2010/12/26 08:13
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-24.神との賭け

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リストラ戦争が勃発したと、バックヤードの隅々までもが大騒ぎとなった。
リストに載った者と逃れた者との間で只ならぬ確執も生まれていた。

しかし、今回は運よく逃れたとしても、これから先第二弾第三弾と
続くのではないかという強迫観念は残る者の気持ちをも萎縮させていた。

またフランクの打ち出した改革案は、人員のリストラだけに留まらず
様々な経費の削減案が盛り込まれていた。

減給はもちろんのこと、働く母親達への育児補助・厚生施設など
フランクが無駄と考えるものは容赦なく廃止された。
また仕入れ先の洗い直しなどにも力を入れ、一部の幹部との癒着で
繋がっていた業者は即刻出入り禁止とした。

「総支配人、リストラは無いとおっしゃったじゃないですか
 私達はこれから・・・どうすれば・・・」
その声は怒りを通り越した、哀れなほどの悲嘆だった。

「小さな子供を抱えて、仕事はできません・・・
 でも仕事をしないと育ててはいけないんです」

テジュンは言葉に詰まって、ただ項垂れた。

そして彼は自分に許可無く張り出されたリストを乱暴に剥ぎ取ると
それを握り締めて、フランクの元へと走った。

テジュンが部屋の主であるフランクに許可も無く押し入った時
フランクは書類に目を通していた視線を少し上げただけで
彼の登場を予測していたかのように、驚きすら見せなかった。

「どういうつもりです!」 
テジュンはその紙切れをフランクのデスクに叩きつけ声を張り上げた。

「どういうとは?」 
フランクは全く動じる様子も見せず、書類に目を通している姿勢のまま
片方の眉だけを上げ平然と答えた。

「勝手なまねを・・あなたにそんな権利など・・」

「言いがかりもいいところだな・・・
 私はあなたの代わりに決断して差し上げたと思っている
 むしろ感謝して欲しいくらいだ。」

「頼んだ覚えは無い。」

「お人よしのあなたには時間をいくら差し上げても
 出来そうにないと判断したんです」
フランクはわざとらしく溜息を混ぜて、手の中の書類をばさりと
デスクの上に放した。

「あなたには!この人達の何もわかっていない・・
 彼らがどれほど、ホテルに貢献したかも
 どれほどの愛情を持っているかもわからずに
 どうしてこんなことができるんだ!」

「言ったはずです。
 従業員の人となりなど、私は一分の興味も無い。」

「彼らの力無しではソウルホテルはなかった。」

「今は違う。」

「もっと他に・・・方法があるはずだ。」

「言ってもらおう・・何ができる?」

「・・・・・」

「結局何もできない。
 ふっ・・吠えるだけなら誰でもできるんです」

「人を軽く見ていたら、ホテルはお終いだ」

「人の代わりなど、いくらもいる。」

「あなたには!・・・きっと。
 女の代わりもいるんでしょうね」

フランクとテジュンは睨み合ったまま、しばし微動だにしなかった。

ジニョンのことに触れられる時だけが、フランクを一瞬人間に戻す。
そのことにフランク自身もとっくに気がついていた。
しかし、今は人間ではいられない。

「・・・ここでは仕事の話だけにしていただきましょうか」

「これがあなたの仕事ですか」 
テジュンはフランクを見下ろすように言った。

「ええ」 フランクはまったく動じない、というように彼を見上げた。

「尽くしてくれた彼らは、ホテルの宝なんです」

「ふっ・・そんなことだから・・」 フランクは鼻で笑って見せた。

「私は人の心を忘れるようになったら・・ 
 それこそホテリアーとして失格だと思ってます
 もしもそうなったら、私は間違いなく、この仕事を辞める。」

「なるほど・・それは殊勝なお考えだ・・・
 だが、あなたがお辞めになったところで私は痛くもかゆくも無い
 そうですね・・あなたが辞めるなら、
 これからリストラを被る誰かが救われるかもしれない・・
 きっとその誰かが喜ぶでしょう」
フランクの言葉は氷のように冷たかった。

「・・・・・」

「言っておきますが・・・
 それを破り捨てたところで、決定は変わらない。」
フランクはさっきテジュンが投げつけた紙の残骸を目で指して
そう言った。

「社長は承知しない。」

「ふっ・・おもしろい・・
 では今すぐ社長にホテルが現在どういう状況に
 陥っているか、確認してくるといい」
フランクは不適な笑みを浮かべながら、テジュンを睨みあげた。

「・・・・・」

「社長はきっとこの書類に判を押しますよ」
そう言って、さっきテジュンが破り捨てたリストラリストが
正式なものと化している書類の束を、フランクは翳して見せた。

「あなたという人は・・・」

「これ以上あなたと話すことはない。
 あなたも同意見でしょうが・・・
 虫が好かない顔は長く見ていたくはない。
 消えてもらいましょうか・・ここから・・今直ぐに。」
フランクはテジュンに向かって放った厳しい目を決して崩さなかった。



まるでソウルホテルそのものをクリーニングするかのように
フランクは隅から隅までを見直し、改善策を打ち立てていった。

その容赦の無い改革に、あがる悲鳴さえフランクは耳を貸さなかった。

そして全てはシン・ドンヒョクの言う通りだった。
今や、ソウルホテルに残された道は、彼が立てた計画に沿う
そのことが最良の策と、あらゆる現実が物語っていた。
ドンスク社長は決断を迫られていた。

ヨンスもあらゆる手を使って、リストラの波を穏やかにできないものか
画策してみたが、ホテルは到底彼の手に負えない程の窮地を迎えていた。

「ドンスクssi・・・申し訳ない・・・
 彼の言う通り、人員整理は止む得まい・・・
 ただ、これ以上はその波を広げないよう手を尽くそう
 それに、ドンスクssi・・・あなたももうお分かりでしょう?
 今のままではホテルは立ち行かない」

「ええ・・・でも・・・
 私・・・主人に顔向けができません・・・
 あんなに人を大切にして来た人ですもの・・・
 私・・・彼のところに行った時、このことをどういう風に
 報告すればいいんでしょう」

ドンスクはそう言って、涙を流した。
ヨンスは、そんな彼女を前に、深く溜息を付くしかなかった。




そんな中、テジュンは必死にあがいていた。
このまま手をこまねいているわけにはいかなかった。
まず、ソウルホテルとして生き残るために今何が足りないのか
シン・ドンヒョクの考えを覆す手立ては本当に無いものなのか
あらゆる方向から思考を重ね、シン・ドンヒョクに提案書を出した。

しかし、シン・ドンヒョクの反応は冷たいものだった。

「絵に描いた餅ということわざをご存知かな?
 こういうのを・・ゴミというんです」

フランクはテジュンの前にその書類を無下に放り投げた。
同席していたジニョンの目が落胆と怒りに満ちていたが
フランクはテジュンを通して、彼女をも冷たく睨み付けた。



それでもテジュンは諦めなかった。

そして寝る間も惜しんで自分の計画書に何度も熟考を重ねることで
次第に強い自信が沸き出る自分を感じ始めた。

次の朝、テジュンの姿は社長とヨンスの前にあった。
彼はふたりの前で背筋を伸ばした。

「お願いがあります」

テジュンはドンスクとヨンスに真剣な眼差しを向け強い決意を語り始めた。

「私に・・・21世紀ヴィジョンを遂行させてください」

「21世紀ヴィジョン?・・三年前、君が計画していた・・
 あれか?」 

「ええ・・あの計画をもう一度」

「しかし・・それには多くの資金が必要だぞ」 
ヨンスは今でさえ多額の負債を抱えている状況で、
それはかなり難しいことだと考えていた。

「はい・・わかっています・・・その為に多くの出資者を
 募らなければなりません・・でもやってみる価値はあります・・
 是非、やらせてください」

「テジュンssi・・・自信はあるの?」

「はい・・・あります」

「でも・・・今は・・・」

「このままでは、次のリストラ犠牲者を出してしまいます
 今、ホテルそのものが快活に起動する何かが必要なんです」

「その何かがこれなのか?」

「はい」

テジュンの返事は力強かった。

テジュンの目は切羽詰っているこの状況の中で、キラキラと輝いていた。

ヨンスは彼のその姿を見て、フランクが望んでいるものはきっと
こういうことなのだろうと、思っていた。





現実は酷なものだった。

100名もの仲間達が苦境の波にさらわれていった。
日毎にひとり消えふたり消え、残された者の心にも影を落とした。

繰り返し続くフランクとテジュンの争いが胸を締め付け、
ジニョンは深く打ちひしがれていた。

≪私には・・・どうすることもできないの?・・・
 フランク・・・どうしても、こうしなきゃならないの?≫

スンジョンが深く肩を落としているジニョンを哀れんで、
何んとか励まそうと、カサブランカに誘った。

「ジニョン・・歌おう」

「歌うって・・そんな気分じゃないわ」

「だから歌うのよ」 スンジョンは譲らなかった。

カサブランカの二階に設けられたカラオケ室の中で、
ふたりは意識して楽しげな曲を数曲歌った。

≪嫌なことを忘れて・・・いいえ、忘れられるわけが無い≫
突然、ジニョンが声を詰まらせ曲の途中で歌うのを止めた。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
 みんなを苦しめて・・・ごめんなさい・・・」

