニョンが外へ出ると、ジュンスが車にもたれ掛かって待っていた。
シニョンはジュンスがドアを開けてくれたので、それに従った。

帰路につく間、シニョンは残してきたジェホが気がかりだった。
そして、ほんの二時間ほど前まで一緒に過ごし、自宅まで送り
届けたはずの自分が、全く違う場所から彼を呼び出した理由を
聞こうともしないジュンスのことも。

美術館を出る時から、ずっと無言で運転しているジュンスの横顔を、
シニョンはそうっと覗き込んだ。

「何ですか?」 ジュンスはフロントガラスを見据えたまま言った。

「えっ?」

「何か言いたげだから・・・」

「ああ・・・・んっ!・・・あの・・生まれ変わりって・・・信じる?」
長い沈黙の後にシニョンは聞いた。

「生まれ変わり?」

「ええ・・・生まれ変わり」

「あー・・・信じないわけじゃないけど」

「信じるの!?」 シニョンは声を高く張り上げた。

「そんなに驚くことですか?あなたが聞いたのに・・」 
ジュンスはシニョンの大きな声に、眼を丸くして笑った。

「・・・それより・・・誰といたのか気にならなかった?さっき・・」
シニョンは声のトーンを意識して下げた。

「誰かと一緒だったんですか?」

ジュンスがとぼけたように言ったので、シニョンは呆れたような
声を漏らした。
さっきから何ひとつ詮索しないジュンスに対して、彼女は妙に
苛立ってもいた。

「あなたって・・・」

「僕が何か?」

「私の・・その・・・気にならないの?」

「気にならないって?」

「私の・・・・その・・・」

「亡くなったご主人のこと?」
言いよどんでいるシニョンに、ジュンスは逆に聞いた。

「・・・・・・」

「気にして欲しい?」

「そうじゃないけど・・・
 今まで一度もあなたから尋ねられたことがないなって・・」

「んー・・・あなたの・・とても愛していた人の・・その話を・・ 
 僕は聞かないといけないのかな」
ジュンスが言葉を強調するように、ゆっくりと言った。

「そうじゃないけど・・・」

「だったら。・・・聞かない選択をします」 
ジュンスは少し声を張ってそう言った。

「・・・・・・」

「不服?」

「・・・・・・あ・・いえ・・・あ、そうだわ・・それより!」

「今度は何?」

「これ・・」

「ん?・・」

ジュンスがシニョンに流した視線の先に、彼女の手にある
携帯電話を認めた。

「電話が・・?」

「これであの場所がわかったって・・さっき・・」

「ああ・・」

「どういうこと?」

「GPS・・契約してあるから・・その携帯と僕の携帯」

「えっ?」

「あ・・誤解しないで・・いつも使っているわけじゃないですよ」

「あの・・・・契約って?」 シニョンは首を傾げた。

「その携帯・・誰から?」
ジュンスは《これが答え》と言うように言った。

「これは・・プレゼントされたの・・・・あ・・ジア・・に?」

ジュンスは、まだシニョンがすべてを理解していなさそうだったが、
ある意味の答えにはたどり着いただろう様子を伺いながら、
満足げに笑った。

「ま、難しいことはいいでしょ?・・・
 あなたが僕を必要とした時に、あなたを見つけられたんだから」

シニョンはそれでもまだ納得がいってないというように、
再度首を傾げ呟いた。「GPS?・・・・・・」

「それで・・・パク・ジェホは大丈夫だったのかな?」 
ジュンスが突然言った。

「えっ?」 シニョンは思考回路の軌道修正を余儀なくされた。
「知ってたの?」

「いいや」

「だって・・」

「あなたの言動から連想しただけです」

「・・・・・・」

シニョンはジュンスが見えないところで、僅かに唇を尖らせた。

いつもそうだ、とシニョンは思った。
何故かいつも最後には、ジュンスに遊ばれているような気分に
なってしまう。

「あなたって・・・」

「ん?・・・」

「あなたって・・・いったい何者?」

「はは・・何者?ときましたか?」

「だって・・」

「僕は。・・・この世で・・まちがいなく・・・
 
       あなたを一番愛している男」


 


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