2011/01/25 23:35
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-35.もう二度と・・・

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi





 

「いったい、どういうつもりなんだ?」 

受話器から届いたレイモンドの呆れたような声がフランクの片眉を上げさせた。

レイモンドはフランクからの連絡が一向にないことに痺れを切らし、
朝早過ぎるのもお構い無にうるさくフランクのリンクを鳴らしたのだった。

フランクはいつもの通り、早朝の走り込みでかいた汗をシャワーで流し
昨夜やりかけていた仕事に取り掛かろうと、デスクに付いた所だった。

「何のことでしょう?」 フランクは受話器の向こうに向かって、
憎らしいほどに醒めた無機質な声を返した。

「ジニョンのことだ。」

「ああ・・」

「彼女はアメリカに連れて行くんだろ?」

「さあ・・」

「さあ?!」

「何をそんなにカリカリなさってるんです?レイ・・」

「私は何のためにここへ来たんだ?」

「あー・・・愛のため?・・でしたか?」

「ふざけるな!フランク・・」

「ふざけてなどいません・・・」

「それなら、何故ジニョンは泣いているんだ?
 どうしてあんなに苦しそうな顔をしている?」

「・・・・・・」

「フランク!」 レイモンドがフランクの沈黙を一喝した。

「僕はもう・・・彼女を失うことはできない」 フランクが突然そう言った

受話器を通して聞こえてくるフランクのその声は淡々とした中に
悲哀を滲ませていた。
そしてその言葉はレイモンドに向かって言っているのではなく
フランクが自分自身に言い聞かせているのだと、レイモンドは思った。

レイモンドはしばらくの間、フランクに掛ける言葉を失っていた。

「・・・・それなら・・」 
レイモンドは少しして溜息混じりにやっと口を開くことができた。
「待っているんです」 フランクは直ぐにそう答えた。

「待っている?」

「ええ・・・今度は・・・僕が待つ番ですから」

   今度は・・・僕が待つ番ですから

フランクは自分の言葉を噛み締めるようにそう言った。


「どういうことだ・・」

「理由?・・ですか?・・・フッ・・説明は難しい・・」 
フランクはまるで自嘲しているかのように小さく笑って言った。

「君という男の考えることは・・・よくわからん」 ≪そうじゃない≫
レイモンドにはよくわかっていた。

「フッ・・お互い様でしょう?」 フランクは面白がっているようだった。

「私は単純明快だ・・・愛するものは誰にも譲らない」

「そうでしたか?」 そうじゃないでしょ?、と言うようにフランクは言った。

「例外もある」 そう言って、レイモンドは笑って見せた。

フランクも彼に合わせて小さく笑った後、更に続けた
「しかしレイ・・これだけは言えます
 僕には・・・例外など無い。
 愛するものも・・欲しいものも・・最初から、そしてきっと最後まで・・
 この世にひとつしかありません・・だから・・
 そのたったひとつのもの以外・・何ひとつ・・・いらない。」

「だろうな」 レイモンドは心から納得したように言った。

「もう二度と・・・」 フランクはその後の言葉を口にしなかったが
レイモンドにはしっかりと聞こえていた。≪もう二度と、諦めない≫と。

レイモンドはさっきまで抱いていたフランクへの不審が、
自分の中から綺麗に消えていくのを感じていた

「フランク・・・信じてもいいか」 それでもレイモンドは確かめたかった。

「あなたに信じてもらわなければなりませんか?」

「ああ・・何としても。」

「なら・・信じて下さい」






「きゃー!!」 
寝室から聞こえた突然の悲鳴に、PCのKEYを叩いていたレオが
驚いて指を宙に浮かせたまま、そのドアに振り返った。

「何だ?今のは・・」 レオはフランクを見て言った。「ジニョンssiか?」
レオは昨夜から隣の部屋にジニョンが眠っていることを知らなかった。

フランクはニヤリと笑ったかと思うと、持っていたペンをテーブルに置いた。
そしてレオに向かって意味有りげに言った。「・・食事でもして来ないか?」

「そんな暇は・・・あー・・OK?、食事休憩としよう
 ランチには少し早いがな」 
嫌味混じりに言いながら、レオはフランクに向かって肩をすくめた。

「フランク!どうして起こしてくれなかったの!」
レオが部屋を出ようと席を立った時、フランクの寝室のドアが
勢いよく開いて、ガウン姿のジニョンが乱れた髪のまま現れて、
レオと鉢合わせした。