「ジニョン・・・」

「みんなを苦しめているあの人を・・・私は愛してるの・・・
 私は・・・あの人だけを・・・愛してるの・・・
 私・・・いったいどうしたら・・・どうしたらいいの?先輩・・・」
ジニョンはマイクを持った手で溢れ出る涙を拭った。
そんなジニョンの姿にスンジョンは掛ける言葉が見つけられなくて
ただ一緒になって泣いていた。

結局心を紛らわすことなどできないまま、ふたりは帰ろうと階段を下りた。
その時、フランクはいつものようにカウンターで寛いでいた。
スンジョンが先に彼に気がついて、ジニョンの背中を指で突いて
「先に帰るわね」と後ろ手に手を振り立ち去った。

ジニョンは少し困惑したように彼を見て、二階へと戻った。
そして彼女は二階の手摺りに手を掛けて、螺旋階段の方へ
視線を向けていた。
少しして彼女の期待通りに黒い影がその螺旋階段を上ってくるのが見えた。

その影は次第に姿を現して、静かにジニョンの元へと歩み寄った。

「君が待っている場所に・・・
 こうして僕は一歩ずつ近づいている」

「あなたが辿り着く場所に、私はきっといないわ」

「いるさ・・必ず。」

「もしも・・・いたとしたら・・・
 あなただけじゃなくて・・・私も地獄に落ちるわね」

「君となら・・・落ちてもいいよ」

「本当に・・・罰が当たるわ・・・」

「罰?・・・とっくに覚悟してる」

「フランク・・・」

「今日・・教会に行って来たんだ・・・」

「・・・・・」

「神に祈って来た・・・
 どんな罰でも受ける・・・その代わり・・・
 君だけはこの手に残してくれと・・・」フランクは淡々と続けた。
「それが叶うなら・・・
 この魂を差し出してもいい・・・そう言って来た」
そう言い終った時の彼の薄い笑みは余りに寂しげだった。

「私を賭けたの?神様と」

「ああ・・そうだ。」

「私は・・・神の手を取るかもよ」

「いいや・・・君は僕の手を取るよ・・・
 ・・・もしも・・・そうでなかったとしたら・・・」

「そうでなかったとしたら?」

「・・・奪い取るしかない。」

彼のその言葉は狂おしいばかりに攻撃的だった。
しかしそれとは逆に、その目は寂しげな翳りを漂わせたままだった。

ジニョンはフランクの言葉を、心を震わせながら聞いていた。
“あなたが愛しくてたまらない”心の奥で叫ぶ自分の声が胸を突き上げると
涙が込み上げて仕方なかった。

そしてジニョンは自分の心のなすがまま彼にゆっくりと近づいて、
少し背伸びをすると彼の首に腕を回し、無言で彼を抱きしめた。

「ああ・・・フランク・・・」
ジニョンは溜息を吐くように彼の名を呟いて、彼の肩に頬を乗せた。
「少しだけ・・・こうしていてもいい?」

「少しだけ?・・」 フランクは小さく笑った。

「昔から・・あなたの肩にこうするのが好きだったの・・・
 こうしているとね・・・すごく・・落ち着くことができて・・・
 気持ちが良くて・・・」

「僕も・・・こうして君を抱いていると、気持ちがいい」

「このまま・・・周りのこと・・何もかも忘れてしまえたら・・・
 ふたりだけの世界で生きられたら・・・」

「忘れる?それはできないでしょ?・・・
 それにもう僕もそんなことはできない・・・君の為に・・・」

「私の為・・・」

「そう・・・全て君の為だ・・・」

「・・・・私はどうしたらいいの?」

「ただこうしていればいい・・・ただ僕を・・
 信じていればいい・・・」

「・・・・・・」 
彼女はその後、言葉を繋げないまま、ただ彼を抱きしめていた。
彼もまた、自分の全霊を掛けて自分の腕の中に戻った彼女を
強く抱きしめた。

幾ばくかの時を互いに抱きあい、互いの温もりを確かめ合った後
フランクはそっと彼女の肩に手を置き、彼女を自分から少しだけ離した。
そして彼女に向き合い、彼女をしばらく愛しげに見つめた後
彼女の頬を両手でそっと挟み、くちづけた。
それは昨日の奪うような激しいものではなく、まるで労わるような
優しいくちづけだった。

互いの唇から漏れる吐息がひとつになると、まるで心までもが
交じり合い、抱きあう錯覚を覚えた。

彼のくちづけが、“愛してる”と泣いているようだった。


  そうでなかったとしたら・・・


  ・・・奪い取るしかない・・・


彼はそう言った・・・
そして彼女はわかっていた


彼はその言葉通りに・・・彼女を・・・

とうの昔に・・・神から・・・




      ・・・奪い取っていたと・・・



































2010/12/24 22:12
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passion-23.ただひとりの人

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≪いいか・・必ず・・だ。そこで君は待っていればいい。
 僕が行くまで・・・待っていればいい。≫


「何よ!・・・人の気も知らないで・・・
 待ってたのに・・・来なかったのはそっちじゃない!
 一時間も待ってたんですからね!
 ぎりぎりまで・・・待ってたんだから・・・」
 
ジニョンは既にフランクが立ち去ってしまった後に
誰もいない空間に向かって怒鳴り散らしていたが、
最後は小さく呟くだけだった。

「信じようとしたのに・・・信じられなくするのは
 いつだって、あなたじゃない・・・」




ジニョンはむしゃくしゃした気分で更衣室に向かっていた。

フランクに激しく奪われた唇は甘く疼いて、悔しいことに心は
強く彼を求めていた。
ジニョンはその唇を制服の袖で思い切り拭い、自分の心の中から
彼が消えてくれることを願った。
しかしそれは到底無駄なことだった。
彼女は上下の唇を強く合わせて、まだ収まらない疼きを堪えたものの
それもまた思うように行かなくて、遂には、愛おしげに唇を
指でなぞっていた。

ジニョンはバックヤードへ向かう途中、フランクをなじりながらも、
自分の頭の中がどうしようもない程に彼でいっぱいであることを
認めざる得なかった。
それがまた悔しくて、悲しくて・・・何より・・愛おしかった。

その時、すれ違ったスンジョンの声も届かないほどだったが、
スンジョンが慌てて無理やりジニョンの腕を掴んで彼女の存在を
気づかせた。「ジニョン!」

「あ・・先輩・・・」

「どうしたの?その格好・・また何かあった?
 あっ・・また300本の薔薇にキスされたとか?」

「イ・スンジョン・・・」 ≪どうしてあなたはそんなに勘がいいの?≫
ジニョンはスンジョンを前にして、何故か自分の感情を抑えきれなくなって
人前もはばからず彼女に抱きついて泣いた。

「ジニョン・・・どうしたの?」
スンジョンはジニョンの突然の行動に驚き、おろおろと
彼女の乱れた髪を撫でていた。



ジニョンとスンジョンはジニョンの憩いの場でもある屋上に上った。

「キム会長の娘か・・・あのお客様がね・・・」

「・・・・・」

「でも彼と彼女って、結構年が離れてない?」

「恋愛できないほどの年齢差じゃないでしょ?」 
ジニョンはそう言いながら涙鼻を噛んだ。

「そうかな~それで彼、何だって言ったの?彼女のこと・・」

「・・・“誤解して無いだろ?”って・・・
 でも、私が彼女のこと悪く言ったら、
 “彼女のこと、そういう風に言うな”って・・言った。」

「あ・・それって危ないわね」 スンジョンは間髪入れずにそう言った。

「彼女は傷ついているだけだって・・・」

そしてスンジョンは妙に納得したように言葉を繋げた。
「傷ついた女に男は弱いのよね」 

「・・・・・」 
スンジョンの度重なるジニョンの気持ちを逆なでするような言葉に
ジニョンは彼女を横目に見て、無言で睨んだ。

「ごめん・・・そういうつもりじゃ・・・
 一般論よ・・一般論・・彼は違うって・・きっと・・たぶん・・」

ジニョンは一瞬黙り込んだものの、急に大声で笑い出した。

スンジョンは彼女の急変した様子に驚いて、“どうしたの?”と
ジニョンの額に手を当てた。

「だって・・・可笑しい・・・」 
ジニョンはスンジョンにお腹を抱えて笑っているように見せたが、
本当のところは無理をしているようにしか見えなかった。
それでもスンジョンは彼女のそのお芝居のような仕草に付き合った。

