2010/12/26 08:13
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-24.神との賭け

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi

 









リストラ戦争が勃発したと、バックヤードの隅々までもが大騒ぎとなった。
リストに載った者と逃れた者との間で只ならぬ確執も生まれていた。

しかし、今回は運よく逃れたとしても、これから先第二弾第三弾と
続くのではないかという強迫観念は残る者の気持ちをも萎縮させていた。

またフランクの打ち出した改革案は、人員のリストラだけに留まらず
様々な経費の削減案が盛り込まれていた。

減給はもちろんのこと、働く母親達への育児補助・厚生施設など
フランクが無駄と考えるものは容赦なく廃止された。
また仕入れ先の洗い直しなどにも力を入れ、一部の幹部との癒着で
繋がっていた業者は即刻出入り禁止とした。

「総支配人、リストラは無いとおっしゃったじゃないですか
 私達はこれから・・・どうすれば・・・」
その声は怒りを通り越した、哀れなほどの悲嘆だった。

「小さな子供を抱えて、仕事はできません・・・
 でも仕事をしないと育ててはいけないんです」

テジュンは言葉に詰まって、ただ項垂れた。

そして彼は自分に許可無く張り出されたリストを乱暴に剥ぎ取ると
それを握り締めて、フランクの元へと走った。

テジュンが部屋の主であるフランクに許可も無く押し入った時
フランクは書類に目を通していた視線を少し上げただけで
彼の登場を予測していたかのように、驚きすら見せなかった。

「どういうつもりです!」 
テジュンはその紙切れをフランクのデスクに叩きつけ声を張り上げた。

「どういうとは?」 
フランクは全く動じる様子も見せず、書類に目を通している姿勢のまま
片方の眉だけを上げ平然と答えた。

「勝手なまねを・・あなたにそんな権利など・・」

「言いがかりもいいところだな・・・
 私はあなたの代わりに決断して差し上げたと思っている
 むしろ感謝して欲しいくらいだ。」

「頼んだ覚えは無い。」

「お人よしのあなたには時間をいくら差し上げても
 出来そうにないと判断したんです」
フランクはわざとらしく溜息を混ぜて、手の中の書類をばさりと
デスクの上に放した。

「あなたには!この人達の何もわかっていない・・
 彼らがどれほど、ホテルに貢献したかも
 どれほどの愛情を持っているかもわからずに
 どうしてこんなことができるんだ!」

「言ったはずです。
 従業員の人となりなど、私は一分の興味も無い。」

「彼らの力無しではソウルホテルはなかった。」

「今は違う。」

「もっと他に・・・方法があるはずだ。」

「言ってもらおう・・何ができる?」

「・・・・・」

「結局何もできない。
 ふっ・・吠えるだけなら誰でもできるんです」

「人を軽く見ていたら、ホテルはお終いだ」

「人の代わりなど、いくらもいる。」

「あなたには!・・・きっと。
 女の代わりもいるんでしょうね」

フランクとテジュンは睨み合ったまま、しばし微動だにしなかった。

ジニョンのことに触れられる時だけが、フランクを一瞬人間に戻す。
そのことにフランク自身もとっくに気がついていた。
しかし、今は人間ではいられない。

「・・・ここでは仕事の話だけにしていただきましょうか」

「これがあなたの仕事ですか」 
テジュンはフランクを見下ろすように言った。

「ええ」 フランクはまったく動じない、というように彼を見上げた。

「尽くしてくれた彼らは、ホテルの宝なんです」

「ふっ・・そんなことだから・・」 フランクは鼻で笑って見せた。

「私は人の心を忘れるようになったら・・ 
 それこそホテリアーとして失格だと思ってます
 もしもそうなったら、私は間違いなく、この仕事を辞める。」

「なるほど・・それは殊勝なお考えだ・・・
 だが、あなたがお辞めになったところで私は痛くもかゆくも無い
 そうですね・・あなたが辞めるなら、
 これからリストラを被る誰かが救われるかもしれない・・
 きっとその誰かが喜ぶでしょう」
フランクの言葉は氷のように冷たかった。

「・・・・・」

「言っておきますが・・・
 それを破り捨てたところで、決定は変わらない。」
フランクはさっきテジュンが投げつけた紙の残骸を目で指して
そう言った。

「社長は承知しない。」

「ふっ・・おもしろい・・
 では今すぐ社長にホテルが現在どういう状況に
 陥っているか、確認してくるといい」
フランクは不適な笑みを浮かべながら、テジュンを睨みあげた。