「きゃっ!・・ごめんなさい」
慌てたジニョンはまた寝室へと消え、レオは無言のまま、
フランクに後ろ手に手を振って部屋を出て行った。

フランクが苦笑しながら、寝室のドアを開けると、
ジニョンは鏡の前で、困ったように髪を手で梳いていた。

「おはよう・・やっと目が覚めたね」 
ジニョンはフランクの涼しげな笑顔を鏡越しに睨み付け、悪態をついた。
「・・大遅刻。」

「たっぷり眠らせたかったんだ」

「仕事があるのよ。」

「その心配はない」

「今何時だと思ってるの?もう二時間も過ぎてる」

「テジュンssiには了解を得ておいた
 今日の君の仕事は僕が決めていいことになってる。」

「えっ?」 ジニョンは驚いた顔でフランクに振り返った。

「だから今日は・・」

「ちょっ・・ちょっと待って・・
 あなたがどうして私の仕事に・・それに・・
 どうして、テジュンssiに勝手に?・・」
ジニョンはフランクに抗議しようと立ち上がった。

「僕はソウルホテルの理事だからね、
 それくらいは権限があるだろ?」
フランクは澄ましてそう言いながら、ドアにもたれて腕を組んだ。

「・・・・・フランク・・・あのね。」 ジニョンはフランクに詰め寄った。
「今から二時間は僕と過ごすこと・・それから・・」
彼は近づいて来た彼女の口を掌で塞ぐと有無を言わさずそう言った。

「う・・ん・・もう!勝手なこと言わないで」
ジニョンはフランクの手を払いのけ、彼から逃れた。

「何処行くの?」

「オフィスに決まってるでしょ?」
そう言いながら、彼女はベッドの脇の椅子に掛けてあった服を手に取った。

その瞬間、ジニョンは自分で服を脱いだ覚えが無いことに気がついた。
「・・・・・・あなたが?」 
ジニョンはガウンの下の自分の素肌に視線を走らせた後、
フランクに振り返った。

「窮屈そうだったから・・」 フランクはにっこりと笑顔で言った。

「・・・・・・。」

「それに・・・」 フランクはそう言いながら、ジニョンに近づいて
背後からゆっくりと彼女を抱きしめた。
「君が目を覚ました時、この方が楽かなって・・」
そして彼は、彼女の肩からガウンを少しずらして、その肩に唇をつけた。
すると彼女は素早くそのガウンを肩に戻して、彼をかわした。

「止めて・・フランク、レオさんが・・」
「レオは出かけたよ」

「そうじゃなくて・・だとしても!私は仕事に・・」
「レイモンドが怒ってるんだ」
「えっ?」

「こっちに来てから、ジニョンとゆっくり話もできてないって」

「だって・・」

「レイは明日アメリカに帰ってしまう
 その前に少しくらい付き合ってあげてもいいんじゃない?」

「それでわざわざ、テジュンssiに了解を取ったの?」

「そういうこと・・
 このホテルにとって、取引先のお偉いさんだからね、レイは・・
 市内観光くらい付き合ったって罰は当たらない
 そうでしょ?・・テジュンssiも当然のことだと言ってた」

「そうね、確かに・・・そういうことなら・・
 わかったわ・・それでレイは?」

「用事を済ませて、一時にはここに迎えに来るよ」

「一時?・・まだ二時間はあるわね・・・じゃあ、ちょっと着替えに家に・・」

「着替えは用意してある」 
フランクはそう言って、テーブルの上の高そうなブランドの箱を指差した。

「ドンヒョクssi・・」
「僕じゃないよ・・レイの仕業・・だから文句言わないで」
ジニョンは抗議しようと一度口を開いたものの、フランクの先制に
呆れたように溜息をついて口を閉じるしかなかった。