「何が?・・何がそんなに可笑しいのよ!」 スンジョンは口を尖らせた。

「彼は今、このホテルを買収しようとしている、言ってみれば
 私達の敵でしょ?
 それなのに私ったら・・彼のそばにいた女の子に焼もち焼いて
 先輩はそんな私を一生懸命励まそうとしているのよ・・たぶん・・
 ちっとも励ましになってないけど・・」

「悪かったわね」 スンジョンはじろりとジニョンを睨んだ。

「それどころじゃないはずなのに・・私達・・」 
ジニョンは次第に表情を暗くして、今度は呟くように言った。

「そう言われて見れば・・そうね・・でも・・・」

「・・・・」

「いいじゃない!・・今はホテルのこと、少しだけ忘れて
 女としての気持ちをぶちまきなさいな」

「・・・先輩・・・」

「ん?」

「私・・・少し大人気なかったかな・・・」

「あなたはいつも大人気ないけど・・」

ジニョンはスンジョンをまたぎろりと睨んだ。
そして、直ぐに“ふっ・・”と笑った。

「彼女のことも・・・
 彼女に起きた昨夜の事件のこと・・
 きっと彼女・・凄く傷ついたのよね・・でもそんなこと私
 少しも考えないで・・・ただ自分のことばかり・・・

 私ね・・教会で彼を待っている間・・凄く心配だったの
 彼が来ないなんて・・可笑しい
 怪我でもしたのかしら・・病気でもしたのかしら・・
 電話しても繋がらなくて・・・私凄く不安で・・・
 それで・・・ホテルに帰って来たらあんな事情を聞かされて・・・
 彼は・・彼女のために私のところに来なかった・・
 いいえ、来られなかったことがわかって・・・理解したの
 でも私・・・あんなに心配していたのにって・・・腹を立ててた・・・
 だから、あの後彼に会っても憎まれ口しか言えなくて・・
 教会にも行ったのに、行ってないなんて嘘ついちゃって・・
 何だか・・バカみたい、私・・・」

「それは女心として、当然よ」

「スンジョン先輩・・女心・・わかるの?」

「ソ・ジニョン!あなた、いい加減にしてよね
 私をいつまで馬鹿にすれば気が済むの!」

スンジョンは、ジニョンの頭を叩くそぶりをして見せた。

「きゃ!ごめんなさい!」
 
ジニョンは彼女の手から自分の身を守ろうと頭を抱え込んだ。

ジニョンはスンジョンとの会話の中で、気持ちを落ち着かせる内
フランクが、このホテルを買収し、潰そうとしているのではなく、
守ろうとしているのだと確信していた。

でももしもそうだとしても・・・
彼の手段は、決してジニョンにはありがたいことではなかった。
≪今こうして私の周りににいる掛け替えの無い仲間達を守ること・・・
それが第一でなければならない≫

それはジニョンの偽らざる想いだった。

そのためならば・・・フランクと対決することもあるかもしれない。
愛しくてたまらないフランクと戦うのかもしれない。

傍らでくったくなく笑い転げるスンジョンを見つめながら
ジニョンは思った。

≪・・・ここを無くしたくない
 仲間達との絆を・・・決して・・・無くさないわ・・・≫





フランクはユンヒの部屋に戻っていた。

「私はもう大丈夫です・・フランクssi・・」
ユンヒは真直ぐに彼を見て言った。

「そう・・・」

「あの方は・・・」 ユンヒが言いにくそうに言葉を淀ませた。

「わかった?・・」

「・・・・・」

「僕が彼女を追いかけたこと・・・」

「ええ・・はっきりと。」 そう言ってユンヒは笑った。
フランクもまた、俯き加減に笑っていた。

「彼女は・・・僕の・・・
 僕の・・・ただひとりのひと」 
フランクは静かな口調でジニョンの存在を率直に彼女に告げた。

「・・・そうですか・・・」 ユンヒの胸の内は不思議と納得していた。
「でもあの方はソウルホテルの・・・」

「そうだよ・・ホテリアーだ・・きっと有能な・・」 フランクの言い方は、
まるで自分の誇らしいものを自慢しているように聞こえた。

「だったらどうして・・父と?」

「このホテルは彼女にとって幼い頃からの夢なんだ
 ホテリアーになるのが夢で・・努力してそれを叶えた
 本当に大切な場所なんだ・・・彼女にとって・・・
 だから・・・僕は・・ここを守らなければならない」

まるでそれが自分の使命かのように話すフランクが
ユンヒには更に美しく輝いて見えた。

「君には悪いけど・・・
 僕は君のお父さんを利用した・・・」

「父を利用した?
 でもどうして・・そんなことを私に?
 私が父にそのことを話すとは思わないんですか?
 そうしたら、あなたは困ったことに・・・」

「なるだろうね・・きっと。」

「なら、どうして?」

「話す?」 フランクはユンヒの顔を下から覗き込んだ。

「・・・・・・」 ユンヒは言葉に詰まった。

「ふっ・・いいよ・・話しても・・・でも・・
 君には正直に言わなければ・・そう思った。
 もしかしたらこれから僕は・・
 君の父上を窮地に陥れるかも知れない
 そうしたら、君の立場にも影響があるだろう」

「・・・・・」

「それでも・・・強く生きて欲しい・・・
 いいかい?」

「私は・・・・・あなたとは・・生きられないんですね」

「ああ・・生きられない。」

ユンヒは余りに率直なフランクの言葉に、一度小さく溜息をついて
直ぐに背筋を伸ばし、彼に向き直った。

「わかりました。」 気品の中に不思議と潔さを漂わせたユンヒの態度に
フランクは柔らかく微笑んだ。

「実は私・・・
 前にあなたに言われたこと・・・少し堪えてました」

「ん?」 フランクは何のことか直ぐには思い出せなかった。

「私が・・・自分自身の強さを信じてないって・・」

「ああ・・」 彼は思い出したように頷いた。

「私・・・今まで全てに甘えて生きていたみたい
 父を恨んで・・・
 でもそれって・・父にも自分自身にも甘えていたんだわ・・・
 あなたにもきっと甘えようとしたのかも・・・
 あなたはそれを感じて、
 今こうして私を突き放しているんですね」

「甘えてもいいさ」 彼は本気でそう言った。

「ふふ・・オッパとして?
 私・・・あなたの妹さんの代わりになるかしら」

「いや・・・妹の代わりはいない・・・
 この世に、その人の代わりになる人なんていない。
 そうじゃない?」 
そう言ったフランクの心の中にはジニョンの面影が揺らめいていた。

「ええ・・そうですね・・・そうです。
 でもあなたを、オッパとお呼びするのは構わないでしょ?」

「ああ・・」 彼の笑顔は優しさに満ちていた。

「私、今日・・ここをチェックアウトします」

「そう?」

「あなたがあの人を追いかけて部屋を出て行った後
 色んなこと想像して・・・
 きっとあの人はあなたの大切な方なんだろうって・・
 でも不思議と焼もちは焼かなかった
 とっても素敵に見えたからだわ・・・
 彼女を追いかけていく、あなたが・・・」

「・・・・・」

「そして自分のことも色々考えてました・・・
 このままじゃいけないって・・・だから一度家に帰って、
 父に自分がしたいことを正直に話してみます・・・」

「したいこと?」

「ええ。・・ホテル経営の勉強をしてみたいんです、私・・
 ソウルホテルは本当に素敵な場所です
 実はホテリアーの勉強がしたくて、ここへ来てたの・・
 父がここを買い取るという話を聞いていたものですから
 でも・・・ここは・・・
 父の手に委ねるべきではありません」

「僕もそう思う。」 ふたりは互いに一致した考えに笑った。

「守らないと・・・彼女の為にも・・・
 きっと韓国の為にもです」

「韓国の為?グローバルだね」

「あら・・私真面目に言ってるんですよ?
 ソウルホテルを無くすのは、国の損失です。」

「そうか・・・」

「それから・・・私、アメリカに行くつもりです」

「アメリカに?」

「ええ、勉強の為に・・できればホテルで働きながら
 学校に通いたいと思ってるんです」

「ホテルで?なら・・いい所がある・・・
 勉強は、できる人間の下でした方がいい・・・
 よかったら僕が紹介しよう」

「ホントに?あなたができる人間とおっしゃるなら
 きっと安心ですね」

「ああ、間違いない男だ・・・レイモンド・パーキンという
 ちょっと癖のある男だけど・・・」

「レイモンド・パーキン・・さん」

「きっと彼は・・レイ、と呼べと言うはずだよ」 
フランクはそう言って、ユンヒにくったくのない笑顔を向けた。

「レイ・・・・」

「ああ・・・」

「今度・・紹介しよう」

「ええ・・お願いします・・それから・・・
 私・・祈っています・・・
 彼女と・・あの方とあなたの心が早く通じ合いますように・・・
 そして、大事な妹さんともお会いできますように・・・」