「・・・・・」

「社長はきっとこの書類に判を押しますよ」
そう言って、さっきテジュンが破り捨てたリストラリストが
正式なものと化している書類の束を、フランクは翳して見せた。

「あなたという人は・・・」

「これ以上あなたと話すことはない。
 あなたも同意見でしょうが・・・
 虫が好かない顔は長く見ていたくはない。
 消えてもらいましょうか・・ここから・・今直ぐに。」
フランクはテジュンに向かって放った厳しい目を決して崩さなかった。



まるでソウルホテルそのものをクリーニングするかのように
フランクは隅から隅までを見直し、改善策を打ち立てていった。

その容赦の無い改革に、あがる悲鳴さえフランクは耳を貸さなかった。

そして全てはシン・ドンヒョクの言う通りだった。
今や、ソウルホテルに残された道は、彼が立てた計画に沿う
そのことが最良の策と、あらゆる現実が物語っていた。
ドンスク社長は決断を迫られていた。

ヨンスもあらゆる手を使って、リストラの波を穏やかにできないものか
画策してみたが、ホテルは到底彼の手に負えない程の窮地を迎えていた。

「ドンスクssi・・・申し訳ない・・・
 彼の言う通り、人員整理は止む得まい・・・
 ただ、これ以上はその波を広げないよう手を尽くそう
 それに、ドンスクssi・・・あなたももうお分かりでしょう?
 今のままではホテルは立ち行かない」

「ええ・・・でも・・・
 私・・・主人に顔向けができません・・・
 あんなに人を大切にして来た人ですもの・・・
 私・・・彼のところに行った時、このことをどういう風に
 報告すればいいんでしょう」

ドンスクはそう言って、涙を流した。
ヨンスは、そんな彼女を前に、深く溜息を付くしかなかった。




そんな中、テジュンは必死にあがいていた。
このまま手をこまねいているわけにはいかなかった。
まず、ソウルホテルとして生き残るために今何が足りないのか
シン・ドンヒョクの考えを覆す手立ては本当に無いものなのか
あらゆる方向から思考を重ね、シン・ドンヒョクに提案書を出した。

しかし、シン・ドンヒョクの反応は冷たいものだった。

「絵に描いた餅ということわざをご存知かな?
 こういうのを・・ゴミというんです」

フランクはテジュンの前にその書類を無下に放り投げた。
同席していたジニョンの目が落胆と怒りに満ちていたが
フランクはテジュンを通して、彼女をも冷たく睨み付けた。



それでもテジュンは諦めなかった。

そして寝る間も惜しんで自分の計画書に何度も熟考を重ねることで
次第に強い自信が沸き出る自分を感じ始めた。

次の朝、テジュンの姿は社長とヨンスの前にあった。
彼はふたりの前で背筋を伸ばした。

「お願いがあります」

テジュンはドンスクとヨンスに真剣な眼差しを向け強い決意を語り始めた。

「私に・・・21世紀ヴィジョンを遂行させてください」

「21世紀ヴィジョン?・・三年前、君が計画していた・・
 あれか?」 

「ええ・・あの計画をもう一度」

「しかし・・それには多くの資金が必要だぞ」 
ヨンスは今でさえ多額の負債を抱えている状況で、
それはかなり難しいことだと考えていた。

「はい・・わかっています・・・その為に多くの出資者を
 募らなければなりません・・でもやってみる価値はあります・・
 是非、やらせてください」

「テジュンssi・・・自信はあるの?」

「はい・・・あります」

「でも・・・今は・・・」

「このままでは、次のリストラ犠牲者を出してしまいます
 今、ホテルそのものが快活に起動する何かが必要なんです」

「その何かがこれなのか?」

「はい」

テジュンの返事は力強かった。

テジュンの目は切羽詰っているこの状況の中で、キラキラと輝いていた。

ヨンスは彼のその姿を見て、フランクが望んでいるものはきっと
こういうことなのだろうと、思っていた。





現実は酷なものだった。

100名もの仲間達が苦境の波にさらわれていった。
日毎にひとり消えふたり消え、残された者の心にも影を落とした。

繰り返し続くフランクとテジュンの争いが胸を締め付け、
ジニョンは深く打ちひしがれていた。

≪私には・・・どうすることもできないの?・・・
 フランク・・・どうしても、こうしなきゃならないの?≫

スンジョンが深く肩を落としているジニョンを哀れんで、
何んとか励まそうと、カサブランカに誘った。

「ジニョン・・歌おう」

「歌うって・・そんな気分じゃないわ」

「だから歌うのよ」 スンジョンは譲らなかった。

カサブランカの二階に設けられたカラオケ室の中で、
ふたりは意識して楽しげな曲を数曲歌った。

≪嫌なことを忘れて・・・いいえ、忘れられるわけが無い≫
突然、ジニョンが声を詰まらせ曲の途中で歌うのを止めた。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
 みんなを苦しめて・・・ごめんなさい・・・」