「お陰で少し時間ができたね」
フランクはそう言って、さっき彼女によって戻されたガウンを
その肩から再度滑らせた。
ジニョンは彼を熱く背中に感じながら、次第に自分の頬が
優しく緩むのを感じていた。

そして彼女は昨夜、自分が彼を困らせていたことを思い出していた。

「ドンヒョクssi・・・昨日は・・その・・ごめんなさい」

「謝るようなこと・・何かあった?」

「あったわ・・いっぱい・・・」

「そうだった?・・忘れた・・」

「・・・・時間をくれる?ドンヒョクssi・・・」

「シー・・時間がもったいない・・」

フランクはジニョンの背中を抱いて、彼女の首筋に唇を這わせながら
彼女に衝撃を与えないよう巧みに互いの体をベッドに滑らせた。

ジニョンは思っていた。

フランクの腕の中にいれば、不思議と何もかも忘れられる。

この腕の中にさえいれば心から安心できて・・・


   私のすべてが・・・


       ・・・フランクだけになるの・・・


  


   













 

 

 


2011/01/25 11:40
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passion-34.溢れる涙

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「どうしたの?こんな遅くに・・・」 

フランクはたった今、レイモンドからの電話でジニョンのことを聞いていた。
そのお陰で、何の前触れも無く部屋に入って来た彼女にも
さほど驚かずに済んだ。

フランクはレイモンドに向かって「また後で掛け直します」と告げると、
ゆっくりと受話器を戻した。
フランクと共に連日、ソウルホテルの一件に追われていたレオも、
ふたりの間の緊迫した空気を察して、急いで目の前の書類をかき集めると
自分の寝室へと消えて行った。

「夜中だよ・・それに・・」 
フランクは俯きながら、わざと不機嫌そうな声で言った。
≪本当は逢いたくて仕方なかった≫

「前に・・勝手に入って来て構わないって・・
 あなたがそう言ったわ」

「それは構わないけど・・」

「電話掛けても、忙しそうだったから」

「忙しいんだ。」

「私と話す時間も無いほど?」

「今話してる。」

互いが、互いを傷つけようと刺々しさを装っていた。

「避けてたでしょ?・・私を」

「そんなことはないさ」

「うそ」

「・・・・君こそ・・僕を避けてた」

「そうね・・私も避けてた」

「なら、おあいこだ」

「どうして?」

「だから・・おあい・・」

「どうして!」 ジニョンの目がフランクを諌めるように力強く見開いた。

「何が?」

「どうしてあんなことを?」

「あんなことって?」 彼女が言いたいことはとっくにわかっていた。

フランクは観念したように立ち上がり、ジニョンに近づいた。
ジニョンはフランクを睨み付けたまま、彼が近づくのを待っていた。
その時ジニョンの目は涙に潤んでいた。

「あなたって・・大嫌い!」
ジニョンの彼を睨み付ける眼差しが、フランクを僅かに苛立たせた。

「そう。」 彼はその苛立ちを胸の中で秘かに鎮めながら、
ほんの少しだけ彼女から視線を逸らし、また視線を合わせた。

ふたりはしばらくの間沈黙のまま互いに睨み合い、その場を動かなかった。

ジニョンの瞳を潤ませていた涙は次第に大粒の光となり、
そのひとしずくが彼女の頬を伝って落ちる様がフランクを動揺させていた。

「あなたって、いつもそうなのよ・・いつもそう・・・
 10年前だって・・・そうだった
 あの時、私の前から黙って消えた時も・・
 あなたひとりで考えてそうした!
 今度だってそうよ・・10年も経って、私の前に突然現れて・・
 勝手に私の心を乱した・・・」