「ありがとう」

  ユンヒ・・・

  いつの日かきっと、君にも
  君の心を救う人が現れるだろう

    この僕がジニョンによって救われたように・・・


彼女の幸せを願いながらフランクは、妹ドンヒもまた
心救われる場所に居てくれることを願わずにはいられなかった。




ソウルホテルの株主総会が迫っていた。

その日、ソウルホテルの運命は決まる。


オ・ヒョンマンから提出されたリストラリストをフランクは掲示するよう
彼に命じた。

「社長の承認は・・」

「それは後で。・・・とにかく、ホテル上層部の意思表示として
 広く掲示してください」

「わかりました。」

ヒョンマンは、これでテジュンを陥れられるものと考え、
意気揚々と部屋を出て行った。


「ボス・・・いよいよだな」 レオもまた、ホッとしていた。
≪これで何もかも上手く行く≫そう思った。

「ああ・・・レオ、これを正式な書類に・・」

「了解。」

しかし成功の道を辿るべく彼らに指令を出したフランクの顔は
決して晴れやかではなかった。

それは・・・心に掛かるたったひとつのことが原因に他ならない。

≪僕が行くまで・・・待っていればいい≫
あんなにも攻撃的に思いの丈をぶつけておきながら
フランクはジニョンに対して未だ臆病な自分の心を胸の内で笑った。

彼は席を立ち、ベランダに出ると一度空を仰ぎ見て静かに目を閉じた。



   こうすることを・・・

   僕の・・・ただひとりの人は・・・



       ・・・許してくれるだろうか・・・


       

   

       
    









 



 



 


2010/12/21 15:57
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passion-22.熱いくちづけ

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フランクは自分が、ジニョンとテジュンの前からまるで逃げるように
立ち去ってしまったようで、情けなく思っていた。

自分の部屋の前に車を戻した後、部屋には戻らず、今来た途に歩いて引き返した。
ユンヒの部屋へとゆっくりと坂を下りながら、幾度もため息を吐く自分を
フランクは寂しく笑った。

彼が寝室に入ると、彼女はまだ静かに眠っていた。
彼はユンヒとの約束通り、そばにいるつもりで彼女が眠るベッドの横に
小さな椅子を運び、座った。

しかしフランクはユンヒを気遣いながらも、つい今しがたジニョンと
激しく言い争ったことが頭を離れず、心穏やかでいられなかった。
彼女の態度に思わず大人気なく感情をぶつけた自分にも、ほとほとうんざりだった。

≪どうして僕は彼女にあんなにも腹を立ててしまうんだろう
 どうしてああいう言い方しかできないんだ?
 いつもそうだった・・・
 最初からそうだった・・・出逢ったあの日からずっと・・・
 彼女の一途さに、彼女の奔放さに、
 彼女の全てに腹を立てて・・・僕はいつも怒っていた・・・
 本当はいつも・・どこでも・・・愛しくてたまらなかったのに・・・≫
 
フランクは仕事の時や、他の人間に対する時と違って、
ジニョンへの感情が上手くコントロールできなくなる自分が
情けなくて仕方なかった。




夜が明けて、出窓から差し込む日差しに誘われるように、
フランクは閉じていたまぶたをゆっくりと開いた。
そしてベッドに視線を移すと、ユンヒがこちらを黙って見つめていた。

「起きてたの?」 

「ええ・・・」

「いつから?」

「少し前から」

「いつの間にか寝てしまったんだな・・・
 起こしてくれれば良かったのに」

「見ていたかったから・・」

「何を?」

「美しいものを・・・」 ユンヒはフランクをしっかり見つめて言った。

「それは光栄だな・・」 フランクはふっと小さく笑った。

「昨日は・・・ごめんなさい」

「また謝るの?」

「それしか・・あなたに言える言葉がありません・・恥ずかしくて・・」

「気持ちは落ち着いた?」

「・・・どうして」 ユンヒは頷きながら、そう聞いた。

「ん?」

「どうして、
 こんなに優しくして下さるんですか?」

「どうしてって?」

「あなたって・・・凄く怖いかと思うと優しくて・・
 優しかったかと思うと・・」

「そんなに怖いの?・・僕は・・」 フランクはそう言って眉を下げた。

「・・・・もう怖くありませんけど」

「そう?」

「でも・・あなたが朝までいて下さっているとは思わなかった・・・
 さっき目が覚めて、どんなに驚いたかわかります?」
ユンヒは少しおどけたように笑って言った。

「・・・そばにいると、約束したから・・君と・・」
フランクはユンヒを温かい眼差しで包み込んで、そう言った。

「・・・・・」

「ふっ・・昨日君にオッパと呼ばれて、少しだけ、
 お兄さんというものに戻ってみたくなったのかも・・・」

彼は遠くを見つめるようにしてそう言った。

「お兄さんに・・戻る?」

「ああ、僕にはね・・君と同じ年位の妹がいるんだ」

「そうですか・・・妹さんは今どちらに?」

ユンヒがそう訊ねると、フランクは一瞬寂しそうな顔をした。

「あ・・何か、いけないこと聞きましたか?」

「あ、いや・・・何処にいるのか、わからないんだ・・・
 生きているのか・・死んでいるのか・・・それさえわからない
 君を見てるとね・・・いつも思ってしまう・・・
 元気にしてるだろうかって・・
 君のように傷ついてないだろうか
 寂しい思いをしていないだろうか・・・そう思ってた
 そうだな・・君と出会ってから・・・
 余計にそんなことを思うようになった気がする」

「あ・・ごめんなさい・・」
少し俯き加減に、ゆっくりと妹のことを語るフランクが余りに寂しげで
ユンヒは適当な言葉を探せないまま、また彼に謝っていた。

「はは・・また、ごめんなさいか・・」

「ふふ・・・」




その時、部屋の玄関から呼び鈴が鳴り、鍵が開けられる音と共に
ジニョンの声が聞こえた。
「失礼致します、ホテル支配人です・・入っても宜しいでしょうか」

「どうぞ・・」 ユンヒが答えた。

ジニョンはメインルームのドアをゆっくり開けて、ワゴンを引きながら現れた。

「お客様・・・お邪魔致します」

部屋に入ったジニョンは、その部屋から開かれた寝室のドアの向こうに
こちらを振り向いたフランクを見つけて一瞬驚いた顔をした。

フランクは表情を変えることなく、ジニョンからゆっくりと顔を背けた。

「あ・・あの・・・朝食をお持ち致しました。」

「ああ、ありがとうございます」 
ユンヒはベッドの上で座ったまま答えた。

「でも・・あの・・おひとり分だけしか・・その・・
 お客様の分も直ぐにお持ち致しますので
 しばらくお待ち願えますでしょうか」
ジニョンはフランクに向かってそう言いながら、テーブルの上に
料理を並べ始めた。

「あ、いや・・僕は結構です・・心配には及びません」
フランクはジニョンの顔を見ないままそう答えた。

「そうですか・・・あの・・
 お食事はこちらのテーブルに並べさせて頂きましたので
 ごゆっくりお召し上がり下さい・・
 後でまた食器を下げに参ります
 では、これで失礼致します・・
 何かございましたら何なりとフロントの方へ・・
 のちほど、総支配人がご挨拶に参りますので」
ジニョンは今度は少し気持ちを落ち着けて、支配人然と頭を下げた。

「ありがとうございます・・
 ご心配お掛けして申し訳ございませんでした」
ユンヒはジニョンに向かってそう言いながら、フランクとジニョンの
互いを意識したように無視する様子がとても気になっていた。


フランクはというと、ジニョンが部屋を出て行く姿に背を向けたままだったが
心は間違いなく彼女に研ぎ澄まされていた。

そして彼女が閉めたドアの音に、目を閉じ一度俯いた彼が、
次の瞬間、おもむろに席を立ちドアの方へと急いで向かった。


フランクが部屋から外へ出ると、ジニョンはまだその場所にいた。
互いに言葉を探せず、しばらくは睨み合うように見詰めていた。

ジニョンの方が先に彼の強い眼差しに耐えられなくなって、
逃げるように彼の元を離れた。
フランクは彼女のその態度にどうしようもない苛立ちを覚えながらも、
心の赴くまま逃げる彼女を追いかけた。


