2010/12/24 22:12
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-23.ただひとりの人

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 






≪いいか・・必ず・・だ。そこで君は待っていればいい。
 僕が行くまで・・・待っていればいい。≫


「何よ!・・・人の気も知らないで・・・
 待ってたのに・・・来なかったのはそっちじゃない!
 一時間も待ってたんですからね!
 ぎりぎりまで・・・待ってたんだから・・・」
 
ジニョンは既にフランクが立ち去ってしまった後に
誰もいない空間に向かって怒鳴り散らしていたが、
最後は小さく呟くだけだった。

「信じようとしたのに・・・信じられなくするのは
 いつだって、あなたじゃない・・・」




ジニョンはむしゃくしゃした気分で更衣室に向かっていた。

フランクに激しく奪われた唇は甘く疼いて、悔しいことに心は
強く彼を求めていた。
ジニョンはその唇を制服の袖で思い切り拭い、自分の心の中から
彼が消えてくれることを願った。
しかしそれは到底無駄なことだった。
彼女は上下の唇を強く合わせて、まだ収まらない疼きを堪えたものの
それもまた思うように行かなくて、遂には、愛おしげに唇を
指でなぞっていた。

ジニョンはバックヤードへ向かう途中、フランクをなじりながらも、
自分の頭の中がどうしようもない程に彼でいっぱいであることを
認めざる得なかった。
それがまた悔しくて、悲しくて・・・何より・・愛おしかった。

その時、すれ違ったスンジョンの声も届かないほどだったが、
スンジョンが慌てて無理やりジニョンの腕を掴んで彼女の存在を
気づかせた。「ジニョン!」

「あ・・先輩・・・」

「どうしたの?その格好・・また何かあった?
 あっ・・また300本の薔薇にキスされたとか?」

「イ・スンジョン・・・」 ≪どうしてあなたはそんなに勘がいいの?≫
ジニョンはスンジョンを前にして、何故か自分の感情を抑えきれなくなって
人前もはばからず彼女に抱きついて泣いた。

「ジニョン・・・どうしたの?」
スンジョンはジニョンの突然の行動に驚き、おろおろと
彼女の乱れた髪を撫でていた。



ジニョンとスンジョンはジニョンの憩いの場でもある屋上に上った。

「キム会長の娘か・・・あのお客様がね・・・」

「・・・・・」

「でも彼と彼女って、結構年が離れてない?」

「恋愛できないほどの年齢差じゃないでしょ?」 
ジニョンはそう言いながら涙鼻を噛んだ。

「そうかな~それで彼、何だって言ったの?彼女のこと・・」

「・・・“誤解して無いだろ?”って・・・
 でも、私が彼女のこと悪く言ったら、
 “彼女のこと、そういう風に言うな”って・・言った。」

「あ・・それって危ないわね」 スンジョンは間髪入れずにそう言った。

「彼女は傷ついているだけだって・・・」

そしてスンジョンは妙に納得したように言葉を繋げた。
「傷ついた女に男は弱いのよね」 

「・・・・・」 
スンジョンの度重なるジニョンの気持ちを逆なでするような言葉に
ジニョンは彼女を横目に見て、無言で睨んだ。

「ごめん・・・そういうつもりじゃ・・・
 一般論よ・・一般論・・彼は違うって・・きっと・・たぶん・・」

ジニョンは一瞬黙り込んだものの、急に大声で笑い出した。

スンジョンは彼女の急変した様子に驚いて、“どうしたの?”と
ジニョンの額に手を当てた。

「だって・・・可笑しい・・・」 
ジニョンはスンジョンにお腹を抱えて笑っているように見せたが、
本当のところは無理をしているようにしか見えなかった。
それでもスンジョンは彼女のそのお芝居のような仕草に付き合った。

「何が?・・何がそんなに可笑しいのよ!」 スンジョンは口を尖らせた。

「彼は今、このホテルを買収しようとしている、言ってみれば
 私達の敵でしょ?
 それなのに私ったら・・彼のそばにいた女の子に焼もち焼いて
 先輩はそんな私を一生懸命励まそうとしているのよ・・たぶん・・
 ちっとも励ましになってないけど・・」

「悪かったわね」 スンジョンはじろりとジニョンを睨んだ。

「それどころじゃないはずなのに・・私達・・」 
ジニョンは次第に表情を暗くして、今度は呟くように言った。

「そう言われて見れば・・そうね・・でも・・・」

「・・・・」

「いいじゃない!・・今はホテルのこと、少しだけ忘れて
 女としての気持ちをぶちまきなさいな」

「・・・先輩・・・」

「ん?」

「私・・・少し大人気なかったかな・・・」

「あなたはいつも大人気ないけど・・」

ジニョンはスンジョンをまたぎろりと睨んだ。
そして、直ぐに“ふっ・・”と笑った。

「彼女のことも・・・
 彼女に起きた昨夜の事件のこと・・
 きっと彼女・・凄く傷ついたのよね・・でもそんなこと私
 少しも考えないで・・・ただ自分のことばかり・・・