「勝手に?・・そうなの?」

「勝手よ!・・勝手だわ・・・そしてまた今も・・・
 いつもいつも・・私の気持ちを無視して・・」
フランクをなじりながら、ジニョンは流れる涙を抑えることができなかった。

「無視した覚えは無い」 フランクは彼女の涙から顔を逸らして静かに言った。

「無視してる!」

「無視してない!」
フランクはジニョンの攻撃に、つい怒鳴ってしまった自分を省みて、
声を落とした。「・・・・・わかったよ・・」

「何がわかったの?・・わかってないくせに。」 
ジニョンはフランクに向かって容赦が無かった。

「僕が君を無視してる・・それはわかった、それで?」

「話して・・」

「何を?」

「あなたにとって何の関係もないホテルのために・・・
 どうしてそこまで?」 

「そこまで?・・・」

「聞いたわ・・ジョルジュに・・今回のことで
 あなたが自分の全財産を投じたと・・どうしてそんなことを?」

「そんなこと?」

「それだけじゃないわ・・財産だけじゃない・・
 あなた、自分が何をしたのか・・わかってるの?
 この十年間にアメリカで培ってきたものを・・
 簡単に捨ててしまったのよ」

「捨てた?・・・そうかな・・・
 それに悪いけど、自分が何をしているかぐらい理解してる」 
フランクはそう言って、また彼女から視線を逸らすと小さく笑った。

「レイが教えてくれたわ・・それがどんなことなのか
 あなたのビジネスにとって、どれほどのことなのか・・」




   『今回のことで彼が受けたダメージはどれくらい?
    彼はどんな立場に追い込まれているの?』

   『フランクがどんな立場に追い込まれているか?
    君に話したところで・・・・・
    わかったよ・・・しかし、全ては話せない・・
    彼との約束だから・・・』

   『約束?・・・10年前もそうだったわね、レイ・・
    あなたはそうやって彼との約束を守った
    私は蚊帳の外に置かれていたのよね、あの時も・・』

   『フッ・・痛いところをつくんだな・・、ジニョン・・・・
    謝るよ・・あの時のことは・・素直に謝る・・・
    ・・・・・・彼はこれから・・・彼のビジネスにおいて、
    培ってきた信用全てを無くすことになる』

   『えっ?』

   『聞きたいんだろ?』

   『それは・・具体的にどんなこと?』

   『ジニョン・・・・
    簡単に言えば、仕事が全て無くなると言うことだ
    彼は今までクライアントの如何に係らず、一度請け負った以上、
    相手側に寝返るようなことは決してしてこなかった
    一匹狼の彼が厳しい世界で生き抜いて来られたのは
    その信用の上にあったものだ
    それが失墜したということは、クライアントにとって
    これほど脅威なことはない
    そして彼がそうなったことを喜ぶ奴が間違いなくいる
    彼のような男には敵も多いんでね・・・
    彼を疎む連中にとっては、絶好のチャンスと言えるだろう」

   『絶好のチャンス?』

   『彼の息の根を止める。そのチャンス・・』 
   淡々とそう言ったレイモンドが寂しげに片方の口角を上げた。

  


「ねぇ・・どうして?・・」 ジニョンは今度は静かにそう聞いた。

「このホテルは、君の夢だっただろ?」 フランクも今度は優しく答えた。

「それだけのため?」

「それだけって・・それ以上の理由が必要?」 
そう言ってフランクは小首をかしげ微笑んだ。
まるで自分にはそれ以外の理由など、想像すら出来ないかのように。

「ドンヒョクssi・・・」 ジニョンは彼の名前を口にした後、次の言葉が
溢れ出る涙で詰まってしまって出て来なかった。

「僕がここに来た理由・・・前に君は聞いたね
 僕はその答えを出しただけ・・・」
≪そう、最初からその答えを出すことだけが目的だった
 君だけがその理由だった≫


「・・・・どうして・・・私に相談してくれなかったの?
 言ってくれていたら、こんなこと私は決して望まなかった
 こんなこと!して欲しくはなかった!」
ジニョンはまた次第に強い口調でフランクに向かっていた。