建物の中に逃げ込んだジニョンが行き止まりまで追い込まれ
結局逃げた相手のフランクと対峙する結果となった。

「驚いてないわ。」 
ジニョンは行き止まりに背を向けてフランクに向き直ると
突然そう言った。

「・・・・・・」 フランクは無言で彼女に近づいていた。

「あなたが彼女のお世話をしていること昨日聞いてたし・・」

「だから?」

「だから・・・さっきは驚いたわけじゃない・・
 ただ・・朝もいるとは思わなかったけど・・」 
ジニョンの最後の言葉は殆ど聞き取れないほどに小さくなった。

「昨日・・」

「昨日のことごめんなさい!行けなかったこと・・」 彼女は彼の言葉を
強い口調で遮ったが彼はそのことにお構い無しに続けた。

「どうして待っててくれなかった?」

「だから・・最初から行かなかったって・・」

「僕が必ず行くこと・・わかってたでしょ?」

「だから・・」

「わかってたでしょ!」 フランクはジニョンに対して一歩も引かなかった。

「何よ!あなたっていつだって・・横暴!」

「君が正直じゃないからだ」

「正直って?」

「行ったでしょ?」 フランクはジニョンを射るような目で見た。
「約束通りに・・・君は来てくれたんでしょ?あの教会に」

「・・・・・」
「言ってごらん?正直に。」

フランクの諭すように問う眼差しに圧されて、ジニョンは観念した様に口を開いた。

「ええ!行ったわよ!だから何なの!あなたは来なかったくせに!
 私より、彼女の方を・・」

「だから・・嘘を言ったの?」

「・・・・・」

「彼女とのこと・・誤解はしてないだろ?」

「誤解?」

「ああ・・彼女は・・」
「彼女・・・ユンヒさん・・キム会長のお嬢様だそうね」

「調べたの?」

「ええ、昨日の事件の後、テジュンssiが・・・」

「そう・・」

「彼女もこのホテルを調べてるの?
 彼女・・すごい子ね・・
 ホテルの御曹司のヨンジェに近づいて
 父親が買収しようとしているホテルに泊まって・・
 あなたと一緒に内部調査?
 彼女がヨンジェで・・あなたが私・・そういうこと?」


    ・・・だめ・・・


「彼女をそんな風に言うな・・・」

「庇うの?・・それとも同じムジナだから?」


    ・・・こんなこと・・・言ってはだめ・・・


「あの子は、父親の仕事とは関係ない
 ただ傷ついているだけだ」

「そう・・・随分と彼女がわかるのね」


    ・・・こんなこと言いたいんじゃない・・・



「何が言いたいの?」

「何も?」

「そんなことより、僕が何故、ホテルを買収しようとしているか
 その理由は聞かないの?」

「その買収で数千ドル、いえ数億ドル?
 とにかく莫大な利益が入るのよね。」


    ・・・違うわ・・・


「本当にそう思ってるの?」
「じゃあ、何だって言うの!」

    ・・・そうじゃなかった・・・本当は・・・

    あなたを信じる何かが欲しくて・・・

    あなたに逢いに行ったのに・・・


「僕が!何の意味も無く、このソウルに来たと・・
 ただこんなホテルの為だけに来たと・・
 本気で思ってるのか!」
フランクの声が荒々しくなって、ジニョンは一瞬びくりと縮み上がったが、
決して怯むまいと胸を張った。

「ええ!あなたは有能な狩人だもの・・
 狙った獲物は逃がさないんでしょ?
 ホテルも!・・・ユンヒssi・・も?」

ふたりは互いの言いようのない怒りをコントロールできないまま
睨み合うしかなかった。


「もういい」フランクは吐き捨てるように言った。

「何がいいのよ・・はっきり言ったらいいじゃない!」


    ・・・私って・・・本当に素直じゃない・・・


「もういい!」
彼は大声で彼女を怒鳴りつけながら彼女ににじり寄った。

そして彼女を突然壁に押し付けると、彼女の髪を両手で鷲掴みにして
その頭を壁にグイと乱暴に押し付けた。
その勢いで彼女の顎が上がり、フランクとの視線が無理やり交わった。

「いいか・・・良く聞け・・・
 ホテルは・・必ず僕のものにする
 誰が何と言おうと・・・君がどんなに僕を非難しようとだ
 どんな手を使っても・・・
 僕は必ず・・自分の思うように肩をつける」

そして彼はそのまま彼女の唇を自分の唇で強く塞いだ。
深く重なった彼の唇が、彼女の心までも奪い取るかのように
彼女の呼吸を執拗に混乱させた。
彼女は彼の有無を言わせぬ行動にたじろぎ、彼の胸を押し返しながらも
その激しく熱いくちづけに脱力していく自分を感じていた。
次第に彼に酔っていく自分を確認していた。


そして彼の唇は彼女が彼に落ちたことを見計らったかのように
その瞬間にあっけなく離された。
その時彼女は“離れたくない”と叫ぶ自分の声を心の中に聞いた。

フランクは彼女の髪に押し入れた長い指をそのままに
彼女の鼻先でその目を睨み付けたまま言った。
「いいか・・必ず・・必ずだ。
 君はそこで・・・待っていればいい。
 僕が行くまで・・・待っていればいい。」

そう残してフランクはきびすを返し、彼女の前から冷たく立ち去った。


ひとりそこに残されたジニョンはしばし呆然と立ち尽くしていた。
激しいまでの彼のくちづけに、小刻みに呼吸を繰り返して、
その息苦しさから自分を救い出そうと懸命だった。

ジニョンは彼の手によって乱された髪の先で辛うじて止まっていた
リボンを乱暴に引き抜き、黒髪を肩に落とした。



      「何よ!


          ・・・何よ・・・」・・・


























2010/12/20 09:49
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passion-21.すれ違い

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フランクはジニョンに今度こそ全てを告白しようと決めていた。
そしてふたりで、問題に立ち向かうことはできないのか・・・
模索してみようと・・・。

彼は腕時計に視線を向けながら、もう片方の手に上着を取った。
その上着の中の携帯電話が鳴ったのはその時だった。

「ハロー・・」 その電話は仕事用の携帯電話だった。

『助けて・・』

「だれ?」

『フランクssi・・助けて!』
押し殺したように発せられたその声は酷く緊迫していた。

「ユンヒssi?」 フランクは聞き覚えのある声の主を確認しようと
呼び掛けてみたがその直後にプツリと切れてしまった。

フランクは電話の向こうで何かが起きていることを確信して
部屋を出ると、ユンヒが泊まっていると聞いたパールヴィラへと急いだ。


その部屋はサファイアヴィラを少し下ったところにあった。

フランクがそこに駆けつけると、坂の下からも同じように走って
こちらに向かってくるふたつの影が見えてフランクは足を止めた。

「この部屋の担当は?」
「ソ支配人です」
そう交わしていたのはハン・テジュンとベルボーイのヒョンチョルだった。

テジュンもまた、前方のフランクを見て足を止めた。
「お客様・・どちらへ?」

「知り合いがここに・・電話が・・」 フランクは声を落として
そこまで言うとテジュンに向かって唇に人差し指を立てた。

テジュンもまた彼の意図を察して頷くと、黙ってキーカードを
ドアに差し込んだ。

フランクとテジュン、その後からヒョンチョルが部屋の中に入ると
男に組み敷かれ足をバタつかせている女が見えた。
その女はユンヒではなかった。

男は突然の侵入者に驚いて、暴言を吐きながら飛び掛って来た。
フランクが軽く男を交わすとその後に続いていたテジュンが
男の腕をねじ上げた。

ソファーの上で震えていた女が、フランクに「ユンヒが・・」と
もうひとつのドアを指差した。
中からは騒音にも似た激しい音楽が漏れていた。
内側からロックされたそのドアをフランクが躊躇無く蹴破って中へ入ると、
ベッドの上で男にのしかかられ激しく抵抗しているユンヒの乱れた姿が
視界に入ってきた。
フランクは彼女から男をはがし取るように掴みかかると、
男を数発の拳だけで瞬時に伸してしまった。

ユンヒは酷く興奮していて、最初フランクの腕をも撥ね付けたが
自分に触れている手がフランクのものだと気がつくと安堵したように
彼の首に腕を巻きつけ、泣きじゃくった。

ユンヒは服を無残にも剥ぎ取られ、白い肌が露になっていた。
フランクは一旦彼女を自分から離し、自分の上着を脱ぐと、
彼女の素肌をその上着で包み込みしっかりと抱きしめた。
そうして彼女の震えを優しく沈めていった。

テジュンはもうひとりの男をヒョンチョルに任せ、寝室に入ると、
まず騒々しい曲を止めた。
そしてユンヒの安否と、加えて、フランクによって床に伸された男が、
辛うじて息の根は有りそうだとわかり、ホッと胸を撫で下ろした。

そこへヨンジェが部屋に入って来て、中の様子に愕然とした。
ヨンジェは急を知らせる為フロントに掛かって来たチョ・ウンジョからの
電話の内容をたった今伝え聞き、慌てて駆けつけて来たのだった。
その男達はヨンジェの遊び仲間だった。