 私ね・・教会で彼を待っている間・・凄く心配だったの
 彼が来ないなんて・・可笑しい
 怪我でもしたのかしら・・病気でもしたのかしら・・
 電話しても繋がらなくて・・・私凄く不安で・・・
 それで・・・ホテルに帰って来たらあんな事情を聞かされて・・・
 彼は・・彼女のために私のところに来なかった・・
 いいえ、来られなかったことがわかって・・・理解したの
 でも私・・・あんなに心配していたのにって・・・腹を立ててた・・・
 だから、あの後彼に会っても憎まれ口しか言えなくて・・
 教会にも行ったのに、行ってないなんて嘘ついちゃって・・
 何だか・・バカみたい、私・・・」

「それは女心として、当然よ」

「スンジョン先輩・・女心・・わかるの?」

「ソ・ジニョン!あなた、いい加減にしてよね
 私をいつまで馬鹿にすれば気が済むの!」

スンジョンは、ジニョンの頭を叩くそぶりをして見せた。

「きゃ!ごめんなさい!」
 
ジニョンは彼女の手から自分の身を守ろうと頭を抱え込んだ。

ジニョンはスンジョンとの会話の中で、気持ちを落ち着かせる内
フランクが、このホテルを買収し、潰そうとしているのではなく、
守ろうとしているのだと確信していた。

でももしもそうだとしても・・・
彼の手段は、決してジニョンにはありがたいことではなかった。
≪今こうして私の周りににいる掛け替えの無い仲間達を守ること・・・
それが第一でなければならない≫

それはジニョンの偽らざる想いだった。

そのためならば・・・フランクと対決することもあるかもしれない。
愛しくてたまらないフランクと戦うのかもしれない。

傍らでくったくなく笑い転げるスンジョンを見つめながら
ジニョンは思った。

≪・・・ここを無くしたくない
 仲間達との絆を・・・決して・・・無くさないわ・・・≫





フランクはユンヒの部屋に戻っていた。

「私はもう大丈夫です・・フランクssi・・」
ユンヒは真直ぐに彼を見て言った。

「そう・・・」

「あの方は・・・」 ユンヒが言いにくそうに言葉を淀ませた。

「わかった?・・」

「・・・・・」

「僕が彼女を追いかけたこと・・・」

「ええ・・はっきりと。」 そう言ってユンヒは笑った。
フランクもまた、俯き加減に笑っていた。

「彼女は・・・僕の・・・
 僕の・・・ただひとりのひと」 
フランクは静かな口調でジニョンの存在を率直に彼女に告げた。

「・・・そうですか・・・」 ユンヒの胸の内は不思議と納得していた。
「でもあの方はソウルホテルの・・・」

「そうだよ・・ホテリアーだ・・きっと有能な・・」 フランクの言い方は、
まるで自分の誇らしいものを自慢しているように聞こえた。

「だったらどうして・・父と?」

「このホテルは彼女にとって幼い頃からの夢なんだ
 ホテリアーになるのが夢で・・努力してそれを叶えた
 本当に大切な場所なんだ・・・彼女にとって・・・
 だから・・・僕は・・ここを守らなければならない」

まるでそれが自分の使命かのように話すフランクが
ユンヒには更に美しく輝いて見えた。

「君には悪いけど・・・
 僕は君のお父さんを利用した・・・」

「父を利用した?
 でもどうして・・そんなことを私に?
 私が父にそのことを話すとは思わないんですか?
 そうしたら、あなたは困ったことに・・・」

「なるだろうね・・きっと。」

「なら、どうして?」

「話す?」 フランクはユンヒの顔を下から覗き込んだ。

「・・・・・・」 ユンヒは言葉に詰まった。

「ふっ・・いいよ・・話しても・・・でも・・
 君には正直に言わなければ・・そう思った。
 もしかしたらこれから僕は・・
 君の父上を窮地に陥れるかも知れない
 そうしたら、君の立場にも影響があるだろう」

「・・・・・」

「それでも・・・強く生きて欲しい・・・
 いいかい?」

「私は・・・・・あなたとは・・生きられないんですね」

「ああ・・生きられない。」

ユンヒは余りに率直なフランクの言葉に、一度小さく溜息をついて
直ぐに背筋を伸ばし、彼に向き直った。

「わかりました。」 気品の中に不思議と潔さを漂わせたユンヒの態度に
フランクは柔らかく微笑んだ。

「実は私・・・
 前にあなたに言われたこと・・・少し堪えてました」

「ん?」 フランクは何のことか直ぐには思い出せなかった。

「私が・・・自分自身の強さを信じてないって・・」

「ああ・・」 彼は思い出したように頷いた。

「私・・・今まで全てに甘えて生きていたみたい
 父を恨んで・・・
 でもそれって・・父にも自分自身にも甘えていたんだわ・・・
 あなたにもきっと甘えようとしたのかも・・・
 あなたはそれを感じて、
 今こうして私を突き放しているんですね」