「ジニョン・・・」

「みんなを苦しめているあの人を・・・私は愛してるの・・・
 私は・・・あの人だけを・・・愛してるの・・・
 私・・・いったいどうしたら・・・どうしたらいいの?先輩・・・」
ジニョンはマイクを持った手で溢れ出る涙を拭った。
そんなジニョンの姿にスンジョンは掛ける言葉が見つけられなくて
ただ一緒になって泣いていた。

結局心を紛らわすことなどできないまま、ふたりは帰ろうと階段を下りた。
その時、フランクはいつものようにカウンターで寛いでいた。
スンジョンが先に彼に気がついて、ジニョンの背中を指で突いて
「先に帰るわね」と後ろ手に手を振り立ち去った。

ジニョンは少し困惑したように彼を見て、二階へと戻った。
そして彼女は二階の手摺りに手を掛けて、螺旋階段の方へ
視線を向けていた。
少しして彼女の期待通りに黒い影がその螺旋階段を上ってくるのが見えた。

その影は次第に姿を現して、静かにジニョンの元へと歩み寄った。

「君が待っている場所に・・・
 こうして僕は一歩ずつ近づいている」

「あなたが辿り着く場所に、私はきっといないわ」

「いるさ・・必ず。」

「もしも・・・いたとしたら・・・
 あなただけじゃなくて・・・私も地獄に落ちるわね」

「君となら・・・落ちてもいいよ」

「本当に・・・罰が当たるわ・・・」

「罰?・・・とっくに覚悟してる」

「フランク・・・」

「今日・・教会に行って来たんだ・・・」

「・・・・・」

「神に祈って来た・・・
 どんな罰でも受ける・・・その代わり・・・
 君だけはこの手に残してくれと・・・」フランクは淡々と続けた。
「それが叶うなら・・・
 この魂を差し出してもいい・・・そう言って来た」
そう言い終った時の彼の薄い笑みは余りに寂しげだった。

「私を賭けたの?神様と」

「ああ・・そうだ。」

「私は・・・神の手を取るかもよ」

「いいや・・・君は僕の手を取るよ・・・
 ・・・もしも・・・そうでなかったとしたら・・・」

「そうでなかったとしたら?」

「・・・奪い取るしかない。」

彼のその言葉は狂おしいばかりに攻撃的だった。
しかしそれとは逆に、その目は寂しげな翳りを漂わせたままだった。

ジニョンはフランクの言葉を、心を震わせながら聞いていた。
“あなたが愛しくてたまらない”心の奥で叫ぶ自分の声が胸を突き上げると
涙が込み上げて仕方なかった。

そしてジニョンは自分の心のなすがまま彼にゆっくりと近づいて、
少し背伸びをすると彼の首に腕を回し、無言で彼を抱きしめた。

「ああ・・・フランク・・・」
ジニョンは溜息を吐くように彼の名を呟いて、彼の肩に頬を乗せた。
「少しだけ・・・こうしていてもいい?」

「少しだけ?・・」 フランクは小さく笑った。

「昔から・・あなたの肩にこうするのが好きだったの・・・
 こうしているとね・・・すごく・・落ち着くことができて・・・
 気持ちが良くて・・・」

「僕も・・・こうして君を抱いていると、気持ちがいい」

「このまま・・・周りのこと・・何もかも忘れてしまえたら・・・
 ふたりだけの世界で生きられたら・・・」

「忘れる?それはできないでしょ?・・・
 それにもう僕もそんなことはできない・・・君の為に・・・」

「私の為・・・」

「そう・・・全て君の為だ・・・」

「・・・・私はどうしたらいいの?」

「ただこうしていればいい・・・ただ僕を・・
 信じていればいい・・・」

「・・・・・・」 
彼女はその後、言葉を繋げないまま、ただ彼を抱きしめていた。
彼もまた、自分の全霊を掛けて自分の腕の中に戻った彼女を
強く抱きしめた。

幾ばくかの時を互いに抱きあい、互いの温もりを確かめ合った後
フランクはそっと彼女の肩に手を置き、彼女を自分から少しだけ離した。
そして彼女に向き合い、彼女をしばらく愛しげに見つめた後
彼女の頬を両手でそっと挟み、くちづけた。
それは昨日の奪うような激しいものではなく、まるで労わるような
優しいくちづけだった。

互いの唇から漏れる吐息がひとつになると、まるで心までもが
交じり合い、抱きあう錯覚を覚えた。

彼のくちづけが、“愛してる”と泣いているようだった。


  そうでなかったとしたら・・・


  ・・・奪い取るしかない・・・


彼はそう言った・・・
そして彼女はわかっていた


彼はその言葉通りに・・・彼女を・・・

とうの昔に・・・神から・・・




      ・・・奪い取っていたと・・・



































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