「なら、良かったよ・・相談しなくて・・」 
フランクはそう言って笑って見せたが、ジニョンは笑わなかった。
「フランク!」 その代わりに厳しい表情のままで彼の名を叫んでいた。

「そんなに怒らないで・・大したことじゃない・・
 今日でもう取り調べも終わった・・結果はまだ出てないが
 何んとか国外退去だけで済みそうだ」 
フランクは彼女の激しさを優しい眼差しで包み込むように言った。

「国外退去?」 ジニョンは大きく目を見開いた。

「そんなに驚かないで・・・僕のしたことからすれば
 穏便な措置だ・・・凄くね・・・」

「あなたをそんな目に合わせる位なら・・」
ジニョンは本当に胸が張り裂けそうなほどに苦しかった。
愛する人が自分のために全てを失ってしまった非情な現実に
耐えられそうもない自分を、彼への怒りを露にすることで持ち堪えていた。

「そんなに大層なことじゃない、そう言ったろ?」
それなのにフランクは淡々として目の前で微笑んでいる。
ジニョンはそんな彼が無性に憎らしかった。

「あなた・・昔こう言ったわ・・・
 親に捨てられたことは自分の弱みだって・・・
 アメリカでひとりで行き抜くには大きな弱みなんだって
 だからそれを覆すほどの成功を勝ち取るんだって・・」

「だから?」

「あなたは勝ち取ったのよ・・この10年の月日で
 いいえ、アメリカに渡った20年の長い月日で・・
 自分ひとりの力で勝ち取った
 それなのに・・その全てを捨ててしまって・・
 私のため?・・
 そんなことして・・私が本当に喜ぶとでも思ったの?」

「結果を喜んではくれないわけ?
 君の望み通り、もう誰もホテルには手が出せない
 僕がホテルの権利を握った以上、誰の手にも渡さないからだ」

「・・・フランク・・・
 ホテルを助けてと言った私が悪いのね
 私があなたに・・こんなことをさせてしまったのね・・
 私が・・・そうさせたのね
 どうしよう・・私・・どうしよう・・こんなことになってしまって・・・
 私はいったい、どうしたらいいの?」 
ジニョンは次第に俯いて、いつしか独り言のように呟いていた。

「君がどうするか?・・・」

「そうよ・・私は・・・いったい・・・」

「その答えを僕に求めるの?」 フランクは苦悩に顔を歪ませ言った。

「私にとってこのホテルは掛け替えの無いものなの」
ジニョンは込み上げる涙の合間に大きくひとつ深呼吸した後、
そう繋げた。

「知ってるよ・・・」 
フランクはジニョンに近づいて、彼女の肩にやっと手を触れた。

「社長は・・・私にとって・・母のような人・・・」
フランクがジニョンの肩を自分に引き寄せようとした瞬間、
彼女はそう言いながら一歩後ずさりした。

「わかってる」 フランクは、自分に納得させるかのように呟いた。

「・・・・・・アメリカには・・・いつ?」 
ジニョンはまたひとつ深呼吸をして彼に問うた。

「多分・・一週間後」 フランクがそう答えると

「一週間・・・」 ジニョンは溜息混じりに同じ言葉を繰り返した。

「これ・・」 フランクはポケットから何やら取り出してジニョンに差し出した。
「本当はこの前会った時、渡そうと思っていた」
それはアメリカ行きのチケットだった。

ジニョンはフランクから差し出されたチケットを躊躇いつつも手に取り
しばらくの間それを黙って見つめていた。

「君のだ」
フランクの言葉に、ジニョンは言葉を失ったように、俯いた。

「どうして黙ってるんだい?」
フランクの問い掛けに、ジニョンはまた瞳を潤ませて彼を見上げた。
「わかってる?・・・君のその沈黙が・・・
 君が・・僕を避けていた理由・・・そして
 僕が君を避けていた理由だ」 
フランクは悟ったように、寂しげな笑みを浮かべてそう言った。