そしてヨンジェとウンジョも古くからの友人同士だった。
最近ウンジョからユンヒを紹介され、それからというもの彼は
とかく彼女に夢中だった。

ヨンジェは、ユンヒを大切に思っていた。
今までのような自分の粗暴を改め、簡単には心を開いてはくれない
彼女に対して、誠意を持って接しているつもりだった。
まさか自分の仲間が彼の名前を使って彼女達を信用させ、
このホテルにやってくるとは・・・
想像できなかった自分をヨンジェは悔やんだ。

ヨンジェは自分の目の前で既に伸された男達を無理やり立たせると
怒りに任せて彼らに拳を振るった。
そして、寝室で震えるユンヒに合わせる顔も、掛ける言葉も無く、
男達を部屋から連れ出した。


「お客様・・・警察に訴えられますか
 そうなさることをお薦めします・・私の方から警察に・・」 
テジュンはフランクの腕の中でまだ微かに震えているユンヒに
向かってそう言った。

フランクは少し驚いたようにテジュンの顔を見た。
こんな事件がホテルの中で起きたことなど、隠したがるのが
ホテル側の人間の本音だろうと思ったからだった。

「いいえ!いいえ!・・・誰にも言わないで・・
 お願い・・誰にも・・言わないで・・・」 
ユンヒはフランクとテジュンを交互に見て、請うように言った。


「ここは僕が・・・彼女は、知り合いのお嬢さんなんです
 幸いなことに、大事には至っていない・・・
 訴えるかどうかは・・・もう少し考えさせましょう」
フランクはテジュンに向かってそう言った。

「わかりました・・・では・・・宜しくお願いします
 何かございましたら、お部屋担当のソ支配人に、
 お申し付け下さい」
テジュンがそう言うと、フランクは目を閉じて、溜息をつくように頷いた。


テジュンはフランクに一礼すると、ウンジョを伴ってヒョンチョルと共に
ユンヒの部屋を出た。


本館へと向かいながらテジュンは無線のスイッチを入れた。
「ソ支配人を呼んでくれ」 

『ソ支配人は只今外出中です。』

「外出?今彼女は仕事中だろ?・・」


『大事な用がおありだとかで、イ支配人がその間、
 任務を交代しておいでです』


「・・・・」≪何やってるんだ!≫

 

 


「少しは・・・落ち着いた?」 フランクはユンヒに優しく声を掛けた。

「ええ・・・」 ユンヒは消え入りそうな声で小さく答えた。

「どうして、あんなやつらを部屋に?」

「ごめんなさい」

「こういうことが想像できない子供じゃないでしょ?」

「ごめんなさい」

「ふっ・・・謝ってばかりだね」

「ごめんなさい・・・」 ユンヒはフランクの背中に回した腕に力を込めると、
彼の胸に顔を押し当てるように埋めて更に謝った。

ユンヒはフランクに対して恥ずかしくて仕方なかった。
日頃のイライラが募り、友人達と酒を飲んで遊んでいたものの
「ヨンジェがユンヒの誕生日を祝いたいと言っている」
という男達の話を鵜呑みにして、部屋に彼らを招き入れてしまった。

自分のうかつさが招いた羞恥をフランクに知られてしまったことが
無性に情けなかった。

それでも、温かく心地良い彼の腕を離したくなかった。

「少し休むといい」

「・・・・・」 フランクはユンヒをベッドに静かに横たわらせると、
自分の上着の代わりにブランケットを彼女に優しく掛けた。

「オッパ・・・」 ユンヒはすがるように彼を見上げて、そう呼んだ。
「ん?」
不思議な感情だった。愛しい感情だった。
きっとフランクはユンヒのその瞳の中に遠い日に置き去りにして来た
妹ドンヒを見ていたのかもしれない。

「そばにいてくれる?・・オッパ・・・」
「ああ、大丈夫・・・オッパは君のそばにいるよ・・・
 だから心配しないで・・・ゆっくりお休み・・・」

フランクは彼女にそう言って、その髪を優しく撫でた。

フランクはテジュンがホテルの勤務医に用意させ届けてくれた
沈静剤を彼女に飲ませた。
そしてしばらくしてフランクは深い眠りについたユンヒを確認すると
その部屋の鍵を持ってそこを出た。

≪とにかく、行かなければ≫
そう思って、車を走らせ、ジニョンとの約束の教会へと急いだ。


約束の時間は一時間も過ぎていた。

それでもフランクは教会へと続く階段を駆け上がり、静寂の中に
重い扉の音を響かせた。

そこにジニョンはいなかった。

フランクは静かに礼拝堂の前方へと進み、前にジニョンと共に座った
席に腰を下ろすと祭壇に視線を向けて手を組んだ。

≪ジニョン・・・≫

彼女がここへ来たのか、来なかったのか・・・
それすらもわからない
ただわかっているのは、今ここに自分ひとりだけだということ。

彼女の携帯電話も通じなかった。
フランクは目を閉じ深く息を吸って、開いた目をマリアの像に向け
その息を吐いた。

彼はしばらくそこに座ったまま、何も考えず時の経過を静かに見つめていた。

今この時に、静寂の中にある礼拝堂に聞こえてくるのは
彼自身の冷えた心が吐き出す虚しい白い息の音だけだった。




「マルガリータを・・それからメモを一枚・・」 

フランクは教会を出てホテルに戻ると、カサブランカに立ち寄り
ジニョンにメッセージを残そうとした。
しかし、言い表せぬ躊躇いが書きかけたその文字を彼の掌に消した。
ついさっきも、打ち込んだメールを送信せず、電話を閉じた。

ジニョンに逢いたかった。
彼女の声を聞きたかった。
しかし今、彼女の本音を聞く勇気がなかった。

フランクはカクテルを二杯だけ、一気に胃に流し込むことで、
ジニョンへの思慕から逃れられるように、少しだけ自分に抑制をかけた。




フランクがユンヒが眠るパールヴィラに向かって車を走らせていると
目の前に人影がふたつ見えた。
並んで歩くその影はジニョンとハン・テジュンのものだった。

その光景は、フランクが自分に仕掛けた抑制のタガを外してしまった。

フランクは彼らの前で車を停めると、おもむろにドアを開け降り立った。


つい先程、ジニョンはテジュンからユンヒの部屋で起きた事件の事を
聞いたばかりだった。
こういうケースの対応は女性の方がいいからと、テジュンに促がされ
テジュンと共にユンヒの部屋に向かっているところだった。

同じ女性として、ユンヒのことを思い、自分にできることがあればと
テジュンに同意もした。しかし、
車から降り立ったフランクが苛立ちを隠していない様子を見て、
ジニョンは逆に彼に対して腹立たしくなった。

フランクはジニョンを睨み付けていた。
ジニョンもまた彼を睨み返した。

ふたりの互いしか目に入っていない様子にテジュンもまた
呆れたように目を逸らした。


「どちらへ?」 
フランクがジニョンにではなく、本当は目に入っていなかっただろう
テジュンに向かって口を開いた。

「パールヴィラへ向かうところです・・・
 ユンヒssiのお部屋の担当の・・」 
テジュンがそう言い掛けるとフランクは彼の言葉を直ぐに遮った。
「彼女のことはしばらく私が引き受けると
 申し上げたはずですが」

「いや・・しかし・・我々ホテル側としましても
 このまま放っておくわけには参りません」

「ふっ・・また、警察沙汰にしようと?」

「それは・・お客様の・・ユンヒssiのお考え次第です」

「ハン総支配人・・・あなたはホテルマンとして実に失格だ。」
フランクは突然、テジュンに対して攻撃的な言い方をした。

「・・・・・」

「あのようなことがホテルの中で起きた場合、ホテルマンとして
 普通は穏便に事を運ぶことをまず考えるべきです
 ホテルという立場上、風評がいかに痛手となるか
 よもや、お忘れではないでしょう?」

テジュンは以前、自分が巻き込まれてしまった事件のことを
彼が言っているのだとわかっていた。
その為に、自分自身がソウルホテルにも、そして他のホテルさえも
居られなくなった事実は≪忘れられるものではない≫

「お言葉ですが・・私はホテルの対面よりも人の気持ちを
 重んじたい・・・
 この場合、彼女がしたいようにして差し上げるべきだと
 私は考えています」

「なるほど・・・よくわかりました
 ソウルホテルが再三に渡り、経営難に陥る理由の根本も
 そこにあることが。」

「どういう意味でしょう」 テジュンは顎を上げてフランクを睨んだ。

「全てが甘いんです・・あなた方の考え方全てが。」

「意味がよくわかりませんが」

「わからない・・・ですか・・・
 わからない人間はいつまで経ってもわからないものです。」
フランクはテジュンからジニョンに視線を移して嫌味を込め言った。

「それから・・・
 ユンヒのことは私が引き受けています
 それは彼女の意向でもあります・・・あなたがおっしゃる
 “彼女のしたいように・・・”それが
 この私がそばにいることだそうですから」