「甘えてもいいさ」 彼は本気でそう言った。

「ふふ・・オッパとして?
 私・・・あなたの妹さんの代わりになるかしら」

「いや・・・妹の代わりはいない・・・
 この世に、その人の代わりになる人なんていない。
 そうじゃない?」 
そう言ったフランクの心の中にはジニョンの面影が揺らめいていた。

「ええ・・そうですね・・・そうです。
 でもあなたを、オッパとお呼びするのは構わないでしょ?」

「ああ・・」 彼の笑顔は優しさに満ちていた。

「私、今日・・ここをチェックアウトします」

「そう?」

「あなたがあの人を追いかけて部屋を出て行った後
 色んなこと想像して・・・
 きっとあの人はあなたの大切な方なんだろうって・・
 でも不思議と焼もちは焼かなかった
 とっても素敵に見えたからだわ・・・
 彼女を追いかけていく、あなたが・・・」

「・・・・・」

「そして自分のことも色々考えてました・・・
 このままじゃいけないって・・・だから一度家に帰って、
 父に自分がしたいことを正直に話してみます・・・」

「したいこと?」

「ええ。・・ホテル経営の勉強をしてみたいんです、私・・
 ソウルホテルは本当に素敵な場所です
 実はホテリアーの勉強がしたくて、ここへ来てたの・・
 父がここを買い取るという話を聞いていたものですから
 でも・・・ここは・・・
 父の手に委ねるべきではありません」

「僕もそう思う。」 ふたりは互いに一致した考えに笑った。

「守らないと・・・彼女の為にも・・・
 きっと韓国の為にもです」

「韓国の為?グローバルだね」

「あら・・私真面目に言ってるんですよ?
 ソウルホテルを無くすのは、国の損失です。」

「そうか・・・」

「それから・・・私、アメリカに行くつもりです」

「アメリカに?」

「ええ、勉強の為に・・できればホテルで働きながら
 学校に通いたいと思ってるんです」

「ホテルで?なら・・いい所がある・・・
 勉強は、できる人間の下でした方がいい・・・
 よかったら僕が紹介しよう」

「ホントに?あなたができる人間とおっしゃるなら
 きっと安心ですね」

「ああ、間違いない男だ・・・レイモンド・パーキンという
 ちょっと癖のある男だけど・・・」

「レイモンド・パーキン・・さん」

「きっと彼は・・レイ、と呼べと言うはずだよ」 
フランクはそう言って、ユンヒにくったくのない笑顔を向けた。

「レイ・・・・」

「ああ・・・」

「今度・・紹介しよう」

「ええ・・お願いします・・それから・・・
 私・・祈っています・・・
 彼女と・・あの方とあなたの心が早く通じ合いますように・・・
 そして、大事な妹さんともお会いできますように・・・」

「ありがとう」

  ユンヒ・・・

  いつの日かきっと、君にも
  君の心を救う人が現れるだろう

    この僕がジニョンによって救われたように・・・


彼女の幸せを願いながらフランクは、妹ドンヒもまた
心救われる場所に居てくれることを願わずにはいられなかった。




ソウルホテルの株主総会が迫っていた。

その日、ソウルホテルの運命は決まる。


オ・ヒョンマンから提出されたリストラリストをフランクは掲示するよう
彼に命じた。

「社長の承認は・・」

「それは後で。・・・とにかく、ホテル上層部の意思表示として
 広く掲示してください」

「わかりました。」

ヒョンマンは、これでテジュンを陥れられるものと考え、
意気揚々と部屋を出て行った。


「ボス・・・いよいよだな」 レオもまた、ホッとしていた。
≪これで何もかも上手く行く≫そう思った。

「ああ・・・レオ、これを正式な書類に・・」

「了解。」

しかし成功の道を辿るべく彼らに指令を出したフランクの顔は
決して晴れやかではなかった。

それは・・・心に掛かるたったひとつのことが原因に他ならない。

≪僕が行くまで・・・待っていればいい≫
あんなにも攻撃的に思いの丈をぶつけておきながら
フランクはジニョンに対して未だ臆病な自分の心を胸の内で笑った。

彼は席を立ち、ベランダに出ると一度空を仰ぎ見て静かに目を閉じた。



   こうすることを・・・

   僕の・・・ただひとりの人は・・・



       ・・・許してくれるだろうか・・・


       

   

       
    









 



 



 


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