そしてジニョンはフランクのその言葉に驚いたように彼を見上げると
「・・・・わからないの・・・」 とやっと口を開いた。

「わからない?」 フランクは小さく首をかしげて見せた。

「わからないの・・・私はいったいどうしたいのか・・・
 どうするべきなのか・・・わからないの」
そう言いながら、ジニョンは止め処なくはらはらと涙を零した。

フランクはジニョンのそんな姿をひどく哀れに思った。
ジニョンの心が壊れてしまいそうなほどの痛みが手に取るように
彼に伝わっていた。

「おいで・・・」
フランクは涙にくれていたジニョンの手を取り、寝室へと向かった。
そして、彼女をベッドに座らせ、自分も隣に座ると、彼女の髪を
優しく撫でながら、彼女の頬を伝い続けている涙を自分の指で拭った。

「ジニョン・・・僕がもう、君なしで生きられないこと・・・
 知ってるよね」 ジニョンは大きくコクリと頷いた。
そして、まだ止められない涙を自分の腕で急いで拭い取った。

「君もそうだろ?」 彼女はまた大きく頷いた。
「でも君にとって大事なものが・・・
 僕だけじゃないことも、わかってる・・・」

フランクのその言葉に、ジニョンは大きく首を横に振った。
それでも、その先の言葉は出て来なかった。

「君にわかるかい?この数日・・・
 君に逢えない時間を僕がどんなに嘆いていたのか
 僕に逢いに来ない君が腹立たしくて・・・
 君に逢いに行けない自分が情けなかった・・・」
フランクはそう言いながら、ジニョンを優しく抱き寄せて、
その髪を優しく唇で撫でた。

フランクは彼女の涙を今度は唇で拭うように、その涙にくちづけた。
そしてまた彼女の頭を自分の肩に引き寄せて、優しく抱きしめた。

「君も・・・そうだったはずだ」 ジニョンは無言で大きく頭を縦に振った。

「だから・・・泣くんじゃない・・・
 泣くんじゃない・・・ジニョン・・・」 フランクは彼女の耳にそう囁いた。

それでもジニョンは涙が溢れて仕方なかった。

「頭が・・・痛い・・・」 
ジニョンが苦笑いしながらそう言って自分の頭を押さえた。

「泣き過ぎたからだよ」 フランクは彼女の頭を撫でながら笑った。

「泣き過ぎると頭が痛くなるの?」

フランクは微笑みながらまぶたを一度閉じて、無言で“そうだよ”と答えた。

「経験あるの?」

「ああ・・この10年、泣き通しだった」

「嘘ばっかり・・」 ジニョンがそう言ってやっと笑った。

「嘘だとどうしてわかる?」 
フランクはジニョンの額に自分の額を付けてそう言った。

「ドンヒョクssi・・・何だか眠くなってきたわ」

「そうだね・・僕もだ・・・今夜はこのままここでおやすみ」

「ここで?・・でも・・・」

「シー・・いいから、黙って・・」

「ドンヒョクssi・・・」

「今夜はもう何も・・考えるのはよそう・・・」

「・・ええ」

「目を閉じて・・」
フランクがそう囁やくとジニョンは言われるままにゆっくりと瞼を閉じた。
そして彼は、彼女の瞼にそっとくちづけた。

「いいかい?ゆっくりとおやすみ・・・それから・・
 僕の腕の中から、途中で抜け出すんじゃないよ」

「・・ぅん・・」

「抜け出したら・・許さないからね・・・」

「・・・ぇぇ・・・・・」 

フランクはジニョンをそっとベットに横たえると、自分もそのまま横になり
彼女を腕の中に抱いた。
ジニョンは頬に描いた涙の筋もそのままに、フランクの腕の中で
静かに眠り堕ちていった。
そして彼女の静かな寝息を確認すると同時に、

彼もまた深い夢に堕ちた。


  僕から抜け出したら・・・


      ・・・許さないからね・・・


   

 















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