そう言いながら、フランクはまたジニョンを見た。
そして彼は彼女から鋭い視線を外さないまま、テジュンに言った。

「少し彼女と話をさせていただけませんか」

ジニョンは“どうぞ”と言わんばかりに身構えて、顎を上げた。

「お願いします」 
フランクはテジュンに向かい、席を外してくれ、という意味で言った。

「ええ」 テジュンは頷いて、彼らから少し離れた。



「今・・教会に行って来た・・・」 
フランクはジニョンに向かって静かに言った。

「そうですか」

「・・・僕が必ず行くこと・・わかっていたよね」

「ごめんなさい。・・・私は、行かなかったの。」 
ジニョンはそう言って、プイと横を向いた。

「そう。」 フランクは鋭い視線を崩さなかった。

「でも良かった・・お陰でお客様を救って下さったそうで・・・
 感謝いたします」 ジニョンもまた険しい表情のままだった。

「最後に一度だけだとお願いしたことも、
 聞き遂げてはくれなかったわけだ」 フランクは少し嫌味に笑った。

ジニョンは彼のその態度に怒りを覚えて声を荒げた。
「もし!仮に・・私が行ってたとしても。
 あなたは来てなかったんでしょ?」 

「それには理由があったこと・・聞いたでしょ?
 それを聞いたから、今君はここにいるんじゃないの?」

「でも!来なかった」 今のジニョンにはその理由など関係なかった。

「君も行かなかったんでしょ?僕を責めるのは
 お門違いだ。」 フランクもまた、彼女の態度に苛立ちを募らせた。

「・・・・・」 「・・・・」
ふたりは互いに歩み寄れないわだかまりを持て余しているかのようだった。

「聞かせてくれ・・・行かなかったことが・・・
 君の僕への答え?」

「・・・・・」

「はっきり言いなさい!」 
フランクの怒号にジニョンは一瞬ビクッと体を震わせた。

「ええ!そうよ」
しかし次の瞬間、毅然として答えていた。

「・・・・・」「・・・・・」
ふたりはまたも睨み合ったまま沈黙を数えた。

「そう・・・わかった。」

「な・・何よ・・そんなに睨んだって・・
 怖くないんですからね!」

「わかったと言ったんだ。君が怒る理由はないだろ?
 それじゃ、おやすみ・・・ジニョンssi」

フランクはジニョンを睨み付けたまま、きびすを返し、車に乗り込んだ。

走り去る彼の車を睨み付けながら、ジニョンは突然ぽろぽろと涙を流した。

テジュンは彼女の様子に大きく溜息をついた。

「泣くな!・・そんなお前を見たくない」 彼は乱暴にそう言った。

「じゃあ、見ないで!」 ジニョンは制服の袖で涙を拭った。

「何の話か知らんが・・お前・・行っただろ?・・」

「何のことよ!」

「さっき・・お前仕事中なのにいなかった・・
 探してたんだぞ」

「帰って来たんだから、文句ないでしょ!」

「お前!」

「もう帰ってもいいでしょ!
 お客様は彼が見てくれるって・・そう言ってるんだから!」
ジニョンは靴音をカツカツと立てながら、テジュンに背を向け
歩き出した。

≪最後に一度だけ・・・私だって・・
 勇気を振り絞って行ったのに・・
 来なかったのはあなたじゃない!

 私が待ってる間
 あなたはあの子のそばにいたのよ
 ホテルの人間に任せず・・あなたがそれを選択したのよ!≫


   あなたが怒る理由・・・


         ・・・何処にあるの!・・・
















 



 



 


2010/12/19 22:07
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-20.信じるということ

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ヨンスが部屋を出て行ってから、フランクはゆっくりと目を閉じた

10年前のあの日、ジニョンの父ソ・ヨンスの口から出た言葉は
今でもはっきりと心に残っている

≪君のような男のそばで・・・
  這い上がって生きることを強いられた男のそばで・・・
  これから先も果たしてジニョンは
  安穏と暮らしていけるのだろうか・・・・≫

ヨンスのその言葉がフランクにジニョンとの別れを決意させたことは
事実だった
そして今も彼の環境は何ひとつ変わってはいない

≪いや、10年前よりも尚、平穏とは無縁の世界に生きている
  それなら何故僕は、こうしてここにいるのか

  それは・・・ジニョン・・・
  君がいるからという以外に何の意味もないだろう
  僕はもう二度と・・・
  自分の心に嘘はつくまい・・そう決めたんだ
  誰が何と言おうとも・・・誰が深く悲しもうとも・・・

  そうすることが・・・
  僕自身の心のままに君を求めることが・・・
  君の幸せでもあると信じたい・・・
  いや・・信じているんだ
  それを否定するものなど・・・この世には存在しないはず・・・
  そうじゃなかったのか?・・ジニョン・・・≫





「ジニョン、これから従業員のみんなにカサブランカを
 見学させる予定なんだ・・お前も一緒に」

「今から?」 
ジニョンは正直そんな気分にはなれなかったが、
今はテジュンの言う通りにしようと思い、頷いた。

 

テジュンが10名程の従業員を引き連れカサブランカを説明しながら
階段を上から下りていると、ジニョンの視界にカウンターで寛ぐ
フランクの姿が入ってきた。
彼もまた、ジニョンに気がついたようだった。

ジニョンは慌てて彼から視線を逸らし、思わず二階に駆け戻った。
≪バカ・・どうして逃げたりするのよ・・≫

ジニョンが柱に寄りかかって、動揺してしまった鼓動を落ち着かせようと
手で胸を抑えた時、突然背後から誰かにもう片方の手を掴まれ驚いた。

フランクだった。

螺旋階段を彼女を追って上って来た彼が彼女の手を掴んだまま
心を絞るような目で彼女を見上げていた。

≪お願い・・・そんな目で・・見ないで・・・≫

「どうして逃げる?」

「来ないで・・・」 

「どうして?」

「あなたとは・・・もう逢えない・・」 

「それは君の本心?」 
階段の段差のせいで丁度フランクの目線がジニョンを
見上げるような位置にあって、彼女が彼を避けようと視線を落としても、
彼の真直ぐな眼差しから逃れるのは難しかった。

「・・・・・・」

「信じられない?・・・どうしても・・・」

「何を信じろと言うの?」

「僕が・・・君を愛してるということ・・・
 それが始まりで・・・それがすべてだということ
 それだけのことだ・・・」

フランクは真直ぐにジニョンの目を見て、彼女を説くように言った。

「わからないわ」

「わからない?・・・君の昔からの口癖だね
 僕がそれを聞く度、いつもイラついていたこと・・
 知ってたかい?」

「・・・・・・」 ジニョンは無言で悲しそうにフランクを睨んだ。

「どうしてわかろうとしない?」 フランクは苛立ちを隠せなかった。

「勝手なこと言わないで!」 ジニョンもまた同じだった。
しかし、その苛立ちとはまったく別の感情が彼女の胸を締め付けた。 

ジニョンは自分の胸が本当に潰れるのかと思った。
苦しくてたまらなかった。きっとホテルへの思いとフランクへの想いが、
自分の中で懸命に戦っているのだと覚悟した。

「仲間達が・・・苦しんでるの・・・
 あなたのせいよ・・・」

「僕のせい・・・」 
フランクはジニョンの言葉をなぞってゆっくりと言った。

「わかるでしょ?・・私は・・あなたを・・・
 許すわけにはいかない・・・」
「・・・・・」
「・・お願い・・・リストラなんて・・」

「それは・・聞けない。」 
フランクの声には断固とした強い決意が見えた。

「どうしても?」 ジニョンは請うように彼を見上げた。

「一ヶ月待って・・・一ヶ月経って・・・
 そしたら、どうして僕がそうするのか、
 理解できるはずだ」

「理解?・・・いいえ、きっと理解なんてできない・・
 前にも言ったはずよ・・私達にとって・・
 大切なのは仲間・・
 ここで一緒に働いている仲間なの・・」

「僕よりも?」

「・・・・・もう行かないと・・・
 下で待ってるわ・・みんなが・・・」

「答えろ・・僕よりも大事なのか?」 フランクはジニョンの腕を強く掴んだ。

「あなただって・・」

「あなただって?・・・何?」

「あなただって・・私より仕事・・」
「僕には君より大事なものはこの世に何ひとつない!」 
フランクはジニョンの言葉を遮って断言するように言った。
ふたりは睨み合ったまま互いを見つめていた。

それはジニョンにもとうにわかっていた。
心はとうに彼を信じていた。
それでも・・・

「・・・・・」

「もう一度」 
逃げようとするジニョンの腕をフランクは更に強く掴んだ。

「・・・・」

「もう一度だけ・・話を聞いて・・」

「・・・・」

「僕の懺悔を聞くと、約束したでしょ?
 あの教会で・・今日の12時に・・」

「行けないわ」

「待ってる・・・」

「無理よ」

「待ってる。」 フランクはジニョンの二の腕を掴んだまま彼女の視線を
自分の正面に合わせるように彼女を揺らした。

ジニョンは彼の目の前で溢れる涙をどうしようもなかった。
彼は無言で、彼女の頬を伝う涙を指で拭った。

フランクのそばを離れた後、ジニョンは結局下で待つ
テジュン達の元には戻れなかった。
彼らの前に立つ勇気が持てなかった。
今自分がどんな顔をしているのか・・・不安でならなかった。
それはフランクによって窮地に立たされた彼らに対してより
フランクに対する自分の想いが遥かに大きいことに、
彼女の本能が答えていたからだった。

 


スンジョンが、ひとりだけでオフィスに戻って来たジニョンを
見つけて、
怪訝そうな目を向けた。

「総支配人達と一緒じゃなかったの?」

「ええ・・気分が乗らなくて・・」

「何かあったの?」 
スンジョンは疑うようにジニョンの顔を下から覗いた。

「いいえ・・何も・・」

「はっ・・あなたって正直ね、何か遭ったって顔・・
 隠せてないわよ」

「・・・・」

「話してみたら?・・気分が乗ったら、だけど・・」

「・・・・」


スンジョンの目を見れば、その言葉が決して面白がっているのでは
ないことがわかる。
ジニョンは彼女の目を見つめて、小さく笑った。

そしてスンジョンにフランクとのNYでの出逢いから別れ、
ソウルでの再会のいきさつを話して聞かせた。

ジニョンは初めてだった。こんな風にフランクのことを人に
話そうと思ったことなど今まで一度もなかったのだ。

先日の一件で、イ・スンジョンはジニョンを悪く言う人間から、
彼女を庇ってくれた。
以来、スンジョンは、ジニョンにとって信頼に値する人間になっていた。


「情熱的な恋だったのね・・・」 
スンジョンは溜息混じりに羨ましそうに言った。


「それで一度は消えてしまった彼が
 10年ぶりにあなたの前に現れて・・・
 そしてまたふたりは愛し合った・・・そういうことね」 
スンジョンは今度は両手を組むと夢見心地な目で天を仰いだ。

「そう思ってました」

「違ったの?」

「だって!彼は・・ホテルを・・
 私達のホテルを買収しようと・・」

「彼があなたを騙したと思ってるの?」

「いいえ、そんなはずはないと思ってる・・
 ・・・そう思いたい・・」
ジニョンはスンジョンにすがりつくような目を向けた。

「それじゃ、彼を信じるのね?」

「わからないの・・自分でもわからない・・でも・・・」

「でも?」

「逢いたい・・・」

「・・・・困ったわね」

「ええ・・とても」

「でも彼って酷い人よね
 あなたの前から勝手に消えたのにまたのこのこと現れて
 あなたの気持ちを弄んだんだわ」

「違う!彼が消えたのは・・・父が・・・私の父が・・・
 彼にそうするように・・・そう言ったから・・」

「でも今はあなたを騙してるんでしょ?
 好きでもないあなたを仕事に利用したんでしょ?」

「そんなことない!彼・・私のことは本気だって言ってる・・
 愛してるって・・
 騙してないって。信じてくれって・・」 
ジニョンはスンジョンに食って掛かるように言った。

スンジョンはフーと技とらしく溜息を宙に吐くと「馬鹿みたい」 
と少し投げやりに言ってジニョンを驚かせた。
「だったら。」 そして今度はジニョンの目をしっかりと見た。

「・・・・・」 ジニョンは無言のまま彼女の言葉を待っていた。

「だったら・・いいじゃない。」
そう言ってスンジョンはジニョンに微笑んだ。

「先輩・・・」
「信じてるんでしょ?彼を」 
ジニョン自身の心の中の答えがスンジョンの言葉を借りて発せられたことに、
ジニョンは胸の奥で安堵に似たものを噛み締めていた。

「それでこれから・・・どうするの?」

「さっき、カサブランカで偶然彼と逢って・・・
 今日の12時に逢いたいって・・」

「行くの?」

「わからない」

「行くべきだわ」

「先輩・・・」

「行かないときっと後悔する」

「行っても後悔するわ、きっと・・」

「そうなの?だったら余計ね
 行っても行かなくても後悔するなら、やはり行くべきよ」

「・・・・・」 スンジョンはいつものジニョンらしからぬ迷いに、
大きなため息をひとつついた。

「ソ・ジニョン!しっかりしなさい!あなたはきっと、10年前も今も・・
 彼への気持ちはこれっぽっちも変わってないのよ
 そして彼の気持ちも同じだと、心の底では信じてる
 そうなんでしょ?
 確かに彼は私達の大事なホテルを潰そうとしてる人よ
 そうなると私としてもきっと・・すごく・・困ったことになるわ・・
 でももし彼が言うようにあなたへの想いと
 仕事のことが別だとしたら・・
 あなたのことを本当に愛していて・・
 迎えに来たというのも真実だとしたら・・・とにかく
 彼の話をもう一度聞いてみてもいいんじゃない?
 そして、あなた自身の本当の気持ちを見つけるべきよ
 あなたが・・・どうしたいのか・・・」

「私が・・・どうしたいのか・・・」 
ジニョンはスンジョンの顔を見つめて、彼女の言葉をただ繰り返した。

「そう!彼がどうしたいのかじゃなく・・・
 あなたがどうしたいのかよ」

「それで・・もし、私がホテルじゃなく彼を選んだら?」

「選んだら?」

「そうしたら・・・私は悪い女・・ですか?・・・」

「ふー・・・そうね・・・もしそうなったら・・・
 私達は困ったことになるのかな・・・
 私達はあなたに裏切られたってことになる?
 ・・・そうかもしれない」

スンジョンは黒目だけを上に向けて、口を尖らせて見せた後
ジニョンの目を見て、にっこり微笑んだ。
「・・・・」

「でも、いいわ・・そんなこと深く考えない」

「・・・・」

「それに・・・」

「・・・・それに?」

「何だか、かっこいいじゃない?
 私もなってみたいもの」

「えっ?」


「悪い女・・・。
 あ・・ごめん・・・でも誤解しないで。
 決して面白がってるわけじゃないの・・・」

「そうですか?」 ジニョンは疑いの眼差しを彼女に向けた。

「ちょっと!私は至って真面目よ!
 いいじゃない・・なったって・・悪い女。
 ソ・ジニョン!愛は・・・何ものにも代え難いものよ」

「先輩・・・」 

「何よ!」

「・・・・スンジョン先輩って・・・
 どうして、恋愛もしたことないのに、
 そんな立派なことが言えるの?」
ジニョンはスンジョンに対して少しふざけたように言いながら、
彼女の言葉によって救われた自分を素直に認めていた。

不思議なほどに心の重荷が軽くなっている自分に驚いて、胸を詰まらせた。

「余計なお世話だわ」 スンジョンはプイとそっぽを向いた。

 



ジニョンは時計を見た。針は11時50分を指していた。

≪行っても行かなくても後悔するなら、やはり行くべきよ≫

スンジョンの言葉がジニョンの胸の高鳴りに後押しをするように
何度も語りかけた。

ジニョンが勢い良く席を立った音は、目の前の席のスンジョンを驚かせた。

「行くの?」 スンジョンは小声で言った。

ジニョンは唇を強く結んで大きく頭を縦に振った。
スンジョンはそんな彼女を見て微笑むと、突然背伸びをして見せた。

「あ~あ・・私そろそろ退社時間なんだけど、今やってるこれね・・
 あと一時間位掛かりそう・・」
そして周りに居たスタッフに聞こえよがしにそう言うと、
ジニョンにわざとらしい渋い顔で書類を翳して見せた。

「ありがとう・・先輩・・」
ジニョンはまだ勤務中にも係らずオフィスを飛び出していた。

スンジョンは出て行く彼女の後姿を溜息混じりに見送りながら呟いた。
「私だって・・・そんな恋がしてみたいわ」

 


フランクは今度こそジニョンに全てを告白しようと決めていた。
彼は腕時計を見て、少し早めに教会へ向かおうと、上着を手に取った。

彼の携帯電話が鳴ったのはその時だった。

「ハロー・・」 

「助けて・・・」 その声は酷く怯えていた。



     ・・・「だれ?」・・・

 





 

 









 

 



 


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